転職・就職のための社員クチコミサイト『OpenWork』。今回は、社員クチコミサイトが持つ影響力や重要性、活用方法についてご紹介。
OpenWorkによると、社員クチコミの評価スコアが2点台の企業と4点台の企業では、求人への応募率が約2.2倍も違うとのことでした。
それでは、社員クチコミは求職者にどのような影響があるのでしょうか。また、企業は社員クチコミをどのように活用したらいいのでしょうか。社員クチコミを取り巻く環境とその活用方法について、オープンワーク株式会社の恵川さんにお話を伺いました。
【人物紹介】恵川 理加 | オープンワーク株式会社 働きがい研究所 編集長
2005年大学卒業後、2006年博報堂に入社。営業として大手メーカーを担当し、広告戦略の企画・立案や商品開発などに携わる。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社にて役員秘書業務、台湾への語学留学を経て、家業の輸入業をサポート。海外との交渉や営業全般を担う。OpenWorkでは社員クチコミを活用したオウンドメディア「働きがい研究所」の編集長として、コンテンツの企画運営や、企業へのOpenWorkの活用方法などの提案をおこなう。
目次
1. 「見せ方が上手な企業が良い企業とは限らない」そんな想いで始まった”OpenWork”
ー社員クチコミサイトとしてお馴染みの「OpenWork」ですが、どのようなサービスかご紹介をお願いします。
恵川さん:OpenWorkは、企業に在籍している社員と退職された社員によるクチコミ情報をリサーチできるプラットフォームサービスです。
給与条件や残業時間、有休消化率などの待遇面、福利厚生面に関する情報や、風通しの良さや成長環境といった働きがいに関する8つの項目の評価点とコメントが企業ごとにまとまっていて、就活生や転職を検討している方によりリアルで有益な情報を提供しています。
2007年から開始したサービスですが、ユーザー数320万人、社員クチコミ数は840万件以上と開始から12年で大きく増加しており、国内最大規模の社員クチコミサイトとなっています。
ユーザー数がこれだけ増加した背景は、様々な場面において「クチコミ」を活用することがより一般的になったことが影響していると考えています。
今では、レストランを探すときは食べログに代表される飲食店クチコミサイトを参考にしたり、商品を購入する際はAmazonや楽天のようなECサイトでクチコミを見て商品を購入したりすることが自然におこなわれています。
何かを決断する際にクチコミを参考にするという行動様式が、就職や転職にも及んできたのだと思います。実際に人事担当者からは、社員クチコミを見てから応募した候補者と会う機会も増えている、という声を聞きます。
弊社で実施した調査から、社員クチコミによる評価スコアが上がるにつれて、求人への応募率が高まっていることがわかりました。スコアが4点台の企業は2点台の企業と比べて、約2.2倍も応募率が高かったのです。
それだけ、就職・転職活動の際に社員クチコミが参考にされているといえます。
ー私も就職活動をしていた頃にOpenWorkを参考にしていました。そんなOpenWorkですが、どのような想いで創設されたのか、その背景をお伺いしてもよろしいでしょうか?
恵川さん:OpenWork創業者の増井は、学生の時に通学の電車内で見かけるサラリーマンが活き活きとしていないことに疑問を感じ、新卒で大手人材企業に就職をしました。
そこで、就職や転職の際の情報が非対称的で、情報が企業から求職者へ一方通行的に伝えられている構造があることに気がつきます。
これまでの就職・転職活動では、企業がプロモーション要素を多く含んだ求人情報のみを手掛かりに、就職先を選択するしかありませんでした。
企業の実態を正しく伝える情報をキャッチすることが難しく、説明会や選考といった限られた接点の中でしか、企業のことを知ることができませんでした。
そこで、企業主語で発信される情報だけではなく、現在企業に在籍している社員や元社員によるリアルな情報を開示できれば、就職・転職市場の透明化に貢献できるのではないかと、OpenWorkを立ち上げました。
ーOpenWorkは国内最大規模の社員クチコミを扱っているとのことですが、それにあたって、運営の中でこだわっているポイントはありますか?
恵川さん:OpenWorkでは、「ユーザーにとって、有益な情報かどうか?」を大事にしていて、クチコミの価値や質にこだわっています。
ユーザーの多くは、就職・転職という人生における大きな決断をするためにOpenWorkを見ています。そのようなユーザーが後悔しない決断ができるよう、社員のリアルな声を中立な立場でオープンにしています。
その上で誹謗中傷や個人が特定されるような内容など、求職者にとって有益でない情報を排除することで、社員クチコミの価値と質の向上に努めています。
社員クチコミの質を担保する運営上の仕組みとしては、クチコミを投稿する際のハードルが高いことがあげられます。OpenWorkで企業の社員クチコミを見るには、まずは自身でクチコミを投稿する必要があります。
その際に、フリーアンサー9項目を、最低でも500文字は記入しなくてはいけません。投稿するまでのハードルが高いですが、弊社としてもクチコミの投稿件数のみを追うのではなく、クチコミの質やユーザーが参考にできるだけの情報量を担保することを大事にしています。
日々、何百件ものクチコミがOpenWorkに投稿されていますが、実はすべてのクチコミを目視で審査しています。
もちろん、ある程度システムによって機械的に審査をしていますが、公開前に必ず目視によってクチコミを一件一件審査しています。これも、クチコミの質にこだわる当社ならではの取り組みです。
(口コミのチェックは本当に大変とのこと)
2. 「企業が求職者を選ぶ時代」から「求職者が企業を選ぶ時代」に
ーOpenWork創設時と比較して、今の採用市場に変化はありますか?
恵川さん:”企業が強い状態”から、しだいに”企業と求職者がフラットな状態”に変化しているように感じています。その背景として、求職者優位の売り手市場であることに加えて、就職先に求めるものやキャリア観の変化が影響しているからだと思います。
これまでは求人サイトなどを通して、企業からの一方的な情報のみを受け取ることが多かったですが、今ではインターネット・スマホが普及して情報収集の手段も多様化し、さまざまな個人と繋がることができるようになりました。
その結果、広告記事よりも社員クチコミなどのリアルな情報によって企業を判断する方が増えていると感じています。
就職・転職の選択肢が増えて求職者が企業を選べる状況になっただけでなく、企業の実態をキャッチする手段も増えたことで“企業と求職者がフラットな状態”になっていると思います。
それにともなって、最近では、人事担当者も、求職者が自社のクチコミを見ていることを認識し始めています。評価点が高い企業はOpenWorkを活用することで効果的なリクルーティングに繋げていますし、中にはクチコミの内容から採用方針を検討する人事担当者もいます。
ー「求職者が企業を選ぶ時代」とのことですが、求職者はどのような企業に魅力を感じるのでしょうか?
恵川さん:企業を選ぶ基準として、以前は会社規模や知名度、給料といったハード面が重視されていましたが、最近は面接官の人柄や社員が幸せそうに働いているかなどのソフト面が重視されてきています。
大企業に入っても安泰とは限らない時代で、今の就活生は不安を抱えていると思います。会社の寿命が自分の社会人人生よりも短い時代で、いかに入社後に「成長できるか」「幸せでいられるか」という視点で企業を選ぶようになっているのではないでしょうか。
人事担当者から、OpenWorkの評価点が高いことを理由に自社を志望してくれる就活生が増えたという声を聞きました。そのことからも、成長できる企業選びや幸せに過ごせる企業選びにおいて、リアルな社員クチコミが重視されているということがいえます。
3. 「クチコミには社員の本音が書いてある」組織改革に活用された事例も
ー最近社員クチコミがより注目されておりますが、なぜ求職者はクチコミに信頼を寄せているのですか?
恵川さん:一点目は、リアルな企業の姿を知りたいからです。
たとえば、就活生が実際に先輩社員に話を聞ける場として、OB・OG訪問があります。しかし、OB・OG訪問では、社員が企業の看板を背負って、ときには会社から指名されて面談を受ける場合もあり、面と向かって企業のリアルな情報や本音を伝えにくい場合もあります。
しかし、匿名で投稿をしている社員クチコミであれば、個人が特定されることもなく比較的本音を書きやすいので、信憑性が高いと言えます。
そして二点目は、多くの企業や様々な社員の声を知ることができるからです。
OB・OG訪問では、就活生が所属している大学のつてによって、会うことができる社員が限定されるため、必ずしも選考を受けたい部署の社員に会って話を聞けるわけではありません。
一方、OpenWorkには多くの社員クチコミが投稿されているため、自分が参考にしたい社員の声を知ることもできますし、首都圏の説明会に参加が難しい地方の就活生にとっても平等に企業を知る機会を提供しているといえます。
自分が目標にしたい人や意見を聞きたい人の本音を知ることができるという点で、信頼を寄せられているのだと思います。
ー求職者はどのようなときに、クチコミを見ているのでしょうか?
恵川さん:就活生であれば、応募前の企業研究のタイミングや、内定をいくつか獲得した後に就職先を絞る過程で参考にしているようです。
また、インターン募集の時期に瞬間的にユーザーが増えているので、就活前の学生がインターン先を検討する際にも参考にしているといえます。
転職者も、応募の前後や選考過程、内定以降も利用されています。その他では、BtoBの営業担当者がクライアントリサーチでOpenWorkを活用するなど、転職以外の目的でOpenWorkの社員クチコミを見ていることが特徴です。
さまざまな場面で見られているため、通常の転職市場ではアプローチが難しい、潜在的に転職を考えている方のご活用も多く、転職者・就活生だけに限らない様々な立場の方に企業を知ってもらうきっかけを提供できると思います。
ー社員クチコミを見た求職者と見ていない求職者では、入社後どのような違いがあるのですか?
恵川さん:弊社で実施したアンケートでは、社員クチコミサイトを閲覧してから入社をした人は、そうでない方と比べて、転職後の会社への満足度が約1.5倍高いことがわかりました。
新しく入社をする人が、自社の魅力や懸念点を事前に社員クチコミから知ることによって、企業理解が深まったり、入社後にギャップを感じづらくなったりすることが考えられます。それによって、満足度に差が生じているのでしょう。
ーそれだけリアルな情報が求められているなかで、影響力をもっている社員クチコミですが、企業はどのように活用していけばよいのでしょうか?
恵川さん:OpenWorkに掲載されている社員クチコミ情報は、社員の組織に対する本音が記載されているという点で、その他のサーベイでは収集が難しい組織に対する客観的な意見が反映されています。その内容を分析することで働き方や組織の課題が浮き彫りになり、今後の改善に活かすことができます。
ある企業の事例ですが、その企業は業界全体のイメージもあり、採用における自社の競争力が高くないことが課題でした。この状況から脱却すべく、5年がかりで改革を進めました。
その具体的なアクションとして、人事部長がOpenWorkの社員クチコミを全て目視して課題を特定し、社内会議で今後の人事施策を検討し、実行していくというアクションを継続していきました。
特に評価点が低い項目や、「退職検討理由」のコメントには組織の真実が語られていることが多く、そこから課題を読み取り、PDCAを回して改善していくことで、現在は総合評価が4以上となりました。これは、掲載企業の上位0.1%内という実績です。
今や社員クチコミは就活生や転職者だけがチェックするものではなく、さまざまな用途で活用できる貴重な情報資産といえるでしょう。
4. OpenWorkを転職・就職のプラットフォームに
ー最後に、今後のOpenWorkの展望を教えてください。
恵川さん:新しい仕事を探すときや、自身の今後のキャリアを考える際などに、OpenWorkが入口となってリアルな情報を提供できるようになりたいと思っています。
そのためには、採用・応募の機能と社員クチコミが連携することが必要と考え、BtoB向けサービスである「OpenWorkリクルーティング」を開始しました。
「OpenWorkリクルーティング」は、OpenWorkの企業ページ内に求人情報を掲載でき、Web履歴書の登録者が直接企業に応募すること、企業が登録者に直接スカウトを打つことができるサービスで、転職者や就活生、潜在層にアプローチできるリクルーティングサービスです。
これによって、求職者が社員クチコミを見て、自分に合う企業をみつけ、そのまま応募して、就職・転職ができるプラットフォームを目指していきたいと考えています。
社員が満足している会社に優秀な人材が集まる状態こそが、私たちが目指していきたい社会です。「人が企業を選ぶ」時代になり、選ばれる企業になるためには、今よりも良くなるしかありません。
その指標として、OpenWorkの評価点をもとに組織を改善することで、応募が増え、採用ができる「プラスのエコシステム」を築いてきいたいと思います。