リンクアンドモチベーション麻野さんが、著書『THE TEAM』を出版。その出版記念としてサイバーエージェント曽山さんとの対談イベントが開かれました。
対談テーマは『THE TEAM』の中にも書かれている、「リーダー育成と決断力」について。特にお二人が言っていたのは「人が成長するためには、決断経験が重要である」ということでした。
なぜ決断することが重要なのか、どのような決断が人を成長させるのか、お二人はどのような決断をされてきたのかなど、ご自身の体験談も交えてお話されており、明日からでも使えるナレッジが満載のイベントでした。
【人物紹介】麻野 耕司 | 株式会社リンクアンドモチベーション 取締役
【人物紹介】曽山 哲人 | 株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括
目次
あまり語られてこなかった「決断する」ためのメソッド
『THE TEAM』は、チームづくりのための法則を「A・B・C・D・E」の5つに分けて書いています。
今日はその中の、「Dの法則」について曽山さんとトークしていきたいと思います。DはDecision、意思決定です。
チーム・個人が何かしらの分岐点に立たされた時に、どう決断していくか。その決断は今後に非常に大きな影響を及ぼしていきます。
ただ、おもしろいことに「どういう決断が良いのか」について、ほとんど語られることがないと感じています。
なので『THE TEAM』では、意思決定を成功させるための要素をかなり色々な角度から堀り下げています。まず、『THE TEAM』では意思決定を「独裁・合議・多数決」の3パターンに分けています。
- 独裁:チームの中の誰か一人が意思決定をする
- 合議:チームで話し合って意思決定する
- 多数決:チーム全員の投票で多数の賛同を得たもので意思決定する
これにはそれぞれメリット・デメリットがあります。
たとえば、「合議」は関わっているチームメンバーの納得感が得られやすいのですが、スピードが遅いというデメリットがあります。
一方で「独裁」は当然一人が決めるので、やり方によっては納得感が下がります。ただスピードは早いです。時間がかかりません。
なので、この独裁というやり方、聞こえは良くないですがメリットがあるんです。皆さんもご存知の通り、今は環境変化のスピードが非常に早くなってきています。スピードはビジネスの成否を分かつ大きなポイントです。
これからのチームに求められることは、「恐れずに誰か一人が決める」というシチュエーションを積極的につくることです。
昔ながらの日本企業は会議をしたがるんです。すごく意思決定が遅いんです。しかもオーナーシップの所在があいまいということになりがちです。
会議だとなかなか決めきれないですよね。でも誰かが決めないといけないんです。
そこで今日、曽山さんには「サイバーエージェントで重視されてるリーダー育成」についていろいろと聞いてみたいと思います。
リーダーを育てるためには「とにかく決断経験を積ませる」
リーダーを育てるためには、「とにかくリーダーをやらせる」ですね。
『クリエイティブ人事』(光文社新書)で共著させていただいた神戸大学の金井先生が、「どの企業もリーダーを育てたいという割に、リーダーをやらせてないんだよね」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思ったんです。
金井先生は「経営者を育てたいって言っても経営をやらせてないから育つわけないよね」ということも言っていて、もうその話が全てだなと。
なので、とにかく経験させる。その中で僕がよくキーワードとしてあげるのが「決断経験」です。経営者やリーダーがやってきている業務のひとつに「決断」があることに気づいたんです。
決断をすると、成功か失敗の学びが増えるんですよ。決断をしない人は学びはゼロ。ここの差が非常に大きいと思います。
決断経験は財産です。その経験が豊富な人は大きな自信を持っています。
たしかに、リーダーとして成長していく人間と成長していかない人間と、明確な差がありますね。
たとえば、何かの仕事が終わった後に「明確にこれは失敗だった。その失敗は自分に原因がある」と認識し、その失敗を自分の糧にしていける人。これは成長します。
一方で、なんとなく失敗だったのか成功だったのか曖昧なまま仕事を終わらせてしまう人は、成長しないように感じます。
この意識の差って、自分でちゃんと決断して実行しているかどうかだと思います。
まさにそうですね。僕はそれを「決断経験学習サイクル」と言っています。「決断・認識・内省」の3ステップがありますが、決断はみんな普段からやっていることなんですよね。たとえば右にいくか左にいくか、これも決断です。
ポイントは、それを決断として認識して内省できているかなんですよね。この3つをぐるぐる回すことを活躍しているリーダーはやってるんですよ。
そしてなんと、『THE TEAM』にもそのことが書いてあります。モチベーショングラフの話が出てくるのですが、モチベーショングラフを書けば、この学習サイクルを加速させてくれるんですよ。
たとえば、過去に大失敗・大成功があったならば、その手前でどんな決断をしたのかを書いてみる。その決断を認識して内省する。
紙に書いて認識するということが大事で、もちろんTwitterやFacebookなどのSNSで書いても良いです。
人生って決断の積み重ねですけど、その一つひとつの決断に対して僕たちはあまりに無自覚で、自分が良い決断ができたのかを振り返ることもないまま生きていて、決断力が上がっていかないと。
なので、肩に力を入れて「決断しなきゃ」と思うよりも前に、決断経験したことを内省することが大事なんですね。
また、仕事においてリーダーだけなく若手のメンバーでも決断経験を増やすことができます。
たとえば、上司からの指示を「やれって言われたからやる」と取り組むのではなく、「よし、やってみよう」と自分の決断にするだけで良いのです。「決断を再生産する」と言っているのですが、この考え方が大事です。
決断の再生産。またすごく良いワードがでましたね。たしかにその考え方で差が出ますね。
成長が遅いリーダーは、「麻野さんが言ってたんだけど・・・」みたいな感じでメンバーに落としていきます。でも、成長していくリーダーは全部自分の決断に置き換えているんですね。
するとどうなるか。僕の存在なんか一切感じさせないような形で「今回これに決めました。なぜならば・・・」と言うんです。そしたら、その決断に対するメンバーの反対・不満も全部自分で引き受けないといけません。
そうすると、「なぜ不満に思うのだろうか。この決断のメリット・デメリットって何だろう。どう語りかければ自分の決断に賛同してくれるんだろう」という部分まで落とし込まれて磨かれていきます。
これは、すごくリーダーとして成長する差があるなと、今曽山さんに言われて思いました。
なってからでは遅い。常に「二つ上」の視点を持て
「自分で決断している」という切迫感がなければ、知識だけ受け取ってもほとんど身にならないですよね。
逆に決断の再生産を徹底すると、ものすごく磨かれる感覚があります。 僕は「自分がリンクアンドモチベーションの経営者のように振る舞おう」と意識して行動しています。
「会社のことは全部自分が決めている」という想定で生きているので、会長の小笹が決めたことに対しても、自分の言葉で説明できるように納得がいくまで、とことん食ってかかっています。
ちなみに麻野さん、「小笹さんと同じ視点でやるぞ」となったのは、いつからなんですか?
これは、僕が新卒3年目の時に新卒採用のリーダーになったときですね。最終面接は会長の小笹がやっていたのですが、僕がその前の面接を実施して、最終面接のセッティングをしていくんです。
それで、いつも面接のコメントシートに「ちょっとここが見極めきれなかったので、小笹さんよろしくお願いします」と書いてたんですよ。
そしたらある日、突然ブチ切れられたんです。
「俺に決断を委ねるな。お前がこの人は採用する・しないを決めて上げてこい」と。
「そうしないとお前の新卒採用のリーダーとしてのあらゆる能力が磨かれない」と言われたんです。
そこから、自分が内定を出す権限があるつもりで面接したら、面接時の集中力が全然違うんですよ。一挙手一投足を見逃さずに面接していきます。なぜならそれで採用が決まるからです。
自分の判断によって、学生の人生や会社の未来が変わってしまう、という経験を通して僕はすごく成長したんですよね。
まさに今のお話だと、僕がよく社内で言ってるのは「二つ上の視点を持て」ということです。
たとえば、マネージャーの上には部長がいて役員がいますよね。このマネージャーは役員の視点を常に持てているかどうか。これで成長が変わります。
マネージャー候補と僕が昇格面談をする際によくやるのですが、そのメンバーには上司がいてその上には部長がいます。そこで僕は、「二つ上のポジションは誰ですか?」と質問をするんです。
「ヤマダさんです」と返ってきたら、「今日もし、ヤマダさんになってくれと言われたら、チームの目標や戦略をどうしますか?」とさらに質問をします。
これで回答は大きく分かれます。言える人は、しっかりとそのポジションになったときのことを想像して準備しているので、言えるんですよ。
これはサイバーエージェントの秘伝のタレですね。
僕らがよく言っているのは、「なってからでは遅い」です。この言葉を大事にしています。
「一つ上」だと、何となく今のポジションでもイメージできてしまうので、「二つ上」というのが肝ですね。
「二つ上」は頭の使い方が全然違うんですよね。
できるリーダーはやっている、権限委譲の3ポイント
あと僕、さきほどの小笹さんの「お前が採用するかしないかを決めて持ってこい」という権限委譲の言葉がすごく象徴的だなと思いました。
権限委譲のポイントって3つあるんですよ。
- 裁量(権限やポジション)
- 配置(役割の変更)
- 決断経験の場をつくってあげる
抜擢することはハードルが高いのですが、この3つのどれかをメンバーに提供することはできますよね。
サイバーエージェントも、いきなり小会社の社長ができるわけではありません。抜擢の手前でこれらの3つを自分たちのチームの中でやらせることで、リーダーが育ちやすくなる環境をつくっています。
できるリーダーは、うまく適材適所の配置をして、裁量を渡し、顧客を任せて決断経験を促すなど、ちゃんとやっていますね。
めっちゃ勉強になります。今もう自分のチームのことを考えながら聞いてました(笑)。ちなみに二つ上の視点を理解したり、想像したりするためのポイントって何かあったりするんですか?
一番分かりやすいのは、その人と話すことですね。
視点が高い人と付き合うことが成長を加速させる、という話がありますよね。成長する人に共通することはこれを実践していることです。これは意外に見過ごされているポイントだと思います。
基本的に人はネガティブなほうが気持ち良いので、愚痴を言う人と付き合ってしまいがちです。
ですので、二つ上の人と話しているのか、それだけです。
「人間は普段一緒にいる5人の平均になる」という話がありますよね。
それと関連してスタートアップとかベンチャーの世界でよく聞くのは、「トップとナンバー2の差は、ナンバー2と社員の差よりも大きい」ということです。特に会社が急成長していくにつれてどんどんトップとNo.2の差が開いていくと。
それはなぜかというと、付き合う人が変わってくるからです。トップは他の会社のトップ同士で会うことが多いじゃないですか。
そうすると話の中身は、「これからの社会は」「これからの業界は」「うちの経営は」といった内容が多いんですね。
ナンバー2だと、社内のメンバーと接することが多くなるため、「今日の仕事は」「この部署は」という話が多くなりがちです。
いわゆる見ている世界・視野が全然違うんです。それは付き合う人によって自分の見る世界・視野に差がつくということで、視点が高い人と付き合うことはすごく大事だと思いました。
「正解探し」ではなく「正解をつくる」ための、強い決断を
今日のテーマは「決断」ですが、「強く決断すること」が大事だと思います。
決断する時点では、その決断が正解なのか不正解なのかは決まっていません。ただ、みんな決断した時に正解が決まっていると思いがちなんですよ。
A社に行くか、B社に行くか。A社を選んだら良い人生が待っていて、B社を選んだら悪い人生が待ってる。そんなことは現実世界ではあり得ないじゃないですか。
どちらかというと、その後の自分の行動のほうがはるかに幸せになるか不幸になるかに影響するんですよね。
そうすると、「良い決断をしよう」とするのではなく、「この決断を自分で正解するんだ」という、強い決断をすることがすごく大事なんです。
正解はない。正解はつくるものだと。
正解探しではなく、正解づくりをするということですよね。
ですので、『THE TEAM』の中にも書きましたが、チームにおける決断はリーダーがすることが多いのですが、リーダーの決断で成否が決まるかというと、そうでもありません。
「リーダーの決断を正解にしよう」とメンバーが思って実行できるかどうかで決まるんです。なので、意思決定はリーダーによって委ねられているものではなく、決断したリーダーと実行するメンバー全員によって意思決定が成り立つんです。
ソフトバンクが強いのは、孫さんの決断も素晴らしいと思いますが、「孫さんが決めたことをみんなでやり切ろう」というメンバーの実行力があってこそだと思います。
そのような集団的意思決定ができるチームをつくることが、非常に大事だと感じています。