働き方が多様化している現在、非正規で働く人口は緩やかに増加傾向にあり、今や労働者の3分の1を占めるといわれています。
こうした中で、あえて非正規社員として働く選択をしている人も増えているといえるでしょう。
その動きに合わせて、企業側も非正規社員の採用が増えていっています。
そこで今回は、「派遣社員の採用を考えている」「派遣社員を雇用しているがどのように活用すればいいのかわからない」、という企業に向けて、派遣に関する情報をご紹介。
派遣の基本情報から派遣採用のメリット・デメリット、法律上の注意点、そして受け入れ側が必要な準備や優秀な人材獲得を支援するサービスについて解説します。
1.派遣とは
「派遣」と調べると、「請負」「直接雇用」「間接雇用」「一般雇用」…など、似たような言葉がたくさん出てきます。
そこでまず、派遣とそれぞれの言葉との違いや、種類についてご説明します。
1-1.派遣と直接雇用、請負の違い
派遣とは、企業が面接などをして直接雇用した人ではなく、派遣会社を介して人を雇用することを指します。
派遣とよく混同されるものとして、「請負」があります。
いくつか違いがありますが、両者の大きな違いは、「どこの指揮命令下で働くか」という点にあります。
派遣は派遣先の企業(派遣労働者を受け入れる側の企業)の指揮命令下で派遣社員が働きますが、請負は請負会社の指揮命令下で請負社員が働きます。
直接雇用|
企業と労働者が直接雇用契約を交わして雇用することを指します。派遣会社を介して派遣社員を雇用する「間接雇用」と区別して、直接雇用といいます。
派遣|
派遣会社に登録されている労働者を企業に送り、企業と派遣会社が契約を交わして雇用することを指します。派遣社員は派遣先企業の指揮命令下で、契約内容に記載された業務をおこないます。
請負|
請負会社に登録されている労働者を企業に送り、企業と請負会社が契約を交わして雇用することを指します。請負社員は派遣先企業ではなく、請負会社からの指揮命令下で働きます。
1-2.派遣の種類
また、「派遣」には「一般派遣」「特定派遣」「紹介予定派遣」の3種類があります。
一般派遣
一般派遣は、「派遣社員」と呼ばれる人が派遣されるケースがあたります。派遣社員として働きたい人は派遣会社に登録し、雇用主は派遣会社となります。
求職者は登録後、派遣会社に求人を依頼した企業へ派遣され、原則3年を限度に同じ事業所で働くことになります。
ただし、60歳以上の方など、一部の派遣社員の方は原則の派遣期間は対象外になります。
派遣可能期間(3年)対象外のケース
- 派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者を派遣する場合
- 60 歳以上の派遣労働者を派遣する場合
- 終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣労働者を派遣する場合
- 限られた日数の業務(1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ 10 日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合
- 産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合
特定派遣
会社の面接を受けて採用された社員が派遣先に紹介される場合、特定派遣といいます。特定派遣される派遣社員は、派遣先での就業後や次に派遣されるまでの期間も、派遣会社の従業員として派遣会社から給与を与えられます。
一般派遣を「登録型派遣」というのに対し、特定派遣は「常用型派遣」や「無期雇用派遣」ということもあります。
紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣社員と派遣先企業双方の合意のもと、「期間終了後に、派遣社員と派遣先企業双方の合意のもと、派遣社員を直接雇用(正社員・契約社員)する」ことを前提にした派遣をいいます。
この派遣形態では、最大6か月派遣社員として就業できます。
また、紹介予定派遣や、その他派遣会社からの紹介で派遣労働者を直接雇用した場合、派遣先企業は派遣会社に紹介手数料を支払う必要があります。
ただし、あくまで派遣社員と派遣先企業双方の合意によるため、拒むこともできます。
2.派遣を利用するメリット・デメリット、注意点について
ここまでで、派遣の特徴や違いをつかめたでしょうか?
続いて、実際に派遣社員を雇うときに確認しておきたい、メリット・デメリット、注意点についてご紹介します。
2-1.派遣を利用するメリット
コスト削減
厚生労働省によると、派遣社員について派遣社員を受け入れる側の企業(以下派遣先企業または派遣先)が持つ責任の例は、以下になります。
労働時間管理、危険防止措置(機械や爆発物などによる危険の防止)、健康障害防止措置(原材料、ガスなどによる健康障害、高温、低温等による健康障害などの防止)etc.
(厚労省「派遣先の皆様へ」H22.2版)
社会保険や雇用保険などの保険関連や、給与計算といった労務まわりについては派遣会社が責任を負うことになっているため、派遣先企業はこれらの業務をおこなう必要がありません。
そのため、1人の正社員を雇うよりも雇い入れ前後の業務コストを削減することができます。
業務の効率化
派遣を最大限に活用する方法として、決算や年末調整などの定型業務や高度なスキルが求められる業務の人手不足を補うことがあげられます。
決算や年末処理は毎年おこなう業務ですが、他の業務もこなしながら突破的な業務の対応などもおこなっていると、ミスをしてしまったり、残業が多くなってしまったりということが起こりやすいでしょう。
そこで、定型業務をおこなう時期に合わせて派遣労働者を雇い入れることで、正社員は他の業務や突発的な対応に専念できるだけでなく、ミスや残業の削減にもつながります。
また、WEBサイトの作成や運用、販促物のデザインなど専門的なスキルを必要とする業務を、専門スキルを持った人材を必要なときに雇い入れることで、正社員だけではできない幅の業務をおこなうこともできます。
さらに、実際の働きぶりを見て、優秀な社員を双方の同意のもと正社員として雇い入れることもできるため、一時的ではなく、継続的な業務の効率化などができます。
2-2.派遣を利用するデメリット
育成費用がかかる
派遣社員を活用することでメリットが生じるいっぽうで、派遣社員が会社に慣れるまでの指導や説明、育成にかかるコストが発生します。
たとえば、数年かけて指導してきた派遣社員であっても、受入期間終了後に全員がそのまま正社員になるわけではありません。
新たな派遣社員を受け入れるたびに、教育や育成をおこなうためのコストが発生することを認識しておきましょう。
ただし、企業によって正社員の平均勤続年数が3~5年も珍しくない近年では、派遣社員だからこそ生じうるコスト、とは一概には言えないかもしれません。
帰属意識の希薄さ
派遣期間が決まっている派遣社員の中には、会社への帰属意識が薄い人もいるかもしれません。
何年も同じ企業で働いている従業員と比べると、勤務期間が短く、かつ勤務期間が決まっている企業で働くとなると、思いが入りづらい可能性もあります。
また、帰属意識の薄い派遣社員による就業後の情報漏えいを心配する企業もあります。
情報漏えいを防ぐために、派遣社員受入れにあたって制度やルールを設けて対策を取るのも重要です。
ですが、派遣社員の中にも正社員と変わらずやりがいを持って働いている方々もいます。
そのため、「派遣社員=帰属意識が低い」とみなして機会損失を招くことは、本人にとっても企業側にとっても不利益になってしまうことあるため、注意が必要です。
2-3.派遣を利用する際の注意点
派遣が活用できない業種
すべての業種において派遣が利用できるわけではないことに注意が必要です。
①建設業務
②港湾運送業務
③警備業務
④病院などでの医療関係業務(一部を除く)
上記の業種は、昔から日雇い労働者や請負労働者が働いてきていることなどが原因で派遣会社の進出がそもそも認められていなかったり、安全性を担保するために、派遣が一部認められていなかったりします。
(参考:佐野 嘉秀「なぜ労働者派遣が禁止されている業務があるのか 」)
ただし、紹介派遣であれば認められる、など例外的に派遣が認められている場合もあります。
上記に関連する企業の方々は、厚労省が出しているこちらの資料を参考にしてみてください。
信頼できる派遣会社を選ぶ
派遣を利用する際、原則派遣先企業側には派遣労働者を指名したり、事前に面接をしたりすることが認められていません。
つまり、派遣会社によって適切な人材が派遣されるかどうかが左右されるため、はじめから派遣会社の選定には注意が必要です。
「労働契約申込みみなし制度」について
決められた受入期間を超過して派遣労働者を働かせたり、許可・届け出のない派遣会社から派遣労働者を受け入れたりした場合、派遣先企業が派遣社員に労働契約の申し込みをしたものとみなす制度です。
1.派遣労働者を禁止業務(上記①~④参照)に従事させること
2.無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
3.事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
4.個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受け入れること
5.いわゆる偽装請負等(労働基準法などの適用を免れる目的で請負契約を結び、実際は労働者派遣を受けた場合)
こういった事態を避けるために、派遣先企業は派遣社員の受入期間を守り、派遣社員を受け入れる前に、そもそもその派遣会社はライセンスを取得した会社か確認することが重要になります。
派遣会社の許可番号、届け出受理番号は、厚労省の運営する「人材サービス総合サイト」からご確認いただけます。
派遣先の義務
派遣社員を受入れる際には、派遣会社と業務内容や受入期間、就業時間などが記載された「労働者派遣契約」を定めることを忘れずにおこなってください。
また、事業所ごとに派遣会社や事業所名、派遣社員の勤怠情報などを記載した「派遣先管理台帳」の準備も必要になります。
工場など、100名以上の大所帯で派遣社員を受け入れるような企業の場合、派遣労働者100名につき1名、人事労務の知識がある派遣先責任者を任命する必要があるのでご注意ください。
途中で解雇する際は余裕を持った告知を
やむを得ない理由で派遣社員の方を契約途中で解雇する場合は、あらかじめ猶予期間をもって派遣会社に伝える必要があります。
もし派遣社員の方が次の職場を見つけるために必要な期間(30日以上)を空けずに解雇した場合、30日に満たない日数分の給与を損害賠償として派遣社員に支払う必要があります。
さらに、派遣先企業が派遣会社に解雇予告をしなかった場合は、30日以上分の給与を損害賠償として支払う必要があるため、注意してください。
3.派遣社員から人材を採用するには
最後に、派遣社員を採用するまでの簡単なフローをご紹介します。
派遣会社によって、多少フローが異なることもありますが、大方の流れとしては以下の図のイメージを持っていただけると、今後派遣社員の方を迎え入れがより円滑におこなっていただけます。
原則、派遣では事前面接が禁止されていると前述しましたが、紹介派遣に関しては、派遣後の正規雇用も視野に入れているため、事前の面接もおこなうことになります。
4.まとめ
「必要な時に」「必要なスキルを持った人材を」「少ないコストで」雇用できることが派遣の最大の魅力です。
直接雇用となると、求人広告などで人を集めることからはじまり、社内の人達の予定を合わせて説明会を開き、面接をし、入社書類処理をして…とさまざまな業務が必要になります。
ただでさえ人手が必要な時に、これらの作業を普段の仕事と並行してすることは、企業にとって大きな負担となります。
人手不足の際に、派遣を利用すれば、すぐに必要な人材を確保できます。くわえて、業務を分担することで業務の効率化もはかれます。
人手不足でお悩みの企業は、派遣を検討してみてもいいかもしれません。