インタビュー企画第3弾。今回は、日本IBMのコンサルティング事業本部でハイブリッド・クラウド&データ事業を率い、ブランディングも担当されている藤森慶太さんにお話を伺いました。
急速に変化する社会において、企業が未来に責任を持つとはどういうことなのか。これからの時代に必要な視点に迫ります。ぜひご覧ください!

登場人物藤森 慶太氏日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 コンサルティング事業本部 ハイブリット・クラウド&データ事業担当 Future Design Lab担当
米大学院にてファイナンスマネジメント修士号取得後パナソニック入社。2008年より日本IBMに移りファイナンスコンサルティングに従事。2014年通信・メディア・公益サービス事業部長、同年Apple社とのグローバル戦略提携を受け、日本のApple Alliance Leaderに着任。2015年モバイル事業を立ち上げ、多くの業界・業種にてテクノロジーを起点とした業務変革、ワークスタイル変革プロジェクトを実施。2018年インタラクティブ・エクスペリエンス事業部長、UXアプローチによる企業システム再構築や企業のDX支援サービスの立ち上げを実施。2020年より戦略コンサルティング&デザイン事業を統括を経て現在ハイブリット・クラウド&データ事業担当としてクライアントのAI・データ活用を支援。

登場人物戸田 裕昭氏株式会社WE 代表取締役 / 総務省地域力創造アドバイザー
大学卒業後、オフィス家具メーカーにて新規事業創出・地域活性化に携わる。総務省地域力創造アドバイザーや国土交通省スマートアイランド推進実証事業コーディネーターなどを担い、全国各地の地域における事業振興のアドバイスを行なっている。 また、個々人のやりたいことが起点となる事業創出を目的とした伴走型教育プログラムを開発・構築。小学校から大学までの教育機関や自治体、民間企業と連携し、人材育成を軸とした「組織変革」「事業創造」「地方創生」を行う。
自己紹介
― まずは自己紹介をお願いします。
私は、日本IBMのコンサルティング事業本部でハイブリッド・クラウド&データ事業を担当しています。加えて、今はブランディングの役割も担っています。
2020年のコロナ禍で強い危機感を覚えて、「Future Design Lab(フューチャー・デザイン・ラボ)」という組織を立ち上げました。テクノロジーが問題解決の大きな鍵になることは間違いありませんが、一方で“未来に対して責任を持つべきだ”という想いを強く持つようになりました。
YouTubeや社内の仲間との議論を通じて「これからの社会に本当に必要なものは何か」を考える場を作り、テクノロジーを活かしつつも人や社会を置き去りにしない――そんな倫理観を意識するようになったのも、この活動を始めた大きな理由です。
テクノロジーが進化する今こそ問われる「倫理観」
― 自己紹介のお話を伺う中で、倫理観を大切にされていると感じました。そう考えるようになったきっかけや体験はありますか?
そうですね。私も自分を犠牲にしてまで人を幸せにしたいタイプではありません。自分の利益も大事ですが、欲望には際限がなく、突き詰めると“倫理観”の問題に行き着きます。だからこそ企業が責任を持って倫理観を高めていく必要があると考えています。
特にその思いが強まったのはコロナ禍でした。リモートワークや宅配が普及し、自宅でほとんどのことが完結できる状況になりましたが、その便利さの裏には医療従事者や物流を支える人たちの存在がある。その姿が見えにくくなったことに強い危機感を覚えました。
― それは私も感じていました。便利になった一方で、人が支えている現実が見えにくくなりましたよね。倫理観という観点でも、ほかに印象的な問題意識はありますか?
そうですね。もう一つ強く感じているのが“アテンション・エコノミー”の問題です。今はショート動画やゲームなど、優秀な人たちがどう人々の注意を奪うかに知恵を注いでいます。楽しい仕組みですが、気づけば何時間も奪われてしまう。
本来、人は余白の時間に考えや発想を生んできました。その余白を無責任に奪うことは人を不幸にしかねない。だからこれは企業の倫理観の問題でもあると思うんです。
“役を演じる”ことで生まれるフラットな組織
― 現在の部署において、マネジメントで意識されていることはありますか?
私が意識しているのは“役を演じる”という感覚です。上司も部下も役を演じていると考えるので、厳しいことを伝える時も感情ではなく役割として伝えられる。結果的にフラットな関係を築けていると思います。
正直に言えば、私は人に怒るのは得意ではありません。でも“役を演じている”と考えるからこそ、必要なことを冷静に伝えられる。初めてマネジメントを任された34歳のときも、この考え方に助けられました。
― 34歳ですか?それは若いですね!(笑)
そうなんです。不安もありましたが“役だからやる”と割り切ることで、チームもフラットに動けました。
― なるほど。では、IBM全体にそうした文化が浸透しているのはなぜでしょうか?
日米の文化の違いが大きいと思います。アメリカは“ロール=役割”を基準に採用や評価を決め、人に依存しない仕組みです。
また、IBMには“ヘッドライト・オペレーション”という考えがあり、後ろを振り返らず前を見て次に備える文化が根づいています。これがフラットで健全な組織運営につながっていると思います。
日本企業に残る強みと課題
― 日本と海外の違いのお話が合った中で、日本企業がどのようなことを変えていけば良いと思われますか?
日本企業には強みもあります。有事に強く、危機が起きると現場が一丸となれる。離職率が低く、社員が長く勤める基盤があるのも良さです。
ただ裏を返すと、これは属人的だからこそ機能している面もあります。特定の人が抜けると一気に弱くなるリスクがある。加えて、日本は“後ろを振り返る”文化が強く、責任追及に時間を使いがちです。
もちろん反省も大事ですが、“次どうするか”を常に考えなければ、意思決定のスピードで世界に遅れをとると思います。
テクノロジー時代に求められる働き方
― テクノロジーが発達する中で、未来の働き方はどうなっていくと思いますか?
仕事そのものは無くならないと思います。世の中は常に「何かが無くなれば、何かが生まれる」という循環で成り立っています。テクノロジーの進化によって効率化される仕事もあれば、その分、新しい職業や役割が必ず生まれていきます。
ただし、その変化は想像以上のスピードで進んでいます。AIをはじめとするテクノロジーの進化に合わせて意思決定も早めなければ、チャンスを逃してしまうでしょう。これから求められるのは、決められたことをこなす力ではなく、自分で考え、柔軟にシフトし、周りと協働して新しい価値を生み出す姿勢です。
― 私もそう思います。特に、人とうまくやる能力の大切さを強く感じています。どれだけテクノロジーが進んでも、最後は人と人との関係がすべてですよね。
まさにその通りです。AIやテクノロジーがどれだけ進化しても、「人を励ます」「信頼関係を築く」「相手の気持ちをくみ取る」といったことは人間にしかできません。ビジネスの現場でも、最終的に人を動かすのはデータではなく“人の言葉”や“態度”です。
だからこそ、これからの時代は“人間力”が一層大切になります。効率やスピードを追い求めるだけではなく、人と人がどう関わるかに価値を置ける企業が、結果的に強くなっていくのだと思います。
―今の時代だからこそ、本当に大切なことですね。
人事へのエール
― 私は人事の方とお話しする事が多いのですが、本当に大切な役割だと感じています。ぜひ、今頑張っている人事の方にメッセージをお願いしたいです。
私も、人事は会社で最も重要な組織だと思います。先ほども言いましたが、テクノロジーがどれだけ発達しても、最後に残るのは人間です。仮に人間が直接の仕事から外れても、“人間が強い企業”が最終的に生き残る。最後はヒトなんです。
だからこそ人事には“目の前のKPIだけを追う”のではなく、“未来を見据えて人を育てる”という発想を持ってほしい。「人を育てることが会社の未来を育てる」ことにつながるということを意識してぜひ頑張ってほしいなと思います。