応募者に「選ばれる」ために、特に地方/ベンチャー企業はどのように採用に取り組むべきか。
今回は、「採用管理システムsonar ATS」を提供するThinkings株式会社の『2026年卒 採用トレンド予測』発表会をイベントレポートとしてご紹介。
採用担当者や就活生へのアンケート調査も含む25卒採用のデータから見える、採用トレンドを分析・予測するとともに、「採用でのAI活用」をスタートする実際の企業事例も取り上げていきます。
目次
sonar ATSのユーザーデータと調査で見る2025年卒採用
まずは、Thinkings代表の吉田さんより、導入企業数2,000社を突破した「採用管理システムsonar ATS」のユーザーデータを中心に、2025年の新卒採用市場を振り返ります。
採用マーケットの状況|学生から選ばれる企業になるために
リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」の資料では、引き続き、売り手市場が続いていることがわかります。
吉田さんは、「学生から選ばれる企業になる、そのうえで選ぶ(マッチングをしていく)、この順番を間違えてはいけない」と述べており、企業が学生を選ぶ時代から、企業側が「選ばれる」時代になってきていることを強調していました。
また、採用の早期化が年々加速していますが、24卒と25卒を比較しても、引き続き早期化している状況が見てとれます。
3/1以前の本選考開始は当たり前で、企業側だけでなく、学生側の早期化の動きもさらに加速しています。
就活における学生側の視点
次に、25卒採用に関して学生側がどのように感じていたのか、「25卒就活生が就職活動中に感じた不安」について触れていました。
その中で、一番多かった声が「自分にあった企業を見つけることができるか」であり、複数内定を得られることは当たり前で、「そもそも内定が得られるか」は、もはや不安要素となっていないことがわかります。
そのような状況を受け、吉田さんは「学生は就活に対する納得感をより重視する傾向にある」と述べていました。
一方で、選考を受けるモチベーションが上がった理由とは、
- 交通費を負担してくれる
- 採用サイトがわかりやすい
- 社員などどの面談・座談会がある
といった内容が上位にきており、さらには「個に向き合った個別対応」がポイントになり、24卒から引き続き、「選考に関するフィードバックをしてくれる」という対応も重要になるとのことでした。
逆にモチベーションが「下がった」理由については、
- 24卒:試験や面接など選考ステップが多い
- 25卒:口コミサイト/友人などの企業の評判が悪い
という声が最も多く、口コミに関しては、ONE CAREER、OpenWorkなど、企業の口コミの流通量が増え、企業の中身が透明化してきており、そもそもの健全な企業運営が求められるようになっています。
企業側の視点|採用における課題感はなにか?
続いて、企業側の視点として、課題にあげられていたのが、「採用コミュニケーションの難しさ」でした。
特に「個別対応が必要である」が課題の上位となっており、リソースを多く割かねばならないことに加え、
- 候補者の心情を理解することができない。
- 刺さるコンテンツやタイミングが難しい。
といった、難しさを実感しているようです。
個別対応が必須になるが、リソース不足やニーズ把握に苦慮する企業が多く、そこをどう対応していくかがポイントになってきます。
2社の採用成功事例から見る新卒採用動向
それでは、先述したような状況や課題があるなかで、うまく対応している企業は、どういう工夫をしているのか?
ここでは、2社の事例をご紹介されていました。
【1】株式会社ワンスター|内定承諾率が2倍に改善
株式会社ワンスター 会社HP画像
デジタルマーケティング企業であるワンスターは、23卒までは50%で推移していた承諾率が、24卒で一時30%まで低下したものの、25卒では60%まで大きく改善しました。
何をしたのか?
そのためにおこなった施策としては、徹底した個別対応への最適化戦略です。
人事担当者が学生のメンターとしての役割を担い、学生に寄り添う伴走型のアプローチを実施。さらに、社員座談会や1対1の面談など、多様な交流機会を設けることで、学生との接点を質量ともに強化しています。
採用体制の効率化
では、どうやってそのリソースを捻出できたのか。
20~30名の採用目標に対して人事3名という体制で臨んでいますが、採用体制においても効率化を図り、sonar ATSの導入やアシスタントスタッフと役割を分担。
正社員の人事メンバーが事務作業から解放される体制構築にこだわり、より本質的な採用活動に注力できる環境を整備したとのことです。
採用の質の向上のために
また、採用の質を担保するため、面接官のカテゴリー分類をおこない、学生との相性を考慮したマッチングを実施しています。
さらに、個別対応をした際にも、社員によって差がでないように、対応内容のすり合わせを徹底。そうすることで、質を保った一貫した採用活動を実現しています。
【2】株式会社北國フィナンシャルホールディングス|地方企業に興味をもってもらうためのインターンシップ活用
株式会社北國フィナンシャルホールディングス 会社HP画像
石川県金沢市に本社がある株式会社北國フィナンシャルホールディングスは、インターンシップを積極的に活用し、様々なバックグラウンドを持つ人材の確保を目指しています。
その成果として、25卒では24卒と比較して本選考エントリー1.1倍、内定承諾率65%以上の維持、そして内定者数1.4倍となっています。
新卒採用の取り組み
同社の課題は、地方×金融という特徴から興味をもってもらえる学生が限定的になってしまい、多様性のある人材確保がしにくいという点にありました。
そのためにおこなった施策は、インターンシップによる早期からの学生アプローチです。
- 1 |2日間の夏のISで、幅広い応募者との接点を創出
これまで採用してこなかったような人材も含め幅広く接点を持つことを狙う。
様々な切り口で関心を持たれるよう、自社の幅広い事業を網羅的に体験できるよう工夫。
20名以上の社員が参加し自社理解・交流し、企業のリアルが伝わるよう意識。 - 2| 夏のインターン参加者限定本選考の内容公開イベント/他拠点での社員交流会の実施
書類選考の内容など「なぜそれを聞くか」を含め自社の考えを説明し選考意欲を高めた。
25卒は4名に対して東京で社員座談会を初開催(うち2名入社)、26卒は大阪にも拡大。 - 3 |夏のインターンに向けた、スカウトサイトの活用強化
UIターン学生をピンポイントで狙うため、夏のISに向けてスカウトサイト活用を大幅に強化した。
3年生の夏の段階では、まだ業界を絞りこんでおらず、幅広い視野で就活を行っているため、関心が低い業界でも見てもらえる可能性が高いので接点が持ちやすくなります。
そして、重要なのは、いかにして本選考へのエントリーにつなげるかという点です。
高い内定承諾率を支える採用体制
内定承諾率の高さを支えているのは、全社での採用体制です。
北國フィナンシャルホールディングスでも、採用における個別対応をおこなっていますが、同社は他部署の社員に協力を依頼できる社内制度を活用し、採用担当者ではなく社員が応募者を個別フォローする体制を構築しています。
これにより、採用担当は企画や制度設計により多くのリソースを投入することが可能となっています。
また、sonar ATSの活用により、採用に関する実務的な工数を大幅に削減することにも成功しています。
26卒に向けて
26卒からは、25卒よりも始動を3ヶ月早め、エントリー開始時期を2年生の3月に前倒しするとのこと。
これは、都市部の学生の動きが早いことから「都市部のUIターン学生」に認知してもらうために実施します。
また、ChatGPTの普及や就職口コミサイトでの情報収集により、従来型のエントリーシートの有効性が低下していることを踏まえ、エントリーシートを廃止してAI面接を導入するという取り組みも実施していきます。
採用活動のDXと効率化を推進しながら、採用担当をより本質的な業務に注力できるようにシフトさせています。
2026年卒採用は「採用リビルド with AI」
明確な「売り手市場」により、学生が複数の内定から選択できる立場にあります。
そのため、学生の「自分に合った企業だ」という納得感の醸成が極めて重要となっており、企業は一歩踏み込んだ個別対応が必須となっています。
さらに、対応の必要性に加えてスピード感も求められ、その難易度は一層高まっています。
このような状況下では、限られたリソースをいかに効果的に配分するかが、採用活動の成否を分ける重要な要素となっています。
このリソース配分の最適化の方法として、吉田さんがAIの活用が重要なポイントになってくると述べています。
26卒では、人とAI・テクノロジーの協業の視点で自社の採用活動を見直し「再構築」する動きがさらに出てくることを予測し、採用トレンドキーワードとして『採用リビルド with AI』を打ち出していました。
人的リソースとテクノロジーを効果的に組み合わせることで、効率性を高めながら質の高い採用活動を追求する、という採用戦略が加速していくかもしれません。