今回は、「一撃必殺のメスライオン」こと株式会社ネオキャリア 経営企画本部 中途採用部 部長の宇田川奈津紀氏と、「武闘派博士」ことレバテック株式会社 エンジニア部長の久松剛氏による、人事とエンジニアが協力してエンジニアを採用するためのノウハウをご紹介します。
お二人は前職の職場で、人事とエンジニアで共に協力し、多数の新卒や中途のエンジニア採用を成功させてきたとのことです。 現職でもたくさんのエンジニア採用に携わっているお二人だからこそのエンジニア採用術を、各選考フローごとに解説していただきました。
人材不足は年々深刻になり問題視されております。特にエンジニアの採用は難しく、苦労している人事担当者様が多いのではないでしょうか。ぜひ、本記事を参考にして頂けると幸いです。
久松 剛 氏 | レバテック株式会社
宇田川 奈津紀 氏 | 株式会社ネオキャリア
目次
『求人票作成』における協力体制
求人案件が発生した際、まずはじめに取り組むのが求人票作成。特にエンジニアを採用する場合、どのような点に気を付けて求人票を作成していくのか。
宇田川氏:求人案件が発生した際にエンジニアに「こういうプロダクトを開発する」「開発環境はこういう感じ」などを書いてもらい、そのままコピペして求人票に載せている方が多いのはないでしょうか?
しかし、これは大きな間違いです。 求職中のエンジニアが欲しい情報は、おそらくこうした内容ではないんですよね。
何百とあるエンジニア求人の中から、自社の求人に目を留めてもらうためには、「エンジニアは何が知りたいのか」をエンジニアに直接聞いてみることが大切なのです。
久松氏:たしかに、エンジニアにとっては、一般的な福利厚生よりも「PCがMacなのか、キーボードの配列は指定できるか」「外付けキーボードは買えるのか、自分で持ち込んでいいのか」「音楽を聞きながら仕事をしてもいいのか」という日々の仕事環境を気にされる方が多いです。
また、言語やフレームワーク、ミドルウェアなどの開発に関わる部分は重要といえば重要ですが、細かく書けば書くほど、読み手であるエンジニアは「このミドルウェアは触ったことがないからやめておこう」という気持ちにもなります。
そのため、情報が多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。古かったら古かったで「ダサい」と思われるので、それもだめなんですね。
逆に、開き直って古いフレームワークを出しておいて現実をさらけ出しつつ、「これを一緒に直してください」というと刺さる人もいたりするので、このあたりは求人票を分けて対応するといいかもしれません。
宇田川氏:あと、自社のエンジニアに「前職は何を開発していたの?」「なぜウチに入社したの?」「どんなところが魅力に見えたの?」ということをヒアリングして、人事がしっかりと理解する必要があると思っています。
こうした情報は、エンジニアを口説くひとつのポイントになります。求人票を作ることはもちろんのこと、スカウトを送る際のヒントになるかもしれません。
前職でも、自社のエンジニアに「転職の際にどんな情報を知りたいですか?」と尋ねたら、「どんな人と一緒に働くのかを知りたい」ということだったので、「どのような経歴を持ち、何を開発してきて、何を担当しているエンジニアなのか」という情報も求人票に盛り込みました。
求人票を書く上で、エンジニアと人事で担当するパートを話し合って進め、お互いが書くべきポイントの棲み分けをおこなうことが重要だと感じています。
・一緒に働いているエンジニアの経歴を人事が理解する
・エンジニアにヒアリングをおこないながら理解力を上げる
・最終的に人事が求人票をまとめる
『ダイレクトリクルーティング』における協力体制
候補者が上がってくるのを待つのではなく、人事が人材データベースに求める人材を探し、採用する「攻め」の採用手法がダイレクトリクルーティング。ダイレクトリクルーティングにおいても、レジュメの抽出やスカウトメールを送るうえで、エンジニアとの協力が重要。
宇田川氏:ダイレクトリクルーティングをおこなうには、まず人事がデータベースからエンジニアを抽出できるようになる必要があります。
私の場合は、まず自社のエンジニアにどんな条件とスキルで抽出すべきなのかをヒアリングし、データベースからピックアップしていきます。
その後、ピックアップしたレジュメをエンジニアと一緒に見てもらいながら、「この言語での開発経験がもっとほしいよね」「この会社でこの開発を経験しているからピンポイントの人だよ」など、アドバイスをもらうようにしました。
1週間に200枚レジュメをデータベースからピックアップしエンジニアに見てもらう。これを4週間繰り返したんです。何度も重ねていきながらレジュメの抽出精度レベルを上げていきました。
最初はお互いに時間がかかってしまいとても大変な作業だと思うのですが、エンジニアと人事が一緒にレジュメをチェックしていくことで、少しずつエンジニアが話していることやレジュメを見るポイントが分かってきました。
200枚を4週間連続で、累計800枚チェックし続けたら、「この人は抽出しない」「この人を抽出しよう」というポイントが分かるようになります。
エンジニア採用を成功させる大きな秘訣は、エンジニアが人事を教えて育てることだと思います。
また、求職者に送るスカウトメールは、エンジニアに「こんなことを書いてもいいですか?」「エンジニアってこういうこと刺さったりしますか?」などと、フィードバックをもらいながら、書いているうちにエンジニアへのスカウトメールも苦ではなくなり、だんだんスキルが身についていくのが楽しくなりました。
エンジニアも一撃必殺できるようになりましたね。
・エンジニアと一緒にレジュメ判定とすり合わせをおこなう
・人事がレジュメを理解するには、エンジニアの力が必要
『紹介会社とのやり取り』における協力体制
紹介会社とのやりとりは基本的に人事がおこなうもの。 しかし、紹介会社とのやりとりも人事とエンジニアで役割を分担することで、紹介会社との連携がスムーズになったり、紹介会社からとの関係性をより良いものにすることができる。
宇田川氏:紹介会社へ求人を説明する際は、自社に来てもらうのではなく、エンジニアと一緒に紹介会社に出向いていました。
人事が紹介会社に出向くことがそもそも珍しく、それに加えエンジニア責任者が同席していることはかなり珍しいですよね。
何よりも採用の本気度が伝わりますし、会社ビジョンとエンジニアの生の声を直接届けることで紹介会社の方も理解してくれて推薦が上がってきます。
久松氏:これまでいろいろな紹介会社とやりとりをさせていただいていたのですが、最終的には求職者と対話をするキャリアアドバイザーさんの想いが、どれだけ大きいかということが大事だと感じました。
キャリアアドバイザーさんは、いろいろな会社や求職者と会うので、どんどん脳の記憶が上書きされていきます。
つまり、記憶が薄れるごとにどんどん優先順位が下がってしまうので、自社を記憶に残してもらうということを意識していました。
宇田川氏:また、紹介会社に対しての自社の説明もエンジニアと人事で分担しておこなっていました。
エンジニアにささるポイントはエンジニアから、福利厚生や会社のビジョン、売上高がいくらか、従業員数はどれくらいかなどの会社の情報は人事からと役割を分けていました。
久松氏:紹介会社を脅してしまうと、候補者を紹介してもらえません。なので、「とりあえず会ってみます」「練習だと思って呼んでください」と、伝えていました。
そうすることで「この企業は怖くないんだ」と感じてもらうことができ、候補者をたくさん送ってくれるようになります。
・紹介会社を呼ぶのではなく、一緒に出向くスタンスが必要
・紹介会社への説明は、分担しておこなう
・「取り合えず会ってみる」スタンスを忘れずに!
『面接(候補者に対して)』における協力体制
いざ採用面接に臨む時、ここでも人事とエンジニアの協力体制が力を発揮。面接の進め方のポイントや、スキルチェックのプログラミングテスト実施において気を付けたいポイントをヒアリング。
久松氏:面接において意識していたのは、面接というよりは、面談や人生相談という感覚で実施するということです。
宇田川氏:それでもエンジニアの中には採用面接に慣れてない方もいらっしゃるので、エンジニアが詰め寄ってしまったり、圧をかけてしまったりしたときは人事の出番ですね。
久松氏:面接官の面接の仕方って自分が受けた面接に影響されるんですよね。なので、就職氷河期に入社した人は、自分が体験したような圧迫面接をしてしまう人が多い印象です。
宇田川氏:もしエンジニアの面接に同席して圧迫感を感じたときは、すかさず「いきなり何人も面接官が出てきて緊張しちゃいますよね?ごめんなさい。〇〇さん、お仕事している時はいつも優しいじゃないですか~それじゃ求職者さんが余計緊張しちゃいますよ!」などと、人事がフォローをいれることが大事かもしれません。
久松氏:たしかにそうですね!
あと、採用面接の時に僕が意識していることがもうひとつあって、それは面接担当エンジニアのノートPC持ち込みの是非です。
求職者を前にしてノートPCをカタカタしていると、あまり良い印象を与えません。 面接をちゃんと聞いてくれて、それをメモしてくれているエンジニアもいるのですが、こっそり内職しているエンジニアもいます。
これはエンジニアに限ったことではありませんが、特に後者だと思われるようなタイプの人と面接に入るときには、ノートPCは持ち込ませないように気をつけています。
宇田川氏:次はプログラミングテストですね。私はこのフローは完全にエンジニアに任せていました。
すごく人柄がよくても技術力が足りていなければ、採用後にエンジニアを苦しめることになります。なので、技術力の判断は完全に任せています。
久松さん、プログラミングテストはどのように実施して、判断していたのですか?
久松氏:僕は、プログラミングテストを2パターン用意しています。
ある程度のプログラミングスキルを持っているという人には、大体5問くらいのプログラミングのテストを出題して、30分でどれだけ書けるかというテストを受けてもらっていました。
これが結構ハイプレッシャーなテストで、テストをしていると本性が出てきやすいのでそれも判断材料にしていました。
一方ポテンシャル寄りの人、いわゆる新卒や第2新卒、キャリアチェンジのような人たちには、まず幼児向けの学習教材のオンライン版みたいなもので、論理的思考能力があるかどうかを見ます。 あとは、インフラエンジニアのテストもしていました。
ワードプレスを立てて、その環境をわざと5箇所くらい壊して、その危機をどう乗り越えるのかといった点も見ていました。トラブルが起きたときに、焦らずに誠実に仕事ができるかといった点がゆくゆく大事になってくるので。
プログラミングテストにおいては、全問正解を期待しているわけではなくて、たとえば正解が2問・3問であっても、その解答に至るまでのプロセスや質問の仕方に筋が通っているかどうか、あるいは少しずつでも思考を発展させられているか、というポイントを見ていました。
ちなみに、プログラミングテストをおこなうタイミングは一次面接時ではなく、二次面接の冒頭が効果的です。
一次面接でプログラミングテストがあると嫌がるエンジニアが多いですし、会社のことを知ってもらって気分を高めた後にスキルチェックをおこなうことが重要だと考えています。
また、このタイミングでテストを実施すれば、本性がどうなのか二次試験で確認することができます。
プログラミングテスト後に面接の時間を設ければ、テストのフィードバックも同時に実施でき、「この会社のエンジニアはいろいろ教えてくれるんだ」と、特に若手には好印象を持ってもらいやすいですね。
宇田川氏:人事としても注意しておきたいことがあります。
たとえば、旧帝大卒で、大学院も出ているなど、ハイスペックな経歴を持つ候補者を不採用にしてしまうと、紹介会社から「なぜ落とすんですか?この人が決まらなかったら、そもそも紹介もできないですよ?」と言われることもあります。
紹介会社とのやりとりは人事がおこなうので、不合格とした理由をしっかり把握しておかなければなりません。
テストの結果でどういったところがNGだったのか、人事もエンジニアから具体的にフィードバックをもらっておく必要があります。
・エンジニアはプログラミングテストに責任を持つ
・テスト後のフィードバックは人事に分かりやすく話す
・テストNGでも人事はエンジニアを怒らない
『最終面接対策』における協力体制
最終面接前の事前準備においても、人事とエンジニアが協力しあうことで、最大の効果を生み出す。時には一緒に社長へ事前プレゼンをしたり、紹介会社へも最終面接対策をお願いしたりすることも大事なポイント。
久松氏:求職者に対しては、最終面接の対策をエンジニアがおこなうようにしていましたね。
自社のアプリや会社情報をしっかり調べてきてもらうなど事前準備をしてもらうこともありました。
また、最終面接の30分前にお呼び出しして、「ちゃんとアプリ入れて触ってみた?」「インストールだけでなく会員登録もしないとだめだよ?」と、徹底的に最終面接の準備をしました。
宇田川氏:あとは紹介会社にも最終面接対策をお願いしましたね。
「社長はこういう話し方をします。客観的に見られる方なので、少し冷たく感じるかもしれない。でも、本当はとても優しい方なんですよ。これまでの面接の中でお話をいただいたそのままを社長に伝えてみてください」と紹介会社にも伝えて、紹介会社からも求職者に伝えてもらいました。
久松氏:社内でも準備することはたくさんあります。
例えば、非エンジニアの社長は、エンジニアの給料の相場がイメージできず、求職者の希望年収が適正かどうかがよくわからないんですね。
なので、人事とエンジニア協働で「この人はこういうようなスキルで、ここのポジションがマッチしているのでこれぐらいの年収はいくんですよ」など、事前にいかにこの候補者を採用したいか、年収も問題ないということをプレゼンしていました。
宇田川氏:そうですね。最終意思決定者が非エンジニアな場合、「フィーリングが合わないから厳しいよ」と言われてしまう可能性もあるので、「社長とは違ったタイプの方ですよ。
でも、エンジニア責任者からの技術力の評価は高いんです!」と、事前に伝えておきます。
また、今の転職市場でどれぐらい希少なスキルをもった求職者なのか、「この人を逃したら、いつこのようなスキルを持った方が現れるか分からないです!」など、自分たちが感じる危機感も伝えるようにしていました。
久松氏:そういうことを繰り返していると、社長も「エンジニアの良し悪しは、人柄だけじゃない」と分かってくれるようになります。
宇田川氏:そうでした。人事とエンジニアで協力して、最終面接で落とされてしまいそうなリスクをあらかじめ排除しておくことが重要だと思います。
・人事は紹介会社に協力を募る(求職者FBとコーチング)
・最終面接前にエンジニアと人事で代表へ報告をする
・伝えること(欲しい度合い、スキルレベル、市場感)
『クロージング』における協力体制
クロージングにおいても、人事とエンジニアそれぞれの役割分担が重要なポイント。求職者に対して、人事は何を伝え、エンジニアは何を伝えるべきなのか。
宇田川氏:クロージングの部分では、人事からは紹介会社さんへのヒアリングを重視しておこなっていました。
たとえば、「候補者が最終面接通過しました。現年収も考慮させていただいて年収はこの額で提案しようと思っています。社長面接が終わって、候補者の相対的な志望度ってどのぐらいですか?競合の状況はいかがですか?年収はどのくらいですか?」などのヒアリングを徹底的におこないました。
あとは、同じプログラマーのエンジニアに会いたいのか、リーダーの人間に会いたいのか、何か懸念点や不安要素はないか、といった点もヒアリングしました。
紹介会社にヒアリングした内容をもとに、不安材料を取り除くために社内交渉をしていました。やはり一番難航するのが年収交渉ですね。
また、求職者の懸念点を払拭するために会食を開いたりもします。会食の設定はエンジニアがして、店の予約などは人事がやってあげてください。
当日は、人事は会食に参加しないことですね。ギークな世界観を壊してしまうので。
久松氏:会食後はその場で内定承諾してくれることが多いです。
会食が終わったら、FacebookメッセンジャーやLINEで人事に会食の報告をします。
内定承諾してもらえなかった場合は、翌日に紹介会社にフィードバックを聞いてもらうなど、会食後は人事にバトンタッチすることが多かったですね。
宇田川氏:辞退になってしまってもどうしても採用したい方であれば、求職者さんに会いに行って直接お話をしました。
ここは、エンジニアは一緒に行ってはいけません!
なぜかというと、あまりに頻繁にCTOやエンジニア責任者を露出してしまうとのプレミア感がなくなってしまうんです。
人事は、CTOやエンジニア責任者から一任されているという自信を持って求職者に会いに行ってください。
最後に
いかがでしたでしょうか。
エンジニアを採用するには、人事だけでなくエンジニアと協力して採用をおこなうことが重要だと感じたのではないでしょうか。
エンジニアを採用に巻き込むのはなかなか難しいと思いますが、エンジニアと少しずつ距離を縮めていき、一緒にエンジニアを採用したいという気持ちを伝え、エンジニアと人事が一体となってエンジニア採用を成功させていただければと思います。