社員の多くが外国籍社員で構成されているザ・プラント株式会社。2030年までに「日本一幸福な働く場所にする」という人事目標を掲げ、バックグラウンドの異なる方々が活躍できる職場環境を作るために、これまでに数多くの人事施策を推進しています。
そんな人事施策の多くは「社員の声」から生まれており、離職率が高いと言われるIT業界の中で人材定着率が96%以上と驚きの数字を出しています。
今回は、同社のCHROである岡さんに、多国籍社員の組織やチーム作りにおける具体的な取り組み内容についてお話を伺います。また、岡様が組織カルチャー作りで大事にしていることや、その浸透施策についてもご紹介いたします。
岡 真喜子氏ザ・プラント株式会社 チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー(CHRO)
兵庫県西宮市出身。大学卒業時に進路で迷ったのち、海外へ行きたい衝動に駆られ米国へ。現地の大学でホスピタリティ学を学ぶ。ニューヨークにある最高級ホテル・グラマシーパークホテルのオーナーと偶然出会ったことがきっかけで卒業後に入社。帰国後は様々な業界で勤務したのち、社長との縁によって創業期のザ・プラント株式会社へ入社。当初はゆるく仕事をしようと思っていた矢先に会社が急成長を遂げCHROに就任。日本GHCDコーチング協会認定講師。日本酒好き。
1. 人事目標「日本一幸福な働く場所にする」と具体的な5つの指標
ー本日はよろしくお願いします。まずは岡さんのご経歴について伺ってもよろしいでしょうか。
岡さん:私は大学卒業後にアメリカで2年半ほどホスピタリティについて学び、ホテルマンとしてキャリアをスタートしました。その後日本に帰国し、在宅医療クリニックの立ち上げや、米国系製薬企業での人事トレーニング担当など、様々な仕事を経験させていただきました。
ザ・プラントには、代表のアナトールに友人の紹介で知り合ったことをきっかけに入社しています。私が入社した当時は、東京の社員は3人しかいなかったため、現場仕事も多くしていました。
たとえば代表が他社の方とお話する際の通訳をしたり、セールスピッチに登壇した際のヘルプ等もしていましたね。現在は、長く在籍していることもあり、CHROとして人事業務全般を見ています。
今のザ・プラントには、東京に30人弱、オーストラリアに1人、そして中国に50人程のスタッフが在籍しています。東京はセールスやマーケといった本社機能があり、中国はエンジニアの拠点です。
オフィス間での交流も人事主体で積極的に実施していて、先日も全社員でタイへ旅行に行くなどしています。
ーザ・プラントでは、人事目標として「日本一幸福な働く場所にする」と掲げられていると伺いました。
岡さん:はい。この目標は、2年前にはじめて出展することになった展示会をきっかけに作りました。
どのようなブースを作るか話し合う中で、社員から「普通のIT企業のようにプロダクトだけ出すのはつまらないよね」といった話が出てきたんですね。そこで、私たちのカルチャーも一緒に伝えたいと考え、ワークショップを開催しました。
ワークショップでは、社員から自分たちの会社の良い点や改善点を出してもらうと同時に、10年後はどのような企業になっていたいか真剣に話しました。その時に社員から出てきたキーワードが「幸福な働く場所」です。
このワークショップでは、私が聞きたいような内容で回答が作られないように、あえて外部の方をファシリテーターとして招いて実施しました。
この他にも「こんな風に考えてる人がいるんだ」「こういうことを求めているんだ」「こういうことは嫌なんだ」といった新しい発見があり、とても面白かったです。
ーこの目標に紐づいて、具体的な「5つの指標」も掲げられていますよね。こちらはどのように決まったのでしょうか。
岡さん:5つの指標は、そのワークショップ後に出てきた課題を具体的にどのように解決するか考える中で社員の声を参考にしてHRチームで話し合って作っています。
(1)人事部全員が全社員と年1度必ず対話を持ち、顔、名前、業務を100%覚えている状態になっている
(2)年一度の満足度調査における「自分らしく働けている」の設問への回答が90%「Yes」の状態になっている
(3)「The Plant 5つの約束」(人・リーダーシップ・職人・成長・信頼)の内容を社員の85%が理解し、実行できている、または挑戦できている状態になっている
(4)社員全員の誰もが、パソコンを持たずに2週間以上の休暇に行きたい時に行ける状態になっている
(5)退職後もザ・プラントの同窓会メンバーとして、継続的なつながりを持ってくれる旧社員が70%以上の状態になっている
最初は5つ以上ありましたが、社員が指標について覚えることも大事だと考えていたので、最終的に5つに絞っています。
2. 人事施策は「社員の声」から作り出す
ーそれぞれの指標が具体的で、とてもわかりやすいと感じました。この指標に対して、今はどのような取り組みをされているのでしょうか。
岡さん:社員旅行を企画したり、お昼ご飯を食べながら社員同士でプレゼンし合うランチ・アンド・ラーンの機会を月1回作ったりしています。各オフィスでは、月1回はチームでディナーを実施するように促したりもしていますね。
<社員旅行でタイへ。日本・中国・オーストラリアのオフィスから全社員が初めて集合しました。>
<中国法人代表兼中国HRマネジャーと。普段はZOOMでのやりとりですが、対面で会うと話が尽きません>
先日は、各社員の自国の郷土料理を持ち寄って料理対決を実施するなど、クロスチームで交流できる機会を多く提供しています。ここで大事にしているのは、そのような交流の場に自分自身も参加して、社員から生の声をヒアリングすることです。人事施策は、基本的に社員の声をベースに決めていくようにしています。
よく「外国人は思ったことを何でもストレートに伝える」という印象が強い方もいらっしゃると思います。しかし弊社はアジア圏のスタッフが多いこともあり、割とリーダーに遠慮してネガティブなフィードバックがされていませんでした。
そのため1on1等で各個人との対話を増やしたり、サーベイでの質問の仕方を変えることを検討したりもしています。また、私だけでなく各部門や各部署のマネージャーにも研修や面談の中でメンバーと対話する方法を伝えています。
ー目標の達成に向けて、今後取り組みたい施策はありますか。
岡さん:より社員のキャリアパスや成長ステップを軸に、会社が具体的な選択肢を提供できるようにしていきたいですね。受動的な形でなく、人事側から各個人に寄り添うことができる状態を作りたいです。
だだ、これは社員側のマインドセットの成長もセットで促さなければならないと思っています。せっかく作った制度も使われなければ意味がありません。そのため、その制度が本当に必要かどうかを人事だけでなくマネージャーも一緒になって見極めることが大事になると思います。
弊社にはエンジニアが多く、GoogleやAmazonといった福利厚生がとても凄い企業の話をよく耳にしています。「そういうのやってよ」と伝えられるケースも多いですが、もちろんそこまではできない場合も多いです。
限られた範囲の中で、最大限できることを実施していく。弊社では、たとえば勤務体制をフレキシブルにしたり、希望のプロジェクトやタスクにアサインするといったことを通して、社員がやりたいことをできるだけ実施できるように工夫しています。
このような自社の大事にしていくポイントを明確にして動くことが大事だと思います。
3. グローバル人材が活躍する「大人の職場」の作り方
ーありがとうございます。これまでの経験を踏まえて、岡さんが考えるグローバル人材が活躍する職場に必要なものとは何でしょうか。
岡さん:現場のマネージャーに、誰か1人でもリーダーシップを取って旗振り役ができる人がいると良いと思います。日本はどうしても均一的で「一緒にやりましょう」といった雰囲気が強くあります。それをやらないと決められる人です。
海外独自の文化や習慣には、どうしても変えることができないものがあります。たとえば、イスラム教徒の人は日中に必ずお祈りする必要があります。中国の一部の地域では、ランチ後にお昼寝をするのが必須です。このとき「昼日中に2~3時間抜けられたら困る」となってしまっては、彼らが働けない職場になってしまいます。
このようなことに折り合いをつけ、彼らが働くことのできる環境を作るためには、現場でリーダーシップを取って動いてくれるスタッフがいないと進みません。
また、そもそも人事のことについては、専門家でなくても意見できる分野だと思います。現場のマネージャーが「こっちの方がいいんじゃないか」と思っている意見の方が実態に即していて正しいケースも多いです。
そのため人事担当者はその声を潰さないこと。そのためには、日頃から否定をしないことが大事になります。そうすれば、次第に現場のマネージャーから「もっとこうした方がいい」といった意見を伝えてくれるようになると思います。
ー否定しない文化や心理的安全性のある環境は大事ですよね。この環境が作れている企業と作れていない企業の違いは、どこにあるのでしょうか。
岡さん:まず社員はそれぞれみんな違っていて、それが当たり前だという前提があるか無いかだと思います。
私たちにとって普通ではない行動も、彼らにとっては普通の行動である場合が多いです。これをすり合わせるには、まず自分自身の当たり前を疑ってみることが必要になります。少なくともいきなり否定してはいけないと思います。
また、社員のマインドセットを自然な形で大人にしていくことも大事だと思います。
たとえば、社員で集まってわざと自国のステレオタイプについて冗談交じりに話す機会を作ってみる。そして、それを楽しめるようなチームになることです。
チームができあがっていないと、何か言われたときに「私は差別されてる」と思ってしまうのではないでしょうか。
しかし、それは差別や偏見でなく、ただの違いだと捉えて楽しく話ができるようになれば、「確かに私そういうとこあるよね」と自分を客観的に見ることができるようになると思います。
ー「社員を大人にする」という点は、とても難しいと思います。具体的にどのように実践されているのでしょうか。
岡さん:弊社では、まずカルチャーブックを読んで貰うようにしています。カルチャーブックには先ほどの目標や指標などが記載されており、弊社の「自由」とは何かについて強調するような内容になっています。
そしてこれに加えて「自由と責任はセットである」という内容を明確に伝えています。これは採用段階から伝えていて、弊社のカルチャーが入社前の段階から伝わるように設計しています。
こうすることで自分のことを客観的に捉え、会社に対してどんな貢献ができるかしっかり考えることのできる人材が集まり、また育っていくと思っています。
4. 否定しないで聞くことから始めよう
ー現場の人事担当者の方々は、グローバル人材が活躍する職場作りのファーストステップとして何から始めると良いでしょうか。
岡さん:既に外国籍の人が社内にいるのであれば、その方たちに聞くことから始めると良いのではないでしょうか。彼らの感じる会社の良い点や改善点を知ることで、彼らの求める職場に近づけていくことができると思います。
また、なぜ外国籍の方に働いてもらうのかを明確にすべきです。「空いたスポットを埋める」という目的で採用するケースと、「彼らのような外国籍の方の視点が欲しい」という目的で採用するケースでは、採用意図が全く異なるはずです。
日本人ではない人を採用する決断に至った背景や期待を明確にすることで、現状とのギャップも見えてきて次に何をすれば良いかわかります。
そういった意味では、ワークショップのような形で、少し無理矢理にでも1つにまとまって何かやってみる方が良いかもしれません。社員の皆さんの色々な意見が聞けると思います。
社員も「課題はあるけどうちが好きだ」と思っていることもあるはずです。このような内容を改めて全体でリマインドするためにも、社内イベント的なものを開催していくと良いかもしれないですね。
ーありがとうございました。最後に、読者の皆様へメッセージをお願いいたします。
岡さん:人事業務は、本当にエンドレスです。そして同時に、会社の状態やビジネス環境に合わせて変わっていかなければいけません。なので、各個人が自分や自分のチームをフレキシブルに導いていこうとする姿勢がとても大事です。
私は最近「人事としてこれをやらなければならない」といった固定観念を外して、とりあえず社内をフラフラしてみるようなことをしていたりします。フラフラすることで、社員の声を聞く余裕が生まれ、社内の様々な部分に目線が行くようになります。
そして、わからないことはとことん聞く。外国籍の人の文化なんて、聞かないと絶対にわかりません。ワークショップで意見を出してもらう機会を作ることも含めて、社員がどう思っているか客観的に見ていくことが大事だと思います。
ワークショップでは、社員も自分で意見を出すので、自分ごとになりやすい。それを元に施策が回り始めると、自分の意見が反映されたことを社員自身も感じることができます。ぜひ、こういった取り組みを組織で進めてみてはいかがでしょうか。