2020年1月に、株式会社リクルートによる「2020年のトレンド予測」の発表がありました。
イベントでは、「飲食領域」「雇用領域(アルバイト)」「雇用領域(シニア)」「住まい領域」「雇用領域(派遣)」「自動車領域」「進学領域」と、リクルートが事業を展開する7つの領域における今年の展望が発表されました。
本記事では、7つの領域の中でも「雇用」と働き方にも関連する4つの領域の発表内容をまとめてご紹介します。
目次
雇用領域(アルバイト):多国籍人材が分け隔てなく活躍「アルダイバー」
柳谷元樹 | 『タウンワーク』編集長
2002年に株式会社リクルートに入社以降、一貫して人材業界に従事。現在、株式会社リクルートジョブズにて『タウンワーク』『フロム・エーナビ』『はたらいく』『とらばーゆ』『リクナビ派遣』の商品企画部長、並びに『タウンワーク』『フロム・エーナビ』編集長を担当。
柳谷さん:2020年のアルバイト領域のトレンドは、「アルダイバー」です。
近年、戦力として多国籍人材が積極的に活躍している企業が増えています。
そこでリクルートは、多国籍人材が活躍できる企業と多国籍人材のアルバイトの双方が増えている現象を、「アルダイバ―」と名付けました。
実際に、多国籍人材の採用・育成に投資をして、アルバイトのエンゲージメントを向上させると、お客様に提供する価値も高まると気づいた企業が増加しています。
今回は、多国籍人材が活躍している企業の取り組みの事例をご紹介します。
ミキハウス
柳谷さん:株式会社ミキハウスは、「クロスカルチャーコーディネーター」という若手の専門職を設置し、外国籍人材の方との異文化のギャップを埋める取り組みを実施しています。
クロスカルチャーコーディネーターは、現場で配属された外国籍の人と日本籍の人とのカルチャーギャップを双方向で理解させるための役割を担います。
彼らは現場を回り、組織がうまく回る事をサポートしているそうです。
株式会社物語コーポレーション
柳谷さん:愛知県で焼き肉チェーン店を展開する株式会社物語コーポレーションは、入社前に丁寧なビジネスマナー等のホール担当研修をおこなっています。
外国人の方にとっては、マナーや文化について知らないことだらけの日本でどうすればよいか知ることができるため、「定着」につながっているそうです。
リッチモンドホテルプレミア浅草内 プレミアラウンジ
柳谷さん:東京・浅草にあるホテル「リッチモンドホテルプレミア浅草」の中にあるプレミアラウンジでは、ワーキングホリデービザで来日した外国人の短期採用をおこなっています。
日本にワーキングホリデーのビザを持つスタッフに絞り、1年で現場スタッフが入れ替わることを前提しています。
その上で現場マニュアルを細かく作り込み、初めてでもすぐオペレーションできるようになる工夫をしています。短期間の勤務でもマニュアルの内容を工夫することで、多国籍の方が働きやすい環境を整えています。
柳谷さん:日本におけるこれからの労働環境は、国籍問わず多様な方に活躍してもらうことが、重要な課題と考えております。
多国籍の方には、明確な目標を持っていたり、スキルを持っていらっしゃる方が多いため、そこに対し企業として、適切なサポートをおこなえば、先述した「アルダイバー」という流れが広がっていくと考えております。
雇用領域(シニア):人生100年時代の「健朗シニア」
宇佐川邦子 | ジョブズリサーチセンター センター長
リクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。2014年4月よりリクルートジョブズ ジョブズリサーチセンターのセンター長を務める。各々の業界の特色を踏まえ、求人・採用活動、人材育成・定着、さらに定着促進のための従業員満足のメカニズム等、「雇用に関する課題とその解決に向けた新たな取り組み」をテーマに講演・提言をおこなう。
宇佐川さん:2020年シニア領域においてのキーワードは「健朗シニア」です。
日本は、人口減少・少子高齢化によって25年後には65歳以上が3人に1人となることが予測されています。また同時に、60歳以上の労働者が4割増増加すると言われています。
そのため今後は、シニアスタッフが生き生きと活躍できる体制を整えることが企業に求められます。
宇佐川さん:しかし現状は、企業の7割が「シニア採用」に積極的ではありません。
企業がシニア採用に前向きでない1番の理由は、「健康状態、体力不安」です。加齢に伴う身体や能力の変化に対して、不安を感じる企業が多く存在するのです。
一方で、シニアの方の健康や体力の変化を受け止め、身体的なサポートを施すことでシニア採用に取り組む企業もございます。
アセットインベントリー株式会社
宇佐川さん:アセットインベントリー株式会社は、「エイジフレンドリーワークプレイス」というテーマを掲げ、シニアの方が働きながら健康になれるような仕事・職場づくりを推進しています。
具体的には、経営者が老年学を学んだうえで上司・管理職研修やマネジメントツールを作り、シニア専属のキャリアコンサルタントを育成しています。
また同社は、機材を軽量化したり、使いやすいツールを開発したりとシニア層が安全に働ける環境づくりに取り組んでいます。
株式会社スギ薬局
宇佐川さん:株式会社スギ薬局は、シニア層が安全に働けるよう「シニア活躍支援マニュアル」を作っています。
たとえば、「品出しコンテナは3段まで」といった細やかなルールや、本人の体調や思考に合わせて働く時間を好きに決められる仕組みを作っています。
また、食生活のアドバイスを栄養管理士がおこない、より安全で長く働き続けられるサポートをおこなっています。
株式会社マイヤ
宇佐川さん:岩手県でスーパーを展開する株式会社マイヤは、シニア層がいくつになっても安心・安全に働けるオーダーメイドの勤務・支援をおこなっています。
具体的には、本人だけでなく家族の変化に伴う働き方のニーズに対応するために、業務を分解して、15分単位の仕事を1か月、毎月契約更改で変更することも可能な仕組みを作ったそうです。
宇佐川さん:シニア採用に取り組む際には、「会社の仕組み」「人的サポート」「健康状態の見える化」の3点に注力することで、高齢者の方が安心して働くことができる環境を整えることができるでしょう。
人生100年時代を見据え、シニアの方々の健康や筋肉、能力の増進が、企業の継続発展につながるかと思います。
雇用領域(派遣):オフィス勤務と在宅ワークの組合せ「出勤オフ派遣」
平田朗子 | リクルートスタッフィング スマートワーク推進室
1985年リクルート入社。2004年リクルートスタッフィングに転籍し、首都圏における人材派遣の営業マネジャー、営業部長などを歴任し、2015年事務未経験を対象にした無期雇用派遣「キャリアウィンク」の事業責任者として立ち上げに携わる。その後、無期雇用派遣や障がい者雇用など多様な働き方を推進している「エンゲージメント推進部」部長を経て、従業員の働きやすさと働きがい向上を目指し、テレワーク促進等を手掛ける、スマートワーク推進室の室長に着任。
平田さん:派遣領域の2020年トレンドは「出勤オフ派遣」です。
「出勤オフ派遣」とは、派遣先での勤務と在宅ワークを組み合わせた働き方です。たとえば、週に3回オフィスで働き、週に2回在宅で働くといったケースがあげられます。
介護や育児、傷病などの制約を抱えていたり、副業と両立したいと考えていたりする派遣スタッフが、派遣先での勤務と在宅勤務を組み合わせて活躍をし始めているのです。
今「出勤オフ派遣」が注目される背景には、「深刻な人手不足」や「多様な働き手、働き方の増加」といった社会の変化があげられます。
また、国によって働き方改革が推進され、ITインフラの整備を促進したりテレワークを導入したりする企業が増えていることも関係しています。
しかし、派遣スタッフへのテレワーク導入が遅れているという現状もございます。
平田さん:一方で、派遣スタッフへアンケートを取ったところ、「週1~2回のテレワークができれば、モチベーションが向上する」「週1〜2回がテレワークであれば、通勤時間が長くなってもいい」とテレワークに対して好意的な意見を持つ方が多いことがわかりました。
実際に、介護・傷病・副業などを理由とした派遣スタッフからの要望を受けて、問い合わせを寄せる企業も増加しています。
こういった現状がある中で、すでに派遣スタッフへテレワークを導入している企業には共通点があります。その共通点が、出勤と在宅の組み合わせ「出勤オフ派遣」です。
平田さん:この「出勤オフ派遣」という働き方を実現するにはまず、「ITインフラの整備」は欠かせません。
「個人用のノートPCやスマートフォン」「セキュリティ管理されたネットワーク」といった、派遣スタッフが自宅で業務がおこなえる環境を整える必要があります。
そのうえで、在宅で就業する際の3つのルールを定めましょう。
1つ目は、「ひとりでできる仕事」の切り出しです。たとえば、資料作成やデータ入力といった仕事を切り出して、在宅でできる仕事を明確にしていきます。
2つ目は、「いつ在宅可能にするのか」「残業時間の上限を設けるか」といった、「在宅時の就業条件」を決めましょう。
3つ目は、「連絡方法」の決定です。「いつまでに在宅申請をするのか」「勤怠はいつするのか」「当日の報告・連絡・相談はどうするか」といったことについても事前に決めておきましょう。
「出勤オフ派遣」は、派遣スタッフにとって多様な働き方を実現できるなどのメリットもありますが、企業にとっても、働き手の確保や災害時のBCP対応などが可能になるなどのメリットがあります。
一方で企業にとっては、「出勤オフ派遣」という制度に魅力を感じた方からの応募が増加することが見込まれます。
実際に、介護や育児、傷病などの制約を抱えていたり、副業と両立したい派遣スタッフが、派遣先での勤務と在宅ワークを組み合わせることで活躍するといった事例もございます。
株式会社IPモーション
平田さん:株式会社IPモーションでは、「出勤オフ派遣」を導入したことで、介護と仕事を両立する派遣スタッフが活躍しています。
派遣先企業の担当者によると、「ITインフラの整備で在宅でも会社と変わりなく業務を推進できる。そして、在宅勤務を導入したことにより、離職が防止できることは企業にとって大きなメリット」とのことです。
また、就業中の派遣スタッフからは「オフィスではいろいろな情報が入ってきて、仕事にも役立つ新たな発見がある。親の介護で離職しようと思っていたところを、在宅勤務が可能になったおかげで仕事を辞めずに就業継続ができた。」といった声がありました。
株式会社Looop
平田さん:株式会社Looopでは、「出勤オフ派遣」を取り入れ、副業と仕事の両立している派遣スタッフが活躍しています。同社で就業する、ある派遣スタッフは1週間のうち2日オフィスに出勤し、1日は在宅勤務という働き方をとっています。
派遣先企業の担当者によると、「通常では採用できないスキルの高い人材が、在宅勤務導入で確保できた。また、在宅勤務をきっかけにチャットなどのツールを導入することで、社内のコミュニケーションスピードの向上が図られている。」とのことです。
そしてスタッフからは、「オフィスでは人とのつながりが感じられる。なおかつ在宅勤務では時間を確保できるため、副業と両立しやすく、心身ともに非常に充実している。」という声が上がっているそうです。
平田さん:2020年、「出勤オフ派遣」を取り入れる企業は増えるのではないでしょうか。
住まい領域:仕事と住まいの融合「職住融合」
池本洋一 | 『SUUMO』編集長
1995年リクルート入社。住宅領域にて編集、営業を経験。2007年に『住宅情報都心に住む』編集長、2008年に『住宅情報タウンズ』編集長を経て、2011年1月より現職。2018年7月よりスーモリサーチセンター所長も兼務。内閣官房 日本版CCRC構想有識者会議委員、経済産業省 ZEH(ゼロエネルギーハウス)ロードマップフォローアップ委員、国土交通省 良質住宅ストック形成のための市場環境整備促進事業 評価委員、環境省 賃貸住宅における省CO2促進モデル事業 評価委員などを歴任。
池本さん:住まい領域のトレンドは、「職住融合」です。
現在、国をあげてテレワークが推進される中で、オフィスだけでなくカフェや自宅、サテライトオフィス等、働く場所が多様化しています。
そして今後は、住まいの中にオフィスを設ける「家なかオフィス」や、住んでいる街の駅前のワーキングオフィスである「街なかオフィス」が活用されていくでしょう。
私達は、職場の位置に左右されず、本当に住みたい街に暮らしていく「街選びの自由化」が進んでいくと予測します。
実際に、住まいに仕事専用スペースをつくる動きも現れています。
池本さん:たとえば、リビングの一画に設置するガラス張りのワーキングスペースは、リビングの家族とのつながりを感じつつも、電話会議・テレビ会議等々に向いており人気です。
また、リビングの一画にロングデスクを設け、ダイニングテーブルとは別に専用のスペース化する事例や、玄関脇に来客用のワークスペースを設け、パブリックとプライベートを分離するといった事例もございます。
池本さん:そして、企業の企画にも変化が生まれています。
ワークスペースを設置した新築分譲マンションや、賃貸アパート、またシェアオフィス付きの賃貸住宅も登場しています。
こういった物件は、集中できる空間、オシャレなデザイン、鍵などのセキュリティ面などに工夫を施しており、家賃と物件価格に付加価値をつけ、地域の経済合理性も生み出しています。
池本さん:最後に、テレワーク活用をきっかけに、子育てや趣味を満喫するために都心から郊外に引っ越しをする動きもでてきています。そういった動きによって郊外の街づくりも変化しています。
千葉県流山市の『Trist』という施設では、テレワーカー向け教育プログラムや都内企業の採用説明会を開催しています。
テレワークを前提とした働き方で採用支援をおこなうことで、通勤時間で一度は仕事をあきらめた方々の再就職を実現しています。
また、通勤が困難な障害者の方に在宅ワークを勧めて、企業とマッチングさせるサービスも生まれています。
池本さん:テレワークによって、「暮らしの生活満足度」が大きく上昇する傾向も確認できます。
テレワークをきっかけに引っ越しや自宅を整備した人は、以前と比べ「通勤が減った」「ストレスが減った」「子供や家族との時間が増えた」などの結果が出ています。
「暮らし満足度」が上がり、ときには人生も変えてしまうような動きがあるということで、この「職住融合」を2020年以降、盛り上げていきたいと思っております。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
2020年の雇用と関連する領域におけるトレンドキーワードとしてとして「アルダイバー」「健朗シニア」「出勤オフ派遣」「職住融合」の4つが発表されました。
こういったキーワードが生まれた背景には、人手不足により多様な人材を採用することが企業に求められていたり、国が推進するテレワークを導入する企業が増えていたりといった状況があげられます。
今回リクルートが発表した4つのトレンドキーワードは、2020年に雇用領域においてどれほど浸透するか、編集部でもウォッチしていきます。