「なかなか人材採用が充足しない」「適切なスキルをもった人材に出会えない」「入社するも定着しない」といった人事、採用担当の方の声をよく聞きます。
求人を出せば集まる時代は終わり、「自社の欲しい人材を安定的に採用する方法」として、昨今「採用マーケティング」が注目されております。
採用マーケティングとは、名前の通り採用活動に「マーケティング」の視点を取り入れ、主体的に行うことです。
こちらの記事では、採用マーケティングについて1から解説し、手法をお伝えしていきます。ぜひ、採用マーケティングを取り入れて自社の採用を加速させましょう。
執筆者】今村 邦之|ナウビレッジ株式会社 代表取締役
1987年生まれ。米国アラバマ州立大学ハンツビル校にてマーケティングを専攻。2012年、第二新卒向けの人材紹介会社を設立し、代表取締役に就任。2020年に退職。同年10月に、デジタルマーケティングカンパニー・ナウビレッジ(株)を設立。創業3年間で200社の顧客支援を行い、うち100社様は人材紹介会社様向けに求職者獲得を支援。東京医科歯科大学デジタルマーケティング講座非常勤講師としても勤務。
目次
1.採用マーケティングとは
採用活動は事務作業ではない、攻めのマーケティング
「商品やサービスが売れるための仕組み」を考え、実行するのが「マーケティング」。その考えやフレームワークを採用にも当てはめたのが「採用マーケティング」です。
従来、採用業務の母集団形成は、「採用事務の社員が、求人票をハローワークや求人広告会社にお願いするもの」でした。しかし、外部に依頼し、自社にマッチする人材が集まることは困難になっております。
一方、採用マーケティングは、エントリー前の認知段階~入社に至るまで一貫した戦略を持って採用活動を行います。「選ぶ採用活動」から「自社にマッチする人材に選んでもらうために、どうするのか」を重視する姿勢が求められます。
自社独自の魅力を発信し、求職者にとって「入社して働きたい!」と思ってもらえる設計が重要です。
マーケティング購買プロセスを理解し、採用に取り入れる
採用マーケティングを実施する際には、マーケティングについて理解が必要です。まずはマーケティングの「購買プロセス」について説明していきます。
「購買プロセス」とはファネルとも言われます。以下の図のように消費者が商品やサービスを知って、実際に購入しリピートするまでの流れを表したものです。
マーケティングでよく目にするのは、図の左「認知獲得→興味・比較→購入→リピート」の流れになります。認知獲得〜購入にいたる母数は少なく、いかに増やしていくかが重要です。
このマーケティングの購買プロセスを採用活動に取り入れたものが、上図の右側になります。
それぞれの段階に合わせた、訴求内容が重要になってきます。
マーケティング戦略に合わせて採用活動を行う上で、チャネル選定やコンテンツ制作を行わないと求職者には届きません。具体的にどのようなチャネルがあるのかを、ご紹介いたします。
フェーズ | 目的 | 手法例 |
認知獲得 | ペルソナに合わせた面をカバーし自社の情報を定期的に伝えていく | 求人広告、Indeed、Wantedly、Web広告、就職/転職フェア出展、人材紹介、スカウト、企業SNS、地方紙 |
比較検討 | コンテンツに厚みを持たせ、定期的に新しい情報を求職者に届ける | 求人広告、Indeed、Wantedly、サイト制作、動画制作、人材紹介、note、企業SNS、採用ピッチ資料 |
選考参加 | 実際に求職者に会える場であり、自社のチャネル・コンテンツに触れた印象を聞くことで、振り返りや改善を行うスピードを上げる | 求人広告、Indeed、Wantedly、人材紹介、採用ピッチ資料 |
内定承諾後 | 入社時に活躍ができるよう、定期的な接触をする | Wantedly、座談会、メール、交流会、人事コンサル、評価制度 |
上記以外にも、LINE公式アカウントを利用した採用手法も認知段階から実施されている企業もあります。ぜひ、自社が求めるペルソナに合わせたチャネル選定を行い、コンテンツを制作していきましょう。
2.採用マーケティングの設計ポイント
次に、実際に採用マーケティングを行う際のポイント4つをお伝えいたします。
②応募率を高めるコンテンツをPPT/動画/SNSで用意しよう
③エージェント/その先にいる候補者に伝わるようにしよう
④書類通過時に計測しよう
①差別化ポイントを決めよう
ターゲットに合わせた、チャネル選定やコンテンツの制作に重要なのが、差別化ポイントを決めることです。差別化ポイントを決めるために、マーケティングで使用するフレームワークを用います。
採用マーケティングでは、「3C分析」と「SWOT分析」が役立ちます。
3C分析
3Cとは「Company(自社)」「Competitor(競合)」「Customer(顧客/人材)」の頭文字になります。ターゲットとする人材であるCustomer(顧客/人材)の視点から、自社や競合他社がどう見ているのかを考えて、採用活動に活かします。
SWOT分析
SWOT分析は「Strength(自社の強み)」と「Weakness(自社の弱み)」、「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」の頭文字をとったものです。4つを整理することにより、自社の強みや弱みを知ることができ、採用活動における魅力ポイントや離脱防止策を考えることができます。
②応募率を高めるコンテンツをPPT/動画/SNSで用意しよう
チャネルには様々な内容がありますが、中でもPPT(パワーポイント)、動画、SNSは求職者に効果的です。
従来の採用活動では、文字で情報を伝えることが多かったです。もちろん、文字でも伝えることができますが、視覚や聴覚と多面的に情報を伝えるのは魅力あるコンテンツ作りで重要です。
以下、弊社の事例をご紹介します。
PPTで作成した採用資料
自社採用目的で、写真や図を入れながら制作をしました。
採用ページに設置をし、実際に資料を見て入社した者からは、「何を目指しているのかが理解できた」「教育制度が分かりやすかった」という声を聞きました。
動画
こちらは、採用動画コンテンツ制作『リクライブ』にて撮影を行い、社員の人柄と業務内容が分かる内容を作成いたしました。
社員の生の声がで届けることで、実際の雰囲気が手に取るように分かります。
SNS
SNSといえば、TwitterやInstagramもありますが、弊社は求職者さんにダイレクトに情報が届くLINE公式アカウントを運用しております。LINE内では、PPTや動画もタイミングに合わせて発信を行っています。
③求職者や人材紹介会社担当者に伝わるように内容を考えよう
自社について社内用語や抽象的な内容で表現しても、求職者には伝わりません。
また、提携している人材紹介会社にもコンテンツの内容を共有し、説明をしてもらうためには具体的な内容でなくては、魅力が話せないままになります。
求職者が入社後のイメージが湧く内容か、考えて作成しましょう。
④書類通過時に計測しよう
実際にコンテンツを公開したら、チャネルごとに効果計測(ページビュー数やクリック率等)ができるものもあります。
しかし、実際の求職者側からも「何のチャネルやコンテンツを見たのか」「良かったコンテンツは何か」をヒアリングするとより良い改善が加速します。
ナウビレッジの自社採用では、書類通過時1次面接の案内をする際に、アンケートフォームを求職者に送ります。アンケートフォームによって流入経路や求職者にとっての魅力あるコンテンツが分かり、その後の選考フォローも手厚く実施できます。
3.採用マーケティングの注意点
採用マーケティングを実施する際に、よくある注意点をこちらにまとめました。
これから、実施する予定の採用担当者の方は以下の3つを意識しましょう。
②情報の下手に隠した、中庸な説明を避けよう
③効果が出るまで時間がかかることを理解しよう
①事業計画や評価よりも、雰囲気のほうが大事
コンテンツを作成する際に、「今後の事業計画を詳細にしないとダメだ」「評価を気にする人もいると思うから評価基準を明確にしよう」と考える方が多いです。
実際にはどうでしょうか。以下はエン・ジャパン株式会社による「企業選びの軸に関する調査レポート(2023/2)」です。
参照:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2023/32030.html
こちらを見ると、事業計画や評価の記載はなく、「働き方」「希望条件」「業績」が上位になります。
このように、全てを開示するのではなく、求職者自身がメリットに感じる内容を伝えていくのが重要です。自分にできそうか、やりがいを感じるか、人間関係はどうか等、社内の雰囲気を伝えていきましょう。
②情報を下手に隠した、中庸な説明を避けよう
「自社に課題があり、記載するとエントリーが集まらなくなるから記載を辞めよう」と曖昧な表現で追えてしまうコンテンツが多いです。しかし、それでは求職者が入ってからミスマッチを起こし最悪早期離職となり、求職者にとっても、会社にとっても良くありません。
完璧で誰にでも好まれる企業は、残念ながら存在しません。自社の課題も伝え、課題に対する今後の施策を表現していきましょう。
ナウビレッジも採用資料で課題を明記しております。
③効果が出るまで時間がかかることを理解しよう
時間と費用を掛けて、自社の強みが分かり、チャネル選定、コンテンツ制作を行い公開はしたものの、「採用ページの閲覧数が増えない」「母集団が集まらない」など効果がすぐに現れないと、「失敗したかも?」と思ってしまうかもしれません。
焦ってしまうかもしれませんが、効果が出てくるのは早くて3ヶ月から。その間は、コンテンツを通してより自社を知ってもらうための、採用活動を行っていきましょう。
ナウビレッジの場合も、結果が出るのに半年ほどかかりました。その間は、求職者と接点がある度にコンテンツを共有したり、人材紹介会社の担当者に何度もコンテンツの重要性を伝えていきました。
4.さいごに
いかがでしたでしょうか。
ナウビレッジは採用マーケティングを実施し、半年後採用応募数が月間2.14倍に、採用ペルソナの割合が28%⇒46%に、入社決定4名を創出しました。
適切な手順を踏まえれば、誰でも実施することが可能です。ぜひ、今回の記事を元に採用マーケティングに取組んでみてはいかがでしょうか。