組織強化や欠員補充など、組織のニーズを重視して人事異動はおこなわれます。
それに加えて実施されるのがジョブローテーション。ジョブローテーションは、は社員の育成が重視されています。
効果的なジョブローテーションを実施するには、通常の異動との違いやメリット・デメリットを理解することが重要です。
そして、終身雇用を前提に日本で浸透してきたジョブローテーションですが、時代の変化とともにそのあり方も見直しされています。
本記事では、自社にあったジョブローテーションの意味やメリット・デメリット、また具体的な事例をご紹介します。
1| ジョブローテーションとは
ジョブローテーションとは、企業が社員の育成を目的として、一定の期間職務や職種を異動させ経験やスキルを身につけさせる制度です。
組織強化の異動の場合、即戦力を求めているため同じ職種や経験者を異動させます。
一方で、社員の育成を重視するジョブローテーションは職種チェンジや業務内容の変更をともない、社員に新たな付加価値と成長の機会を与える異動をおこないます。
実施には、育成の目的を決め、目的を達成できる部門部署の選定や期間を検討し、計画的におこなわれます。
たとえば、新卒新入社員の早期育成や本配属のための適性を見極めるジョブローテーションがあります。会社は本配属前に新卒新入社員にさまざまな業務を与えることで本人の適性を見極めることができます。
実際に、製造会社において、製造部門へ配属された社員を一定期間営業職に就かせて顧客ニーズに触れさせ、専門的なスキルを身に着けさせるといった例があります。
また、中長期的な目的のために実施されるジョブローテーションに、ジェネラリスト育成や次世代幹部候補育成があります。
期間は3年から5年、さらにそれを数回繰り返しおこなうこともあります。経営陣は社内のさまざまな業務を熟知し全社のリソースを活用しなければなりません。
将来に備えた次世代の経営幹部の育成で実施されるジョブローテーションは、計画的にさまざまな部署を経験させることで知識を広め俯瞰的な視野を与えることができます。
このように、ジョブローテーションには必要な経験やスキルを身につけてもらう目的があります。
さらに、一定期間ジョブローテーションをおこなった後に元の本務業務に戻るケースと、キャリアプランに沿って最終的な目標を目指すケースがあります。
1-1|ジョブローテーションと社内公募制度の違い
ジョブローテーションと似た概念として、社内公募制度というワードが用いられることもあります。しかし、両者の意味は厳密には異なっています。
社内公募制度とは、配置転換を希望する従業員を社内で公募するという制度のことです。キャリア開発支援の一環として行われる社内公募制度には、従業員のキャリア形成という大きな目的があります。
社内公募制度は、従業員が特定の業務を希望する形で行われます。一方でジョブローテーションでは、従業員の希望をもとに配置を決めることはありません。個々の従業員のキャリアやスキルを踏まえて適切な人材を選んで配置するという手法はジョブローテーションならではです。
2|ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションには、人材育成という大きな目的があります。とくに、新入社員が入社後にジョブローテーションを体験するケースは多いものです。
さまざまな部署での実務を体験することで、新入社員は会社の全体像を把握できるようになります。本人の適性を見極めて適材適所への人材配置を行うことも、ジョブローテーションの目的のひとつです。
ジョブローテーションには、属人化を防ぐという観点もあります。属人化が顕著な企業では、特定の従業員の退職によって業務が回らなくなるリスクがあります。また、担当する従業員に大きな負担がかかることも大きな問題です。ジョブローテーションで従業員にさまざまな業務を体験してもらうことは、結果として属人化の防止にもつながります。
3|ジョブローテーションのメリット/デメリット
本章では、より具体的なジョブローテーションのメリットとデメリットを解説します。
3‐1|メリット
ジョブローテーションのメリットは、会社と社員の双方にとってメリットがあります。
まず、会社は社員にさまざまな職務を経験させることによって、社員の適性を見極め適材適所の社内人事をおこなうことができます。社員の適性と業務のミスマッチを低減させることで早期離職防止にもつながるのです。
また、受け入れる組織は別の視点をもった社員を迎えることで組織の活性化が図ることが可能です。営業部門が製造部門の社員を受け入れることで、回りの社員の製品知識が向上し顧客サービスの向上が図ることができます。
そして、部署内外でさまざま職種・業務を経験させるジョブローテーションは、マルチスキル社員の育成につながります。これは繁忙期の仕事の平準化や突然の社員の退職などの業務上のリスクに対応することができます。
新卒新入社員にとっては、さまざまな業務に就くことで自身の適性を振り返るだけでなく新たな自身の可能性を発見する機会となります。
これまで一つの専門性だけを高めてきた社員も、持っている専門性に複数の付加価値を付け加えることでさらにその幅を広めたりすることができます。
さらに新たな学びの機会を得ることで、マンネリを防ぎモチベーションの向上につながります。
現場拠点と本社本部間のジョブローテーションは、それぞれ全体最適の視点で今後の業務を進めることができます。
3‐2|デメリット
ジョブローテーションのデメリットとして、異動される側の人材流出があげられます。
また、受け入れる側部署も新しい業務の指導や引き継ぎに時間と工数をとられてしまい、一時的に生産性の低下を招きます。
そして、人事側は本人のキャリアプランの作成やその後の管理、さらに部署間の調整や送出側の人員の補充など労力と工数がかかります。
さらに転居をともなう場合は、コスト増や社員の家族への負担などが発生します。
社員にとっては、育成を目的に実施しているジョブローテーションが逆に本人のモチベーションの低下を招くことがあります。
これから一つの専門性を追求したいと考える社員にとっては、ジョブローテーションを繰り返していると回り道をしていると感じることもあるようです。
すでに高い専門性を持った社員にとっては、持っている専門性を活かせずモチベーションの低下につながりかねません。
職種別や事業会社別の賃金制度を導入している企業は、ジョブローテーション中の賃金や休日数、福利厚生などには事前の検討が必要です。
人材育成を目的に実施するジョブローテーションは、本人の不利益やモチベーション低下は避けるべきでしょう。
4|ジョブローテーションの注意点
本章では、実際に、ジョブローテーションをする際に注意するべき点をご紹介します。
4‐1|ジョブローテーションに「向いている企業」と「向いていない企業」
ジョブローテーションに向いているのは、どのような企業でしょうか。
たとえば、研究開発部門と製造部門、営業部門とさまざまな部門がバリューチェーンでつながっている企業は向いている企業があげられます。
製造部門の社員が営業部門で顧客ニーズに直に接することで開発や品質改善に役立てることができるためです。
また、拠点を全国に配置する一方で経営企画や経営企画や人事・経理・購買などの管理部門を本社本部に集約しているような企業も向いています。
本社の社員が現場を知ることで現場目線を身につけることができ、現場の社員の本社にくることで俯瞰的な目線を得ることができます。
一方で、ジョブローテーションに向いていない企業もあります。
職務・職種も専門性が高く、仕事を習得するには時間と労力がかかる企業は向いていないでしょう。開発に特化している企業や保守に専念している企業があたります。
また、小規模で一人でいくつもの業務を兼任している企業はジョブローテーションをおこなう必要性が高くありません。
4‐2|社員のキャリアを考慮する
企業が成長し続けていくためには、人材を育成し、その人材が能力を発揮できる組織づくりが必要です。
企業は、ジョブローテーションを通じて社員のキャリア形成を考慮しましょう。
一方で、個人においては価値観や指向の多様化により、ゼネラリストを目指して一企業で頑張りたいという社員もいれば、専門性を高めることを求め転職もいとわない社員もいます。
会社が考える社員のキャリア形成と、個人が目指すキャリア形成をマッチさせつつ、ジョブローテーションを実施することが重要です。
ジョブローテーションを成功させるためには、会社側と社員個人とがキャリアプランについてすり合わせすることが必要です。
さらに、そのキャリアプランを定期的にチェックし見直すことで、個人の生活環境や指向の変化を反映させることが重要です。この場合は直属の上司だけでなく人事部門も参加します。
最後に、ジョブローテーションには部門部署の協力が欠かせません。
社員のキャリアを形成するために上司、人事部門、異動先の部門部署が一丸となって取り組むことで、結果としてジョブローテーションは社員の自律的なキャリア形成を支援する制度として機能することができるのです。
5|ジョブローテーションの成功事例
ジョブローテーションは日本で進化した独自の仕組みです。
独立行政法人労働制作研究・研修機構が2017年に全国の300人以上の企業10,000社を調査した結果によると、ジョブローテーションについて「ある」とする企業が53.1%と過半数を超えています。
しかし、海外ではこの仕組みはありません。日本では終身雇用を前提に総合職という採用形態を導入しています。
総合職採用は、戦後日本が発展する過程で雇用の安定をはかるために必要な仕組みでした。海外では専門職採用が中心で専門性を高めることが自身の雇用を守ることにつながります。
日本では終身雇用が崩壊し、より専門性を重視した採用やキャリア形成がとられるように変化しています。ひいてはジョブローテーションのありかたも変化を迫られています。
本章では、ジョブローテーションを成功させている企業を2社紹介します。
5‐1|ジョブローテーションの成功事例1
ジョブローテーションで会社も個人も成長し、さらにブランドに昇華させた企業として三井ホーム株式会社(以下、三井ホーム)があります。
三井ホームは、三井不動産グループの中核を担い、木造住宅建築では最大級のデベロッパーです。
建設業のバリューチェーンは、
- 企画
- 営業活動
- 設計
- 見積
- 受注
- 資材購買
- 施工
- 引渡し
- 保守
という流れになり複数の部門が関連しつながっています。
新卒募集要項にはジョブローテーションがあることを記載し、その目的も明記しています。
総合職では、さまざまな知識・経験を積み上げ、将来の幹部候補を育てる目的でおこなうこと。総合職(技術)では、将来の幹部候補・スペシャリストを育てると明記されています。入社前からジョブローテーションを人材育成の重要な施策と宣言しています。
能力開発援助制度を運用しています。ホームページには、社員に対し自律的な研鑽・自己成長を求める一方で、「人材を育成する」という人事理念の下、人事グループは社員一人ひとりのキャリア形成を支援すると謳っています。
事例として、工事を担当していた入社8年目の社員が営業職に異動しました。
採用サイトには、「1級建築施工管理技士の資格を取得したばかりでさらに難度の高い物件にチャレンジしようとしていた最中だったが、その後、工事現場の知識を活かしお客様に喜んでいただいたことや最終的には営業経験という付加価値をもった専門職として活躍できた」とコメントされています。
5‐2|ジョブローテーションの成功事例2
ジョブローテーション常時おこなわれる企業が、タマノイ酢株式会社(以下、タマノイ酢)です。
タマノイ酢は醸造酢や粉末酢、レトルト食品、健康飲料を製造・販売する企業です。
タマノイ酢では、頻繁にジョブローテーションがおこなわれています。その期間は、短い期間で3カ月から平均1年1部署でおこなわれています。
さらに、一部の社員で実施されるのではなく総合職全員がそのスピードでローテーションをしています。
一般的な企業では、総合職として入社し配属された部署で専門性を高めていくでしょう。そのうえで選抜的にジョブローテーションがおこなわれます。
しかし、タマノイ酢では総合職全員を「さまざまな仕事を経験し幅広い視野感覚を持ちチームをマネジメントするリーダー」と定義し、そういう人材を育てるために頻繁にジョブローテーションを実施しています。
タマノイ酢が育てるのはマネージャー型人材です。マネージャー型人材とは、さまざまな専門性を広く持ち合わせ、専門職をマネジメントできる人材を言います。
タマノイ酢は、総合職全員をマネージャーへと育てるために、積極的に配置転換をおこなっている企業です。社員にとっては、常に成長の機会を得られることで成長することが当たり前となっています。
6 |まとめ
ジョブローテーションは、人材育成の目的からその社員のキャリア形成を促します。
実施にあたっては自社の事業特性を検討し、メリット・デメリットを十分に検討しましょう。
ジョブローテーションは、受け入れる部署を始めとして多くの部署を巻き込み、連携する必要があります。
ジョブローテーションを成功させるためには、企業トップ自らがジョブローテーションの目的と有効性を社内外に宣言するといいでしょう。
公表することにより、ジョブローテーションが全社に浸透し全社一体となって人材育成に取り組むことができます。
終身雇用制度が廃止されている中でこそ、社員に成長の機会を与え続けられる企業文化の醸成が必要なのではないでしょうか。