こんにちは、HR NOTE編集長の根本です。
今回、某有名サービス企業のアルバイト採用に従事されている方の寄稿をご紹介。(業務が高じた、個人的な趣味として寄稿いただきました)
アルバイトは誰もが通り得る身近な業界にも関わらず、『アルバイト業界』の話題が取り上げられることは、まだまだ少ないように感じています。
寄稿者も、もともと業界調査などをおこなっている中で不思議に思っていたとのことで、最近流行りのカオスマップをアルバイト業界に主眼を置いて作成してくれました。(※あくまでも、いち担当者としての見解であり、会社としての見解ではありません)
企業、応募者、市民など、さまざまな視点からアルバイト採用に関するサービス・企業をまとめています。是非ご参考となれば幸いです。(本記事は2017年12月に作成したものになります)
目次
アルバイト採用市場の業界地図(カオスマップ)を解説
※ここからが寄稿になります※
それでは、今回つくった業界地図(カオスマップ)の内容について、詳しく説明させていただきたいと思います。
カオスマップを見ると、それぞれアルバイト採用と関係のある領域を「応募者寄り」「企業寄り」という軸でわけて作成していますが、ここではさらに、
- 1、応募者視点
- 2、企業視点
- 3、市民視点
の3つの視点に分けて、以下にて、詳細についてご紹介します。
1、応募者視点のサービス・企業を解説
媒体(ネット・紙)、検索、短期アルバイトサービス領域
アルバイト採用業界の主要なプレイヤーは、求人広告業者(媒体)です。
アルバイト採用市場の本質は、応募者と企業のマッチングサービスにあるからです。(新卒採用、中途採用、公的サービスであるハローワークも全てそうです)
筆者が応募する側だった15年前には、有料の求人雑誌が本屋さんに並んでいたものです。
しかし、今や媒介するチャネルは、紙からインターネット、そしてアプリに移動しつつあります。
また、既存の検索サイトだけではなく、indeedをはじめとした求人に特化した検索サービスという概念が出て来たのも昨今の流行りです。
オファー、リファーラル採用サービス領域
新卒採用・中途採用では話題になっている、ダイレクトリクルーティングやソーシャルリクルーティングにおいては、まだ主流になっていない印象です。
ただ、一方で、弊社でも複数の友だちとの同時応募は増加しており、友だち紹介とあわせて、素地はあると考えています。
2、企業視点のサービス・企業を解説
コンサルティング、採用代行サービス領域
採用業務はその企業にとって秘中の秘であるはずですが、ことアルバイト採用に関しては人数が多いため、まかないきれない場合も出てきます。
面接設定のコールセンターなどをアウトソーシングするケースはありましたが、最近では、採用業務自体のアウトソーシングを専門とする企業も出てきています。
既存の採用ノウハウでは必要な人員を質量とも確保できないことから、中にはアルバイト採用業務を全て委ねる会社もあるようです。
ATS(採用管理システム)サービス領域
最近、HRTech(HRテック)が流行となっていますが、その中でATS(採用管理システム)も注目されているツールの一つです。
特に、多店舗展開しているチェーン店は、媒体での集客から面接、採用までのプロセスが物理的に確認できず、ブラックボックスになりがちでした。
筆者の周囲でも、「何人応募があり、何人面接し、何人採用しているのかを管理しきれいていない」という声をよく聞きます。
昨今では、媒体の管理画面からの自動取り込み、また選考状況のステータス管理などが可能なツールが増えました。
結果、応募から採用までの数字をKPIと置くことができようになり、定量的な問題発見、課題抽出から対応方針策定、施策の実行・検証までをすることが容易になりました。
勤怠管理、シフト管理サービス領域
サービス業の大きな特性の一つが同時性です。つまり、サービス提供者であるアルバイトさんがいないと、消費者たるお客様にサービスを提供できません。つまり売上が上がらないのです。
昨今、「ロイヤリティの高いアルバイトさんでも高頻度かつ長時間シフトに入ってくれなくなった」という声をよく聞きます。
スマホ利用率の高さもあいまってクラウド上でのASPのシフト管理ツールの種類も増えています。(シフト管理は勤務前に発生しますが、勤務後の勤怠管理ツールと合わせたツールも多いです)
日時調整、動画面接サービス領域
昨今、一括応募などの仕組みが求人媒体側で増加しており、応募から面接設定までの時間が、選考の後工程の数字に影響するようになっています。
「面接日時の調整、そして面接までをもスマホの中で完結させてしまおう」という大きな流れになってきています。
給与前払いサービス領域
もはや人事労務の範疇に入ってきています。
日払い、短期、派遣というキーワードが検索される中、働いた分だけ先に給与をもらえる前払いサービスも増えています。
給与の原資を、アルバイトさんの雇用企業ではなく、サービス提供企業が肩代わりする例が増えているのが特徴的です。
福利厚生サービス領域
最期はリテンション(囲い込み)という観点からご紹介します。
大企業の社員向けに提供される福利厚生サービスには、アルバイトさん向けがあります。また、マップには図示しませんでしたが、組織活性化という観点で「日報共有」や、「ありがとうの共有」などをするアプリなども出て来ています。
3、市民視点のサービス・企業を解説
行政、労働組合、資格ワークルール検定
一方で、アルバイトさんが働くということは、雇用企業と有期労働契約を結び、被雇用者であるという純然たる事実があります。つまり、ブラックバイトに代表されるように、非常にセンシティブな事象であることにも留意が必要でしょう。
日本では労働教育が盛んではないため、社会人になっても、被雇用者としての知識を十分に身に付けているとは限りません。
外国人留学生の労働時間で、経営者が書類送検された事件もありましたが、労使双方で契約内容を遵守する姿勢が求められていると感じます。
メディア、シンクタンク、業界団体
巷に広がる人手不足、またブラックバイトが脚光?を浴びて以降、アルバイトに関する話題が多くなりました。
一方で、いち採用担当からすると、表層的に状況と出来事だけを取り上げて、本質的な議論につながらない内容が多いという印象も受けます。
そういう意味でも、まず事実の整理、現実の理解という側面で、この業界地図(カオスマップ)が一助になればとも思っております。
ロボット
カオスマップには記載していませんが、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、ロボットによる人間の代替という話題が何かと注目されています。
たしかに、「労働は人間だけがするものか」というと、今でさえ工場での自動化などは進んでいます。古代ギリシャでは、「労働は卑しいものだ」という価値観さえあったと言います。
これからのアルバイトはロボットがおこなうなんて世界になってくるかもしれませんね。
アルバイト採用市場の今後の展望
アルバイト採用市場は、これまで成功してきた既存のマッチングシステムが存続しており、イノベーションが起こりにくい傾向があると感じます。
特に、マッチング精度を高めるという観点での進化は、新卒採用ほどには進んでないように思えます。
一つには、アルバイト自体が代替が効く労働力として想定されており、市場単価が安いということはあげられると思います。
他方で、アルバイト応募者のカスタマージャーニーを考えた際に、ステークホルダーの多さもイノベーションを阻害していると感じます。
マッチングサービス提供者は、あくまでも「マッチングの創出までの提供」であり、面接に来店しているかも含め、当然その後に責任が持てるわけではありません。
その応募者にとって、そこでのアルバイトが人生で初めての仕事である場合も多く、その場合、当然教育コストは企業が負担します。
その企業とアルバイトでおこなわれているのは、労働契約であり、遵守すべき事項が多々あります。
結果、アルバイト応募者のカスタマージャーニーの中で、誰がどこまで責任が持つのかが曖昧になりがちです。
いち社会人の視点からアルバイトについて考える
いち採用担当者として
私はアルバイトをするということは、特に学生の方にとっては社会の入り口となり、『シゴトの保育園』だと考えています。
日本国憲法は第二十七条で謳っています。
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
そう、勤労は国民の三大義務の一つなのです。
所得税を納められるのも、働いているからこそ。
(20代で遠回りをし、27歳半で働き始めた自分は、今でも学生の質問に、こう答えています。「シゴトをして一番嬉しいことは、所得税を納められることである」と。)
アルバイトさんには、働く楽しさを味わってもらいたいと思うとともに、一緒に社会をつくっていく仲間としても歓迎したいと思っています。
いち消費者として
非正規雇用者の割合が多いサービス産業を中心に、アルバイトがいるかいないかは、経営の一丁目一番地になりました。
現場目線ですと、どうしても「今日明日にアルバイトがいるかいないか」という視点になりがちです。非常に刹那的です。
それは同時に、消費者自身もサービスを享受できなくなる可能性もはらむ、極めて深刻な問題にもなってきています。
非正規雇用者を多数雇用しないと維持できないビジネスモデルは、社会が要請しているものでもあります。
一方で、持続可能性の高いビジネスモデルを追求しないと、共倒れさえ招きかねません。ヤマト運輸の例などが、その最たるものでしょう。
消費者はサービスを享受するために、それ相応の対価を払う必要が出てくるかもしれません。
最後にいち社会人として
アルバイト採用という切り口で前向きな議論がされる場がないことは、極めて由々しき問題であると感じています。
いまや日本のGDPの70%を第3次産業が占めるまでになりました。また、労働人口の40%は、非正規雇用として働いています。
働き方改革(働かせ方改革)を例に取るまでもなく、日本の労働市場は課題が山積です。
正社員採用市場では、残業代問題に端を発する働き方改革の動きがあり、また採用手法や技術的な観点からもダイレクトリクルーティングやHRTechという流れが出て来ています。
このような新しい切り口が現れていることを素直に歓迎するとともに、アルバイト採用においても、各方面のステークホルダーが一同に介して、この国のあり方として論じられるようになることを切に望んでいます。
※本記事は、あくまでもいち担当者としての見解であり、会社としての見解ではありません。