リカレント教育とは?従業員の将来を考えたこれからの会社の作り方

皆さんは「人生100年時代」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?

ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏が、著書である『LIFE SHIFT(ライトシフト)』で過去の200年の統計から「今後平均寿命が伸びていく」と提唱し、話題となっている言葉です。

人類全体の寿命が長くなったことで、各個人の間では「今後の人生設計を見直す必要があるのではないか」と感じ始めている方も多いかもしれません。

このような中で、企業では従業員の“リカレント教育”に注目が集まっています。

リカレント(recurrent)は「循環・繰り返す」という意味で、つまり、リカレント教育とは「繰り返し勉強すること」という意味になります。

本記事では、リカレント教育とはどのようなものなのか、その効果や実際の導入例などを詳しく解説していきます。

1.リカレント教育とは

リカレント教育とは、人生の中で「就労」と「学び」を繰り返す教育システムのことを言います。

これまでの「学校教育」を生涯にわたって分散させようとする理念で、義務教育や高校・大学での学びを終えた後、社会人になってからでも、新しいスキルや知識を身につけるために、再度新しい分野の知見について学びなおすことを指します。

1-1.欧米と日本におけるリカレント教育の違い

リカレント教育という用語を最初に提唱したのは、スウェーデンの経済学者であるゴス・レーンと言われています。

そして、1969年のヨーロッパ大臣会議においてスウェーデンの分部大臣パルメ氏がスピーチの中でこの言葉を使用し、国際的に注目されるようになりました。

その後、リカレント教育は各国に普及していきましたが、特に海外諸国では、日本よりもいち早くリカレント教育の重要性が叫ばれ、国の政策として取り上げられるようになっていきました。

日本では、夜間制社会人大学院や放送大学などがリカレント教育に相当しますが、それほど普及しているとは言い難い状況です。

また、リカレント教育をおこなう目的は、「職業上必要な知識の習得やスキルアップ」であり、海外と日本で大きな違いはありません。

しかし、海外のリカレント教育は長期に渡って仕事を離脱し、学生として大学へ就学したり、国外留学に行ったりするなど、日本での方法とは少し異なっていることがわかります。

1-2.日本におけるリカレント教育の課題

リカレント教育は、すべての人がスキルアップのチャンスを増やし、人生をより豊かにする手段として注目されています。しかし、日本ではまだまだ普及が進んでいません。

日本では、リカレント教育に対しての理解が不十分であり、仕事以外の時間で学習時間を確保しづらい現状にあります。

また、日本におけるリカレント教育の課題として、欧米などと比較すると日本は質の良いリカレント教育を提供している教育機関が少ないことが課題としてあげられます。

日本政府は、大学教育の質の向上を図るために大学教育の見直しをより一層深めるよう呼びかけており、こういった改善が進めば、今後リカレント教育はますます日本にも浸透していくと考えられます。

1-3.「リカレント教育」と「生涯学習」の違い

リカレント教育は生涯にわたり学び続けていくことから、「生涯学習」と混同されて使われることが多くあります。

生涯学習とは、生涯にわたっておこなうあらゆる学習のことを言います。

学習机に向かってペンを走らせるような学校教育に留まらず、社会教育、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動、企業内教育、そして趣味など、生きて生活をしている中で学んだことすべてを「生涯学習」と呼ぶことができます。

リカレント教育は生涯学習の一部ではありますが、仕事でのスキルアップやキャリアアップを目指すことを目標に受けるため、趣味や生きがいを目標として受けるものではないという違いがあります。

2.なぜ今リカレント教育が注目されているのか

ここでは、企業においてリカレント教育をおこなう必要性について、日本で注目され始めた背景から解説したいと思います。

2-1.浸透し始めた人生100年時代という考え方

冒頭で話したように、日本で人生100年時代という考え方が浸透してきたことが、リカレント教育に注目が集まっている1つの要因です。

少子高齢化が進む中で、老若男女問わず全員が活躍することのできる社会の実現が求められており、それに伴って定年退職の年齢を上げる企業も出始めています。

また、働く期間が長くなるということは、定年退職後に再雇用・再就職の可能性も大幅に上がります。女性の場合は、育休や産休後の仕事復帰を目指す人も増えることでしょう。

幅広い人材が活躍したり、ブランクを乗り越えたりするためには、新しい知識やスキルを身に付けることが必要となり、そのための手段として、リカレント教育が注目されているのです。

2-2.急激な技術の革新による仕事の変化

近年になってIoTやロボット、AIの進化が著しく早くなっており、人々はこれまで以上に快適な生活を送ることができるようになりました。

しかし、このような世の中で人が働き続けるには、AIやロボットでは代行できないような仕事をしなければなりません。

これまで通りに仕事をしていては社会で通用しないため、新しいスキルをアップデートをする機会としてリカレント教育が注目されているのです。

2-3.雇用の流動化による教育体制の変化

これまでは、大学を卒業し新卒で会社に入社し定年まで働く「終身雇用」が当たり前の世の中でした。

しかし、最近では会社に依存せず、転職活動をする人も多くなっています。

これまでは社内での教育や実際の実務で仕事に必要なスキルを自然と身に付けられることができました。

しかし、一つの企業での勤連年数が短くなると、社内の教育だけでは十分にスキルが身に付けられないという課題が出てきています。

そのため、社内教育だけに頼るのではなく、自らがスキルアップをするための手段としてリカレント教育が個人レベルでも注目されています。

3.リカレント教育をおこなうメリット

ここではリカレント教育をおこなうことで得られるメリットについて、企業側と従業員側の双方からの視点でご紹介します。

3-1.企業側のメリット

企業側のメリットとしては、社員がスキルや知識をアップデートできるという点が挙げられます。

その時々の経済情勢やビジネスモデルによって企業も環境の変化に適応していかなければなりません。

そのため、会社の社員が繰り返し教育を受け続けることで、変化に強い会社を作ることができます。

また、従業員が新しい知識を取り入れることで、その知識を応用することで多少の環境の変化にも対応が可能になり、各従業員の生産性向上が期待できます。

3-2.従業員側のメリット

年収の増加

内閣府が作成した財政報告資料の事例によると、リカレント教育を受けた就学者と受けていない非就学者の3年後の年収には、15万円もの開きが生まれたとのデータがあります。

スキルアップやキャリアアップによって実践的な知識が身に付けられるため、従業員の市場価値が向上するという効果があります。

専門性の高い職業につきやすくなる

急激な技術の革新に伴い、専門性の高い職業の需要が高まっているため、新しく学んだ分野における仕事への就業率の増加につながります。

定型的な仕事からキャリアアップを目指す人にとって、リカレント教育は有効な手段といえるでしょう。

4.リカレント教育で何を学ぶことができるか

それでは実際のリカレント教育ではなにを学ぶとこができるのか具体的にご紹介します。

4-1.リカレント教育で学ぶことのできる具体的な内容

「リカレント教育」は、主に自身の仕事に関連した専門知識を増やすために学び直すことが多いです。

MBA・社会保険労務士といった「資格取得系科目」、経営学・法律・会計などの「ビジネス系科目」、英語などの「外国語」、「ITリテラシー」「内部監査」など、自身のスキルを高める目的で学ぶ方がほとんどです。

また、現在は「プログラミングスキル」などの技術革新に影響されたスキルも需要があることでしょう。

学習科目に限らず、観光業や農業など「地域に特化した科目」や、介護・福祉といった「社会的需要の高い科目」も学び直すことが可能です。

4-2.リカレント教育の実践方法

基本的に学習方法は大きく3つに分かれています。

  • 大学講義での学習
  • 資格学校での学習
  • オンライン講座での学習

それぞれの特徴を解説します。

大学講義での学習

社会人向けにリカレント講義を開校している大学に就学して学習をする方法です。

講義は基本的に通年での学習が一般的になっています。講義の内容は各大学の専門分野に特化していることが多いです。

日中に働いている社会人でも通いやすいように、夜間や休日の時間帯での講義を用意している大学も多く、費用は入学金に通期授業料で数十万円ほどになっています。

通年でじっくり学ぶスケジュールなので、時間をかけて学びたい方にお勧めできます。

【リカレント教育に対応している大学例】

  • 早稲田大学
  • 日本女子大学
  • 明治大学
  • 大阪府立大学
  • 放送大学
  • 筑波大学

資格学校での学習

資格学校は国家資格や民間資格を取得することに特化した講義をおこなっています。

業務上特定の資格が必須となる場合には、こういった講義を活用する企業も多くなっています。

講義を受講することで本試験での点数を免除してくれるものもありますので、受講しておくことで資格取得にかなり有利に働くこともあります。

費用は授業料やテキスト代などを含めて数万円ほどが相場となっています。

オンライン講座での学習

web上での公開講義やオンライン動画を通して学習する方法です。

このオンライン講義は「eラーニング」とも呼ばれおり、ノートパソコンやスマートフォンなどを用いて、場所や時間を選ばずに学習をすることができます。

中には、大手企業の経営者や、著名な作家を講師として招いた映像学習もあり、業務における学習だけではなくビジネスパーソンの自己啓発の一環としても利用されています。

費用は学習のすべてをオンライン上でおこなうため、授業料やライセンス料金などを含めて数千円~数万円ほどが相場となっており、比較的安価で導入できることも特徴と言えます。

5.リカレント教育についての国の取り組み

国としてリカレント教育に対し様々な制度、政策をおこなっています。ここではそれらを詳しく紹介します。

5-1.各大学のリカレント教育に対する制度

社会人特別選抜

多くの大学で、社会人を対象とする特別選抜制度が実施されています。

1994年度は、207大学(うち国立大学は28大学)において実施されており、これによる入学者は4,199人(うち国立大学は534人)でした。

編入学

短期大学や高等専門学校の卒業生で、4年制大学への編入学を希望する人が増加傾向にあることを受けて、編入学のための枠を設定しやすいものに大学設置基準の改正がおこなわれたので、今では、様々な大学がプログラムを組んでいます。

夜間部・昼夜開講制

時間的制約に対応するために、多くの大学で夜間部の設置や昼夜開講制の実施がおこなわれています。

5-2.日本政府のリカレント教育に関する政策

リカレント教育推進事業

文部科学省が、産業構造・就業構造の変化や技術革新に対応する組織的な学習機会を提供するため、リカレント教育推進事業を実施しています。

高等教育機関・地方公共団体・産業界等の関係者で構成されている、地域リカレント教育推進協議会が実施主体です。

大きくわけて以下の3つの活動をおこなっています。

  • 社会人・職業人の学習ニーズなど情報の収集・提供
  • 学習プログラムの研究・開発
  • 学習コースの開設

大学入学資格検定制度

大学入学資格検定制度は、高等学校教育が受けられなかった人などに対して、能力に応じて大学教育の機会を提供するための制度です。

この資格検定を受け一定の科目に合格した場合に大学入学資格が与えられます。

5-3.給付金や補助金について

「リカレント教育」を受けたいと思った際に利用できる給付金・補助金があるため紹介します。

教育訓練給付金

厚生労働省がおこなっている、労働者の主体的な能力開発に対する取り組みや、中長期的なキャリア形成を支援する制度で、雇用の安定や再就職の促進をはかることを目的としています。

教育訓練の受講に支払った費用の一部が助成され、初めて専門実践教育訓練を受講する人で、受講開始時に45歳未満であるといった条件を満たし、訓練期間中に失業状態の場合は、「教育訓練支援給付金」の給付が受けられます。

人材開発支援助成金

従業員の専門的な知識や技能習得のために計画的な職業訓練を実施した企業に対する助成制度です。

労働者の長期的な能力開発を促進するため、企業が負担した訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

また、企業のニーズや支援制度の内容に合わせて、訓練そのものの費用を助成する「訓練コース」と、労働者が訓練のために長期休暇を取った場合に利用できる「休暇付与コース」があります。

教育訓練休暇制度

事業主以外の実施する教育訓練や職業に関連する各種検定、コンサルティングを自発的に受けるために長期休暇が必要な場合に利用できます。

ただし、当該教育訓練が業務命令によるものだったり、通常業務の一環だったりする場合は対象外になります。

助成額は30万円で、3年度前に比べて企業の生産性が6%以上伸びているといった「生産性要件」を満たす場合は36万円になります。

長期教育訓練休暇制度

教育訓練休暇制度の中から2018年度に設置された制度で、休暇取得開始日~1年間で120日以上の教育訓練休暇が取得できます。

教育訓練の要件は、「教育訓練休暇制度」と同様で、助成額は20万円です。また「生産性要件」を満たす場合は24万円となります。

6.まとめ

今後、日本でもリカレント教育に関する制度が充実する可能性は高いです。

しかし、ただ外部の学習環境の整備が整うのを待つだけではなく、社員自らリカレント教育に対する知識・興味を深めることも大切になってきます。

従業員自らが更なるスキルアップを目指して行動するような体制を整えることも大事になってくるでしょう。

公式アカウントをフォローして毎日記事をチェック!