降格とは、社員が現在就いている役職・職位を引き下げる処分です。降格処分をする企業側には、慎重な判断と正当性が求められ、会社の権力を濫用したものは違法に当たります。
しかし、なかには「降格の判断が難しい」「どのような降格が違法になるのかわからない」と悩む人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、企業・人事向けに降格とは何か、処分の注意点や違法に当たるケースも含めて解説します。
目次
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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1. 降格とは従業員の役職・職位を下げること
降格とは、従業員の役職・職位などを上位から下位に下げることをいいます。たとえば、部長のポストにいた人が課長になるようなケースです。降格は、「懲戒処分による降格」「人事による降格」「経営上の理由による降格」の3種類があり、それぞれで行使できる権限やルールが異なります。
それぞれの違いについて、しっかりと確認しましょう。
1-1. 懲戒処分による降格
従業員が会社の不利益になる行為や規律違反をした場合は、制裁の意味で懲戒処分による降格をおこないます。会社が持つ懲戒権を行使し、懲罰的に執りおこなう厳しい処分です。減給が伴うケースもあり、会社の処分について基本的に従業員は拒否できません。
懲戒権を行使する際は、就業規則の規定に則り、合理的かつ社会通念に適した判断が必要です。先例や厳格なルールにもとづき、慎重に検討・実施するよう注意しましょう。
1-2. 人事による降格
人事による降格とは、従業員の能力が役職・職位に不適格と判断できる場合におこなえる、人事上の降格処分です。会社の人事権(社員の配置を決める権利)にもとづくもので、原則として、業務上必要な範囲であれば、自由な判断でおこなえます。
人事の降格には、役職または職位を下げる「降職」と、職能資格や給与の等級を落とす「降級」があります。
役職だけを落とす降職は、給与に直接影響を及ぼすものではありません。ただし、役職報酬が減ることで、結果的に支給額が減少するケースもあります。
降級は、基本給そのものの減額に直結する処分です。賃金の減額が伴うため、その正当性が厳しく判断され、就業規則の根拠または従業員の同意が必要になります。
降格は本人だけでなく周囲の従業員にも影響を及ぼすものであるため、慎重かつ納得感を得られるように根拠をもって実施しなければなりません。どのような評価を受けて降格だったのか客観性が必要です。そのためには体系だった人事評価制度がなくてはならない存在です。
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1-3. 経営上の理由による降格
経営上の理由により、降格を検討するケースもあります。たとえば、業績悪化により人件費を削減する必要がある場合や、組織体制の変更により役職やポストを減らす必要がある場合などです。
整理解雇を避けるために実施されることもありますが、減給などにより従業員の生活に影響が出る可能性もあります。人事による降格と同様、従業員に対して丁寧な説明をおこない、合意を得るようにしましょう。
2. 降格が認められる主な5つの事由
降格処分の対象となる主な事由は、次の5つです。
- 規律に違反している
- ハラスメントなどの問題行為がある
- 勤務態度がよくない
- 職務遂行能力に欠けている
- 配置転換によって部署が変わる
詳しく確認していきましょう。
2-1. 規律に違反している
前述した通り、従業員が就業規則に違反した場合は、懲戒権の発動が認められます。横領や情報漏えいなど、会社に重大な損害を与えるような行為はもちろん、社内規則に反する行為も降格処分の対象です。
また、就業規則で禁止している兼業や副業をおこなった場合にも、処分を適用できます。
2-2. ハラスメントなどの問題行為がある
ほかの従業員に対し、パワハラやセクハラなどのハラスメント行為があった場合も、降格の対象にできます。相手が強い精神的・身体的苦痛を訴えたり、長期間繰り返されていたりなど、極めて悪質な場合は懲戒処分による降格が妥当です。
このほか、備品窃盗などの法律に違反する行為、コンプライアンスに反する問題行為も降格処分の事由に当てはまるでしょう。
ただし、社外・勤務時間外でおこなわれた私生活での非行や事件は、労働契約の関係で懲戒処分にできない可能性があります。そのため、就業規則の根拠を提示したうえで、従業員の非行が会社の信用失墜行為に値するのかを立証することが重要です。
2-3. 勤務態度がよくない
特別な事情のない遅刻・無断欠勤をはじめとする勤務態度の不良も、懲戒の降格事由に相当します。
しかし、実際は数回の遅刻・無断欠勤で降格にするのは難しく、口頭での注意や戒告にとどまるケースがほとんどです。降格処分が認められるのは、著しい勤怠不良があり、注意や指導を何度しても改善されない場合と捉えておきましょう。
勤務態度が悪いことを事由にする際は、就業規則の根拠や指導の記録を明示したうえでおこなうことが重要です。
2-4. 職務遂行能力に欠けている
人事による降格で多いのが、職務遂行能力に欠けるという事由です。たとえば、与えられた職務に対してスキルや経験が不足している、成績が振るわないなどの例が挙げられるでしょう。
管理職の場合、部内の統括や指導ができないことや業務品質の低下など、マネジメント能力の不足を理由に降格することもあります。
2-5. 配置転換によって部署が変わる
人事権を行使しておこなう降格のなかには、配置転換に伴う人事異動の一環として役職を落とすケースもあります。従業員本人の過失や問題によるものではなく、会社都合の降格です。
また、異動・転勤先の業務内容と従業員の適性から、スキルアップや人材育成を狙いとしておこなうことも少なくありません。
ただし、役員報酬が減るなどのマイナス面もあることから、従業員が不満を感じないよう十分な説明をすることが大切です。
3. 降格が違法に当たる5つのケース
ここからは、降格が違法または無効となる5つのケースを紹介します。
- 違反行為の証拠がない
- 就業規則や雇用契約書に降格事由が明記されていない
- 不当な目的でおこなわれている
- 処分が重すぎる
- 妊娠・出産や育休の取得を理由にしている
正しい降格をおこなうためにも、しっかりと確認しましょう。
3-1. 違反行為の証拠がない
懲戒処分として降格する場合は、厳格な判断が必要になるため、たとえ本人に過失があっても証拠がなければ無効になる可能性があります。
降格する際は、事実関係の裏を取り、違反行為が降格事由に該当する証拠を揃えることが重要です。
3-2. 就業規則や雇用契約書に降格事由が明記されていない
懲戒処分による降格は、就業規則の降格事由に当てはまることが必須要件であり、記載がない場合は、違法に当たります。また、人事上の降格であっても、給与の減額が伴う場合は、就業規則の根拠が必要です。
降格については、就業規則にある「懲戒」や「人事異動」の項目または、雇用契約書に記載する場合がほとんどです。懲罰的に降格したり、減給をおこなったりする際は、就業規則や雇用契約書の降格事由に当たるかどうかを必ず確認しましょう。
3-3. 不当な目的でおこなわれている
従業員を退職に追い込んだり、嫌がらせで地位を落としたりなど、正当性を欠く降格も違法です。降格は、社会通念に相当する判断で合理的におこなわれるべきであり、管理者や人事が身勝手に処分することは許されません。
また、特定の従業員だけに不利益を与える降格も注意が必要です。
3-4. 処分が重すぎる
部長のポストから一気に一般社員へと下がるような、段階を踏まない過度な降格も違法となる傾向にあります。たとえ懲戒処分に該当する事案であっても、軽度の違反で大幅な降格をするのは合理的ではありません。
降格の内容が規律違反の程度や事由に対して重すぎないか、よく検討することが大切です。
3-5. 妊娠・出産や育休の取得を理由にしている
原則として、本人の希望や同意がない限り、妊娠・出産、育休の取得をきっかけに降格することは違法に当たります。男女雇用機会均等法により、企業は雇用や待遇で性差を設けてはならない決まりです。
このほか、療養のための長期入院や、有給休暇の取得をはじめとする労働者の権利行使を理由にした降格も基本的に認められません。
4. 降格の5つの手順
ここからは、降格の手順を解説します。具体的な手順は次の通りです。
- 事実関係の把握・根拠の収集をする
- 降格方法を決定する
- 社員の弁明や改善の機会をつくる
- 減給の有無を検討する
- 社員に文書で通達する
各手順について詳しく確認していきましょう。
4-1. 事実関係の把握・根拠の収集をする
降格事由に該当する行為や問題があった場合は、正しい事実関係を確認しましょう。当事者だけでなく、周囲にも聞き取りをおこない、客観的かつ具体的に把握することが重要です。
違反行為の内容により、懲戒処分による降格が妥当だと判断される場合には、証拠となるデータや情報を集めます。違反行為に対する注意や指導の記録も残しておきましょう。
4-2. 降格方法を決定する
問題の事実関係や証拠を整理したうえで、懲戒処分による降格か人事としての降格かを決めましょう。
重大な規律違反行為には、懲戒権を行使できます。本人の能力不足や成績不振が原因なら、人事による降格が有効です。
4-3. 社員の弁明や改善の機会をつくる
懲戒の降格では、従業員に弁明や改善の機会を設けなくてはなりません。本人の言い分を聞き、本人が反省をしているか観察することで、処分の判断材料にできます。
人事権の範囲で降格する場合は、弁明の機会を作らなくても問題はありません。ただし、一般的には、従業員が前向きな姿勢で改善できるよう、経過観察の機会を与えたほうがよいでしょう。
4-4. 減給の有無を検討する
違反の程度や従業員の弁明内容から、減給の有無を検討します。減給をおこなう場合は、就業規則で減給について書かれているかも必ず確認しましょう。
4-5. 社員に文書で通達する
従業員に処分を伝える際は、降格内容を正しく理解してもらえるよう、文書で通達しましょう。個人面談の機会を設けて伝えると、より丁寧です。
また、従業員にとって降格されることは、今後のキャリアにもつながる重大なことです。伝える場所やタイミングを考えるなどの配慮も忘れないでおきましょう。
5. 降格をおこなう際に注意したい5つのポイント
従業員を降格させる際は、以下5つのポイントに注意が必要です。
- 段階的な処分を検討する
- 以前に懲戒処分をした行為は降格の理由にできない
- 職種を限定して労働契約をしている場合は降格できない
- 降格に関連する書類を保管しておく
- 再昇格のチャンスを与える
それぞれの注意点について詳しく確認しておきましょう。
5-1. 段階的な処分を検討する
降格を実施するときは、段階的な処分を検討することが重要です。部長から一気に一般社員に降格させるなど、問題行動に対して重すぎる処分は無効と判断される可能性があります。
また状況によっては、厳重注意をおこなう「戒告」や、一定期間の出勤を禁止する「出勤停止」など、降格よりも軽い懲戒処分から与えることも検討しましょう。
5-2. 以前に懲戒処分をした行為は降格の理由にできない
「二重処罰禁止の原則」により、企業は1つの違反行為に対し、2度にわたって懲戒処分を命ずることはできません。つまり、以前に戒告や停職の懲戒処分にした行為は、後から懲戒処分で降格できないということです。
5-3. 職種を限定して労働契約をしている場合は降格できない
雇用時に職種を限定して労働契約を結んでいる場合は、原則として降格できません。限定的な労働契約で降格が認められるためには、対象となる従業員の同意が必要です。
とくに、医療業や福祉業など、さまざまな職種で成り立っている会社では、処分を検討する際に必ず労働契約書の内容を再確認しましょう。
5-4. 降格に関連する書類を保管しておく
降格に関連する書類は、一定期間、保管しておくことが大切です。裁判に発展した際に、違反行為の証拠となる書類の提出を求められるケースもあります。また、降格処分を受けた従業員から、再度、説明を求められるケースもあるでしょう。降格の通知書や証拠資料など、重要な書類はしっかりと保管しておかなければなりません。
5-5. 再昇格のチャンスを与える
降格させた従業員には、再昇格のチャンスを与えましょう。問題行動があったとはいえ、再昇格のチャンスがなければ、モチベーションを失ってしまう可能性もあります。
決められた条件を満たすことで再度昇格できるなど、社内ルールを設定しておけば、引き続き前向きに働いてくれることを期待できるでしょう。
6. 違法な降格処分をしないよう注意しよう!
今回は、降格の意味や具体的な手順などについて解説しました。降格が認められるケースがある一方で、懲戒権や人事権を濫用すると、降格処分が無効になる可能性もあるため注意が必要です。降格は従業員の生活に大きな影響を与える処分であるため、慎重に判断しなければなりません。
また、降格を実施するときは、段階的な処分を検討したり、再昇格のチャンスを与えたりすることが大切です。従業員のモチベーションを維持できるよう、適切な手順で降格を実施しましょう。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
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