こんにちは!HR NOTE編集部 野上です。
新卒採用において、自社の求める優秀な学生が入ってこない、応募者数は多いが説明会や選考後の辞退があり歩留まりが良くないといった、悩みをお持ちの担当者の方もいるのではないでしょうか?
今回は株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏による「知名度が低い会社でも優秀な人材を採って会社を伸ばす方法」をご紹介します。
曽和 利光(そわ としみつ)| 株式会社人材研究所 代表取締役社長
曽和氏は採用において、『戦略』『戦術』『戦闘』の3つが重要なプロセスであると述べています。その中で『戦術』に焦点をあててお話をされており、採用におけるKPI設定の必要性や、いかに「リアル接触率」を増やすのかということについての内容でした。
では、KPIの設定をどのようにおこなうのか、リアル接触率とはどのようなものかなど、曽和氏のナレッジを本記事にて詳細をご紹介していきます。
目次
採用における3つの重要なプロセス。『戦略』『戦術』『戦闘』
曽和氏は採用を3つのプロセスに振り分け、それぞれを『戦略』『戦術』『戦闘』という言葉で定義付けをしています。
【戦略】
曽和氏:「何のため」に採用をするのかという目的を戦略とよんでいます。たとえば、新卒採用するにしても中途採用するにしても、なにかしらの事業目的があって採用をしています。特に新卒と中途の採用においては、こういう人材は新卒、こういう人材は中途、と線引きをおこなったり、求める人物像を決めたり、と目的を設定していると思います。こういった目的を設定することが、採用戦略の重要なポイントとなってきます。
【戦術】
曽和氏:戦術は「母集団形成をどうおこなっていくか?」「どのように見極めていくか?」という内容を含んだ、採用プロセスの設計や選考手法のことを呼んでいます。例えば母集団形成ではエントリーシートを活用するか、イベントに参加するのか、求人サイトは何にするのかということを検討するかと思います。選考であれば面接をするのか、適性検査なのか、グループワークなのか、などの選択や、これらをどのようにして選択してどう有効活用できるのかが重要です。
【戦闘】
曽和氏:戦闘というのは、面接やフォローといった場面で、学生を見極めたり惹きつけたりするための、採用担当者が1対1で必要とされるスキルになります。実際は戦うわけではないのですが、戦略、戦術とくると、ゴロがいいので「戦闘」という言葉を使っています。
近年の採用活動に関して応募者が集まらないという課題をよく耳にします。今回曽和氏はどのように母集団形成をすべきか、そこからどのような手順を踏みながら採用を進めていけばいいのかという『戦術』の部分に関して、詳しくお話しされており、そのポイントは「KPIモニタリング」と「リアル接触率」になります。
採用の『戦術』におけるKPIモニタリングの重要性
曽和氏:採用における『戦術』を考える上で、人事の方々は数字に対しての感覚があまりなく、自社の状況の詳細を把握できていないことが多いように感じています。たとえば、プレエントリーからその後の会社説明会に来ていない人数を聞いても、ぱっと出てこない方が結構います。このような「離脱の数字」が採用の戦術において重要になってきます。
辞退率も同じことがいえます。内定辞退率は目の前の話なので、把握することはかんたんです。しかし振り返っていただきたいのは、選考全体を通じて、自社選考を受けはじめた人がどこかしらのプロセスで離脱していった、全体の離脱率が何%ぐらいかというところです。
ただ、採用って不思議なもので、本当にその年度の採用がよかったかどうかを判定すること自体が難しいと思っています。採用担当者にとって、採用した方に愛着が湧いてしまうと、いい採用ができたと満足をしてしまうんです。その結果、「もっといい人が採れたかもしれない」と振り返ることが少ないんです。
また、振り返ろうと思ってもなかなか振り返ることができないのが現状です。なぜかと言うと、各社が採用における数値をオープンにしてないからです。オープンにすることで、辞退率がやたらと多いなどといった、恥ずかしい結果を公表することになるので、あまりオープンにしてくれません。世間一般的な数値の基準がわからないので、比較対象として、昨対比で終わってしまいます。そもそも、昨対比がいいかどうかもわかりませんよね。
私の場合、採用コンサルという立場やリクルート時代の研究で、わかった数値があります。それは、採用における指標の平均数値です。この数値をもとに採用が順調に進んでいるのか、どこかに問題があるのかが把握しやすくなり、適切なPDCAを回すことができるようになります。
この数を、KPI(最重要指標)とし、モニタリングしていくことは採用においてすごく重要です。KPIの設定をきちんとおこなっている会社はまだ少ないように感じていますが、ここに気づけると、採用力が飛躍して上がると思っています。
新卒採用においてKPIを設定するべき7つの指標
KPIの設定に向けてどうすればいいのか。曽和氏は選考プロセスには重要な7つの「指標」があり、それがKPIを設定するポイントとなるといいます。
- リアル接触率
- ES合格率
- 適性検査合格率
- 面接合格率
- 途中辞退率
- 内定辞退率
- 応募者数
この7つの指標においてどこにKPIを設定するかは、それぞれの会社が抱える採用課題において変動してきます。
曽和氏は、「1.リアル接触率~4.面接合格率の重要性」について詳しくお話をされていましたが、この記事では曽和氏が最も採用において改善すべきポイントだと考えている、「1.リアル接触率」に関してご紹介いたします。
リアル接触率=説明会参加者数÷プレエントリー数
説明会や面接などを公募で募集する場合、プレエントリーや登録をおこなった学生たちが説明会に参加したり、実際に自社の担当者と接触することができる確率『リアル接触率』は30~50%ほどだといいます。曽和氏はこの『リアル接触率』が低いと優秀な人材を採りこぼしてしまっている可能性があるとお話をしています。
なぜこの『リアル接触率』が優秀な人材の採用につながってくるのでしょうか。
曽和氏が考えるリアル接触率とは
曽和氏:優秀な人材を採用するための母集団形成をしていくなかで、一番大事だと思っているのは『リアル接触率』です。『リアル接触率』は私がつくった言葉です(笑)。今の時代、リクナビやマイナビを利用できるためプレエントリーすることはボタン1つでおこなえます。そこからどれだけの人数をセミナーや説明会に呼び込めるかが重要です。この割合をリアル接触率といっています。
リアル接触率が低いと、その後の選考プロセスの数字というのは、あまり意味のない数字だと思っています。なぜかというと、そもそも優秀な学生たちが自社の選考や説明会に参加していないことがリアル接触率でわかるからです。この因果関係に関しては、これから説明する『ファン採用』『非ファン採用』で理解していただけると思います。
ちなみにリアル接触率は、一般的に30%、多くても60%が限界でしょう。リアル接触率が40%とか50%であればその先のリアル接触率の上がり目はあまりないと思っていただいてもいいかもしれません。
リアル接触率を増やす上で重要な『ファン採用』と『非ファン採用』
曽和氏:『ファン採用』というのは自社に対して志望度が高くロイヤリティーの高い学生のみを相手にした採用のことです。一方で志望度が高くないけれど優秀な人を採用することを、『非ファン採用』といいます。この非ファン採用ができておらず、むしろ非ファンを排除するような採用設計になっていることがあり、もったいない採用の典型だと思っています。
非ファンには優秀な人材が多い
曽和氏:かんたんにいえばファンと非ファンがあったときに、非ファンのほうが優秀ということです。優秀な人であればあるほど、どの企業からも内定を勝ち取れる能力があるので、会社を選択するオプションが数多くあります。そうすると1社当たりに対する志望度が相対的に低くなるというのは当然だと思います。マッキンゼーからも声がかかり、電通からも声がかかり、リクルートからも声がかかるような人は、1社1社に対して「絶対ここじゃないといけない」と思うことも少ないと思います。ですので、優秀な人のほうが相対的に非ファンなのではないかと思います。
実際に、リクルート時代に辞退者に対して電話をかけて調査をしてみると、やはり彼らが内定をもらっているところは一流の企業ばかりでした。
あとは2万人のSPIテストの結果を利用して非ファンが優秀かどうかを調べたこともあります。そこでわかったことは辞退していった人のほうが点数が高いということです。特に能力試験においては、ずっとこのような統計がでています。辞退していった人のほうが優秀だということから、いかに非ファンを取り込んで口説いていくかを考えなければいけません。
志望度の低い学生との接触を大事に
曽和氏:志望度が高いファンの中からいい人を選ぶのか、志望度が低いが優秀な人を口説いて採用をするのかが、コアの考え方です。もちろん内定出し前後の時期においては、志望度はとても大事になります。ただ、最初の段階から「志望度が低いからダメ」と言っていると、優秀な人材をわざと排除しているみたいな感じになってしまい、ファン採用になってしまいます。
優秀な人材を採用できていない会社に関してはリアル接触率が低いというのが問題なのではないかなと感じています。つまり、非ファンも離脱しないような選考プロセスに持っていくことがすごく大事だというのが前提にあります。だからリアル接触は「優秀な人材をいかにして採用するのか」という点で一番大事にしたいと考えています。
学生に履歴書や持参書類を持ってこさせない
曽和氏:新卒採用において手書きの履歴書を学生に持ってきてもらう選考を進めていると、学生からは「昭和の香りのする古い会社っていうイメージしかない」と思われているかもしれません。
人事の方に、「なんで履歴書出してもらうんですか」と聞くと、「筆跡で人格がわかるから」と言われることがあります。確かに丁寧に書いている字を見て性格がわかる筆跡学というのがあるので、間違いではありません。しかし、履歴書持参となると、応募者はたいてい半分とか3分の1になります。しかも優秀な上位校の学生から離脱していきます。優秀な人ほど、「履歴書なんか出してられるか」と思っているのが学生の本音かもしれません。
エントリーシートも基本同じで、作成に2~3時間はかかります。志望度が高ければ高いほど、いろんな人に見せたり添削してもらったりして、なかには10時間くらいかけています。とくに上位校の学生なんて10社ぐらいしか書かないとか、なかには5社しか書かないような学生もいます。
エントリーシートを記入することに何かの意味があれば別ですけど、思いつかないのであればやめたほうがいいと思います。リクルートの新卒採用では、私のときにエントリーシートの導入を廃止しました。履歴書やエントリーシートの作成は学生の時間を最も奪うものとして考えていただきたいです。
エントリーシートは自社に来てから書いてもらう
曽和氏:エントリーシートなしで面接をするかというとそうではなく、来た学生にその場でこのようなエントリーシートを書いてもらいましょう。学生は写真だけ持参すればOKです。
同じエントリーシートを書いてもらうにしても、「書いて持って来てください」と言うとリアル接触率がガクンと下がるんです。でも、来てから書いてもらうようにすれば、写真だけ持ってきてもらうだけなので、応募からのリアル接触率があまり落ちません。
説明会と選考会はパラレルな関係性にする
曽和氏:説明会と選考会の流れがリアル接触率にすごく関わってきます。説明会に来た方にしか選考会の案内をしないパターン。これは意識していないかもしれませんけど、説明会に来ない人は選考会から除外してるということになりますよね。これは合理的な採用方法ではないと思います。
むしろ説明会と選考会はパラレルな関係でいいと思うんです。説明会なんて来なくても、ホームページとかでいろいろ勉強して、いきなり面接を受ける人がいてもいいじゃないですか。もちろん説明会から来て、興味を持って選考会に来る人がいてもいいと思います。
選考の基準として、説明会に来たか来ないかなんてどうでもいいと思います。これも驚きの事実かもしれませんけど、リクルートの場合、内定者の3分の2が説明会に出ていない人だったんです。つまり、優秀層は忙しいので、説明会にいきたいと思っていないんです。
WEBを見れば企業が何をしているのかなんて理解できる学生もいると思います。いきなり面接でもOKにすれば、「本命の企業を受けに来た」「SPIの練習をするためにきた」というような動機で参加する人もいるかもしれません。ただその中で優秀層がいたら、思い切って口説くということをおこなえば非ファンの採用につながるかもしれません。
このように最初から門を狭く閉ざすよりも、なるべく多くの優秀な人材とのリアル接触を増やしたほうが採用の成功にはつながると思います。説明会から選考会といったフローだけを準備するのではなく、この関係性をパラレルにすることを私はおすすめします。
電話を有効的に活用する
曽和氏:今の若者は昔と比べると、電話をとらない、電話を使わない、というのは事実だと思います。ですが、就職活動となると、第一志望の会社から合格通知来てるかもしれないのに電話を無視するということはほとんどありません。
先程の60%のリアル接触率が高い会社って何をやったかというと、単純にエントリーをしてくれたその日に電話をかけて呼び込んだだけです。
また、ただ呼び込むだけでなく、TELジャッジをして見極めて、呼び込む優先順位をフラグ立てすることもよいかと思います。 電話で5分ぐらい話をして、「この人は絶対呼び込みたい」「この人は来てくれたらいいな」「来たら対応する」「この人は積極的に案内も送らない」などフラグをたてるんです。ABCDとクラスを分けることで求める学生を効率良く呼び込む仕組みをつくります。
電話で色々と聞き出す「ちなみに攻撃」
曽和氏:ではどのようにしてTELジャッジをして口説いていくかが重要になってくるかと思います。もちろんTELジャッジのみ「もう会うことはやめよう」となるのはちょっともったいないと思いますけど、学生の情報をより詳細にピックアップをするということはすごく大事だと思います。
私は「ちなみに攻撃」って言っているのですが、「ちなみに○○ってどうですか」と質問をしたらいろいろ聞けるんです。 「エントリーありがとうございました。ちなみになぜ弊社をエントリーして頂けたのでしょうか」「ちなみにどの業界を志望されてるんですか」「ちなみに学生時代何やってたんですか」など、全部聞いていくと、面接と変わらないくらいの情報を得ることができます。これで5分ぐらいです。面接であれば5分で終了となるとクレームになりそうですが、電話であれば5分で切っても失礼じゃないので、電話をうまく活用するというのはいいのではないかと思います。
WEB上の面接予約は最適ではない
曽和氏:本当はweb上での面接予約もあまり好ましくないと思っています。なぜかというと、志望度が高い人(ファン)は早く内定をもらいたいから前半の日程を予約してしまいがちです。逆に志望度が低い人(非ファン)は他社との兼ね合いもあるので後半の日程を予約する傾向があります。
採用の最適化するためには、辞退しそうな学生ほど先に会うようにすることが大事だと思っています。なぜなら優秀な人材が多いからです。だからこそ、たとえば上位校、体育会、理系、エンジニア、留学生など、なかなか会えないような学生には、すぐに電話をかけたほうがいいと思います。
早く呼びたい人(非ファン)がいた際は、「明日どうですか?明日だめなら。明後日どうですか?」と、電話で聞いていきます。 志望度が高い人(ファン)は時間が相手も辞退のリスクは少ないため「1週間後のこの日、どうですか?」と、余裕をもって設定をします。そうすることでアポイントメントが最適化して辞退率が下がるという流れになります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
この記事では、採用における『戦術』を考える上で役に立つ、リアル接触率の改善方法について、曽和氏のナレッジをご紹介しました。 曽和氏が今までの経験や実績から見出した母集団形成を上手におこなうコツや、会社の成長につながる優秀な学生を採用するためのコツは何かご参考になれば幸いです。
なお、曽和氏は今回お話された内容をもとに、2月に「会社を成長させる、新卒採用の教科書~採用弱者でも優秀な人材を取って会社を伸ばす方法~(仮題)」というタイトルの本を執筆予定です。
この本では、新卒採用において優秀な学生を採るための曽和氏が培ってきたノウハウや、冒頭でもお伝えした3つの採用プロセス『戦略』『戦術』『戦闘』において、どのようにPDCAをおこなっていけばよいのかなどの内容が記されています。
次回はこの書籍にも執筆予定の、曽和氏が採用を考える上で役立つ、ES合格率、適性検査合格率、面接合格率について、ご紹介したいと思います。
■曽和氏セミナーの次の記事はこちら ▶内定辞退率が低くて喜ぶのは間違い|優秀な人材を採る重要な7つの指標