プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開にあたって|「プロアクティブ人材」育成実践術 #8 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開にあたって|「プロアクティブ人材」育成実践術 #8 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開にあたって|「プロアクティブ人材」育成実践術 #8

  • 組織
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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

寄稿者下野 雄介株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイングループ 部長

「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。

寄稿者 宮下 太陽株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー

立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。

本連載は、拙著「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)の内容をベースに、『「プロアクティブ人材」育成実践術』と題して、プロアクティブ人材を育成していく具体的な実践方法・ステップを中心にご紹介し、プロアクティブ人材を起点として人的資本経営を成果に結びつける実践的なアプローチを提示してきました。

連載を振り返ると、第1回から2回にかけては、プロアクティブ人材が「自らのキャリアと組織の成長を同時に切り拓いていく人材」であることを紹介した上で、「プロアクティブ人材は、人的資本経営を成果につなげるためには必要不可欠な存在であり、まさに成果創出の起点となる存在」であることを解説しました。

第3回第4回ではプロアクティブ人材をどう育てるのかという具体的な方法論について踏み込んでいき、プロアクティブスコアの測定方法、プロアクティブ行動を高める因果モデル、そして自社にとって意味のあるターゲットと施策テーマ設定の方法について紹介しました。

続いて第5回では、具体的な施策を展開する上で、プロアクティブスコアを共通の言語として経営・人事部門と管理職との間で関係を強化していく必要があること、第6回では管理職のマインドセットがプロアクティブ行動を向上させる上では肝となることを解説しました。

そして第7回では、プロアクティブ人材を起点として人的資本経営を成果に結びつける一連のマネジメントサイクルを回していく際に有用な人的資本価値創造モデルを紹介しました。

第1回から第7回までの連載を読んでいただいた皆様は、「持続的成長に向けた重要な育成テーマとしてのプロアクティブ人材、その方法論」に関する解像度を深めて頂いたのではないでしょうか。

最終回となる第8回は、書籍でご紹介した内容からさらに一歩進んで、「最前線の試行錯誤」についてお届けしたいと思います。既にプロアクティブ人材育成に取り組んでいる先進企業が直面している“リアル”は大きく以下の3点です。

先進企業が直面している“リアル”
  1. 個に迫る育成の主役である管理職が機能しない
  2. 働き手が白けておりのれんに腕押し状態に陥っている
  3. 施策がマンネリ化する

①個に迫る育成の主役である管理職が機能しない

第5回第6回でも解説した通り、プロアクティブ人材の育成には管理職が個人・チームに働きかけることが必要不可欠です。

しかし管理職は、「管理職の罰ゲーム化」と言われるほど高負荷・高ストレス状態にあると言われます。実際、運用の最前線では「挑戦的なテーマを立ち上げみんなを巻き込んでみよう」とか「部下の行動活性化のため、外部のイベント参加を勧めたり、それを披露したりする場を設けてみよう」といった新たな育成行動を正直取る余裕がない、という管理職の本音に接することも珍しくありません。

先進企業ではこうした管理職の高負荷問題に対して、人事部門の立場としてまずできることに取り組んでいます。具体的には「不要・もしくは効果の薄い人材育成・活性化施策を減らす」ということです。

この施策の優先順位付けにあたっては第7回で紹介した人的資本価値創造モデルアプローチが有効です。管理職が担っている施策を、成果へのインパクトと施策の負荷に基づき再評価し施策の見直しに繋げることができます。

新たな取組を行う余地を創ることと、これまでの施策を見直すことは両輪で考えるべきなのです。

②働き手が白けておりのれんに腕押し状態に陥っている

2000年代前半より「ブラック企業」、「やりがい搾取」といった企業と働き手の対立を煽るような言葉が社会に認知され始めました。日本型雇用の終焉とともに蜜月だった労使関係がバブルの崩壊とともに終わり、未だに建設的な関係が見いだせていないように思います。

このような環境で、一部の社員が、企業側の人的資本投資に対し「新たなやりがい搾取だ」と声を上げ全体の風土を棄損させるような動きに繋がることも昨今珍しくありません。

こうした場合、まずプロアクティブ人材となることに対する関心をどう惹きつけるか、という点がポイントとなりますが、外発的なモチベーションに働きかけるアプローチは前提条件的な位置づけであり、高めたからと言ってプロアクティブ行動を活性化する要因とならないようです。

プロアクティブ人材を育成するためには、内発的なモチベーションにアプローチすることが有効であり、先行企業ではその点に着目し、「プロアクティブ人材そのものが自身の仕事や自己実現においてどのような意味があるのか」を浸透させるための施策・活動が行われています。

例えばキャリア開発研修のテーマとして組み込む、プロアクティブ行動と様々な社内での成功を結び付けた発信・共有を行うといった活動です。

③施策がマンネリ化する

マネジメントが部下に対して働きかける場面は、日々の業務に関するコミュニケーション、雑談、目標管理・評価面談、そして最近では1on1ミーティングといった場面でしょう。人事部門は、管理職に対して、こうした場面の中で有効な部下育成を行うためコーチングやティーチング、アンコンシャスバイアス、傾聴といったスキルをある程度汎用化された形で提供しているのが一般的です。

しかしこのような施策は、ちょっとした研修でお茶を濁すという形で往々にしてマンネリ化しがちであり、プロアクティブ行動活性化についても同様のことが起こりがちです。例えば「部下の自己効力感を高めるためには、制御体験や代理体験などが必要です」といった講義と、ちょっとした練習などを行うといった形で研修がなされるだけといったケースも珍しくはありません。

第一歩としてこういう手段も非常に重要ではありますが、それだけではマンネリ化し、実際の現場では役に立たないという状況に陥ってしまいます。実際の現場でスキルを使いこなすためには、研修で学んだスキルを自分なりにアレンジすることは必要不可欠ですが、このアレンジ力で管理職による巧拙が明確に出てきます。このように汎用化されたスキル教育では届かない地平が生まれてくるのです。

こうした場合、人事部が主導して「極めてナラティブなプロアクティブ活性化ストーリーを成功事例として形式知化しシェアする」という組織開発活動を展開することが有効です。迫力のある形で、共感を呼ぶ成功事例を浸透させることで、管理職は実際の現場で使える様々なヒントを得ることができるのです。

従来の人事部門が行う施策展開よりも手間がかかることは確かですが、ここまで踏み込むと現場側からも「有効な情報提供をしてくれた」といった形で感謝されることも多いようです。人事部門と現場間の紐帯が強化されるという効果も期待できるため、是非お勧めしたい取組です。

最後に

全8回という長丁場の連載に最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました。これまでお読み頂いた読者の皆様に心より感謝申し上げます。

本連載が企業の持続的成長に繋がることを、そしてお一人おひとりの仕事人生の充実の一助となることを祈念し本連載を終わりたいと思います。

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