企業における仕事と介護の両立支援の重要性|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#3 |HR NOTE

企業における仕事と介護の両立支援の重要性|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#3 |HR NOTE

企業における仕事と介護の両立支援の重要性|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#3

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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

第1回第2回で、仕事と介護の両立が困難になることによる日本社会への影響を説明してきました。

介護離職ゼロが掲げられて以降、従業員が抱える家族の介護の問題に注目が集まってきましたが、家族の介護を行いながら働き続ける人の数は、介護離職を行う人よりも30倍ほど多く、経済損失も8倍となります。つまり、企業においては介護離職を食い止めること以上に、家族の介護を行いながら働き続ける従業員を支援していくことの重要性は高まっていると言えます。

では、家族の介護を行いながら働き続ける従業員への支援が不足している場合、企業にとってどのようなリスクがあるのでしょうか。また、取り組みを進めることは企業にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

寄稿者石田 遥太郎株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー

シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

寄稿者小島 明子株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。主な著書に、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著・金融財政事情研究会)、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。

寄稿者石山 大志株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー

日系コンサルティングファームを経て現職。入社後一貫して人事組織コンサルティングに従事し、近年は人的資本経営の推進、プロアクティブ人材の育成に向けた取り組み推進に注力。近時の執筆記事等として、「仕事と介護の両立を実現するビジネスケアラー支援」(共著、『労政時報』2024年/労務行政)「エクイティがダイバーシティ施策のカギ-〜人的資本経営とDE&I」(共著、「Power of Work-2023年/アデコ)等がある。

 

1. 仕事と介護の両立支援が企業に与える影響

経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン 全ての企業に知ってもらいたい介護両立支援のアクション」(令和63月)では、仕事と介護の両立支援が企業に与える影響として両立支援を講じないことによるリスクとリターンを、経営層視点・人事部門視点・管理職/従業員視点で整理しています。

経営層視点:企業競争力の維持に寄与する

経営層視点では、介護離職や従業員の仕事と介護の両立困難に伴う生産性の低下に伴う悪影響が低減され、企業競争力の維持に寄与すると考えられます。

また、仕事と介護を両立しながら働く、あるいはそのような経験をした多様な人材が組織で活躍することによって、事業内容によっては、イノベーションの創出につながることも考えられます。

一方で、仕事と介護の両立支援策が整備されていない場合、家族の介護を行いながら働き続ける従業員自身、あるいは一緒に働く人たちの生産性を低下させ、業績目標等の未達など、企業そのものの競争力にも悪影響を及ぼす可能性も考えられます。

人事部門視点:従業員定着率の向上につながる

次に、人事部門視点では支援を十分に行うことによって、従業員の定着率の向上につながることが期待されます

また、 “仕事と生活の両立支援制度が整備された企業”としてアピールできることで、企業イメージが高まり、優秀な人材の獲得に寄与するとも考えられます。

一方で、支援が十分に行われていないと、本人の体力的、精神的負担が増し、プレゼンティーイズム(健康問題による出勤時の生産性低下)やアブセンティーイズム(健康問題による欠勤)が増加することが懸念されます。

これにより、組織内で急な配置換えや異動、家族の介護を行いながら働き続ける従業員自身だけではなく、周囲の従業員のパフォーマンス低下や離職につながる可能性もあります。

管理職/従業員視点:業務の生産性を維持させることができる

管理職/従業員視点では、会社が支援を行っていることにより、家族の介護という事情を抱えている場合でも、その影響を最小限にとどめながら、業務の生産性を維持させることができる可能性が高まります。

一方で、実際には家族の介護を始めたことで、仕事の生産性が低下している人は少なくありません。

実際、経済産業省「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業(サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査)」では、家族の介護をしながら働くことにより、通常の状態と比べて27.5%程パフォーマンスが低下するという結果も示されています。

具体的には、深夜や休日に家族の介護を行うことによって、身体的・精神的な休養を十分に取ることができず、業務上のミスなどが発生することもあります。

また、日中であっても要介護者である家族の状況が気になって仕事に集中できない場合や、トラブルが起きて急遽仕事を中断せざる負えない場合も見られます。

2. 人的資本経営とリスクマネジメント

最近では、非財務的価値の中核に位置する「人的資本」を、企業経営において重視すべき項目として情報開示を促す海外の動向があります。

こうした動向を背景に、国内においても政府主導の下、有価証券報告書への開示義務化を行うなど、「人的資本」が注目され、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」の重要性も高まっています。

仕事と介護の両立支援で中長期的な企業価値向上へ

人的資本経営の実践においては、従業員の人的資本である、知識やスキルを育成していくことは勿論のこと、その資本をいかに効果的に活用して中長期的な企業価値向上につなげるのかが重要です。

貴重な人的資本が仕事と介護の両立によって仕事のパフォーマンスを下げてしまうことは、企業として人的資本を有効に活用できていないことにほかなりません。つまり、企業で育成した人材が中長期的に企業に対して貢献するためにも、仕事と介護の両立に取り組むことの重要性は高まっているのです。

特に、組織内に占める従業員の年齢層として40~50代が多かったり、その世代に管理職・経営層が多かったりする場合は、リスクマネジメントとして仕事と介護の両立支援に取り組む必要もあります。特に、中小企業においては、従業員が離職した場合にも代替人員の要員の確保が難しく、周囲の従業員が支援する余裕がないケースもあります。

例えば、これまで自社の大口顧客の窓口として活躍していたベテラン従業員が、家族の介護を理由に十分な引継ぎを行うことができずに離職し、大口顧客が離れてしまうことで企業の業績に直接影響を及ぼしてしまうといったケースも考えられます。

仕事と介護の両立支援はリスクマネジメントでもある

また、第1回・第2回で述べたように、従業員の家族の就労状況や意識も変化をしています。

晩婚・晩産、単身世帯や共働き世帯の増加、核家族化など、価値観やライフスタイルが多様化している日本社会においては、今後、性別や年齢を問わず、多くの人が家族介護の問題に直面する可能性があります。

このように、人材戦略として仕事と介護の両立支援に取り組むことは、個人の就労継続だけでなく、組織のリスクマネジメントともいえます。

3. 2025年の育児介護休業法の改正

2025年に改正される育児・介護休業法では、

「男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる。」

ことを趣旨として、仕事と介護の両立に向けた法律も改正されます。

「介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等」として定められた項目には、

  1. 労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た時に、両立支援制度等について個別の周知・意向確認を行うことを事業主に義務付ける。
  2. 労働者等への両立支援制度等に関する早期の情報提供や、雇用環境の整備(労働者への研修等)を事業主に義務付ける。
  3. 介護休暇について、勤続6月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止する。
  4. 家族を介護する労働者に関し事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、テレワークを追加する。

などが追加されることが予定されています。

中でも特に企業への対応が求められるのが、「1. 両立支援制度等の個別周知・意向確認を義務化」や「2. 両立支援制度等に関する早期の情報提供や、雇用環境整備を義務化」です。

これまでにも育児休業制度などの育児に関する制度の個別周知や意向確認の義務が同法律で設けられてきましたが、今回新たに介護に関しても同様の対応が義務として求められることとなりました。

育児・介護休業法に違反している場合、厚生労働大臣や都道府県労働局長により行政指導として助言・指導・勧告がなされ、企業が勧告に従わなかったときには、その旨を公表することができるとされています。

法令順守・コンプライアンス順守の観点はもちろんのこと、労働市場の流動化が進展する昨今においては、上記の対応を行わないことにより家族の介護を行う従業員が離職してしまうこと、離職せずともパフォーマンスを大きく低下させながら働き続けることは、企業にとってもリスクとなると言えます。

では、企業は具体的にどのように取り組みを進めて行けばよいのでしょうか。

4回から第6回では、経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の取り組みステップに沿って、より効果的な仕事と介護の両立支援の取り組み方を説明します。

 

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