この数年、新卒・中途採用は「売り手市場」な状態が続いています。
働き方改革の推進、残業問題や過労死の問題提起などにより、社員への待遇がさらに重視されており、人事担当者も社員の定着に向けてさまざまな施策を実施しています。
今回はそんな人事担当者にとって「人事としてやってはいけないNG行動とその対策」を、採用・教育、人材管理領域(異動、評価、面談、退職など)、労務領域の3つに分けてご紹介します。
目次
1.採用・教育領域におけるNG行動
母集団形成をおこない、人員を確保し、教育によって定着させスキルアップを図っていくという役割が人事には求められます。それは、企業の顔とも言える重要な役割で、人事の対応によって大きくイメージが変わってきます。
採用領域におけるNG行動
新卒、中途問わず、候補者は面接の時だけではなく人事担当者の所作や発信内容を見て、企業のイメージを確認し入社するかどうかを決めます。ここでは、企業のイメージを毀損しかねないNG行為をご紹介します。
個人情報のずぼらな管理
候補者の個人情報にあたる履歴書、レジュメや面接時における評価などはみだりに話してはいけません。加えて、他の候補者の情報が見えてしまってもいけません。候補者たちに「この会社はプライバシーへの配慮に欠けた会社だ」とみなされてしまいます。
候補者と連絡先を交換する
名刺やメールアドレスの交換も厳禁です。公正な選考基準の元に実施されているはずの選考なのに、「人事の○○さんと連絡先を交換したから採用に有利になる」という誤解を候補者へ与えかねません。さらに口コミで情報が広まり、よからぬ噂が立つ可能性もあります。連絡先を聞かれても、採用専用アドレスに問い合わせてほしいと対応を統一するのが良いでしょう。
候補者と個人的に面会する
個人的な面会は一番NGです。採用担当者と候補者の個人的な面会において、たとえ悪意や恣意的な意図がなくとも、候補者から週刊誌のタレこみや掲示板に書き込みがなされてしまったら、「炎上」してしまいます。
あくまでも、OB訪問に誘導し、選考に関係しない個人的な面談については断るのがあらぬ噂を立てぬ一番の対策となるでしょう。昨今ではDeNAの元採用担当者の事案が一番記憶に新しいですが、候補者と「性的関係」を迫る行為は言語道断です。セクハラ事案に発展することはもちろんのこと、企業のブランドの失墜にもつながるでしょう。
教育領域におけるNG行動
教育領域では一番モチベーションの高い状態で新入社員を迎え入れるためにも、社員のモチベーションを下げてしまわないように注意を払うべきです。
OJTを現場に丸投げ
入社後の教育で一番採用されるのが「OJT」でしょう。いち早く現場に慣れてもらうために現場の先輩社員に教育やノウハウの伝授を任せきりにしてしまうケースも散見されますが、人事担当者として現場と連携すべきです。
というのも、いきなり現場に配属された後で先輩社員にも質問しにくい基本的な事項や、なかなか言い出せないフィードバックなどがあるはずです。人事として、入社して間もない社員の相談相手になってあげることは、彼らの緊張や不安をほぐす助けとなります。
研修現場での新入社員への「人格否定」
研修現場での過度な指導や人格否定はNGです。たとえば、入社後は今までの学生気分や他社との違いを認識して、自社の社風に馴染むようにあえて厳しく新入社員と接して、採用時とは全く異なった接し方をすることがあります。このようなマネジメントは、良かれと思っても社員のモチベーションを下げてしまいかねません。まずは、褒めて認めることが社員の定着につながるのだということを認識しましょう。
自分の価値観の押し付け・強要
過度な価値観の押し付けや強制も社員のモチベーションを下げてしまいます。パワハラとも捉えかねられないです。教育現場やOJTでよく見られる、ベテラン社員の「俺が若手の頃は○○だった」という発信にも注意が必要です。
高度経済成長期の社員と比べると、経済情勢が変わってきてしまっているので、今の若手とベテラン社員とでは前提が全く異なっています。したがって、押し付けはおこなわず、過去の考え方の一つとして紹介する程度に抑えて、多様な価値観を認めましょう。
裁量権を逸脱した教育を現場に許してしまうこと
最後に、現場での教育目的を逸脱した懲罰行為に近い研修や訓練を課してしまわないようにしましょう。教育を実施する際には、その内容が適切な分量になっているか、教育実施の目的に即して理に適っているかを判断しましょう。
2.人材管理領域(異動、評価、面談、退職など)におけるNG行動
人材管理領域は、社員の評価決定や退職手続きなどの出口戦略を担います。どのようにしたら、社員が心地よく働くことができるか、また退職手続き時に円満に退職して企業に対して悪い印象を抱かないようにできるかが求められます。
異動、評価におけるNG行動
異動や評価は社員が最も気にする点です。納得感のない対応をしてしまうと、人事ひいては企業に対しての信頼を失ってしまうでしょう。
妊娠を機に降格を強制するのは違法
女性社員の妊娠に伴う本人の同意なしの降格は「マタニティハラスメント」に該当し男女雇用機会均等法への違反となってしまいます。なぜなら、男女雇用機会均等法は男女が共に性差別なく働くことができる世の中を目指しており、これは「妊娠」に対する差別になるからです。
妊娠しても持続して働くことができるホワイトな環境づくりを目指すとともに、人事として女性社員の妊娠・出産後のキャリアをどう描いていくのかを認識をすることが必要です。
雇用契約内容を無視した異動辞令はNG
「どこでどんな業務をおこなうか」は企業と社員との合意で定まります。よって、雇用契約から逸脱した異動を命じることは企業にはできません。たとえば、地域限定・職種限定の社員に対していきなり海外勤務を命じることはできません。したがって、雇用契約の範疇を越えた異動を検討する際には雇用契約の内容変更を社員と協議しなければならないのです。
面談におけるNG行動
面談は社員が評価以外の場面で人事と接することができる場です。ここで現場からの声や意見をヒアリングできずに、聞き流してしまうようなことがあれば、社員の信頼度は下がってしまうでしょう。
たとえば「内部告発の無視」「現場からの管理職へのフィードバックの無視」「人事考課制度に対するフィードバックの無視」といった行為は企業における自浄効果を阻害してしまうことになり、社員が働きにくい環境をつくってしまうことになります。
退職におけるNG行動
退職手続きは人事業務において出口戦略の部分を担っており、人事の対応の良し悪しで円満退社となるか、退職する社員との間に遺恨が出るかどうかの分かれ目になってしまいます。
企業に対して良くない印象を残してしまった社員によって企業の悪評を立てられてしまうケースもあるので慎重な対応が必要になります。
過度な慰留
「職業選択の自由」が憲法第22条に認められているように、退職を決意して転職しようとする社員を過度に慰留して退職手続きを妨害してはいけません。引き止めをおこなうならば、なぜその社員が退職するのかその理由や原因をヒアリングして、改善できそうなら対応すべきですし、どうしようもできないなら人事として円満退社ができるようにすべきでしょう。
有給消化を認めない
有給休暇は労働基準法によって一定期間勤務した社員に付与しなければいけないと定められている権利です。なので企業は、退職前後での有給消化を一切認めないことはできません。「最後まで働け!」というスタンスではなく、業務の引き継ぎがどのタイミングで終わるかなど、落としどころを決めて退職希望者と打ち合わせすべきでしょう。
現場の上司から退職する社員への暴言を止めない
最後に、退職することに対して根性論や精神論を述べる現場の上司が出てきますが、パワハラ事案や炎上に繋がってしまう恐れがあります。高度経済成長期における終身雇用が当たり前だった時代とは異なり、現在では多様な働き方が主流になりつつあるので、「退職なんて軟弱だ!」という考え方はなくしたほうが企業のブランドイメージを守ることにもなるでしょう。
3.労務領域におけるNG行動
最後に労務領域についてのNG行動を紹介します。労務領域は休暇の取得、ダイバーシティ、メンタルヘルスといったさまざまな領域に分かれていますが、どれも昨今労働問題の報道で話題になったテーマばかりで社会からの注目を浴びています。人事が十分な対応ができなければ社員からの評価は下がってしまいます。
休暇取得に関するNG行動
人事管理領域でも触れましたが、労働基準法で認められている社員の有給消化を認めないことは違法になってしまいます。「今月数字が厳しいのに、この日を記念日休暇として休んでしまって大丈夫ですか?」と人事が社員に言うようなことがあると、最悪の場合パワハラと受け止められてしまう可能性があります。
社員の有給消化を推進する風土づくりをおこない、社員と有給消化のタイミングをきちんと話し合うことができれば、ホワイトな職場づくりができるかもしれません。
ダイバーシティにおけるNG行動
ダイバーシティ経営とは、肌の色・人種・考え方・宗教などの違いを認めて多様な考え方を企業経営に活かそうという経営手法です。人事部はまさに「人」を扱う部署ですので、ダイバーシティ経営の旗振り役を担っているといえます。多様な考え方や属性を包括できるような仕組みづくりが求められます。
LGBTへの差別
LGBTに対して差別的な発言、不当な待遇をすることはNGです。LGBTは「L=レズビアン(女性同性愛者)」「G=ゲイ(男性同性愛者)」「B=バイセクシュアル(両性愛者)」「T=トランスジェンダー(両性愛者)」と定義されています。出生時において、法律的・社会的に規定された性別とは異なる性別として生きている人々のことを指します。
一橋大学の学生が不本意な暴露により自殺して遺族が大学へ訴訟を実施した事件が記憶に新しいですが、多様な価値観や生き方を尊重する昨今においては、人事担当者としてもダイバーシティを検討する際に避けては通れないテーマといえるでしょう。
言葉の定義を理解することはもちろんのこと、さまざまな生き方がありそれぞれの生き方を認めなければ、お客様に支持されないということを肝に銘じて研修などを組んで対応していきましょう。
宗教に対する不寛容な姿勢
「宗教」に対する差別的な発言や、宗教に応じた採用差別も絶対に控えなければいけません。「あの人はムスリム(イスラム教徒)だから過激派だ」というレッテル貼りのような発言や「礼拝の時間も関係なく勤務してください」といった信仰の自由を否定するような発言はもってのほかです。
人事担当者は社員の信仰に応じた勤務体系やシフトをつくることはもちろんのこと、宗教によって社内で差別が起きないような風土づくりもおこないましょう。
時短勤務者への無配慮な対応
時短勤務者は妊娠や育児といった事情があるため、就労時間を短くしています。その事情を無視して過大な役割要求や膨大な仕事量を課すような配置をしてはいけません。
「○○さんは勤務時間が短くていいよなぁ」という時短勤務者への差別となってしまうような発言もNGになります。さまざまな働き方が推進される中で人事担当者も多様な働き方を認めなければ、社内に多様な働き方の理解は浸透しません。
セクハラ対応におけるNG行動
人事担当者としてセクハラの放置は認められません。セクハラを放置してしまったことで企業の社会的な失墜はもちろんのこと、民事上の損害賠償責任まで問われます。それゆえ「セクシャルハラスメント」への対応は人事部においては必須となります。
セクハラが発生してしまった際の再発防止策の実施やセクハラが発生しないような意識喚起を図っていくことが重要となります。セクハラへの例外を認めない厳罰主義はもちろんのこと、定期的な研修を通じて社員への法務知識のブラッシュアップが求められます。
メンタルヘルス対策・残業対策におけるNG行動
過重労働や就労環境の不備による社員の過労死、精神疾患は企業の「安全配慮義務違反」として扱われます。企業は社員が身体の安全を確保して働くことができるように労務環境の整備をおこなわなければならないのです。
カウンセリング受講の強要
人事担当者として、職場におけるメンタルヘルス発生を未然に防がなければなりませんが、社員に対して無理に産業医とのカウンセリングを強要するのは逆効果となります。
もちろん、メンタルヘルスだと自覚症状がない社員への注意喚起はしていかなければなりません。しかし、本人の意思に反するにも関わらずカウンセリングを強要してしまうのは社員のモチベーションを下げ、健全な状態からメンタルヘルス状態へと加速させかねないでしょう。なので、ストレスチェックテストなどの点検制度を用いながら、メンタルヘルス予備軍となりそうな社員への注意喚起を実施していきましょう。
また、厚労省が職場の安全活動を推進するための情報サイトがありますので、職場における労災リスク軽減や精神疾患の発生防止のための参考とすればよいでしょう。
過重労働者の見落とし
社員に対して、残業時間の虚偽申告を強い、残業代の発生しないサービス残業を強要することはNGになります。労働基準法の原則として、企業は社員が働いたら働いた分だけ給与を支払わなければいけません。
さらに、2017年3月に残業時間の上限規制の議論が以下の通りに決着し、今まで労使間で特別協定を結べば残業時間が青天井で良かったものが年間総量規制ともいえる「年720時間」が導入されたことで、より生産的な働き方を推進しなければなりません。
- 残業時間の原則は引き続き月45時間
- 月45時間を超える残業時間の特例は年6ヶ月まで
- 年720時間の枠内で「1ヶ月100時間」「2~6ヶ月平均80時間」の上限を設ける。
よって、人事部としてタイムカードや勤怠管理システムの整備で、社員の正確な勤務時間の把握を実施しながら定期的な現場へのモニタリングをおこない、管理職から率先して生産的な働き方ができているかを確かめましょう。
4.まとめ
人事の管掌領域は採用、教育、管理、労務といったさまざまな領域に渡ります。それぞれの領域でのNG行動の積み重ねが従業員からの信頼を失い、ひいては企業の信用問題へと発展しかねません。
とくに、売り手市場でかつ、働き方改革や残業問題が話題となっている労働市場においては、従業員に選ばれる環境づくりが不可欠になります。人事担当者として、社員が働いていて幸福を感じることができるような職場づくりを推進していきましょう。