
近年多くの企業が共通して直面している現実があります。それは「優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまう」という課題です。
この連載では、リクルートマネジメントソリューションズが現場でのインタビューと調査の実施を通じて構成した、「キャリア入社者が入社後に適応するまでの3つの段階」というモデルをベースにして、キャリア入社者のオンボーディングと組織適応を効果的に支援していくためのポイントをご紹介していきます。
前回の第1回では、転職市場の動向を踏まえ、オンボーディング施策を実施することの重要性とその効能についてご説明しました。第2回となる今回は、キャリア入社者が入社後に仕事・組織に適応するまでのプロセスについて紹介します。

執筆者内藤 淳氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 主任研究員
1989年、東京大学文学部社会心理学専修課程卒業後、リクルートに入社。1994年、人事測定研究所に転籍。以来、法人向けの心理アセスメント、組織診断ツールの研究開発および各種人事データの解析に携わる。近年は、新卒およびキャリア入社者の組織適応、中堅社員のキャリア・離職などについての研究を行っている。2014年より、立教大学現代心理学部兼任講師。
目次
1.キャリア入社者が組織に適応するまでの3つの段階
社会に出て働いた経験を持つキャリア入社者に対しては、「新卒ではないのだから、即戦力としてすぐに活躍してくれるだろう」と考えてしまいがちですが、実はキャリア入社者の場合でも、組織に十分に適応し、その人ならではの成果を仕事で出せるようになるために2~3年はかかるものです。ここでいう「適応」とは、企業の文化や風土を十分に理解したうえで、自分らしく活躍できるようになっている状態を指します。
「キャリア入社者が組織に適応するまでのプロセスは、図表1のように大きく3つの段階に分けて捉えることができます。それぞれの時期は企業ごとに、また個人ごとに異なりますが、おおよその目安としては、第1段階が入社後の半年~1年間、第2段階が入社1~2年目、第3段階が入社2~3年目となります。
第2段階:適応中期の壁 ~リーダー的な役割を担う
第3段階:自分らしさの発揮 ~会社文化に適応する

図表1 キャリア入社者の組織適応のプロセス
第1段階:職務への適応 ~成功体験を積む
入社初期の段階では、新しい会社における仕事の進め方や作法を学び、習得することがキャリア入社者にとっての重要な課題となります。その会社に特有の用語やシステムの使い方、また暗黙のルールなど、業務を遂行していくうえでのベースとなる知識・スキルを習得していくことが求められます。
この第1段階においてキャリア入社者が目指すべき目標は、小さなことでもかまわないので、仕事上で何らかの成果をあげる「成功体験」を経験することです。
職場のメンバーは、前職での職務経験を持つキャリア入社者に対して、「どれほど仕事ができるのだろう?お手並みを拝見」という意識でいることが多いものです。仕事においてまず何らかの成果を出すことで周囲から認められるようになり、その経験がきっかけとなって職場・組織への適応がスムーズに進んでいきます。
第2段階:適応中期の壁 ~リーダー的な役割を担う
入社して半年~1年ほど経つと、リーダーやサブリーダーとしての役割を任されるようになります。業務の主担当者として自ら社内を動かしつつ課題を進めていくことが求められるようになるため、事前に社内の関係者の同意を得たり、場合によっては上位者に根回しを行ったりするということも必要になります。
自ら社内を動かすことが求められるこの段階で、キャリア入社者にとって大きなハンディキャップとなるのは、人脈やネットワークを持っていないことです。また、社内における承認や合意を獲得する上で必要となる、明文化されていない暗黙のルールや作法を理解していないことも苦労の原因となります。
実は、この時期は本人にとってのモチベーションや適応感が一番低くなるタイミングなのですが、周囲からはそのことが見えにくいため、「入社してからもうだいぶ時間が経ったので、もう会社に馴染んでいるだろう。」という認識で支援・サポートが手薄になってしまうケースが多く見られます。こうした事情も、本人にとっての負担を増すことになります。
第3段階:自分らしさの発揮 ~会社文化に適応する
この時期になると会社文化にも適応し、本当の意味で自分の強みを発揮しつつ大きな成果をあげ、組織に貢献していくことができるようになります。
前職で身に付けた知識や経験、専門性があるといはいえ、キャリア入社者にとって、入社後すぐにその会社の中で行われてきた従来からの仕事のやり方を変えていくのはうまくいかないことが多いものですが、この時期になると、その会社の仕事の流儀や組織風土もよく理解できているため、周囲にも受け入れやすい形で現実的で実効性の高い提案を行えるようになります。
順調に適応が進んだ人は、自分の会社を「うちの会社」と自然に呼べるようになり、会社の一員として自分ならではの成果をあげ活躍できるようになる一方で、すべてのキャリア入社者が滞りなくこの段階に至るわけではありません。
中には、会社に対する違和感を解消できず、「自分に何が期待されているのかがわからない」「組織風土がどうしても自分に合わない」という理由で、再び転職を目指す人も出てきます。この時期は、良きにつけ悪しきにつけキャリア入社者にとっての一つの区切りとなりやすいタイミングです。
2. キャリア入社者の適応支援のポイント
キャリア入社者の仕事・組織への適応を支援していく上では、新卒社員とは異なるキャリア入社者の特徴を把握しておく必要があります。受け入れる側が、キャリア入社者ならではの適応の難しさというものの存在をきちんと理解しておくことが、効果的な支援を行っていくうえで最も大切なことです。
- 明確な入社動機があり、前職で身に付けた知識・スキル・経験を生かしたいという気持ちが強い
- 前職での仕事の進め方・価値観との比較で物事を捉えるため、視点が批判的になりやすい
- 職場に馴染むのが難しく、「仕事上での小さな成功」がメンバーとの信頼構築の糸口となる
また、前述した適応の3つの段階を頭に入れておき、それぞれの時期にキャリア入社者がどのような状況に置かれ、何に苦労しやすいのかということを理解したうえで、時期に応じた適切な支援を行っていくことが求められます。ここでは、各段階における支援のポイントを説明します。
第1段階:職務への適応 ~成功体験を積む
歓迎の雰囲気の醸成、初期面談の実施、仕事に必要な情報の丁寧なインプット、上司や指導育成担当者による日常的な支援等を通じて、キャリア入社者が仕事上での成功をできるだけ早期に経験できるようにサポートを行っていくことが大切です。
- 初期面談などの場を通じて、本人の前職経験や志向・やりたいことを理解する
- 仕事に必要な情報を丁寧にインプットする(暗黙のルールも含め)
- 小さなことでもかまわないので、仕事上での成功を早期に経験できるように支援する
第2段階:適応中期の壁 ~リーダー的な役割を担う
本人が適応上の壁にぶつかりやすいタイミングであることを理解し、周囲からの支援が手薄にならないように留意することが大切です。この時期には特に、“人脈不足”や”他部署との連携”の面で苦労しやすいため、周囲が必要なサポートを行うことが求められます。
- 仕事上のキーパーソンを紹介し繋がりを作るなど、本人の”人脈不足”を補う
- 暗黙のルールも含め、社内での承認取得の仕方など関係部署の動かし方について支援する
- 入社後一定の期間が経つと本人からは気軽に質問がしづらくなるため、「困っていることはないか」と周りから声をかけるようにする
第3段階:自分らしさを発揮する ~会社文化に適応する
この時期になると責任のある立場を担い仕事上で活躍している人も多くなりますが、その一方で、「本当の意味で自分らしい価値を発揮できているか」と自問したり、次のキャリアについて考えるようになったりするタイミングでもあります。
「もう馴染んだから大丈夫だろう。新卒プロパーの社員と同じ接し方で大丈夫だ」と誤った考えを持つのではなく、改めてキャリア入社者の視点に立って、本人の次のキャリアステージについて一緒に考えていく姿勢が求められます。
- 改めて本人の考えに耳を傾け、今後のキャリア形成に向けた支援を行っていく
- 会社としてあるいは上司として「今後本人にどうなってほしいのか」という期待を明確に示す
- 会社・組織の業務改善に向けた本人の提案意欲を受け止め、実現を支援する
以上、今回はキャリア入社者が入社後に仕事・組織に適応するまでのプロセスについて紹介しました。
第3回となる次回では、キャリア入社者が組織に適応していくための最初のステップである「第1段階:職務への適応」の特徴と適応に向けた支援について、データも示しながら詳しくお伝えしていきます。
