新聞やテレビ、ネットのニュースで「働き方改革」という言葉を耳にする機会が増え、プレミアムフライデーも実施されました。自社でも残業を減らす取り組みや、女性が結婚や出産後も働けるような取り組みを考えているという人事担当者も多いでしょう。
そもそも「働き方改革」とはどのようなことなのでしょうか。また、企業で実施するにはどうすればよいのでしょうか。
目次
働き方改革とは?
働き方改革とは安倍総理大臣をトップに政府の肝いりで始まりました。安倍総理は『働き方改革実現推進室開所式の総理訓示』で働き方改革について次のように述べています。
世の中から「非正規」という言葉を一掃していく。そして、長時間労働を自慢する社会を変えていく。かつての「モーレツ社員」、そういう考え方が否定される。そういう日本にしていきたいと考えている次第であります。人々が人生を豊かに生きていく。
同時に企業の生産も上がっていく。日本がその中で輝いていく。日本で暮らすことが素晴らしい、そう思ってもらえるような、働く人々の考え方を中心にした「働き方改革」をしっかりと進めていきたいと思います。
政府が働き方改革を促進することで実現したいことは以下の3つです。
- 非雇用を廃止して同一労働同一賃金を実現する。
- 働き方改革を推進することで長時間労働を一掃する。また有給消化を促進することで、生産性を上げて日本経済を活発化させる。
- 労働者の健康や生活満足度(幸福指数)を向上させ、住みやすい国づくりをおこなう。
なぜ働き方改革?
では今、長年おこなっていなかった働き方改革を促進するのはなぜでしょうか。
日本では現在早急に解決しなければならない、3つの問題があります。
1.労働者人口の減少により人材の確保が厳しくなる
日本は超高齢化社会を迎え、労働者人口が減少してきています。
そのうえ、過労死・過労自殺は2015年に482件(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」より死亡事案請求件数)発生。
ブラック企業(長時間労働や低賃金など)の問題が放置されたことにより、働き盛りの人材のうつ病発症件数は2015年に1515件(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」より精神障害での労災請求件数)発生していますが、うつ病患者の受け入れ体制が整っていない会社が多いため、働き盛りの人材がリタイアせざる状況に追い込まれています。
また、長時間労働やストレスにより心臓疾患・脳疾患を発症する社員も多く、万全な健康状態で働けない社員が生産性を低下させる要因になっています。
さらに、長時間労働があるために結婚・出産した女性社員や介護をしている社員が退職に追い込まれ、優秀な人材の損失や働く意欲があっても働けない状況を招いています。
これらの問題により、たださえ減少傾向にある労働者数が減り、人材の確保が困難になっています。
2.有給休暇の未消化が経済効果と雇用創出を妨げている
有給休暇の未取得は経済効果や雇用創出効果を妨げる原因になっています。
経済産業省・国土交通省の試算では有給休暇完全取得がもたらす経済波及効果は11.8兆円、雇用創出効果は148万人(2002年6月「休暇制度のあり方と経済社会への影響に関する調査研究委員会報告書」経済産業省・国土交通省・(財)自由時間デザイン協会)という数字が出ています。
ところが、社員は有給休暇を取得したいと思っていても「社内の雰囲気的に取得しにくい」「上司に睨まれる」「人事考課に影響する」と、有給休暇を取得しにくい企業文化が根付いていることがあげられています。
これらの問題が解消され全員が有給休暇を取得できるようになれば、誰かが有給休暇を取得しても業務が回るように人手が必要になります。また、有給休暇を取得した人は家族サービスで出かけたり、遊びに出かけたりすることで経済が活発化するようになります。
3.格差社会の解消と豊かな生活の実現
非正規雇用者が増えることで正社員と非正規雇用者の生涯賃金に大きな差が生まれるだけでなく、正社員でも職種により生涯賃金が非正規雇用者と同等または下回る職種があります。
たとえば、保育士や介護士の仕事では一般企業の事務職よりも年収が低い職場もあるため、男性社員は結婚をする時には、好きな仕事であっても年収が低いために転職をしなければならないことがあります。そのため、介護職や保育士で人手不足問題が起きています。
また、非正規雇用や一部の職種に就いている人は20代で良い相手と出会っても「結婚したくてもできない」「子供が欲しいけれど経済的に難しい」と晩婚化が進み少子化に歯止めがかからない状況を招いています。
非正規雇用や職種別の賃金格差を解消することで、誰もが安心して家庭を築き子供を育てたり、自分の家を持ち、健康で豊かな生活を送れるようになると考えられます。
これらの問題を解消するには、企業には大きな負担がかかります。では実際にこれらの問題解消を進めている企業の取り組みを例に挙げながら、働き方改革を実践する方法を探っていきましょう。
各企業に求められる対応とは?
まず、国が進める対策として2018年から退社から次の出社まで一定の休息時間を保障する「インターバル規制」導入企業に助成金を支給する方針が決まっています。
この他にも各企業ではさまざまな取り組みをおこなっています。
ソフトバンク株式会社:Smart&Fun支援金と柔軟な勤務体制の導入
ソフトバンクはプレミアムフライデーの実施の他にも、3本立ての働き方改革を導入しています。
1.スーパーフレックスタイムの導入
従来のフレックスタイムではコアタイムがありますが、コアタイムを撤廃して業務に応じて始業時間と就業時間を調整できるように刷新しました。
2.Smart&Fun支援金の導入
業務の効率化によりできた空き時間を、社員の成長へ繋げる有効利用を促すSmart&Fun支援金を毎月全社員へ1万円支給することで業務効率化と社員自らの成長を推進しています。
3.在宅勤務利用可能日数の増加
介護をしている社員や子育て中の社員を対象に現行では週1日在宅勤務を可能としていますが、この在宅勤務可能日を増加する方向で一般社員を対象に試験的に開始しました。将来的には全社員が利用できるように検討しています。
このように長時間労働を是正するような柔軟な勤務体制や在宅勤務を導入することで、働きたいけれど諸般の事情で働けない潜在的な求職者を採用することができ、人材不足の解消を可能にします。
また、これらの取り組みを社内外へ周知して実施していくことにより、優秀な人材確保や優秀な人材の流出防止効果が期待できます。
ソウ・エクスペリエンス株式会社:子連れ出勤OK!で優秀な人材を確保
少数精鋭のソウ・エクスペリエンスでは、女性社員の妊娠・出産により優秀な人材を失うわけにいかないと「子供を連れてきていいから復職して欲しい」と女性社員にお願いをしたことがきっかけで、子連れ出勤を導入することになりました。
子連れ出勤を可能にするために全社員の理解、危険な所は入れないように柵をする、デスクの角を梱包材で囲う、コードやスイッチを隠す等の工夫をする、誰の子供でも気がついた人がおむつ替えをするというルールを作って運用しています。
この結果、保育士や保育ルームを配置せずに子供達が歩き回っていたり、親が子供を抱っこしながらキーボードを打っている光景が日常化している職場になりました。
現在は多い時で5人の社員がこの制度を利用しており、ソウ・エクスペリエンスではこの取り組みを他の会社でも実践して欲しいと見学会や情報発信をおこなっています。
母親の心情として保育園が空いていたとしても、そこの保育士の対応が悪ければ入園させたくない、という気持ちになります。また、働かなければならないけれど、できれば子供の成長を見たいという気持ちもあるでしょう。
これら母親の思いを実現する手段として、子連れ出勤という新しいスタイルもあるのではないでしょうか。
三越伊勢丹ホールディングス株式会社:2017年は初売りを1月4日へ
三越伊勢丹ホールディングスでは、2016年は1月3日を初売りとしましたが2017年は1月4日へとさらに、1日遅らせる方針が決定しています。
これは、2015年まで1月2日が初売りだったのを2016年は1月3日と遅らせても売り上げが好調だった背景には、1日多く休むことで従業員のパフォーマンスが高かったためという分析結果があります。
百貨店では年末はクリスマス商戦におせち販売、歳末バーゲンセールとイベントが立て続けにあるうえ、閉店後に年始のレイアウト変更が夜遅くまであります。こういった労働環境を改善したことは、社員の身体と心を休ませることで生産性を上げた良い例だといえます。
まとめ
2017年2月27日に経団連と連合のトップ会談がおこなわれ、現行の労働基準法では残業の上限が設けられていないため、残業の上限を超えた企業への罰則を設けることを前提に残業の上限時間について話し合われました。
過労死を防ぐ残業時間は医学的に月60~80時間といわれていることから、月60~80時間が妥当とする連合に対し、経団連は上限を月100時間なければ業務が滞るとして意見が対立したためこの日は結論が出ずに会談は終了しました。
人事部としては過労死を防ぐ時間内で働きたいと思う一方で、早く帰るように促進すれば目の前にある仕事が終わらないというジレンマをどう解消するのかが課題です。
人事部としては頭の痛い問題ですが、本記事を参考に御社独自の働き方改革を実践してください。