労働市場や次世代のキャリア形成を研究されている古屋星斗さんと、即戦力の複業求人プラットフォームを運用するコデアル代表の愛宕翔太さんによるイベント「転職がなくなる時代。複業によるコミットメント・シフトとは?」が開催されました。
コミットメント・シフトをする側と受け入れる側に分かれておこなわれたディスカッションの内容について、コミットメント・シフトの実情と、成果を最大化させるためのポイントをご紹介します。
1|転職→コミットメント・シフト。新時代のキャリアはこう変わる。
【登壇者紹介】古屋 星斗氏 | リクルートワークス研究所 研究員
2011.4 経済産業省入省。産業人材政策、クールジャパンファンド立ち上げ、原子力災害復興、成長戦略策定に携わる。2017.4 経済産業省を退官し、リクルートワークス研究所の研究員に。一般社団法人スクール・トゥ・ワークにて代表理事を務める。
【登壇者紹介】愛宕 翔太氏 | コデアル株式会社 CEO
従来の企業から企業へと移行するのではなく、自分自身が何にコミットメントするかという観点で、仕事への関わり方を徐々に移し替えていくことを「コミットメント・シフト」といいます。
上記の画像内の表は、転職とコミットメント・シフトの違いを可視化したものになります。
「転職」が雇用契約がベースで、現職を離れる際には関係性が断裂する退職という形になり、次の仕事を決める際のポイントが可視の要素(年収、企業規模、業職種)であるとのことです。
これに対し、「コミットメント・シフト」は仕事への関わり方に濃淡はあれど継続的な関係が続き、仕事を決める時は不可視の要素(環境、人間関係、日々の仕事)がより重視されることが多いそうです。
コミットメント・シフトにおける働き方では、どの活動に対してどの程度自分のリソースを配分するかを自分で決めていきます。
ボランティアなど収入が発生しない活動もあり、収入のみを目的にするというより「これがやりたい」「この仲間と活動したい」という思いがあるでしょう。
古屋さんは、「転職で不安なこととして上位にあがるのが、人間関係と仕事についていけるかどうか。その不安をなくすためには働いてみるしかない。だからこそ、コミットメント・シフトでお互いの相性を確かめ合うことが望ましいのでは」と徐々にコミットメントを移していく新しい考え方についてお話いただきました。
また、収入・ミッション・時間に対する考え方も変化してきているとのことです。
昭和型企業戦士は、収入・ミッション・時間がすべて本業とつながっていますが、平成型リモートワーカーはライフワークである活動が必ずしも収入に結びつかなくなっているといいます。
古屋さんのお話をお聞きして、働き方という概念を超えて「自分は何を大切にして生きていきたいのか」という根本が問われつつ、それが実現できる時代になっていることを改めて感じました。
コミットメント・シフトについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
2|コミットメント・シフトをする側・受け入れる側の実情
古屋さんのプレゼン後、「実際にコミットメント・シフトをする側・受け入れる側は何を感じているのか?」という疑問ついて、2つのグループに分かれて、それぞれの実情と今後の可能性についてディスカッションをおこないました。
2-1|コミットメント・ソフトをする側(=複業をしている人)
グループメンバーが自己紹介をしながら、自分の今の「ミッション・時間・収入」をそれぞれ100とした時に、どのような活動が何%占めているのかをシェアしました。
本業で収入を確保して、「収入にはならないものの関心の高い活動」に注力する人、「関心の高い領域かつ収入になる活動」をいくつも掛け持っている方など、それぞれの大切にしているものが浮き彫りになる瞬間でした。
- 毎年興味関心が変わるので、この割合は毎年変わる
- 在宅秘書をしながら、フリーランスのコミュニティ運営やラジオパーソナリティをやっている
- 得意なことを短時間行い、一定の収入を得て効率よく稼ぐ
参加者の方は、シェアすることで「価値観は人それぞれで、同じ人生はない」ということを改めて実感したとのことです。
そして、共通しているのは「収入になる活動だけおこなう」とは考えていないことだったそうです。
「もし30年前に同じワークをやったら、女性は100%家事育児に、男性は1社に100%注ぎ込むという結果になったはず。今は収入にならなくても複数プロジェクトにコミットする時代になってきている。」と個の時代になってきていること、生きると働くをいかに融合させるかについての議論が繰り広げられていきました。
2-2|コミットメント・シフト人材を受け入れる側
実際に受け入れの経験のある方が集まり、良かったこと・困難だったことのリアルをディスカッションしました。ここでは公開できる一部をご紹介します。
<良かったこと>
●スキル・仕事量・緊急度などの柔軟性
・ピンポイントで欲しい人材ニーズを満たすことができる
・週1回、緊急時にも応えてもらうことができる
●採用(母集団の量と質の向上)
・比較的応募数が多い
・応募者に多様性があり、様々なバックグラウンドの応募者に会うことができる
●採用(リスク回避)
・お互いの理解を深めることができ、ミスマッチの場合早く気づくことができる
・能力を確認して、依頼するタスクを調整することができる
・低コストで採用することができる
<困難だったこと>
●価値観、コミットメントの擦り合わせ
・コミュニケーション不足となり、働く側の心が離れていく
・お互いが何を大切にしているかを確認しないと混乱する
・契約したものの契約日に来ない…
●仕事の進め方
・自分の仕事の仕方へのこだわりが強い方の場合、仕事の仕方の調整が困難
・コミットメント・シフトをしている人材が緊急対応ができず、正社員にしわ寄せがくる
●事務手続きなど
・コミットメント・シフトをしている人材は、企業で社員として働いているケースも多く、法務とのやりとりが煩雑
・募集要項をいかに魅力的に書くか
皆さんのリアルな話が次々とあがり、「それある!」と共感しながら「緊急時や訪問アポの調整などは、カレンダーに調整可能な時間をあらかじめ入れてもらう」など、どのように解決しているかという実践知をシェアし合う場となりました。
特にコミュニケーションについては、普段はオンラインで関わっている分、
- リアルな場で会う機会を必ずつくる
- 業務委託であっても1on1を週1回行う
- どのチャットには必ず返信してほしいなどのルールづくり
などの工夫をしながら、いかにお互いの信頼関係を高めるかが一番大切という話になりました。
個人的には、困難は様々起こるものの、仕組みと相互理解で解決できるものも意外と多いと感じました。
3|コミットメント・シフトが成功するための大切な観点
当日はコミットメント・シフトのリアルな現状が様々出てきましたが、成果を出すために、そして両者が良い関係性を築くために特に話題になった観点をご紹介します。
3-1|相互理解と信頼関係構築に注力する
契約したフリーランスが開始日にこない、心が離れてアウトプットの質が悪化していくなどのトラブルはあってはならないことですが、多くはないものの実際には起こりえること。
成果を出し、双方が納得のいく関係を築いていくために受け入れ側ができることや考え方として、以下の話があがりました。
- 既に関係性のあり、信頼している人を採用する
- 働く側の動機を理解する(会社側=ライフワーク、本人=ライスワークのズレの発生の回避など)
- ミッションの粒度を人によって調整して伝える(作業の依頼にならないように)
- 一定仕事ができる人に参画してもらい、ミッションに制約を設けず自由に仕事をしてもらう
- 複業人材も継続的に週1回1on1をおこなう
仕事として契約している以上、プロフェッショナルとして関わるのは当たり前ですが、社員として採用をする際の段階的なプロセスを踏んでいない分、相互理解や信頼関係の構築が浅いままスタートすることも多いものです。
そのスタートの違いがあるからこそ、「お互いが大切にしていることを知ろうとする」「自分の常識が相手の常識ではないことを想定する」といった想像力やコミニュケーション力がより大切になってきているのでしょう。
コデアルの愛宕さんからは「人は見たいように人を見ている。だからこそ、お互いが相手側の視点を持って理解を深めていくことが大切」とおっしゃっていましたが、まさにそのスタンスこそが成果を出し、良い関係を築いていくための土台となっていくのだと感じました。
3-2|理想のライフスタイルから「働く」を考える
どんな仕事がしたいか、どんな働き方がしたいかというより「どんなライフスタイルを送りたいのか」を考えることが幸せに働くことに繋がるのではという展開になりました。
- 年収300万円の仕事をして生活費を確保して、それ以外の時間はとにかくジャニーズに時間を使いたい
- 地下アイドルの追っかけがしたいから、効率良く稼げるように短期間で驚異的にエンジニアリングの腕を磨いた
といった例があり、自分の中で何を大切にしたいかを考えて、それを実現するために働くことが満足度高く「働く」ということではないかという議論がおこなわれました。
まとめ
今までは、まず仕事をして、残りの時間で自分が本当にしたい活動をするという考え方が主流でしたが、そうではなく、「本当にしたい活動」をするためにどう仕事を選択するかという流れが確実にきていることを感じました。
「本当にしたい活動」がそのまま収入につながる仕事になることもあれば、そうではないこともあります。
だからこそ、自分は何に価値を感じているのか、何をしている時が幸せなのかを考え、その上で「本当にしたい活動」と「稼ぐ活動」の配分や方法を考えていくことが豊かな働き方につながるのだと感じました。
そして同時に、個人的には「本当にしたい活動」と「稼ぐ活動」を分けてしまうことにもったいなさを感じています。
いかに両者を重ね合わせられるか、一見別物に見えたとしても自分の中でどうやってつながりを見いだしてその重なりを最大化させるかが幸せな働き方なのではと感じます。
コデアルの愛宕さんは「パートナーがいる場合、収入・ミッション・時間をどう分担するかも大切」と、自分一人ではなく周囲と話し合って理想的なスタイルをつくっていくことの大切さについてお話されました。
今後の働き方のキーワードとして、起業と個人間も、パートナーなどの周囲の人とも「相互理解と擦り合わせ」がキーワードになってくるのかもしれません。
今回のイベントに登壇された愛宕さんが所属するコデアル株式会社のサービス「コデアル」は、コミットメント・シフトをしようと考えている方、人材(特にエンジニア)をお探しの方におすすめのサービスです。