2023年11月29日、sonar HRテクノロジーを展開するThinkings株式会社が「2025年卒採用トレンド予測」の発表イベントを開催しました。本記事では、そのイベントの内容の一部について、イベントレポートとしてご紹介します。
同社では、2025年卒採用トレンドとして「採用3.0」というキーワードを選定。イベントでは、その選定背景や採用環境の変遷状況について、元リクルートワークス研究所『Works』編集長で、現在は同社のCHROを務める佐藤邦彦氏よりご紹介いただきました。
また、実際に新卒採用に関する先進的な取り組みを実践されているウシオ電機株式会社の千葉嵩大氏より、新卒採用における具体的な取り組みのヒントになる事例もご紹介いただきました。
ぜひ、今後の採用活動の参考にしていただければと思います。
佐藤邦彦|Thinkings株式会社 執行役員CHRO
1999年東京理科大学理工学部卒業後、アクセンチュア入社。2003年にアイ・エム・ジェイに転職し事業会社人事としてのキャリアをスタート。2011年以降、様々な事業会社の人事を歴任し2020年4月よりリクルートワークス研究所に参画。2022年8月まで『Works』編集⾧を務める。2022年10月にThinkings株式会社執行役員CHROに就任。人事経験20年。
千葉嵩大|ウシオ電機株式会社 人事部人財・組織開発課
2020年中央大学商学部卒業後、ウシオ電機株式会社に入社。人事部に配属され、採用・人事システム運用・組織風土改革などに従事。
2025年卒採用トレンドのキーワード「採用3.0」
佐藤氏:皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。
2025年卒採用トレンド予測ということで、我々が色々な企業様の採用をご支援させていただく中で得られた情報について、我々なりに分析した結果を発表していきたいと思います。
予測はとても難しい環境で、自信満々というわけではありませんが、ぜひ参考としていただければと思います。
採用環境の変遷 ~ 採用1.0から採用3.0に至るまで ~
佐藤氏:まず、採用環境の変遷について、紐解いていきたいと思います。
ちょうど2000年頃は、「紙」から「WEB」への移行(デジタル化)がありました。それまで主流だった就職媒体誌に代わり、インターネットが普及し始めたことで、企業側がホームページを用意し始めたり、口コミサイトができたりしていきました。そして、2000年を超えてからは、完全にWEBにシフトしました。
2010年前後は、「PC」や「ガラケー」から「スマホ」への移行(ハードウェアの進化)がありました。スマホ普及率が急激に高まったことで採用環境も大きく変化し、また、SNSの普及で個人が情報を受け取るだけでなく、発信できるようになりました。学生側からの情報発信が容易になった結果、企業が直接学生にアプローチするスカウトサービスも登場していきました。
そして、2020年頃のコロナ禍によるオンライン化を経て、2023~2024年にかけて、ここでも大きな変化が起きるのではないか、と我々は予測しています。それが「採用3.0」であり、テクノロジーの進化により採用活動におけるAI活用が一気に広がっていくと考えています。
既にこの兆しはあり、現在はまだ一部の企業に留まっていますが、ここから活用する企業が加速度的に増えていくのではないかと考えています。
採用担当者・就活生への調査でも「AI活用」が進んでいる結果に
佐藤氏:ここで、AIを採用に活用している企業の方へのアンケート結果もご紹介したいと思います。
グラフの通りですが、AIを活用したことで「採用活動の質」が高まったと回答した方は8割を超えています。また、AIを活用している企業は、実際に採用の企画立案や求人票の作成、スカウトを送る際の候補者のピックアップやスカウト文の作成などに活用しているとのことです。
また、学生側についても86.5%の方が企業の採用プロセスにおけるAI活用について許容しています。
AI活用に対して懸念を持っていないわけではないと思いますが、若い世代は新しいツールやサービスをいち早く使いこなす能力が高いため、就職活動におけるAI活用についても「そういう時代ですよね」と受け入れられているのかもしれません。
我々もsonar AIというサービスを提供していますが、たとえば合格可能性が高い候補者を書類選考で予測することができます。
これにより、それぞれの書類を確認する担当者を変更し、選考における人事担当者の時間的負担を6~7割に削減したり、「間違ってはいけない」という精神的負担をAIの判定予測が補助となり軽減させることができたりするといったお話を企業様からいただいております。
このように、様々なテクノロジーが2025年卒を皮切りに急速に広がっていくことで、採用環境が大きく変わっていくのではないかと思っているのです。
ウシオ電機が実践するAIを活用した採用DX取り組み事例
佐藤氏:それでは、ここからAIを活用した応募者に向き合う採用DXの取り組み事例について、ウシオ電機株式会社の人事担当である千葉さんにお話を伺っていきたいと思います。千葉さん、よろしくお願いいたします。
千葉氏:ウシオ電機の千葉です。
ウシオ電機は、光を扱うBtoBのメーカーで、年間で計30名程度(技術系20名程度、営業管理系10名程度)の新卒を、5名の採用担当者で採用しています。
本日は、よろしくお願いいたします。
なぜウシオ電機は新卒採用でAI活用を始めたのか?
千葉氏:まず、私たちは、採用における学生と企業の立場は対等であると考えています。そのため、「面接官」ではなく「面接員」という表現を使用するなど、学生に高圧的な印象を与えない工夫をおこなっています。
2016年頃から売り手市場だと言われ始めていますが、我々としても、これまでの採用に対するスタンスを変えていかなければならないという強い危機感がありました。
弊社は新卒比率が約7割程度と比較的高く、過去はそれなりに採用できていた側面もあります。しかし、これからは学生に選ばれるための工夫をしなければならないと考えています。
その中で、これまで地方に住んでいる学生に選考に参加いただくケースが多くありましたが、対面の面接やグループディスカッションの日程調整ができずに選考辞退されてしまうことがよく多く起こっていました。そのため、オンラインで代替できる方法を模索した結果、AI面接の導入に至りました。
当初、採用活動にAIを活用するにあたっては、「従来の選考の精度を担保できなくなるのではないか」という社内での懸念があり、いきなり全面的に入れると社内で反発が起きることが予想されました。そのため、まずは一部だけ限定的にAIを導入し、選考に悪影響が出ないことを確認した上で、全面的に切り替えるようにしていきました。
採用活動におけるAIの具体的な活用方法と効果
佐藤氏:ありがとうございます。では、ウシオ電機さんでは、実際にどのような形で採用活動にAIを取り入れられているのでしょうか。
千葉氏:我々は、選考の初期段階において、AIが面接員の役になり、学生に質問をしてくれるサービスを活用しています。人事部は、AIが実施した面接を後で動画でチェックし、合否を判定します。
これにより、地方の学生がいつでも好きなところで面接を受けることができるようになり、地方学生の選考辞退が減りました。また、学生との面接調整や会議室の確保といった時間も無くなったため、人事側の負担も大幅に軽減しました。
そして、この人事側の空いた時間は学生との面談の時間に充てるなど、オンライン化での選考で少なくなってしまった学生とのちょっとしたコミュニケーションを生み出すことに繋げています。
この結果、内定承諾率が20%台から40%台まで上がったり、次回の選考への移行率に関しても最終面接への移行が90%以上となっていたりと、学生が途中であまり離脱しない状況を作ることができています。
また、選考の中でウシオ電機に対して好印象を持っていただけることで、ありがたいことに次年度採用へのリファラルに繋がるなど、好循環が生まれています。
今後、少子化などで母集団が減っていく中において、いかに自社の魅力付けをおこなって、途中で選考辞退されないようにしていくことができるかは非常に大事だと思っています。
佐藤氏:面接調整などのオペレーション的な仕事の比重が下がり、学生への魅力付けといったクリエイティブな仕事の比重が上がったことが、内定受託率や次回の選考への移行率の上昇に繋がっていることがわかりますね。最後に、AI活用に関する今後の展望については、どのように考えていますか。
千葉氏:我々も、これまでと同様にAIを業務の中で活用していくことのできる場面があれば、活用を続けていきたいと考えています。
ただ、気を付けなければならないのは、現在のAIはあくまでも過去の実績をもとに未来を予測するものである点です。全く未知数のものについては、一定は人が介在することが必要になると思っています。
そのため、バランスを見ながら、新しいテクノロジーの活用について模索していければと考えています。
質疑応答
佐藤氏:それでは、ここからは、皆様からいただいた質問に回答させていただければと思います。
Q. 「採用3.0」の背景にある現在の採用市場における課題やニーズはどのようなものか?
佐藤氏:まず、今、売り手市場の中で、採用活動は非常に難しくなっています。非常に多くのお金やリソースをかけないと学生を集めることができません。また、学生が選考の途中でどんどん離脱してしまい、たとえ合格を出していても次の選考に来てくれないといったこともよく起こります。
そのため、HRチームが次の選考に来てもらうための施策を実施し続ける必要があります。しかし、働き方改革などで残業もできなくなっているので、HRチーム自体がリソース不足に陥ります。このリソース不足を補うためにHRチームを増強しようとしても、こちらも非常に難しい採用環境のため、うまくいかないケースがほとんどです。
このように、至るところでリソース不足が起こっているため、テクノロジーに置き換えられる部分はテクノロジーに置き換えていかなければ、本来やらなければならないクリエイティブな業務に全く手が回らない状況になってしまいます。
また、学生のレベルにもよりますが、売り手市場では相対的に内定が取りやすい状況であり、学生の感覚としても「きちんと活動すれば内定はもらえそうだ」という空気感があります。
ただ、就職活動の目的は内定を取ることではなく自分が活躍できる環境を見つけることですので、多くの情報に触れながら取捨選択して、自分なりの基準を持って就職活動を進める方向に変化していくでしょう。採用する企業もこのような流れにしっかりと適応していくことが求められると考えています。
Q. 今後、数値で判断できないもの(「人間力」「カルチャーフィットの度合い」など)は、AIツールなどで判断していくことができるようになるのか?
佐藤氏:これまでは「行動実績が偏差値や学歴といった枠組みに反映されているだろう」という考えのもと、エントリー数を絞ることで採用の効率を上げていました。過去に「学歴を問わない」という採用を実施した企業が、選考の中で能力検査をやったらほぼ学歴順番になったという結果もあり、一定程度はこの枠組みが機能していたと思います。
これが、今後は、選考の初期段階でAIを活用することにより、かなり膨大な候補者が集まったとしても、短時間で判定できるようになるのではないかと考えています。
ただ、一方で、大学入試の多様化が急速に進んでおり、従来の偏差値や学歴だけでは判断できない状況も生まれていると思います。中学や高校での活動実績によって入学するAO入試や、得意な科目だけを選択して受験するといったことも増えており、このような環境変化を踏まえて測定していくには、現在の適性検査だけでは難しい面もあるでしょう。
AIを活用して学生のこれまでの活動実績をどう測定していくかは、今後の課題であり、過渡期なのではないかと思っています。
千葉氏:我々も、いわゆる学歴などの枠組みだけでエントリーを制限するといったことはしていません。同じ大学といっても様々な方がいらっしゃるので、しっかり各学生と向き合って合否の判断をおこなっています。
その上で、選考初期の段階で適性検査を実施して、あくまで面接のときの参考情報として活用するようにしています。
Q. AIでの面接を実施した中で、特に効果があったと感じた施策は何か?
千葉氏:AIで実施した面接のフィードバックを、面接直後に実施したことです。
人との面接では、学生側も自分の話が刺さっているかどうか感じることができました。しかし、AIが相手だとわからないため、学生が不安になってしまうのではないかと思っていました。
そのため、AIでの面接が終わった後に、面接での良かったところや今後の改善ポイントについて、学生のことを考えてフィードバックしていったことが、その後の選考辞退率の低下にも繋がったのではないかと思っています。