こんにちは!HR NOTE編集部 野上です。
今回は以前ご紹介した、株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和氏による「知名度が低い会社でも優秀な人材を採って会社を伸ばす方法」の後編をご紹介いたします。
曽和 利光(そわ としみつ) | 株式会社人材研究所 代表取締役社長
前回の記事では、「リアル接触率」を伸ばすことが、採用の母集団形成において必要不可欠であるということをご紹介しましたが、じつはそれだけではありません。「リアル接触率は」新卒採用の「戦術」における7つの重要なプロセスのうちの1つにすぎません。今回は、まだお話をしていない6つの重要なプロセスをご紹介していきます。
目次
新卒採用においてKPIを設定するべき7つの指標
前回もご紹介しましたが、採用プロセスにおける重要なKPIを設定すべき7つの指標は以下になります。
- リアル接触率
- ES合格率
- 適性検査合格率
- 面接合格率
- 途中辞退率
- 内定辞退率
- 応募者数
このように、採用活動の各フェーズにおいてKPIを設定していく必要があります。 前回の記事では、「1.リアル接触率」を中心に取り上げましたが、今回は「2.ES合格率」~「7.応募者数」の各フェーズにおけるKPIの設定方法やその改善策。についてご紹介していきます
2.ES合格率
各社、ES(エントリシート)の内容や判断基準によってその通過率は異なってくるかと思いますが、曽和氏はESでの評価は非常に難しいと述べています。
曽和氏:ESを利用して学生を半分落とすような選考をしている企業の話をよく聞くことがありますが、ESで学生の評価をおこなうことは私はあまりオススメをしていません。
だいたい成績というのはこのように正規分布の集合で表されます。
この正規分布の図を半分に切るようなことをすると、ESのような文章に評価をつけることになるので、49点と50点と51点といったような点数をきちんと分けて線引きをする必要があります。しかし、学生が書く自然な文章で1点単位の点数をつけることは無理ではないかと思います。
ですので、ESで合否を決定するのであれば、上位20%だけを採ったり、下位20%だけ落としたりするような採用をしないといけません。逆に、8割以上の通過率にも関わらずESを導入するということは学生のES作成の時間、採用担当側がESの確認にかかる時間を考えると、時間がもったいないとも考えられます。さらに、ESを使った選考は応募者が減る(前回の記事参考)のでやめたほうがいいと思います。
3.適性検査合格率
曽和氏は適性検査を選考に導入していくことは、学生を分析する中で最も効果的な採用手法であると考えています。
曽和氏:リクルートで私が最後にやった仕事は、採用時における面接評価とかSPIの評価が、入社後の業績評価と相関関係にあるのかどうかという調査でした。残念ながら面接での評価には相関がなかったんですが、SPIには相関性があったんです。
マーケティングなどにおいて、統計学を用いるなどして相関関係を見出していきますが、今の日本の人事において統計をとって相関関係を見出すことを実践している方は少ないように思います。たとえば、「SPIの基準ってどう決めてるんですか?」と人事担当者に聞くと「内定者のプロフィールや性格を考慮して、彼・彼女であれば何点以上で通過にします」といったような、あいまいな基準で合否を決めてしまっています。
また別の方法として、「現役社員のハイパフォーマーにSPIを受けてもらい、その平均点を学生のSPIテストの結果と照らし合わせて合否を決める」という方法があります。この方法、じつは間違いなんです。
たとえば、営業マンの中でハイパフォーマーがいたとしても、可愛がられて結果が残せる人もいれば、説明力が高くて結果を残せる人もいるので、ハイパフォーマーのSPI点数結果が一概に似たようなものになるということはないと思います。そういった結果を見るためにSPIや適性検査の結果をクラスター分析していくことがおすすめです。クラスターに分けてそれぞれの平均値をみていくことでわかることがいろいろとあるんです。
私が分析をした結果だと、ハイパフォーマーとローパフォーマーが結構似ている傾向がありました。ただ、一箇所だけ明確に違うところがあったんです。これすごい不思議なんですけど、ということはその一箇所の違いがハイパフォーマーとローパフォーマー分けるポイントかも知れないということが分かってきたりします。
4.面接合格率
面接による学生をジャッジする方法が果たしてふさわしいのか。また、学生を面接で落としすぎていないかどうかに目を向けるべきであると曽和氏は考えています。
曽和氏:面接に関しては、落としすぎてないかどうかをチェックしたほうがいいかと思っています。多くの人に「絶対人感」はないといわれています。個人面接では学生がこういう人だという情報が手に入るので評価がしやすいと思いますが、世の中的にはどれぐらいの人材なのかという比較判断は、絶対基準を持っている人にしかできません。他者との比較ができないために、合否の基準がぶれることがあります。
相対評価なら多くの人ができると思っています。たとえばグループ面接をおこなえばグループ内で学生を比較することができるので、絶対人感がない人でも確信を持って「この人がいい」と選ぶことができます。とはいえ、グループ面接をすれば精度の高い面接をすることができるというわけでもありません。
たとえば、100人の学生をグループ面接するときに20人の面接官が1人あたり5人ずつ見るよりも、5人の面接官が1人あたり20人の学生を見るほうが採用においては最適だといえます。20人の面接官が5人ずつ見る形式であれば、5人全員ダメな場合と、5人全員イケてる可能性があります。もし、相対感しかない人が見ると、その中で5人全員を落とせばいいのに3人上げてしまったり、5人全員上げなきゃいけないのに2人落としてしまったりする可能性が出てきます。
5人の面接官が20人のグループ面接をおこなうと、20人全員だめな学生ばかり集まるような偶然はなかなか起こりません。その中で30%を上げろとかいうオーダーは筋が通っていって、結局精度が高くなります。なのでグループ面接は小分けにすればするほど、採用の精度が下がっていきますし、面接を通過する人材にブレやムラが生じてしまいます。
面接の合格率は30%を基準に
採用のプロセスにおいて、面接を4回ほどおこなって内定者を決定するのが平均的な数値です。1次面接、2次面接、3次面接、最終面接と各回の面接の合格率は約30%といわれています。そして、大手企業では選考参加者数から内定を獲得できる学生が約1%と言われています。
何千、何万という企業が試行錯誤を繰り返した結果、各回の面接での合格率約30%を4回繰り返して内定を決めるということから、合格率は「30%×30%×30%×30%=約1%」ということになるので、面接における合格率を30%に設定するのは状況証拠として間違いではないと考えています。
もし面接での合格率が15%とか20%になっていたりしていれば、落としすぎていると考えたほうがいいかと思います。
ダイヤモンドの原石を採用できているか?
曽和氏:今まで長い間採用をしてきましたが、「ダイヤモンドの原石」になり得る学生たちの過去にやってきたことの表面的なところを見たら、たいしたことをしてきていないケースが多いです。また、エビデンスが揃っているようでピカピカに光っている学生たちはダイヤモンドではなくガラス玉であることが多いです。
ダイヤモンドの原石のような学生とは、 「いろいろ聞いてもたいしたことが出て来ないんですけど、なんか匂いを感じるんですよね。こいつちょっとダメかもしれないですけど、会ってくれません?」 となる学生のことです。
このような学生を面接で発見できない会社は採用力が低いと私は考えています。
つまり、上位選考者が「エビデンスを持っている学生しか上げるな」と言うような採用は、優秀層が採れない採用だと思っています。
面接の段階に合わした担当者
曽和氏:面接担当者ガイダンスにおいて「学生のパーソナリティが求める人物像に当てはまるかをチェックしてください」といったことを役割として担当者に押し付けたり、お願いしたりするのはやめたほうがいいと思っています。
1次や2次面接における面接担当者に学生のパーソナリティをチェックしてもらうなんて、ものすごく難しいことだと思います。なので、面接担当者に役割を限定してあげることが大事です。学生の基礎的なスキルとか、話の内容よりも言っていることがわかりやすいかとか、ちゃんと話が伝わるかどうかとか、簡単な基準で判断ができるようにしましょう。
中期面接ぐらいになってくると、パーソナリティを重視して面接をおこなう必要が出てくるので、人事や管理職の方を面接担当者にすることが増えてくると思います。管理職の方々であれば人を評価や、育成をした経験があるので、そのときにパーソナリティチェックをおこないます。
最後の最終面接というのは、絶対感覚がある程度ある人が見ないといけないと思っています。なぜなら、それなりの数をこなしていないと、人のジャッジができないんです。
たとえば、肉食なのか草食なのかっていうのはわかるんですけど、肉食系といっても猫レベルなのかハイエナレベルなのか、ライオンレベルなのか、経験が浅いと判断ができないと思います。私は今まで面接で学生たちを2万人ほどをみてきました。その中には、応援団長100人や、アメフト採用をした際にはクォーターバックのポジションで活躍した人をいっぱい見ましたし、スタバの店員を経験したことがある人なんて数え切れないほど会いました。となると、スタバのデキる店員とまあまあの店員とダメな店員とかって、だいたいの区別が付くようになります。
このようにある程度の数をこなせるようになるとレベル感がわかるのですが、そこを初期の段階で面接担当者に求めることはおそらく難しいのではないかと考えています。
5.途中辞退率
採用における7つのポイントの中でも特に、この一番見捨てられがちである「途中辞退率」にKPIを設定するべきだと曽和氏は考えています。
曽和氏:途中辞退というのは、一旦受け始めた人が全選考を通じて、不合格と内定辞退以外で離脱することをいいます。その選考に関わった人数から途中辞退者を割合で表した数値を途中辞退率といいます。この途中辞退率をKPIにすべきだと私は思っています。
大抵の人事の方々は1次面接から2次面接、2次面接から3次面接、と、各回のみで判断すると過小評価してしまいがちです。掛け合わせると、「半分も辞退してる!」と気づくことがあります。一度の面接フローでの辞退率を見るよりも全体を通じてどのぐらい辞退しているのかを見たほうがいいと思っています。
途中辞退率の要因は「スピード」
曽和氏:途中辞退率は30%ぐらいが平均的で、50%を超えている場合は何か原因があります。その最大要因は「スピード」ですね。
たとえば公務員の場合、結論が出るまで2ヵ月弱かかりますが、学生が離脱しない理由としては1つ、超人気企業だから待つということです。もし採用に課題を抱えているのであれば、最初の接触から2週間~1ヵ月以内に結論を出さないと遅いと思います。
そのためには、サプライチェーン・マネジメントじゃないですけど、一次選考合格者が非常に多く、二次選考の枠が少ないので待たせているといった滞留をなくということです。た人事担当者であれば、滞留することはある程度予測できますし、全部計算できるはずなんです。
このように簡単に計算をしていけばどの段階でどれだけの人数が必要で、どれぐらいの日数が必要になるのかを逆算することができます。
【TIPS】
- 合格率を何%にするのか
- 例年の途中離脱率から、合格者からの離脱率を考える
- 合格通知の電話にかかる日数を把握する
このように計算・計画をおこないながら、どれぐらいの日数で採用を進めていけるかを考えることができます。
これを日ベースでやって、設計していく。もちろんモニタリングをきちんとして、滞留がいかに起こらないようにするか。たとえば、一次選考の合格率が思ったよりも増えたので、二次選考の面接枠が足りなくなってきましたと。じゃあ現場に要請を頼んで面接官を増やそうということに早く気づいて、先に手を打って確保していくなどをやっていかないと、滞留してスピードが遅れてしまいます。すなわち辞退が続出するということなんです。
絶対してはいけないことは、「部屋がないから面接ができない」ということです。1部屋しか準備できないので、1日当たり5人しか面接ができないから100人だと20日間かかってしまうという企業をまれにみます。「この時点ですでに学生のリストがあるんだったら部屋を借りてでも全部やりましょうよ」と提案するべきです。
どうしてもできないんだったらテルジャッジ(前回の記事参考)みたいな感じで、受験者をABCDとクラス分けをしておけば、先に優秀層とか辞退層(非ファン)の面接を優先的におこない、順番にやっていくようにすれば辞退率は下がります。
6.内定辞退率
内定辞退者が多いと採用に問題があったと考えるのが一般論かもしれませんが、内定辞退者が少ない採用ほど優秀層が獲得できていない、すなわち「ファン採用」に偏っている採用になっている可能性があります。
曽和氏:内定辞退率数字を鵜呑みにするのは危険な数字だと思っています。
たとえば一番上の人事担当の取締役は、内定辞退率が高いと怒って「内定辞退率を低くすることがKPIだ」と言うのですが、これを低くするのは簡単で、ファン採用をすればいいだけの話です。ですが、その採用が果たして満足ができる結果ということができるのでしょうか。
私がある総合商社の人事部長の方から、「内定辞退者はほとんどなくて1人とか2人、うちの新卒採用うまくいっているんですよ」という話を聞いたときに、競合と人材を取り合ってる中で、内定辞退者が少ないのはおかしいと思ったんですよね。
そこで私は「それって非ファン採用ができていない、ファン採用しかできていないのではないでしょうか」と伝えました。その会社は毎年100人から150人ほど採ってるんですけど、100人ぐらいまではいい人材だと思って採用をしていて、残りの40人ぐらいは目をつぶって採用をしているみたいなんです。優秀な学生にリーチできていないという問題がそこにはありました。
内定者をファン、非ファンか見極める方法としては、内定者の採用競合をみればいいです。採用競合が同業他社の場合はほとんどがファン採用であるといえます。なぜかというと、学生時代に戻って考えてみてもらえばわかるんですけど、「志望業界しか受けない人っていましたか?」おそらくいろいろな業界を受けていましたよね。なのにうちの内定者が業界志望者ばかりっていうことは、池が狭いのでファン採用しかできていないということになります。
業界軸で受けている人は、業界内順位で志望度を決めています。ということは、自社の業界内順位によって優秀層が来るかどうかが決まってくるのです。つまり自社の採用ブランド以上に優秀な学生を採用をしようと思ったときにはファン採用はマイナスになってしまいます。
重要なのは、攻めてて辞退率が低かったら良いんですけど、攻めてなくて辞退率が低い採用をして喜んでるようじゃだめだということなんです。なので内定辞退率は中身を見るようにしていただきたいです。
7.応募者数
採用担当者にとって応募者数を増やすことがメインになりがちになっていますが、ナビを使った一般的な応募者数の増加に関しては、広告掲載費に応じて変動します。
ここで曽和氏がお話をしていたのが、「スカウト型採用」という母集団形成手法です。
スカウト型採用とは
曽和氏:スカウト型採用って何かというと、基本的にはリファラルです。内定者や新入社員から数珠つなぎでそのネットワークを利用して母集団形成をするというだけの話です。たとえば、学生のSNSを見ていればその友だちとかわかりますよね。その中から気になる学生にアプローチをするようなこともできる時代になってきています。
「うち紹介してくれって言ったけど、全然来ないんだよ」っていうのは、メールを簡易に送っただけなどが原因としてあります。そんなんじゃ絶対来ないですね。紹介は誰だって責任を感じてしまうからあまり積極的になれないんですよね。
また、学生はめんどくさがりやなので、「これコピペして貼ってるだけでいいんだ」とか、イベントに誘いたいならPDFを作って、「そのPDFを転送するだけでできる」という簡単なオペレーションにしておくことが大事ですね。
内定辞退者からのリファラル採用が効果的?
曽和氏:最近の悩みは、リファラル採用をしたいのですが、上下のネットワークがないときがあるんですよね。そんな時はどうするかというと、内定者の背後にあるゼミとかクラブとかバイト先の中にいる主将とか、ゼミ長とかバイトリーダーを紹介してもらうんです。彼らだったら大体みんなを知ってるんですよね。あとはその中心の方に良さそうな周りの学生を紹介してもらうっていう二段階方式でいくと、結構うまくいきます。
あと「友だちを連れてきて」っていうんです。採用担当者は何するにしてもとにかく「友だちを連れてきてよ」って常に確認とるようにしたほうがいいですね。これで応募者が1.2倍ぐらいになったりします。大体連れてこられた人のほうがよかったりするんですよ。「友だちに連れてこられてオーディション受けたら私が受かっちゃいました」みたいなタレントいるじゃないですか。あと、紹介の紹介でいい人がいたらその人の周りにはまたいい人がいるとか。
その他には辞退者からの紹介ですね。辞退者のほうがいいんですよ。リクルートも受かったけどマッキンゼー行っちゃったとか、三菱商事に行っちゃったとか、そういう学生の周りにはいい人がいっぱいいるわけですよ。辞退者に「久しぶり」とか「心変わりしてない?」とかって聞いて。「じつは、今度インターンシップやるんだけど、ちょっと後輩紹介してよ」みたいに言うと、返報性の法則のように、辞退してしまった代わりに何かお返しできることはないかと、結構内定者よりもがんばってくれたりするんですよね。
あと、とくにリクルーター制が復活してから、上位校の学生の採用は難しくなっています。大手企業の上位校生の採用比率がまた上がりました。でも私は何回も言っています、学校がいいからっていいわけじゃないです。いい学生がほしいわけですよね。だったら最初から中間校の優秀層を狙っていくというのも1つの手です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では、採用における『戦術』を考える上で役に立つ、KPIをおくべき場所やその手法について、曽和氏のナレッジをご紹介しました。採用難と言われている時代で、会社を更に成長させるには優秀層の採用を成功させる必要があります。そのための戦術に関しては、すぐにでも採用活動に取り入れていただけるノウハウであると感じています。ご参考となれば幸いです。
曽和氏のセミナー記事は残り2回を予定しており、曽和氏が考える3つの採用プロセス「戦略」「戦術」「戦闘」から、「戦闘」にフォーカスをあてた記事を公開予定となっております。採用担当者が身につけるべき、学生と1vs1での重要なスキルが詰まっている内容なのでぜひお楽しみに!