日常生活に密着したWebサービスやスマートフォン向けゲームやアプリなど、インターネットを軸に多様な事業を展開する総合IT企業、株式会社エイチーム。
同社は事業拡大に向けて約5年で社員数が約2倍の1,000名超に急成長しました。
このような採用活動には人事以外にも社員の協力が不可欠ですが、エイチームは、新卒・中途採用ともに、社員主導型の採用を実践しています。
人事がプロジェクトマネージャーのような役割を担い、同じ目標に向けて、人事と現場が協力し合って採用活動に取り組むことができています。
今回は、人事と現場社員がWin-Winな関係で採用活動を実践するエイチームの「人」「組織」や「採用」への考え方、組織文化づくりについて、人事部の小笠原さんと子会社執行役員でエンジニアの大西さんにお話を聞きました。
■取材対象者
小笠原 安里子|株式会社エイチーム 人事部 新卒採用グループ兼キャリア採用グループ マネージャー
大西 勉|株式会社エイチームライフスタイル 執行役員 CTO
目次
経営陣、マネージャー、メンバー、人事、全員が採用要件づくりに携わる
―事業部と人事は、どのように連携して採用計画を立てるのでしょうか?
エイチームは様々な事業を展開していますので、募集する事業や職種は多岐にわたります。ですので、それぞれの事業戦略に紐づいた要員計画の立て方を意識しています。
事業戦略から必要な人材要件や人数を確認しながら、各事業・組織の現場ニーズをヒアリングし、採用や人員配置などをバランスよく決めていきます。
こうした要員計画の設計は主に事業部でおこないます。
私が所属するエイチームライフスタイルでは年2回の経営合宿をおこなっています。
そこで、事業の戦略や方針、目標予算、それらを実現するために必要な要員計画を話し合います。この時に、どんなスキルを持った人材が必要なのかも一緒に議論します。
ただ、急な退職による欠員補充が必要な場合もありますので、期中でも要員計画は小まめに見直していきます。
また要員計画を立てるときに意識していることとして、経営陣だけで決めないことです。必ず、マネージャーやメンバーの意見を聞くようにしています。実際に一緒に働き、開発するのは現場で働く社員のみなさんですから。
例えば「この事業を今後さらに伸ばしていくために●●をつくろうとしている。そのためにはどんな人材と一緒に働きたいか、意見を聞かせてもらえないか」など。
そうすることで、所属組織や事業に対する当事者意識や所有感が生まれます。一緒に会社の未来を考えるようにしていますね。
既存事業だけでなく多くの新規事業も抱えていますので、事業の立ち上がり状況やフェーズに応じて、期中に要員計画が変更になることもよくありますね(笑)
人事は、事業部で調整した要員計画をヒアリングし、期初に年間の採用計画を立てます。採用人数、職種、必要なスキル、期限など、要件設計を事業部の担当者と一緒に考え、進めていきます。
特に私が採用を担当することが多いエンジニア職は市況感としても採用ハードルが高いです。
人事に「サーバサイドエンジニアが2人ほしい」と急にオーダーしてもすぐに採用することが難しいことを知っています。
そのため、経営会議で要員計画が決まったら、すぐに人事に共有し、一緒に採用を進めていくように意識しています。
また期中に要員計画や採用要件が変更になる場合も同様で、すぐに人事と連携するようにしています。
採用活動を推進するためにお互いが意識していること
―どのように連携して、人事と現場は採用活動を推進していくのでしょうか?
要員計画が決まったら、採用活動は人事が主導して進めていきます。
採用ホームページやWantedlyの公開などの採用広報、エージェントへのオリエンテーションや求人票の公開、ビズリーチなどのダイレクトリクルーティングの実行など。こうした採用における業務は人事が進めていきます。
実際の面接やオファー面談、ダイレクトリクルーティングにおけるターゲット人材の選定やMeetUp(勉強会)などの登壇内容の企画や当日の発表は現場に任せています。
お互いがそれぞれの得意分野を生かしながら、フォローし合いながら進めていくというスタイルです。
普段から意識していることは、事業部と人事とのコミュニケーションの量と質を大切にしていることです。面接が終わった後は採用候補者の評価フィードバックを必ず聞き、採用プロセスの改善に生かしています。
その他にも、応募の進捗が悪いときは、一緒にMeetUp(勉強会)や採用イベント(会社説明会兼選考会)の企画を考えたり、現場から「こうした新しいことにも挑戦してみたい」という要望をもらうことも少なくありません。
現場と人事がワンチームになって、一緒に採用のプロジェクトを推進していくという感じですね。
たしかに、普段のコミュニケーションも盛んですね。今はオンラインが主ではありますが。面接のフィードバックはとにかく丁寧にするようにしています。
どのような人物像、スキル、経験を持った人が欲しいのか。なぜ合格を出したのか、不合格を出したのか。その理由をしっかり人事に伝えています。
正しく伝えることで、採用基準がより明確になり、マッチ度が高い人材と出会えるようになるからです。
また、人事がエージェントに推薦いただいた応募者のフィードバックをしっかりおこなうことで、エージェントとの良好な関係性構築にもつながりますので、心掛けています。
反対にやらないこととしては、人事と現場側とでガチガチにKPIを立てて、週次で進捗管理する…ということですね。
採用計画に対するプロジェクトマネジメントは人事側でやっているので、私たちは普段のコミュニケーションの中で、取り組みや進捗の共有をし合っています。
現場が採用活動に積極的で自ら動いているのでとても助かっています。
私自身は採用のプロとしての意識を持ち、採用活動を円滑に進め、採用目標の達成にコミットします。ただ、エンジニアなどの専門性の高い技術的な内容はわかりません。
とにかく、知らないことを認め、まわりに聞き教えてもらうようにしています。
人事と現場、お互いの得意領域を活かすことで、スピーディに高い成果を出すことにつながります。
ちょっとした立ち話し、ランチ、飲み会など、業務内外問わず様々なコミュニケーションの機会を増やし相互理解に努めています。
―今までの採用活動で、現場から人事サイドに提案した採用施策はありますか?
面接が終わった後に、「採用サイトの募集要項をアップデートしましょう」と人事に伝えたことは何度かありますね。
その他にも、Wantedlyのコラムのような機能で「フィード」というものがあるんですが、そこにエンジニア組織の技術的な取り組みを掲載してほしいとオーダーしたこともあります。
リーチ数を伸ばすことで応募数を増やしたり、採用候補者がエイチームをより深く理解してくれることを期待しています。
この取り組みを提案した背景として、応募者がうちのエンジニアの技術ブログを読んだことが応募理由だったということを面接で知ったからです。
その他にも、面接ではわからないプログラミングのスキルチェックなどは、現場から提案してもらいましたね。
そうですね。面接は基本的にエンジニアのみで実施しているということもありますが、面接だけでは測れないものもあります。
技術的なスキルはその最たるものです。「スキルチェックを導入したい」のような要望はエンジニアである自分たちからしか提案できないと思っています。
選考プロセスにスキルチェックを導入することのメリット・デメリットを人事に相談しながら、その導入可否を慎重に検討しました。
社員一人ひとりが認識している「採用=仲間探し」ということ
―そこまで現場が採用活動に入り込んで、協力的におこなっている理由は何ですか?
経営理念の実現に向けて、重要な経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」に関わる「人材採用」はとても重要なミッションであると認識しています。
会社や組織は、働く社員“みんなで”つくりあげていくものです。みんなで協力し合い、効果的な方法を実践していくことは当たり前であると、社員一人ひとりが認識しているんだと思います。
新しく迎え入れた仲間と一緒に働くのは現場である私たちです。事業やサービスを作っていく上で今後の苦楽を共にしていく仲間です。
ですので、採用活動を人事に任せきりにするのではなく、自分たちも一緒にやっていく。このように考えが企業文化として根付いています。
経営陣が「人」「組織」への関心が高いことも特徴だと思います。
経営会議や経営合宿など、会社の経営方針や事業戦略を議論する場においても、「人」「組織」に関する議論が多い。社員への発信においても「人材育成」「マネジメント」についての話題が多いように感じます。
そのため、採用に関わる社員、採用には関わらないけれど一緒に働く社員、その一人ひとりが「採用=仲間探し」という認識を持っているんだと思います。
経営陣の採用活動へのコミットメントの強さもエイチームならではだと思います。
―ちなみに、エイチームの採用でお二人が驚いたことはありますか?
新卒採用で驚いたことはあります。
新卒の採用イベントなどは、人事が同行せず、現場社員だけで参加することも少なくありません。それも入社して2・3年目の新卒社員です。
はじめは「そんなに丸投げしちゃうの?」と驚きました。
私も驚きましたね(笑)
一般的には、人事と現場社員がセットでイベントに参加することが多いような気がします。それもある程度社歴の長い社員や役職者など。
でもエイチームは若手を積極的に参加させるんですよね。会社を代表して学生と話すわけですから、「怖くないのかな?」とも、はじめは思いました。
でも、これはとても良い取り組みだと思うんですよね。
採用に関わる社員たちは会社の看板を背負って、学生に対して自社について正しく伝えなければいけません。
会社全体の知識はもちろん、事業やサービス、理念や組織文化、強み、働き方、職場環境など、自ら情報を集め、理解し、時には社員同士でディスカッションしながら納得した上で、アウトプットできるようにならなければいけません。
こうしたプロセスの中で、採用に関わる社員の会社へのロイヤルティも高まっていくのだと思います。
何でもストレートに言い合える関係が、マッチング精度向上には必要
―採用基準の目線合わせは、どのようにおこなっているのでしょうか?
採用に関する情報共有をする場合、主観ではなく、必ず客観的な情報の提供を心掛けています。
求人倍率などの採用の市況感や採用難易度、競合他社の採用手法や動向、こうした情報を定量・定性で伝えたうえで、どうすれば自社にマッチした優柔な人材をタイムリーに採用できるのか、一緒に採用戦略や施策を考えるようにしています。
普段のコミュニケーションで採用要件や基準は細かく擦り合わせをしています。
それでも時には、人事が自信をもって推している人材を不合格とすることもあります。
フィードバックをすると人事が「えっ?なんで?!」という顔をしている。そういうときはとても申し訳ない気持ちになるのですが、包み隠さず、素直に理由を伝えます。
少しの疑問や疑念でもお互いストレートに言い合える。そんな信頼関係が人事と事業部側で醸成されているんだと思います。
採用施策でうまくいかなかったケースも過去何度かありましたね。現場側に負担がかかりすぎてしまい、オペレーションが破綻してしまったものもありました。
採用支援サービスは次々と新しいサービスがリリースされています。
興味があるものは、自社で導入が可能かを検証したうえで、いろいろ試しています。うまくいって継続的に利用しているもの、なかなかうまくいかず利用をやめたものもあります。
最近はスカウト型のダイレクトリクルーティングサービスが増えていています。
エイチームでも、ダイレクトリクルーティングでの採用実績が高いため継続的に利用していますが、人事が結構フォローしてくれるんですね。
採用基準に合致する人材をリストアップして、現場側がスカウトしたい人材をピックアップし、その後人事がオファーメールを送ってくれます。
サービスの中には、1通のスカウトを送るのに1時間かかるものがあります。
非常に優れたサービスではありますが、なんせ通常の開発業務などをおこないながらの採用活動なので、業務がひっ迫されてしまって…。サービスを継続的に利用することがつらくなってしまったんですね。
現場に負荷がかかりすぎる採用手法は継続性がないことに気づきました。
その時、採用計画の上で短期的な施策と長期的な施策を分けて戦略を立て直しました。
採用緊急度が高い場合は、短期施策にリソースを投入し、長期施策は現場の負荷を減らすオペレーションにするなどしました。
いろんな成功・失敗を繰り返しながら、現場と連携しながら採用手法をアップデートしています。
「採用」はあらゆる面で責任が大きい重要なミッションである
―採用に対してのポリシー、大切にしている考え方などを教えてください。
「期待(数字)=責任」だと思っています。
私個人だけではなく、チーム全体、ひいては会社全体の責任を担っているとも思っています。自分の役割に置き換えると、事業部の採用計画を実現させることで全社に貢献することが責務です。
期待は「任せられる」と会社から判断されるものなので、期待された目標は最低限達成しなければいけないと考えています。
また、1人で完結できる仕事は何もありません。採用に協力してもらっていることへの感謝を忘れない。
そして、進捗報告やフィードバックはできるだけ詳細にスピーディにおこない、一緒に採用活動を進めているという意識を持つようにしています。
また周りが気持ちよく協力できるよう土台を作ること、想像力を大切にすること、相手の疑問を事前に解消し、確度の高い採用が実現できるよう意識しています。
「人材を採用する」という責任を持つようにしています。会社や事業の成長のため、新しい仲間を迎え入れると決めたのは現場である私たちです。
また、採用された社員にとっては、人生が変わる出来事でもあります。そう考えると「人材採用」は重みを感じます。
ですので、採用すると決めた以上は、採用活動に協力してくれているすべての人に対して感謝の気持ちを忘れず、しっかりと応えていく義務があると感じています。入社後の人材育成も然りです。
採用選考は優劣をつける場ではなく、お互いの価値観が合っているかどうかを確認する場です。
企業が選ぶ軸、採用候補者の企業選びの軸、それぞれがマッチし、みんなで幸せになれることが大切だと思っています。