2018年10月9日、経団連が「採用選考に関する指針」を廃止することを決定しました。そして昨日10月29日に2021年度新卒採用における具体的な方針が決定しました。
これまでの就職ルールは、1953年に企業側・大学側が「就職協定」を結んだことをきっかけに、長らく経団連が取り仕切ってきましたが、2021年度入社の新卒採用からは政府がこのルールづくりを主導することになります。
今回は、改めて就活ルールの歴史を振り返るとともに、政府主体の就活ルールの今後を考察してみたいと思います。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
新卒一括採用のはじまりは1985年|旧財閥系企業を中心に開始される
大企業の新卒一括採用と戦争による選考開始時期の変化
新卒一括採用がはじまったのは、1895年。
海外事業の拡大を期に三菱(当時の日本郵船)や三井銀行などの旧財閥系企業を中心に学生の採用が始まりました。この時代の専攻は試験や学歴を基準におこなわれてはおらず、縁故採用が多かったようです。
その後、第一次大戦までは、大学卒業後に入社試験がおこなわれていました。人手不足から就職が「売り手市場」になるにつれて、多くの企業が学生と早いうちから接触を図りたいと、学校卒業前に選考が開始されるようになります。
戦後もこの卒業前選考は継続され、戦後の恐慌で就職が「買い手市場」になることにより、企業は採用数を絞って、より優秀な学生を採用する傾向となります。
そして、優秀な学生を囲うため年々選抜試験の開始時期が早期化されていきました。
「卒業後選考の協定」の始まりと終わり(1929年~1935年)
1928年に大手銀行の呼びかけによって、大手企業の重役が集まる会議(常磐会)が文部省に対して「大卒学生の採用選考時期は『卒業後』におこなうこととする」という協定が結ばれます。
これにより、翌年の1929年から学生は卒業後の3月から採用選考を受けるということになりました。
この年には協定に同意しない企業も選考の開始時期を遅らせるなどの動きがあり、採用選考に大きな影響を及ぼしましたが、その翌年である1930年からは、協定加盟企業も卒業前の選考開始が目立ち始めます。
そのため、1932年度卒業の学生から「選考開始時期を卒業年度の1月以降とする」と協定が緩み始めますが、更なる早期選考の動きは止まらず、1935年に協定は破棄されることになりました。
優秀な学生を確保したいと考える企業と就職する学生にとって、「卒業後」というスケジュール感が合わなかったのでしょうか。そもそも卒業後に就活をしていたことに驚きです。
「就職協定」の開始と廃止(1953年~1996年)
「就職協定」の開始
卒業後選考の協定が破棄された後、採用選考は各企業に任されており、大学4年生の10月におこなわれるようになっていました。
さらなる早期化により「学業の妨げ」を懸念した文部科学省と労働省は、大学と企業に「採用選考は1月以降とする」と通達。しかし、その後も早期化は止まることはありませんでした。
そのため、文部科学省は1953年に教育・財界関係者を集めて懇親会を開き「採用選考の推薦開始を卒業年度の10月1日以降とする」と決定。
この取り決めが「就職協定」の始まりになります。しかし、破っても制裁措置などがないことから、この協定は名義上だけで効果が見られませんでした。
高度経済成長期も伴って、就職の「売り手市場」の状態が加速していきます。企業もより優秀な学生を確保しようと更に採用選考が早期化し、7月末までに採用活動を終えている企業もありました。
「就職協定」も数回の変更があった
「青田買い」「重複内定」など就職活動の早期化が招く混乱に伴い、1976年に就職協定の内容が変更され「大学4年の10月1日より会社訪問開始、11月1日に選考開始」となりました。
さらに、1986年に「男女雇用機会均等法」が施行され、一般職・総合職のコース別採用がスタート。そのタイミングで「大学4年の8月20日より会社訪問開始、11月1日に内定開始」に改定されました。
その後も数回の改定を経て、1992年には「採用選考開始は8月1日前後を目標、内定開始日を10月1日」としています。
しかし、早期化の状況は変わることはなく、ついに1997年に「就職協定」は廃止されることとなりました。
「倫理憲章」の開始と「指針」への変更|採用広報、選考の後ろ倒しの影響
倫理憲章の始まり
「就職協定」の廃止後、企業側と大学側で新たに動きがあります。
企業側は日本経団連が中心に「倫理憲章(新規学卒者の採用・選考に関する倫理憲章)」を、大学側は「大学及び高等専門学校卒業予定者に係る就職事務について(申合せ)」を策定しました。
倫理憲章では「正式な内定日は卒業・修了学年の10月1日以降とする」と定め、大学側の申合せでは、大学内で行われる企業説明会や企業への推薦は大学4年の7月1日以降とし、内定日は10月1日以降とすること学生側に周知しました。
しかし、「採用選考活動の早期開始は自粛すること」「大学等の学事日程を尊重する」といった抽象的な内容が多かったため、効果はないに等しく、不況に伴い就職活動は更に早期化します。
2003年になると、経団連が「倫理憲章」の改定をおこないます。
「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」ということが具体的に明文化されました。「卒業年度になる4月1日以前の選考はおこなってはならない」ということにしたのです。
また、経団連は同意した企業に署名をしてもらい、規則を遵守する企業が増加。結果的に、加盟企業のうちの約半数644社が同意しました。
しかし、実質的には採用活動の水面下で採用活動がされていました。この状況は今でも続いているようです。
採用・広報活動の後ろ倒しによる影響
「倫理憲章」を遵守する企業が増加しても、問題は尽きませんでした。
「倫理憲章」に広報活動についての具体的な規定はありません。そのため企業は、就職活動開始時期よりも前倒しで広報活動を開始。
2000年代後半には、10月1日に就職サイトがグランドオープンし、採用選考のエントリーの開始は大学3年の10月という状況が一般的になります。
この、卒業年度以前の就職活動開始に対してさまざまな意見が飛び交い、2013年度卒の学生から、広報活動などの実質的な活動の開始が大学3年の12月1日に決定されました。
しかし、情報公開が後ろ倒しになったことにより、学生の業界・企業研究に支障が出てしまいます。その結果、「根本的な解決になっておらず、むしろ問題が生じてしまう」という意見が多く聞こえるようになります。
激動の時代へ|「倫理憲章」から「指針」へ変更
このタイミングで経団連に安倍晋三政権が、大学生が勉強に集中できる期間を長く確保するために活動時期を繰り下げるよう検討を求めます。
これを受けて経団連は2016年度卒の新卒採用より、就職活動の解禁時期を「大学3年生の3月1日以降」と3ヶ月遅らせ、選考の開始時期も「大学4年生の8月1日以降」と4ヶ月遅くすることを決定しました。
同時に、経団連は企業の就職・採用活動ルールを定めた倫理憲章の名称を、この2016年度卒の新卒採用から「指針」に変更しています。
ただ、こちらに関しても企業や学生に大きな混乱を招くことになり、遵守していない企業が目立ちます。
この年には、大企業より先に学生を確保しようと内定を早期にだす中小企業が特に多く、そのため学生の内定辞退も増加したようです。
2017年度卒の新卒採用からは、2016年度卒の状況を踏まえ選考開始時期を2ヶ月前倒しとする「大学4年の6月1日以降」となり、さらにインターンシップの1DAYやインターンからの採用を認める動きが出ており、新卒採用スケジュールやルールに関する変動が活発になってきています。
また、ここ数年で就活生の2極化が進んでいるように感じます。
4月の選考開始の準備として3月に就活サイトがグランドオープンしますが、インターン情報として大学3年の6月からプレサイトもオープンします。
これに伴い、就職活動を早期に始める学生が増加。「インターンシップ」という名目上の企業説明会や、選考を伴うインターンシップが急増し、「インターン時期から活動開始する学生」と「グランドオープンまで活動しない学生」の差が顕著になりました。
政府が主導となる就活新ルール|企業に求められる動きとは?
さて、では今後の新卒採用の動きについても考察してみたいと思います。
現在の大学3年生にあたる2020年度卒の学生は、経団連により現行ルールが適用されるとのことですが、2021年度卒の大学2年生以降は、どのようなスケジュールになるのでしょうか。
就活新ルール、政府主導の背景
就活ルール見直しのきっかけになったのは、2018年の9月に経団連の中西宏明会長が「大学3年生の3月に会社説明会、大学4年生の6月に採用選考を解禁する現行のルールが守られずに形骸化している」「経団連が就活ルールを決め、徹底させるものではない」として、廃止する意向を表明したことです。
しかし、それに伴い、学生、大学、企業間で懸念の声があがってきており、政府が経団連に代わり新たなルールづくりを主導するという流れになりました。
2021年度採用の見通し
経団連の発表を受け、関係省庁は2018年の10月15日に会議を実施。そこでは、2021年度卒の就職活動は、現行のルールを維持する方向が大多数でした。
そして、昨日10月29日に開催された関係省庁連絡会議にて、採用活動解禁などのスケジュールに関しては、学生の不安に配慮し、2021年度卒の新卒入社学生は現行日程を維持することが正式決定となり、大学3年生の3月に企業説明会、4年生の6月に採用面接、10月に内定がそれぞれ解禁される流れとなります。
「学生が安心して学業に取り組めること」を重視し、急激なルール変更はその妨げになることが一貫した考え方とされました。
連絡会議の冒頭では、議長の古谷一之官房副長官補が「大学側だけでなく、経団連や中小企業など多くの方々が、当面は何らかのルールが必要だとの認識を共有した」と述べ、時期的制限なしに全面的な自由採用にはしない方向性を示しています。
2022年度卒以降はどうなる?
2021年度新卒入社に関しては、現行維持との方針に着地しましたが、果たして2022年度新卒採用以降はどうなるのでしょうか。
今回の連絡会議では、2022年度新卒以降の就活ルールに関しても言及されています。
基本的な考え方は、2021年度同様「急激なルール変更は学生を混乱させてしまう可能性がある」ということです。新卒一括採用のような雇用慣行の見直しには、時間がかかると考えられていることもあり、当面は現行日程を変更しないと結論づけられました。
つまり、経団連の「就活ルール廃止」の宣言により様々な憶測が流れつつも、2022年度卒までは大きなルール変更はない見通しになりそうです。
今、企業が準備しておきたい3つのこと
2021年度・2022年度と、この先2年ほどは現行の就活ルールで採用活動がおこなわれますが、政府は改めて、経団連や新経連など440の団体をに対し、ルールを守るように周知をおこなうとし、実態調査も実施する意向です。
とはいえ、経団連から政府にその主導権が渡っても、就活ルールを破った企業へのペナルティなどは特段設けることはありません。
実態はといえば、グローバルに事業展開する企業では、優秀な若手人材やIT(情報技術)技術者の争奪戦がその激しさを極めています。インターンを通じた早期の採用や、通年採用を重要視する流れもあるでしょう。
就活ルール破りは横行し、この形骸化が指摘されてきましたが、この実態は変わらないように思います。
その中でも、継続的な企業成長のためには、優秀な人材採用は急務であり、至上命題でもあります。
これからの新卒採用において大切なことは、通年採用にも近い、いつでも採用できる体制づくりにあるかもしれません。採用体制の強化は、ひいては自社の人材強化にもつながります。
ぜひ取り組んでいただきたいのは、次の3つのポイントです。
1.自社で活躍できる人材像の明確化
採用候補者との接触頻度を増やし、その母数を最大化するためにも、改めて活躍人材像を明確化し、全社で共有しておきましょう。これは、候補者の見極めのスピードアップにもつながり、採用の可能性を格段にアップできます。
2.採用アンテナの高い採用チーム編成
上記の活躍人材像をもとに、積極的な出会いの創出が求められます。採用チームには、ひとりひとりが自社の人材採用に高いアンテナを持ち、その行動量を最大化できる人選をおこないましょう。
3.突発的な採用チャンスを掴む社内協力体制の構築
新卒採用のように一斉採用だけでなく、突発的に起こる採用のチャンスに即対応ができるような社内の協力体制を常日頃からつくっておくことが大切です。社内への声掛けやメンター制度なども整えておくといいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
新卒採用だけに限らず、こうした雇用慣行はいたるところに存在すると思います。
今回の「就活新ルール」問題に関しては、政府が主導しそのルールを決めることになりました。とはいえ、もともと問題となっていたルール形骸化が是正されるような就活ルールになるのは、当分先になることが予想されます。
2020年度卒の採用までは、東京オリンピックもあり激動の採用争奪戦が見込まれる中、企業としては、改めて「人材採用の意味」を見直し、現行の手法だけにとらわれることなく、今こそ広い視野で自社の採用を見直してみるべき時なのかもしれません。
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