マネージャーが効果的な部下育成ができない理由と解決法 |HR NOTE

マネージャーが効果的な部下育成ができない理由と解決法 |HR NOTE

マネージャーが効果的な部下育成ができない理由と解決法

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

ビジネス環境は目まぐるしいスピードで変化していますが、マネージャー研修については20年前からほとんど変わっていないため、昨今いろいろな問題が出ています。なかでも問題となっているのは部下育成です。企業からの部下育成研修のリクエストは、この数年で急に増えてきています。

その代表的な理由は、

  • 若手社員は自分の成長とキャリアに対して関心が高く、マネージャーからのサポートを求めている
  • 若手社員は以前とは違い、より手厚くソフトタッチなフォローを期待している
  • マネージャーは今の若手社員に効果的な成長支援テクニックを知らない、できない

今回は、講師として数千人のマネージャーに部下育成と成長支援テクニックの研修を教えてきた経験に基づいて、若手社員に効く成長支援テクニックを紹介します。

マネージャーに必要な部下育成テクニック

細かいテクニックは様々ありますが、必ず押さえたほうが良いのはティーチング・コーチング・定着させるの3つです。

テクニック若手社員の状態教えるポイント
テクニック 若手社員の状態 教えるポイント
ティーチング(教える) 知らない 分かりやすく伝える
巻き込みながら説明する
コーチング(気づかせる) 一人で考えて答えにたどりつけない

心理的安全性のある雰囲気をつくる
効果的に質問をする

定着させる 分かる、けれどできない 忘れないようにさせる
使う機会を与える
成功体験を通じて自信を持たせる

テクニックを一つずつ詳しく見ていきましょう。

①ティーチング(教える)

部下育成で必要なテクニックと聞いてすぐ思い浮かぶのはティーチング、教えることでしょう。ティーチングとは、分からない相手に内容を丁寧に詳しく説明することです。

必要な場面

新入社員のように知識がなく何をすればいいか分からない相手には、ティーチングが必要です。狙いは、相手の知らないことや持っていない知識を教えることです。

マネージャーの現状

ティーチングはイメージしやすいですが、実際にやるとなると様々な問題が起きます。

例えば、マネージャーのティーチングに対してよく出てくる問題は、

  • そもそも実施できない。「部下と長い時間をかけて1対1の対面で教えないといけない」と思い込んでいる人が多いため、スケジュール調整が難しくいつまでたっても機会がつくれないケースは残念ながら多々ある
  • 専門家の立場から丁寧に詳しくすべてを説明しようとするため、情報量が多すぎて難易度も高くなり、相手はついていけなくなる
  • 分かりやすくロジカルに説明するが、話が一方的なため若手社員は十分吸収できず、分からないままで終わってしまう

こうならないためのポイントを説明します。

ポイント

効果的なティーチングのポイントは、まずこの2つです。

分かりやすく説明する

教える必要がある場合、当然ながら相手は内容を知りません。初めて聞く人でも理解できるよう、分かりやすくロジカルに説明する必要があります。また、持っている情報をすべて教えるのではなく、分からない人にとって最低限の、知らないと困る情報のみに絞ることをおすすめします。

一方通行ではなく、相手を巻き込みながら説明する

一気に最初から最後まで説明すると、聞き手は途中からついていけなくなる可能性が高くなります。そうならないように、説明をしながら問いかける、巻き込む、相手にしゃべらせるなどすると良いです。

一方的な説明ではなく、対話をしながら相手の理解を確認します。そうすれば、リアルタイムで相手がついて来れているかが分かり、ゆっくりしたほうがいいのか、もう少し掘り下げて説明する必要があるのかなどが判断できます。

講師の経験から言うと、双方向での説明は多くのマネージャーにとっては慣れていないものなので、研修で強化したほうが良いテクニックです。

②コーチング(気づかせる)

ティーチングは想像しやすい部下育成のテクニックですが、最も効果的というわけではありません。もう一つ、大切なテクニックとしてよく耳にするのはコーチングです。

「コーチングは大切」だとここ数年でよく聞くようになりましたが、「なぜ大切か?」「そもそもコーチングとは?」という明確なイメージを持つマネージャーはそう多くありません。まずはそれを教えたうえで、具体的なテクニックを教える必要があります。

必要な場面

ティーチング同様、コーチングはどの場面でも使えるオールマイティーなテクニックではありません。

部下はある程度知識はあるが、自分の力で考え抜くことができない、答えにたどりつけない、頭が整理されていない、大事なことに気づいていないといった場合にコーチングは最適です。

マネージャーの現状

多くのマネージャーはコーチングというキーワードは知っており、コーチング関連の本も読んだことも、研修でコーチングテクニックを学んだこともあります。

ですが、数千人のマネージャーに教えた経験から言えるのは、コーチングが非常にうまいマネージャーはほんの一握り、1%以下です。

といってもこれはマネージャーへの批判ではなく、コーチングというスキルがとても難易度が高く、優れたスキルとセンスが必要なものだからです。

研修中のロールプレイでも、職場に戻ってからの実際の1on1やコーチングセッションでも、多くのマネージャーがやってしまう問題はこちらです。

  • コーチングしているつもりだが、一方的なティーチングやアドバイスで終わってしまう
  • コーチングのテクニックを使っていても、心理的な安全性のある雰囲気がつくれていないため、部下は自由に話せない
  • いろいろな質問はするが、相手に気づかせるより相手のことを飽きさせないような雑談で終わってしまう
  • コーチングでよく使われる質問はするが、結局相手の考えを広げたり深めたりする効果につながらない

ポイント

マネージャーにコーチングスキルを身につけさせたいと思ったときに大事な大前提の一つは、「マネージャーをプロコーチにさせようとしない」ことです。

プロコーチは相当な量の勉強、何百時間もの練習、そもそもの高い関心とセンスがあってコーチをしています。短い研修を受けた普通のマネージャーでは、どう頑張ってもその域に達することはできません。

ですから、プロコーチの育成プログラムをそのままマネージャーに提供してもあまり効果はありません。

逆に、マネージャーだからこそできるのはこの2つです。

心理的安全性のある雰囲気づくり

上司と部下には当然のことながら上下関係があり、バックグラウンドも異なり年齢差もあります。そのため、上司が意識していなくても若手社員は話しにくい雰囲気を感じてしまう、距離があると思ってしまう、あまり自由に話せないと感じてしまうケースがよくあります。

そのため、上司が思っている以上に相手が話しやすい雰囲気をつくる必要があります。一言で言うと、心理的安全性のある環境づくりです。

テクニックというよりは「心理的安全性が大事」「相手が話しやすい雰囲気をつくるんだ」というマインドが大切です。そのマインドがあれば、あとは簡単な聞くコツや傾聴の基本だけでだいたいうまくいきます。

効果的な質問術

心理的安全性と違い、効果的な質問の仕方はけっこう難しいものです。プロコーチはクエスチョンの引き出しが多く、相手に合わせて最適な質問を選んで使うことができます。

ですが、マネージャーはプロコーチとは違い、意図的に質問を使うことに慣れていませんし、戦略的に鋭い質問をすることが得意ではなく、数多くの質問の引き出しも持っていません。

現実的に見て、研修を通じてマネージャーが身につけられるのは、意図的に質問を使うマインドと2~3種類の質問を使い分けるコツです。

③定着させる

これまで紹介したティーチングとコーチングはよく知られたテクニックですが、意外と知られていないが重要なテクニックの一つが「定着させる」です。

必要な場面

定着は、部下は分かるけれどできない、知っているがやらない場合に使う、効果的な成長支援テクニックです。研修や自己学習と違って定着は職場でしかできないため、上司の役割は非常に大きくなります。

さらに言えば、今はITの普及とAIのおかげで情報があふれており、情報がなくて何も知らない部下自体がだいぶ減っています。そのため、昨今はティーチングより定着が重要になってきています。

マネージャーの現状

現状、そもそも多くのマネージャーは「定着とは何か、なぜ大切か」が分かっていません。

分かっていたとしても、

  • どのように定着すればいいかが分からないため、結局ティーチングを繰り返してしまう
  • 定着のバリエーションを知らないため、適切な対応ができない
  • 定着テクニックをいくつか知っていても、部下の状況に合わせた最適なテクニックのマッチングができない
  • 部下に新しいスキルを活かす機会は与えるが、必要なサポートやフォローをしないため部下の学びにつながらない

といったことがよくあります。

ポイント

マネージャーに定着の支援ができるようにさせるには、まず「定着とは何か、なぜ大切か、マネージャーにはどんな役割があるか」を教えるところからスタートします。

ここで大切なのは、マネージャーに「定着をきちんとやれば自分の負担は少なく、部下の成長は大きくなる」という利点を説明することです。

定着のテクニックとしては、

  • 部下に新しい知識をしっかりと覚えてほしいときに忘れないようなレビュー、振り返り、リマインド、復習をさせる
  • 部下に新しいスキルをしっかりと身につけてほしい場合、きちんとできるまで練習する機会をつくり、仕事上で試すチャンスを与えて、それに対してフィードバックを伝える
  • リスクを恐れない、レジリエンスを高めるといったマインドを強化したい場合、部下を安心させたりプチ成功体験をさせたりして、少しずつ自信を高めさせる

といった内容です。

まとめ

マネージャー研修にはいろいろなスキルが含まれますが、部下育成については今すぐ時代に合わせて内容をアップデートすべきです。

その際、少なくとも今回紹介した3つのスキル、ティーチング・コーチング・定着させるを全マネージャーがマスターできるようにさせれば、部下や若手社員はスムーズに成長でき、学習風土を整える第一歩を踏み出すことができます。

AI推進の主役は人事である—AI推進を「組織変革」として設計する6つの要素

「AIツールを導入した。でも思うように浸透しない。」各社のAI推進担当者と話すと、この言葉をよく聞きます。Geminiを全社展開した、勉強会も開いた、でも数ヶ月後には一部の意識の高い社員だけが使っている、という状態に陥ってしまうことは少なくありません。

AI推進には「まだ正解の型がない」「テクノロジーの進化スピードが極めて速い」という、他のプロジェクトとは根本的に異なる難しさがあります。この不確実な状況下でAI活用を全社に浸透させるためには、単なる「ツール導入」ではなく「組織文化の変革」として捉える必要があります。

この問いに真っ向から向き合っているのが、私がPMOとして関わっている「kube-AI(くべあい)」というkubellの全社プロジェクトです。まだ道半ばではありますが、kubellでの取り組みを踏まえ、全社AI推進についての現時点の考え方をまとめてみました。以下6つの要素に分けて説明していきます。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニーグループ株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社。 グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任し、現在はBPaaS事業を推進する株式会社kubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1,000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

 

① 経営コミット――AI活用を経営アジェンダの中核に置く

全社でのAI推進において、経営陣の強力なコミットメントは、何より重要です。kubellにおいても「kube-AI」が動き出した最大の理由は、これに尽きます。

中期戦略の冒頭には、「すべての戦略にAIを強く組み込む」と明記されています。これは単なるスローガンではありません。エンジニア出身でもあるCEOの山本が、全社員に対して直接このメッセージを伝えています。

重要なのは、それが一度きりのメッセージではないことです。半期に一度の全社総会では戦略や事業計画へのAIの組み込み方とその重要性を語り、全社のオンライン月次会議では最新のAIトレンドの共有、環境整備や新制度の告知などを定期的に行っています。

どのような仕組みづくりをしていくにしても、この点が抜けていると推進力は大きく弱まります。人事部門として、全社の巻き込みの前に、経営陣の巻き込みを確実に行いましょう。経営トップを適切に巻き込み、定期的に発信し続けることで、一過性の施策ではなく「会社の方向性として本気だ」というメッセージが全社員に伝わっていきます。

② 体制設計――「誰が動かすか」を正しく設計する

①の経営コミットがあったとしても、動かす体制がなければプロジェクトは机上の空論で終わります。

kubellではCEOを最終的なプロジェクトオーナーとしつつ、人事部門を含め、各部門からメンバーをアサインした横断体制を組成しています。最終的なオーナーシップを会社の代表が持つことで、「経営課題としてのAI推進」というメッセージが全社に伝わり、意思決定も迅速化されます。

各部門からのアサインは、現場への浸透を図るということ以上に、「全社の取り組みを統合・可視化する」という役割を担っています。お互いの動きが見えず、連携も適切に行われていない点の状態ではなく、それぞれが持つナレッジや取り組みを一箇所に集めた線や面の状態を作っています。

また、人の体制と合わせて、情報・コミュニケーションの体制も整えています。それまでAI関連の情報やノウハウが複数のチャットに散在し、結果的に「誰に何を問い合わせればいいのか分からない」状態にあったものを1つに集約しました。オンラインコミュニケーションにおいても、冗長となったり、非効率となったりしないよう、窓口を明確化しておくことは重要です。

③ 組織変革設計――ツール導入ではなく、文化形成として捉える

AIを「ツール導入」ではなく「組織文化の変革」として進めるために、変革管理のフレームワーク 「ADKAR(アドカー)」に基づき、5つのフェーズに応じた施策設計を行っています。

Awareness(なぜやるのか):

この観点においても、経営陣からの定期的な発信がまずは何より重要です。

また、AI推進の初期においては、組織ごとの対話型のワークショップの開催も有効です。経営陣のメッセージを咀嚼し、自部署におけるAIの重要性、活用可能性、そのために今日から何をしていくべきかを考えることは、大きな内発的動機付けになります。

加えて、kubellでは、新入社員向けのコンテンツ集を作成しています。過去のCEOプレゼン資料、AIに関する用語説明、セキュリティガイドライン、ツールの使い方などをまとめた自習用ガイドで、AwarenessとKnowledgeをまたぐ位置づけのものです。これにより、「AIは推奨ではなく必須のビジネススキルである」という会社のメッセージが、入社時から伝わります。

Desire(自分にとってのメリットは何か):

kubellでは、社内の「AIスキルレベル」を5段階で定義しています。こちらは後述する全社サーベイにも組み込まれており、自身のレベルが定期的に認識されるプロセスになっています。

また、一定のレベル以上にならなければ使えないツールも存在するため、「レベルを上げたい」という向上心が自ずと芽生える効果を意図しています。

Knowledge(どうすれば使えるのか):

前述Awarenessのセクションでも触れたコンテンツ集を展開しています。世の中には既に多くのコンテンツが溢れ返っており、どれがいいのか迷いがちです。それらを社員各自が探していては非効率なので、有用なコンテンツを予め選定しています。

また、コンテンツ集に無い最新情報も、②体制設計で触れたグループチャットで共有、最新のAI情報を、全社員がタイムリーに認識できる状態を作っています。

その上で、社内の優れた活用事例を選出し、月次会議にて紹介・表彰しています。「社内の他の人がどう使っているか」を具体的に知ることは、Knowledge向上において特に大きな原動力になります。

Ability(どう使いこなすのか):

横展開が可能な事例については、プロジェクトチームが最大限支援(アナウンスや進行の代行など)した上で、社内のAI活用者にできる限り個別の勉強会を開催してもらっています。

また、勉強会の範囲・時間を拡大した「社内AI Day」の開催も効果的です。あえて同じタイミングに学びに集中できる時間を設け、詳しい人がこれから始める人をサポートし、それぞれのレベルに合ったセッションに参加してもらう。そうすることで、AI活用への一歩をより踏み出しやすくなります。

一方で、Abilityのより直接的な向上には、各部署固有の業務に踏み込む必要があります。プロジェクトチームがそこに全て入り込むのは現実的ではないため、kubellでは「AIオペレーションマネージャー」の採用を拡大し、会社の体制として強化することも同時に進めています。

Reinforcement(どう継続させるのか):

文化は、日常のマネジメントの中に組み込まれてこそ定着します。kubellでは、各部署の「組織目標」にAI活用が組み込まれています。上述の経営コミットをただのメッセージで終わらせず、その進捗が組織長の評価にも反映される仕組みとなっています。

また半期に一度の社内表彰でもAI活用の要素は重視されており、組織長のみならず、全社員がAI活用と評価の連動を意識する形となっています。

加えて、広報部門との連携により、社外への情報発信にも力を入れています。AI活用についての外部からの認知・評価は、社員の誇りの醸成にも繋がるため、文化を形成していく上では重要な要素となります。

④ 環境整備――使える土台を、段階的に整える

いくら文化を醸成しても、十分に使える環境がなければ、当然ながらAI活用は進みません。その観点において、kubellでは、最初から完璧な環境を目指すのではなく、ステップを踏んで段階的に拡張していくアプローチを取っています。

まずは既存のGoogle Workspaceの契約をベースに、「Gemini」を全社員が使える状態にしました。追加コストを最小限に抑えながら「全員がAIに触れられる土台」をスピーディーに整えることを優先した形です。

その後、全社共通基盤では物足りない開発層に対して、「Claude Code」を部門限定で先行導入しました。そこでの反応・成果を見ながら、その後非開発職へも横展開しています。

なお、非開発職における「Claude」の利用には、AI活用レベルが一定以上であるという条件を設けており、これがスキルアップ(Desire)への動機付けとしても機能する設計になっています。

⑤ ガバナンス設計――安心して使えるルールをつくる

「何でも使っていい」という状態は、「情報の扱いは大丈夫か?」という不安を生み、結果として推進スピードを阻害します。ガバナンスは「使わせないルール」ではなく「安心して使うためのルール」として運用する必要があります。

kubellでは、まずは全体方針となる「AI利用ガイドライン」をセキュリティ専門部隊が作成し、情報区分別の入力ルール、禁止事項、インシデント発生時の対応フローなどを明文化して全社員に公開しています。

世の中に存在する50以上の各種AIサービスについても個別に事前評価し、「AIサービス評価一覧」として利用可否や注意事項を一覧化。社員が自分で判断できるようにすることで、問い合わせ対応コストを削減しつつ現場の自律的な活用を促しています。

一方で、そのようなテキストのマニュアルだけでは十分に制御できない点はどうしても存在します。そのためには、物理的にリスクを阻止するための「技術的ガードレール」を、情報システム部門、セキュリティ部門と連携しながら実装していくことが合わせて重要です。

⑥ 測定設計――感覚ではなくデータで変革を回す

打った施策の効果を感覚で測ることはできません。組織変革を正しく回すために、kubellでは、「全社サーベイ(主観データ)」と「システムデータ(客観データ)」の二軸で測定を行っています。

全社サーベイは、人事部門主導で約2ヶ月に一度ほどのペースで実施。単に利用頻度を聞くだけでなく、前述のADKARで目指す状態に基づいた設問を設計することで、施策の効果を定量的に把握しています。

加えて、各ツールの利用データ(プロンプト数やアクティブ率)をリアルタイムでトラッキングできるダッシュボードを情報システム部門と連携して内製。利用度合いについては、サーベイではどうしても主観的になってしまうため、事実を定量的に追いかけています。

また、そのダッシュボードを役職者に公開することで、自部署の活用状況を把握できるようにしています。日常のマネジメントの中で、自然にAI活用の会話を生む「自律のためのツール」として機能することを意図しています。

終わりに

SNSにはAIツールの活用事例が毎日溢れています。しかし、それを熱心にインプットし実践しているのは、一部の意識の高い社員だけ、というのが多くの会社での実態ではないでしょうか。

AIを個人ではなく組織の力にするには、ツールの導入や勉強会だけでは足りません。経営が本気でコミットし、組織変革として捉え、人事制度と連動した施策を設計する。この一連のプロセスがセットで機能して初めて、全社レベルでのAI活用浸透に近づけると考えています。

そしてこれらのアプローチは、SaaSのようなシステム導入の手法ではなく、まさにチェンジマネジメント(組織変革)であり、人事部門の主戦場そのものなのです。

AI時代における人事の役割は、単なる管理や制度運用にとどまりません。テクノロジーをテコにして社員と組織の可能性を最大限に引き出す「変革の推進者」としての立ち位置が求められています。

今回の記事が、全社のAI推進や組織変革に挑む人事部門の皆さまにとって、一つの指針となれば幸いです。

なお、AI推進を行う前の「業務整理の重要性」についても、以前に以下の記事にてご説明していますので、よろしければ合わせてご覧ください。

AI導入の前に「捨てる」勇気を。月3,000時間の業務削減を実現したkubellの全社プロジェクトの全貌

第3回:「貢献できている」が原動力になる。組織貢献重視タイプの離職を防ぐ技術

「あの人、チームのムードメーカーだったのに、突然辞めてしまった」——そんな経験はありませんか。

本連載では、若手社員の価値観を「自己成長重視タイプ」と「組織貢献重視タイプ」の2つに分類し、それぞれに応じたマネジメントの実践方法を解説してきました。前回は「自己成長重視タイプ」へのアプローチとして、成長を「見える化」する3つの技術をご紹介しました。

最終回となる今回は、「組織貢献重視タイプ」への実践マネジメントです。このタイプは、チームや会社への帰属意識が離職の抑止力として機能しやすい一方、「自分の仕事が誰かの役に立っているか」が見えなくなったとき、静かに意欲を失っていってしまう可能性があります。

一見、離職リスクが低そうに見えるこのタイプ。しかし、サインを見逃すと手遅れになりやすいという側面もあります。貢献の実感を届けるマネジメントの技術を、3つのアプローチで解説します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員

ここに人物紹介文が入ります。2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

第1章:役割と期待の明確化——「あなたに頼みたい」を伝える

このタイプが離れていく理由

組織貢献重視タイプが「辞めたい」と感じるとき、その背景にあるのは多くの場合、「自分はこのチームに必要とされているのだろうか」という疑問です。

自己成長重視タイプが「成長できないこと」に不満を感じるのに対し、この組織貢献重視タイプは「存在意義が見えないこと」に深く傷つきます。仕事を与えられていても、「なぜ自分がこれをやるのか」「自分でなくてもいいのではないか」という感覚が生まれると、じわじわと意欲が低下していきます。

表面上は真面目に働いていても、内側では「ここにいる意味があるのか」という問いを抱えていることがあります。このタイプの離職サインは見えにくいため、上司は意識的に関わりを持つことが重要です。

実践:「あなただからお願いしたい」を言葉にする

このタイプへのアサインで最も重要なのは、「なぜあなたにこの役割を担ってほしいのか」を明示することです。

業務の内容を伝えるだけでなく、「あなたの○○という強みが、このチームに必要だから」という文脈を添えることで、存在意義の実感につながります。

会話例:役割と期待を伝えるアサイン

〇ビフォー(役割の意味が伝わらない伝え方)

「鈴木さん、次のプロジェクトでは議事録とスケジュール管理をお願いします」

〇アフター(存在意義を明示した伝え方)

「鈴木さん、次のプロジェクトで議事録とスケジュール管理をお願いしたいんですが、鈴木さんって場の空気を読みながら、みんなの発言をうまく整理してくれるじゃないですか。あの力が、このプロジェクトには絶対必要なんです。鈴木さんにいてもらえると、チーム全体が動きやすくなると思っています」

「誰でもいい仕事」ではなく「あなたにお願いしたい仕事」として伝えること。それだけで、このタイプの受け取り方は大きく変わります。

実践:チーム内での「役割の地図」を見せる

組織貢献重視タイプは、自分がチームの中でどこに位置しているかを把握できると、安心感とやりがいを同時に得られます。

プロジェクトの全体像を共有したうえで、「このチームの中で、あなたはこの部分を担ってもらっている」と明示することが効果的です。自分の仕事がチームのどこにつながっているかが見えると、日々の業務への取り組み方が変わります。

第2章:貢献の実感を届けるフィードバック——「あなたのおかげで」を言葉にする

「察してくれるはず」は通じない

組織貢献重視タイプは、チームへの貢献を強く求めている一方で、その貢献が認められているかどうかを、意外なほど敏感に感じ取っています。

上司としては「ちゃんと見ているつもり」でも、言葉にして伝えなければ、このタイプには届きません。「頑張りは見てもらえていない」「自分がいてもいなくても変わらない」という感覚が積み重なると、静かに心が離れていきます。

フィードバックは「特別なとき」だけでなく、日常の小さな場面で、こまめに届けることが重要です。

実践:「影響」を具体的に言語化して伝える

このタイプへのフィードバックで最も効果的なのは、本人の行動が周囲にもたらした「影響」を具体的に言葉にすることです。

自己成長重視タイプへのフィードバックが「あなたの成長」を主語にするのに対し、組織貢献重視タイプへのフィードバックは「あなたがいたことで、チームや周囲がどう変わったか」を主語にします。

会話例:貢献の影響を言語化するフィードバック
「先週の打ち合わせ、鈴木さんが事前に論点を整理してきてくれたおかげで、議論がスムーズに進んだと思います。あの準備がなかったら、あの場で結論が出なかったと思う。チーム全体が助かりました」

「よかったよ」「ありがとう」で終わらせず、「何が」「誰に」「どう影響したか」を具体的に描写することが、このタイプの心に深く届くフィードバックです。

実践:第三者からの声を届ける

組織貢献重視タイプは、上司からの評価だけでなく、同僚や他部署など「周囲からの感謝」にも強く動かされます。

他のメンバーや関係者から「鈴木さんのおかげで助かった」という声があれば、それを本人に伝えることも重要なマネジメントのひとつです。「○○さんが、鈴木さんのフォローがあってよかったと言っていましたよ」というひと言が、このタイプには大きな力を与えます。

第3章:キャリア支援——「チームの中での未来」を一緒に描く

組織貢献重視タイプのキャリア観

自己成長重視タイプが「個人として何ができるようになるか」を軸にキャリアを考えるのに対し、組織貢献重視タイプは「どんな存在としてチームや組織に関わり続けられるか」を軸にキャリアを考える傾向があります。

そのため、このタイプへのキャリア支援では、「スキルアップ」や「市場価値」という言葉よりも、「チームの中でどんな役割を担いたいか」「どんな形で会社に貢献したいか」という問いかけのほうが響きやすいです。

実践:「なりたい存在」を軸にキャリアを対話する

1on1では、以下のような問いかけを取り入れてみてください。

  •  「チームの中で、将来どんな存在になりたいですか?」
  • 「一緒に働く人たちに、どんな風に頼られたいですか?」
  • 「今の仕事の中で、一番『役に立てた』と感じるのはどんな瞬間ですか?」

これらの問いは、このタイプが自分のキャリアを「貢献の文脈」で言語化する手助けになります。答えが出てきたら、それを日々の業務や役割に接続することが上司の役割です。

実践:「頼られる存在」への成長を支援する

組織貢献重視タイプが目指す姿の多くは、「チームに頼られる存在」「困ったときに相談される人」です。この志向を生かし、後輩の指導役やチームの調整役といった役割を意図的に任せることも有効なキャリア支援になります。

会話例:貢献志向のキャリアをつなぐ対話
「鈴木さんって、新しく入ってきた人のフォローをさりげなくやってくれるじゃないですか。あれ、チームにとってすごく大事なことで。せっかくだから、来月から正式に新入りのメンター役をお願いしたいんですが、どうでしょう。鈴木さんがやってくれると、チームが安心できると思って」

「あなたの強みをチームのために活かしてほしい」という形でキャリアを提示することで、このタイプは強いエンゲージメントを感じます。

 

まとめ:「見えている」と伝えることが、離職防止の核心

組織貢献重視タイプへのマネジメントを一言で表すなら、「貢献を見えるようにすること」です。

このタイプは、貢献したくないわけではありません。むしろ誰よりも貢献を求めているからこそ、それが見えないときに静かに心が折れます。上司の役割は、存在意義を言葉で伝え、貢献の影響を具体的に届け、チームの中での未来を一緒に描くことです。

 

今回ご紹介した3つのアプローチをまとめます。

1. 役割と期待の明確化:「あなただから頼みたい」を言葉にし、チーム内での位置づけを示す

2. 貢献の実感を届けるフィードバック:「あなたのおかげで」という影響を具体的に、こまめに伝える

3. キャリア支援:「チームの中でなりたい存在」を軸に、貢献の文脈でキャリアを描く

連載を振り返って:価値観を「知ろうとすること」から始まる

全3回にわたって、若手社員の2つの価値観タイプと、それぞれへのマネジメント実践をご紹介してきました。

最後に、一つお伝えしたいことがあります。

今回ご紹介したタイプ分類やアプローチは、あくまで「傾向を捉えるためのツール」です。大切なのは、「このメンバーはどちらのタイプか」を正確に判定することではありません。「このメンバーは何に喜びを感じ、何に不安を覚えるのか」を知ろうとし続けること——その姿勢そのものが、信頼関係を築き、離職防止につながる最も根本的なマネジメントです。

若手の離職を「最近の若者の傾向」として片付けるのではなく、目の前の一人ひとりと向き合うための手がかりとして、本連載をお役立ていただければ幸いです。

第2回:成長を「見える化」するマネジメント。自己成長重視タイプの離職を防ぐ技術

「頑張っているのに、なぜ辞めてしまうのか」——そう感じた経験のある上司・リーダーは少なくないはずです。

前回は、若手社員の価値観が大きく2つのタイプ、「自己成長重視タイプ」と「組織貢献重視タイプ」に分かれることをご紹介しました。そして、自己成長重視タイプは離職意思が高くなりやすい一方、上司の適切なマネジメントによって離職意思を軽減できるというエビデンスもご紹介しました。

今回フォーカスするのは、自己成長重視タイプへの実践マネジメントです。このタイプの若手は、スキルアップや市場価値の向上に強い関心を持ち、「今の環境で成長できているか」を常に問い続けています。裏を返せば、成長の手応えを感じられる環境を整えることが、離職防止の直接的な打ち手になります。

では、具体的に何をすればよいのか。3つの実践アプローチを解説します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員

ここに人物紹介文が入ります。2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

第1章:成長につながる業務アサイン——「なぜこの仕事か」を伝える

このタイプが離れていく理由

自己成長重視タイプが「辞めたい」と感じるとき、多くの場合その背景にあるのは「この仕事、自分の成長につながっているのだろうか」という疑問です。

業務難度が低すぎる、同じ作業の繰り返しが続く、挑戦の機会が見えない——そういった状況に置かれると、このタイプは意欲を失ってしまう可能性があります。給与や人間関係に大きな問題がなくても、「成長できない」と感じた瞬間に、転職市場へ目が向き始めることがあるでしょう。

実践:アサイン時に「成長の接続点」を伝える

このタイプへの業務アサインで最も重要なのは、仕事の内容だけでなく「この仕事を通じて何が身につくか」を明示することです。

同じ業務を依頼するにしても、伝え方一つで受け取り方が大きく変わります。

会話例:伝え方のビフォー/アフター
〇ビフォー(成長の接続点がない伝え方)
「田中さん、今月もこのレポートの取りまとめをお願いします」
〇アフター(成長の接続点を明示した伝え方)

「田中さん、今月もレポートの取りまとめをお願いしたいんですが、今回は集計だけでなく、数字から読み取れる傾向の考察も加えてみてもらえますか。データから示唆を引き出す力は、今後どんな仕事でも使える力になるので、ぜひ意識して取り組んでみてください」

「この仕事が自分のどんな力を育てるのか」が見えるだけで、同じ業務でも取り組む姿勢が変わります。

実践:「少し背伸びする」アサインを意識的に設計する

自己成長重視タイプには、現在のスキルよりやや難度の高い業務を意識的に割り当てることも効果的です。いわゆる「ストレッチアサイン」です。

ただし、難しすぎると挫折につながります。「今の実力で7〜8割はできるが、残り2〜3割は背伸びが必要」という水準が、成長実感を生みやすい適切なラインです。アサイン後は放置せず、途中でのフォローアップも忘れずに行いましょう。

第2章:成長につながるフィードバック——「変化」を言語化して届ける

フィードバックが「刺さらない」理由

自己成長重視タイプへのフィードバックで、上司が陥りがちな失敗があります。それは、「よくできていたよ」「頑張ったね」といった抽象的な評価で終わらせてしまうことです。

このタイプは、漠然とした称賛よりも「自分がどう成長したか」という具体的な変化を求めています。抽象的なフィードバックは、むしろ「ちゃんと見てもらえていない」という不満につながることもあります。

実践:「過去の自分との比較」でフィードバックする

効果的なフィードバックの型は、「以前の状態」→「今の状態」→「それが意味すること」の3ステップです。

会話例:成長を言語化するフィードバック
「先月のプレゼン、覚えていますか?あのときは資料の情報量が多すぎて、聞き手に伝わりにくい部分がありましたよね。今回は要点を3つに絞って、図を使って説明していた。あの変化は大きいですよ。相手に合わせて情報を構造化する力がついてきている証拠だと思います」

ポイントは、成長を「事実」として具体的に描写することです。上司の主観的な評価ではなく、「こういう変化があった」という観察の言語化が、このタイプには深く響きます。

実践:うまくいかなかったときこそ、成長の文脈で語る

失敗やミスのフィードバックも、成長の文脈に乗せることが重要です。「なぜできなかったか」の問い詰めではなく、「この経験から何を学べるか」という視点で対話することで、失敗を成長の糧として捉えられるよう支援します。

会話例:失敗を成長の文脈で語るフィードバック
「今回の件、うまくいかなかったのは事実だけど、どこで判断が難しかったと思う?……そうか、情報が不足している中で決断しないといけなかったんだね。それって、経験を積まないとなかなか身につかない判断力の話なんです。今回の経験は、確実にそこを鍛えていると思いますよ」

第3章:キャリア支援——「この会社での未来」を一緒に描く

「将来が見えない」が最大のリスク

自己成長重視タイプが転職を決意する最大のきっかけのひとつが、「この会社にいても、自分の将来が見えない」という感覚です。

成長の手応えが感じられていても、「3年後、5年後に自分はどうなっているのか」というビジョンが描けないと、外の世界に目が向き始めることがあるかもしれません。キャリア支援とは、このビジョンを一緒に描く作業です。

実践:1on1で「未来の話」を定期的にする

キャリア支援において、上司に求められるのは「答えを与えること」ではありません。メンバー自身が自分のキャリアを考えるための対話の場を作ることです。

以下のような問いかけを、1on1に定期的に取り入れてみてください。

  • 「3年後、どんな仕事ができるようになっていたいですか?」
  • 「今の仕事の中で、一番力をつけたいと思っているのはどの部分ですか?」
  • 「今後挑戦してみたい仕事や役割はありますか?」

重要なのは、答えを急かさないことです。自分のキャリアを言語化することに慣れていない若手も多いため、「すぐに答えなくていい、一緒に考えましょう」というスタンスで臨むことが大切です。

実践:「今の仕事」と「将来の目標」を接続する

キャリア面談で将来の目標が見えてきたら、日々の業務とその目標を意識的につなげることが上司の役割です。

会話例:日常業務とキャリアをつなぐ対話
「この前、将来はプロジェクトマネージャー(PM)を目指したいって言っていましたよね。だとすると、今担当しているこのタスクって、実はすごく良い練習になると思うんです。スケジュール管理と関係者調整が同時に求められる仕事だから、PMに必要な力を今から鍛えられる。意識して取り組んでみてください」

「今やっていることが、将来の自分につながっている」という感覚は、自己成長重視タイプにとって強力なエンゲージメントの源泉になります。

まとめ:成長を「見える化」することが、離職防止の核心

自己成長重視タイプへのマネジメントを一言で表すなら、「成長を見える化すること」です。

このタイプの若手は、成長を求めていないわけではありません。むしろ強く求めているからこそ、それが見えないときに離職を考えます。上司の役割は、成長の機会を設計し、成長の事実を言語化し、成長の先にある未来を一緒に描くことです。

今回ご紹介した3つのアプローチをまとめます。

  1. 成長につながる業務アサイン:「何が身につくか」を明示し、ストレッチな機会を設計する
  2. 成長につながるフィードバック:「過去との変化」を具体的に言語化して届ける
  3. キャリア支援:今の仕事と将来の目標を接続し、未来を一緒に描く

次回(第3回)は、組織貢献重視タイプへの実践マネジメントとして、「貢献の実感を届ける技術」を解説します。

HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来|基調講演 イベントレポート後編

HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来|基調講演 イベントレポート後編

統合型人事システム「ジンジャー」は、人事労務、勤怠管理、給与計算、人事評価、サーベイ、データ分析など、幅広い人事業務を1つの人事データベースで管理できるクラウド型人事労務システムです。

サービス提供開始から10周年を迎えたジンジャーは、データを活用して「ひと」の可能性を引き出し、これからの人事のあり方を考える場としてカンファレンスを開催しました。

本記事では、イベントレポート後編として、人的資本経営と人事データのこれからをテーマにした基調講演の内容をレポートします。

【イベント概要】

イベント名:HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来
開催日時:2026.5.20 WED 13:30 – 18:30
開催場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(受付開始13:00)
イベントページ:※このイベントは終了しました。
https://hcm-jinjer.com/hr-reveal-2026/

登壇者紹介

今里 和之 氏

経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 課長
東京大学大学院生物化学専攻修了、カーネギーメロン大学公共政策管理学専攻修了。
平成15年4月 経済産業省 入省。平成30年6月 大臣官房会計課、令和元年6月 技術振興・大学連携推進課 課長、令和2年7月 中小企業庁 経営支援部 経営支援課 課長、令和3年7月 新エネルギー・産業技術総合開発機構-欧州事務所長、令和6年7月 経済産業政策局 産業人材課 課長、現在に至る。

岩本 隆 氏

慶應義塾大学講師/山形大学客員教授
東京大学工学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてPh.D.を取得。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータを経て、2012年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授に着任。 産学連携による「産業プロデュース論」の研究に従事する傍ら、山形大学では事業プロデューサーとして地域のイノベーション・エコシステム形成を統括。現在は慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 講師を務め、産業プロデュースに注力している。

冨永 健

jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO
シスコ、AWS、Zendesk日本法人社長を経て、グローバル企業のSaaSビジネスと組織拡大を牽引してきたプロフェッショナル。 現在はjinjer代表取締役社長 CEOとして、日本企業の「組織ポテンシャルの最大化」に取り組む。 従来の管理・オペレーションの枠を超え、データとテクノロジーで「事業を伸ばす人事」への変革を推進。日本発HR Tech企業の成長を通じて、組織と個人の可能性を解き放つ。

佐々木 裕子 氏

株式会社チェンジウェーブグループ代表取締役社長 CEO/人的資本経営推進協会代表理事
日本銀行、マッキンゼーを経て株式会社チェンジウェーブを創業。事業、カルチャー変革・経営人材育成・ダイバーシティ推進で500社以上の実績を持ち、無意識バイアスe-learning「ANGLE」を設計・監修。2016年にリクシスを創業し、仕事と介護の両立支援を推進。経産省検討会委員を歴任。2024年、両社を統合しチェンジウェーブグループを設立。2022年に一般社団法人人的資本経営推進協会を設立、代表理事を務める。

「産学官」で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~とは

イベントの中盤では、「学」の視点からPeople Data Platform(PDP)を提唱する慶應義塾大学大学院の岩本氏、「官」の視点から日本企業の産業競争力強化と人材政策を推進する経済産業省の今里氏、そして「産」の視点からテクノロジーによる人事課題の解決に取り組むjinjer代表の冨永氏による基調講演がおこなわれました。

人的資本経営が企業の持続的成長を左右する重要なテーマとなるなか、正しい人事データはなぜ国や経営にとって欠かせない資源となるのでしょうか。産官学それぞれの視点から語られた、これからの時代に求められる「経営を動かす人事」のあり方をご紹介します。

「官」の視点:経済産業省 今里氏

「官」の視点:経済産業省 今里氏

佐々木氏:
本日のモデレーターは、佐々木が務めさせていただきます。人的資本経営という言葉が広がってから数年が経ちましたが、皆さまは現在の浸透度合いをどのように感じていらっしゃいますか。まずは、人的資本経営の議論をリードされてきた経済産業省の今里さんからお話を頂戴したいと思います。

今里氏:
伊藤レポートが公表されてから4年ほどが経ち、皆さまの企業でも、人的資本経営について何らかの取り組みを進めているのではないでしょうか。

そもそも人的資本経営が注目されるようになった背景には、日本において長らく人材への投資が低迷してきたことがあります。かつて「人はコスト」と捉えられ、人件費をいかに圧縮するかが経営の仕事だと考えられてきました。

しかし、少子化が進むなかで、人材に投資し、企業価値を高め、経営の競争力につなげていくことの必要性が高まっています。その後、人的資本経営の概念が広がり、現在では多くの企業がこの言葉を知り、人材への投資を進めています。
人的資本投資の拡大に向けた動き

ただ、人的資本経営コンソーシアムの皆さまとお話ししていると、目指すべき目的と実態がずれていると感じることもあります。人的資本経営は本来、エンゲージメントサーベイを実施することや、女性管理職比率を上げること自体を目的とするものではありません。

人的資本経営を通じて企業価値を高め、競争力の向上につなげていくことが、本来目指すべき姿です。しかし、いつの間にか「取り組むこと」自体が目的化したり、形骸化したりすることが課題といえるでしょう。

人的資本経営の取り組みは、大企業だけでなく、地方の中堅企業にも広がりを見せています。昨年、人的資本経営コンソーシアムでは4つの地域で活動をおこないましたが、地方企業でも採用活動を中心にさまざまな取り組みが見られました。今後は、それらをいかに実効性のある施策にし、企業の競争力につなげていくかが問われるでしょう。
2040年の就業構造推計(改訂版)の概要こちらの図は、AIが社会に入ってきたときに、日本全体で必要な人材ポートフォリオがどのように変化するのかを示したデータです。AIの利活用が進むことで、事務職が余剰になったり、実際に手を動かす人材が日本全体で不足したりする可能性があります。

こうした変化は、企業の現場でもすでに感じられているのではないでしょうか。日本全体として、人材ポートフォリオをどう変えていくかが問われています。

そのために政府としても、人事の現場で進められている取り組みに近いことを進めようとしています。まず、これから本当に必要になるスキルを明らかにし、スキルを見える化する。そのうえで、必要なリスキリングの機会を提供し、企業の採用や待遇につなげていく。こうした循環をつくることが求められています。

この流れは以前から言われてきたことですが、実現の鍵となるのがデータとAIです。

スキルベース労働市場の構築に向けて海外の例として、シンガポールでは「SkillsFuture」という仕組みが運用されています。国としてスキル開発を支援し、常に最新の情報にアップデートしながら、国民に学びの機会を提供していく取り組みです。

こうした仕組みが現実的になってきた背景には、データ整備やAI技術の進展があります。政府でもスキルの可視化やリスキリングの仕組みづくりが進み、海外でも同様の取り組みが進んでいます。日本企業においても、データとAIを活用しながら、人材のスキルを把握し、育成や配置につなげていく動きはますます広がっていくと考えています。

佐々木氏:
まさに、政府が日本全体の人事部のような役割を果たしていくというお話で、大変学びになりました。続いて産官学の取り組みをリードされている岩本さんにもお話を伺いたいと思います。

「学」の視点:慶應義塾大学大学院 岩本氏

「学」の視点:慶應義塾大学大学院 岩本氏

岩本氏:

今、AIの進化やクラウドアプリケーションの普及によって、コーポレート部門のあり方を見直すタイミングが来ています。会計、法務、人事などの領域でもデジタル化が進み、これまでのように管理業務を担うだけでは、経営への貢献が見えにくくなってきました。

これからのコーポレート部門には、単なる管理部門にとどまらず、経営に寄与する役割が求められます。その意味で、コーポレート部門は「コーポレートエグゼクティブ」へと変革していく必要があると考えています。

コーポレートエグゼクティブの重要性が高まっている背景海外では、こうした考え方は以前からありました。米国では20年以上前から、CEO、CHRO、CFOが密に連携しながら経営を前に進める考え方が広がっています。

CXO連携で求められることCXO同士が連携するうえで、CHROにはCFOと対等に、論理的かつ定量的に議論できる力が求められます。また、Chief Data Officer(CDO)には、経営に必要なデータを統合し、リアルタイムに経営へ提供できる役割が求められます。

最近ではAIエージェントの活用も進んでいるため、データ基盤そのものをどのようにマネジメントするかが、ますます重要になっているのです。PDPのイメージ

こちらは、People Data Platform(PDP)のイメージです。PDPは、人材に関するデータを一元的に蓄積し、分析や経営判断に活用できる状態に整えるための基盤です。

People Analyticsを進めるには、従業員の属性情報やスキル、評価、配置、エンゲージメントなどのデータをばらばらに扱うのではなく、経営に活用できる形でつなげていく必要があります。

PDPを活用することで、人材獲得の最適化、適切な人材の定着、公正な評価の実現などにつなげられます。データが集まるほど、採用、配置、育成、評価に関する示唆を得やすくなり、人事が経営に貢献できる領域も広がっていくと考えています。

佐々木氏:
CXO間の連携も、これからさらに高度化していく必要がありそうです。また、その前提となるデータの解像度も、今後ますます高まっていくのだと感じました。

今里さんのお話にもあったように、産官の連携も増えていくと思います。一方で、企業の皆さまからすると、「そうはいっても、簡単にデータを集められるわけではない」「政府や周囲がどこまで支援してくれるのか」といった点も気になるのではないでしょうか。冨永さん、この点はいかがでしょうか。

「産」の視点:jinjer株式会社 冨永氏

「産」の視点:jinjer株式会社 冨永氏

冨永氏:

おっしゃるとおり、まずはデータをどのように整備していくかが重要です。

これまで経営資源は「ヒト・モノ・カネ」と言われてきました。皆さまの会社でも、「モノ」は可視化されていると思いますし、「カネ」はもっと以前から管理されてきました。一方で、「ヒト」の可視化は遅れています。なぜかというと、人に関する定量的なデータが少なく、数値化しづらかったからです。

しかしAIの時代になると、AIは非構造化データを構造化することを得意とします。会議のなかの雑談も含めて、AIは情報を構造化し、アウトプットすることができます。

AIに任せることで、1on1のコミュニケーションや会議の履歴から、その人の特徴が浮き彫りになっていく。私たちはAIをはじめとするテクノロジーを活用し、人材のデータ化をはじめ、産官学が目指す世界の実現を支援していきたいと考えています。

佐々木氏:
データを集めることに苦労している企業の皆さまにとっては、どのような可能性があると感じますか。

今里氏:
DX、そしてAIを活用したAX(AIトランスフォーメーション) によって、質的な変化が起きると考えています。AIは非構造化データを扱いやすくするため、これまで企業が感じていたハードルを一気に越えられる可能性があります。

また、これまでは企業ごとにデータの定義が異なり、国としてまとめることが難しい面もありました。しかし、そうしたデータ同士を紐づけることは、AIが得意とする領域です。国と企業の関係においても、これまでの壁を越えていける可能性があると感じています。

岩本氏:
慶應義塾大学ビジネス・スクールでは統計やAIの講座もありますが、担当の先生方の話によると、テクノロジーの進化が激しくてAIでできることが年々増えていくため、授業で教える内容を毎年のように変えていかないといけないようです。テクノロジーの進化は、テクノロジーをつくる側にとっては難易度が高い一方で、使う側にとってはどんどん扱いやすくなっています。だからこそ、使う側も進化していかなければならないと感じています。

クロージング

佐々木氏:
今後の変化や進化を捉えていくために、最後に皆さまからメッセージをいただけますでしょうか。

今里氏:
私は現在、産業人材課にいますが、日本が成長していくうえでの要となるのは、やはり「人」だと思っています。人の力を高めていくために必要なのがデータであり、AIです。ただ、その中心になるのは、やはり人事部門だと思います。人事部の皆様にはぜひ、データやAIという武器を積極的に活用していただきたいです。


岩本氏:

「企業は人なり」という言葉は昔からありますが、これは単に雇用を守るという意味ではありません。本質的には、「人のポテンシャル」を生かしていくことが、企業は人なりの本質的な意味だと思います。

一人ひとりの可能性を最大限に引き出すという原点に立ち返り、ぜひ人的資本経営に取り組んでいただきたいです。


冨永氏:

私たちはテクノロジーを活用しながら、皆さまと一緒に、これまでの人事の常識を変えていきたいと考えています。そして、これからの人事部の当たり前を、ともにつくっていきたいです。

まとめ

基調講演では、人的資本経営の現在地と、これからの人事に求められる役割について、産官学それぞれの視点から議論が交わされました。

人的資本経営の目的は、取り組みそのものを増やすことではなく、人材への投資を通じて企業価値を高め、競争力につなげることにあります。

その実現に向けて鍵となるのが、人事データとAIの活用です。人事部門には、管理業務にとどまらず、データとテクノロジーを活用しながら経営に貢献する役割が求められています。一人ひとりの可能性を引き出し、企業の成長につなげていくことが、これからの人事に問われているのではないでしょうか。

【制度を整えても人が育たない理由】活躍人材の育成は、採用段階で8割決まっている|プレシャスパートナーズ矢野

多くの企業が、定着率の低下や若手社員の伸び悩みに課題を感じています。

働き方の改善や福利厚生の拡充、評価制度の見直しなど、さまざまな取り組みを行っているにも関わらず、「成果につながらない」という声は後を絶ちません。

これまで本連載では、採用手法や制度整備の重要性について触れてきました。

今回はさらに一歩踏み込み、どれだけ整えても定着・活躍が生まれない企業に共通する課題とは何か、そして短期的な採用成功ではなく、長期的な活躍につながる組織をつくるために必要な視点について考えていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

制度を整えても成果が出ない企業の共通点

採用広報の工夫、オンボーディングの強化、評価制度の見直し…。企業はできる限りの施策を講じていますが、「離職が止まらない」「活躍人材が育たない」という状況は珍しくありません。

こうした企業に共通しているのは、“制度が目的化してしまっている”という点ではないでしょうか。

制度はあくまで社員が成長するための土台にすぎず、導入すること自体が目的になってしまうと、「整えたのに現場が変わらない」という壁にぶつかります。

例えば以下のようなケースです。

  • キャリア面談は実施しているが、本音を引き出せない
  • 研修を受けても、実務で活かす場がない
  • 評価基準はあるのに、日常の行動が変わらない
  • フォロー体制が属人的で、再現性がない

制度と現場の運用が噛み合っていないと、どれだけ整備をしても社員の行動変容にはつながりません。

さらに、制度を整えるほど運用が複雑になり、制度を管理することに時間が取られ、本来重要な“対話”や“個別フォロー”の時間が減ってしまうケースも見られます。

制度はつくるよりもどう浸透させるかが本質であり、この視点が欠けると組織は変わりません。企業が本当にすべきなのは、“社員が自分のキャリアを主体的に考えられる状態”をつくることです。

活躍人材の育成は、採用段階で8割決まっている

制度を整えても活躍につながらない背景には、採用段階でのミスマッチが潜んでいることが多くあります。

  • カルチャー、企業文化に合わない
  • 成長意欲が低い
  • 安定志向が強く、挑戦への耐性がない

こうした傾向が強い人材を採用してしまうと、どれだけ制度を整えてもミスマッチになってしまいます。

一方で、価値観が一致し、挑戦を前向きに捉えられる人材であれば、同じ制度のもとでも成長速度は大きく異なります。

ミスマッチが起こる要因として、次のような構造的なズレがよく見られます。

  • 採用担当が求める人物像と、現場が求める人物像が一致していない
  • 採用競争に勝つため魅力を盛りすぎ、課題を十分に伝えられていない
  • 求職者の価値観やキャリア観を深く確認できていない

こうしたズレのまま採用が進むと、入社後に「思っていた仕事内容と違う」「会社の価値観になじめない」というギャップが生まれます。

そして教育コストの増加、既存社員の疲弊、離職の連鎖を生みます。だからこそ、採用で重視すべきは“スキル以上に価値観”です。

企業理念やカルチャーを誰が伝えるか

価値観の一致を実現するうえで重要なのが、企業の考え方やカルチャーを誰がどのように伝えるかという点です。

多くの企業では、採用担当や人事が中心となって会社の魅力を伝えます。しかし、企業の理念や価値観の本質は、組織の方向性を決めているトップ自身の言葉で語られることで、より強く伝わります。

近年では、社長や経営陣が採用の場で直接学生や求職者と対話する取り組みも増えています。弊社もサービスの中でお伝えしている「社長就活」と呼ばれるような取り組みもその一つです。

重要なのは、社長が採用の前面に立つことそのものではありません。企業の軸となる理念や価値観を、トップが直接語ることで、相互理解を深められる点にあります。

企業の方向性や挑戦の意味、組織が目指す未来、そうした内容を経営者自身の言葉で伝えることで、求職者は「この会社で働く意味」をより具体的に理解することができます。その結果、入社後のミスマッチを大きく減らすことにつながります。

定着・活躍人材を育てる先にあるもの

企業が「定着」や「活躍」を追い求める理由は、単なる戦力の安定確保ではありません。活躍人材が増えることで、組織全体に次のような変化が生まれます。

  • 主体性を持って動く人材が増え、組織が自走しはじめる
  • 挑戦が循環し、チャレンジが当たり前になる
  • 採用ブランドが向上し、「選ばれる企業」になっていく
  • 管理職候補が自然と育ち、組織の層が厚くなる

つまり、定着・活躍の先には「育つ組織」「挑戦が自然発生する組織」があります。

この状態は制度だけではつくれず、社員が「学び→挑戦→成長→次の人を育てる」という循環が回り続けて初めて、組織は自走していきます。

その先に生まれるのは、次世代のリーダー人材

定着し、活躍し続ける社員は、経験の蓄積によって視座が自然と高まり、周囲に良い影響を与える存在へと成長します。こうした人材こそが、次世代リーダーの土台となります。

リーダーに必要なのは肩書ではなく、経験を通じて育つ次のような力です。

  • 自ら動き、周囲を巻き込む主体性
  • 現状を分析し、課題を解決する力
  • 他者の強みを引き出すコミュニケーション
  • 組織全体を見渡す広い視野
  • 挑戦を恐れず、学び続けられる姿勢

これらは一度の研修では身につきません。日々の挑戦、越境経験、丁寧なフィードバック、多様なキャリア経験の積み重ねによって育まれていきます。

しかし現実には、育成が上司の個人能力に依存し、属人化してしまうケースも少なくありません。だからこそ、リーダー育成は個人ではなく組織の仕組みとして設計することが重要になります。

まとめ

採用・制度・環境を整えることは、組織づくりの重要な第一歩です。しかし、それだけで社員が育ち、活躍が続くわけではありません。

企業が向き合うべきは、

  • 採用段階での価値観の一致
  • 入社後に挑戦と学びが循環するキャリア支援

の2つです。

その起点となるのが、企業の理念や価値観をどのように伝えるかという採用の在り方です。

定着と活躍が積み重なることで、組織には自走する文化が生まれ、未来を担う次世代リーダーが自然と育ち始めます。

人材は企業の未来をつくる最大の資産です。採用の質とキャリア支援を一貫させることで、企業は長期的に「育つ組織」へと変わっていくはずです。

世界最大の人材育成国際大会「ATD ICE 2026」での最新トレンドと成功事例|「重要で実用的な、日本にも合う」ホットトピックと人材育成ノウハウ

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

世界最大の人材育成団体であるATD(Association for Talent Development)の年次国際大会、ICE(International Conference and Exhibition)が2026年5月17~20日にアメリカのロサンゼルスで開催されました。

ATDは1944年設立の非営利団体で、4万名以上の会員(企業や組織の代表が半数)を持つ世界最大の人材育成会員制組織です。そしてICEは、ATDがアメリカで毎年開催している国際大会で、300以上の多彩なセッション、数百社の展示会という業界最大級の規模のイベントに、世界中から数千人の人材育成の関係者が集まることで知られています。グローバルの人材育成トレンドと最先端の成功事例を一気に得られる貴重な機会です。

今年も例年のように展示会の出展社が300社、並行して開催されたセッションは300以上ありました。セッション内容は14分類されていて、その分類(セッショントラック)とセッション数はこの表のとおりです。

セッショントラック
1. リーダーシップとマネジメント開発(Leadership and Management Development) 27
2. インストラクショナル・デザイン(Instructional Design) 26
3. トレーニングの実施とファシリテーション(Training Delivery and Facilitation) 23
4. フューチャー・レディネス(Future Readiness) 20
5. タレント・ストラテジーとマネジメント(Talent Strategy and Management) 20
6. ラーニング・ファンクションのマネジメント(Managing the Learning Function) 16
7. ラーニング・テクノロジー(Learning Technologies) 14
8. パーソナルリーダーシップ (Personal Leadership Capabilities) NEW 14
9. キャリア開発(Career Development) 12
10. ラーニングの科学(Learning Sciences) 12
11. ラーニングの測定と評価(Measurement and Evaluation) 9
12. ヘルスケア(Healthcare) 7
13. セールス・イネーブルメント(Sales Enablement) 5
14. ガバメント(Government) 2

参加者は例年より少なめの6,500名で、外国からの参加者にはビザの問題(例:中国からの参加者は0名)とドル高の影響が大きいようです。また、アメリカ国内の参加者に関しては、西海岸というATD本部のワシントンDCから遠く離れている開催場所、高いインフラと物価、DOGE活動後の公務員の不安などが原因と推測されます。

外国からの参加者は65カ国・970名で、参加人数の国別ランキングは右の表のとおりです。日本の参加者が最も多いのは驚きでした。

【参加人数(国別ランキング)】
順位 人数
1 日本 187
2 韓国 184
3 カナダ 105
4 台湾・香港 79
5 ブラジル 73

ロサンゼルスという比較的近い場所と大谷選手の効果もあると思いますが、それよりも人材育成に関して真剣に考えている人が日本には多いことが主な理由だと思います。

4つの大テーマ

多岐にわたる情報を整理すると、大きく4つの大きなテーマに分かれており、各テーマを代表する基調講演がありました。

具体的には、

  • テクノロジー(基調講演:Zack Kass、OpenAI元GTM責任者。AIが組織と人材に与えるインパクトを語る)
  • ヒューマニティ(基調講演:Will Guidara、著者・レストラン経営者。ホスピタリティの視点から組織文化を問い直す)
  • リーダーシップ(基調講演:Liz Wiseman、NYTベストセラー著者・Wiseman Group CEO。リーダーシップ研究の第一人者)
  • デベロプメント(人材育成のコアコンピテンシー)基調講演はないが、有名なスピーカーが多数登壇

各テーマの代表的なセッション紹介を通じて、ハイライトをご紹介します。

テーマ1:TECHNOLOGY

AIはここ2~3年の大トレンドでした。今年ももちろん大切なキーワードの一つ(特に展示会で)でしたが、トーンは少し落ち着きました。「AIは素晴らしい」というかけ声も「AIは恐ろしい」という騒ぎもなく、より冷静に「AIは人材育成業界にどのような影響を与えるか」「それに対してどうすればよいか」という話が中心でした。

また、AIの取り組みに対する事例紹介も多々ありました(例えば、世界各地の人材育成の場でAIをどのように使っているかのパネルディスカッションがあり、私は日本代表として参加しました)。今年の落ち着いたトーンが伝わる1セッション、HRテクノロジーで有名なMegan Torranceのセッションをピックアップします。

Torrance氏いわく、人材育成にAIをフル活用するためにはこの5ステップの流れが効果的です。

  1. マインドセット
  2. AIを使うタスクの特定
  3. 必要な情報収集と知識習得
  4. 変化を起こす
  5. 環境に合わせて微調整

特に大切なのは1ステップ目のマインドセットです。

必要なマインドセットは一言で言うと、人材育成の強みを認めて使い倒すことです。人材育成担当者の強みは下図のようにいろいろあるのに、AIを使うからといってすべて無にしてしまうのは非常にもったいないことです。

AIを導入する際に特に役立つ、従来の人材育成担当者の強みは、

  • 広い社内ネットワークと豊富な人脈
  • 優れたファシリテーション力
  • 研修コンテンツの作成で鍛えられた、複雑な概念を分かりやすくまとめる手腕
  • 受講者の「分かった」ことが「できる」ようになる設計力など

「AIに積極的に挑戦することはもちろん良いことですが、そのときにはこの強みをぜひ活かしてください」という温かいメッセージがありました。

テーマ2:HUMANITY

これまでも「AI時代だからこそヒューマンスキルは大切」だとよく耳にしましたが、今年の特徴はAIを深く理解している、先駆者ともいえる人からそれが提起されることが多かった点です。

代表選手は基調講演のZack Kassです。Kass氏はOpenAIの元GTM責任者という、生成AIの最先端を長年リードする人です。AI専門家だからこそ気づいたのが、人間性の大切さです。

AIがもたらす社会と日常生活への影響を考えると、このようなリスクがあります。

  • バカによる支配:生きていくために論理思考力はいらないものだと気づく
  • 脱人間化:現実社会よりバーチャル、メタバース、デジタルに関心が高い
  • 悪質な行為:社会の構造を壊す行動を起こす
  • 仕事の代替:人間の仕事がなくなったときの経済的なコストと心理的なダメージ
  • アイデンティティの代替:自分の生きる意味や意義が分からなくなる

そのリスクを避けるためのKass氏おすすめの行動は、

  • 強い理念を持つ:まず自分にとって大切なミッション、ビジョン、理念などを考えて強く持つ
  • 柔軟に対応する:ミッションと違って方法、やり方、プロセスについては必要に応じて柔軟に変える
  • 学び方を学ぶ:今後学ぶ量が多くなりスピードが早くなると、効果的に学ぶことが必要になる
  • 自然にふれる:人生がデバイスと画面に縛られないように、意図的にさまざまな自然とふれる
  • 人間らしくある:AIとロボットにはできない、人間らしいことを大切にしよう

少々抽象的かもしれませんが、極めて重要なことです。このように考えると、未来の業務は数分単位でマルチタスクをしながら大量の細かい突発タスクを素早くさばく現在のスタイルから、はるか昔のように深く哲学的なことを考えるスタイルにシフトする可能性があります。

テーマ3:LEADERSHIP

欧米で最も多く実施されている研修はリーダーシップ研修です。長年リーダーシップ研修で高い信頼を得ているDDI(Development Dimensions International)の社長Tacy Byhamから、人材育成担当者への強いメッセージがありました。

DDIは数十年前から大規模の調査を定期的に行っています(Global Leadership Forecast)。その結果を見ると、経営者を対象に聞いてもCHROをはじめとする人事・人材育成関連メンバーに聞いても、自社のリーダーシップ力とパイプラインは20年間ほぼ変わっていないことが分かりました。

これだけ様々なリーダーシップ関連施策をしていても何も改善されていないのは、非常に残念なことです。

ただし細かく見ると、とてもうまくいっている企業もあればそうではない企業もあります。Byham氏からその違いについて詳しい説明がありました。

リーダーシップ強化(と人材育成全般)には、企業によって4つのレベルがあります。

  1. 受身的かつ縦割り
  2. 整理されていて機能している
  3. データに基づいたパーソナライズ対応
  4. 戦略的かつ最適

数字が大きいほうがレベルも上になりますので、当然そちらを目指すべきです。

上のレベルを目指すための第一歩は、人材育成部門の基本的なスタンスを見直すことから始まります。具体的に言うと、人材育成部門にはだいたい以下のような姿勢が見られ、数字が大きいほうがさらに効果的な人材育成施策を提供できます。

  1. 指示待ち:言われたニーズに対して研修を企画・実施する
  2. パートナー:現場と一緒に目標達成に向けて育成計画を提供する
  3. プロアクティブ:ニーズを予測して自ら提案する
人材育成部門の基本的なスタンス以外のアドバイス

研修企画のスタートライン

研修を企画する際、最初に考えるのは必要な能力やコンピテンシーではなく、事業戦略や経営課題です。そこから企画して、その次に求める能力と育成施策を考えると、ビジネス成果につなげられる可能性が高まります。

細かい階層別研修

同じリーダーや管理職とひとくくりにしても、ニーズは細かく異なります。各層にぴったり合うような研修内容をするためには、階層を細かく分けてそれぞれにオリジナルの内容を提供する必要があります。

私の個人的な印象ですが、細かい階層別研修は数十年前から日本の定番研修で伝統的なやり方となっています。ですが、グローバルの人材育成専門家からは数十年間ずっと批判され続けてきました。それが今になって、グローバルの最先端ノウハウになるとは! びっくりしましたし、けっこう笑いました。こんなふうに、時間によって人々や世間の考え方は移り変わっていくものだと強く実感しました。

テーマ4:DEVELOPMENT

このテーマは人材育成のコアコンピテンシーです。例えば、ニーズ把握、研修の企画と設計、講師スキル、定着フォロー、研修効果測定などです。様々な成功事例があった中から一つ、本質的かつ実践的だと感じたものは、ジョージア工科大学の人材育成担当者Racheal Wattsの、上司を巻き込む事例紹介です。

スキル定着は人材育成の長年の課題の一つです。定着を高めるための効果的な手段の一つが受講者の上司の巻き込みであることは以前から知られていますが、現実問題として忙しい上司を部下の成長支援のために巻き込むのはそう簡単ではありません。Watts氏はジョージア工科大学の取り組みを紹介しました。

背景

研修プログラム自体は汎用的な新任管理職研修です。月1回の終日研修 x 4カ月間、一部事前課題と自己学習があり、最後にちょっとしたプロジェクトがあります。プログラムに斬新さはありませんが、上司を巻き込む徹底的な定着フォローが特徴です。

出席率を高める工夫

過去の欠席率が高かった反省を踏まえて、まずは出席率を高める工夫をしました。具体的には、募集条件として100%出席する約束をさせて、1回でも欠席すると部門に20万円の罰金を払わせるルールをつくりました(今まで罰金は一度も求めたことはないものの、出席の重要性を強調するのに有効な工夫であるとのこと)。

上司の巻き込み

上司を巻き込むために、受講者と同じタイミングでより簡易的な研修を実施しました。

1日間の終日研修で定着の重要性、上司の役割、成長支援テクニックを教えます。その後、受講者の研修内容と上司として職場でフォローするヒントの映像と資料を送ります。忘れないように定期的なリマインドメールも送りました。それ以外には、上司向けのオンラインコミュニティと相談室を立ち上げました。

上司の負担を低減する

定着を強化するために上司を巻き込むのは効果的ですが、同時に忙しい上司の負担を増やすことはなるべく避けたいものです。そのため、すべての巻き込みを受講者主体にしました。

例えば、研修前後の面談のセッティングは受講者が仕切ります。アクションプランの進捗状況報告と相談についても、受講者が先に内容を発信して、上司はそれに対して反応するだけです。

細かい工夫もいろいろありますが、大切なポイントは巻き込んでも上司の負担を極力増やさないことです。

結果

明確な結果として、出席率は100%になりました。

また、より大切なことは、

  • 研修内容の正しい理解が進んだ
  • 研修期間中に職場で明確な行動変容があった
  • 上司と部下のより強い信頼関係が構築できた
  • カークパトリックのレベル3・4の良い結果が出た

確かに上司の負担は少し増えましたが、結果を考えると、マイナス面よりも明らかに組織にとってのビジネス成果とインパクトというプラス面のほうが大きくなりました。

まとめ

今年のATD ICE人材育成国際大会でも様々なセッションに参加してきましたが、一番感じたのは十数年前と比較して、グローバルと日本の人材育成のギャップが小さくなっていることです。

正確に言うと、ギャップが大きいのは国や地域の差よりも、同じ地域の中で優れた人材育成を実施している企業とそうでない企業の差だと実感しました。これからも日本でビジネス成果につながる効果的な人材育成施策を提供できるように頑張りましょう。

社員が活躍し続けるには?挑戦と学びが循環する組織のキャリア開発|プレシャスパートナーズ矢野

これまで、人材の定着につながる採用手法や、職場環境・制度の整備についてお伝えしてきました。採用の入口だけでなく、入社後に社員が力を発揮できる基盤づくりは、どの企業にとっても大きなテーマです。

そして今回は、その中でも最も難易度が高いテーマである「社員を活躍人材へと成長させる育て方」に触れていきます。

これまで制度や環境について整理してきたため、今回は企業が取り組むべき“キャリア開発”に焦点を当て、社員が挑戦し続け、活躍を持続できる仕組みについて掘り下げていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

「活躍を持続させるキャリア支援」とは何か

キャリア育成と聞くと、つい「できない部分を補う」「スキルを上げていく」ことに意識が向きがちです。しかし、実際に向き合うべきなのは、“社員が長く成果を発揮し続けられる状態をどうつくるか”です。

社員が持続的に活躍するためには、以下が必要になると考えています。

  • 挑戦の機会が継続的に得られる
  • 学ぶ環境がある
  • キャリアの選択肢が明確になっている
  • 上司や仲間に相談できる安心感がある
  • 自分の強みを活かせる配置や役割が用意されている

これらが揃うことで、社員は自律的に成長し、自らのキャリアを前向きに捉えられるようになります。

成長を後押しする「挑戦機会」のつくり方

社員が成長し続けるためには、日々の業務だけでは限界があります。普段の業務に加えて、以下のような経験をすることで、今のスキルやキャリアを超えた力が身についてきます。

①新たな役割を任せる

ここでの役割とは、役職や大きなプロジェクトではなく、業務の一部で完結する小さなプロジェクトのリーダーを担当させるなどを指します。

業務の権限を少しずつ広げるだけでも社員の姿勢は変わり、「期待されている」「任されている」という実感が主体性を引き出します。

②立場を変えてみる

先輩社員が後輩に教える立場になると、視点が変わり、自分の仕事を見つめ直すきっかけになります。教える側に立つことで、自分の知識や行動を整理し、より深く理解できるようになります。

③プロジェクト型の経験を増やす

部署内の仕事だけでなく、横断的なプロジェクトやチームで動く経験は、視野を広げるうえで非常に有効です。普段関わらない人と働くことで、自分の強みや課題に気づきやすくなります。

活躍を支える「学びの仕組み」

挑戦の機会を用意するだけでは、活躍の持続にはつながりません。挑戦の中で得た気づきを整理し、新たなスキルを積み上げるために研修やナレッジの共有などの「学びの仕組み」を用意することが必要です。

ただし学びの仕組みを整えるうえで大切なのは、研修を実施すること自体ではなく、実務と学びをどう結びつけるかという視点です。

座学中心の研修だけでは、成長につながる場面は限定的になりがちです。日々の業務の中で生まれた課題に対し、先輩や上司と一緒に振り返り、次の行動にどう活かすかを考えるプロセスのほうが学びとしてはるかに定着しやすくなります。

また、一度に大量のインプットをするよりも、日常の中に小さく・自然に組み込まれていることが継続の鍵になります。短時間で取り組める仕組みや、業務の合間に振り返りを行うサイクルを用意することで社員は無理なく学習の習慣を身につけることができます。

キャリア形成に必要な上司の関わり方

上司が日常的に問いかけたり、振り返りの機会をつくったりすることで、社員は自分の思考を整理し、行動の背景を深く理解するようになります。

「なぜそう考えたのか」「次はどう改善するのか」といった対話が重ねられることで、学びは単なる知識のインプットではなく、実務に直結する経験へと昇華していきます。

学びは“与えられるもの”ではなく、“経験と結びつくことで価値を持つもの”です。

だからこそ、企業は研修そのものに注力するよりも、日常業務を通じて社員が気づき、考え、改善していくための仕組みづくりに力を入れる必要があります。

キャリアは“縦”だけではなく、横と斜めのキャリア支援

多くの企業でキャリアというと「昇格」「役職」といった縦のラインが中心になります。しかし、社員の活躍を持続させるためには、横・斜めの経験が重要です。

横のキャリアは、ジョブローテーションや配置転換が当てはまりますが、斜めのキャリアとは、営業部のリーダーが採用担当のリーダーになる、といった経験を活かしたキャリアアップです。

営業を経験して現場の課題や声を知っているからこそ、営業の採用でギャップが少なく、自社に合った人を見極めることができます。自分の専門性を違う場で活かす経験は、社員のモチベーションを高めるだけでなく、新しい強みを引き出す機会にもなります。

キャリアには“上に進むだけが正解ではない”ことを明確にし、複数の成長ルートを用意することで、社員は安心して挑戦を続けられます。

持続的な活躍に欠かせない「飛び込める環境」

どれだけ挑戦や学びの仕組みを整えても、社員が「相談できない」「失敗が許されない」と感じている環境では、成長は停滞してしまいます。社員が不安を抱えずに意見を言い、相談し、挑戦できる「心理的安全性」が担保された風土が必要です。

単に怒らない、褒めてモチベーションを上げることではなく、部下の失敗の原因を解決して、社員自身の成長につなげていくことです。

キャリア支援のための部署の設置
ここまでキャリア開発に必要な視点や取り組みについて触れてきましたが、プレシャスパートナーズでは、キャリア形成を組織として支えるために人事部の中に「人材開発課」を設置しています。
採用担当だけでも一定のフォローは可能ですが、社員が挑戦して成長し続けるためには、制度や環境だけでは不十分です。一人ひとりの特性を見極めながら伴走する専門的な支援が欠かせません。
採用業務と並行して社員全員の成長を長期的に支えるのは難しいのが現実であるため、人材開発課を設置することで行動特性の分析や配属後研修のフォローや1on1の設計、キャリア相談など、社員の活躍を支えるための機能を集約しています。
「挑戦ができる環境」と「成長が続く仕組み」を社内に根づかせるための土台として、専門部署が重要な役割を果たしています。

まとめ

社員が活躍し続けるためには、特別制度が必要なわけではなく、日々の業務の中に挑戦の機会があり、その挑戦を通じて生まれた気づきを学びにつなげられ、自分の強みや可能性を活かせるフィールドが社内に用意されていることが大切です。

キャリアは一つのルートだけで形成されるものではなく、横にも斜めにも広がり、社員が自分の未来を前向きに描けるように、選択肢を提示し続ける姿勢が企業には求められます。

社員の成長を支える人材開発課などの部署の設置や、継続的に支援をする仕組みをつくり、企業がその循環を丁寧に支え続けることこそが組織の未来を強くしていく一歩になるのではないでしょうか。

jinjer HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来|オープニングセッション イベントレポート前編

統合型人事システム「ジンジャー」は、人事労務、勤怠管理、給与計算、人事評価、サーベイ、データ分析など、幅広い人事業務を1つの人事データベースで管理できるクラウドサービスです。
サービス提供開始から10周年を迎えたジンジャーは、データを活用して「ひと」の可能性を引き出し、これからの人事のあり方を考える場としてカンファレンスを開催しました。

本記事では、jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO 冨永健氏によるオープニングセッションの内容と、CPO 松山雄一郎氏が語った「これまでのジンジャー、これからのジンジャー」の内容をレポートします。
ジンジャーが10年間でどのように進化してきたのか、今後どのようなプロダクト開発を進めていくのか。ジンジャーの最新サービスも併せてご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

【イベント概要】

イベント名:jinjer HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来
開催日時:2026.5.20 WED 13:30 – 18:30
開催場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(受付開始13:00)
イベントページ:※このイベントは終了しました。
https://hcm-jinjer.com/hr-reveal-2026/

「jinjer HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来」とは

「jinjer HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来」は、統合型人事システム「ジンジャー」のサービス提供開始10周年を記念して開催されたカンファレンスです。

人的資本経営の重要性が高まるなか、人事部門には、労務管理や制度運用にとどまらず、企業価値の向上に貢献する役割が求められています。一方で、多くの企業では人事データが複数のシステムに分散し、データの整備や運用に多くの時間を費やしているのが現状です。その結果、本来注力すべき組織開発や人材活用に十分な時間を割けていないという課題もあります。

本カンファレンスでは、人事データの整備・活用によって人事や組織のあり方がどのように変わるのか、またAIの進化によって「ひと」の可能性をどのように引き出していけるのかについて、さまざまな視点から議論が行われました。

カンファレンスの基調講演・セッション概要

当日は、jinjer株式会社 代表取締役社長 CEOの冨永健によるオープニングセッション「ジンジャーの次なる10年とプロダクトビジョン」から始まり、経済産業省、大学、企業経営、人事領域の有識者を迎えた基調講演「『産学官』で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~」がおこなわれました。

そのほか、タレントマネジメント、人事データベースの統合、データドリブンな人事戦略、人事データの設計・構築力をテーマにした各セッションも実施され、人事業務の効率化にとどまらない、人事データ活用の可能性が共有されました。

本記事では、まずオープニングで語られたジンジャーの10年の歩みと今後のプロダクトビジョンを紹介します。
※経済産業省や有識者らを交えた基調講演「『産学官』で描く人的資本経営の現在地と未来」の模様は、後編にて詳しくお届けします 。 

オープニングセッション(代表取締役社長 CEO 冨永健)

jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO 冨永健

冨永氏:
jinjerが今回のように対面形式で、かつ大規模なカンファレンスを開催するのは初めてです。ジンジャーは今年、サービス開始から10年を迎えます。10周年という節目にあたり、本イベントを企画しました。今回の開催をきっかけに、来年以降も継続的に開催していきたいと考えています。

ジンジャーは、まだ世の中に「HR SaaS」という言葉が広く浸透していなかった時代にスタートし、HR SaaSの歴史とともに歩んできました。もともとは勤怠打刻のサービスから始まり、その後、人事労務、給与、ワークフローなどのモジュールを追加。今年4月には、ATS「Talentio」も統合されました。

現在は、入社前の採用管理から、入社手続き、オンボーディング、在籍中の人事労務管理、退社手続きまでを一気通貫で支援できるサービスになっています。「ジンジャー」ひとつで、人事に関わる幅広い業務プロセスを提供できる会社へと進化してきました。

冨永氏:
すべてのモジュールを1社で提供することに、どのような意味があるのか。本日はその点をお伝えしたいと考えています。

多くの企業では、給与システム、人事労務システム、タレントマネジメントシステムなどを、目的ごとに個別に導入しているケースが少なくありません。これらのモジュールを、いわゆるプラットフォーム型として1社で提供することに、どのような価値があるのでしょうか。

システムが分かれていると、それぞれのデータベースも分かれてしまいます。そのため、氏名変更があった場合には、各システムで情報を更新しなければなりません。仮に、更新頻度が年に1回だったとしても、複数のシステムで何度も情報を更新しなければならず、更新漏れや入力ミスが発生するおそれがあります。

ジンジャーは、ATSのTalentioを統合したことで、入社前の候補者データも扱うことができるようになりました。候補者の氏名、電話番号、住所、性別などを登録すれば、そのデータを入社後にも引き継ぎ、必要な情報を追加登録しながら活用できます。

採用活動のフェーズから退職まで、ひとつのプラットフォームでデータを蓄積できることが、ジンジャーが提供する価値です。

AI×人事データが描く未来

冨永氏:
昨今、「SaaS is dead」という言葉に注目が集まりました。SaaSを取り巻く環境も大きく変わり、今まさに「AIの時代」に突入しています。では、「AI」と「人事プラットフォームのデータ」が掛け合わさると、どのような意味を持つのでしょうか。本日の議題は、まさにこの点にあります。

皆様も、日常的にAIを使っていると思いますが、非常に便利な一方で、AIが嘘をついたり、間違ったりした経験はありませんか。AIの回答は、参照するデータの内容に大きく左右されます。つまり、古いデータや誤ったデータが混ざっていれば、回答の精度も下がってしまいます。

企業でAIを活用する場合も同じです。AIが企業のデータベースを参照して回答する以上、そのデータベースの内容が古かったり、間違っていたりすれば、求めている答えは出てきません。

人事領域で考えると、給与システム、人事労務システム、タレントマネジメントシステムなどにデータが分散している状態では、AIが参照する情報にもばらつきが生まれやすくなります。システムごとに情報の更新状況が異なれば、AIの回答にも影響が出る可能性があります。

だからこそ、人事データをひとつのプラットフォーム上に蓄積し、正しい状態で管理していくことが欠かせません。人事システムをジンジャーにまとめていただくことで、AIを活用する際にも扱いやすいデータ基盤をつくることができます。

冨永氏:
AIの時代が進むと、オートメーション、つまり自動化の領域はさらに広がっていきます。人間だけでは気付けなかった変化や兆しを、AIが見つけられるようになる可能性もあります。

例えば、離職の予兆検知を考えてみましょう。AIが大量のデータを多角的に分析し、日々の打刻、評価、パルスサーベイ、ストレスチェック、1on1のやりとりなどをもとに、「そろそろ声をかけたほうがいいのではないか」と提案してくれる。そうした世界が、すぐそこまで来ています。

ただし、その前提となるのは、やはり“きれいなデータ”が整っていることです。さらに、そのデータを安全に管理し、適切にコントロールできる状態をつくることも欠かせません。

冨永氏:
ここで少し話が変わります。ジンジャーは昨年、新たなビジョンを策定しました。私たちが目指す未来、実現したい世界として掲げたのが、『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』です。

このビジョンは、約500人の社員が10チームほどに分かれ、アイデアを出し合いながら作成しました。当初は、5年後くらいに実現できたらいいのではないかと話していました。しかし、AI技術の進歩の速さを目の前にしていると、5年後ではなく、来年、もしかしたら今年の後半には実現できるのではないかと感じています。

人事が行っているプロセスを自動化できたら。あるいは、皆様が気付けなかった従業員の変化にAIが気付いてくれたら。人事は、より戦略的な議論に時間を費やせるようになるはずです。

ぜひジンジャーを活用いただき、『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』を、ともにつくってまいりましょう。

冨永氏:
また、ビジョンを実現するために、ミッションも変えました。ミッション、すなわち私たちの使命・存在意義として掲げたのは、『人事の「これからの当たり前」をつくり、お客様とともに進化する』です。

これまでの人事の当たり前は、従業員からの問い合わせに答え、定型業務に対応することが中心でした。そうした業務を自動化しながら、人事の「これからの当たり前」をお客様と一緒につくっていきたい。これが、ジンジャーの新たなミッションに込めた思いです。

最後に、本日のイベントはスポンサーの皆様のご協賛のもとで成り立っています。この場を借りて、御礼を申し上げます。

この後は、プロダクト責任者より、新サービスについて詳しく紹介します。

オープニングセッション(CPO 松山雄一郎)

松山氏:
私からは、サービス責任者として「これまでのジンジャー」と「これからのジンジャー」について、プロダクトのビジョンをお話しします。

まずは、「これまでのジンジャー」についてです。これまでのジンジャーは、人事労務システムのオペレーションコストを削減し、人事データを正しく管理することを目指してきました。しかし、昨今の技術変化を受け、私たちはプロダクトのビジョンを再定義しました。

こちらのグラフは、人事データの整備状況について、アンケートを実施した結果です。上にいくほど、人事データが非常に整備されている状態を示しています。この結果を見ると、人事担当者と経営者のあいだに、認識のギャップがあることがわかります。

人事に限らず、どのような仕事でも、データをもとに意思決定をしようとする流れがあります。とくに人事の領域では、客観的な判断にもとづく人事戦略を十分にとれていないと感じていますが、それはなぜでしょうか。

我々の調査によると、人事部門が管理しているシステムやツールは、平均で5つあるといわれています。5つ以上のシステムを活用しながら、Excelやスプレッドシートも併用しているケースが多い状況です。

システムやツールの数が多いことだけが課題ではありません。複数のシステムでデータを管理していると、半角・全角の違い、空欄、表記ゆれなどが発生しやすくなります。同じ従業員の情報であっても、システムごとに入力内容や更新状況が異なれば、データの整合性を保つことは難しくなります。

その状態では、必要な情報を集めるだけでも時間がかかり、集計や分析に使うデータの正確性にも不安が残ります。これが、客観的な判断にもとづく人事戦略を難しくしている要因のひとつだと考えています。

統合型人事データの必要性

松山氏:
この課題を防ぐには、人にまつわるデータをひとつに集められる「統合型データベース」が必要です。一度情報を変更したら、関連するすべてのデータに反映される。これが、本来あるべき状態だと考えています。

我々が提供しているジンジャーは、創業当初から統合型にしようと決めていました。統合型人事データベースを保有していれば、日々の業務をおこなうたびに、給与、勤怠、異動履歴などのデータが自然と蓄積されていきます。さらにタレントマネジメントの領域が加わると、評価やスキル、キャリアに関するデータも能動的に蓄積することが可能です。

これからの人事には、採用から退職までを扱う「データの幅」と、一人ひとりの情報を深く管理できる「データの深さ」の両方が必要になります。業務のなかで発生するデータと、人材活用のために集めるデータを、むらなく正しく蓄積していくことが重要です。

正しい人事データと「これからの人事」のあり方とは?

松山氏:
先ほどから「正しい人事データ」と申し上げていますが、これは業務で使いやすいデータと言い換えることもできます。正しい人事データを活用できるようになると、AIによるシフトが起きたときに何が変わるのでしょうか。

まず、AIによって反復作業が減り、人事は人との対話や戦略の実行により多くの時間を使えるようになります。そして、客観的なデータにもとづいた人材戦略や人員配置をおこなうことで、経営に寄与しやすくなるでしょう。

つまり、これからの人事は、人件費をコストではなく投資として捉え、必要な人材投資を通して人材の力をより高めていくことが求められます。

これまでジンジャーでは、採用領域をカバーできていませんでした。しかし、今年4月から採用管理システムの「Talentio」がジョインしたことで、採用から退職までの人材ライフサイクルをカバーできるようになりました。

採用時に見えていた候補者のパフォーマンスが、入社後に本当に生かされているのか。こうした視点でも、採用時のデータと入社後のデータを連動させて分析できるようになります。
その土台となるのが、ジンジャーが10年前からこだわってきたシングルデータベースです。人事マスタを単一にすることで、採用から退職までの情報をひとつにつなげ、常に最新で正確な状態を維持できます。
どこかで情報を更新すれば、関連するサービスにも反映される状態をつくることで、AIが参照するデータの精度を保ち、業務で使いやすい人事データとして活用できるようになります。

AI Friendlyの考え方

松山氏:
最後に、「AI Friendly」という考え方についてお話しします。AIのハルシネーションを防ぐためには、人事データがひとつにまとまり、リアルタイムに更新されている状態が必要です。さらに、ひとつのデータベースのなかで、権限管理まで含めて整備されていること。それが、AIにとって扱いやすい、AI Friendlyな状態だと考えています。

今後、人事業務ではAI活用がさらに加速していきます。高度な分析やAI エージェントによる支援が進むなかで、データをどう制御するのか、誰がどのデータにアクセスできるのかといった権限管理も必要になります。

AI設計のポイント

松山氏:

これまでジンジャーは、オペレーションコストをいかに下げるかという観点でプロダクトをつくってきました。これからは、AIを掛け合わせることで、「ひとの可能性を最大開放」するプロダクトをつくっていきます。
しかし、人事領域は間違いがあってはならない領域です。そこで本日は、ジンジャーが掲げているAI設計のポイントを2点ご紹介します。

ひとつ目は、AIには確定の判断をさせないことです。いわゆるヒューマン・イン・ザ・ループ(人間がAIのワークフローに関与し、正確性、安全性、説明責任、倫理的な意思決定を確保すること)の考え方です。セキュリティの観点からも、AIは示唆を出す役割にとどまり、最終判断は人間がおこないます。

もうひとつは、AIのホワイトボックス化です。なぜAIがその結果を出したのかを明確にすることにこだわっています。AIの結果を妄信的に信じることで、従業員に不利益が生じることは避けなければなりません。

これらの設計ポイントを意識しながら、現場で安心して活用いただけるプロダクトを開発してまいります。

ジンジャーの新サービス

松山氏:
最後に、2026年にリリースする4つの新サービスについてご紹介します。

1つ目は、「HR Signals」です。本日、第一弾として「退職アラート」を発表しました。人事データをもとに離職の予兆を検知し、スコアリングやアドバイスの提案をおこなうサービスです。組織や従業員のなかにある隠れたシグナルを可視化し、人事が早い段階で必要な対応を検討できるようにしていきます。

jinjer、「人事データ×AI」で組織と従業員の 隠れたシグナルを可視化する機能シリーズ「HR Signals」を 2026年6月以降に提供開始。第一弾は、人事データから離職予兆を検知する「退職アラート機能」を実装

2つ目は、今後リリース予定の「AI Assistant」です。人事業務では、複数のシステムを行き来しながら業務を進めたり、煩雑で膨大なデータを処理したりする場面が多くあります。AI Assistantは、そうした業務を支援する、いわばAI秘書のようなサービスです。今年の夏から、主に従業員と管理職向けに提供を開始する予定です。

jinjer、人事関連全般のタスクをワンタッチで完結させる「AI Assistant(AIアシスタント)」機能を一部ユーザーから段階的に提供開始

3つ目は、「AI エージェント」です。入社手続きや勤怠締めなど、人事業務にはさまざまなデータを確認しながら進める作業があります。AI エージェントは、そうした一連の作業を自動化するサービスです。利用者には、AIが処理した結果を確認していただく形を想定しています。

4つ目は、「Manager Assist」です。まずは人事評価の領域から始めたいと考えています。マネージャーの皆様が評価業務を効率化できるよう、評価記入の支援や面談記録の自動生成などの機能を開発する予定です。

評価業務そのものを効率化するだけでなく、評価データの品質を底上げし、メンバーと向き合う時間を増やしていただきたいと考えています。これらのサービスを通して、ジンジャーは『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』をつくっていきます。

松山氏:
HR SaaSの領域では、AIは嘘をつくのではないか、不確かな回答をするのではないかという不安も語られてきました。一方で、AIの技術は大きく進化しています。我々も、人事の「これからの当たり前」をつくり、お客様と一緒に進化していきたいと考えています。

これまではプロダクトを中心に提供してきましたが、今後、ジンジャーはオンラインコミュニティも立ち上げます。オンラインで情報交換ができる場をつくり、ナレッジをシェアしながら、よりよくジンジャーを使っていただけるようにしていきます。ご興味のある方は、ぜひお申し込みください。

まとめ

オープニングセッションでは、ジンジャーがサービス開始から10年でどのように進化してきたのか、そしてAI時代に向けてどのようなプロダクトビジョンを描いているのかが語られました。

人事労務、勤怠、給与、評価、サーベイ、採用管理などのデータをひとつの人事データベースに集約することで、業務効率化だけでなく、AIを活用した離職予兆の検知や人材配置、経営判断への活用にもつなげていく。「統合型人事データベース」の価値が、ジンジャーの次なる10年の方向性として示されました。

また、HR Signals、AI Assistant、AI エージェント、Manager Assistといった新サービスからは、人事業務を自動化しながら、人事担当者がより戦略的な業務や従業員との対話に時間を使える未来が見えてきます。

後編では、基調講演『「産学官」で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~』の内容をレポートします。

インドと日本の“違い”を掛け合わせる。異文化から「第三の解」を生み出す実践【現場を変えるCQ白書 第7回】

コラボレーションは、ときに苦労も生じます。

相手が異国にいればなおのこと。しかも相手がインドとなれば、苦労が増えることも想像に難くないでしょう。10人に聞けば10人が違うことを答えるほど、多様性に富んでいるからです。

そんなインドで2019年にデジタルブランディング支援会社「STORYTELLING LLP」を設立した見上すぐりさん。同社の強みは、日本やインド、中東などの多国籍メンバーでチームを組み、その“違い”を掛け合わせていることにあります。

しかし最初から上手くいったわけではありません。見上さんはインドに縁があったわけでもなく、その道のりは試行錯誤の連続でした。

次世代リーダーに欠かせないCQという力をテーマにした本連載。今回はインドと日本という文化の違いをCQでパワーへと変えていく実践について聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

日本でのつまずきとインドでの会社設立

見上すぐりさんのキャリアは、日本の大手信託銀行からスタートしました。役員秘書を務めますが、約5年で退職します。見上さんは次のように振り返ります。

ある日急に眠れなくなってしまったんです。まさに文化が合わなかったのだと思います。そもそも「何をしたいのか」より「どこに所属するのか」で就職先を決めていました。結果的に心身が疲れてしまい退職しました。

その頃に結婚をしましたが、心身が良くない状態ではパートナーシップを築くのも難しくて。2年ほどで破綻しました。所属する会社も家庭も無くし、失うものが何も無い。どん底の時期でしたね。
でも逆に「自分のやりたいことは何か」と考えられた。CQの第一歩というか、自己理解を深めるきっかけになりました。

その後、ベンチャー企業勤務を経て、デジタルマーケターとして独立。再婚もします。そして相手の仕事の関係で移住した先がインドでした。

初めての土地ながら「自分の場所に帰ってきた」という感覚を持ったと見上さんは言います。

「隣の人と会話ができる」という前提がないことが心地良かったんです。

インドでは隣の人の言語や宗教が同じとは限りません。宗教や生まれた州が違うと、祝日も食事も日々のルーティンも違います。10億人超がそんな違いを受け入れ合い、国を成り立たせているという壮大さに惹かれました。

一方でその頃、二度目のどん底を経験しました。第三子を流産してしまったんです。
そのことをきっかけに、会社という、生産するコミュニティをつくりたいと考えて起業に至りました。

日本とインドとの“違い”

見上さんが設立したSTORYTELLING LLPは、現在はインドや中東へ進出する日系企業に対してデジタルでのブランディングやマーケティングを支援しています。

日系企業から依頼を受け、インドで採用した人たちと一緒に、インド市場のためのサービスを提供する……。いくつものギャップがあるため、プロジェクトには苦労が付き物だと話します。

日本とインドは、かなり異なる文化を持っていますよね。

インドは流動性の国なんですよ。毎日のように何かが起こるのでプランDくらいまで用意しなければならない。でも日系企業は長期的プランを立てますし、変化を嫌がりますよね。

また、私は「リラックス」がクリエイティビティの源泉だと思っています。ただインド人がリラックスし過ぎていると、日系企業に価値を感じてもらえない場合があります。結果、日本側とインド側にギャップが生まれることになります。

見上さんのリーダーシップについて周囲から「インドのメンバーに軽視されているのでは?」といった指摘もあったそう。事業が成長し、クライアントの企業規模が大きくなるほど、そのギャップは広がったといいます。

チームづくりや、プロジェクトの進め方に課題を感じていた見上さん。そんなときに知人の紹介から受講したのが、CQ養成講座でした。

衝撃だったと話すのは、日本という国の“特異さ”です。本連載でも紹介した、文化の違いを理解するためのフレームワーク「ホフステードの6次元モデル」は、文化の傾向を数値で見ることができます。一例として日本は「不確実性を回避したい」という傾向が、世界でも突出して高い国です。

このフレームワークを通すと、見上さんがチームづくりに抱いていた課題は、自身が権力格差の小さい参加志向である一方で、インドは権力格差の大きな階層志向が強いことが原因だと考えられました。

特に北インドは、歴史的に闘いが多かった地域です。そのためロジックの根底には「権威」や「階層」があります。

ですが私は公平性を大事にしていて、さらに女性でもあるので、メンバーから「リーダーシップがない」「頼りない」と見られていたのだと思います。

それからは、女性性より男性性を出すようにアクト(演技)するようにしました。

例えば、日本人女性は積極的にうなずいたり、ほほえんだりして共感を表現しますよね。それを寡黙に振る舞うように変えてみました。結果的に、上手くいくことは増えたと思います。

ところが自分と異なるタイプを演じることに負担もあったと見上さんは話します。

私は「なりきる」タイプなんですよね。憑依させてしまうというか。

信託銀行で心身が疲れてしまった原因も、完璧な秘書としての自分をアクトしていたからだと思います。自分と相手との境界線を設計する必要がありました。

STORYTELLING LLPでも、男性性を出して威厳のある女を演じ続けることはつらかったんですよ。そこで夫にCEOを託し、私はCSO(Chief Storytelling Officer)という役職に就きました。

異文化共創の5段階と葛藤

以下の表は、東海大学の山本志都教授による異文化意識発達モデルです。違いに対する認識の発達過程を5つの段階で示しています。

表:異文化意識発達の5つの過程
フェーズ5
違いとの【共創】
選択に意識的になり、出現させたい未来にコミットする中で、発信力で周囲に影響を与え、探索力で他者からの影響力を受け取り、この相互作用を通じて、相互適応と共進化を実現する状態。
フェーズ4
違いを【相対化】
複数の視点を移動しながら、多面的に比較検討する中で、自分になかった異なる文脈での発想や感覚を理解し、考慮できるようになる状態。異なる選択肢や可能性に対して柔軟な対応が可能になる。
フェーズ3
違いを【最小化】
違いを特別視せず、なじませて調和させる中で、自分に分かる範囲の違いを許容して、ある程度尊重する寛容性がある状態。ただし、理解は限定的。想定外の出来事では許容範囲を超え、違いを踏まえた対応が難しくなる。
フェーズ2
違いに対する【防衛】
違いを認識するようになるが、自分の中で整理しきれず、違和感や抵抗感を覚えている状態。自己防衛のために対象を否定し、攻撃、排除に至ることもある。
フェーズ1
違いへの【無関心】
違いについて考える発想がなく意識外になっている。または興味がなく何とも思わない状態。

フェーズ1~3は違いをコストと見ている段階で、フェーズ4・5はパワーに変えていく段階です。見上さんはこれに沿って、次のように話しました。

初めてCQを学んだときは、自分では【相対化】のフェーズにいるという認識でした。

そこから男性性を強調してアクトし【防衛】というフェーズに下がった気がして悩んでしまって……。

そのことを宮森千嘉子さんに話したところ「みんな、行ったり来たりするんです」とおっしゃってくれました。各フェーズを行き来する中で成長していくのだと。

成長していないわけではないと分かって嬉しかったですね。また同時に、フェーズが上がっていくほど、自分と相手との境界線を設定することが大事だと感じました。

チームづくり、プロジェクト推進……

では現在、見上さんはどのようにチームを運営しているのでしょうか。

先ほども触れたとおり、インドは階層志向が強い傾向があります。「上の人が言うことしか聞かない」ということが起こるため、メンバー同士での協力は苦手だと見上さんは話します。
その点も踏まえ、地域や宗教などの文化的背景も考慮しながらチームをつくっています。

例えば朝は1時間くらい、みんなでチャイを飲みながら“だべる”んですよ。

直接的な仕事は進みません。しかし実はその1時間に、進捗管理や信頼構築などが凝縮されています。人生を語り合い、異なる文化背景を理解して、同志になっていく。

始業と同時に仕事を始める日本とはかなり違いますよね。

さらにプロジェクトについても聞きました。

日本側が主導の場合は、まずは日本側が絶対に外せないメインメッセージと3つの具体を示します。その上でインド側へ「こういう世界を作りたい」というビジュアル資料を共有します。インドの人は多言語文化なので、ビジュアルのほうが理解しやすいからです。

そこからは任せるのですが、ほとんどは日本側が考える6割くらいのクオリティで上がってきますね。そこからリバイズをかけます。たった45秒のビデオでも10回ぐらい修正があったりしますよ。コミュニケーションの多さはある種のお約束事と捉えています。

日本人からすると疑問で仕方ないでしょうね。私の場合は、そこのコミュニケーションをインド人のメンバーに任せています。インド人同士は、そのコミュニケーションやリバイズに何のストレスも感じていません。

文化の“違い”を価値に変える

日本人はイチから積み上げるのが得意ですよね。一方でインドはゼロイチに才能があると思います。枠組みにとらわれていないんですよ。「違うことが当たり前」で、コラボレーションへの心理的な障壁も圧倒的に低い。

近年は、グローバルで評価されるインド・ブランドや、グローバル企業のトップにインド人が就く例も増えていますよね。

最後に、こうした文化に面しながら仕事を進める魅力を見上さんは次のように話しました。

チーム運営は楽ではありません。しかし私自身は、刺激的で最高の環境だと思っています。

ブランディングという仕事は「相手の文化の中で、自ブランドがどのように相手の生活を豊かにしていくか」というストーリーをつむぐことでもあります。ですから、相手の文化的背景への歩み寄りがない限り、ブランディングは成立しません。

その歩み寄りの際に「国」では主語が大きくなってしまいます。CQを意識しながら、まずはその相手と話し合うことの重要性を強く感じていますね。

専門家の視点から
インドの人たちの、“違い”に対する受容性や活用の仕方に学べることは多々あると思います。一方で、CQで重要なのは、自身のコアは保ち続けることです。コアを保ったままで、どのように適応するのか、あるいはこちらに適応してもらうのか。
異なる文化を持つ人と働くことは簡単ではありません。現場での課題に自分を責めてしまう人もいますが、文化への理解を深めCQを高めることで、現場での課題感を緩和できるのではないでしょうか。
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【こんな方におすすめの一冊】

  • 組織に課題感がある人事担当者
  • 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
  • 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
  • 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方

「メンバーシップ型」の限界と、「ジョブ型」の落とし穴

人材不足、DX推進、事業環境の急速な変化――。企業にはこれまで以上に柔軟な人材活用が求められています。

日本企業で長く主流だった「メンバーシップ型」は、人材育成には強みがある一方で、個人の専門性やスキルが見えにくいという課題があり、解決策として期待された「ジョブ型」マネジメントも、変化への対応力という点では限界が指摘されています。

メンバーシップ型では曖昧すぎ、ジョブ型では硬直的すぎる。

こうした中で世界的に注目されているのが、職務や所属ではなく「スキル」を軸に人材を育成・配置・評価する「スキルベース組織」です。これは、人材マネジメントの基準を、曖昧な「人」そのもの(メンバーシップ型)や、硬直的な「職務」(ジョブ型)に置くのではなく、より柔軟で可視化しやすい 「スキル」 に置くという考え方です。

多くの企業では、社員の持つスキルが「見えない」状態になってしまっています。これでは、変化に対応できる強い組織を作ることはできません。

「スキルベース組織」は、「スキル」という新たな軸を取り入れることで、メンバーシップ型とジョブ型という両制度の不具合を解消し、それぞれの「良いところ」を活かし、柔軟性の高い人材マネジメントを、企業経営で実現するためのアプローチです。

本稿では 小出翔『誰もが成長し活躍する会社のしくみ「スキルベース組織」という新しい人材マネジメントの実践法 』(プレジデント社)より一部抜粋・編集してスキルベース組織導入のポイントをお伝えします。

執筆者小出 翔(こいで しょう)株式会社グローネクサス 代表取締役

デロイトトーマツコンサルティングでの14年間のコンサルティング業務において、様々な業界の大手企業から官公庁、自治体まで、のべ120社(団体)500万人の人材マネジメントを支援してきた“人事戦略のプロ”。独立・起業後も、大手電力・製薬・素材業や金融業等にて人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。経済産業省・IPAでは、デジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリング分野に特に強みを持つ。

https://grownexus.co.jp/

スキルベース組織への変革の進め方-スモールスタートと段階的展開の原則

スキルベース組織への移行は、単なる人事制度の変更ではありません。それは、組織の文化、働き方、そして社員一人ひとりのキャリアに対する考え方そのものを変革する、全社的な一大プロジェクトです。

この壮大で、時に痛みを伴う変革を成功に導くための鍵は、「スモールスタート」と「段階的展開」という、現実的かつ戦略的なアプローチにあります。

「完璧主義」と「拙速な全社展開」という甘い罠

変革プロジェクトにおいて、リーダーが最も陥りやすい、そして致命的なダメージを与える2つの罠があります。それが「完璧主義」「拙速な全社展開(ビッグバン・アプローチ)」です。

完璧主義の罠 準備段階での失速

「全社員のスキルを完璧に定義し、評価基準を完全に整備し、システムのバグを一つ残らず解消してからでないと、スタートできない」

一見、非常に真摯で責任感のある態度に見えます。しかし、この完璧主義こそが、変革のモメンタム(勢い)を失わせる最大の原因となります。

変化の激しい時代において、「完璧なスキル定義」など存在しません。議論と準備に時間をかけすぎている間に、ビジネス環境は変化し、当初の前提は崩れ去ります。

プロジェクトメンバーは疲弊し、社内からは「結局、何も変わらないじゃないか」という冷ややかな見方が広がります。完璧を目指すがゆえに、永遠にスタートラインに立てないのです。

拙速な全社展開の罠 導入直後の大混乱

完璧主義とは対極にあるのが、「とにかく新しいシステムを全社に導入すれば、皆が使い始めてなんとかなるだろう」という、見切り発車型のビッグバン・アプローチです。これは、経営層が短期的な成果を求めるあまり、陥りやすい罠です。

しかし、準備不足のまま、多様な部門、多様な考えを持つ全社員に対して、一斉に新しいしくみの利用を強制すると、何が起こるでしょうか。現場は大混乱に陥ります。

「使い方がわからない」「今までのやり方と違う」といった問い合わせが殺到し、推進部門は対応に追われます。そして、予期せぬ問題や運用上の課題が噴出し、それに対処できないまま、ネガティブな評判が全社に広がり、変革への信頼は失墜します。一度広がった不信感を払拭するのは容易ではありません。

スモールスタートの重要性 「小さく始めて、速く学ぶ」

これらの罠を回避し、変革の成功確率を高めるための最も現実的なアプローチが、「スモールスタート」 です。

まずは特定の領域(部門、職種、スキル)に絞って試験的に導入(パイロット導入)し、そこから具体的な学びを得ながら、徐々に展開範囲を拡大していきます。

パイロット導入の対象領域を選定する「戦略」

スモールスタートは、単に規模を小さくすることではありません。どの領域から始めるかという「戦略」が重要です。パイロット導入の対象としては、以下のようないくつかの選択肢が考えられます。

1「最も痛みが大きい」領域から始める

たとえば、人材不足が深刻で、早急なスキルシフトが求められている部門(例:DX推進部門、新規事業開発部門)から開始する。課題が明確であるため、変革の必要性が理解されやすく、成果を測りやすいというメリットがあります。

2「最も変革に協力的」な領域から始める

変革に対して前向きで、新しい取り組みへの意欲が高いリーダーがいる部門を選ぶ。彼らを初期の成功事例の「ショーケース」とし、変革の推進役(アンバサダー)となってもらう戦略です。

3「最も定義しやすい」領域から始める

スキルの定義が比較的容易で、標準化が進んでいる職種(例:ITエンジニア、データサイエンティスト、あるいは営業職など)から開始し、方法論を確立する。

4「全社共通の課題」となるスキルから始める

職種を問わず、全社共通で重要性が高い特定のスキル(例:デジタルリテラシー、プロジェクトマネジメントスキルなど)に絞って、可視化と育成施策から開始する。

自社の戦略、組織文化、そして変革への準備状況(レディネス)を踏まえ、最も効果的なスタート地点を見極めることが重要です。

アジャイルなアプローチ 計画・実行・学習のサイクルを高速で回す

スモールスタートの目的は、「失敗しないこと」ではありません。むしろ、「速く失敗し、速く学ぶ」ことです。

パイロット導入の段階では、必ず多くの課題や想定外の問題が発生します。

「スキル定義が現場の実態と合わない」

「システムが使いにくい」

「マネージャーが協力してくれない」

重要なのは、これらの課題を隠すのではなく、素早く学びを得て、しくみや運用方法を柔軟に改善していくことです。

計画(Plan)、実行(Do)、検証(Check)、改善(Action)のサイクルを数週間単位の高速で回す、アジャイルなアプローチが求められます。「まずは6割の完成度で開始し、現場のフィードバックを得て、使いながら磨き上げていく」という機動的な姿勢が重要です。

そして、パイロット導入で得られた具体的な成功体験(「スキルが可視化されたことで、こんなに効率が上がった」「思いがけない人材が発掘された」など)と、蓄積されたノウハウを武器に、徐々に対象範囲を拡大していくことがポイントです。

導入のロードマップ(例)

スキルベース組織への移行は、通常、数年単位の長期的な取り組みとなります。一気にすべてを変えようとするのではなく、自社の成熟度に合わせて、現実的かつ段階的なロードマップを描くことが重要です。

以下に、一般的な導入ロードマップの例を示します。しかし、これはあくまで一例であり、自社の状況に応じて柔軟にカスタマイズする必要があります。

フェーズ1:基盤構築とパイロット導入(半年〜1年目)

目的

スキルベース組織の土台(共通言語とシステム基盤)を築き、小さな成功体験を作り出す。

主な取り組み

  • 変革のビジョンと目的の明確化(なぜ今、スキルベース組織を目指すのか)
  • 部門横断の推進体制(CoE)の構築
  • スキルタクソノミー(共通言語)の初期バージョンの構築(AIを活用し、まずは主要なスキル群から定義)
  • パイロット部門の選定と、現状のスキルデータの可視化(スキルインベントリ構築)
  • パイロット部門での運用開始(スキル更新ルールの試行、初期のインセンティブ設計)

期待される成果

パイロット部門において、スキルベースでの人材把握が可能になる。初期の成功事例と運用上の課題が明確になる。

フェーズ2:活用推進と全社展開(半年〜2年目)

目的

スキルデータの活用を本格化し、対象範囲を全社に拡大する。人事プロセスとの連携を開始する。

主な取り組み

  • パイロット導入の学びを踏まえた、スキルタクソノミーの拡充と洗練化
  • 全社的なスキルデータの可視化と、運用ルールの展開
  • タレントインテリジェンスプラットフォーム(ツール)の選定・導入
  • 「配置・育成」プロセスとの連携強化
  • 社内タレントマーケットプレイスの試験導入と段階的拡大
  • スキルギャップ分析に基づく、戦略的なリスキリングプログラムの導入
  • LXP導入による、個別最適化された学習環境の提供
  • マネージャー向けの意識改革・トレーニングの集中的な実施(チェンジマネジメント、チェンジ・チャンピオン等の育成等)

期待される成果

スキルベースでの配置(異動・プロジェクトアサイン)や育成が、具体的な成果を生み出し始める。社員がスキルを意識し、自律的な学習に取り組む文化が醸成され始める。

フェーズ3:高度化と定着(2〜3年目以降)

目的

スキルベースの人材マネジメントを組織文化として定着させ、戦略的な意思決定に活用する。

主な取り組み

  • 「評価・処遇」制度との連携(スキルベースの評価・報酬制度の導入・定着)
  • AI活用による運用のさらなる高度化・効率化(スキル推定精度の向上、キャリアパス推奨など)
  • データに基づく戦略的な要員計画(Strategic Workforce Planning)の実現(将来のスキル需要予測と、採用・育成・配置計画の連動)
  • 人的資本経営の高度化と、データに基づく情報開示

期待される成果

組織全体で、スキルを基軸とした自律的なキャリア形成と、適材適所の人材配置が実現される。変化に柔軟に対応できる、俊敏性の高い組織へと進化する。

推進体制構築とチェンジマネジメント 「人」が動かなければ変革は進まない

全社的な変革を推進するためには、強力な推進体制が不可欠です。

これは、決して人事部門だけでリードできるものではありません。組織全体の「総力戦」で臨む必要があります。

経営層の強いコミットメント 変革の「熱源」

最も重要なのは、経営トップの揺るぎないコミットメントです。経営トップ自らが変革の必要性を深く理解し、そのビジョンと情熱を、自らの言葉で繰り返し発信し続ける必要があります。

単に承認するだけでなく、重要な会議体で進捗を確認し、必要なリソース(人、物、金)を投入し、時には困難な意思決定を下す。経営層が本気で取り組む姿勢を見せることで、社員の間に「今度こそ本気だ」という認識が広がり、変革への協力が得られるようになります。

部門横断の推進チーム( CoE)の組成

実務レベルでは、専門知識を結集した部門横断の推進チーム(CoE:Center of Excellence)を組成することがきわめて有効です。

  • 人事部門:制度設計、スキル定義、人材開発、チェンジマネジメントの専門知識を提供
  • IT・DX部門:システム基盤の構築・運用、データ連携、AI活用の専門知識を提供。
  • 経営企画部門:全社戦略との整合性、投資対効果の検証、ロードマップ管理を担当。
  • 現場部門の代表者(ビジネスパートナー):現場の視点を取り入れ、パイロット導入をリードし、各部門への展開を支援。

とくに重要なのは、現場部門の代表者を初期段階から深く巻き込み、「人事部のプロジェクト」ではなく、「自分たちのプロジェクト」として当事者意識を持ってもらうことです。彼らは、現場の課題を最も理解しており、変革の強力な推進役(チェンジ・エージェント)となりえます。

チェンジマネジメント( 変革の推進) 抵抗を乗り越える技術

新しいしくみを導入する際には、必ず現状維持を望む「抵抗」が現れます。これは自然な反応です。人は慣れ親しんだやり方を変えることに不安や恐れを感じるものです。

「面倒だ」「失敗したらどうする」「今のままで問題ない」。この抵抗を力で抑え込むのではなく、乗り越えるためには、丁寧な「チェンジマネジメント(変革の推進)」が不可欠です。

これは、変革に伴う「人」の感情や心理に焦点を当て、スムーズな移行を実現するための技術です。

1 丁寧なコミュニケーションと透明性の確保

なぜ変革が必要なのか(Why)、具体的に何が変わるのか(What)、どのようなメリットがあるのか(WIIFM)を、対象者(経営層、マネージャー、一般社員)に合わせて、繰り返し、粘り強く説明します。不安や疑問に真摯に対応し、透明性を確保することが信頼関係を築きます。

2 クイックウィン(小さな成功体験)の創出と共有

変革の効果を早期に実感してもらうために、小さな成功体験(クイックウィン)を意図的に作り出します。そして、その成果を積極的に社内で共有し、「変革は良いことだ」という機運を高めていきます。

3 変革のリーダー(チェンジ・チャンピオン)の育成

各部門で影響力のある人物(インフルエンサー)を特定し、彼らを変革の推進役(チェンジ・チャンピオン)として育成します。彼らが自らの言葉で変革の意義を語ることが、ほかの社員の行動変容を促します。

変革は、一朝一夕には実現しません。ロジック(論理)とエモーション(感情)の両面に働きかけながら、粘り強く、そして柔軟に、組織全体を巻き込みながら進めていく覚悟が求められます。

まとめ

完璧な制度設計を目指すだけでは、変革は「絵に描いた餅」に終わります。スキルベース組織の運用を成功させる鍵は、現場の視点に立ち、「ツール」「ルール」「インセンティブ」の3つを統合的に設計することにあります。

  1. ツール:AIなどの最新テクノロジーを活用し、データ管理の負荷を劇的に軽減し、高度化する。
  2. ルール:データの鮮度と信頼性を維持するために、日常業務の中に溶け込んだ、現実的で習慣化しやすいプロセスを設計する。
  3. インセンティブ:社員とマネージャーが自発的に協力したくなるような、明確なメリット(新たな機会、成長支援、公正な評価など)を組み込む。

そして、この全社的な変革を進めるうえでは、「完璧主義」や「拙速な全社展開」の罠を避け、「スモールスタート」と「段階的展開」というアジャイルなアプローチが不可欠です。

完璧を目指さず、小さく始め、速く学び、具体的な成功体験を積み重ねながら、着実に変革を進めていくこと。そして、経営層の強いコミットメントのもと、丁寧なチェンジマネジメントを通じて組織全体を巻き込んでいくこと。

社員一人ひとりが持つスキルを可視化し、今必要なスキルと将来必要になるスキルとのギャップを明確にする。そして、そのギャップを埋めるための育成機会を提供し、習得したスキルに基づいて適材適所に配置し、公正に評価する。これにより、社員は自律的にキャリアを築き、成長を実感できるようになります。

若手もベテランも関係なく、持つスキルに応じて活躍の場が与えられ、評価される。エンゲージメントは高まり、優秀な人材の定着にも繫がります。

企業にとっても、社内にどのようなスキルがどれだけあるのか(人材ポートフォリオ)を正確に把握できるため、変化に応じた柔軟な組織再編や、戦略的な人材配置が可能になります。

「スキルベース組織」は、行き詰まった人事制度を打破し、社員も会社も成長する〝正のスパイラル〞へと導くための具体的なしくみです。

スキルベース組織への移行は、決して平坦な道のりではありません。多くの困難と、時には後退もあるでしょう。しかし、変化を恐れず、常に学び、進化し続ける姿勢こそが、この不確実な時代を生き抜くための最も重要な組織能力(ケイパビリティ)なのです。

「プレイングマネージャー」の終焉──「正社員×外部人材×AI」で創るハイブリッド営業組織

前回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その「境界線」の重要性と、組織を再設計する「AX(AIトランスフォーメーション)」の必要性についてお話ししました。

では、実際にその境界線をどのように引き、組織として運用していくべきなのでしょうか。最終回となる今回は、AIに加え、外部人材を交えたハイブリッド組織における具体的な役割の切り分け方と、その仕組みを創り出す「マネージャー」の役割の変革について解説します。

寄稿者大矢 剛大株式会社SaleSeed 代表取締役社長

名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。

「個人の力」に頼るマネジメントの限界:プレイングマネージャーから「組織の設計者」へ

従来の営業マネジメントは、マネージャー自身が現場を牽引し、その背中を見せてメンバーを育成する「プレイングマネージャー」の形が主流でした。しかし、正社員の確保が慢性的に難しくなった現代において、個人の力に依存する組織運営は限界を迎えています。

これからの営業組織は、プロフェッショナルな外部人材やAIツールがチームのインフラとして当たり前に存在する「ハイブリッド組織」へと移行します。

ここでマネージャーに求められるのは、プレイヤーとしての優秀さではありません。正社員、外部人材、そしてAIという、性質の異なる3つのリソースを最適に組み合わせ、勝てる仕組みを創り出す「組織の設計者」としての役割です。

設計者が定義すべき「3つのリソース」の境界線

組織の設計者となったマネージャーが最初に取り組むべきは、各リソースの特性を理解し、その境界線を最適に定義することです。前回解説した「人とAIの境界線」に「外部人材(BPO等)」を加えた3つのリソースは、以下のように役割を分担させるべきだと考えます。

リソース 担当する領域 具体的な業務例
AI 「型化・認知」 情報収集、リスト作成、議事録要約、データ分析
外部人材 「特定フェーズの実行」 初期アプローチ(インサイドセールス)、特定業界への横展開
正社員 「不確実性の高いコア」 高度な合意形成、顧客との長期的な信頼関係構築

AIにリサーチや要約などの「定型作業」を任せ、外部人材にインサイドセールスなどの「型化された実行」を委ねる。これにより、自社の正社員は「顧客との信頼関係構築」という、最も付加価値が高く、かつ不確実性の高いコア業務にリソースを集中させることが可能になります。

テクノロジー活用によるマネージャー自身の「時間創出」

このハイブリッド組織を運用するにあたって、マネージャーが直面しやすい課題があります。それは、リソースが多様化したことで、かえって進捗管理やメンバー教育の手間が増えてしまうという問題です。

そのため、組織の設計者は、AIをメンバーの利便性向上のためだけに使うのではなく、「マネージャー自身の管理・指導時間を代替する仕組み」として組織に組み込む必要があります。

いわば、「管理と基礎指導のシステム化」です。日々の行動量担保は外部人材との連携フローの中で自動化し、基礎的なフィードバックはAIに委ねます。

SaleSeedでの取り組み事例:AIを活用した商談解析・品質標準化システム

弊社の組織でも、自社エンジニアと連携し、AIを用いた商談の自動解析とフィードバックの仕組みを開発・実装しています。

具体的には、オンライン商談の録音・録画データをAIに読み込ませることで、「トークの構成」や「顧客への課題訴求の適切さ」を多角的に自動解析し、具体的な改善点を即座に出力、それをメンバーに取り入れるロープレツールまでを網羅した仕組みです。

これにより、オンボーディング期の立ち上がり支援はもちろんのこと、既存メンバーも含めた「日常的な商談品質の均一化」や、成約率の高い「勝ちパターン」の深掘り・ナレッジ共有までを、AIが自律的に担うことができます。

結果として、営業活動における属人性が排除され、組織全体の商談クオリティを高い水準で保持できます。同時に、マネージャーが個々の営業品質の担保やチェックに費やすリソースも最小限に抑えられます。

AIが持つ解析・フィードバックの能力を仕組みとして組織に組み込むことで、マネージャー自身はより高付加価値なコア業務へと注力できるようになるのです。

創出した時間で行う「人間にしかできないマネジメント」への集中

テクノロジーと外部リソースの活用によって、日々のタスク管理や基礎的な指導から解放されたマネージャー。そこで創出した時間を、一体何に投資すべきなのでしょうか。

これからのマネージャーが真に注力すべき役割は、AIや外部人材には決して代替できないコア業務に集約されます。

不確実な局面における「意思決定」と「責任の引き受け」

AIは過去のデータから「確率の高さ」を算出することは得意ですが、前例のないトラブルや、データが不足している状況での「最終的な決断」はできません。そして何より、その決定に伴う「責任」を負うことは不可能です。

リスクを伴う局面において、「自分が責任を持つから、この方針でいこう」と覚悟を持って決断を下し、メンバーの後ろ盾になること。この「意思決定」「責任の引き受け」こそが、ビジネスを動かすマネジメントの本質です。

仕組み化できない「感情」に向き合う「ヒューマンタッチ」

どれだけAIや仕組みが進化しても、人間の感情の機微を汲み取り、動かすことはできません。マネージャーは、生まれた時間をチームメンバーの「心理的安全性」「モチベーション維持」「中長期的なキャリアの悩み」といった、一対一の深い対話に投資すべきです。

「数字は出ているが、プロセスにおいて何か不安を抱えていないか」「将来どのようなビジネスパーソンを目指しているのか」といった、データには表れないインサイトに向き合うこと。これによってメンバーとの絆や信頼感が深まり、結果として組織全体のパフォーマンスが最大化します。

変化に応じた「組織の設計図」の継続的なアップデート

そして、これらのマネジメントを原動力として機能させ続けるために、「組織の設計図」自体を継続的にチューニングしていくことも忘れてはなりません。

日々進化するAIの技術トレンドや市場環境の変化に合わせて、「この業務もAI領域へ移行しよう」「外部人材の連携フローを見直そう」といったように、仕組みを常にブラッシュアップし、最適化し続けることも設計者たるマネージャーの大切な役割となります。

まとめ

3回にわたってお届けした本連載の結論として、これからの営業組織の強さは、「プレイングマネージャー個人の能力」ではなく、「組織の設計図の緻密さ」で決まります。

多様なリソースの境界線を適切に設計した上、テクノロジーで時間を生み出し、人間が最も人間らしいコア業務、そして本質的なマネジメントに集中できる組織を創ること。

これこそが、激変する時代を勝ち抜くための、新しい営業マネジメントのあり方です。

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営業組織が直面する構造的課題 ー 労働人口減少と営業職の採用難

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

“結果を出す”がゴールではない。社員が成長し続けるための人材育成戦略|プレシャスパートナーズ矢野

企業経営において、売上や数字といった目に見える成果は重要です。しかし、その数字だけで社員の価値を判断してしまうと、短期的な実績に引っ張られた点の評価に偏り、長く活躍する人材を育てる視点が欠けてしまうことがあります。

本当に大切なのは、“結果そのもの”よりも、「チーム・顧客・会社にどのように貢献したのか」というプロセスです。企業の成長は、単発の成果ではなく、“信頼の積み重ね”と“社員一人ひとりの成長”によって築かれていきます。目先の成果が良くても、貢献の意識や成長の意志が伴わなければ、組織は持続的に強くなれません。

社員が長期的に活躍するためには、「どんな思考と行動でその結果にたどり着いたのか」を評価し、それを育む文化が不可欠です。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

本当に価値があるのは「結果」が「貢献」につながっていること

成果主義が強くなりすぎると、社員はつい“自分の数字”だけに意識を向けがちです。短期的には成果が出ても、その裏でチームの信頼関係や心理的安全性が損なわれてしまえば、長期的には組織が弱体化し、離職につながる可能性も高まります。

企業が成長し続けるためには、個人が生んだ成果が“個人だけの成功”で終わらず、「組織や仲間への貢献」に結びつく状態が必要です。

例えば、

  • 成果を出した社員が、自分のノウハウを共有し、チーム全体のレベルアップにつなげる
  • 失敗や課題を正直に共有し、チーム全体で同じミスを防ぐ
  • 後輩の相談に乗り、育成を通じて“未来の戦力”を生み出す

こうした行動の連鎖こそが、企業にとっての本当の価値です。大切なのは、「自分が得た成果を、どう仲間や会社のために使うか」という姿勢。ここにこそ、長期的に成果を生み続ける土台があります。

「結果を出した人が活躍し続ける」ためのプロセスづくり

“結果を出すこと”はキャリアの終着点ではありません。それはむしろ、次の成長のスタートラインです。

企業が本当に評価すべきなのは、社員が結果を出し続け、組織に貢献し、後輩を育て、チームを強くしていく一連のプロセスです。つまり、活躍を“点”ではなく“線”で捉える視点が重要になります。

たとえば、次の2名の社員を比較してみます。

  • 先輩から引き継いだ顧客から継続して100万円の契約をいただいた社員
  • ゼロから新規顧客を開拓し、10万円の契約を獲得した社員

数字だけを見れば前者のほうが大きいように見えます。しかし会社として評価すべきは後者です。新規開拓には「関係構築」「価値提供」「信頼獲得」といったプロセスが存在し、その行動こそが組織の未来につながるからです。

このように、「どんなプロセスを経て成果が生まれたのか」を評価に反映することで、社員は“再現性のある成長”を身に付け、活躍し続ける基盤ができます。

社員が中長期的に成長し、「挑戦→成功→貢献」の循環を生み出せるようにすること。それこそが、持続的な組織づくりに欠かせません。

「プロセス評価」を行うために必要な3つのポイント

結果だけを見ず、プロセスに光を当てる評価へと移行するには、単に「プロセスも見よう」と声を上げるだけでは機能しません。制度設計・マネジメント運用・現場の3つが一致してはじめて、仕組みとして成立します。

①プロセスを「見える化」する評価基準をつくる

プロセス評価が形骸化しやすい理由は、「何を見れば良いのか」「どう評価するのか」が曖昧なためです。評価基準を設定する際は、以下のような行動を可視化する必要があります。

  • 課題の捉え方
  • 自主的に行動できていたか
  • チームへの貢献
  • 顧客価値の創出度(期待以上の提案やフォロー)

数値では測れない行動に基準が生まれると、社員自身も「何を伸ばせば評価されるのか」を理解でき、行動改善が進みやすくなります。

②上司はプロセスを言語化する伴走者になる

プロセス評価を浸透させるうえで最も重要なのは、日々メンバーを支援する上司の役割です。上司が「数字だけで判断しない」「行動背景を理解する」という姿勢を持ち、部下に示すことで、挑戦しやすくなり、結果よりも成長を重視した行動をとれるようになります。

部下には以下のような質問で、行動や考えを深掘りし、壁打ちする時間を設けましょう。

「今回の行動を選んだ理由は?」
「どんな仮説を持って動いた?」
「次に改善するなら、どこを変える?」
「その行動はチーム(会社)にどう共有できる?」

社員の思考を言語化し、自覚させるこのプロセスが、成長の再現性を高める大きなポイントです。

③「失敗の共有」ができる環境を作る

ルールを守らなかったり、報連相ができず、起きるべくして起きたミスはしっかりと指導すべきですが、挑戦した結果成果にならなかったことなど「成長の過程にある失敗」は共有し、ポジティブに捉えることも大事です。

失敗の共有がポジティブに捉えられる文化がある会社では、学びが組織全体に広がり、挑戦が増え、成功率も高まります。

特に重要なのは、「失敗したこと」ではなく「なぜそうなったのか」「次はどうするか」を評価することです。社員が「失敗しても大丈夫」と思える環境が整うことで挑戦の質が上がり、結果的にプロセス評価が生きたものになります。

プレシャスパートナーズの制度は“活躍の再現性”をつくるためにある

プレシャスパートナーズでは、社員一人ひとりが主体的に成長し、貢献できる環境を整えることを目的に、制度の設計にもこだわっています。制度導入の本質は、仕組みを整えることではなく、「活躍のプロセスを支え、再現性を高めること」です。

制度①:立候補制の昇進試験

昇進は、上司の推薦ではなく“立候補制”。「次の役割に挑戦したい」「もっと大きな責任を担いたい」と自ら手を挙げた社員に、公平にチャンスを提供しています。

試験では数字だけでなく、

  • 理念の理解
  • マネジメントに対する考え方
  • 会社への貢献の意志

といった点を重視します。「評価されたから昇進する」のではなく、「自分のキャリアを自分で選び取る」姿勢を大切にしているのです。

制度②:ジョブローテーション

営業→人事、営業→キャリアアドバイザーなど、異なる職種への異動も積極的に行っています。

ジョブローテーションは、単なる配置転換ではありません。

  • 社員の適性
  • 社員自身が「どう貢献したいか」という意思

これらを掛け合わせ、最も力を発揮できる配置を見極める制度です。

職種横断の経験を通じて社員は多角的な視点を身に付け、自らの強みを再発見し、会社への理解も深まります。“プロセスを評価する文化”と相性の良い制度だからこそ、活躍の再現性が高まり、キャリアの幅も広がっていきます。

まとめ

プレシャスパートナーズの人材育成の根底にあるのは、「誰と働くか」という理念です。社員一人ひとりが「何のために働くのか」を自覚し、仲間と共に成長し続ける。その姿勢こそが、組織を持続的に強くする力になります。

“結果を出すこと”は大切ですが、それはゴールではなく“次の貢献を生むための通過点”です。結果の裏側にあるプロセスを評価し、貢献の連鎖が起こる文化をつくることで、人は成長し、組織は強くなります。

社員一人ひとりが「成長→挑戦→貢献」の循環を実現したとき、企業は“人が育ち続ける会社”へと進化します。私たちはそのための環境づくりに、これからも真剣に取り組んでいきます。

「AIが求人を提案する」時代へ ──求職者調査が示す「3つの9割」と、採用担当が今すべき準備

スカウトメールを送っても返信率は下がる一方。求人媒体に出稿しても応募が伸び悩む。人材紹介経由でも、欲しい人材になかなか出会えない。多くの採用担当者が、日々の業務でこうした手応えの乏しさを感じているのではないでしょうか。

なぜ、従来のやり方では成果が出にくくなっているのか。本稿では、私たちOurStoryが2026年4月に実施した独自調査で見えた求職者側の実態と、米国Indeedで公開された最新データが示す「探す」から「提案される」への変化、そして日本でも広がるAI活用の現状を踏まえ、これからの時代に採用担当者が取り組めることを整理してみたいと思います。

執筆者渡部 雄大(わたなべ ゆうだい)株式会社OurStory 代表取締役 CEO

東京大学卒業後、エムティーアイを経てリブセンスに参画。「就活会議」を立ち上げから事業譲渡まで完遂し、「転職会議」の事業責任者として事業再生を牽引。その後Beatrustに参画し、生成AIで人と情報をつなぐプロダクト開発に取り組むなど、COOとして経営全般を統括。2025年6月に株式会社OurStoryを創業。採用市場の構造課題に向き合い続けた経験と、生成AIを活用したマッチングに取り組んだ経験を活かして、AI転職エージェント「PREVIO」を開発。特許第7825249号取得済み。

1. 多くの採用担当者が直面している現実

採用担当者の方々とお話しさせていただくと、共通して聞こえてくる声があります。

「スカウトの返信率がここ数年でじりじり下がっている」
「媒体出稿の費用は増えているのに、欲しい層からの応募は減っている」
「エージェント経由でも、本当に欲しい人材になかなか出会えない」
「他にやれることは、正直見当たらない」

多くの採用担当者は、限られた予算と時間の中で、成果につながる採用を作り続けなければなりません。

やり方は正しいはず。なのに、年々成果が出にくくなっている。この感覚は、決して個人のスキル不足や努力不足の問題ではないと考えています。

従来のやり方で成果が出にくくなっている背景には、求職者側の体験に、既存の採用手法の前提が合わなくなっている実態があります。その実態を、まず数字で見ていきます。

2. 求職者側で起きている「3つの9割」

転職活動には、大きく3つの場面があります。スカウトを受け取る場面自分で求人サイトを検索する場面、そして応募・面接に進む場面です。

株式会社OurStoryが2026年4月に実施した調査(過去3年以内に転職活動を経験した23〜49歳の正社員、n=500、インターネット調査)では、この3つの場面それぞれにおいて、転職経験者の約9割が何らかの「不」を経験していることが明らかになりました。

①:スカウトの89.0%が「明らかに的外れ」

過去3年以内に転職活動を経験した500名のうち、89.0%が「明らかに的外れ」と感じるスカウトを受けた経験があると回答しています。

その内容は、希望していない業界・業種のスカウトが来た(45.0%)、明らかに自分の経歴を読まずに送られたと感じた(43.0%)、自分のスキルや経験と全く関係ない職種のスカウトが来た(31.4%)(※複数回答)。

いずれも「採用したい人物像と、実際にスカウトが届いている対象がズレている」現実を示しています。

②:転職サイトでの自力検索、87.2%が「徒労感」

転職経験者の87.2%が、転職サイトで自力で求人を検索する際に何らかの「徒労感」を経験しています。

具体的には、検索結果の多くが「自分には合わない」と感じた(49.0%)、応募したい求人を見つけるまでに想像以上に多くの求人を見る必要があった(44.6%)、同じ求人が何度も検索結果に出てくることに不満を感じた(25.6%)(※複数回答)といった内容です。

③:応募・面接後、88.4%が「ギャップ」を経験

応募・面接に進んだ転職経験者の88.4%が、求人情報から想像していた内容と実態との間に何らかのギャップを経験しています。

最も多いのは「求人情報には書かれていなかった条件(残業・出張等)が判明した」が57.4%、次いで「業務内容やポジションが、求人情報から想像していたものと違った」が38.0%、「社風や働き方が、想像していたものと違った」が20.0%(※複数回答)でした。

このギャップは、選考途中の辞退や入社後の早期離職として表面化します。採用担当者にとっては、選考の歩留まり悪化や、再募集による工数とコストの増大という形で、最終的に自社のコストに跳ね返ってくる問題です。

3つの9割が示すもの

この3つの9割は、それぞれ独立した問題ではなく、転職プロセスの各段階で共通して起きている課題だと捉えています。そして重要なのは、この問題が「誰かが悪い」から生まれているのではないということです。

スカウトを送る採用企業も、求人を掲載する媒体も、求人を扱う人材紹介会社も、それぞれが採用市場で合理的に動いてきた結果として、求職者側に「不」が積み上がっている。採用市場の構造が生んだ問題です。

今、生成AIの技術進化により、求職者側の行動が変化することによって、長らく変わってこなかった採用市場の構造問題に変化が生まれようとしています。

3. 「探す」から「提案される」へ──米国で進む変化と、求職者の代理人としてのAI

この変化が最もはっきり数字に現れているのが、米国のIndeedです。

OpenAIが2026年1月に公開したIndeed活用のケーススタディの中で、Indeed の Chief Revenue Officerである Maggie Hulce 氏は、次のように述べています。

「フラッグシップ製品であるスポンサー求人(Sponsored Jobs)では、現在応募の約70%がAIを活用した推薦から発生している」(※)。

つまり、有料求人広告への応募の大半が、求職者が能動的に検索してたどり着いたものではなく、AIによる求人提案を経由したものになっているということです。

このデータが示しているのは、求人選びの起点が「求職者が能動的に検索する」モデルから、「AIが求職者に提案する」モデルへと、米国市場ですでに大きく移行しているという事実です。

日本でも、この変化は徐々に生まれつつあります。私たちの調査では、生成AI(ChatGPT・Gemini・Claudeなど)をキャリアや転職目的で利用した経験を持つ人は、転職経験者のうち77.6%にのぼることが分かりました。約8割の求職者が、すでにAIを使ってキャリアを考え始めている時代になっています。

ただし、その先の「求人提案」までは至っていません。AIを利用して「自分にマッチする具体的な求人が見つかった」と回答したのは、わずか9.8%にとどまります。

これは、求人マッチングに特化したアルゴリズムを持たないためです。汎用的な生成AIは「キャリアを考える」支援としては機能していますが、「具体的な求人を発見する」支援までには至っていません。

こうした流れの中で、求職者の側に立ち、本人の代理としてキャリアの選択肢を探し続けるAIが必要とされ始めています。ダイレクトリクルーティングのように「企業が求職者を探す」のでも、求人サイトのように「求職者が自力で検索する」のでもない、求職者の志向と経験を起点とする第三のあり方です。

私たちOurStoryも、こうした問題意識から2026年5月12日にPREVIO(プレビオ)をリリースしました。

ユーザーにマッチした求人を提案するAI転職エージェント「PREVIO(プレビオ)」

PREVIO(プレビオ)は、AI転職エージェントです。ユーザーの経験と志向性をAIが深く理解し、マッチする企業を瞬時に提案します。スカウトサービスで企業からのスカウトを待ったり、転職サイトで自分で求人を検索する必要はありません。

さらに、転職を決めていない段階からも利用できます。PREVIOに登録しておけば、AIが定期的に市場を調査し、キャリアの選択肢を継続的に届けてくれます。ユーザーの登録情報は、応募するまで企業に一切開示されない完全クローズド設計なため、安心して自分のキャリアに向き合うことができます。

日本では、転職する際に初めて自分のキャリアを真剣に考える人が多く、諸外国と比較してキャリア自立性や労働生産性の低さが指摘されています。転職する/しないにかかわらず、定期的にキャリアの選択肢に触れることで、自分のキャリアを主体的に考え、日々意欲的に業務に取り組む環境をつくるきっかけを提供できればと考えています。

実際に使い始めた利用者は、何が変わったか

PREVIOを使い始めた利用者からは、これまでの転職サービスとの体験の違いを語る声が寄せられています。

事業開発・コンサルティング領域で経験を積んできた30代のAさんは、まず登録体験から既存サービスとの違いを感じたと話します。

「職務経歴書をアップロードするだけでプロフィール情報の入力が完了し、志向性の候補もAIが提案してくれた。これまでの転職サービスにはなかった体験だった」

マッチングについても、次のように続けます。

「スカウトサービスは経歴とずれたテンプレート的な提案が多かったが、PREVIOは自分のスキルと志向性を踏まえて提案してくれるので、納得感が大きい」

そして、求人との「出会い方」の変化について、大企業での事業開発を経て現在はスタートアップでエンタープライズセールスを担当する40代のBさんは、次のように語ります。

「これまで求人サイトでは、自分にマッチしていると感じる企業になかなか出会えなかった。PREVIOではAIが自分に合った企業を一目で示してくれるので、応募までのフローも自然に進められた」

米国の数字、日本の調査データ、そして実際に使い始めた利用者の体験――これらが指し示しているのは、求人選びの起点が「探す」から「提案される」へとシフトしていく流れが、もはや「来るかもしれない未来」ではなく、すでに始まっている現実だということです。

4. AIに選ばれる企業になるための、採用担当ができる3つの準備

求職者が「求人を自分で探す」のではなく「AIから提案された求人を見る」時代において、企業の採用担当者ができることは何か。

答えはシンプルです。採用ターゲットの候補者に対して、AIに自社を推薦してもらえる状況を作っておくこと。つまり「AIに選ばれる企業」になるための準備を、今から進めておくことです。

具体的な準備を3つ提示します。

① 採用したい人物像の解像度を上げる

AIがマッチングをおこなう以上、企業側の「欲しい人材像」の情報が、AIが深く理解できる解像度で構造化されている必要があります。「コミュニケーション能力が高い人」「主体性のある人」といった抽象的な言葉では、AIが文脈を深く捉えきれません。

抽象的な資質を、検証可能な経験の記述で記載する。例えば、以下のような書き方です。

【例】
抽象的な記述 具体的な記述
コミュニケーション能力が高い人 立場や利害の異なる関係者の間に立ち、双方の論点を整理しながら、合意形成を進めた経験がある人
主体性のある人 前例のない課題に対して、自分で論点を整理し、関係者を巻き込んで解決まで進めた経験がある人
リーダーシップがある人 役職や権限のない状況でも、複数の関係者を動かしてプロジェクトを推進し、目標達成まで完遂した経験がある人
マネジメント経験のある人 5名以上のチームを率い、目標設計・評価・1on1・採用を主担当として行った経験がある

「資質を表す単語」ではなく「その資質が発揮された具体的な行動・経験の記述」を記載することが重要です。前者はAIにとって解釈の幅が大きすぎる抽象表現ですが、後者は求職者の経歴情報とより精緻に照合できる具体情報になります。

こうした行動・経験ベースの記述に加えて、志向性(成長志向か安定志向か、0→1か1→10か、など)や価値観も、同じ解像度で言語化していくことが理想です。

「うちはこういう人と働きたい」を、具体的な行動例やエピソードで語れる状態にすること。これが、求める人物像の解像度を上げる第一歩になります。 

② 自社の魅力を言語化する

求人票の条件情報だけでは、AIは「貴社が候補者にとって魅力的かどうか」を判断できません。

問われるのは、「他社にはない自社の独自性」「働き続けたくなる文化」「実際の業務や働き方の質感」を言葉にすることです。

ここでも、抽象的な表現ではなく、具体的な記述に落とすことがポイントになります。例えば、以下のような記載です。

【例】
抽象的な記述 具体的な記述
風通しの良い社風 週1の全社定例で、経営会議で議論された論点と結論をその週のうちに全社員に共有している
成長できる環境 入社1年目から既存顧客への戦略提案を主担当として任せている
ワークライフバランスが良い コアタイムなしのフルフレックスで、平均残業は月15時間以内

社内では暗黙知になっているカルチャーや、入社してから初めて分かる魅力を、外から読める状態に書き出していく作業です。求人票に、自社の魅力が具体的に記載されているかが重要です。

③ 求人票や会社公式noteで継続的に発信する

AIは、参照元となる情報からその企業を理解します。つまり、AIに自社を正しく理解してもらうには、企業の発信総量と発信の質を継続的に高めていく必要があります。

求人票だけでなく、自社note・公式ブログ・社員インタビュー記事・採用関連の発信を蓄積していくことが、AIが自社の魅力を理解することにつながります。大手企業に資金力では劣る中小企業でも、コンテンツの発信量と質では十分に差別化できる領域です。

求人票や採用ページだけでなく、「うちの会社で働くとはどういうことか」を伝える複数のコンテンツが、Web上に蓄積されているか。これが、これからの採用の競争軸になっていきます。

結び

求人選びは確実に「探す」から「提案される」時代へと移りつつあります。

そしてAIが求職者に求人を提案するこの時代において最も問われるのは、企業が「AIに自社を正しく理解してもらえるだけの情報を、言語化し、発信しているか」ということです。

採用に関わる方々が日々向き合っている課題は、社内調整、限られた予算、競合企業との人材獲得競争など、決して少なくありません。本稿でお伝えした3つの準備も、すべてを一度に始めるのは現実的ではないでしょう。

それでも、まず求人票の一文を見直すところから、できる範囲で一歩を踏み出していくことが、これからの採用の差を生み出していくのだと、私たちは考えています。 

私たちもAI転職エージェント「PREVIO」を通じて、この変化を担う一翼でありたいと考えています。

  • 調査概要:株式会社OurStory調べ。23〜49歳の正社員(個人年収400万〜1,500万円)、有効回答数n=1,000、2026年4月実施、インターネット調査(Freeasy)。転職経験者パートはn=500(過去3年以内に転職活動を経験した正社員)を対象。
  • (※)米国Indeedの応募経路データの出典:OpenAI「How Indeed uses AI to help evolve the job search」(Maggie Hulce 氏(Indeed Chief Revenue Officer)コメント、2026年1月26日公開)。https://openai.com/index/indeed-maggie-hulce/

「良い候補者が来ない」を脱却する。 専門職採用を成功させる人事が実践している4つのこと

はじめまして。X Mile株式会社(以下:クロスマイル) 代表取締役CEOの野呂と申します。

執筆者野呂 寛之X Mile株式会社 代表取締役CEO

国際基督教大学(ICU)卒業後、Terra Motors株式会社のベトナム・カンボジア拠点にて海外駐在を経験。帰国後、FinTechスタートアップ・株式会社ペイミーの創業期に参画し、取締役COOとして事業拡大を牽引。2019年にX Mile株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。物流・建設・製造業などノンデスク産業の人材・組織課題を「HR」と「IT」の両面から解決するHRプラットフォーム「クロスワーク」および業界特化型の採用支援・経営支援SaaS「ロジポケ」等を展開し、ノンデスク産業のインフラ構築に取り組んでいる。

当社は、ノンデスク業界に特化したHRプラットフォーム「クロスワーク」を運営しており、これまで、特に採用難易度の高いとされる物流・建設・製造といった産業の人材支援に向き合ってきました。

これらの領域では、同じ職種でも求められる資格や要件が細かく異なります。たとえばドライバー職ひとつ取っても、扱う車両や業務内容によって必要な資格が変わり、求める人材像も大きく変わります。

人事の方の中には、ITエンジニアをはじめとする専門職採用に、難しさを感じている方は多いのではないでしょうか。

我々が複雑な前提の中で専門職採用を支援してきた経験は、他の専門職領域にも応用できるものだと感じています。本記事では、当社の現場のエージェントの経験も踏まえ、実際の採用現場で起きていることをまとめました。

専門職の採用に携わる方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

専門職採用がうまくいかないのは、「情報の非対称性」が原因?

「現場の要件が理解できない」
「給与水準が高すぎて経営層の承認が下りない」
「エージェントに求人票を渡しているのに、なかなか良い候補者が来ない」

こうした相談を、私たちのエージェントは日々受けています。

課題の根っこはどれも似ていて、現場・市場・経営層との間に生まれる「情報の非対称性」ではないかと思っています。情報が正しく流通していないことで、採用がうまく機能しなくなっているのではないでしょうか。

「自社で育てる時間がない」という状況では、採用は単なる人員補充ではありません。外部から技術と経験を獲得する「投資」として捉え直すことが、まず必要なのではないかと思っています。

では、専門職採用をうまく進めている人事担当者は、実際に何をしているのでしょうか。私たちが現場で感じている4つのポイントをお伝えします。

①「現場ヒアリング」を捨て、「現場理解」へ転換する

専門職採用でまず直面するのが、「採用像が定まらない」という壁です。担当人事がその職種の経験を持たない場合、特にこの課題は大きくなりがちです。

現場に「どんな人が欲しいですか?」と聞いても、返ってくるのは「経験者」「即戦力」「コミュニケーションが取れる人」という言葉が中心です。

これは現場の協力姿勢の問題ではないと思っています。「自分たちが当たり前にやっていること」を言語化すること自体が、難しいのではないでしょうか。

そこで有効なのが、成功・失敗の「事例ベース」で人物像を整理するアプローチです。

「これまでに採用した中で、活躍した方にはどんな共通点がありましたか?」
「逆に、うまくいかなかった方にはどんな特徴がありましたか?」

こうした問いかけをベースに現場の声を集めていくと、採用像に具体的な輪郭が生まれてきます。活躍・失敗の事例を伴った具体的な依頼ができると、エージェントも人事側が想定していなかった候補者を提案しやすくなります。

現場が抱える「負の連鎖」を把握しておくことも大切
専門職が不足している現場では、既存メンバーへの業務集中が起き、新人教育に割く余裕がなくなっています。
  • 即日から動ける人が必要なのか
  • 多少時間をかけて育てられる環境があるのか

この点を人事側が整理しておくだけで、エージェントへの依頼条件が格段に明確になります。

②「社内給与テーブル」ではなく「市場の決定価格」で条件設計する

採用像が定まったら、次は給与条件の設計です。

多くの企業は「社内の給与テーブル」を基準に条件を決めています。それ自体は自然な判断ですが、市場相場との乖離に気づきにくいという側面があります。市場より低い条件のまま募集を続けると、母集団が形成できずに時間だけが過ぎていく——。私たちのエージェントも、そうした場面をよく目にしています。

専門職採用においては、「社内論理」ではなく「市場の決定価格」を起点に条件を組み立てることが、採用の成否を左右するのではないでしょうか。

市場相場を把握する手段としては、主に以下が挙げられます。

  • 求人媒体(Indeed・dodaなど)に掲載されている類似職種の給与帯を調査する
  • エージェントに直近の「内定実績」「求職者の希望年収帯」を直接ヒアリングする
  • 同業他社の求人票を複数比較し、条件の分布を把握する

中でも、エージェントへの直接ヒアリングは特に有効だと感じています。今どの年代が転職市場に出ているか、どの年収帯の候補者が実際に動いているか。こうしたリアルタイムの情報を、人事側から積極的に引き出していただけると、提案の精度も上がります。

また、候補者の希望年収と自社の提示額にギャップがある場合は、上限をエージェントに正直に伝えていただくことをお勧めしたいです。「もしかしたら増額できるかも」という曖昧な状態で進めると、条件が合わない候補者の選考に時間を使うことになりかねません。

現実の上限を共有していただくことで、条件に合致した候補者に絞った提案ができ、結果的に採用が早まることが多いと感じています。

③経営層を動かす「ROI」のロジックを持つ

給与水準の引き上げや採用エージェントの活用を提案しても、「高すぎる」「費用対効果が悪い」と経営層に却下される——。こうした場面に直面している人事担当者の方は、多いのではないでしょうか。

根本には、見ている景色の違いがあるのではないかと思っています。

経営層は「人」を見ながら、同時に「売上や各種経費を含めた経営全体のバランス」も見ています。一方、人事は「この人が入ることで現場がどう変わるか」という具体的なイメージを持っています。

どちらの視点も正しく、対立ではなく、見えている情報量の差から生まれるすれ違いではないでしょうか。

それを踏まえ、経営層に伝わりやすいのは、「採用にかかるコスト」ではなく「採用できなかった場合のコスト」を数値で示すアプローチではないでしょうか。以下は、年収500万円の専門職1名を採用するケースの試算例です。

年収500万円の専門職1名を採用するケースの試算例
採用できなかった場合のコスト 試算例
外注費(業務を外部委託している場合) 月50万円 × 12ヶ月 = 年600万円
既存メンバーの残業代増加分 月5万円 × 3名 × 12ヶ月 = 年180万円
機会損失合計 年780万円

採用にかかる初年度の投資は、年収500万円+エージェントフィー約175万円で合計約675万円です。採用しないほうが年間100万円以上コスト高になる——という構図が見えてきます。

自社の数字に置き換えてこの試算を経営層に示すことで、「採用費は経費」という認識を「採用しないことこそリスク」へと転換できるかもしれません。

④エージェントへの情報共有が、人事の工数を減らす

エージェント活用において、私たちが最も動きやすくなるのは「社内の情報をオープンに共有してもらえること」です。情報共有が不十分なまま進めると、ミスマッチな候補者の選考対応に時間を取られたり、選考が長期化して候補者の意向が下がったりしがちです。
具体的に共有いただくと助かる情報としては、たとえばこんなものがあります。

  • 採用予定ポジションの上長が40代で、それより年下かつ経験豊富な人材が必要だが、連携が取れる配慮のある方を求めている
  • 年収の上限は◯◯万円であり、それ以上の提示は現実的に難しい
  • 書類選考の返答に3日かかっているのは、担当者のリソース不足によるもの

「取り繕わなければ」と感じる必要はないと思っています。こうした情報を共有いただくほど、的確な候補者に絞った提案ができ、人事側が選考対応に割く時間も自然と減っていきます。

面接後の評価・懸念点も、具体的に伝えていただけると助かります。「何となく気になる点がある」ではなく、「具体的にどの点が課題だったか」を共有していただくことで、次回の推薦精度が上がり、選考サイクルが短縮されていきます。

複数候補者の並行選考についても、状況を事前に共有いただけると、連絡タイミングや伝え方をあらかじめすり合わせることができます。

まとめ

ポイント 内容 次のアクション
①現場理解 事例ベースの人物像棚卸しと「負の連鎖」の可視化 現場に「活躍した人・しなかった人」を聞いてみる
②条件設計 市場データを起点にした給与水準の設定 エージェントに直近の内定実績を確認する
③経営層への提案 「採用しない場合のコスト」を数値化して示す 自社の数字でROI試算を作ってみる
④エージェント活用 社内情報をオープンに共有し、採用効率を上げる 次回の打ち合わせで「ぶっちゃけ話」を一つ共有する

専門職採用は難易度が高いとされますが、これらのポイントを実践することで、再現性のある採用の仕組みをつくることは十分に可能ではないかと思っています。

クロスマイルでは、建設・物流・製造をはじめとするノンデスク産業の採用・定着・生産性向上を支援しています。専門職採用に課題をお持ちの人事・経営者の方々にとって、本記事が少しでも実務の参考になれば幸いです。

国際会議・展示会を強力な人材育成施策にする方法|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

最近の受講者は、集合研修から大きいインパクトを求める傾向にあるようです。一方通行になりがちなリモート研修では満足せず、従来の対面研修ではインパクトが足りません。

そこで強くおすすめしたいのが、外部のイベント、特に国際会議や展示会を人材育成施策につなげることです。そう簡単ではないでしょうが、インパクトは非常に大きく貴重な経験になりますし、ビジネスに直結するので成果も大きくなります。

今回は、海外イベントの長所と短所、成功に導くための具体的なヒントをご紹介します。

海外イベントを人材育成施策にする長所と短所

海外イベントを使った人材育成施策の最大の利点は、以下のとおりです。

利点 コメント
強いインパクト 大規模なイベントは世界中のスピーカーセッションと数百社程度の展示ブースがあるため、たった数日間で業界全体のトレンド、ベストプラクティス、製品と動向が把握できる
視野を広げる 普段ふれる機会のないグローバルスピーカー、人脈、製品と接することによって一気に視野が広がる
ヒューマンスキルの強化 数多くの人間とコミュニケーションをとることによって、ヒューマンスキルが高まる。これはAI時代には特に大切な機会となる
グローバルスキルの訓練 数多くの文化的な背景の異なる外国人と英語でコミュニケーションをとることによって、密度の濃いグローバルスキルの訓練になる。話す内容も業務に近いため、国内の語学研修よりはるかに実践的である

利点が多い一方、以下のような弱点もあります。

強い語学力が求められる

従来の一番の問題は英語力でした。ネイティブスピードのセッションについていくのは難しく、展示会で英語ができないと各ブースで何も話せません。ただ、幸いなことにこの問題はAIのおかげで解決できます。やっと今年その感触を得ました(そのため、このコラムを書いています)。

例として、先週参加したグローバルの人材育成関連イベントではすべてのセッションにAIの同時翻訳が付いており、正確性は8割以上で理解するには十分でした。

展示会での会話に関しては、AIを使う手もありますが、話すことはだいたい決まっているので事前の訓練でおおむね身につけることができます。従って、語学力は海外イベントに参加できない言い訳にはもうなりません。

高額な費用

もう一つの大きな懸念点です。イベントの参加費はそれほど高くありませんが、最近は航空券とホテル代が高騰しています。

これに関しては、費用対効果を考えてみましょう。現地で得られた情報を広く共有して、展示会で出合った企業と実際にビジネスを行えば、良い投資効果が出ます。

少なくとも、国内のみの集合研修よりもビジネスチャンスにつなげられる確率は高まります。

成功ポイント

海外のイベントを人材育成のために最大限活かすには、しっかりした計画が必要です。ここで必要な要素は以下のとおりです。

タイミング ヒント
イベント前
  • イベントに向けて必要なコミュニケーションスキルを身につける
  • 準備をしっかり行う
イベント中
  • セッションに積極的に参加して、必ずアウトプットをする
  • 展示会の全ブースに声をかけてヒアリングをする
  • 得られた情報と学びを毎日タイムリーにまとめて報告する
イベント後
  • 膨大な情報量をまとめて実行計画につなげる

タイミングごとの詳細は下記のとおりです。

イベント前

イベントに向けて受講者のモチベーションがとても高くなるので、その高いモチベーションを使って密度の濃い事前研修を行いましょう。特に効果的な研修内容は、コミュニケーションスキル、グローバルスキル、業界の関連知識です。

それ以外に必要な要素は、イベント中の具体的な動きの確認と共有です。おすすめのスタイルは、受講者全員に対するイベントの事前オリエンテーションと、受講者一人ずつに対する個別セッションディスカッションです。

イベントの規模や内容にもよりますが、オリエンテーション@90〜120分、個別ディスカッション@60〜90分 ×2回が定番です。

イベント中

受講者の集中力とモチベーションをさらに高めるためには、毎日最初と最後に受講者全員で話し合う時間を設けると良いです。また、一人だけでセッション参加や展示会回りをすると負担に感じてモチベーションが下がる可能性があるので、基本的に2人ペアで動いてもらうようにしましょう。

セッションの解説中は、AI翻訳を使いながら内容をしっかり把握するよう努めます。受け身で聞くだけではなく、必ず各セッションで隣に座っている人に声をかけて話し合うことも義務にしたほうが良いです。

セッション後は必ずセッションスピーカーのところに行って、質問して写真を一緒に撮るようにすれば、大変充実したセッション体験になります。

展示会参加で大切なことは、できるだけ数多くのブースの人と直接話すこと、チームごとに分かれてブースに迷惑をかけないことです。そのため、展示会フロアをゾーンに分けて各チームの回る範囲と順番を決めます。最終的に全チームが全ブースを回れることが理想です。

各ブースでは最低限、名刺交換と数分立ち話をします。話す内容は、自社とニーズの紹介と出店企業の製品、特徴、新しい動きなどが代表的なものです。数少ない限られたブースで長めに話すより、短めでも数多くのブースで話したほうが反復練習になり成果も上がります。

毎日の最後に話す際に、2人チームの参加したセッションの数、セッションスピーカーの写真、ブースで話した人数などをゲーム感覚で報告し合うと、受講者のモチベーションアップにつながります。

また、日ごとの情報量が多く、タイムリーにまとめないと消化不良になるので、文字と短い映像の報告を毎晩すると良いでしょう。

報告の内容はシンプルに、やったこと、気づいた・学んだこと、仕事に活かしたいことなどです。

イベント後

海外イベントのインパクトは強烈なので、職場に戻るとどうしてもテンションもモチベーションも下がります。せっかくの海外に行った経験をうまく行動につなげるためには、帰国直後に報告会を開くことをおすすめします。

帰国したその週がベストで、遅くても2週間以内に行いましょう。報告会の目的は、各受講者に得られた内容についてしっかり考える、分かりやすくまとめる、次のアクションにつなげるようにすることです。

代表的な発表のイメージは、

  • 発表者:1人ずつ
  • 発表時間:5~10分
  • 聴衆:受講者の上司、同僚、一部の経営者
  • 発表内容:成果、取り組み、気づき、次のステップ

加えて、報告会を「報告しっぱなしセレモニー」にしないために、1・2・3カ月後に職場実践につながっているかを継続してヒアリングすると効果的です。

クロージング

国際会議や展示会のような海外イベントは、非常に良い人材育成の機会です。ただし、最大限の価値を得られるようにするためには、しっかりしたプランニングとフォローが必要です。

今回紹介したヒントを参考にしながら、ぜひ業界内のグローバルイベントに挑戦してみてください。

人的資本経営を実現する事業・組織の『複眼設計』

はじめまして。Leaf Ringの安藤です。

執筆者安藤 宏樹Leaf Ring株式会社 取締役CHRO

大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻を卒業後、2014年に新卒で株式会社Speeeに入社し、マーケター、営業、人事等幅広い職種を経験し、2019年にキャディ株式会社に参画。HR部門を立ち上げ、年間100名を超える採用を実現。2021年に執行役員としてLeaf Ring株式会社に参画。脱炭素領域専門の転職支援・採用支援サービス「Beluga Career」の事業開発、採用、組織開発、マネジメントに従事。創業期のトップライン成長を牽引するとともに、そこで培った成果創出のノウハウを独自の『トレーニングプログラム』へと昇華させ、組織全体の能力開発を牽引。

私はこれまで、Speeeやキャディといった急成長フェーズのベンチャー企業で、人事・営業・事業開発と多角的に事業に関わり、またエージェント事業を通じて数多の「働く個人」のキャリアに向き合ってきました。

その中で直面してきたのは、個人のキャリアが「会社や事業の都合」によって規定されてしまうという、逃れられない構造上の問題です。

人事が抱える「構造上の歯がゆさ」
大企業のケース 再現性の高い組織が重要であり、個人のWillよりも細分化された業務を正しく実行する、組織の「歯車」としての役割を求められることが多い。
スタートアップのケース 「事業成長こそが正義」であり、人員不足による高負荷な環境下でマネジメントが後回しになる。キャリアよりも目の前の事業貢献を優先し、盲目的に走らざるを得ないことが多い。

結果として、多くの優秀な人材が「この会社で自己実現を目指すのは難しい」と判断し、離職を選んでしまう。仮に事業部変更等の配置転換を行ったとしても、この構造上の課題が変わらない限り、本質的な解決は望めないため、近い将来の離職を避けることは難しいです。

Leaf Ringが提示する「自己実現を尊重する」組織デザイン

Leaf Ringでは、メンバー一人ひとりの強みやWillに基づいた「オーダーメイド型のキャリア開発」を徹底しています。

具体的には、本人が目指す将来のキャリアについて対話を重ねた上で、必要な能力開発を言語化。日々の業務がそのゴールにどう繋がっているのかという「意義付け」と「成長サイクル」を丁寧に回します。

さらに、将来のキャリアから逆算した新しい業務(事業企画、組織開発、マネジメント等)に、無理のない範囲で段階的に挑戦する機会を提供しています。

その結果、メンバーのキャリアは非常に多様化しており、単なるHRコンサルタントに留まらず、着実に「自分のやりたいこと」の業務比率が高まり、より能動的に業務に取り組めています。

メンバーが能動的に成長すれば、当然ながら事業も成長します。その果実を給与として還元し、さらに大きな機会を創出する。この「正のループ」を回すことで、個人の自己実現と事業成長を高い次元で両立させています。

あえて「上場を目指さない」

こうした「一人ひとりに向き合うオーダーメイド型」の組織運営を語ると、多くの場合「理想論だ」「スケールしない」という声が上がります。

しかし、私たちがこれを実現できているのは、「あえて上場を目指さない」という明確な経営方針があるからです。

上場を選択した場合、企業は株主や投資家に対して利益の最大化・短期間での急成長をコミットしなければなりません。

人材紹介事業であれば「一人あたりの売上高の最大化」や「システマチックな組織拡大」が最優先事項となり、再現性を高めるために個人のキャリアは「型」に嵌められ、効率化の対象となります。そこでは、一人ひとりのWillに向き合うスタイルは合理性を欠くと判断されがちです。

だからこそ、当社は自己資本経営を貫いています。外部からの数字のプレッシャーに晒されるのではなく、自分たちのペースで着実な事業成長と厳選採用を行い、多少非効率であったとしてもメンバーの成長に投資する。

「社員が豊かに働き、成長することこそが、中長期的に最大の事業成果をもたらす」

この人的資本経営の本質を、私たちは資本政策のレベルから担保しています。

取締役CHROが担うべき「真のオーナーシップ」

この取り組みを単なる理想論で終わらせないために、私は2026年4月、取締役CHROに就任しました。

一般的にCHROといえば、「経営陣が決めた事業計画を、組織面で着地させる実行責任者」としての役割が大きいと思いますが、Leaf RingにおけるCHROの役割は、その一段手前にあります。

事業・組織の『複眼設計』から、人的資本経営を実現する

私が目指すのは、事業戦略と個人のWillを高い解像度で同期させる、「事業・組織の複眼設計」です。

事業目線⇔組織目線
事業目線 「中長期の事業計画を見据え、いつ、どのようなケイパビリティを持つチームが必要になるか」というトップダウンの組織図
組織目線 「メンバー一人ひとりが中長期でどう成長し、どのような役割に挑戦したいと考えているか」というボトムアップの組織図

本来であれば相反しがちな2つの組織図を常に描き、双方を高い次元で統合し、デザインするのが私のミッションです。そのために、以下のようなディスカッションを日々行っています。

  • 「メンバーAのマネジメント挑戦」を軸にした設計
    彼が最もリーダーシップを発揮し、かつ事業成長に寄与できる最適なチーム構成はどのような形か?
  • 「新領域への進出」を軸にした能力開発
    未経験の領域だが、メンバーBのWillとポテンシャルを活かすなら、あとどの期間、どんな伴走支援(能力開発)を行えば任せられるか?
  • 「成長速度」を軸にした事業始動
    メンバーCの現在の成長曲線から逆算すると、このタイミングで新規事業を立ち上げるのがベストではないか。始動時期をそこに合わせよう。

既存の「箱」に人を当てはめるのではなく、「人の成長」という変数を事業戦略の起点に置くことで、新しいロールを設置したり、チーム編成やマネジメント構成を柔軟かつ大胆に動かしています。

創業期から事業のトップラインを伸ばしてきた経験と、HRのドメインナレッジを総動員し、事業と組織の双方を「オーナー」として担う。事業と組織を高い頻度で行き来しながら、メンバーの成長支援を事業戦略に直接組み込んでいく。

これこそが、中長期でやりがいを持って働き続けられる組織デザインの本質だと考えています。

これからのCHROに必要な「事業解像度」

では、これからの時代、CHROにはどのような要件が求められるのでしょうか。

私は、「圧倒的な事業解像度の高さ」に尽きると考えています。人事として採用や組織開発の「型」を回しているだけでは、本当の意味で事業と組織を接続することはできません。

  • 当該事業において、リーダーやマネージャー、ストラテジスト等の役割を担うためにはどんな能力が必要か、具体業務を踏まえて言語化
  • メンバーの能力開発状況を踏まえ、どこにフォーカスして能力を伸ばすべきか、マネージャーとのディスカッション
  • 現在の事業状況やマネジメントキャパシティを踏まえた、採用要件の定期的な見直し

こうした具体の解像度は、自身が事業の現場に立ち、泥臭く課題に向き合ってきた経験からしか得られません。

私は創業期から事業開発とマネジメントに関わり続けてきたことで、まさにこの「接続の解像度」を磨いてきたからこそ、主体的に関わることができていると思います。

今後の展望:仕組み化と高度化

取締役CHROとして、私が今後さらに加速させていきたいことは3つあります。これらはすべて、個人のWillと事業成長を同期させる「複眼設計」を、組織全体で再現可能にするための挑戦です。

① 中長期のWillと「日々の手触り」の接続

キャリア面談で言語化した「将来のWill」を、単なる絵餅に終わらせないことが重要です。

その大きな目標を、年度・月次・週次の個人目標(短期目標)へと、いかに高い解像度で落とし込めるか。

「今日この業務を完遂することが、自分の理想にどう近づいているのか」という実感を、全てのメンバーが日常的に得られる仕組みをさらに磨き上げます。

② 最新テックを活用した「自律型成長」のブースト

オーダーメイド型の育成は、本来極めてコストの高い営みです。これを効率化ではなく「高度化」させるために、テクノロジーを積極的に取り入れます。

例えば、NotebookLMなどのAIを活用した1on1の内省サイクル。過去の対話ログをAIが構造化し、本人も気づいていない強みの萌芽や思考の癖を可視化することで、マネジャーとの対話を「報告」から「質の高い未来の壁打ち」へと昇華させ、自律的な成長を加速させます。

③ 「複眼設計」を担う高度なマネジメント層の育成

組織が拡大するにつれ、CHRO一人で全ての複眼設計を行うことには限界が来ます。そこで最も重要になるのが、現場でメンバーと向き合うマネージャーの育成です。

単なる進捗管理ではなく、事業の伸び代とメンバーのWillを掛け合わせ、能動的な機会提供を行える「高度なマネジメント力」を持ったリーダーを育て上げる。彼らが「複眼設計」の体現者となることで、Leaf Ring独自の組織文化を、より強固でスケール可能なものへと進化させていきます。

最後に

「未来の子供達が環境問題に不安を感じない社会」という壮大なビジョンの実現に向け、私たちは、義務感で働く組織ではなく、「自分の人生の手綱を自分で握り、楽しみながら成長を続ける個人」の集合体で挑みたいと考えています。

個人と組織の新しい関係性、それをLeaf Ringで実現したいと思います。

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

前回は、労働人口減少や営業職の採用難を背景に、従来の「人に依存した営業モデル」が限界を迎えていることについてお話ししました。

分業化やBPO、SFA/CRMなどの活用は進んでいるものの、それだけで営業組織の課題が解決するわけではありません。今起きている問題は、単なるリソース不足ではなく、営業組織そのものの設計が、生産年齢人口の減少が続くこの時代に合わなくなってきていることにあります。

その中で、AI活用に期待を寄せる企業は増えています。ただ、AIを導入したこと自体が、必ずしも営業組織の変化につながるわけではありません。

必要なのは、AIを新たなツールとして追加することではなく、AI前提で営業組織のあり方そのものを見直すことです。今回は、その考え方について掘り下げていきます。

寄稿者大矢 剛大株式会社SaleSeed 代表取締役社長

名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。

単にAIを導入しただけでは、営業組織が変わらない理由

多くの企業では、AI活用が「点」で行われています。

  • 商談後の要約を作る
  • メール文面を考える
  • 提案資料のたたき台をつくる
  • 顧客情報を調べる

どれも現場にとって便利であり、個人の作業時間を短縮する効果もあります。

ですが、それらはあくまで既存業務の一部を効率化しているにすぎません。営業組織全体の成果の出方や、役割分担の構造までは変えていないのです。

その結果、よく起こっているのが「AIを使う人だけが少し楽になる」という状態です。使いこなせる人は生産性を上げられる一方で、使い慣れていない人は従来通りのやり方を続ける。組織として見れば、仕事の流れも評価の仕方もマネジメントの構造も変わっていないため、再現性ある成果にはつながりにくくなります。これでは、AIは「便利な個人技の補助」で止まってしまいます。

本質的な問題は、営業プロセスと役割分担の設計が、AIの存在を前提に見直されていないことです。誰が何を担い、どこで情報を集め、どこで仮説を立て、どこで判断するのか。この基本設計が変わらない限り、どれだけ新しいツールを導入しても、営業組織そのものは変わりません。

AI導入が広がっている今、問われているのは「どのツールを入れるか」ではなく、「営業活動のどこを見直すか」です。個別業務の効率化だけでなく、営業活動全体の流れを捉え直し、その中で人とAIの役割を組み替えていくことが必要になっています。

営業組織を「AI前提で再設計する」

では、「人とAIの役割を組み替えていく」とは、どういうことなのでしょうか。私はそれを、営業組織の役割分担や業務の流れ、組織の動き方そのものを、AI(AI Transformation)前提で再設計することだと考えています。AIを単なるツールとして導入するのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、組織全体の仕組みを見直していく考え方です。

DXが業務のデジタル化や可視化、効率化を進める考え方だとすれば、AXはその先にあるものです。単に業務をデジタルに置き換えるのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、人の役割や組織の動き方そのものを見直していく。つまり、現場で実際に機能する体制まで含めて設計し直す発想です。

営業組織の成果を左右するのは、目に見える人員数だけではありません。誰が何を担うのか。どこで情報が生まれ、どこで判断が行われ、どこにナレッジが蓄積されるのか。こうした基本的な仕組みが、営業組織の強さを決めています。

これまでの営業組織は、人を中心に設計されてきました。採用し、育成し、現場で経験を積みながら成果を出していく。人が増えることを前提に、組織を回してきたのです。

しかし、今はその前提自体が崩れています。人が足りないことが前提であり、しかも市場は複雑化し、顧客接点も多様化している。こうした時代に、正社員の人数だけで営業組織を組み立てようとするのは無理があります。

これからは、人に加えてAIや外部機能も含めて、「どう組織を設計するか」を考えなければなりません。

営業組織を支える外部機能には、BPOのような外部人材の活用も含まれます。重要なのは、BPOを単なる人手不足の穴埋めとして使うのではなく、AIと同じく営業プロセス全体の中で役割を持たせ、仕組みとして組み込むことです。人・AI・外部人材をどう配置するかまで含めて設計してこそ、これからの営業組織は機能します。

AXで見直すべきなのは、個別業務ではなく、営業活動全体の流れです。

たとえば、どこで情報を集めるのか、どこで仮説をつくるのか、どこで案件を前に進めるのか、どこでマネジメントが介在するのか。こうした一連の構造をAI前提で引き直していくことが、これからの営業組織には必要です。

営業組織の競争力は、人数だけではなく、役割の置き方で決まる時代に入っているのです。

AIを「仮想の部下(同僚)」として組織図に組み込む

AXを考えるうえで重要なのは、AIを「ツール」として見るだけでは不十分だということです。むしろ、AIは役割を持った存在、言い換えれば「仮想の部下」や「同僚」として見たほうが、営業組織の設計はしやすくなります。

たとえば営業担当者のまわりには、本来かなり多くの前後工程があります。

  • 顧客情報を集める
  • 業界動向を調べる
  • 仮説を立てる
  • 商談内容を整理する
  • 次回アクションを洗い出す
  • 関係者向けに共有する

これまでは、それらを営業担当者本人がすべて抱え込むことが当たり前になっていました。しかし、その前提こそが、現場の疲弊や属人化を生み、育成の難しさにもつながっていたのだと思います。

ここにAIを組み込むと、発想が変わります。

  • 情報収集を担うAI
  • 仮説のたたき台をつくるAI
  • 商談の要点を整理するAI
  • 比較検討材料をまとめるAI
  • 次の打ち手を提示するAI

こうした「仮想人材」が営業担当者の周辺に配置されている状態をイメージすると、営業担当者はすべてを一人で背負う必要がなくなります。人は、人にしかできない仕事により集中できるようになります。

また、AIは営業担当者の「部下」のような存在としてだけでなく、部門をまたいで連携を支える「同僚」のような役割も果たせます。

  • マーケティングから渡ってくる情報を整理する
  • カスタマーサクセスへの引き継ぎ情報を整える
  • マネージャー向けのレポートをまとめる

こうした横断的な接続部分にAIが入ることで、部署間の情報断絶を減らし、組織としての再現性を高めることができます。

AIは営業担当者の隣に置く便利な機能ではありません。準備や整理を担う「仮想の部下(同僚)」として組織に組み込んだとき、はじめて営業組織の生産性を変える存在になります

これから問われるのは、「AIに任せる領域」と「人が担う領域」の境界線

ただし、AIを組み込めばそれでよいわけではありません。ここで本当に重要になるのが、何をAIに任せ、何を人が担うのかという境界線です。

AIは、情報を集める、整理する、比較する、要約する、仮説のたたき台をつくるといった領域で高い力を発揮します。一方で、顧客との信頼関係の構築や感情の機微を汲み取ること、複数の利害関係者の合意形成、最後の意思決定を支えることには、人の役割が大きく残ります。

重要なのは、AIに寄せすぎることでも、人に残しすぎることでもありません。営業組織の成果は、この境界線をどう設計するかで大きく変わります。

次回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その境界線についてさらに掘り下げていきます。

第1回:「やりがいがない」で辞める若手。2つの価値観タイプと離職意思の関係

「最近の若手はすぐ辞めてしまう」「何を考えているのかわからない」——こんな言葉を、職場でつぶやいたことはありませんか。

若手の離職は、採用・育成コストの観点からも企業にとって深刻な課題です。しかし、辞める若手の多くは、給与への不満や明確なキャリアビジョンを持っているわけではありません。

リクルートマネジメントソリューションズが2023年に実施した社会人3年目までの会社員を対象とした調査(N=435)では、未退職者の約6割が「会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しており、その理由の上位には「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)といった内発的な不満が挙がっています。

待遇を整えても、職場環境を改善しても、それだけでは若手の離職は防げません。問題の根っこには、「やりがい」や「仕事の意味」という個人の内側に根ざした部分があります。

この調査からは、「上司の適切なマネジメントが若手の離職意思を軽減できる」というエビデンスも得られています 。そして、そのマネジメントをより効果的にするカギが、「若手の価値観タイプを理解すること」です。

本連載では、若手社員の価値観を2つのタイプに分類し、それぞれに応じたマネジメントの実践方法を解説します。第1回となる今回は、2つの価値観タイプの特徴と離職意思の関係、そしてタイプを見極めるための具体的な質問例をご紹介します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員

2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

「働く目的」で分かれる2つのタイプ

調査では、若手社員の「働く目的」に関する価値観を、以下の大きく2つのタイプに分類して傾向を確認しています 。

若手社員の「働く目的」に関する価値観タイプ
A. 自己成長重視タイプ 仕事を通じて自分の力を高めることを優先するタイプです。市場価値の向上やスキルアップへの関心が高く、「今の会社でどれだけ成長できるか」を意識しています。組織に依存せず自律的に働くことを志向するため、現在の職場と外部環境を比較する傾向もあるでしょう。
B. 組織貢献重視タイプ 組織の中で役割を果たし、周囲やチームに貢献することに価値を見いだすタイプです。所属組織への愛着が強く、「チームや会社のために役立てているか」がモチベーションの源泉となります。

この2つのタイプの間には、離職意思の高さに差がありました。自己成長重視タイプほど離職意思が高く、組織貢献重視タイプほど低かったのです。

自己成長重視タイプは成長の手応えが感じられない状況に置かれると「ここにいる意味があるのか」という疑問が生まれやすい一方、組織貢献重視タイプはチームや会社への帰属意識が離職の抑止力として機能することが示唆されます。

また調査では、上司の以下3つのマネジメント行動が、価値観タイプにかかわらず離職防止に効果的であることも示されています。

  • 成長につながる業務アサイン:メンバーの特徴を理解し、成長につながる業務を割り当てること
  • 成長につながるフィードバック:振り返りや学びにつながる建設的なフィードバックを提供すること
  • キャリア支援:メンバーが仕事を通じて実現したいことや目指したい姿を一緒に考えること

さらに、同じマネジメントでも相手の価値観タイプによって響き方が異なることも明らかになっています。だからこそ、タイプを理解したうえでアプローチを調整することが重要です。

価値観タイプを知るための3つの質問

メンバーのタイプを見極めるには、1on1や面談での対話が最も有効です。以下の3つの質問を活用してみてください。

質問①「最近の仕事で、やりがいを感じたことはありますか?」

動機の源泉を探る質問です。自己成長重視タイプは「苦手だったことができるようになった」「できることが増えた」など自身の変化に喜びを感じる回答が返りやすく、組織貢献重視タイプは「チームで目標を達成できた」「先輩から『助かった』と言われた」など他者への貢献に喜びを感じる回答が多い傾向があります。

質問②「最近の仕事で、モヤモヤしたことはありますか?」

不満や不安の所在を探る質問で、離職リスクの早期察知にも役立ちます。自己成長重視タイプは「同じ作業の繰り返しで新しい挑戦ができていない」「このままで成長できているのか不安」といった成長停滞への不満が表れやすく、組織貢献重視タイプは「自分の仕事がチームにどう役立っているかが見えない」という貢献実感の薄さへの不安が出やすいです。

質問③「先輩の中で、『こんな風になりたい』と思う人はいますか?」

ロールモデルの選び方に価値観が色濃く反映されます。自己成長重視タイプは専門知識やスキルを持つ先輩を挙げる傾向があり、組織貢献重視タイプはチームから頼られ信頼されている先輩を理想とする回答が多くなります。

なお、価値観は固定されたものではありません。ライフステージや経験によって変化することもあり、どちらにも偏らない人もいます。「一度聞いたから分かった」ではなく、定期的な対話を通じて理解を深め続ける姿勢が大切です。

タイプ別、効果的なマネジメントの方向性

自己成長重視タイプへのアプローチ

重要なのは「成長の道筋を示すこと」です。日々の業務が自分のキャリアにどうつながるかが見えないと、このタイプは不安になってしまうでしょう。

「この仕事を通じて○○のスキルが身につく」「このプロジェクトで将来△△を目指せる」といった接続点を明示することでモチベーションが高まります。また自律性を重視するため、細かい管理よりも「目標を共有したうえでやり方は本人に委ねる」スタイルが効果的と言えます。

組織貢献重視タイプへのアプローチ

重要なのは「組織の中での役割と貢献を見える化すること」です。日々の業務がチームや組織の成果にどうつながっているかを、具体的かつ定期的に伝えることが欠かせません。

業務アサイン時に「なぜあなたにこの役割を依頼するのか」「この仕事がチームにとってどんな意味を持つか」を丁寧に説明することで、強いコミットメントを引き出るでしょう。

まとめ

今回のポイントを整理すると、以下の3点です。

1. 若手の離職の主因の一つに「やりがいのなさ」があり、給与・待遇の改善だけでは解決できない
2. 若手の価値観は「自己成長重視」と「組織貢献重視」の2タイプに分類でき、タイプによって離職リスクの高さが異なる
3. 上司の適切なマネジメントはどちらのタイプにも離職意思を軽減できるが、タイプに応じてアプローチを変えることでその効果はさらに高まる

「最近の若手は……」と一括りにする前に、まず目の前のメンバーがどちらの価値観を持っているかを理解することが、マネジメントの第一歩です。

次回(第2回)は、「自己成長重視タイプ」に対して、1on1・業務アサイン・日常フィードバックといった場面ごとに、明日から使えるOK例・NG例を詳しく解説します。

AI導入の前に「捨てる」勇気を。月3,000時間の業務削減を実現したkubellの全社プロジェクトの全貌

株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田(@takeshisumida_)と申します。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニーグループ株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社。 グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任し、現在はBPaaS事業を推進する株式会社kubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1,000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

各メディアやSNSでAI活用のニュースを見ない日はありません。私たちの会社kubellにおいても、当然AIの徹底活用は経営の重要テーマの一つであり、AI活用の全社プロジェクトが絶賛進行中です。

しかし、AIが全社的に実装される前に、どうしても声を大にして言いたいことがあります。 それは、「AI活用の前に、いらない業務はそもそも捨てた方がいい」ということです。

AIはある種の加速装置です。本来不要なプロセスにAIを適用するのは、無駄な業務をただ高速回転させるだけ。まずは徹底的に“捨てる”ことを行わないと、誰のためにもならない成果物が、組織内に超スピードで量産・蓄積されかねません。

今回は、kubellが全社で実施し、月3,000時間の業務削減を実現したプロジェクト「すてるば」を例として取り上げながら、生産性向上における“捨てる”ことの意義についてお話しします。

「生産性指標の議論」という罠に陥っていないか?

具体的な方法論の前に、「生産性」という言葉の定義を整理させてください。

生産性とは、シンプルに「アウトプット ÷ インプット」の公式で表されます。IRでもお馴染みの、一人当たり売上(=総売上 ÷ 従業員数)などはこれの分かりやすい例です。

生産性を上げるには、

  • アウトプット(売上や付加価値)を増やすか
  • インプット(時間やヒト、コスト)を減らすか

の二択、もしくはいずれも、ということになります。

この認識さえ揃っていれば、“捨てる”行為はすなわちインプットの減少です。よっぽどアウトプットを損なわない限り、どう考えてもやった方がいいアクションなのです。

しかし、現実のビジネス現場では、ここが曖昧なまま議論が進むことが多々あります。「どう生産性を定義するか?」「どの指標で向上を測っていくか?」を延々と議論してしまい、実際の削減アクションが遅々として進まないというのは、実によくある光景です。

部署別や事業別など、指標の計算は細かくしようと思えばいくらでもできます。しかし、それは“捨てる”ことを待つ理由にはなりません。

「どんな指標を設定しようと、確実に生産性向上の方向に向かう“捨てる”こと自体は、さっさと行った方がいい」。かつてkubellにおいても指標議論がボトルネックになっていた経験も踏まえてそう断言できます。

現場が「捨てられない」強固な心理的ハードル

経営学の巨人、ピーター・ドラッカーも次のように言っています。

「元々しなくても良いものを効率よく行うことほど無駄なことはない」
There is nothing so useless as doing efficiently that which should not be done at all.

業務改善の王道フレームワーク「ECRS(イクルス)」でも、まずは「E:廃止(Eliminate)」から始めるのが大前提です。しかし実際の現場では、Eを飛ばして、いきなり「S:簡素化(Simplify)」や、手段としての「AI化・自動化」に飛びつきがちです。

なぜ、最も効果的な“捨てる”ことから始められないのか? それは、現場に強固な心理的ハードルが存在するからです。

  • 昔からこのやり方でやっているから
  • さすがに無くすのはダメだと思っていた
  • 以前に経営陣からやってとお願いされて始めている

こうした見えないルールや過去の経緯が心理的なブロックとなり、結果的に業務は地層のようにどんどん積み上がっていきます。

既存の慣習を個人の判断だけで覆し、関係各所を説得して廃止に持ち込むには、想像以上のパワーが必要です。日々の通常業務に追われる中でそこまでの労力を割くことは難しく、結果的に「波風を立てるより、我慢して作業をこなした方が早い」と諦めてしまうのが現実です。

経営層の役割は「捨てていいよ」という免罪符を渡すこと

AI活用や効率化を推進すること自体はもちろん必要です。しかし、現場が自らの判断だけで過去の遺産を手放せない以上、まずは経営トップから「捨てていいよ」という宣言を全社メッセージとして打ち出し、心理的安全性を確保してあげること。これこそが、生産性向上のための第一歩として、シンプルかつ極めて効果的な手段なのです。

この“捨てる”ための心理的安全性を全社で担保し、一気にインプットを削ぎ落とすためにkubellで実施したのが「すてるば」です。

「すてるば」では、経営陣から全社に実施を告知した上で、現場から無駄だと思うものを細かいものまで洗い出してもらい、それを経営陣が参加する会議の場で次々と“捨てる”と即決して手放していきました。

kubellには、「kubell-ba(kubellの場)」という全社員が参加する月次会議があります。そこから着想を得て、「いらないものや昔からの慣習を手放し、次の挑戦に向かう場」という意味を込め、「すてるば(捨てる場)」と名付けました。

kubell流「すてるば」の進め方

ここからは、実際に私たちが実施したプロセスを具体的に説明していきます。

なお、概念自体はサイバーエージェントさんが行っていて有名な「捨てる会議」をベースとしています。ただし、そちらで取り入れられているポイント制や表彰制などの点は省き、よりミニマムで機動力が高い設計にした形となっています。

プロセス

【部・課】洗い出し

各部や各課単位で、提供されたフォーマット(後述)を埋めてもらいます。

「とにかく細かいものでもいいから出す」「他部署への要望もOK」とします。実施する組織の単位については、部門の大きさによるので、部門長に一存します。

【部門】一次選考

各部門の管掌執行役員が、部門内で「すてるば」を実施し、案の中からどれを全社案件として上程するかの選別をしてもらいます。

なお、自部門だけで完結できるものは、全社会議を待たずに即決・即廃止してもらいます。 

【全社】全社すてるば

各部門の結果を持ち寄り、部門の管掌執行役員含む経営陣全員が参加する会議を実施します。

なお、一次選考において、内容的にダブっている案件もあるため、事前に運営事務局にて案件の精査を行っておきます。

その上で、部門の管掌執行役員が案件の内容を説明、それに対して取締役の過半数が同意すれば決定、という形で次々に捨てるものを決めていきます。

kubellの場合は、これらをおおよそ1ヶ月半〜2ヶ月ほどの時間軸で行っています。前段の現場からの洗い出しをおよそ1ヶ月で行ってもらい、事務局による情報の整理、及び経営陣での選別の場の設定を半月〜1ヶ月で行うイメージです。

フォーマット

漠然と「無駄なことある?」と聞いても意見は出にくいものですし、その要素がバラバラであればそれこそ集約の作業が非効率になってしまいます。

そこで、以下のような共通のフォーマットを用意し、各部門に配布、集約しています。

特に重要なのが「捨てる上での懸念・負の影響」の欄です。

すでに存在しているものを捨てれば、何かしらのデメリットは多少なりとも生じます。生産性の説明でも触れたように、この捨てることのデメリットが大き過ぎては当然意味がありません。

「このデメリットを受け入れてでも、削減効果の方が大きいか?」を天秤にかけることができるよう、必ずこちらをセットで記載してもらうようにしています。

ポイント

効果を最大化するためのポイントをいくつか抜き出します。

現場の声をしっかりと拾う

当然のことながら、上位レイヤーが知らない現場の業務は多数あるものです。現場のメンバーに落とさず、マネージャー以上などで検討しても、削減効果は最大化されません。細かいものでもいいので、とにかく現場から一旦なんでも出させることが重要です。

事前の情報整理にこだわりすぎない

このようなプロセスにおいて、ある意味教科書的によくあるのが、「まずは業務フローとして書き出しましょう」や「部署に存在する業務を全て洗い出しましょう」のような、事前の情報整理系です。

しかし、個人的にはこれはあまりお勧めしません。論理性、整合性、網羅性等、あらゆることが気になり過ぎて、そもそもこれらを作ることに得てして膨大な時間がかかるからです。

まずは体感として不要と感じているものを徹底的に洗い出し、上述一次選考の中などで、必要に応じて個別に業務フローを確認する方が、“捨てる”ことを決めるという行為においては、それこそ生産的であると考えています。

組織長が適切に取捨選択を行う

あくまで生産性向上が目的なので、アウトプットがそれ以上に削がれるものであれば意味がありません。

ボトムアップで集めつつも、全社への持ち込みについては、組織長は特にその観点における適切さを、事前に確認、選別しておく必要があります。

丸ごと捨てられるものをできるだけ挙げる

細かいものも含めて集めつつも、例えば会議の1つや2つ無くしたところで大して生産性は改善しません。取り組み、プロセス、イベントなど、“丸ごと”捨てられるものはないか、同じく組織長には、より高い視点を持ちつつ推進を行ってもらう必要があります。

業務効率化もOKとする

結果的に、それは捨ててる訳じゃないという業務効率化にあたるものも複数上がってきますが、それもOKとします。

捨てるという極端な方向で考えた結果、これまで出てこなかった業務効率化案がこのような活動を機に出てくる可能性は大いにあるため、それはそれで推し進めるべきだからです。

責任者、期日について明確化する

このような活動における肝はとにかく“実装”です。決めっぱなしにならないよう、上記全社すてるばにおいては、何を捨てるのかはもちろん、当日出席している主管部門の管掌役員の中で誰が責任者として推進するのかを期日と同時に決めていきます。

逆にこの時点では、進め方の方法論までは踏み込まず、それも含めて責任者に持って帰ってもらうのがお勧めです。そこまで議論を広げてしまうと、何十個もある捨てる候補に対する意思決定が時間内では完了しないためです。

人事部門が率先して「捨てる」を文化にしていく

この取り組みの結果、時間換算で月に3,000時間超の削減に成功しました。これは全従業員の就労時間のおおよそ5%にあたり、ざっくりと年間の削減金額に直すと1億円超の効果となります。

  • 経営報告資料の過剰な作り込み
  • 複数システムによる承認フローの重複
  • リモート主体時代の名残である多過ぎる1on1ミーティング
  • 使用頻度の少ない全社システム

など、長年の慣習で積み上がったものを、経営陣の合意のもとで一気に手放しました。

AI活用が当たり前となるこれからの時代、まずは足元の「不要なものを捨てる」勇気を持つことが、真の生産性向上とAI活用のための最強の事前準備になります。

そして何より重要なのは、これを一過性のイベントにせず、組織の成長に伴って生じる無駄を常に手放し続ける「組織文化」へと昇華させることです。

私は、この文化形成の担い手となるべき存在こそ人事部門であると考えています。

一方で、社内の申請フローやチェック体制といった全社的な仕組みを構築しているのは、往々にして人事部門自身です。皮肉なことに、その仕組みによって自らも細かいタスクに忙殺されている、という側面もあるかと思います。

だからこそ人事部門は、単なるルールの運用者にとどまってはいけません。「ガバナンス」と「現場の生産性」のバランスを最適化する調整役であるべきです。自部門の業務こそを率先して見直し、「捨てる」姿勢を背中で示すことが求められています。

経営陣が掲げる「業務効率化」や「筋肉質化」といったメッセージは、ともすれば現場では「コストカット」や「負担増」というネガティブな言葉にも変換されがちです。この認識のズレが生じた瞬間、現場のモチベーションは低下し、かえって生産性を損なう恐れがあります。

上述の図でご説明したように、生産性向上の本質は、無駄なインプット(時間・労力)を減らし、より価値の高い業務に集中できる状態をつくることにあります。

この意図を現場に丁寧に翻訳し、納得感のある形で業務削減を推進していくこと。それこそが、これからの人事部門に期待される重要な役割だと考えています。

この記事が、自社のAI推進や生産性向上に課題を感じている経営層、およびプロジェクト担当者の皆様にとって、一つの指針となれば幸いです。

社員が自走し「自分ごと化」できる組織づくりへ|プレシャスパートナーズ矢野

ここまで、採用におけるポイントや、定着・活躍のために必要な要素をお伝えいたしました。

採用や評価制度を整えることは、社員の定着や活躍を支えるうえで欠かせません。仕組みが整えば、組織の土台は安定していきます。しかし、それだけで「強い組織」ができるわけではありません。

本当に力を発揮する組織とは、社員一人ひとりが「会社のことを自分ごととして捉え、自ら行動できる状態」にあることです。制度やルールに沿って動くのではなく、「自分の働きが会社の未来につながっている」と感じながら行動し、“自分ごと”として組織を捉えることで、活気と創造性が生まれます。

「仕組みの整備」が終わった後に必要なのは、社員が主体的に関われる関係性や環境づくりです。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

社員が“自分ごと”で動く組織とは

自分ごとで動く組織とは、社員の意識が会社に向いていることです。

決まったことをこなすだけではなく、今何を求められているのか、何をしたら会社の発展に繋がるのかを考え、行動に移します。

また、経営の意識も方針を勝手に決めるのではなく、現場の動きや声を常に把握し、「社員が自分で考えて動き、いきいきと働くためにはどんな環境が必要なのか」を考えることが重要です。

「自分たちの会社を自分たちで良くしていく」という共通意識が、日々の行動の中に息づいています。

社員が自発的に動くためには「信頼」と「会社を変える一員」という意識が欠かせません。この2つを育てるのは、仕組みそのものではなく日々の関わり方が大切なポイントです。

参画型の社内体制を整える

社員が自分の意見を持ち、主体的に行動するためには、会社の課題に参加できる場が欠かせません。その一つの取り組みとして、プレシャスパートナーズでは会社を改革するチームを設置しています。

このチームは、「会社をもっと良くしたい」という想いを持つ社員が有志で集まり、社内課題の解決やコミュニケーションの活性化に取り組むものです。

たとえば、「残業が増えている部署の原因は何か」「新入社員がより早く会社に馴染むにはどうすればよいか」など、現場の課題を部署を越えて話し合い、改善策を考えます。

また、年次や役職に関係なく、新規事業や社内プロジェクトにも積極的に参加できる環境を整えています。こうした経験を重ねることで、社員一人ひとりが「自分たちで会社を動かしている」という実感を得ることができます。

大切なのは、会社のためにやらされているということではなく、自らやりたいと思える気持ちです。その意識こそが、社員の当事者意識を育てる原動力になります。

“斜めのつながり”が育てる信頼と安心

社員が自分の考えを持ち、前向きに動ける会社には縦や横のつながりだけでなく、斜めのつながりが欠かせません。

縦のつながりは、上司と部下で目標を共有したり成果を評価したりするうえで大切ですが、それだけでは上からの指示を待つ受け身の姿勢になりやすくなります。

一方で、同期や同僚といった「横のつながり」は、安心感や仲間意識を生みますが、似た価値観の中にとどまり、新しい刺激が得にくいという面もあります。

そこで重要になるのが、部署や年次を越えた「斜めのつながり」です。

普段関わりの少ないメンバーとプロジェクトを進めたり、世代の異なる社員と意見を交わしたりすることで、新しい視点や発想が自然と生まれます。

また、社内部活や交流イベントのように仕事以外の場で築かれるつながりも大きな意味を持ちます。趣味をきっかけに話したり、社員同士でイベントを企画したりすることで、肩書を気にせず話せる関係が生まれ、部署を越えた協力やサポートがしやすくなります。

このような関係があることで、信頼できる相手が社内に増え、失敗を恐れずに意見を出したり新しいことに手を挙げたりしやすくなります。「困ったときは助けてくれる仲間がいる」という安心感が、行動する勇気を後押しします。

「斜めのつながり」が広がると、社員は「言われたから動く」のではなく、「自分の意見で会社を動かせる」と感じられるようになります。その結果、会社のことを自分ごととして捉える姿勢が育ち、社員一人ひとりが主体的に動く、自走する組織文化ができていきます。

成長を後押しする評価と対話の仕組み

第4回目で、評価制度の構築についてお話しましたが、制度の構築も社員の行動を支える大切な仕組みの一つです。

ただ、“人を評価すること”が成長に繋がるのではなく、“成長を支援すること”が軸にある評価制度である必要があります。

また、制度の内容に加え、どのように対話を重ねるかが鍵になります。

評価は何ができたかだけでなく、「次にどう挑戦するか」を一緒に考える場にし、そうした時間を通じて社員は「自分の成長が会社の成長につながっている」と実感することに繋がります。

評価を一方的な査定にせず、定期的な1on1や中間面談で振り返る仕組みをつくる。そこに「対話を重ねながら前に進む」という文化が根づくと、制度は単なる仕組みではなく“成長を後押しする習慣”になります。

社長・経営者がどう社員と関わるか

社員が自走できる組織をつくるうえで、最も大きな影響を与えるのは経営者の関わり方です。社長・経営者の姿勢や言葉は、そのまま組織文化となり、社員の考え方や行動に深く影響していきます。

社員の主体性を引き出すには、「伝える」よりも「聞く」姿勢が欠かせません。会社への想いを一方的に語るのではなく、社員が感じている課題や意見に耳を傾け、「どう思う?」「やってみようか」といった一言をかけることが、社員の背中を押すきっかけになります。自分の意見を受け止めてもらえたとき、自然と前向きに動き出すことができます。

また、社長・経営者が現場に足を運び、直接言葉を交わすことも大切です。数字や成果だけでなく、日々の努力や葛藤に目を向けることで、「見てもらえている」という安心感につながります。その安心感があるからこそ、社員は新しい挑戦に踏み出せるのです。

社員に任せるとは、すべてを手放すことではなく、経営者が方向性を示しながら、信頼して委ねることです。その積み重ねが、社員が会社を自分ごととして捉え、自ら動く文化を育てていきます。

まとめ

社員が「会社を良くしたい」「自分の成長を会社の成長につなげたい」と心から思えるようになれば、組織は自然と前に進んでいきます。

そのために大切なのは、社員の声を聞く小さな場をつくること。日々の対話の積み重ねこそが、会社を“自分ごと”として捉える第一歩になります。

有形商材営業と無形商材営業の違いとは? 採用時に見極めるべき営業スキルのポイント|エッジコネクション大村

営業職の採用において、「法人営業か個人営業か」「新規開拓かルート営業か」といった軸はよく評価基準として挙げられます。しかし、私が実際に採用支援や営業組織の構築に携わるなかで、それと同じくらい重要でありながら見落とされがちなポイントがあると感じています。それが、「どのような商材を営業してきたか」という視点です。

世の中の商材は大きく「有形商材」と「無形商材」に分けられます。この2つでは、営業プロセスの構造が異なるため、営業担当者が自然と身につけてきたスキルも大きく変わります。商材特性を考慮せずに採用を行うと、「営業経験者を採用したのに成果が出ない」「早期離職につながった」というミスマッチが生じやすくなります。

本記事では、有形商材営業と無形商材営業の違いを整理したうえで、それぞれの経験者がどのようなスキルを身につけているかを解説します。また、キャリアチェンジ採用で起きやすいミスマッチや、採用時に確認すべきポイントについても紹介します。

寄稿者大村 康雄株式会社エッジコネクション 代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1800社以上を支援し、継続顧客割合は75%を超える。2024年7月には「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。

有形商材と無形商材とは何か

有形商材

実際に手で触れたり目で見たりすることができる商品を指します。
皆さんの視界に映っているほぼすべてのモノが有形商材です。

食品、家電、自動車、住宅設備など、形として存在するものはすべてこのカテゴリに含まれます。なお、アプリやWebサービスなど、画面上で動作するプロダクトも「デモで体験できる」という意味で有形商材に含める場合があります。

無形商材

形がなく、手で触れることのできない商品・サービスを指します。
研修、コンサルティング、保険、採用支援サービスなどが代表例です。

当社が手がける営業支援や採用コンサルティングも、まさに無形商材にあたります。目で見て良し悪しを判断することができないため、営業プロセスの構造が有形商材とは大きく異なります。

有形商材営業で身につく営業スキル

有形商材の最大の特徴は、商品そのものが営業を助けてくれる点にあります。

顧客は商品を実際に見たり触ったりして判断できるため、営業担当者の役割は「いかにその商品の魅力を最大限に伝えるか」に集中しやすくなります。

そのため、有形商材の営業経験者は、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 商品の特長を分かりやすく説明するプレゼン力
  2. 商材に関する深い製品知識
  3. 顧客の購買意欲を引き出すクロージングトーク

商品自体に訴求力があるため、顧客の課題を深掘りするよりも「この商品を選ぶべき理由」を的確に伝える力が問われます。商品スペックの比較対応や、質疑応答での即答力も磨かれやすい環境です。

無形商材営業で身につく営業スキル

無形商材は、文字通り形がありません。パンフレットはあっても、顧客がそれだけを見て購買を決断することはまずないでしょう。営業担当者が商談力で補わなければ成約には至らない——これが無形商材営業の大前提です。

たとえば、コーチングサービスの場合を考えてみてください。著名な経営者の実績を多数持つコーチであっても、顧客の話をろくに聞かず、アドバイスがしっくりこなければ契約には至りません。

一方、実績がまだ少ない駆け出しのコーチでも、真摯に話を聞き、顧客の課題に寄り添うアドバイスができれば、同じ土俵で勝負できます。これが無形商材営業の本質です。

無形商材の営業経験者には、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 顧客の話を丁寧に引き出す傾聴力・ヒアリング力
  2. 顧客の状況・感情に寄り添う共感力
  3. 課題を明確化し、解決策までを論理的につなぐ提案力

また、無形商材の成約には、顧客が「この人に任せたい」と感じる信頼感の醸成が不可欠です。顧客から「お願いしたい」というスタンスを引き出すところまでもっていくことが求められます。

商材の違いによって営業経験の蓄積ポイントが変わる

有形・無形を問わず、営業の商談プロセスはおおむね次の流れをたどります。

営業の商談プロセス
①初回接触(来店・架電・訪問など)
②ニーズ・購買意欲の明確化
③商品・サービスの提案・選定
④最終調整・質疑応答
⑤成約

有形商材の営業では、③④のステップに重きが置かれます。
商品説明・デモ・質疑応答の経験値が自然と積み上がっていきます。

一方、無形商材の営業では、②のニーズ明確化が最重要ステップとなります。「顧客が何に困っているか」を丁寧に引き出し、信頼関係を構築するトーク展開のスキルが蓄積されていきます。

つまり、同じ「営業経験者」であっても、どの商材を扱ってきたかによって、蓄積されているスキルの質はまったく異なります。この視点を採用時に持てているかどうかが、ミスマッチを防ぐ大きな分岐点になります。

営業採用で見落とされがちな「商材の違い」

転職市場や採用現場では、「法人か個人か」「新規開拓かルート営業か」という切り口で候補者を評価するケースが多く見られます。しかし、「どんな商材を売っていたか」という観点はまだまだ重視されていないのが実情です。

有形商材→無形商材へキャリアチェンジする場合

最初に直面するハードルは「商品の力に依存しない営業スタイルへの転換」です。

有形商材の経験者は、良い商品であれば成果につながるという感覚が染みついていることがあります。しかし無形商材では、まず「この人に任せたい」と思ってもらえる信頼感の醸成が成約の前提条件です。

商品説明より先に、ヒアリングと共感のプロセスが求められます。

無形商材→有形商材へキャリアチェンジする場合

有形商材の世界では「衝動買い」が存在します。
顧客のニーズを深掘りしすぎると、かえって購買意欲が冷めてしまうケースもあります。

また、有形商材の営業では、あくまで主役は商品です。「自分という営業マン」ではなく「商品が売れていくこと」に喜びを見出せるかどうかが、定着を左右します。

営業採用で注意すべきポイント

以上を踏まえ、採用担当者が面接で確認すべき具体的なポイントを整理します。

有形商材経験者を「無形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • その人の営業成績は、商品力によるものか、本人の商談力によるものか(「なぜ売れたのか」を具体的に語れるかどうか)
  • 「ニーズの明確化・信頼醸成・提案」という一連のプロセスを習得させられる育成体制が自社内に整備されているか
  • 「今まで培ってきた営業スタイルをリセットして学び直す」という意識を、採用側・候補者側の双方が受け入れられるか
無形商材経験者を「有形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • 自社の「商品」「サービス」に愛着や興味を持てるかどうか(モチベーションの源泉が「商品を広める」ことにあるか)
  • 顧客のニーズを深掘りするプロセスより、「商品説明・提示・クロージング」のプロセスにやりがいを感じられるか
  • 「自分」ではなく、「商品」が主役であることを自然に受け入れられるか

これらは面接で直接「どんな商材を扱ってきましたか」「なぜそれが売れたと思いますか」と問うことで確認できます。答え方の構造で、候補者のスキルの蓄積ポイントが見えてきます。

IT商材営業は有形と無形の両方の要素を持つ

最後に、近年増加しているIT商材の営業について触れておきます。

アプリやSaaSなどのIT商材は、デモやトライアルで使用感を体験できるため、有形商材的な性質を持ちます。しかし、基幹システムや高度にカスタマイズが必要なソリューションになると、少し触っただけでは良さが伝わりにくく、「ニーズの明確化・信頼醸成・適切な提案」が不可欠です。つまり無形商材の要素が強くなります。

IT商材の営業人材を採用する際は、自社プロダクトが有形商材寄りか無形商材寄りかを先に見極め、それに合ったバックグラウンドを持つ候補者を選ぶことが大切です。

まとめ

「営業経験あり」という一点だけで採用を判断すると、入社後のスキルギャップがミスマッチや早期離職につながりかねません。

「どんな商材を売ってきた人材か」という視点を採用の評価軸に加えることで、入社後に活躍できる営業人材の見極め精度は大きく向上します。ぜひ次の採用面接から取り入れてみてください。

現場からの最新速報!見えてきた2026年の新入社員研修の傾向と今後の対策|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

4月の新入社員研修は、人材育成関係者にとって毎年の大イベントの一つです。今年、私は4月7日〜23日の間に、講師として約1,700名の新入社員研修を担当しました。その経験を踏まえ、今年の新入社員の傾向と今後のアドバイスについてお伝えします。

結論
昨年とそれほど変わらない傾向です。
ハイライトとしては、
  • 態度:集中力が高く、研修に対してとても前向きで積極的
  • 習得度:普通
  • マインド:リスクを恐れず主体性を発揮することの重要性に納得しており、研修中に垣間見られた受講者も一部いた
  • コミュニケーション:抵抗がなく明るくて前向きだが、ロジカルに伝えることは得意ではない人が多い
  • その他:生成AIに頼っている傾向が目立った、これは今年初めて見られた現象

2026年の新入社員研修の概要

今年は41名から255名規模の研修を担当してきました。グラフのように100名未満と200名以上の割合が多かったです。

新入社員研修で大切なポイントの一つは、サブ講師です。演習がとても多く、受講者数に応じた講師のフォローが必要になるため、受講者30名に対して講師1名を入れています。

数百名規模の研修の場合は全体の解説をするリード講師と、演習をフォローする複数名のサブ講師のチームで行います。これにより、多くの新入社員のアウトプットを見ることができ、短時間で新入社員の傾向をつかむことができます。

新入社員研修の実施形態

研修の実施形態は、コロナ前と同じように対面研修が中心です(表1)。

実施回数を見ると7割は対面で、私以外の講師の場合はほぼ100%が対面実施でした。ただし、数百人以上の新入社員がいる企業では、現在でもリモート研修やハイブリッド研修を実施しているケースもあります。

代表的なハイブリッド研修は、数十名のクラスごとに部屋分けして講師の解説を配信し、各部屋では受講者は演習を対面で行ってサブ講師がサポートするスタイルです(表2)。

このようなセッティングは若干複雑ですが、大人数に対して安定した高い質の研修を提供するのに効果的です。

例えば、今年実施したハイブリッド研修の各クラスの受講者の修了アンケート結果を見ると総合評価は高く、クラスごとのばらつきはほとんど見られません(表3、縦の研修に対する総合評価は5点満点)。

新入社員研修の実施内容

今年担当した研修内容は、大きくこの4つでした。

  1. コミュニケーション:ロジカルコミュニケーション、報告、相談、傾聴、プレゼンテーション
  2. プロフェッショナルマインド:主体性向上、学生から社会人の切り替え、配属後の対策
  3. ロジカルシンキング:論理思考の基本(ピラミッド構造、ロジックツリー、MECEなど)
  4. グローバル:異文化、ビジネス英語、英語ライティング、ミーティング、プレゼンテーション

テーマ別の実施回数と受講者数は下の表とグラフのとおりです。

【テーマ別の実施回数と受講者数】
テーマ 実施回数 受講者数
コミュニケーション 7 1,135
マインド 5 409
シンキング 1 72
グローバル 1 121

新入社員の受講態度

実際に接した新入社員全体に対して言えることは、集中力が高くとても前向きでした。1,700名のうち、研修中に眠った受講者は一人もいませんでした。

コミュニケーションに対しては抵抗も遠慮もなく、非常に積極的でした。

特に印象的だった傾向は、ちょっと変わった演習(例:走り回ってペアで発表し合う、職場での上司とのやりとりの実演など)でも恥ずかしがらずに素直に一生懸命取り組んでいたことです(余談ですが、例年以上に上司役の演技が大袈裟で、数十年前のような昭和タイプを演じていたのが面白かったです)。

新入社員の習得度

きわめて前向きな姿勢が特徴的だったのに比べると、研修内容の習得度は普通でした。

【研修内容の習熟度】
強化ポイント 印象 コメント
主体性向上 良い 主体性の大切さについては素直に理解しており、研修中に意識しようとしているが、人によって出来が異なる。ただ、本当にリスクを恐れずに主体性を発揮できるかどうかは、職場での行動を見てみないことには分からない
論理思考力 普通 人によってばらつきが激しい。傾向としては、積極的なコミュニケーションやアウトプット力の高さに比べると低め
伝達力 普通 対面のコミュニケーションに対してまったく抵抗がない。リモートにはそれほど慣れていないため、対面より少し受け身になる人が多い。ビジネスの観点で見ると敬語、ロジカルな説明、簡潔明瞭にまとめるスキルは普通か少し弱い
柔軟な対応力 良い 研修中のケース分析、課題解決のアイディア出しなどでストレスを感じずに、柔軟に対応策を考えるのが得意な人が多い。ただ、職場で実際に問題に直面した際にどこまでスムーズに解決できるかは、今後見ていく必要がある

生成AIとデバイスの依存度

今年初めて感じたのは、デバイスと生成AIへの依存度の高さでした。

例えば、正確性が求められるロジカルシンキングやビジネスライティングの演習の際に、意識的または無意識的にデバイスを探そうとする、生成AIを使わないと進めないなど、明らかに不安を感じている新入社員が多く見られました。

特に印象に残ったのは、思考プロセスです。従来のように一人で考えてネットなどで調べて確認してパソコンで仕上げるという流れと異なり、多くの新入社員は最初の考えるステージからすでにインターネットと生成AIを使わないと不安で進められない様子でした。

自分で考える前からまずAIに聞いて、AIから得られた情報を見て、それに対してまたプロンプトを出して…このような、AIと対話をしながら自分の考えを少しずつ固めていく思考プロセスがたいへん多く見られました。

現時点では、思考力の低下につながるというほどの問題ではないと思いますが、ツールに依存しており、ツールがないとストレスと不安を感じることは明白です。

言うまでもなく、思考力、AI依存度、AIの効果的な活用は、これからの重要な人材育成課題になるでしょう。

新入社員の今後のフォロー

導入研修期間中、新入社員はとても楽しそうでした。良い仲間もできて、厳しい研修より心理的な安全性のある研修が多く、けっこう快適そうにしていた印象があります。

それはとても良いことですが、配属された後にギャップを強く感じる新入社員も出そうだと思いました。そのフォローとして必要になるのは、職場の厳しさに対応できるように促し、かつ前向きな姿勢と高いモチベーションを維持させることです。

そのため、配属数カ月後のヒアリングと秋のフォロー研修が特に重要になってきます。

来年度の新入社員研修に向けてのアドバイス

昨年感じた、新入社員研修の内容を少々見直すべきだという機運を今年も感じました。

数年前によく言われていた「主体性がない」「正解をすぐ求める」「リスクを恐れる」という点は変化してきているようで、以前より前向きに取り組んでいるし、それほどリスクを恐れていない印象がありました。代わりに、論理思考力、ビジネスライティング力、ロジカルコミュニケーションの力が低下しているケースが多く見られました。
これも昨年同様ですが、従来の定番の新入社員研修とビジネスの現状が合っていないところが見受けられました。

例えば、「電話応対」というテーマはもちろん大切ですが、固定電話の出方と転送などが現在の業務にない場合は省略すべきです。逆に、過去になかった新しいニーズが出てきたので、今後はそれを反映することが何より重要となります。

例えば、

  • 電話でほとんど話さない新入社員向け、電話に出る重要性とふさわしい話し方
  • 議事録を作成する際に効果的なAIツールの活用方法
  • ハイブリッドワークでの、チームメンバーとの良いコミュニケーションのとり方
  • ハラスメントを恐れて遠慮する上司との人間関係構築

クロージング

新入社員研修おつかれさまです。

今年も講師として多くの新入社員と接することができましたが、感じたことを再度まとめると、

  • 態度は非常に良い
  • 能力と習得度は普通
  • 来年度からは長年やっていた新入社員研修に多少手を入れたほうが良い
  • 生成AIの影響が顕著、来年以降の大切なテーマになりそう

です。

フリーランスエンジニアを採用し、活用するには 〜データでみるフリーランス採用の最前線と活用ポイント〜

年度が変わり、採用予算の策定に悩む人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

「優秀なエンジニアがなかなか採用できない」
「内定を出しても辞退される」

そんな声を、採用担当者から日々聞きます。

職種別の採用難易度を見ると、エンジニア職の採用は非常に難しくなっています。新卒のエンジニア職採用を実施する企業の4社に1社が、採用目標未達見込みとの調査*もあります。(参照:レバテック株式会社「新卒エンジニア採用実態調査」

そうした状況の打開策として、近年注目されているのが「フリーランス人材の活用」です。フリーランスのメンバーが社内プロジェクトに関わることが増えたと感じている方もいるかもしれません。

一層の働き手不足が懸念される中、企業にとって重要な選択肢の一つとなるフリーランス活用ですが、「適正な単価がわからない」「採用した後、どう動かせばいいか不安」という課題がつきまといます。

正社員と異なり、入社後の研修制度やフォロー体制が整っていないケースも多く、想定したパフォーマンスを出してもらえないことも珍しくありません。

本記事では、フリーランスエンジニアの最新市場データをもとに適正単価を解説するとともに、創業以来フリーランス市場の前線を見ているHajimariの事例から見えたフリーランス活用ノウハウをご紹介します。

執筆者亀田 壮司株式会社Hajimari(旧:ITプロパートナーズ) 執行役員

2017年の入社以来、フリーランスエンジニアの活用支援を行うエージェント業務に従事し、全社MVP賞を受賞。29歳で執行役員に就任後は、プロパートナーズ事業本部を中心に幅広いミッションを担う。長年にわたりフリーランス市場の最前線に立ち続け、数多くの企業のフリーランス活用を支援してきた。本記事で紹介するデータと知見は、その現場経験から生まれたものです。

フリーランスエンジニアの採用現況 〜市場で起きている「単価の二極化」〜

まず、フリーランスエンジニア市場の全体像をお伝えします。

Hajimariのプラットフォームデータ(2024年11月〜2026年3月、直近16ヶ月の案件単価変動)を見ると、フリーランス市場では単価の二極化が明確に進んでいることがわかります。

単価が上昇しているのは「AI・インフラ系」「バックエンド開発」領域です。AIエンジニアやネットワークエンジニアへの需要が急速に高まっており、企業は希少人材の争奪戦を繰り広げています。

採用担当者としては、この二極化の構造を理解した上で予算決定・採用判断をすることが、今後ますます重要になっていくでしょう。以下のデータは、フリーランスエンジニアの案件単価における直近16ヶ月の変動です(参照:フリーランスエンジニア案件の平均単価相場

▮ プログラミング言語別:KotlinとPythonが上昇、Swiftは急落
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Kotlin 66.0万円 70.0万円 +6.06%
Python 65.0万円 68.0万円 +4.62%
JavaScript 60.0万円 62.0万円 +3.33%
Go 70.0万円 72.0万円 +2.86%
Java 58.0万円 59.0万円 +1.72%
TypeScript 66.0万円 67.0万円 +1.52%
Ruby 74.0万円 73.0万円 -1.35%
PHP 63.0万円 62.0万円 -1.59%
Swift 70.0万円 65.8万円 -6.07%

注目すべきは Kotlin(+6.06%)と Python(+4.62%)の上昇です。Kotlinは簡潔さと安全性を兼ね備えており、Androidアプリ開発やサーバーサイド領域でも採用が進み、需要が拡大しています。Pythonは、AIや機械学習領域などの成長領域に活用されており、引き続き強い需要が続いています。

一方、Swift(−6.07%) の下落は注目に値します。iOSアプリ開発の需要そのものが消えたわけではありませんが、iPhoneとAndroid両方に対応したアプリを効率よく作れる新しいツールの台頭により、Swift専門エンジニアのニーズが下がってきてます。

また、AIによる開発補助ツールが進化し、モバイル開発の一部作業が自動化されつつあることも、単価の下押し要因となっている可能性があります。

▮ フレームワーク別:DjangoとLaravelが二桁上昇
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Django 57.0万円 64.3万円 +12.72%
Laravel 59.0万円 66.0万円 +11.86%
Vue.js 61.0万円 65.0万円 +6.56%
Node.js 62.0万円 66.0万円 +6.45%
Ruby on Rails 71.0万円 71.0万円 0.00%
React 68.0万円 67.0万円 -1.47%
Next.js 68.0万円 65.0万円 -4.41%
Spring 67.0万円 64.0万円 -4.48%
Flutter 69.0万円 63.0万円 -8.70%

 フレームワーク別では、Django(+12.72%)とLaravel(+11.86%)の大幅上昇が目立ちます。両フレームワークとも、高速かつ効率的に開発できる点から人気が高まっています。

対照的に、Flutter(−8.70%)は顕著に下落。新しいツールの台頭により「Flutter専門のエンジニアに頼まなくても対応できる場面」が増えてきたことが背景として考えられます。

▮ 職種別:AIエンジニアとネットワークエンジニアが高騰
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
ネットワークエンジニア 55.0万円 61.0万円 +10.91%
AIエンジニア 73.0万円 79.5万円 +8.90%
インフラエンジニア 59.0万円 60.0万円 +1.69%
フロントエンドエンジニア 65.0万円 64.0万円 -1.54%
Webディレクター 55.0万円 53.0万円 -3.64%
ITコンサルタント 101.0万円 90.0万円 -10.89%

職種別で最も大きな変動を示しているのが、ITコンサルタントの−10.89%です。長く100万円を超えていた平均単価が90万円台に落ち着いています。

その一方で、AIエンジニア(+8.90%)とネットワークエンジニア(+10.91%)の単価は明確に上昇しています。中でも、AIエンジニアの最新単価は79.5万円と全職種で最高水準。AI関連人材の争奪戦が激化している様子が伺えます。

ネットワークエンジニアについては、クラウド移行の加速やサイバーセキュリティへの意識高まりを背景に、インフラ・ネットワーク領域の専門家へのニーズを背景に単価上昇しています。

最も大きな変動を示している ITコンサルタント(−10.89%) については、自社内にデジタル人材を抱えることで外部への依存度を下げる企業が増えたことで、単価の下落につながっています。また、高単価な「戦略立案フェーズ」よりも「実行支援フェーズ」の需要が増えたことも、単価押し下げの一因として挙げられます。

こうした需要は、むしろAIエンジニアやデータエンジニアへシフトしていると捉えるべきでしょう。上記のデータを採用実務にどう活かすか、ポイントをまとめます。

データを踏まえた採用判断のポイント
単価が上昇しているスキルは、採用スピードが勝負です。今後さらなる単価上昇の可能性に備え、マッチする人材に出会ったタイミングで早めにオファーを出すことが重要です。
フリーランスの場合、正社員採用以上に「他社との競合」が起きやすく、検討に時間をかけるほど競争率が上がります。実際に、長年フリーランスと企業のマッチング事業を展開してきたHajimariの支援事例でも、AI関連人材の獲得競争率は上がってきています。
AIエンジニアは単価も高く上昇トレンドにある一方、市場にいる人数が少ない希少職種です。こうした職種を活用する際は、任せる業務と目指すゴールを明確に決めた上で短期集中的に動いてもらうことが、予算内でコスト効率を高める鍵となります。
一方、フロントエンドエンジニアのように市場に人材が多い職種は、複数の候補者を比較検討し、スキルと単価のバランスを見極めることで、予算・質のバランスが取れた人材を確保しやすくなります。

フリーランス活用ノウハウ〜“採用して終わり”にしないための5つの実践〜

正社員市場の人材獲得が激化する現代では、フリーランス活用はもはや補助ではなく、開発体制の中核を担う戦略的な選択肢です。

ただ、フリーランスを採用してうまくいかないケースには共通のパターンがあります。それは「採用して終わり」になってしまうことです。正社員のような、研修や上司のフォローなどの仕組みが整っていないことが多く、結果として想定していたアウトプットが出ないという状況に陥りがちです。

以下では、Hajimariが実際の支援現場で培ったフリーランスが最大のパフォーマンスを発揮するための実践ノウハウをご紹介します。

1. 採用時のミスマッチを防ぐ

「採用してみたら思っていた人と違った」

こうしたミスマッチは、フリーランス活用でよく起きるトラブルの一つです。原因の多くは、現場・人事・エージェントの三者間で、求める人物像の解像度がバラバラなことにあります。

人事担当者として、現場から「Pythonができる人が欲しい」とだけ言われて困った経験はないでしょうか。スキルだけを条件にすると、「技術は申し分ないのに、プロジェクトに馴染めなかった」というミスマッチが起きやすくなります。

ミスマッチを防ぐには、採用要件をスキルだけでなく「解決したい事業課題」「チームのミッション」「求める行動レベル」まで落とし込んで言語化することが必要です。

「AIを活用した新機能の開発フェーズを一人でリードできる人」など具体性のある要件を、現場・人事・エージェントで共有することで、マッチング精度は大きく向上します。

2. 「開発文化(カルチャー)」の早期伝達

技術スキルが完璧でも、文化が合わなければパフォーマンスは発揮されません。これは正社員でも同じですが、フリーランスの場合は特に注意が必要です。

フリーランスのメンバーは複数の企業で仕事をしていることも多く「個社ごとのルール」を自然に把握する機会が少ないからです。暗黙の了解になっている開発文化がフリーランスには伝わっていないケースは非常に多くみられます。

具体的には、技術選定の裁量権の範囲、リモート時コミュニケーションのルール、コードレビューの文化など、自社特有のルールを参画初期に明文化して共有することが重要です。

また、情報格差をなくすために、可能な限りオープンな場で議論を行う・定例会議に参加してもらうなどの工夫をすることで、フリーランスメンバーが当事者意識を持って参画できる環境が整います。

3. 適切な期待値調整とトラブル予防

「もっとスピードを上げてほしい」
「思ったより品質が低い」

こうした不満が蓄積して、突然の契約終了や関係悪化につながるケースがあります。

定期的なコミュニケーションで、業務の質・量だけでなく、「稼働時間」「業務範囲」「成果物の基準」にズレがないかを確認していきましょう。

もしパフォーマンスへの懸念が生じた場合は、感情論ではなく事実ベースのフィードバックを心がけることが重要です。

「〇〇のタスクが期日より3日遅れています。何か障壁がありますか?」という形で、具体的に・早めに・建設的に伝えることがトラブルを未然に防ぎます。

また、契約形態についてもフリーランスの多くは指揮命令権のない準委任契約を結んでいます。契約に沿った業務の指示ができているかも都度確認が必要です。

Hajimariの実践事例:CTO経験者フリーランスによる新規事業立ち上げ

上記のノウハウが実際にどう機能するか、Hajimariの事例でご紹介します。

事例

Hajimariにおいてこれまで進出してこなかったSaaS分野へ事業展開する際、メガベンチャーでCTO経験と組織マネジメント経験を持つフリーランスエンジニアが参画。

「SaaS事業を立ち上げ、6ヶ月でMVPリリースをする」という明確なゴールと、「経営視点から開発に求めること(コスト感覚・スピード重視・外部ベンダー活用の判断など)」をあらかじめ丁寧にすり合わせることで、認識齟齬の発生も防ぎました。

参画後は、開発戦略やプロダクトコンセプトの策定から、現場で発生する技術的な課題への随時対応まで、プロの視点から伴走し、プロジェクトは期日通りにMVPリリースを達成しました。

プロジェクトの最大の成功理由は、「何を任せるか」を最初に明確にしたことです。曖昧な状態でスタートしていたら、優秀な人材でも力を発揮しきれなかったでしょう。

優秀な人材を獲得することの難易度が上がるなか、フリーランス活用はもはやどの企業にとっても必須の手法です。

採用担当者に求められるのは、企業の課題解決に適した人材を適切な価格で採用し、パフォーマンスの出る環境を用意することです。

フリーランスを活用し、開発のスピードと質の両方を向上させることで、飛躍的な事業成長を実現させましょう。

理念を“作って終わり”にしない。採用・定着・活躍につなげる理念浸透の仕組みづくり|プレシャスパートナーズ矢野

近年、「採用の場で理念や想いを打ち出し、それに共感した人材を採用する」という手法を取り入れる企業が多くなっています。

しかし、どれだけ理念共感の高い人材を採用しても、入社後に理念が業務や行動へ結びつかなければ、その共感は徐々に薄れてしまいます。

今回は、理念を「作って終わり」にするのではなく、社員一人ひとりが「理念に納得し、行動へと移せる」ようにするための“理念浸透の仕組み”についてお伝えしていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

発信して終わらない理念運用

企業理念を採用サイトや説明会で発信するだけで終わらせてしまうケースは少なくありません。

しかし、理念の目的は「アピール」ではなく、日常の行動として根づかせることにあります。つまり、社員一人ひとりが日常業務の中で理念を意識し、行動に反映できて初めて理念は機能します。

株式会社TCDの「企業ブランドと働き方に関する実態調査」によると、会社員・正社員で理念を「はっきり覚えている」と回答したのはわずか14.3%。一方で、経営者・役員は52.9%が「はっきり覚えている」と回答しており、職位による認知ギャップが非常に大きいことがわかります。

ブランド(理念)の共感度
日頃のブランド(理念)の意識度

さらに、正社員で「理念にとても共感している」と回答したのは7.6%にとどまりました。日頃の理念への意識についても、「日常業務で意識している」は7.6%と、いずれも一桁台という結果です。

理念への「共感」が欠けたままでは、社員は理念を“自分ごと化”できず、「理念に沿った行動」も生まれません。

企業理念と事業をつなげる設計

理念浸透に欠かせないのが、企業理念と事業の一貫性です。

企業理念は企業の軸であり、事業戦略、評価制度、人材育成など、あらゆる基盤とつながっていなければ機能しません。

例えば、「顧客第一主義」を掲げているにもかかわらず、評価基準が売上のみで決まる“売上至上主義”となっている場合、社員は理念と実態のギャップを感じてしまいます。

「企業が掲げていること」と「実際に行っていること」が一致しなければ、理念は信頼を失い、行動指針として認識されなくなります。

企業理念を事業運営に組み込む具体例としては、

  • 新規事業の検討時に「理念に沿っているか」を必ず確認する
  • 評価制度に「理念行動」を組み込み、行動と理念を結びつける

といった取り組みがあります。

プレシャスパートナーズでも、企業理念に基づき事業運営を行い、理念が意思決定や評価の軸となる仕組みを整えています。

企業理念を動かすのは社長・経営者の発信力

企業理念を最も正しく伝えられるのは社長・経営者です。

特に社長は“理念の体現者”であり、その言葉や行動は社員へ大きな影響を与えます。社長自身が自らの言葉で語り、日々の行動で示すことで、理念はスローガンではなく、会社の姿勢として浸透していきます。

一方で、社長が理念を語る場が限られている企業では、理念は社員の日常から遠ざかってしまいます。そのため、トップと社員の対話機会を増やすことが理念浸透のカギになるでしょう。

社員総会や全社会議といった公式の場だけではなく、社長が執務スペースに立ち寄る、達成会や懇親会に参加する、カジュアルな対話を積極的に行うなど、こうした日常のコミュニケーションが理念浸透を後押しします。

プレシャスパートナーズでも、社長が各支社を訪問し、メンバーと直接対話する時間を大切にしています。食事の機会や部活などを通じ、業務外での時間も大切にしています。

役職者だけでなく、新入社員も社長と気軽に関われる文化をつくり、「理念が日常にある状態」を経営者自らが体現しています。理念浸透はトップダウンだけでは成立しません。

「トップが発信し、社員が共感し、現場で実践されること」その双方向のコミュニケーションこそが、理念浸透の架け橋となります。

企業理念を”自分の言葉で語る”アウトプット

理念をさらに深く浸透させるために重要なのが、社員一人ひとりが理念を自分の言葉で語る機会です。

社長・経営者が理念を発信し続けるだけでは、社員は受け身となるため、社員自身が企業理念を“自分ごと”として捉え、発信・体現できる状態を目指します。

プレシャスパートナーズでは、社員がSNSで自由に発信する取り組みを行っています。

「仕事を通して理念を感じた瞬間」
「会社の好きなところ」

などを好きに発信してもらっています。これは単なる広報活動ではなく、社員が理念について考え、自分の言葉で表現するプロセスになっています。

こうしたアウトプットの積み重ねが、理念を抽象的なスローガンから日常の指針へと変えていきます。社員自身が企業理念を自分ごととして捉え、会社としてアウトプットの機会を支援することが理念経営の定着につながります。

まとめ

理念浸透とは、単なる社内広報ではありません。理念とは、企業が「何を大切にし、どのように社会と向き合うのか」を社員全員で共有し続ける営みです。

理念の浸透は短期的に完結するものではなく、長期的な文化づくりです。発信して終わらせず、理念を経営・制度・日常へ組み込み、社長・経営者と社員が対話を重ねながら運用することが、理念を企業文化として根付かせる基盤となります。

“推し活採用”は採用課題をどう解決したか?内定承諾率を4倍向上させた仕組みとは

新卒採用では、AIの普及によりエントリーシートや「ガクチカ」の内容が似通う中で、「候補者の本質が見えにくい」と感じる採用担当者は少なくありません。

加えて、選考の効率化が進み、1社あたりが学生と向き合える時間は短くなっています。こうした状況に対して私たちが取り組んだのが、「推し活採用」です。

 “好きなものを語る面接”というシンプルな設計変更により、面接満足度が向上し選考継続率や内定承諾率の改善につながりました。

本記事では、私たちが取り組んだ新卒向け採用手法「推し活採用」導入の背景から具体的な設計、得られた成果までをご紹介します。

執筆者伊藤 宗一郎株式会社マーキュリー コーポレートコミュニケーション部コーポレート企画課 課長

2016年に株式会社マーキュリーに新卒入社。2年間の通信商材営業を経て人事部へ異動。新卒・中途採用の担当者として、求人媒体の運用やスカウトの活用、データ分析による精度向上を推し進め、年間2,000名の採用を支える体制を構築した。現在は、DX推進をはじめとする各種コーポレート企画に従事。現場、人事の両面を見てきた経験を活かし、「採用をもっと面白く」すること、そして働く人が輝ける組織設計に取り組む。

1|実施の背景

推し活に着目したきっかけ

コミュニケーションが苦手な学生の話を、どうすれば引き出せるのか。面接官として学生と向き合う中で、常に意識していました。

そのような中で、面接の中でアイスブレイクとして趣味の話題に触れると、場の空気が大きく変わることがよくありました。特に「推し」の話になると、コミュニケーションが苦手な学生でも自然と会話が弾むケースが多く見られました。

つまり、能力や志向性の問題ではなく、緊張や面接という形式そのものへの苦手意識によって、本来の魅力や考えが十分に伝わっていないケースが一定数あります。

そこで、「いかに話しやすい状態をつくるか」という観点から、面接設計そのものを見直すべきではないかと考えていました。

母集団への影響

当社はこれまでも多様な個性を持つ人材を採用してきました。入社後も特定のキャリア観に限定せず、幅広い選択肢を提示しているため、「さまざまな価値観を持つ人に入社していただきたい」という採用方針もあります。

そのため、「推し活採用」による母集団への影響はそこまで懸念していませんでした。

実際に、入社後の社員同士のコミュニケーションでも、関係性の構築において趣味の話題が起点になることが多く、「推し活採用」は当社のカルチャーとも親和性が高いのではという直感がありました。

さらに、新卒3年目までの採用担当者にアンケートを実施したところ、8割以上が「推し活採用」について肯定的だったことも、導入の大きな決め手になりました。

従来の選考での課題

タイムパフォーマンスを重視する学生に合わせ選考フローを簡略化する中で、「いかに人物像を見極めていくか」というところに課題を感じていました。

従来の選考フローでは「話し上手が有利になりやすい構造」が生まれてしまいがちであり、また「回答が画一化して学生の人物像や個性が見えづらい」という課題がありました。

現在、以下のような選考形式を導入しています。

  • 通常選考(説明会⇒選考2回⇒内定)
  • スピード選考(説明会⇒選考1回⇒内定)
  • 1DAY選考(説明会+選考会⇒内定)

その結果、面接時間は短縮され、限られた時間で判断する必要があります。

いかに短時間でも候補者の本質を捉えるかが、より重要な課題となっていました。

2|選考フローと運用設計

推し活採用の設計

選考フロー自体は大きく変えず、以下の形で実施しました。

  • 説明会
  • 1次面接:推し活面接
  • 最終面接:通常面接
  • 内定

フローを増やさないことで、現場の負担を抑えつつ導入できる設計としました。

設計上の工夫

面接の進め方をあらかじめ設計したうえで、レクチャー会や動画撮影を実施、当日の流れをイメージした上で本番に臨めるように工夫しました。具体的には以下の施策を実施しました。

  • 事前アンケートで「推し」を把握
  • 面接官向けレクチャー会の実施(面接官のスタンス統一)
  • 選考内容の事前開示(YouTube動画など)

特に事前アンケートは重要で、面接官が事前に会話の切り口を準備できるため、面接の質が安定します。

また、学生の話に関心を持ちながら丁寧に聞き、深掘りしていくように面接官にはレクチャー会を実施。

レクチャー会では全国の採用担当向けに、以下のポイントを重点的に伝えました。

<レクチャー会で伝えたポイント>
面接時間の区切り 推し活の話で時間が終わってしまわないよう、「推し語り」「深掘り」「就活ヒアリング」と時間を明確に区切りました
仕事への接続 「推しへの向き合い方」を「仕事への向き合い方」にリンクさせて質問するよう指導しました
3つの評価基準の言語化 単なる雑談にならないよう、「熱量」「表現力」「共感力」という独自の評価基準を設けました
「教えて!」のスタンス 面接官が知らないジャンルの話題が出ても事前に調べすぎず、「それってどういうこと?教えて!」という姿勢で、絶対に否定せず話を聞き出すことをルール化しました

その結果、学生が安心して話せる状態につながったと感じています。

3|成果:面接体験の質が数値に直結

導入後の成果

応募者数は376名から611名へと増加し、前年比162.5%となりました。(※2)

また、応募後の指標も以下の通り改善しています。

  • 選考予約率:75.7% → 92.5%
  • 内定率:24.7% → 50.0%
  • 内定承諾率:15.8%→61.5%

※2…2025年9月~12月の2026年卒応募数(マイナビ、リクナビ、キャリタス、自社採用サイト経由等)の前年同時期比。前年は「推し活採用」未実施。なお、ほかの要因も影響し得るため、単純比較ではなく傾向値としてご参照ください。

数値改善の要因

推し活を取り入れたことで、選考全体を通じた満足度が高まり、結果として最終選考まで進んでいただける方が増え全体的に移行率(※3)が改善したと捉えています。

面接を通じて、

  • 通常の面接よりも話しやすかった
  • 面接官が自分に興味を持ってもらえて、理解してもらえたと感じた

という体験が、「自分を受け入れられている」という印象につながり、志望度の向上に結びついたのではないでしょうか。

また、1次面接で話した内容を最終面接に引き継ぐことで、一貫した体験設計ができるよう工夫をしたことも効果的でした。

※3 ここでは選考において次のフェーズに進む割合のことを指す。

4|取り組みから見えてきたメリット・デメリット

メリット

 主に以下の3点です。

  • 他社との差別化による母集団形成
  • 面接満足度の向上による承諾率改善
  • 「推し」を取り入れた自己開示による人物像の理解促進

まず感じたのが、推し活というテーマ自体が目を引き、応募のきっかけになっているということです。この傾向は、先ほどの応募者数の増加にも表れていると感じています。

次に、面接で楽しく話せた経験が満足度につながり、そのまま選考継続にもつながっている点です。内定率は約2倍、内定承諾率は約4倍に向上しました。

最後に、「推し」の話題から自然と会話が広がることで、その人らしさが見えやすくなることです。

実施後の面接官向けアンケートでは、「学生が活き活きと話すので人柄が見えやすい」といった意見が多くあがりました。推し活というテーマは心理的ハードルが低く、短時間でも多くの言葉と熱量を引き出せます。その結果、人物理解の精度が高まりました。

デメリット

一方で、予約後の選考参加率のみ微減しました。

これは、通常の選考フローに加えて、推しについて回答していただく事前アンケートを追加したことが一因と考えています。

また、今年推し活採用に参加した学生が入社しますが、特に定着率については、今後継続的にモニタリングしていく必要があると考えています。

好きなことと仕事の接続

課題は残りつつも、この取り組みを通じて改めて感じたのが、「好きなこと」と仕事の関係性です。

私自身、もともとは「好きなことを仕事にしたい」という軸でエンタメ業界を志望していた経験があります。その時は直接的には希望が叶いませんでしたが、現在はさまざまな企画をする中で、自分の好きを活かせている感覚はあります。

また、好きなものがあることで、余暇の時間を楽しめて、リフレッシュができ、それが結果的に仕事への集中やモチベーションにつながる人も多いのではないでしょうか。

「好きなものを好きと言えること」自体が、その人らしさや価値観を表します。当社の企業風土とも重なりカルチャーマッチにつながると考えています。

5|今後の展望/今後挑戦したいこと

今後は「推し活採用」された人が、より活躍しやすくなるような環境整備にも挑戦していきたいと考えています。

例えば、

  • 推し活応援ギフト
  • 推し活休暇

といった施策も検討しています。

また、現在の採用市場では「どのような体験ができる会社か」という視点の重要性が高まっています。推し活採用は単なる施策ではなく、企業の価値観を体現する取り組みとして、今後も進化させていきたいと考えています。

ピルとオンライン診療が切り拓く未来の働き方― 「タイミングを選べる」という自由を―

「なんとなく体がだるい」「会議中に集中力が続かない」「理由は分からないけれど、毎月決まった時期につらくなる」

こうした不調は、多くの働く女性が日常的に感じている“見えない負担”です。

生理やホルモンバランスの変化による体調不良は、外見からは分かりにくく、数値にも表れづらいものです。そのため本人でさえ、「気のせいかもしれない」「甘えてはいけない」とやり過ごしてしまうことが少なくありません。

しかし、この“見えない不調”は、欠勤や早退だけでなく、集中力の低下、判断力の鈍化、コミュニケーションの摩擦などを通じて、確実に仕事のパフォーマンスへ影響します。

医療的なケアによって改善できる可能性があるにもかかわらず、

「忙しくて通院できない」
「近くに婦人科がない」
「仕事の合間に行きづらい」

といった現実的な壁が、多くの女性の前に立ちはだかってきました。

本稿では、ピルとオンライン診療がもたらす新しい健康支援の形、そしてテクノロジーが可能にする“自分らしく働ける未来”について考えていきます。

寄稿者坂梨 亜里咲mederi株式会社 代表取締役

明治大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの不妊治療経験からmederi株式会社を起業。オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」、企業向け健康支援・福利厚生サービス「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開。

ピルは「働く女性の体調マネジメントツール」

日本ではいまだに「ピル=避妊薬」というイメージが強く残っています。しかし実際には、低用量ピルは女性の体調を安定させるための医療的な選択肢として、世界中で広く活用されています。

特に働く女性にとって重要なのは、月経周期による体調変動をコントロールできることです。生理痛やPMS(月経前症候群)によって、集中力が落ちたり、強い倦怠感や頭痛に悩まされたりする女性は少なくありません。

しかし多くの場合、それは周囲に見えにくく、「我慢するもの」として扱われてきました。低用量ピルはホルモンバランスを整えることで、

  • 生理痛の軽減
  • PMS症状の改善
  • 月経周期の安定

といった効果が期待されます。

つまりピルは、単なる医療ではなく、女性が日常生活や仕事のパフォーマンスを安定させるための体調マネジメントツールとも言えるのです。

一方で、日本のピル服用率は約3%とされ、欧米諸国と比べて非常に低い水準にあります。

その背景には、「産婦人科に通う時間が取れない」「相談しづらい」といった医療アクセスの問題があります。この課題を大きく変え始めているのが、オンライン診療の普及です。

なぜオンライン診療が必要なのか ― 医療アクセスの壁

働く女性にとって、産婦人科への通院は決して簡単ではありません。予約・移動・待ち時間を含めると半日近くかかることもあります。

その結果、

  • 症状があっても受診を後回しにする
  • 薬の服用を継続できない
  • 医師に相談する機会がない

といった状況が生まれてしまいます。

オンライン診療は、この医療アクセスの壁を大きく下げました。スマートフォンを使って自宅や職場から産婦人科医に相談でき、診察や処方まで完結します。通院時間の負担が減ることで、医療をより身近なものに変える可能性を持っています。

医療とテクノロジーの融合は、「通院できない」という構造的な問題を解決しつつあるのです。

福利厚生として広がるオンライン健康支援

こうした変化を背景に、企業の福利厚生にも新しい動きが生まれています。それが、オンライン診療を福利厚生として導入する取り組みです。

企業がオンライン医療サービスを導入することで、

  • 社員が勤務時間内でも医療相談できる
  • 通院時間の負担を減らせる
  • 体調管理を継続しやすくなる

といったメリットが生まれます。

企業側にとっても、

  • 欠勤や早退の減少
  • 集中力の向上
  • 業務パフォーマンスの安定
  • 離職リスクの低下

といった効果が期待できます。

実際に導入企業からは、

 「女性社員が体調について相談しやすくなった」
「生理による欠勤が減った」
「安心してキャリアを続けられると感じる社員が増えた」

といった声が寄せられています。

さらに、体調によるパフォーマンスのばらつきが減ることで、集中力や業務効率が安定し、結果として労働生産性が高まったという声も聞かれるようになりました。

女性の健康支援は単なる福利厚生ではなく、 組織全体のパフォーマンスを高める人的資本投資として捉えられ始めています。

「タイミングを選べる」という自由

女性がキャリアを築く中で、体調やライフイベントと向き合うことは避けられません。

しかしこれまで多くの女性が、「体調を我慢する」「キャリアを優先すると体のケアが後回しになる」という状況に置かれてきました。

ピルとオンライン診療は、自分の体と人生のタイミングを、自分で選べる社会を後押しするものです。

いつ働くか。
どんなペースでキャリアを築くか。
いつ家族を考えるか。

その選択肢を広げることこそが、女性の活躍を支える本質的な支援ではないでしょうか。

おわりに

ピルによる体調マネジメント、そしてオンライン診療による医療アクセスの改善は、これまで「我慢するしかなかった」女性の働き方を大きく変えつつあります。

通院のハードルが下がり、必要な医療にアクセスできる環境が整うことで、女性は体調を整えながらキャリアを継続する選択肢を持てるようになります。

医療とテクノロジーが融合することで、働き方の選択肢は確実に広がっています。ピルやオンライン診療は、その象徴的な存在と言えるでしょう。

女性の健康課題に向き合いたいと考える方には、拙著『女性に選ばれる会社の新・健康経営 ― 職場改革は生理・PMSケアから始めよう』(合同フォレスト刊)にて、制度設計の考え方から現場への浸透ポイントまでをまとめています。

「キャリアも妊娠も、自分でタイミングを選べる社会へ。」

その実現のために、企業ができることは決して特別なことではありません。女性の健康を前提にした職場設計へと一歩踏み出すことが、結果として組織の強さと社会の持続可能性を高めていくはずです。

 

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