新型コロナウイルスの影響により、採用市場では有効求人倍率が急激に下がり、買い手市場へと大きな変化が起こりました。
多くの企業ではリモートワークの導入が進み、対面だった採用面接はやむを得ずWeb面接への移行が余儀なくされています。
日本の過渡期に、今人事が実践すべき戦略とは?採用という視点から、去る7月8日に開催されたセミナーの中でHRのプロフェッショナル3名が徹底討論。その様子をお伝えします。
本セミナーでは、
- コロナ禍の採用活動
- Web面接
- リモートでのオンボーディング
これら3つのテーマでパネルディスカッションがおこなわれました。
【登壇者紹介】石倉 秀明 | 株式会社キャスター取締役COO 兼 株式会社bosyu 代表取締役
【登壇者紹介】曽和 利光 | 株式会社人材研究所 代表取締役社長
【登壇者紹介】熊谷 豪 | シングラー株式会社 代表取締役
【登壇者紹介】藤野 貴教 | 株式会社働きごこち研究所 代表取締役 ワークスタイルクリエイター
【採用活動】今こそ企業は採用体制の強化・改善を
藤野さん:コロナの影響で、企業の採用面接はWeb面接が基本となってきていますが、そのポイントや留意点について教えてください。
石倉さん:有効求人倍率は先日出ていたものだと1.2倍くらいなので、下がってはきています。
とは言っても、大手の5,000名以上の会社の有効求人倍率が厳しくなっていることはおそらくなくて、ずっと買い手市場のままでしょう。
逆に、300名ぐらいの会社が1.2倍まで落ちているかと言うとそんなことはなくて、おそらく4倍とか5倍とか、多少よくなったという程度だと思います。
求人数が減っていて転職する人が今までと変わらなければ、単純に応募は増えますよね。しかし「若者の人口減少」という構造は変わっていない。
そう考えると、多少の有効求人倍率が下がったとしても、本質的な採用の難易度はあんまり変わっていないはずなんです。
応募が多少なりとも増えている今こそ、本質的にどうしたら会社に人が来てもらえるようになるのか、採用活動はしなくても常に人が集まってくる会社をどう作るか、ということに時間とパワーを割かないと、あとで同じことの繰り返しになる気がしています。
根本的な課題が解決しないままなので、売り手市場にまた戻ったときに「結局また採れないじゃん」って。
曽和さん:業界や規模によって違いがあるというのも事実ですが、そうは言っても応募者は増えると思います。
実際に、弊社でも採用のアウトソーシングやコンサルティングをしているなかで、中途採用で人数を集めること自体は徐々に課題ではなくなってきていると感じています。
このように人が集まったら、次に何が課題になってくるかと言うと、今度は適切に選考しなきゃいけないわけです。
例えば、買い手市場になると応募者が増えるのでピープルアナリティクスのデータがようやく取れるようになります。
データが集まってくると、「自社にはどんな人が来るのか」「うちの面接官はどういう人を落として、どういう人を選考に進めているのか」「入社後ハイパフォーマーになった人って、採用時のデータはどうだったんだろ」ということがわかってくるので、選考をブラッシュアップするためのチャンスなんじゃないかなと思います。
石倉さんがおっしゃる通り、少子化は決定ですからね。昨年生まれた人は20年後ぐらいに就職するので20年ぐらいは少子化確定です。
この2~3年「応募数が増えたんで、しばらくは楽できるな」と言って楽するのではなく、今こそ採用にきちんと取り組み、データをきちんと取って、その後必ずまたやってくる困難な時代に備えるような活動をしないともったいないんじゃないかなと思いますね。
熊谷さん:確かに、僕リーマンショックのときに人事真っ只中だったんですけど、そのときも有効求人倍率がガクンと下がって、今よりもひどいことがたくさん起きていたんですね。
当時、仕組みをつくれる人を採りたいなと思っていたんですが、仕組みをつくれるような優秀な人たちを採ろうとすると、そういう人材は他の会社も欲しい。だから、結局そういう人たちを採用しようとすると、やっぱり倍率がそんなに変わらない。
曽和さん:優秀層はどこも必要だと思うんですよね。例えば、コロナショック後だとオンラインにしなきゃいけないだとかの仕組みづくり、それのニーズは絶対にありますよね。
藤野さん:エンジニアとかは、求人が全然減っていないというか。あんまり変わらないみたいですよね。
石倉さん:あんまり変わらないですし、マネージャークラスとか幹部候補みたいな、本当に強くてスキルが高い人材は、むしろ何も変わらない。
熊谷さん:あと、応募数が増えるっていいことなんですけど、本当にその応募数がいるのかを考えることも大事だなと思っています。
たくさん人が集まっても、その分不採用のためのコストと時間をたくさん使っているってことだから、マーケティングが上手くいっていないんです。
だからこそ、いかに本当に採りたい人に振り向いてもらう会社になるかとか、採用活動ができるかが大事なんです。
【面接】Webか対面かは関係ナシ。うまくいくかは『面接官』次第
藤野さん:コロナの影響で、企業の採用面接はWeb面接が基本となってきていますが、そのポイントや留意点について教えてください。
熊谷さん:特に最近感じるのが、Web面接が広がってきたことによって、人事以上に面接官への負荷が非常に高くなっていることです。人事がいかに面接官をケアできるのかが重要だなと。
例えばあるお客さんだと、面接前に人事の方と面接官の方が必ず15分~30分作戦会議をしてから面接に行くそうなんですが、そういった会社って、人事と面接官のコミュニケーションが密に取れているので、Web面接に切り替わってもスムーズにスライドしていくことができます。
一方で、人事と面接官の方のコミュニケーションがほぼなくて、人事はオペレーターのように日程調整をして面接官に任せっぱなしの企業もあります。
任せられた面接官は「何を聞けばいいの?」となるし、オンラインになると余計わからなくなってちゃんとした面接ができなくなる。
きちんとコミュニケーションをとる会社とそうでない会社との差が出てきているなと感じます。
藤野さん:オンライン面接の中で、その雰囲気や第一印象って見抜けるものなんでしょうか?
曽和さん:オンラインだと雰囲気とか感情的なものが伝わりにくいというのは事実なんですよね。ところが、入社後のパフォーマンスまで比べていくと、オンラインで面接したほうが妥当性が高かったりします。
というのも、雰囲気がわかるほうが心理的バイアス、つまり偏見とか先入観を促進しちゃうんです。
一方で、Web面接ではそういうものがなくなって、情報やデータや事実から評価できるようになるので、意外に精度は高いんです。
さらに、アトラクトがやっぱり問題で、どれだけ候補者がいい人だとしても入社してくれなきゃ仕方がない。
面接官に対する親近感とか企業に対しての好感度は、オンラインだと減っちゃうんですよね。だからここは手当てしていかないといけない問題です。
例えば、話のしづらさ。単純な会話でも「あ、どうぞどうぞ」とアイコンタクトをとりながら譲り合うのを話者交換って言うんですけど、それがオンラインだと絶対に目が合わないからできない。
人は話しづらいと、相手が嫌になります。そしてその原因を相手がおかしいからだとか、僕に対して興味ないからだと思ったりします。
とはいえ、オンライン面接の慣れについての研究がされていて、オンラインを何回もやっていくと、普通にリアルに近づいていくみたいな。まだまだ研究中ですが、結局差がなくなっていくという結果が出てきていたりもします。
石倉さん:うちは基本オンライン面接だけなんですが、オフラインの面接とオンラインの面接でその後の活躍度とか見極めの精度、退職率は何も変わらないです。
オンラインかオフラインかよりも、面接官が誰かのほうが影響力が圧倒的に大きい。
面接官の役割って見極めとアトラクトがあると思うんですけど、見極めができてアトラクトできない人もいるし、その反対もいるし、どっちもできる人もいる。
得意不得意があってもみんな「面接官」って呼ばれていて、なんとなく役職順に順番で面接するというパターンってすごく多いんですよね。
例えばうちの会社だと、たぶん1番アトラクトが強いのは僕なんです。なので全候補者に僕が会っています、1番最初に。
そして、僕は基本的にはいっさい見極めません。だから面接官が必ずしもアトラクトやらなくてもいいんですよ。
アトラクターとかインパクターと呼ばれていたりもするんですけど、アトラクトする人と、見極める人、フォローする人、全部役割があって、チームで選考が設計されている。
強い会社は昔から当たり前のようにやっています。でも実はそれをやっている会社ってほとんどないんですよね。
あとはオンラインのいいところって、今職場がオンライン化しているじゃないですか。リモートになって簡単に言うと職場見学めちゃくちゃしてもらいやすいんですよ。
キャスターはチャットルームがオフィスなので、その中で業務の会話がおこなわれている。
候補者さんとNDAを結んだうえで、いいなと思う候補者さんにはSlackに入ってもらっちゃったりするんですね。 そうすれば会社の雰囲気が見られるし、会議も良かったら参加してくださいって言っちゃっているんです。
こうすることで、お互い齟齬がなくなります。この職場見学はオンラインだからこそできるやり方です。
Q:面接に面接官として同席させざるを得ない重鎮の方などはどのように対応したらよいでしょうか?(リスナーからの質問)
曽和さん:重鎮を入れざるを得ないんだったら、入れるしかないと思いますが、もう1人インタビュアーとして、「情報収集は私がやりますから」といってちゃんとスキルがある人を入れる。あとはアトラクターを同席させる。
熊谷さん:重鎮の方を下の人が動かすのってめちゃくちゃ難易度が高いんですよね。でも、第三者が言うと意外に重鎮の方って話を聞いてくれたりするんです。
例えば「HRアナリスト(シングラー株式会社が開発する人材分析サービス)のデータでこういうデータが出ているんで、こういうふうに面接で対応してください」といった感じで第三者としてのデータを見せたり。
曽和さんもその仕事やられていると思うんですけど、第三者が「こういう面接してください」って言うことで動いて貰いやすくなります。
その重鎮の方1人がボトルネックになって、採用のパフォーマンスが落ちるパターンってけっこうある。みんなが頑張ってきたのに、みたいな。ここは何かしらの解決策をとるべきかなと思います。
【オンボーディング】オフィスのオンライン化で、社内はよりクリアになる
藤野さん:今後リモートワークがスタンダードになっていく中で、どのようなオンボーディングが必要でしょうか。
曽和さん:オンボーディングってもともと、リアルでもけっこうできていないんですよね。特に今年なんて、新卒で入社してまだ出社していないという新人さんっていっぱいいますよね。
今までは、入社後に学生気分から抜けてもらうための意識変革や行動変革みたいなものを、まずは最初にやっていたと思います。
あとは飲みに連れて行ったりして信頼を築こうとしていたことを、オンラインでどうやってやりましょうかと。
石倉さん:オンラインとかリモートで働くと1番デメリットだなと僕が思っているのは、例えばAさんがいたとして、Aさんがどういう状況かわからないんですよ。
なぜなら姿が見えないから。要はめちゃくちゃ忙しいかもしれないし、何かわからなくて困り果てているかもしれないしっていうのがわからないんですよね。
これをどう防ぐかというと「今ちょっとヤバいんで助けてもらっていいですか」とか「わからないんで教えてください」って本人が言うしかない。でもこれって普通に考えると言いにくいんですよね。
大事なのは、なんでも言っていい空気をどれだけ作れているかなんですよね。会社がやるべきは、もうシンプルにそこに尽きるなと思っていて。
石倉さん:オフィスで働いていたときには、コミュニケーションが3種類ありました。
①仕事の指揮命令や報告の話
②ちょっとした相談や壁打ち、アイディアのブレストみたいな話
③雑談、プライベートな話
これらが、オフィス空間の中では自然とおこなわれています。
ですが、リモートになるとみんな①の話しかしないんです。
②と③も全部含めてコミュニケーションと人間関係つくっていたのに、②と③なくしちゃうんですよね。だから意図的にこれらを増やさないといけないんです。
雑談もしたことない、話したこともない人にいきなり業務の相談ってハードルが高い。なので、オフィスの中で行われていた会話をオンラインでもちゃんとすることが必要です。
熊谷さん:③のような偶発的なコミュニケーションを演出するための工夫みたいなのってどんなことをしていますか?
石倉さん:オフィスって偶発的に起きているように感じるじゃないですか。でも偶発的に起きるようにオフィスを設計した人がいるんです。
だから、オンラインでは誰かが偶発的なコミュニケーションが起きるように設計してあげる必要があるんです。
チャットの中をオフィスと同じように設計するって考えたときに、僕らは普通に雑談用のチャンネルも作るし、個人ごとに例えば自分がただつぶやきたいことをつぶやくだけの部屋があって、それにみんなが乗っかって議論したりしています。
曽和さん:オンライン上でオフィスを作り直せばいいっていうだけ。 それがさっきおっしゃっていた何言ってもいい雰囲気づくりの具体的な方法なんですね。
熊谷さん:一方で、僕はそういう設計をきちんとやらないといけないなと思いつつも、神経質になりすぎている場合も多いなと感じています。
例えば、うちもリモートワークなんですけど、サテライトオフィスもあって。
社風として選択をベースにすると決めているんで、リモートでもオフィスでも、パフォーマンスが出る環境を社員自身で選択するようにしています。
それでもやっぱりリモートを選択する社員が多いので、リモートが基本になっています。
とはいえ、やっぱりある1人のメンバーが入社してすぐ、「やっぱりみんなでオフィスに集まる時間を作りたい。じゃないとちょっと不安です。」という話があったんですが、そのあとコロナが来て、どうしようもなくなった。
すると、いつのまにかその不安は消えたようなんですね。
結局、その環境が当たり前になってしまえば、あんまり神経質に考え過ぎるのも良くないのかなということがありました。
石倉さん:まさにそうで、オフィスが渋谷から丸の内に移転したらパフォーマンスが変わりますか?って言ったら変わらないじゃないですか。
もともとの人間関係とかその人の実力値の問題だったりするのは変わらないから、本質的な問題は場所じゃないんですよ。
もとから話しかけづらい上司は、オンラインだろうがオフラインだろうが話しかけづらい。その問題をどう解消するかのほうが大事なんです。
曽和さん:日常的なものはそうかなと思う反面、新人に対する教育とか育成みたいなところだと、オンラインではやや工夫しないと厳しい気もするんですけど、どうしてますか?
石倉さん:リモートだから起きている問題というのはほとんどないと思っています。
ただ、例えば新卒を育てるときに、教育担当をつけるじゃないですか。教育担当ってできる人がやるから忙しい。
気づいたら新卒がぽかんと席に座っていますみたいなことよくあるんですよね。
ただ、オンラインって、その人が何していたとか、どういう会話していたかがチャットに全部残っている。
何を話していたのかとか、何をしていたとかわかるから、どこで躓いているかわかりやすいんですよ。
なので、新卒かどうかとか、スキルが高いか低いかじゃなくて、コミュニケーションがオープン化されているかどうかのほうが重要です。
曽和さん:ロールモデルとかメンターっていうのが近くにいないと、見様見真似とか、技を盗むことができなくなると言われがちですが、そういう課題って実はオンラインのほうが業務が可視化されるので解決しやすくなりますね。