ジョブクラフティングという言葉をご存じでしょうか。
終身雇用制度の崩壊、テレワークの普及を背景に、現在ジョブクラフティングの導入が注目を集めています。
しかし、実際ジョブクラフティングについて、くわしくご存じない方も多いのではないでしょうか。本記事では、ジョブクラフティングの意味から導入方法まで注意点も抑えながら解説していきます。
目次
1.ジョブクラフティングとは?
ジョブクラフティングとは、従業員が自らの仕事に対する意識を主体的に捉えなおし、日々の単純な業務や「やらされている感」のある仕事をやりがいのあるものにできるよう再設計させていく手法のことを指します。
1-1.ジョブデザインとの違い
ジョブクラフティングと同じように用いられる言葉で、ジョブデザイン(職務設定理論)という言葉があります。
ジョブクラフティングと非常によく似た言葉ですが、その意味は大きく異なるので注意が必要です。ジョブデザインとは、従業員が働きがい、モチベーションを感じられる仕事を企業側が設計し、割り当てることを指します。
これらはどちらも従業員の働きがいに着目した概念ですが、従業員が主体となって仕事のやりがいを再定義するジョブクラフティングに対し、ジョブデザインは企業、経営者が主体となっているという点で大きく異なっています。
2.ジョブクラフティングが求められる背景
ジョブクラフティングの意味についてご理解いただけたでしょうか。本章ではジョブクラフティングが注目を集めるようになった背景について解説していきます。
2-1.組織と従業員の関係性の変化
一つ目は、組織と従業員の関係性の変化にあります。
近年、長期雇用を前提とし、業務に従事することが昇進につながるという環境は変化しつつあります。終身雇用制度の崩壊により会社と従業員の長期的な関係性が崩れ、組織から与えられた通りの仕事をこなす受け身の姿勢ではキャリアアップを望みにくくなりました。
この影響により従業員自ら主体的に仕事のやりがいを模索し、「個人でのキャリア開発」の重要性を認識するジョブクラフティングが注目されているのです。
2-2.「個人作業」の進行
二つ目は「個人作業」の進行です。
近年、業務の複雑化・専門化が進んでおり、自分の仕事が自社に及ぼした実績が可視化しにくくなりモチベーションの低下を招いたり、専門性の高さ故に、人に頼むより自分一人でこなしたほうが早いという考えが生まれ、社内でのコミュニケーションが減少し孤立化が進むといった問題が生じています。
これらの問題を改善するため、社内で人間関係を構築し、自律的な働き方を身に着けるジョブクラフティングが重要視されてきているのです。
3.ジョブクラフティングを取り入れるメリット
このように現在注目を集めているジョブクラフティングですが、実際に取り入れることで企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?本章では具体的なメリットを3点あげて解説していきます。
3-1.【メリット①】生産性の向上
1つ目は、「生産性の向上」です。
仕事に対してモチベーションが高い従業員は積極的に自分の業務に取り組むため、高い成果を残しやすく、企業としての生産性の向上につながります。
さらに、従業員が仕事に対して主体的になることで自身の業務上での役割を正確に理解できるようになり、自然と自分の強みを生かした人員配置が構成されます。それに伴い、高い自主性、リーダーシップを持った人材の育成も期待できます。
3-2.【メリット②】離職率の低下
2つ目は、「離職率の低下」です。
労働市場が流動的な近年、転職を検討している従業員も少なくありません。現在の仕事に対し高いモチベーションを維持している従業員は、企業へ高い満足度を持つため、離職につながりにくいです。
そして、ジョブクラフティングの活用により日々のタスクや職務内容に関してより良い向き合い方を模索するため、業務上でのストレスの軽減が期待でき、自社への愛着、帰属意識につながるでしょう。
3-3.【メリット③】従業員満足度の向上
3つ目は、「従業員満足度の向上」です。
ジョブクラフティングの活用により、従業員一人一人が自分の仕事の意義や自社に与えている影響について考えるようになるため、やりがいや責任感を感じるようになり、従業員満足度の向上に効果的です。
日々の業務のやらされ感がなくなるため、従業員は業務に対しても能動的になり、自分らしさを生かせるようになります。
4.ジョブクラフティングの導入手順
本章では、ジョブクラフティングを導入するうえでの5ステップを解説していきます。
4-1.業務の見直し
1ステップ目は、「タスクの見直し」です。
現在、従業員が携わっている業務をすべて書き出します。この時、仕事内容だけでなく、その業務により関わってきた人々についても書き出すことで「自分がこの業務を通して実現していきたいこと」といった仕事での目標設定につながります。
4-2.仕事のやり方に対する工夫
2つ目のステップは「仕事のやり方に対する工夫」です。
1ステップ目で書き出した業務がより自分にとって意義深く、やりがいのあるものになるよう量や範囲を再設定します。
4-3.周囲への働きかけの工夫
3つ目のステップは、「周囲への働きかけの工夫」です。
普段の業務のほか、会社全体での大きな目標を達成するためには他者との交流が不可欠です。社内で積極的にコミュニケーションをとることで業務への関係人口が増え、タスクの完成度が向上するだけでなく、社内での意見交換が容易なものとなります。
4-4.仕事の捉え方や考え方の工夫
4つ目のステップは、「仕事の捉え方や考え方の工夫」です。
携わっている業務や仕事内容を自分の興味、関心事と結びつけて考えることで、仕事のやりがいを感じ、より高いモチベーションを維持することができます。また、自分の仕事の目的を見つめなおし、社会的意義を再確認することで業務への主体的な動機付けにつながります。
4-5.実行計画の検討
最後に、5つ目のステップは、「実行計画の検討」です。
上記のステップをもとに、ジョブクラフティングの実行計画を立てます。現在自分が業務に費やしている時間、熱量を書き出し、それと比較し具体的な改善点を記入した新しい計画カードを作成します。
5.ジョブクラフティングを実践するうえでの注意点
前項のジョブクラフティングの導入手順を踏まえ、本章ではジョブクラフティングを実践していく上での注意点を紹介していきます。
5-1. 仕事が属人的になってしまう
1つ目は、「仕事が属人的になってしまう」ことです。
ジョブクラフティングは、従業員が主体となり働き方を検討するため裁量の範囲が大きく、仕事が属人的になってしまう恐れがあります。仕事の属人化が進むと、担当者の長期休暇や退職の際、業務の引継ぎがおこなえないなど、様々な問題が発生します。定期的に業務の情報共有・フィードバックの場を設けることが大切です。
5-2.やりがい搾取
2つ目は、「やりがい搾取」です。
ジョブクラフティングは、従業員が主体的に働き甲斐を感じるようになることが重要であり、組織がそれらを強要することは「やりがい搾取」につながります。やりがい搾取とは、企業が従業員のやりがいを利用し不当な低賃金、長時間の労働を強いることです。正しい労働条件のもと、「組織から与えられたやりがい」ではなく「従業員自らが設定したやりがい」であることが重要です。
5-3.ジョブクラフティングの強要・押しつけ
3つ目は、「ジョブクラフティングの強要・押しつけ」です。
ジョブクラフティングは、従業員が能動的により良い働き方を検討することが重要であり、組織が業務の改善を強要したり、やりがいを押し付けると、かえって従業員のモチベーションを低下させる恐れがあるため注意が必要です。
6.ジョブクラフティングを取り入れた事例
本章では、実際にジョブクラフティングを導入している企業事例を紹介します。
6-1.東京ディズニーリゾート
ジョブクラフティングを取り入れている事例としては、東京ディズニーランドがあげられます。東京ディズニーランドで働く清掃員は「カストーディアルキャスト」という名前で呼ばれており、清掃業務以外に来場者をもてなす業務も担当しています。
具体的には、来場者の写真撮影、道案内のほか、モップを使い地面にディズニーキャラクターを描く姿はディズニーランドにいったことのある方は一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。日々の清掃業務に来場者を楽しませるという「やりがい」を見出した素晴らしい例と言えるでしょう。
7.【まとめ】従業員と手を取り合ってともに成長できる企業に!
いかがでしたでしょうか。本記事ではジョブクラフティングの意味から導入方法、実際の事例までご紹介してきました。従業員のモチベーション管理に悩みを抱えている人事担当者様も多いのではないでしょうか。ジョブクラフティングを導入し、組織と従業員が団結し、同じ方向を向いてともに成長できる組織づくりを目指していきましょう!