2020年8月7日に、
- ママ向けQ&Aアプリ「ママリ」および働く一歩を踏み出そうとしているママを応援する求人サイト「ママRework」を運営するコネヒト株式会社の北吉さん
- 働くママ・起業家である株式会社アイスタイルの山田さん
- モデレーターとして株式会社ネオキャリアの西澤さん
の3名が集い、共同Webセミナーを実施。
本イベントでは、ここ数年の女性採用市場の動き、ママや企業に実施したアンケートや、働くママの実体験をご紹介しながら、これからの「ママ採用」の課題やポイントを紐解いていきます。
- ママ採用に興味があるがやり方がわからない
- ママ社員の定着やブランディングについて聞きたい
- ワーママが増える中で企業がおこなうべきポイントが気になる
- ワーママのワークライフバランスや、制度設計について悩みを抱えている
※本イベントは2020年8月7日に実施したものです。
イベント詳細ページ:https://www.neo-career.co.jp/seminar/rm011
登壇者紹介|経営に携わりながら子育てにも取り組む3名
西澤さん:ネオキャリアの西澤と申します。みなさん本日はよろしくお願いします。
西澤亮一|株式会社ネオキャリア 代表取締役社長
今回は「ママ採用」というテーマで、「ママリ」を運営している北吉さん、働くママの第一人者である山田さんをスピーカーにお迎えしました。
今日の視聴者の方には、子育てしながら働いている方や、これからママを活用しようと考えている企業の人事担当者、経営者、管理職の方も多くいらっしゃると思います。
私もプライベートでは3人の子育てをしていますが、皆さまに参考になるようなお話しできればと思っていますので、よろしくお願いします。
山田さん:アイスタイルの山田と申します。よろしくお願いいたします。
山田メユミ|株式会社アイスタイル 取締役
私は化粧品メーカーで商品開発の仕事に従事したのち、『@cosme』を仲間とともに立ち上げました。最近では、他社様の社外役員としての活動もしております。
プライベートでは高齢出産を経験し、いまは子育てと仕事の両立の真っ最中です。
北吉さん:コネヒト株式会社を経営している北吉と申します。
北吉竜也|コネヒト株式会社 代表取締役社長
2006年にKDDIに新卒入社後、さまざまな事業やサービス立ち上げに携わりました。2019年6月に、前の創業社長が退任されるタイミングで、コネヒトの2代目社長となりました。
プライベートでは男の子が2人、4歳と1歳の子どもがいます。
運営して6年目であるママリでは、ありがたいことに月間150万件を超える投稿をいただいており、SNSのアカウントはあわせて100万フォロワーまで純増しています。
アンケートに基づく、ママ採用における企業と、働きたいママの現状
西澤さん:それでは最初に、現在の働くママや日本の女性活躍全体の動きについて、私から説明したいと思います。
M字カーブの現状
2020年には、各企業の指導的地位の女性割合を30%にする、という指標が政府から発表されていましたが、現状は以下のように推移しています。
1つ目に、働く女性の問題を表すワードとしてよく聞かれる「M字カーブ」についてお話します。
M字カーブとは、子育て期に1度仕事を辞めて、子育てが一段落したらまた戻るという動きを年齢階級別にグラフにしたときに現れるカーブのことですが、実はここ数年で解消されてきています。
1997年から専業世帯と共働き世帯の数が逆転し、2019年には専業主婦世帯が606万世帯、共働き世帯は1,200万となりました。
共働き世帯の方が増え、子育て期も女性が一緒に働くようになったというのが、ここ10年で変わったことです。
しかし、働く女性は増えたものの、働き方としては非正規社員が多いという課題は残されています。
せっかく復帰をしても、女性側の立場、保育園問題、子育てしながらも働きやすい職場環境がない、などの問題があり、正社員として復帰ができないという背景があります。
ジェンダーギャップ指数
続いて、「ジェンダーギャップ指数」について見てみましょう。
日本は153カ国中、121位という残念な結果となっています。
もう少し粒度を下げて、女性管理職の割合を見ていきましょう。
一般的に欧米諸国が40%にもかかわらず、日本は13%という結果となりました。昨年、女性活躍推進法なども施行されているものの、非常に課題が多いことがわかります。
指導的地位に占める割合も、2020年までに30%にすると政府が宣言していましたが、この目標は2030年までに先送りもされている状況です。
2009年は、課長職が7.2%で現在は11%まで増えています。部長職は4.9%から6.6%まで増加しました。平均すると10.1%ですので、30%には程遠い状況となっています。
働く女性増えていることは事実ですが、女性の正社員や女性管理職が少ない課題が露呈しました。
「ママになっても働き続けたい?」ママの意識調査と企業向けアンケート
北吉さん:私からは、ママ採用における、企業とママの意識調査の結果をご説明させていただきます。
コロナ時代でも、就業意欲は高い
最初に、現在働いていない方に対して「ウィズコロナ時代に働いていきたいですか?」という質問をしました。
その結果、およそ4分の3にあたる74.5%の方が「働きたい」と答えていらっしゃいました。
一方で、現在働いている方に対して「コロナ前と比較して働く意欲に変化がありますか」と質問をした結果、半分以上の方は引き続き意欲が高いという結果となりました。
さらに、働く意欲が上がった方に「なぜ働く意欲が上がりましたか」と尋ねたところ「会社の対応の良さ、同僚からのサポートがあったため」という回答が目立ちました。
さらに、意欲が下がった方、働く意欲が低い方に関して見ていくと、コロナの影響が如実に表れていることがわかります。
1つ目は、職場環境についてです。
コロナ禍で外に出ると感染リスクがある状況にもかかわらず、「会社側のアナログさ、効率化されてなさを実感し、育児と両立してしんどい思いをして働き続けることがアホらしく感じた」という辛辣な意見もありました。
その他にも、「コロナ関連で忙しくなり残業が増えた」「通勤でコロナへの感染リスクがある」という声が集まっています。
ママという立場を考えると、子どもへの感染リスクへの意識が要因となっているようです。自分が外で働くことで子どもに感染させたくない、保育所で感染する可能性も怖いという意見も見受けられました。
ママ採用に前向きな企業が多い
続いて、企業向けアンケート結果を見ていきます。
企業側に「コロナ前と比較してママ採用についてはどうお考えですか」と尋ねてみた、4分の3以上の76.7%の企業様がママ採用に非常に前向きという結果になりました。
続けて、「会社としてママが働きやすいように意識していることを教えてください」と尋ねたところ、次の回答が集まりました。
24.4%の企業様が「育児に対して職場の理解促進」を意識していると回答があり、次いで「産休・育休・有休が取りやすい」といった制度面についての取り組みが挙げられています。
回答の3番目には、「時差出勤や勤務時間の柔軟な対応」と、働き方に対する対応力を意識しているという結果となりました。
ママが企業に求めることは『理解』
これに対して、今度は働き手であるママ側に、「働きやすくなるために企業に一番求めたい事は何ですか?」とアンケートをとってみました。
すると全体の4割以上の方が「育児に対して職場の理解がある」ことを企業側に求めていました。これは企業が意識していることの1位と同じ結果となります。
働くママ達が企業に求めることの2番目は、「当日休みや当日早退が取りやすい」という制度に関するものです。
制度面の観点では、育休・産休を求める方が5.3%と意外と少ない結果となっています。
逆に考えればこれらの制度はあるのが前提となっており、ハード面よりもソフト面の部分を重視される方が多いことが分かりました。
では、働くママたちが求めるソフト面(企業側の意識)に対して、フリーコメントを見ていきましょう。
「育休や産休制度そのものがない」という企業はほとんど減っています。
しかし、せっかくハード面がそろっていても、周りの理解がないため、制度を活用するときに気を使ってしまうという意見が見られました。
ここまでをまとめると、
- 現在働いていないママたちの75%は働きたいと思っていること
- 彼女たちの働く意欲に大きく影響を与えているのは、会社の対応や同僚のサポートの有無
ということがわかりました。
コロナのせいで働く意欲が一気に下がったのではなく、一緒に働く方の理解があるかどうかというソフト面が、働くママの意欲と因果関係にあることが分かりました。
企業側も「育児に対する理解が重要」という事実は受け止めているので、より理解浸透を正しく進めていくことが重要だと言えます。
ISパートナーズが実践する、「時間」や「場所」にとらわれない柔軟な働き方
西澤さん:ここからは、2児の母親として苦労されたご経験や、アイスタイル社でママ採用に取り組んできた山田さんからお話を伺いたいと思います。
山田さん:私はベンチャーを創業して、自分も20代、30代で走っていたときには、正直言って「働くことにおいて男女の差はないだろう」と思ってやってきました。
アイスタイルは創業21年、社員が1,000名を超えて、平均年齢は30代前半の会社です。
実は、弊社も5年前、10年前ぐらいは、出産後に復帰して頑張っていても、結局退職してしまう女性が目立っていました。課題を感じていたものの、「どうしたらいいかわからない」というのが正直な気持ちでしたね。
一般的な育休の制度面の整備や、法令に準ずるものはもちろん取り組んでいましたが、それ以上のことは特段できなかったのです。
社内は、多いときは社員の7割が女性が占めています。エンジニアから営業職、管理職に至るまで女性が非常に多く、約4割ほどの方が女性マネジメントとして活躍されています。
そんな中で私自身も出産・妊娠を迎えました。
その体験を通して体感したのは、女性は、出産・育児、介護などのライフステージの変化の影響をより大きく受けがちであるという現実です。
それを実体験として感じたからこそ、大反省して、会社としてもっと(働く女性に対しての)環境整備をもっとチャレンジしていかなくてはダメだと強く思うようになりました。
ここで、2016年にアイスタイルの子会社として立ち上げた、ISパートナーズというダイバーシィ活躍に向けたチャレンジ組織の事例をご紹介します。
アイスタイル社内では、当時なかなか採用が上手く行かないであったり、離職率が高めだったり、先ほど申し上げたように、非常に優秀な女性社員も残念ながらライフステージの変化のタイミングで離職を選択する…という現場を何度も目にしておりました。
そこに自分自身の育児経験も重なり、多様な働き方で社員が活躍できる環境を別組織で構築し、人事規定や労務の考え方を変えていきたいと考えました。
そのチャレンジとして立ち上げたのが、このISパートナーズという会社です。
まずは、サテライトオフィスを作ると決め、千葉の流山市を選びました。流山市は、東京近郊にあり、研修などの行き来がしやすいベッドタウン。
市としても働く女性の支援に力を入れており「ママになるなら、流山」というマーケティングのキャッチコピーを掲げていた場所です。
流山市を協業先とし、どのような職場があれば女性の皆さんが仕事にフルコミットして、プライベートの充実も感じていただけるのか、座談会などを通してさまざまな声を集めていきました。
活発な議論を繰り返し、たどり着いた答えは、やはり「場所の自由」は絶対に必要ということです。
本社や、サテライトオフィス、自宅の就業環境を整えて、あらゆる所で短時間でも仕事ができる環境をつくること。また、「時間的な制約を極力外す」ことも重要だとわかりました。
これらのヒアリングを経てISパートナーズでは、朝の5時から夜の10時まで、好きな時間でワークタイムを取れるようにしています。途中で仕事に抜けたり入ったりすることも自由にしています。
女性はライフステージによって、「今はこう働きたいけど、子どもの就業環境でやっぱり働き方を変えたい」というように短期間で求めるワークスタイルは変化していくものです。
だからこそ、正規雇用・非正規雇用をはじめから決めつけるのではなく、半期スパンで面談をしながら見直していくような、柔軟な対応をしていくことが重要と気付くこともできました。
「働く時間」と「場所」、そして「ワークスタイル(雇用形態)を最大限フレキシブルにできる組織をつくっていこう、と再定義しながら、ISパートナーズを運営しています。
通勤時間で1時間使うことは、女性からするとものすごいロスタイムなんですよね。子育て期ではない方にとっても、通勤時間はエネルギーも消耗しますし、ロスタイムだと思います。
時短勤務しか選択ができなかった方も、通勤時間のロスを削減すれば、8時間のフルタイム勤務に戻せるかもしれません。
そういったフレキシブルな就業環境を、会社として最大限提供すれば、やる気のある人材が活躍しやすくなるのではと考えています。
この機会提供を実現するためには、1人ひとりがご自身のキャリアアップ、スキルアップを能動的に目指してくれる意思のある人たちであることが重要です。
環境を提供する代わりに、意思を持って働いていただく。このメッセージを伝えながら風土づくりに取り組んでまいりました。
この流山市のプロジェクトは小さな組織でのチャレンジではありますが、1から手作りしながら約30名ほどのメンバーたちと進めてきました。
この子会社での小さなチャレンジを重ね、成功事例を本社全体の制度に反映させていく流れは、ぜひ皆さんにご紹介したいところであります。
ママ採用のために企業が押さえるべきキーワード「ガラスの天井」「マミートラック」
西澤さん:次に、「ママ採用を推進するために企業が押さえるべきポイント」についてお話できればと思います。
女性活躍においては、「ガラスの天井」という、資質や成果とは関係なく女性のキャリアを阻む見えない壁があると言われています。
これに対して人事や経営側がどう動いていけばいいのか意見を聞かせていただけますか?
山田さん:大企業から見ると、きれいごとばかり言っていられないのも分かりますが、ガラスの天井については、会社が変わる意思を持たないと何も変わらないと考えています。
今回のコロナで、レガシーな企業様でも、積極的にオンライン会議を取り入れるようになりました。
皆さんやってみると意外とできることが分かって、ご自宅から会議に参加されたり、オンラインとオフラインを上手く組み合わせた働き方をされています。
この実体験をもとに、今後企業も大きく変わっていくだろうと受け止めています。
西澤さん:ガラスの天井に対して、企業は変わる意思を持ち、取り組む必要があるということですね。
次に、北吉さんには「マミートラック」について伺いたいと思います。
マミートラックとは、出産を機に責任が軽い仕事を任されたり、キャリアアップから実際遠ざかってしまったりする事象のことです。
このマミートラックについては、どう思いますか?
北吉さん:マミートラックに関する悩みは、まだまだ至るところで存在していると思います。
しかし最近の傾向としては、女性の力が軽視されるよりは、出産を迎える前にできるだけキャリアを積み上げて「任される状態を作りたい」という志を持った方が増えた印象があります。
先ほど山田さんがおっしゃったように、どうしてもきれいごとでは進まないケースもある中で、ご自身のキャリア志向が強い方が、存在感を発揮していくことはあると思うんです。
ただ、育児の負担が少ない男性と同じ結果を出さないと会社に認められない、自分も納得できないからと無理して頑張った結果、身体を壊してしまっては本末転倒ではないでしょうか。
西澤さん:今のお話を受けて、先ほど山田さんが説明してくださった「ライフステージに合わせて柔軟に会社もアジャストしていく」ことが重要ですよね。
働く女性の価値観は変わるものであって、必ずしもバリキャリ2割、ほどキャリ6割、若干ゆるキャリで働きたい2割というバランスが決まっているわけでもないですし。
女性の各ステージによって、望む働き方が変わっていくんですよね。
山田さん:正直なところ、日本はまだまだ女性が活躍しにくい現実があります。
「こうしなきゃいけない」という同調圧力が日本には強く根付いていて、日本人はとても真面目に捉えすぎなのではないでしょうか。
優先順位をつけて、今はゆるキャリを選んでいる方も多いと思いますが、「やると周りに迷惑を掛けてしまうから今はゆるキャリでしかやれない」と思っている方も非常に多いのです。
海外ではシッターさんの手を借りることも珍しくないことですし、長時間労働が前提の働き方ではなく、価値観自体が大きく異なります。
環境面での厳しさは、日本が飛び抜けていると感じています。この環境面での働きにくさを、個人の意思だけで解決させようとする社会が間違っていると思います。
多様な選択肢があり、本人の意思でライフスタイルを編集していけることを、会社全体で体現していかねばなりません。
せっかく豊富な知見をお持ちの優秀な方がいたとしても、環境が原因で辞めてしまうのは、会社の損失でしかないと考えています。
西澤さん:今回のコロナで、家で仕事をすることがある程度一般的になったことにより、ママたちには画期的な変化が起こっているという見方もありますよね。
山田さん:はい、本当にそう思います。
現在ISパートナーズでは、5時から22時の間で、自身の裁量で就業していただいていますが、欲を言えばこの時間制限も外したいんです。
ですが現実問題として、22時以降は深夜勤扱いとなり時給単価が変わってしまうため、致し方なく5時~22時の制限を設けています。
「子どもを寝かせてから22時以降に仕事をしたい、子どもが起きる前の5時前に仕事をしたい」と言う方がいたとしても、会社としては「お願いします」と言いにくいんですよね。
働く時間帯によって雇用条件が変わってしまうのは、ほかの人から見たときに不公平になってしまうからです。今後は、労働法の改正も含めた議論が必要なのだと痛感しています。
西澤さん:今、弊社で育休・産休から明けたメンバーからも、同じような意見がありました。バイタリティがあって嬉しい一方で、法的な部分も難しいですよね。
【8つの質問を紹介】視聴者からのQ&A
西澤さん:ここで、視聴者からのご質問を紹介したいと思います。
Q:「育児に対しての理解」という項目をよく耳にしますが、どういった理解をすれば良いでしょうか?
北吉さん:育児に対しての理解とは、「ママたちがいることを前提とした業務設計を組むことが大切」と、受け止めています。
例えば、タスクを可視化して、誰がいつ休んでもフォローアップができる状態にするということです。
ママになると、予定休暇よりも急に休む頻度がとても上がると思うので、急な欠勤への対応策となるハード面を整えていくと、周りの人も自発的にフォローしやすくなります。
もう少し別の角度でお話すると、家族連れで参加できる社内イベントを実施することも効果があると思います。
もちろん、今はコロナ禍なのでオフラインイベントは難しいですが、社員の家族の姿・親の顔を見ることで、ママたちへの声のかけ方は変わる傾向があります。
弊社では、イベントでご家族の顔を見た後に「今日は上の子が熱を出したので遅刻します」と連絡があった際に、ほかの社員から「お子さん大丈夫ですか」とか「〇〇ちゃん、大変ですね」と、名前での声掛けが自然と出てくるようになりました。
このような声掛けが自然と出てくる環境では、「安心して働ける=育児に対して理解がある」と、受け取ることができると思います。
西澤さん:ありがとうございます。続いての質問です。
Q:コロナの影響で、産休していたメンバーを産休前と同じ部署に戻すのが難しいです。非常に愛社精神も強い社員ですが、どのような声掛けをしたら良いでしょうか?
山田さん:先ほどのISパートナーズのプロジェクト事例でもお話しましたが、「今何がその方にとっての最善か」ということを、日頃のコミュニケーションの中でヒアリングをしておくことが大切です。
あまり固定観念で決めつけずに、信頼関係を築きながらお互いの最善策を話合っていくといいでしょう。
時間的な柔軟性を提供しても、解決できることと解決が難しいことがあります。場合によっては、ジョブ(職種・職務)を変えた方が、長いキャリア形成において役立つこともあるかもしれません。
例えば、営業の前面に出ていた方が、育児期に運用系の業務を経験した方が、将来的に価値になることもあると思います。
目先の評価への固執や、周囲の方たちとの比較をせずに、もう少し中長期的な視点でジョブチェンジも含めた最善策を議論していくといいなと考えています。
西澤さん:ありがとうございます。では次のご質問になります。
Q:若い女性が多い職場で、「ママ社員ばかり優遇されてずるい」という声が上がることがあります。これらの衝突を回避・解決した事例や、参考になるお話はありますでしょうか?
北吉さん:当社では、経営レイヤーのメンバーで「これをやると優遇しているように見えるのでは?」と常に気にかけていて、線引きをするようにしています。その結果、あまり衝突や不満の声は上がってきていません。
社員の内訳は、働くママ・パパが半分ほどで、独身の方も多く多様性のある組織です。アイスタイルさんは何か心掛けていることはありますか?
山田さん:北吉さんがおっしゃったように、不公平が生まれないように気をつける意識は必要と思うものの、公平性を重視しすぎた結果、中途半端な制度設計になるのが一番怖いと思っています。
今、独身でバリバリ働きたい方も、1年後、2年後には状況が変わっている可能性は十分にあります。事業やサービスが硬直化しないためにも、ダイバーシティ組織は必要不可欠です。
サービスのためにも、ダイバーシティ組織を継続させるためにも、お互いに許容し合い、サポートし合うチームでなければなりません。
西澤さん:ありがとうございます。数多くの質問がきているので、どんどん回答を進めていければと思います。
Q:コロナ前後で、「企業がママ採用に前向きになった」という回答が多かったというお話がありましたが、その理由はありますか?
北吉さん:コロナ禍で、企業が在宅勤務に強制的に取り組んだ結果、「意外とできるじゃん!」と気付いたことがママ採用を後押ししていると考えています。
通勤時間に1日2時間かけてながら時短勤務していた人が、在宅勤務であればフルタイムで働けるかもしれないと、気付きを得たことは大きいでしょう。
Q:保育園の0歳児の枠に落ちてしまい、現在育休を延長しております。来年の4月だと1歳児枠になるのでさらに倍率が高く、このまま保育園に預けられない可能性があり、同じ状況の社員さんがもしいらっしゃれば、どういった対応をされているかお伺いしたいです。
山田さん:地域によっては、待機児童の問題は非常に切実ですよね。
正社員で会社に戻ることが保活の点数と直結するので、ISパートナーズはあえて正社員での雇用にこだわっていました。
やる気があるにもかかわらず、環境が整わなくて困っている方がいるのであれば、可能な限り会社としてバックアップしたいと思っています。
正社員のサポートをしても保育園に落ちてしまった場合は、小規模保育やシッター助成の制度を一緒に探していきます。
私自身も0歳児ですぐに保育園に入れられず、プライベートな育児施設に預けて仕事に復帰した経験があります。
できることをやった結果、加点対象となり保育園に入れることになりましたが、これは狙ってやったわけではありません。
今自分が、最大限できることを探して動き、何とか保育園に入りやすい環境を自分でつくっていく。トライアンドエラーしながら、バランスのとれる選択肢を見つけていくしかないのかなと思っています。
西澤さん:ネオキャリアでも、保育園に預けられず復帰ができない方が10名ほどいます。
会社としては、無認可には補助が出せるよう環境を整えながら、保活のフォローをしています。保育園は、国全体での課題ですよね。
Q:妊活中の方とかへの配慮や接し方について何か取り組んでいることはありますか?
北吉さん:妊活サポートについてはまだ、具体的に動けていません。ですが、私たちの運営しているママリに妊活中のユーザーさんが増えてきているのは事実です。
社会全体を見てみると、子どもが欲しくてもできない方の声は増えてきていると思います。
会社側としてできることを模索しているものの、センシティブなテーマですので、丁寧に進めていきたいと考えています。
Q:ママに限らずですが、在宅やオンライン会議が増えて、仕事の場面とそれ以外の場面がクロスすることが非常に増えたのではと思います。そうした時間の意識付けで工夫されていることや、線引きとして会社から示していることはありますか?
北吉さん:会社として取り組んだこととしては、時間の制約を可能な限りなくしたことです。昼間にお子さんを放置しながら仕事をすることは心苦しいじゃないですか。
ですので、そこまで堅い打ち合わせではない場合、お互いコミュニケーションの一環としてお子さんも顔出しできるような雰囲気があります。
山田さん:オンライン飲み会にあえてお子さんと一緒に参加してもらうとか、コミュニケーションの取り方は意識しています。
業務だけでつながるのではなく、業務半分・家庭半分でうまく自己開示して、お互いを思いやれるネットワーキングを会社で作っていけたらなと模索しています。
Q:子どもが自宅にいる状況での在宅勤務と、いない状況での在宅勤務では、どうしても仕事の質が変わってしまいます。仕事のすみ分け方、業務時間の捉え方について心掛けていることはありますか?
北吉さん:2月末に、突然休校となってしまったときは、まず社員に心理的安全性を感じてもらうためにアクションを起こしました。
具体的には、「家にいたら仕事ができないかもしれない…」という、皆さんの不安を取り除くために、「弊社ではきちんと保障をしますよ」と伝えたんです。
仕事の質に関しては、働きたいけど働けない方に対して「環境を整えるためのサポートはしますよ」と示していきました。
今後リモート勤務が普通になっていったときに、「出社したい」「みんなと会いたい」という今までとは逆の意見も出てくるでしょう。この意見はママに限ったことではありません。
オンラインとオフラインをどう使い分けていくのか、業務の生産性を上げていくためにどのような勤務スタイルがいいのか、会社として考えていかなくてはと思っています。
「子育て×在宅勤務」はあるべき姿ではない。個人単位ではなく社会で全体で取り組んでいきたい課題
山田さん:コロナは本当に大変でしたよね。日本の住環境がリモートワークに適していないということも明らかになったと思っています。
本来は、育児をしながら在宅ワークをすることは、やるべきではないと思っています。
もちろん、在宅勤務中の子育てはまったく不可能ではありませんが、「子どもが見れるから在宅ワークにしてください」「在宅ワークだから子どもを見てください」と設定することは、本来は正しくないと考えています。
子育て×在宅勤務は、どうしても大きな負荷を抱えながら働くことになります。無理に睡眠時間を削り、時間を融通して極限状態で働くということにもなりかねません。
子育て×在宅勤務は、あくまでも非常事態であり、これが恒久的に続いてはいけないと思います。
一方で、この非常事態があったからこそ、日本全体がリモートをうまく活用できるようにしなくては、という課題も明らかになりました。
子どもの教育ひとつとっても、オンラインで完結できるものではありません。
今回のコロナ禍を機に、さまざまな働き方、子どもの就学・学習の仕方について、企業が本気になって取り組まなければなりません。
そこには、テクノロジーの力が必要不可欠であり、働く側個人の意欲だけでは、決して解決できないものだと思います。
解決するまでに時間を要するテーマですが、今回のコロナウイルスを良いきっかけと捉えています。今後も諦めずに社会を巻き込み、会社全体でこの課題に取り組んでいきたいと思っています。