今回は新卒採用でよく耳にする「コミュニケーション能力」について考えてみたいと思います。
先日、とある会社で仕事をしている社会人1年目の大学の先輩から、職場での話を聞く機会がありました。
その際に驚いたことが、先輩は職場で「コミュ力(コミュニケーション能力)が低い」人間だという評価であったことでした。
その先輩は学生時代は誰しもが認めるコミュ力の高さで有名な人であったため、職場でコミュ力が低いということに対し本当に驚きました。先輩自身も社会人になるまで自分のことをコミュ力が低いと思ったことはなかったそうなので、私はますます不思議に思いました。
この先輩の話を聞いてからコミュ力について疑問を抱き始めました。今年の春に就職活動をしたときに、どこの企業の説明会でも言われていたことは「求める人物像はコミュニケーション能力の高い人」ということでした。
どこの企業の説明会でも人事部の人がまるで呪文を唱えるかのようにコミュニケーション能力、コミュニケーション能力と言っていました。それを聞いていた私はコミュニケーション能力がすごく抽象的でぼんやりとした表現に聞こえました。もはやコミュ力という言葉だけが独り歩きしていて、神格化されつつもあるように感じます。
どこの企業もコミュ力が高い人を採用したいので、採用選考でもそのような学生を採用します。しかし選考活動を経てコミュ力の高い学生が採用されたはずなのにもかかわらず、先輩のように実際に職場で働いたらコミュ力が低かったという場合が起こることについて不思議に思いました。
前置きが長くなりましたが新卒採用でよく耳にするコミュ力についてちゃんと明確に説明していきたいと思います。
そもそもコミュニケーションとは何か?
そもそもコミュニケーションとは何かを以下に記しておきます。
1.社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる。「コミュニケーションをもつ」「コミュニケーションの欠如」
2.動物どうしの間で行われる、身振りや音声などによる情報伝達。
[補説]「コミュニケーション」は、情報の伝達、連絡、通信の意だけではなく、意思の疎通、心の通い合いという意でも使われる。「親子のコミュニケーションを取る」は親が子に一方的に話すのではなく、親子が互いに理解し合うことであろうし、「夫婦のコミュニケーションがない」という場合は、会話が成り立たない、気持ちが通わない関係をいうのであろう。
goo辞書によると人が互いに意思や感情、思考を伝達し合うことがコミュニケーションだと記載されています。これができる人間がコミュニケーション能力の高い人だと言えるでしょう。しかし「言うは易し、行うは難し」です。
では、新卒採用で言われるコミュ力を具体的に深彫りしていきたいと思います。
学生と社会人で求められるコミュ力の違い
- 学生:仲の良い人や気の合う人とだけコミュニケーションをとっていても問題はない(もちろん全ての学生がそうだとは限りません)
- 社会人:年齢や性別、思考、価値観の違うさまざまな人たちとコミュニケーションをとる必要がある
このように社会人はさまざまな人とコミュニケーションを取る必要があります。
仲の良い人たちが多いコミュニティで高いコミュニケーションスキルを発揮できても、価値観や考え方の違う人とは話せないようではコミュ力が低いと言われても仕方がないかもしれません。
では学生の中で言われているコミュ力とは何なのでしょうか?
学生のコミュ力はコミュニケーション能力だけでなくいくつかの要素も付随しているように思います。
学生のコミュ力を説明する前に、『コミュ障』について説明する必要があります。
みなさんも耳にしたことがあるかと思いますが、コミュ障とは以下の意味で用いられています。
コミュニケーション障害の略。ネットスラング。
人とまともに話すことができない、極度の人見知り、どもり、対人恐怖症など。長年引きこもり生活が続くと発症しやすい。また、逆説的ではあるが、コミュ障の人は引きこもりになりやすい傾向にある
引用元ではこのように説明されていますが、学生の中で使われるコミュ障はコミュニケーションができないという面よりも、「人見知りの人」や「根暗な人」、「陰キャラ(スクールカースト最下層)と呼ばれる人」といった意味で使われることが多いです。
そしてコミュ力がコミュ障の対義語として捉えられることにより、コミュ力が高い人は「社交的な人やフレンドリーな人」、「明るい人」、「話が面白い人」、「陽キャラ(スクールカースト上位層)と呼ばれる人」という意味として考えられます。
このように学生の中でいうコミュ力の高い人は純粋なコミュニケーション能力を有する人だけを指すのではなく、「明るくて話が面白い人やイケイケな陽キャラ」と言われる人も当てはまります。
他にも学生内の用語には「キョロ充」などがありますが、全てを説明しているときりがないので割愛させてもらいます。
学生と社会人の会話の内容の大きな違いはプライベートの場か仕事の場かということではないでしょうか。職場での世間話など、プライベートな内容のコミュニケーションももちろん重要です。しかし重要度合いで言えば、自社サービスのセールスや仕事でのやりとりなどにおけるビジネス上のコミュニケーションのほうが重要ではないでしょうか。
また、業種・職種や会社の風土によっても求められるコミュ力は変わってくるかと思います。さらに、その中でさまざまな人たちとの出会いが生じますが、そこには当然、話の合う合わない、立場や価値観が違う、といった今まで付き合ったことのないタイプの方々ともやりとりをすることになると思います。
自分の言いたいことだけを伝えるのではなく、自分にとって異文化である方々の考え方や想いをいかに汲み取って、お互い気持ちよく意思疎通を図っていくのかが、社会人には求められているのではないでしょうか。そしてそのために重要なのが、「話す力(わかりやすく伝える力)」と「聞く力(相手の意図を正確に把握する)」だと思います。
明るい性格であることや面白い話題を提供するといったものはあくまでも+αであり十分条件のように感じます。いくら明るくて人間性の良い人であっても、社会人に必要であるコミュ力を有していないのならば、コミュ力が低いと言われてしまいます。
ただ、学生(プライベート)のコミュニケーションと社会人(仕事上)のコミュニケーションは目的がそもそも異なるので、求められるコミュニケーション方法も変わってくるように感じます。どちらが良い悪いという話ではないかと思います。
社会人に必要な具体的なコミュ力
では、「話す力(わかりやすく伝える力)」と「聞く力(相手の意図を正確に把握する力)」について具体的に紹介していきます。
社会人に求められる話す力とは「自分の頭の中にある考えや感情を言語化して、相手がわかりやすいように話すこと」だと思います。
これについては例を出して説明します。
【例】上司「今書いているコミュ力の記事の進捗状況はどんな感じ?」
- A「えーと……今コミュ力の記事は学生と社会人で求められるものは違うというところを書いて、そのあと社会人に求められるコミュ力について……(省略)」
- B「コミュ力について冒頭で先輩の例を出して、学生と社会人では求められているコミュ力は違うのではという切り口から(中略)両方の比較をするところまで終わりました!」
- C「学生と社会人の求められているコミュ力の違いを比較するところまで終わったので4分の3ほど書き終わりました。」
上司の言葉に対しAさん、Bさん、Cさんという3パターンについてそれぞれ見ていきましょう。
まずAさんの場合については、そもそも自分の考えを言語化することに苦戦しているため上司にうまく説明できていない状況に陥っています。頭で言語化してまとめることができず、パソコン画面を朗読して伝えているため上司からすると非常にわかりづらい話し方です。
次にBさんについてですが、Bさんは思考を言語化することはできていますが、相手に簡潔にわかりやすく伝えることができていないです。
確かに進捗を伝えてはいますが、言語化したものを簡潔にわかりやすくまとめる力が不足しているようです。
最後にCさんについてです。Cさんは自分の考えを言語化して、かつ簡潔に上司に説明しています。
またBさんとCさんのもう1つの違いは上司にわかりやすく話しているかどうかという点です。
Bさんも進捗状況を述べていますが、その進捗状況はBさんにしかわからない内容です。上司からすると「学生と社会人のコミュ力の違いについてまで書き終わりました」と言われても、上司は記事を書いていないのでどれくらい仕事が進んでいるかを把握することができません。
進捗状況を伝えることを字面通りに捉えているので相手がどう理解するかということを考えていません。
それに対し、Cさんは上司にちゃんとわかるように進捗状況を伝えています。
次に聞く力についてです。聞く力とは「相手の話を聞いて、相手の目的を把握し意図を正確に読み取る力」です。
これも以下の例をもとに説明します。
【例】午後に会議があるという状況で上司から「この3枚の資料を10枚ずつコピーしといて!」と言われました。
- Aさんは言われた通りに10枚ずつコピーして上司に渡しました。
- Bさんはそれぞれ10枚ずつコピーして、それをクリップに挟んで10人分の資料を分けて上司に渡しました。
Aさんは言われたことに対し字面通りにただコピーしただけでした。午後の会議のための資料をコピーして欲しいという上司の目的を把握できていないあまり良くない例です。
それに対しBさんはその資料が会議で使われるものだとちゃんと把握し、資料がばらばらにならないようにクリップに挟みました。上司の目的を把握し意図を正確に読み取った良い例です。
しかしもちろんですがこれも時と場合によります。クリップに挟むこと自体が良いことなのではなく、相手の目的を把握し意図を正確に読み取っている点が良いのです。読み取り間違えてしまって場合によっては、「おせっかい」や「余計なことをするな」と言われてしまいます。
ここまでの説明でようやく私の先輩の状況がわかりました。
私の先輩は十分条件であるコミュ力は抜群に高かったですが、社会人に必須のコミュ力を有していないがために「コミュ障」のレッテルを貼られてしまったということがわかりました。
【実例】企業の考えるコミュ力の高い学生とは?
ここまではあくまでも一般論でしたが、実際の企業の採用担当者はコミュ力についてどう考えているかを実際に聞いてみました。
今回は弊社の新卒採用担当者にお話を聞くことができましたのでご紹介します。
一言で言うならば、社内社外問わずお客様に好かれるかどうかということを重要視するようです。
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- お客様に好かれる要因はさまざまあり、
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- 人に合わせて相手が理解できるようにアウトプットすることができるか?
- 気持ちよく相手が話せるように、愛嬌を持ってきくことができるか?
- 根が明るいか暗いか?
- コミュニケーションのテンポはどうか?
- ロジカルかどうか?
- 相手にわかりやすい言葉で話しているかどうか?
- 相手が話していることに、しっかり対応しているか?あいづち、うなずき
などがあげられるようです。以外と多くの項目を見ていますね。
さらに、面接において、求めているコミュニケーション能力があるかどうかを判断する方法をお聞きすることができました。
(あくまでもイチ採用担当のナレッジです。ご参考までに。)
相手の立場にたったアウトプットができるかは社会人においては非常に重要です。
「学生時代に頑張ったことは?」という質問に対し、「マラソンです!!!」と答えても、それだけではどんな大会なのかということがわかりません。世界大会なのか?全国大会なのか?それとも競技者ではなく指導者側なのか?などといった詳細まで話すことができるかをちゃんと見ているそうです。
また、コミュニケーションは言語表現のみならず、非言語要素も含んでいます。そのため聞いている姿勢や愛嬌、態度も重要になります。
たとえば、学生のコミュニケーションのテンポが怪しいと感じられたら、コミュニケーションのスピードを1.2倍にしたり、一気に複数質問を投げかけたりすることで判断するそうです。それで話をしていく中で、やりとりが変わらないのか、全然会話の噛み合わない回答が返ってくるか、「なんていう質問でしたでしょうか?」と聞き返してくるかなど、変化を見ているとのことです。
また、採用担当者の質問の意図を汲み取れないことによってコミュニケーションのテンポがずれるのも良くないです。
たとえば「兄弟って何人いるの??」という質問に対して「2人兄弟で2歳下に弟がいます」という回答と「います」という回答では、前者のほうが相手の立場に立ったコミュニケーションがとれていると考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
以上が今回のコミュ力についての内容でした。
組織が人の集まりである以上コミュニケーションはこれからも重要視されていくでしょう。
その他にも自分の組織での立ち回りにおいて、物事の本質が理解できているか、それを考えているか、実行に移せるかということもコミュ力の重要な要素です。
コミュニケーションは奥が深いです。奥が深く難しいからこそコミュ力のある人が求められているのでしょう。
もちろんこの記事を読んだだけでコミュ力が上がるというわけではありません。この記事を読みインプットしたものを、意識してアウトプットしていくことが大事になってきます。筋トレと同じように地道に力をつけていくことが大事です。
コミュニケーション能力もここで話した内容が全てではありません。
この記事が人事の皆様の役に立ち参考になれれば幸いです。