株式会社リクルートキャリアは、株式会社リクルートホールディングスが主催する「2019年トレンド予測」発表会にて、「職場スカウト採用」を中途採用領域のトレンドを表すキーワードとして発表しました。
本記事では、リクルートキャリアが「2019年トレンド予測」で発表した「職場スカウト採用」について詳しく解説いたします!
目次
1|職場スカウト採用とは?
近年、深刻な人手不足と人材獲得競争の激化を背景に、企業は従来の採用手法では優秀な人材の獲得や、十分な採用人数を確保することが非常に困難となっています。企業の採用担当者は、求める人材を確実に採用するために試行錯誤しているのが現状です。
また、求職者側も、選考過程で職場の雰囲気や具体的な仕事内容を知りたいと考える方は多く、採用担当者と求職者の双方で「お互いの理解を深めたい」という希望が高まっています。
そこで今注目されているのが「職場スカウト採用」です。
● 現場が採用をおこなう
職場スカウト採用では、採用担当者のみが求職者と面談・面接をするのではなく、配属先の職場長や同僚が採用活動に加わります。そうすることで、よりリアルな企業の姿を求職者に共有することが可能になります。
職場スカウト採用の事例として、書類選考の段階から採用担当者だけでなく職場長が加わる選考や、「一日体験入社」、「社員とのディスカッション」、「社員も参加するワークショップ」などがすでに数社で実施されています。
いずれの事例も、求職者と社員の距離が非常に近くコミュニケーションの時間が十分に取られており、求職者は入社前に企業のリアルを体感することができます。そして、企業側は「求職者が企業の文化に合っているか」、「活躍する見込みがあるか」などを判断しやすくなります。
職場スカウト採用をおこなう上で、現場社員は採用目標を掲げ採用活動を主体的に取り組みます。同時に、人事・採用チームが現場社員が採用に関わりやすくなるようサポートすることで、部署を超えた採用活動を実現させているのです。
このように職場スカウト採用には、将来のチームメンバーとして入社後のリアルを共有し「相互理解」を深めることで、採用のミスマッチを防ぐだけでなく、同時に転職後の活躍や定着も実現しやすくなるというメリットがあります。
● 社員面談との違い
選考中に現場の社員と交流できる場として「社員面談」があります。社員面談では、求職者と現場の社員がコミュニケーションをとることができるため、その点では職場スカウト採用と似ていると言えます。
しかし、社員面談と職場スカウト採用では、実施する目的が異なります。
社員面談は企業と求職者が対等な立場でラフに対話します。その目的は企業と求職者の「相互理解」と「自社のアピール」です。しかし、職場スカウト採用は「相互理解」とともに「自社の求める人物像に合うかの判別」が目的となります。
また、社員面談では現場の社員が「合否」を判断することはありません。一方で職場スカウト採用は一日体験入社やワークショップを通して「自社の求める人物像に合うかの判別」を現場の社員が判断し、面接のように合否の結果を出します。その点で、社員面談よりも職場スカウト採用のほうがより現場社員の主体性が高いと言えます。
● 社会人インターンシップなどの取り組み
「一日体験入社」や「社員とのディスカッション」の他に「社会人インターンシップ」が新たな採用の手法として注目されています。実際に、社会人インターンシップを実施する企業は2017年11月から2018年11月にかけて2.7倍増加しています。
そもそもインターンシップとは、一般的には就職する前の就活生を対象に企業が行っている就業体験プログラムです。そして「社会人インターンシップ」は、その名の通り「社会人向けのインターンシッププログラム」を指します。
学生インターンシップが平日の昼の時間帯におこなわれることが多いのに対し、社会人インターンシップは求職者が今の仕事を続けながら参加できる曜日・時間に開催されるといった特徴があります。
求職者は、入社前に気になる企業で実際に就業することで「職場の風土や慣行」「職場長・同僚の特徴」「将来のキャリア」「職場での役割」などのこれまで入社後にしか知り得なかった情報を手に入れることができます。
2|職場スカウト採用が注目される背景
採用の際には、求職者と将来の配属先である現場(職場)との距離がどうしても離れやすくなってしまいます。しかしそれでは、採用の段階で採用担当者と求職者の双方が、会社に合っていると感じたとしても、入社後に配属先でミスマッチが生じてしまう可能性があります。
そこで注目されているのが「職場スカウト採用」です。
本当のマッチングを図る必要があるのは「”求職者”と”現場”である」という考えから、求職者と現場の距離を縮めるために、選考の段階から現場の社員が採用活動に参加し、一次面接も事業部の責任者がおこなう「職場スカウト採用」を取り入れる企業が増えているのです。
【背景1】 加熱する転職市場
人手不足により企業は中途採用を積極的になっているため、現在の転職市場は活況を迎えています。リクルートキャリア株式会社の調査によると、2018年10月の転職求人倍率(※)は1.68倍と高水準でした。
業界別で見るとコンサルティング業界がもっとも高く、続いてインターネット業界、そして建設・不動産業界が高い求人倍率となりました。
【業界別】転職求⼈倍率 (2018年10⽉末時点)
- 1位・・・コンサルティング業界 5.37倍
- 2位・・・インターネット業界 3.56倍
- 3位・・・建設・不動産業界 2.65倍
参考:プレスリリース「2018年10月の転職求人倍率を発表。10月は1.68倍(前年同月差 ▲0.20)」
上記のようなバブル経済期の水準を超えるほどの高い求人倍率は、一時的なものではなく何ヶ月も続いており、人材獲得競争は激化していることがわかります。
【背景2】 採用難易度の上昇
転職求人倍率が高いということは、それだけ中途人材を獲得したい企業が多いということになります。
リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2017年度実績)」によると、中途採用をおこなった企業のうち、人員を「確保できた」と回答した企業は2016年から2017年にかけて5.4%減少し、「確保できなかった」と回答した企業は5.6%増加したことが分かりました。
【中途採用における人員の確保状況】
2016年下半期 | 2017年下半期 | |
確保できた | 54.9% | 49.5% (-5.4%) |
確保できなかった | 44.3% | 49.9% (+5.6%) |
参考:株式会社リクルート リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2017年度実績)」
このように、転職市場では中途人材を求める企業が多く存在し、各企業の採用難易度は上昇しているのです。
【背景3】 入社後離職者層の上昇
職場スカウト採用が注目されている背景として「人材定着の課題」が挙げられます。
株式会社リクルートキャリア「企業の人事担当者向けアンケート調査」(2018年9月実施)によると「過去3年と比較して入社半年以内に離職した社員数が増えたと回答した企業」は、全体の2割を占めています。
このことから、人材採用の強化に加え「入社後の早期離職を防ぐための対応」も急務となっていると考えられます。
3|中途採用には何が求められる?
せっかく獲得した人材の早期離職は、中途採用をおこなう企業共通の課題となっています。
そこで、転職者の早期離職を防ぐために重要な情報となるのが「求職者の声」です。求職者の立場になり、求職者から求められることをより明確にすることで「”求職者”と”現場”のミスマッチ」という課題にアプローチすることができます。
どのようなときに「”求職者”と”現場”のミスマッチ」は生じるのでしょうか。また、求職者は転職活動時にどのような情報を得ていれば、「”求職者”と”現場”のミスマッチ」を防ぐことができるのでしょうか。
● 求職者の入社後の声
「”求職者”と”現場”のミスマッチ」が生じる原因として「入社後、配属された職場(配属先)の習慣にネガティブな印象を受けた」という声が挙げられます。
求職者が前職で当たり前だったことや、習慣化していたことが、転職先の企業ではそうではない場合、求職者によってはとまどったりストレスを感じてしまいます。
【転職者の転職先でのとまどいランキング】
- 1位・・・前職との仕事の進め方ややり方の違い(45.5%)
- 2位・・・社内や業界用語等、専門知識が分からない(31.1%)
- 3位・・・職場ならではの慣習や規範になじめない(24.6%)
参考:株式会社リクルートキャリア「『リクルートエージェント』転職決定者アンケート集計結果」2017年9月実施
株式会社リクルートキャリアの調査によると、「前職と仕事の進め方ややり方が異なる」ということに、もっとも戸惑いやストレスを感じる人が多いようです。また「前の職場では使われていなかった言葉が使われている」こともあり、それが原因でなかなか職場に慣れないことも早期離職の要因として挙げられます。
● 求職者の転職活動時の声
このように、入社後に配属先の現場で違和感を感じてしまうのは、求職者が転職活動時に十分な情報を得ることができなかったからだと考えられます。
【求職者が転職活動で知り得なかった代表的な情報】
- 職場の風土や慣行
- 職場長・同僚の特徴
- 将来のキャリア
- 職場での役割
参考:株式会社リクルートキャリア「『リクルートエージェント』転職決定者アンケート集計結果」2018年3月実施
採用担当者とのやり取りのなかでは、どうしても会社のビジョンや理念、企業全体の雰囲気などの情報がメインになってしまいます。採用担当者は実際に現場で働いているわけではないため、部署ごとに異なる風土や慣行を細かく伝えることが難しいのです。
また、配属されてから「将来のキャリア」に疑問を抱いてしまったり「思っていた役割と違っていた」などのギャップが生じてしまうこともあるようです。
● 求職者が思う、面談・面接時の要望
配属先でのとまどいや、転職前に知ることができなかった情報が存在することから「選考の段階で職場の情報をより細かく知りたい」「職場で働く自分をイメージしたい」というのが求職者の本音だといえます。
そのための対策として、選考過程に実際に現場で働いている社員との交流の場を設けることが挙げられます。
【面談・面接の際に要望したいこと】
- 1位・・・配属される職場長と直接会話できる場(57.1%)
- 2位・・・配属される職場メンバーと直接会話できる場(44.2%)
- 3位・・・面接時間の融通(36.8%)
参考:株式会社リクルートキャリア「『リクナビNEXT』登録者アンケート集計結果」 2017年9月実施
実際に株式会社リクルートキャリアの調査によると、求職者が面談・面接の際に望むこととして「配属先の社員(リーダー&メンバー)との会話」が挙げられており、現場の社員と話すことで配属後のミスマッチを防ぎたいと考えている求職者が多いことがわかります。
4|職場スカウト採用のデメリット
従来の採用における課題を乗り越える新たな採用手法として注目されている「職場スカウト採用」ですが、実施するうえで考慮すべきデメリットもあります。
● 現場の負担が大きい
職場スカウト採用をおこなうためには、現場社員の協力が必須になります。また、「一日体験入社」や「ディスカッション」を実施するとなると、当日はもちろん事前の準備の時間もプラスアルファで必要となります。さらに「社会人インターンシップ」をするとなると、教育体制も整えなければなりません。
しかし、当然現場社員にはもともと抱えている仕事があります。本来の仕事に職場スカウト採用の業務が加わるため、現場社員の負担が大きくなってしまうというデメリットがあります。
● 似た人材が集まりやすい
人事が面接をおこなう際には「企業全体として求める人材であるか」が考慮されるため、必然的に幅広い人材が採用されます。一方で、職場スカウト採用の場合、主体的に求職者を見定めるのは現場の社員になるため、どうしても「”今“現場に必要な人材」のニーズが高まる傾向になります。
そのため、職場スカウト採用ででは採用される人材に偏りが生じてしまうというデメリットも考えられます。
5|職場スカウト採用を活用するには
新たな採用方法として注目されている職場スカウト採用。以下では、実施するにあたって役立つサービスを2つご紹介します。
● スカウトメール
「スカウトメール」とは、リクルーターがデータベースからピンポイントのターゲット層を抽出し、抽出したターゲット層に直接ダイレクトメッセージを送り応募を促す、採用活動における手法のひとつです。
応募を待つのではなく、求職者情報から、直感的に「ぜひ欲しい人材」「話をしてみたい人材」「うちには合わない人材」と判断ができ、企業からのアプローチが可能になれば、より自社に合った人材に出会える可能性が高くなります。
● 採用代行
「採用代行」とは、採用活動にまつわる業務を外部の企業が代わりにおこなうサービスを言います。採用活動に時間と人員を投入することが難しい企業が、採用の工数を減らすために採用代行サービスを活用することがあります。
採用のプロが、数多くの求職者の中から企業の求める人物像にマッチする人材を見つけ出すため、採用業務の効率化に加えてその効果も期待できます。
6|さいごに
本記事では、株式会社リクルートキャリアが発表した中途採用領域のトレンド「職場スカウト採用」について解説しました。
これまでは採用担当者との面談・面接の場でしか企業を知ることができなかった求職者ですが、「職場スカウト採用」で現場の社員と会話をすることで、実際に働いた際のイメージがしやすくなります。
企業にとっても、自社に求職者が本当に合っているのかをより現実的に判断することが可能になり、結果として「”求職者”と”現場”のミスマッチ」を防ぐことができるのではないでしょうか。
転職市場が抱える課題を解決する新たな採用手法「職場スカウト採用」は、中途採用領域においてトレンドワードとなりそうです。この機会に、ぜひ検討してみてはいかかでしょうか。