社員が活躍し続けるには?挑戦と学びが循環する組織のキャリア開発|プレシャスパートナーズ矢野 |HR NOTE

社員が活躍し続けるには?挑戦と学びが循環する組織のキャリア開発|プレシャスパートナーズ矢野 |HR NOTE

社員が活躍し続けるには?挑戦と学びが循環する組織のキャリア開発|プレシャスパートナーズ矢野

これまで、人材の定着につながる採用手法や、職場環境・制度の整備についてお伝えしてきました。採用の入口だけでなく、入社後に社員が力を発揮できる基盤づくりは、どの企業にとっても大きなテーマです。

そして今回は、その中でも最も難易度が高いテーマである「社員を活躍人材へと成長させる育て方」に触れていきます。

これまで制度や環境について整理してきたため、今回は企業が取り組むべき“キャリア開発”に焦点を当て、社員が挑戦し続け、活躍を持続できる仕組みについて掘り下げていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

「活躍を持続させるキャリア支援」とは何か

キャリア育成と聞くと、つい「できない部分を補う」「スキルを上げていく」ことに意識が向きがちです。しかし、実際に向き合うべきなのは、“社員が長く成果を発揮し続けられる状態をどうつくるか”です。

社員が持続的に活躍するためには、以下が必要になると考えています。

  • 挑戦の機会が継続的に得られる
  • 学ぶ環境がある
  • キャリアの選択肢が明確になっている
  • 上司や仲間に相談できる安心感がある
  • 自分の強みを活かせる配置や役割が用意されている

これらが揃うことで、社員は自律的に成長し、自らのキャリアを前向きに捉えられるようになります。

成長を後押しする「挑戦機会」のつくり方

社員が成長し続けるためには、日々の業務だけでは限界があります。普段の業務に加えて、以下のような経験をすることで、今のスキルやキャリアを超えた力が身についてきます。

①新たな役割を任せる

ここでの役割とは、役職や大きなプロジェクトではなく、業務の一部で完結する小さなプロジェクトのリーダーを担当させるなどを指します。

業務の権限を少しずつ広げるだけでも社員の姿勢は変わり、「期待されている」「任されている」という実感が主体性を引き出します。

②立場を変えてみる

先輩社員が後輩に教える立場になると、視点が変わり、自分の仕事を見つめ直すきっかけになります。教える側に立つことで、自分の知識や行動を整理し、より深く理解できるようになります。

③プロジェクト型の経験を増やす

部署内の仕事だけでなく、横断的なプロジェクトやチームで動く経験は、視野を広げるうえで非常に有効です。普段関わらない人と働くことで、自分の強みや課題に気づきやすくなります。

活躍を支える「学びの仕組み」

挑戦の機会を用意するだけでは、活躍の持続にはつながりません。挑戦の中で得た気づきを整理し、新たなスキルを積み上げるために研修やナレッジの共有などの「学びの仕組み」を用意することが必要です。

ただし学びの仕組みを整えるうえで大切なのは、研修を実施すること自体ではなく、実務と学びをどう結びつけるかという視点です。

座学中心の研修だけでは、成長につながる場面は限定的になりがちです。日々の業務の中で生まれた課題に対し、先輩や上司と一緒に振り返り、次の行動にどう活かすかを考えるプロセスのほうが学びとしてはるかに定着しやすくなります。

また、一度に大量のインプットをするよりも、日常の中に小さく・自然に組み込まれていることが継続の鍵になります。短時間で取り組める仕組みや、業務の合間に振り返りを行うサイクルを用意することで社員は無理なく学習の習慣を身につけることができます。

キャリア形成に必要な上司の関わり方

上司が日常的に問いかけたり、振り返りの機会をつくったりすることで、社員は自分の思考を整理し、行動の背景を深く理解するようになります。

「なぜそう考えたのか」「次はどう改善するのか」といった対話が重ねられることで、学びは単なる知識のインプットではなく、実務に直結する経験へと昇華していきます。

学びは“与えられるもの”ではなく、“経験と結びつくことで価値を持つもの”です。

だからこそ、企業は研修そのものに注力するよりも、日常業務を通じて社員が気づき、考え、改善していくための仕組みづくりに力を入れる必要があります。

キャリアは“縦”だけではなく、横と斜めのキャリア支援

多くの企業でキャリアというと「昇格」「役職」といった縦のラインが中心になります。しかし、社員の活躍を持続させるためには、横・斜めの経験が重要です。

横のキャリアは、ジョブローテーションや配置転換が当てはまりますが、斜めのキャリアとは、営業部のリーダーが採用担当のリーダーになる、といった経験を活かしたキャリアアップです。

営業を経験して現場の課題や声を知っているからこそ、営業の採用でギャップが少なく、自社に合った人を見極めることができます。自分の専門性を違う場で活かす経験は、社員のモチベーションを高めるだけでなく、新しい強みを引き出す機会にもなります。

キャリアには“上に進むだけが正解ではない”ことを明確にし、複数の成長ルートを用意することで、社員は安心して挑戦を続けられます。

持続的な活躍に欠かせない「飛び込める環境」

どれだけ挑戦や学びの仕組みを整えても、社員が「相談できない」「失敗が許されない」と感じている環境では、成長は停滞してしまいます。社員が不安を抱えずに意見を言い、相談し、挑戦できる「心理的安全性」が担保された風土が必要です。

単に怒らない、褒めてモチベーションを上げることではなく、部下の失敗の原因を解決して、社員自身の成長につなげていくことです。

キャリア支援のための部署の設置
ここまでキャリア開発に必要な視点や取り組みについて触れてきましたが、プレシャスパートナーズでは、キャリア形成を組織として支えるために人事部の中に「人材開発課」を設置しています。
採用担当だけでも一定のフォローは可能ですが、社員が挑戦して成長し続けるためには、制度や環境だけでは不十分です。一人ひとりの特性を見極めながら伴走する専門的な支援が欠かせません。
採用業務と並行して社員全員の成長を長期的に支えるのは難しいのが現実であるため、人材開発課を設置することで行動特性の分析や配属後研修のフォローや1on1の設計、キャリア相談など、社員の活躍を支えるための機能を集約しています。
「挑戦ができる環境」と「成長が続く仕組み」を社内に根づかせるための土台として、専門部署が重要な役割を果たしています。

まとめ

社員が活躍し続けるためには、特別制度が必要なわけではなく、日々の業務の中に挑戦の機会があり、その挑戦を通じて生まれた気づきを学びにつなげられ、自分の強みや可能性を活かせるフィールドが社内に用意されていることが大切です。

キャリアは一つのルートだけで形成されるものではなく、横にも斜めにも広がり、社員が自分の未来を前向きに描けるように、選択肢を提示し続ける姿勢が企業には求められます。

社員の成長を支える人材開発課などの部署の設置や、継続的に支援をする仕組みをつくり、企業がその循環を丁寧に支え続けることこそが組織の未来を強くしていく一歩になるのではないでしょうか。

HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来|オープニングセッション イベントレポート前編

統合型人事システム「ジンジャー」は、人事労務、勤怠管理、給与計算、人事評価、サーベイ、データ分析など、幅広い人事業務を1つの人事データベースで管理できるクラウドサービスです。
サービス提供開始から10周年を迎えたジンジャーは、データを活用して「ひと」の可能性を引き出し、これからの人事のあり方を考える場としてカンファレンスを開催しました。

本記事では、jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO 冨永健氏によるオープニングセッションの内容と、CPO 松山雄一郎氏が語った「これまでのジンジャー、これからのジンジャー」の内容をレポートします。
ジンジャーが10年間でどのように進化してきたのか、今後どのようなプロダクト開発を進めていくのか。ジンジャーの最新サービスも併せてご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

【イベント概要】

イベント名:HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来
開催日時:2026.5.20 WED 13:30 – 18:30
開催場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(受付開始13:00)
イベントページ:※このイベントは終了しました。
https://hcm-jinjer.com/hr-reveal-2026/

「HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来」とは

「HR REVEAL 2026 データが拓くひとの未来」は、統合型人事システム「ジンジャー」のサービス提供開始10周年を記念して開催されたカンファレンスです。

人的資本経営の重要性が高まるなか、人事部門には、労務管理や制度運用にとどまらず、企業価値の向上に貢献する役割が求められています。一方で、多くの企業では人事データが複数のシステムに分散し、データの整備や運用に多くの時間を費やしているのが現状です。その結果、本来注力すべき組織開発や人材活用に十分な時間を割けていないという課題もあります。

本カンファレンスでは、人事データの整備・活用によって人事や組織のあり方がどのように変わるのか、またAIの進化によって「ひと」の可能性をどのように引き出していけるのかについて、さまざまな視点から議論が行われました。

カンファレンスの基調講演・セッション概要

当日は、jinjer株式会社 代表取締役社長 CEOの冨永健によるオープニングセッション「ジンジャーの次なる10年とプロダクトビジョン」から始まり、経済産業省、大学、企業経営、人事領域の有識者を迎えた基調講演「『産学官』で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~」がおこなわれました。

そのほか、タレントマネジメント、人事データベースの統合、データドリブンな人事戦略、人事データの設計・構築力をテーマにした各セッションも実施され、人事業務の効率化にとどまらない、人事データ活用の可能性が共有されました。

本記事では、まずオープニングで語られたジンジャーの10年の歩みと今後のプロダクトビジョンを紹介します。
※経済産業省や有識者らを交えた基調講演「『産学官』で描く人的資本経営の現在地と未来」の模様は、後編にて詳しくお届けします 。 

オープニングセッション(代表取締役社長 CEO 冨永健)

jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO 冨永健

冨永氏:
jinjerが今回のように対面形式で、かつ大規模なカンファレンスを開催するのは初めてです。ジンジャーは今年、サービス開始から10年を迎えます。10周年という節目にあたり、本イベントを企画しました。今回の開催をきっかけに、来年以降も継続的に開催していきたいと考えています。

ジンジャーは、まだ世の中に「HR SaaS」という言葉が広く浸透していなかった時代にスタートし、HR SaaSの歴史とともに歩んできました。もともとは勤怠打刻のサービスから始まり、その後、人事労務、給与、ワークフローなどのモジュールを追加。今年4月には、ATS「Talentio」も統合されました。

現在は、入社前の採用管理から、入社手続き、オンボーディング、在籍中の人事労務管理、退社手続きまでを一気通貫で支援できるサービスになっています。「ジンジャー」ひとつで、人事に関わる幅広い業務プロセスを提供できる会社へと進化してきました。

冨永氏:
すべてのモジュールを1社で提供することに、どのような意味があるのか。本日はその点をお伝えしたいと考えています。

多くの企業では、給与システム、人事労務システム、タレントマネジメントシステムなどを、目的ごとに個別に導入しているケースが少なくありません。これらのモジュールを、いわゆるプラットフォーム型として1社で提供することに、どのような価値があるのでしょうか。

システムが分かれていると、それぞれのデータベースも分かれてしまいます。そのため、氏名変更があった場合には、各システムで情報を更新しなければなりません。仮に、更新頻度が年に1回だったとしても、複数のシステムで何度も情報を更新しなければならず、更新漏れや入力ミスが発生するおそれがあります。

ジンジャーは、ATSのTalentioを統合したことで、入社前の候補者データも扱うことができるようになりました。候補者の氏名、電話番号、住所、性別などを登録すれば、そのデータを入社後にも引き継ぎ、必要な情報を追加登録しながら活用できます。

採用活動のフェーズから退職まで、ひとつのプラットフォームでデータを蓄積できることが、ジンジャーが提供する価値です。

AI×人事データが描く未来

冨永氏:
昨今、「SaaS is dead」という言葉に注目が集まりました。SaaSを取り巻く環境も大きく変わり、今まさに「AIの時代」に突入しています。では、「AI」と「人事プラットフォームのデータ」が掛け合わさると、どのような意味を持つのでしょうか。本日の議題は、まさにこの点にあります。

皆様も、日常的にAIを使っていると思いますが、非常に便利な一方で、AIが嘘をついたり、間違ったりした経験はありませんか。AIの回答は、参照するデータの内容に大きく左右されます。つまり、古いデータや誤ったデータが混ざっていれば、回答の精度も下がってしまいます。

企業でAIを活用する場合も同じです。AIが企業のデータベースを参照して回答する以上、そのデータベースの内容が古かったり、間違っていたりすれば、求めている答えは出てきません。

人事領域で考えると、給与システム、人事労務システム、タレントマネジメントシステムなどにデータが分散している状態では、AIが参照する情報にもばらつきが生まれやすくなります。システムごとに情報の更新状況が異なれば、AIの回答にも影響が出る可能性があります。

だからこそ、人事データをひとつのプラットフォーム上に蓄積し、正しい状態で管理していくことが欠かせません。人事システムをジンジャーにまとめていただくことで、AIを活用する際にも扱いやすいデータ基盤をつくることができます。

冨永氏:
AIの時代が進むと、オートメーション、つまり自動化の領域はさらに広がっていきます。人間だけでは気付けなかった変化や兆しを、AIが見つけられるようになる可能性もあります。

例えば、離職の予兆検知を考えてみましょう。AIが大量のデータを多角的に分析し、日々の打刻、評価、パルスサーベイ、ストレスチェック、1on1のやりとりなどをもとに、「そろそろ声をかけたほうがいいのではないか」と提案してくれる。そうした世界が、すぐそこまで来ています。

ただし、その前提となるのは、やはり“きれいなデータ”が整っていることです。さらに、そのデータを安全に管理し、適切にコントロールできる状態をつくることも欠かせません。

冨永氏:
ここで少し話が変わります。ジンジャーは昨年、新たなビジョンを策定しました。私たちが目指す未来、実現したい世界として掲げたのが、『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』です。

このビジョンは、約500人の社員が10チームほどに分かれ、アイデアを出し合いながら作成しました。当初は、5年後くらいに実現できたらいいのではないかと話していました。しかし、AI技術の進歩の速さを目の前にしていると、5年後ではなく、来年、もしかしたら今年の後半には実現できるのではないかと感じています。

人事が行っているプロセスを自動化できたら。あるいは、皆様が気付けなかった従業員の変化にAIが気付いてくれたら。人事は、より戦略的な議論に時間を費やせるようになるはずです。

ぜひジンジャーを活用いただき、『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』を、ともにつくってまいりましょう。

冨永氏:
また、ビジョンを実現するために、ミッションも変えました。ミッション、すなわち私たちの使命・存在意義として掲げたのは、『人事の「これからの当たり前」をつくり、お客様とともに進化する』です。

これまでの人事の当たり前は、従業員からの問い合わせに答え、定型業務に対応することが中心でした。そうした業務を自動化しながら、人事の「これからの当たり前」をお客様と一緒につくっていきたい。これが、ジンジャーの新たなミッションに込めた思いです。

最後に、本日のイベントはスポンサーの皆様のご協賛のもとで成り立っています。この場を借りて、御礼を申し上げます。

この後は、プロダクト責任者より、新サービスについて詳しく紹介します。

オープニングセッション(CPO 松山雄一郎)

松山氏:
私からは、サービス責任者として「これまでのジンジャー」と「これからのジンジャー」について、プロダクトのビジョンをお話しします。

まずは、「これまでのジンジャー」についてです。これまでのジンジャーは、人事労務システムのオペレーションコストを削減し、人事データを正しく管理することを目指してきました。しかし、昨今の技術変化を受け、私たちはプロダクトのビジョンを再定義しました。

こちらのグラフは、人事データの整備状況について、アンケートを実施した結果です。上にいくほど、人事データが非常に整備されている状態を示しています。この結果を見ると、人事担当者と経営者のあいだに、認識のギャップがあることがわかります。

人事に限らず、どのような仕事でも、データをもとに意思決定をしようとする流れがあります。とくに人事の領域では、客観的な判断にもとづく人事戦略を十分にとれていないと感じていますが、それはなぜでしょうか。

我々の調査によると、人事部門が管理しているシステムやツールは、平均で5つあるといわれています。5つ以上のシステムを活用しながら、Excelやスプレッドシートも併用しているケースが多い状況です。

システムやツールの数が多いことだけが課題ではありません。複数のシステムでデータを管理していると、半角・全角の違い、空欄、表記ゆれなどが発生しやすくなります。同じ従業員の情報であっても、システムごとに入力内容や更新状況が異なれば、データの整合性を保つことは難しくなります。

その状態では、必要な情報を集めるだけでも時間がかかり、集計や分析に使うデータの正確性にも不安が残ります。これが、客観的な判断にもとづく人事戦略を難しくしている要因のひとつだと考えています。

統合型人事データの必要性

松山氏:
この課題を防ぐには、人にまつわるデータをひとつに集められる「統合型データベース」が必要です。一度情報を変更したら、関連するすべてのデータに反映される。これが、本来あるべき状態だと考えています。

我々が提供しているジンジャーは、創業当初から統合型にしようと決めていました。統合型人事データベースを保有していれば、日々の業務をおこなうたびに、給与、勤怠、異動履歴などのデータが自然と蓄積されていきます。さらにタレントマネジメントの領域が加わると、評価やスキル、キャリアに関するデータも能動的に蓄積することが可能です。

これからの人事には、採用から退職までを扱う「データの幅」と、一人ひとりの情報を深く管理できる「データの深さ」の両方が必要になります。業務のなかで発生するデータと、人材活用のために集めるデータを、むらなく正しく蓄積していくことが重要です。

正しい人事データと「これからの人事」のあり方とは?

松山氏:
先ほどから「正しい人事データ」と申し上げていますが、これは業務で使いやすいデータと言い換えることもできます。正しい人事データを活用できるようになると、AIによるシフトが起きたときに何が変わるのでしょうか。

まず、AIによって反復作業が減り、人事は人との対話や戦略の実行により多くの時間を使えるようになります。そして、客観的なデータにもとづいた人材戦略や人員配置をおこなうことで、経営に寄与しやすくなるでしょう。

つまり、これからの人事は、人件費をコストではなく投資として捉え、必要な人材投資を通して人材の力をより高めていくことが求められます。

これまでジンジャーでは、採用領域をカバーできていませんでした。しかし、今年4月から採用管理システムの「Talentio」がジョインしたことで、採用から退職までの人材ライフサイクルをカバーできるようになりました。

採用時に見えていた候補者のパフォーマンスが、入社後に本当に生かされているのか。こうした視点でも、採用時のデータと入社後のデータを連動させて分析できるようになります。
その土台となるのが、ジンジャーが10年前からこだわってきたシングルデータベースです。人事マスタを単一にすることで、採用から退職までの情報をひとつにつなげ、常に最新で正確な状態を維持できます。
どこかで情報を更新すれば、関連するサービスにも反映される状態をつくることで、AIが参照するデータの精度を保ち、業務で使いやすい人事データとして活用できるようになります。

AI Friendlyの考え方

松山氏:
最後に、「AI Friendly」という考え方についてお話しします。AIのハルシネーションを防ぐためには、人事データがひとつにまとまり、リアルタイムに更新されている状態が必要です。さらに、ひとつのデータベースのなかで、権限管理まで含めて整備されていること。それが、AIにとって扱いやすい、AI Friendlyな状態だと考えています。

今後、人事業務ではAI活用がさらに加速していきます。高度な分析やAI エージェントによる支援が進むなかで、データをどう制御するのか、誰がどのデータにアクセスできるのかといった権限管理も必要になります。

AI設計のポイント

松山氏:

これまでジンジャーは、オペレーションコストをいかに下げるかという観点でプロダクトをつくってきました。これからは、AIを掛け合わせることで、「ひとの可能性を最大開放」するプロダクトをつくっていきます。
しかし、人事領域は間違いがあってはならない領域です。そこで本日は、ジンジャーが掲げているAI設計のポイントを2点ご紹介します。

ひとつ目は、AIには確定の判断をさせないことです。いわゆるヒューマン・イン・ザ・ループ(人間がAIのワークフローに関与し、正確性、安全性、説明責任、倫理的な意思決定を確保すること)の考え方です。セキュリティの観点からも、AIは示唆を出す役割にとどまり、最終判断は人間がおこないます。

もうひとつは、AIのホワイトボックス化です。なぜAIがその結果を出したのかを明確にすることにこだわっています。AIの結果を妄信的に信じることで、従業員に不利益が生じることは避けなければなりません。

これらの設計ポイントを意識しながら、現場で安心して活用いただけるプロダクトを開発してまいります。

ジンジャーの新サービス

松山氏:
最後に、2026年にリリースする4つの新サービスについてご紹介します。

1つ目は、「HR Signals」です。本日、第一弾として「退職アラート」を発表しました。人事データをもとに離職の予兆を検知し、スコアリングやアドバイスの提案をおこなうサービスです。組織や従業員のなかにある隠れたシグナルを可視化し、人事が早い段階で必要な対応を検討できるようにしていきます。

関連記事:
jinjer、「人事データ×AI」で組織と従業員の 隠れたシグナルを可視化する機能シリーズ「HR Signals」を 2026年6月以降に提供開始。第一弾は、人事データから離職予兆を検知する「退職アラート機能」を実装

2つ目は、今後リリース予定の「AI Assistant」です。人事業務では、複数のシステムを行き来しながら業務を進めたり、煩雑で膨大なデータを処理したりする場面が多くあります。AI Assistantは、そうした業務を支援する、いわばAI秘書のようなサービスです。今年の夏から、主に従業員と管理職向けに提供を開始する予定です。

 

関連記事:

jinjer、人事関連全般のタスクをワンタッチで完結させる「AI Assistant(AIアシスタント)」機能を一部ユーザーから段階的に提供開始

3つ目は、「AI エージェント」です。入社手続きや勤怠締めなど、人事業務にはさまざまなデータを確認しながら進める作業があります。AI エージェントは、そうした一連の作業を自動化するサービスです。利用者には、AIが処理した結果を確認していただく形を想定しています。

4つ目は、「Manager Assist」です。まずは人事評価の領域から始めたいと考えています。マネージャーの皆様が評価業務を効率化できるよう、評価記入の支援や面談記録の自動生成などの機能を開発する予定です。

評価業務そのものを効率化するだけでなく、評価データの品質を底上げし、メンバーと向き合う時間を増やしていただきたいと考えています。これらのサービスを通して、ジンジャーは『「ひと」の可能性のすべてが見える世界へ』をつくっていきます。

松山氏:
HR SaaSの領域では、AIは嘘をつくのではないか、不確かな回答をするのではないかという不安も語られてきました。一方で、AIの技術は大きく進化しています。我々も、人事の「これからの当たり前」をつくり、お客様と一緒に進化していきたいと考えています。

これまではプロダクトを中心に提供してきましたが、今後、ジンジャーはオンラインコミュニティも立ち上げます。オンラインで情報交換ができる場をつくり、ナレッジをシェアしながら、よりよくジンジャーを使っていただけるようにしていきます。ご興味のある方は、ぜひお申し込みください。

まとめ

オープニングセッションでは、ジンジャーがサービス開始から10年でどのように進化してきたのか、そしてAI時代に向けてどのようなプロダクトビジョンを描いているのかが語られました。

人事労務、勤怠、給与、評価、サーベイ、採用管理などのデータをひとつの人事データベースに集約することで、業務効率化だけでなく、AIを活用した離職予兆の検知や人材配置、経営判断への活用にもつなげていく。「統合型人事データベース」の価値が、ジンジャーの次なる10年の方向性として示されました。

また、HR Signals、AI Assistant、AI エージェント、Manager Assistといった新サービスからは、人事業務を自動化しながら、人事担当者がより戦略的な業務や従業員との対話に時間を使える未来が見えてきます。

後編では、基調講演『「産学官」で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~』の内容をレポートします。

インドと日本の“違い”を掛け合わせる。異文化から「第三の解」を生み出す実践【現場を変えるCQ白書 第7回】

コラボレーションは、ときに苦労も生じます。

相手が異国にいればなおのこと。しかも相手がインドとなれば、苦労が増えることも想像に難くないでしょう。10人に聞けば10人が違うことを答えるほど、多様性に富んでいるからです。

そんなインドで2019年にデジタルブランディング支援会社「STORYTELLING LLP」を設立した見上すぐりさん。同社の強みは、日本やインド、中東などの多国籍メンバーでチームを組み、その“違い”を掛け合わせていることにあります。

しかし最初から上手くいったわけではありません。見上さんはインドに縁があったわけでもなく、その道のりは試行錯誤の連続でした。

次世代リーダーに欠かせないCQという力をテーマにした本連載。今回はインドと日本という文化の違いをCQでパワーへと変えていく実践について聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

日本でのつまずきとインドでの会社設立

見上すぐりさんのキャリアは、日本の大手信託銀行からスタートしました。役員秘書を務めますが、約5年で退職します。見上さんは次のように振り返ります。

ある日急に眠れなくなってしまったんです。まさに文化が合わなかったのだと思います。そもそも「何をしたいのか」より「どこに所属するのか」で就職先を決めていました。結果的に心身が疲れてしまい退職しました。

その頃に結婚をしましたが、心身が良くない状態ではパートナーシップを築くのも難しくて。2年ほどで破綻しました。所属する会社も家庭も無くし、失うものが何も無い。どん底の時期でしたね。
でも逆に「自分のやりたいことは何か」と考えられた。CQの第一歩というか、自己理解を深めるきっかけになりました。

その後、ベンチャー企業勤務を経て、デジタルマーケターとして独立。再婚もします。そして相手の仕事の関係で移住した先がインドでした。

初めての土地ながら「自分の場所に帰ってきた」という感覚を持ったと見上さんは言います。

「隣の人と会話ができる」という前提がないことが心地良かったんです。

インドでは隣の人の言語や宗教が同じとは限りません。宗教や生まれた州が違うと、祝日も食事も日々のルーティンも違います。10億人超がそんな違いを受け入れ合い、国を成り立たせているという壮大さに惹かれました。

一方でその頃、二度目のどん底を経験しました。第三子を流産してしまったんです。
そのことをきっかけに、会社という、生産するコミュニティをつくりたいと考えて起業に至りました。

日本とインドとの“違い”

見上さんが設立したSTORYTELLING LLPは、現在はインドや中東へ進出する日系企業に対してデジタルでのブランディングやマーケティングを支援しています。

日系企業から依頼を受け、インドで採用した人たちと一緒に、インド市場のためのサービスを提供する……。いくつものギャップがあるため、プロジェクトには苦労が付き物だと話します。

日本とインドは、かなり異なる文化を持っていますよね。

インドは流動性の国なんですよ。毎日のように何かが起こるのでプランDくらいまで用意しなければならない。でも日系企業は長期的プランを立てますし、変化を嫌がりますよね。

また、私は「リラックス」がクリエイティビティの源泉だと思っています。ただインド人がリラックスし過ぎていると、日系企業に価値を感じてもらえない場合があります。結果、日本側とインド側にギャップが生まれることになります。

見上さんのリーダーシップについて周囲から「インドのメンバーに軽視されているのでは?」といった指摘もあったそう。事業が成長し、クライアントの企業規模が大きくなるほど、そのギャップは広がったといいます。

チームづくりや、プロジェクトの進め方に課題を感じていた見上さん。そんなときに知人の紹介から受講したのが、CQ養成講座でした。

衝撃だったと話すのは、日本という国の“特異さ”です。本連載でも紹介した、文化の違いを理解するためのフレームワーク「ホフステードの6次元モデル」は、文化の傾向を数値で見ることができます。一例として日本は「不確実性を回避したい」という傾向が、世界でも突出して高い国です。

このフレームワークを通すと、見上さんがチームづくりに抱いていた課題は、自身が権力格差の小さい参加志向である一方で、インドは権力格差の大きな階層志向が強いことが原因だと考えられました。

特に北インドは、歴史的に闘いが多かった地域です。そのためロジックの根底には「権威」や「階層」があります。

ですが私は公平性を大事にしていて、さらに女性でもあるので、メンバーから「リーダーシップがない」「頼りない」と見られていたのだと思います。

それからは、女性性より男性性を出すようにアクト(演技)するようにしました。

例えば、日本人女性は積極的にうなずいたり、ほほえんだりして共感を表現しますよね。それを寡黙に振る舞うように変えてみました。結果的に、上手くいくことは増えたと思います。

ところが自分と異なるタイプを演じることに負担もあったと見上さんは話します。

私は「なりきる」タイプなんですよね。憑依させてしまうというか。

信託銀行で心身が疲れてしまった原因も、完璧な秘書としての自分をアクトしていたからだと思います。自分と相手との境界線を設計する必要がありました。

STORYTELLING LLPでも、男性性を出して威厳のある女を演じ続けることはつらかったんですよ。そこで夫にCEOを託し、私はCSO(Chief Storytelling Officer)という役職に就きました。

異文化共創の5段階と葛藤

以下の表は、東海大学の山本志都教授による異文化意識発達モデルです。違いに対する認識の発達過程を5つの段階で示しています。

表:異文化意識発達の5つの過程
フェーズ5
違いとの【共創】
選択に意識的になり、出現させたい未来にコミットする中で、発信力で周囲に影響を与え、探索力で他者からの影響力を受け取り、この相互作用を通じて、相互適応と共進化を実現する状態。
フェーズ4
違いを【相対化】
複数の視点を移動しながら、多面的に比較検討する中で、自分になかった異なる文脈での発想や感覚を理解し、考慮できるようになる状態。異なる選択肢や可能性に対して柔軟な対応が可能になる。
フェーズ3
違いを【最小化】
違いを特別視せず、なじませて調和させる中で、自分に分かる範囲の違いを許容して、ある程度尊重する寛容性がある状態。ただし、理解は限定的。想定外の出来事では許容範囲を超え、違いを踏まえた対応が難しくなる。
フェーズ2
違いに対する【防衛】
違いを認識するようになるが、自分の中で整理しきれず、違和感や抵抗感を覚えている状態。自己防衛のために対象を否定し、攻撃、排除に至ることもある。
フェーズ1
違いへの【無関心】
違いについて考える発想がなく意識外になっている。または興味がなく何とも思わない状態。

フェーズ1~3は違いをコストと見ている段階で、フェーズ4・5はパワーに変えていく段階です。見上さんはこれに沿って、次のように話しました。

初めてCQを学んだときは、自分では【相対化】のフェーズにいるという認識でした。

そこから男性性を強調してアクトし【防衛】というフェーズに下がった気がして悩んでしまって……。

そのことを宮森千嘉子さんに話したところ「みんな、行ったり来たりするんです」とおっしゃってくれました。各フェーズを行き来する中で成長していくのだと。

成長していないわけではないと分かって嬉しかったですね。また同時に、フェーズが上がっていくほど、自分と相手との境界線を設定することが大事だと感じました。

チームづくり、プロジェクト推進……

では現在、見上さんはどのようにチームを運営しているのでしょうか。

先ほども触れたとおり、インドは階層志向が強い傾向があります。「上の人が言うことしか聞かない」ということが起こるため、メンバー同士での協力は苦手だと見上さんは話します。
その点も踏まえ、地域や宗教などの文化的背景も考慮しながらチームをつくっています。

例えば朝は1時間くらい、みんなでチャイを飲みながら“だべる”んですよ。

直接的な仕事は進みません。しかし実はその1時間に、進捗管理や信頼構築などが凝縮されています。人生を語り合い、異なる文化背景を理解して、同志になっていく。

始業と同時に仕事を始める日本とはかなり違いますよね。

さらにプロジェクトについても聞きました。

日本側が主導の場合は、まずは日本側が絶対に外せないメインメッセージと3つの具体を示します。その上でインド側へ「こういう世界を作りたい」というビジュアル資料を共有します。インドの人は多言語文化なので、ビジュアルのほうが理解しやすいからです。

そこからは任せるのですが、ほとんどは日本側が考える6割くらいのクオリティで上がってきますね。そこからリバイズをかけます。たった45秒のビデオでも10回ぐらい修正があったりしますよ。コミュニケーションの多さはある種のお約束事と捉えています。

日本人からすると疑問で仕方ないでしょうね。私の場合は、そこのコミュニケーションをインド人のメンバーに任せています。インド人同士は、そのコミュニケーションやリバイズに何のストレスも感じていません。

文化の“違い”を価値に変える

日本人はイチから積み上げるのが得意ですよね。一方でインドはゼロイチに才能があると思います。枠組みにとらわれていないんですよ。「違うことが当たり前」で、コラボレーションへの心理的な障壁も圧倒的に低い。

近年は、グローバルで評価されるインド・ブランドや、グローバル企業のトップにインド人が就く例も増えていますよね。

最後に、こうした文化に面しながら仕事を進める魅力を見上さんは次のように話しました。

チーム運営は楽ではありません。しかし私自身は、刺激的で最高の環境だと思っています。

ブランディングという仕事は「相手の文化の中で、自ブランドがどのように相手の生活を豊かにしていくか」というストーリーをつむぐことでもあります。ですから、相手の文化的背景への歩み寄りがない限り、ブランディングは成立しません。

その歩み寄りの際に「国」では主語が大きくなってしまいます。CQを意識しながら、まずはその相手と話し合うことの重要性を強く感じていますね。

専門家の視点から
インドの人たちの、“違い”に対する受容性や活用の仕方に学べることは多々あると思います。一方で、CQで重要なのは、自身のコアは保ち続けることです。コアを保ったままで、どのように適応するのか、あるいはこちらに適応してもらうのか。
異なる文化を持つ人と働くことは簡単ではありません。現場での課題に自分を責めてしまう人もいますが、文化への理解を深めCQを高めることで、現場での課題感を緩和できるのではないでしょうか。
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【こんな方におすすめの一冊】

  • 組織に課題感がある人事担当者
  • 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
  • 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
  • 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方

「メンバーシップ型」の限界と、「ジョブ型」の落とし穴

人材不足、DX推進、事業環境の急速な変化――。企業にはこれまで以上に柔軟な人材活用が求められています。

日本企業で長く主流だった「メンバーシップ型」は、人材育成には強みがある一方で、個人の専門性やスキルが見えにくいという課題があり、解決策として期待された「ジョブ型」マネジメントも、変化への対応力という点では限界が指摘されています。

メンバーシップ型では曖昧すぎ、ジョブ型では硬直的すぎる。

こうした中で世界的に注目されているのが、職務や所属ではなく「スキル」を軸に人材を育成・配置・評価する「スキルベース組織」です。これは、人材マネジメントの基準を、曖昧な「人」そのもの(メンバーシップ型)や、硬直的な「職務」(ジョブ型)に置くのではなく、より柔軟で可視化しやすい 「スキル」 に置くという考え方です。

多くの企業では、社員の持つスキルが「見えない」状態になってしまっています。これでは、変化に対応できる強い組織を作ることはできません。

「スキルベース組織」は、「スキル」という新たな軸を取り入れることで、メンバーシップ型とジョブ型という両制度の不具合を解消し、それぞれの「良いところ」を活かし、柔軟性の高い人材マネジメントを、企業経営で実現するためのアプローチです。

本稿では 小出翔『誰もが成長し活躍する会社のしくみ「スキルベース組織」という新しい人材マネジメントの実践法 』(プレジデント社)より一部抜粋・編集してスキルベース組織導入のポイントをお伝えします。

執筆者小出 翔(こいで しょう)株式会社グローネクサス 代表取締役

デロイトトーマツコンサルティングでの14年間のコンサルティング業務において、様々な業界の大手企業から官公庁、自治体まで、のべ120社(団体)500万人の人材マネジメントを支援してきた“人事戦略のプロ”。独立・起業後も、大手電力・製薬・素材業や金融業等にて人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。経済産業省・IPAでは、デジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリング分野に特に強みを持つ。

https://grownexus.co.jp/

スキルベース組織への変革の進め方-スモールスタートと段階的展開の原則

スキルベース組織への移行は、単なる人事制度の変更ではありません。それは、組織の文化、働き方、そして社員一人ひとりのキャリアに対する考え方そのものを変革する、全社的な一大プロジェクトです。

この壮大で、時に痛みを伴う変革を成功に導くための鍵は、「スモールスタート」と「段階的展開」という、現実的かつ戦略的なアプローチにあります。

「完璧主義」と「拙速な全社展開」という甘い罠

変革プロジェクトにおいて、リーダーが最も陥りやすい、そして致命的なダメージを与える2つの罠があります。それが「完璧主義」「拙速な全社展開(ビッグバン・アプローチ)」です。

完璧主義の罠 準備段階での失速

「全社員のスキルを完璧に定義し、評価基準を完全に整備し、システムのバグを一つ残らず解消してからでないと、スタートできない」

一見、非常に真摯で責任感のある態度に見えます。しかし、この完璧主義こそが、変革のモメンタム(勢い)を失わせる最大の原因となります。

変化の激しい時代において、「完璧なスキル定義」など存在しません。議論と準備に時間をかけすぎている間に、ビジネス環境は変化し、当初の前提は崩れ去ります。

プロジェクトメンバーは疲弊し、社内からは「結局、何も変わらないじゃないか」という冷ややかな見方が広がります。完璧を目指すがゆえに、永遠にスタートラインに立てないのです。

拙速な全社展開の罠 導入直後の大混乱

完璧主義とは対極にあるのが、「とにかく新しいシステムを全社に導入すれば、皆が使い始めてなんとかなるだろう」という、見切り発車型のビッグバン・アプローチです。これは、経営層が短期的な成果を求めるあまり、陥りやすい罠です。

しかし、準備不足のまま、多様な部門、多様な考えを持つ全社員に対して、一斉に新しいしくみの利用を強制すると、何が起こるでしょうか。現場は大混乱に陥ります。

「使い方がわからない」「今までのやり方と違う」といった問い合わせが殺到し、推進部門は対応に追われます。そして、予期せぬ問題や運用上の課題が噴出し、それに対処できないまま、ネガティブな評判が全社に広がり、変革への信頼は失墜します。一度広がった不信感を払拭するのは容易ではありません。

スモールスタートの重要性 「小さく始めて、速く学ぶ」

これらの罠を回避し、変革の成功確率を高めるための最も現実的なアプローチが、「スモールスタート」 です。

まずは特定の領域(部門、職種、スキル)に絞って試験的に導入(パイロット導入)し、そこから具体的な学びを得ながら、徐々に展開範囲を拡大していきます。

パイロット導入の対象領域を選定する「戦略」

スモールスタートは、単に規模を小さくすることではありません。どの領域から始めるかという「戦略」が重要です。パイロット導入の対象としては、以下のようないくつかの選択肢が考えられます。

1「最も痛みが大きい」領域から始める

たとえば、人材不足が深刻で、早急なスキルシフトが求められている部門(例:DX推進部門、新規事業開発部門)から開始する。課題が明確であるため、変革の必要性が理解されやすく、成果を測りやすいというメリットがあります。

2「最も変革に協力的」な領域から始める

変革に対して前向きで、新しい取り組みへの意欲が高いリーダーがいる部門を選ぶ。彼らを初期の成功事例の「ショーケース」とし、変革の推進役(アンバサダー)となってもらう戦略です。

3「最も定義しやすい」領域から始める

スキルの定義が比較的容易で、標準化が進んでいる職種(例:ITエンジニア、データサイエンティスト、あるいは営業職など)から開始し、方法論を確立する。

4「全社共通の課題」となるスキルから始める

職種を問わず、全社共通で重要性が高い特定のスキル(例:デジタルリテラシー、プロジェクトマネジメントスキルなど)に絞って、可視化と育成施策から開始する。

自社の戦略、組織文化、そして変革への準備状況(レディネス)を踏まえ、最も効果的なスタート地点を見極めることが重要です。

アジャイルなアプローチ 計画・実行・学習のサイクルを高速で回す

スモールスタートの目的は、「失敗しないこと」ではありません。むしろ、「速く失敗し、速く学ぶ」ことです。

パイロット導入の段階では、必ず多くの課題や想定外の問題が発生します。

「スキル定義が現場の実態と合わない」

「システムが使いにくい」

「マネージャーが協力してくれない」

重要なのは、これらの課題を隠すのではなく、素早く学びを得て、しくみや運用方法を柔軟に改善していくことです。

計画(Plan)、実行(Do)、検証(Check)、改善(Action)のサイクルを数週間単位の高速で回す、アジャイルなアプローチが求められます。「まずは6割の完成度で開始し、現場のフィードバックを得て、使いながら磨き上げていく」という機動的な姿勢が重要です。

そして、パイロット導入で得られた具体的な成功体験(「スキルが可視化されたことで、こんなに効率が上がった」「思いがけない人材が発掘された」など)と、蓄積されたノウハウを武器に、徐々に対象範囲を拡大していくことがポイントです。

導入のロードマップ(例)

スキルベース組織への移行は、通常、数年単位の長期的な取り組みとなります。一気にすべてを変えようとするのではなく、自社の成熟度に合わせて、現実的かつ段階的なロードマップを描くことが重要です。

以下に、一般的な導入ロードマップの例を示します。しかし、これはあくまで一例であり、自社の状況に応じて柔軟にカスタマイズする必要があります。

フェーズ1:基盤構築とパイロット導入(半年〜1年目)

目的

スキルベース組織の土台(共通言語とシステム基盤)を築き、小さな成功体験を作り出す。

主な取り組み

  • 変革のビジョンと目的の明確化(なぜ今、スキルベース組織を目指すのか)
  • 部門横断の推進体制(CoE)の構築
  • スキルタクソノミー(共通言語)の初期バージョンの構築(AIを活用し、まずは主要なスキル群から定義)
  • パイロット部門の選定と、現状のスキルデータの可視化(スキルインベントリ構築)
  • パイロット部門での運用開始(スキル更新ルールの試行、初期のインセンティブ設計)

期待される成果

パイロット部門において、スキルベースでの人材把握が可能になる。初期の成功事例と運用上の課題が明確になる。

フェーズ2:活用推進と全社展開(半年〜2年目)

目的

スキルデータの活用を本格化し、対象範囲を全社に拡大する。人事プロセスとの連携を開始する。

主な取り組み

  • パイロット導入の学びを踏まえた、スキルタクソノミーの拡充と洗練化
  • 全社的なスキルデータの可視化と、運用ルールの展開
  • タレントインテリジェンスプラットフォーム(ツール)の選定・導入
  • 「配置・育成」プロセスとの連携強化
  • 社内タレントマーケットプレイスの試験導入と段階的拡大
  • スキルギャップ分析に基づく、戦略的なリスキリングプログラムの導入
  • LXP導入による、個別最適化された学習環境の提供
  • マネージャー向けの意識改革・トレーニングの集中的な実施(チェンジマネジメント、チェンジ・チャンピオン等の育成等)

期待される成果

スキルベースでの配置(異動・プロジェクトアサイン)や育成が、具体的な成果を生み出し始める。社員がスキルを意識し、自律的な学習に取り組む文化が醸成され始める。

フェーズ3:高度化と定着(2〜3年目以降)

目的

スキルベースの人材マネジメントを組織文化として定着させ、戦略的な意思決定に活用する。

主な取り組み

  • 「評価・処遇」制度との連携(スキルベースの評価・報酬制度の導入・定着)
  • AI活用による運用のさらなる高度化・効率化(スキル推定精度の向上、キャリアパス推奨など)
  • データに基づく戦略的な要員計画(Strategic Workforce Planning)の実現(将来のスキル需要予測と、採用・育成・配置計画の連動)
  • 人的資本経営の高度化と、データに基づく情報開示

期待される成果

組織全体で、スキルを基軸とした自律的なキャリア形成と、適材適所の人材配置が実現される。変化に柔軟に対応できる、俊敏性の高い組織へと進化する。

推進体制構築とチェンジマネジメント 「人」が動かなければ変革は進まない

全社的な変革を推進するためには、強力な推進体制が不可欠です。

これは、決して人事部門だけでリードできるものではありません。組織全体の「総力戦」で臨む必要があります。

経営層の強いコミットメント 変革の「熱源」

最も重要なのは、経営トップの揺るぎないコミットメントです。経営トップ自らが変革の必要性を深く理解し、そのビジョンと情熱を、自らの言葉で繰り返し発信し続ける必要があります。

単に承認するだけでなく、重要な会議体で進捗を確認し、必要なリソース(人、物、金)を投入し、時には困難な意思決定を下す。経営層が本気で取り組む姿勢を見せることで、社員の間に「今度こそ本気だ」という認識が広がり、変革への協力が得られるようになります。

部門横断の推進チーム( CoE)の組成

実務レベルでは、専門知識を結集した部門横断の推進チーム(CoE:Center of Excellence)を組成することがきわめて有効です。

  • 人事部門:制度設計、スキル定義、人材開発、チェンジマネジメントの専門知識を提供
  • IT・DX部門:システム基盤の構築・運用、データ連携、AI活用の専門知識を提供。
  • 経営企画部門:全社戦略との整合性、投資対効果の検証、ロードマップ管理を担当。
  • 現場部門の代表者(ビジネスパートナー):現場の視点を取り入れ、パイロット導入をリードし、各部門への展開を支援。

とくに重要なのは、現場部門の代表者を初期段階から深く巻き込み、「人事部のプロジェクト」ではなく、「自分たちのプロジェクト」として当事者意識を持ってもらうことです。彼らは、現場の課題を最も理解しており、変革の強力な推進役(チェンジ・エージェント)となりえます。

チェンジマネジメント( 変革の推進) 抵抗を乗り越える技術

新しいしくみを導入する際には、必ず現状維持を望む「抵抗」が現れます。これは自然な反応です。人は慣れ親しんだやり方を変えることに不安や恐れを感じるものです。

「面倒だ」「失敗したらどうする」「今のままで問題ない」。この抵抗を力で抑え込むのではなく、乗り越えるためには、丁寧な「チェンジマネジメント(変革の推進)」が不可欠です。

これは、変革に伴う「人」の感情や心理に焦点を当て、スムーズな移行を実現するための技術です。

1 丁寧なコミュニケーションと透明性の確保

なぜ変革が必要なのか(Why)、具体的に何が変わるのか(What)、どのようなメリットがあるのか(WIIFM)を、対象者(経営層、マネージャー、一般社員)に合わせて、繰り返し、粘り強く説明します。不安や疑問に真摯に対応し、透明性を確保することが信頼関係を築きます。

2 クイックウィン(小さな成功体験)の創出と共有

変革の効果を早期に実感してもらうために、小さな成功体験(クイックウィン)を意図的に作り出します。そして、その成果を積極的に社内で共有し、「変革は良いことだ」という機運を高めていきます。

3 変革のリーダー(チェンジ・チャンピオン)の育成

各部門で影響力のある人物(インフルエンサー)を特定し、彼らを変革の推進役(チェンジ・チャンピオン)として育成します。彼らが自らの言葉で変革の意義を語ることが、ほかの社員の行動変容を促します。

変革は、一朝一夕には実現しません。ロジック(論理)とエモーション(感情)の両面に働きかけながら、粘り強く、そして柔軟に、組織全体を巻き込みながら進めていく覚悟が求められます。

まとめ

完璧な制度設計を目指すだけでは、変革は「絵に描いた餅」に終わります。スキルベース組織の運用を成功させる鍵は、現場の視点に立ち、「ツール」「ルール」「インセンティブ」の3つを統合的に設計することにあります。

  1. ツール:AIなどの最新テクノロジーを活用し、データ管理の負荷を劇的に軽減し、高度化する。
  2. ルール:データの鮮度と信頼性を維持するために、日常業務の中に溶け込んだ、現実的で習慣化しやすいプロセスを設計する。
  3. インセンティブ:社員とマネージャーが自発的に協力したくなるような、明確なメリット(新たな機会、成長支援、公正な評価など)を組み込む。

そして、この全社的な変革を進めるうえでは、「完璧主義」や「拙速な全社展開」の罠を避け、「スモールスタート」と「段階的展開」というアジャイルなアプローチが不可欠です。

完璧を目指さず、小さく始め、速く学び、具体的な成功体験を積み重ねながら、着実に変革を進めていくこと。そして、経営層の強いコミットメントのもと、丁寧なチェンジマネジメントを通じて組織全体を巻き込んでいくこと。

社員一人ひとりが持つスキルを可視化し、今必要なスキルと将来必要になるスキルとのギャップを明確にする。そして、そのギャップを埋めるための育成機会を提供し、習得したスキルに基づいて適材適所に配置し、公正に評価する。これにより、社員は自律的にキャリアを築き、成長を実感できるようになります。

若手もベテランも関係なく、持つスキルに応じて活躍の場が与えられ、評価される。エンゲージメントは高まり、優秀な人材の定着にも繫がります。

企業にとっても、社内にどのようなスキルがどれだけあるのか(人材ポートフォリオ)を正確に把握できるため、変化に応じた柔軟な組織再編や、戦略的な人材配置が可能になります。

「スキルベース組織」は、行き詰まった人事制度を打破し、社員も会社も成長する〝正のスパイラル〞へと導くための具体的なしくみです。

スキルベース組織への移行は、決して平坦な道のりではありません。多くの困難と、時には後退もあるでしょう。しかし、変化を恐れず、常に学び、進化し続ける姿勢こそが、この不確実な時代を生き抜くための最も重要な組織能力(ケイパビリティ)なのです。

「プレイングマネージャー」の終焉──「正社員×外部人材×AI」で創るハイブリッド営業組織

前回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その「境界線」の重要性と、組織を再設計する「AX(AIトランスフォーメーション)」の必要性についてお話ししました。

では、実際にその境界線をどのように引き、組織として運用していくべきなのでしょうか。最終回となる今回は、AIに加え、外部人材を交えたハイブリッド組織における具体的な役割の切り分け方と、その仕組みを創り出す「マネージャー」の役割の変革について解説します。

寄稿者大矢 剛大株式会社SaleSeed 代表取締役社長

名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。

「個人の力」に頼るマネジメントの限界:プレイングマネージャーから「組織の設計者」へ

従来の営業マネジメントは、マネージャー自身が現場を牽引し、その背中を見せてメンバーを育成する「プレイングマネージャー」の形が主流でした。しかし、正社員の確保が慢性的に難しくなった現代において、個人の力に依存する組織運営は限界を迎えています。

これからの営業組織は、プロフェッショナルな外部人材やAIツールがチームのインフラとして当たり前に存在する「ハイブリッド組織」へと移行します。

ここでマネージャーに求められるのは、プレイヤーとしての優秀さではありません。正社員、外部人材、そしてAIという、性質の異なる3つのリソースを最適に組み合わせ、勝てる仕組みを創り出す「組織の設計者」としての役割です。

設計者が定義すべき「3つのリソース」の境界線

組織の設計者となったマネージャーが最初に取り組むべきは、各リソースの特性を理解し、その境界線を最適に定義することです。前回解説した「人とAIの境界線」に「外部人材(BPO等)」を加えた3つのリソースは、以下のように役割を分担させるべきだと考えます。

リソース 担当する領域 具体的な業務例
AI 「型化・認知」 情報収集、リスト作成、議事録要約、データ分析
外部人材 「特定フェーズの実行」 初期アプローチ(インサイドセールス)、特定業界への横展開
正社員 「不確実性の高いコア」 高度な合意形成、顧客との長期的な信頼関係構築

AIにリサーチや要約などの「定型作業」を任せ、外部人材にインサイドセールスなどの「型化された実行」を委ねる。これにより、自社の正社員は「顧客との信頼関係構築」という、最も付加価値が高く、かつ不確実性の高いコア業務にリソースを集中させることが可能になります。

テクノロジー活用によるマネージャー自身の「時間創出」

このハイブリッド組織を運用するにあたって、マネージャーが直面しやすい課題があります。それは、リソースが多様化したことで、かえって進捗管理やメンバー教育の手間が増えてしまうという問題です。

そのため、組織の設計者は、AIをメンバーの利便性向上のためだけに使うのではなく、「マネージャー自身の管理・指導時間を代替する仕組み」として組織に組み込む必要があります。

いわば、「管理と基礎指導のシステム化」です。日々の行動量担保は外部人材との連携フローの中で自動化し、基礎的なフィードバックはAIに委ねます。

SaleSeedでの取り組み事例:AIを活用した商談解析・品質標準化システム

弊社の組織でも、自社エンジニアと連携し、AIを用いた商談の自動解析とフィードバックの仕組みを開発・実装しています。

具体的には、オンライン商談の録音・録画データをAIに読み込ませることで、「トークの構成」や「顧客への課題訴求の適切さ」を多角的に自動解析し、具体的な改善点を即座に出力、それをメンバーに取り入れるロープレツールまでを網羅した仕組みです。

これにより、オンボーディング期の立ち上がり支援はもちろんのこと、既存メンバーも含めた「日常的な商談品質の均一化」や、成約率の高い「勝ちパターン」の深掘り・ナレッジ共有までを、AIが自律的に担うことができます。

結果として、営業活動における属人性が排除され、組織全体の商談クオリティを高い水準で保持できます。同時に、マネージャーが個々の営業品質の担保やチェックに費やすリソースも最小限に抑えられます。

AIが持つ解析・フィードバックの能力を仕組みとして組織に組み込むことで、マネージャー自身はより高付加価値なコア業務へと注力できるようになるのです。

創出した時間で行う「人間にしかできないマネジメント」への集中

テクノロジーと外部リソースの活用によって、日々のタスク管理や基礎的な指導から解放されたマネージャー。そこで創出した時間を、一体何に投資すべきなのでしょうか。

これからのマネージャーが真に注力すべき役割は、AIや外部人材には決して代替できないコア業務に集約されます。

不確実な局面における「意思決定」と「責任の引き受け」

AIは過去のデータから「確率の高さ」を算出することは得意ですが、前例のないトラブルや、データが不足している状況での「最終的な決断」はできません。そして何より、その決定に伴う「責任」を負うことは不可能です。

リスクを伴う局面において、「自分が責任を持つから、この方針でいこう」と覚悟を持って決断を下し、メンバーの後ろ盾になること。この「意思決定」「責任の引き受け」こそが、ビジネスを動かすマネジメントの本質です。

仕組み化できない「感情」に向き合う「ヒューマンタッチ」

どれだけAIや仕組みが進化しても、人間の感情の機微を汲み取り、動かすことはできません。マネージャーは、生まれた時間をチームメンバーの「心理的安全性」「モチベーション維持」「中長期的なキャリアの悩み」といった、一対一の深い対話に投資すべきです。

「数字は出ているが、プロセスにおいて何か不安を抱えていないか」「将来どのようなビジネスパーソンを目指しているのか」といった、データには表れないインサイトに向き合うこと。これによってメンバーとの絆や信頼感が深まり、結果として組織全体のパフォーマンスが最大化します。

変化に応じた「組織の設計図」の継続的なアップデート

そして、これらのマネジメントを原動力として機能させ続けるために、「組織の設計図」自体を継続的にチューニングしていくことも忘れてはなりません。

日々進化するAIの技術トレンドや市場環境の変化に合わせて、「この業務もAI領域へ移行しよう」「外部人材の連携フローを見直そう」といったように、仕組みを常にブラッシュアップし、最適化し続けることも設計者たるマネージャーの大切な役割となります。

まとめ

3回にわたってお届けした本連載の結論として、これからの営業組織の強さは、「プレイングマネージャー個人の能力」ではなく、「組織の設計図の緻密さ」で決まります。

多様なリソースの境界線を適切に設計した上、テクノロジーで時間を生み出し、人間が最も人間らしいコア業務、そして本質的なマネジメントに集中できる組織を創ること。

これこそが、激変する時代を勝ち抜くための、新しい営業マネジメントのあり方です。

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“結果を出す”がゴールではない。社員が成長し続けるための人材育成戦略|プレシャスパートナーズ矢野

企業経営において、売上や数字といった目に見える成果は重要です。しかし、その数字だけで社員の価値を判断してしまうと、短期的な実績に引っ張られた点の評価に偏り、長く活躍する人材を育てる視点が欠けてしまうことがあります。

本当に大切なのは、“結果そのもの”よりも、「チーム・顧客・会社にどのように貢献したのか」というプロセスです。企業の成長は、単発の成果ではなく、“信頼の積み重ね”と“社員一人ひとりの成長”によって築かれていきます。目先の成果が良くても、貢献の意識や成長の意志が伴わなければ、組織は持続的に強くなれません。

社員が長期的に活躍するためには、「どんな思考と行動でその結果にたどり着いたのか」を評価し、それを育む文化が不可欠です。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

本当に価値があるのは「結果」が「貢献」につながっていること

成果主義が強くなりすぎると、社員はつい“自分の数字”だけに意識を向けがちです。短期的には成果が出ても、その裏でチームの信頼関係や心理的安全性が損なわれてしまえば、長期的には組織が弱体化し、離職につながる可能性も高まります。

企業が成長し続けるためには、個人が生んだ成果が“個人だけの成功”で終わらず、「組織や仲間への貢献」に結びつく状態が必要です。

例えば、

  • 成果を出した社員が、自分のノウハウを共有し、チーム全体のレベルアップにつなげる
  • 失敗や課題を正直に共有し、チーム全体で同じミスを防ぐ
  • 後輩の相談に乗り、育成を通じて“未来の戦力”を生み出す

こうした行動の連鎖こそが、企業にとっての本当の価値です。大切なのは、「自分が得た成果を、どう仲間や会社のために使うか」という姿勢。ここにこそ、長期的に成果を生み続ける土台があります。

「結果を出した人が活躍し続ける」ためのプロセスづくり

“結果を出すこと”はキャリアの終着点ではありません。それはむしろ、次の成長のスタートラインです。

企業が本当に評価すべきなのは、社員が結果を出し続け、組織に貢献し、後輩を育て、チームを強くしていく一連のプロセスです。つまり、活躍を“点”ではなく“線”で捉える視点が重要になります。

たとえば、次の2名の社員を比較してみます。

  • 先輩から引き継いだ顧客から継続して100万円の契約をいただいた社員
  • ゼロから新規顧客を開拓し、10万円の契約を獲得した社員

数字だけを見れば前者のほうが大きいように見えます。しかし会社として評価すべきは後者です。新規開拓には「関係構築」「価値提供」「信頼獲得」といったプロセスが存在し、その行動こそが組織の未来につながるからです。

このように、「どんなプロセスを経て成果が生まれたのか」を評価に反映することで、社員は“再現性のある成長”を身に付け、活躍し続ける基盤ができます。

社員が中長期的に成長し、「挑戦→成功→貢献」の循環を生み出せるようにすること。それこそが、持続的な組織づくりに欠かせません。

「プロセス評価」を行うために必要な3つのポイント

結果だけを見ず、プロセスに光を当てる評価へと移行するには、単に「プロセスも見よう」と声を上げるだけでは機能しません。制度設計・マネジメント運用・現場の3つが一致してはじめて、仕組みとして成立します。

①プロセスを「見える化」する評価基準をつくる

プロセス評価が形骸化しやすい理由は、「何を見れば良いのか」「どう評価するのか」が曖昧なためです。評価基準を設定する際は、以下のような行動を可視化する必要があります。

  • 課題の捉え方
  • 自主的に行動できていたか
  • チームへの貢献
  • 顧客価値の創出度(期待以上の提案やフォロー)

数値では測れない行動に基準が生まれると、社員自身も「何を伸ばせば評価されるのか」を理解でき、行動改善が進みやすくなります。

②上司はプロセスを言語化する伴走者になる

プロセス評価を浸透させるうえで最も重要なのは、日々メンバーを支援する上司の役割です。上司が「数字だけで判断しない」「行動背景を理解する」という姿勢を持ち、部下に示すことで、挑戦しやすくなり、結果よりも成長を重視した行動をとれるようになります。

部下には以下のような質問で、行動や考えを深掘りし、壁打ちする時間を設けましょう。

「今回の行動を選んだ理由は?」
「どんな仮説を持って動いた?」
「次に改善するなら、どこを変える?」
「その行動はチーム(会社)にどう共有できる?」

社員の思考を言語化し、自覚させるこのプロセスが、成長の再現性を高める大きなポイントです。

③「失敗の共有」ができる環境を作る

ルールを守らなかったり、報連相ができず、起きるべくして起きたミスはしっかりと指導すべきですが、挑戦した結果成果にならなかったことなど「成長の過程にある失敗」は共有し、ポジティブに捉えることも大事です。

失敗の共有がポジティブに捉えられる文化がある会社では、学びが組織全体に広がり、挑戦が増え、成功率も高まります。

特に重要なのは、「失敗したこと」ではなく「なぜそうなったのか」「次はどうするか」を評価することです。社員が「失敗しても大丈夫」と思える環境が整うことで挑戦の質が上がり、結果的にプロセス評価が生きたものになります。

プレシャスパートナーズの制度は“活躍の再現性”をつくるためにある

プレシャスパートナーズでは、社員一人ひとりが主体的に成長し、貢献できる環境を整えることを目的に、制度の設計にもこだわっています。制度導入の本質は、仕組みを整えることではなく、「活躍のプロセスを支え、再現性を高めること」です。

制度①:立候補制の昇進試験

昇進は、上司の推薦ではなく“立候補制”。「次の役割に挑戦したい」「もっと大きな責任を担いたい」と自ら手を挙げた社員に、公平にチャンスを提供しています。

試験では数字だけでなく、

  • 理念の理解
  • マネジメントに対する考え方
  • 会社への貢献の意志

といった点を重視します。「評価されたから昇進する」のではなく、「自分のキャリアを自分で選び取る」姿勢を大切にしているのです。

制度②:ジョブローテーション

営業→人事、営業→キャリアアドバイザーなど、異なる職種への異動も積極的に行っています。

ジョブローテーションは、単なる配置転換ではありません。

  • 社員の適性
  • 社員自身が「どう貢献したいか」という意思

これらを掛け合わせ、最も力を発揮できる配置を見極める制度です。

職種横断の経験を通じて社員は多角的な視点を身に付け、自らの強みを再発見し、会社への理解も深まります。“プロセスを評価する文化”と相性の良い制度だからこそ、活躍の再現性が高まり、キャリアの幅も広がっていきます。

まとめ

プレシャスパートナーズの人材育成の根底にあるのは、「誰と働くか」という理念です。社員一人ひとりが「何のために働くのか」を自覚し、仲間と共に成長し続ける。その姿勢こそが、組織を持続的に強くする力になります。

“結果を出すこと”は大切ですが、それはゴールではなく“次の貢献を生むための通過点”です。結果の裏側にあるプロセスを評価し、貢献の連鎖が起こる文化をつくることで、人は成長し、組織は強くなります。

社員一人ひとりが「成長→挑戦→貢献」の循環を実現したとき、企業は“人が育ち続ける会社”へと進化します。私たちはそのための環境づくりに、これからも真剣に取り組んでいきます。

「AIが求人を提案する」時代へ ──求職者調査が示す「3つの9割」と、採用担当が今すべき準備

スカウトメールを送っても返信率は下がる一方。求人媒体に出稿しても応募が伸び悩む。人材紹介経由でも、欲しい人材になかなか出会えない。多くの採用担当者が、日々の業務でこうした手応えの乏しさを感じているのではないでしょうか。

なぜ、従来のやり方では成果が出にくくなっているのか。本稿では、私たちOurStoryが2026年4月に実施した独自調査で見えた求職者側の実態と、米国Indeedで公開された最新データが示す「探す」から「提案される」への変化、そして日本でも広がるAI活用の現状を踏まえ、これからの時代に採用担当者が取り組めることを整理してみたいと思います。

執筆者渡部 雄大(わたなべ ゆうだい)株式会社OurStory 代表取締役 CEO

東京大学卒業後、エムティーアイを経てリブセンスに参画。「就活会議」を立ち上げから事業譲渡まで完遂し、「転職会議」の事業責任者として事業再生を牽引。その後Beatrustに参画し、生成AIで人と情報をつなぐプロダクト開発に取り組むなど、COOとして経営全般を統括。2025年6月に株式会社OurStoryを創業。採用市場の構造課題に向き合い続けた経験と、生成AIを活用したマッチングに取り組んだ経験を活かして、パーソナルキャリアAI「PREVIO」を開発。特許第7825249号取得済み。

1. 多くの採用担当者が直面している現実

採用担当者の方々とお話しさせていただくと、共通して聞こえてくる声があります。

「スカウトの返信率がここ数年でじりじり下がっている」
「媒体出稿の費用は増えているのに、欲しい層からの応募は減っている」
「エージェント経由でも、本当に欲しい人材になかなか出会えない」
「他にやれることは、正直見当たらない」

多くの採用担当者は、限られた予算と時間の中で、成果につながる採用を作り続けなければなりません。

やり方は正しいはず。なのに、年々成果が出にくくなっている。この感覚は、決して個人のスキル不足や努力不足の問題ではないと考えています。

従来のやり方で成果が出にくくなっている背景には、求職者側の体験に、既存の採用手法の前提が合わなくなっている実態があります。その実態を、まず数字で見ていきます。

2. 求職者側で起きている「3つの9割」

転職活動には、大きく3つの場面があります。スカウトを受け取る場面自分で求人サイトを検索する場面、そして応募・面接に進む場面です。

株式会社OurStoryが2026年4月に実施した調査(過去3年以内に転職活動を経験した23〜49歳の正社員、n=500、インターネット調査)では、この3つの場面それぞれにおいて、転職経験者の約9割が何らかの「不」を経験していることが明らかになりました。

①:スカウトの89.0%が「明らかに的外れ」

過去3年以内に転職活動を経験した500名のうち、89.0%が「明らかに的外れ」と感じるスカウトを受けた経験があると回答しています。

その内容は、希望していない業界・業種のスカウトが来た(45.0%)、明らかに自分の経歴を読まずに送られたと感じた(43.0%)、自分のスキルや経験と全く関係ない職種のスカウトが来た(31.4%)(※複数回答)。

いずれも「採用したい人物像と、実際にスカウトが届いている対象がズレている」現実を示しています。

②:転職サイトでの自力検索、87.2%が「徒労感」

転職経験者の87.2%が、転職サイトで自力で求人を検索する際に何らかの「徒労感」を経験しています。

具体的には、検索結果の多くが「自分には合わない」と感じた(49.0%)、応募したい求人を見つけるまでに想像以上に多くの求人を見る必要があった(44.6%)、同じ求人が何度も検索結果に出てくることに不満を感じた(25.6%)(※複数回答)といった内容です。

③:応募・面接後、88.4%が「ギャップ」を経験

応募・面接に進んだ転職経験者の88.4%が、求人情報から想像していた内容と実態との間に何らかのギャップを経験しています。

最も多いのは「求人情報には書かれていなかった条件(残業・出張等)が判明した」が57.4%、次いで「業務内容やポジションが、求人情報から想像していたものと違った」が38.0%、「社風や働き方が、想像していたものと違った」が20.0%(※複数回答)でした。

このギャップは、選考途中の辞退や入社後の早期離職として表面化します。採用担当者にとっては、選考の歩留まり悪化や、再募集による工数とコストの増大という形で、最終的に自社のコストに跳ね返ってくる問題です。

3つの9割が示すもの

この3つの9割は、それぞれ独立した問題ではなく、転職プロセスの各段階で共通して起きている課題だと捉えています。そして重要なのは、この問題が「誰かが悪い」から生まれているのではないということです。

スカウトを送る採用企業も、求人を掲載する媒体も、求人を扱う人材紹介会社も、それぞれが採用市場で合理的に動いてきた結果として、求職者側に「不」が積み上がっている。採用市場の構造が生んだ問題です。

今、生成AIの技術進化により、求職者側の行動が変化することによって、長らく変わってこなかった採用市場の構造問題に変化が生まれようとしています。

3. 「探す」から「提案される」へ──米国で進む変化と、求職者の代理人としてのAI

この変化が最もはっきり数字に現れているのが、米国のIndeedです。

OpenAIが2026年1月に公開したIndeed活用のケーススタディの中で、Indeed の Chief Revenue Officerである Maggie Hulce 氏は、次のように述べています。

「フラッグシップ製品であるスポンサー求人(Sponsored Jobs)では、現在応募の約70%がAIを活用した推薦から発生している」(※)。

つまり、有料求人広告への応募の大半が、求職者が能動的に検索してたどり着いたものではなく、AIによる求人提案を経由したものになっているということです。

このデータが示しているのは、求人選びの起点が「求職者が能動的に検索する」モデルから、「AIが求職者に提案する」モデルへと、米国市場ですでに大きく移行しているという事実です。

日本でも、この変化は徐々に生まれつつあります。私たちの調査では、生成AI(ChatGPT・Gemini・Claudeなど)をキャリアや転職目的で利用した経験を持つ人は、転職経験者のうち77.6%にのぼることが分かりました。約8割の求職者が、すでにAIを使ってキャリアを考え始めている時代になっています。

ただし、その先の「求人提案」までは至っていません。AIを利用して「自分にマッチする具体的な求人が見つかった」と回答したのは、わずか9.8%にとどまります。

これは、求人マッチングに特化したアルゴリズムを持たないためです。汎用的な生成AIは「キャリアを考える」支援としては機能していますが、「具体的な求人を発見する」支援までには至っていません。

こうした流れの中で、求職者の側に立ち、本人の代理としてキャリアの選択肢を探し続けるAIが必要とされ始めています。ダイレクトリクルーティングのように「企業が求職者を探す」のでも、求人サイトのように「求職者が自力で検索する」のでもない、求職者の志向と経験を起点とする第三のあり方です。

私たちOurStoryも、こうした問題意識から2026年5月12日にPREVIO(プレヴィオ)をリリースしました。

ユーザーにマッチした求人を提案するパーソナルキャリアAI「PREVIO(プレヴィオ)」

PREVIO(プレヴィオ)は、パーソナルキャリアAIです。ユーザーの経験と志向性をAIが深く理解し、マッチする企業を瞬時に提案します。スカウトサービスで企業からのスカウトを待ったり、転職サイトで自分で求人を検索する必要はありません。

さらに、転職を決めていない段階からも利用できます。PREVIOに登録しておけば、AIが定期的に市場を調査し、キャリアの選択肢を継続的に届けてくれます。ユーザーの登録情報は、応募するまで企業に一切開示されない完全クローズド設計なため、安心して自分のキャリアに向き合うことができます。

日本では、転職する際に初めて自分のキャリアを真剣に考える人が多く、諸外国と比較してキャリア自立性や労働生産性の低さが指摘されています。転職する/しないにかかわらず、定期的にキャリアの選択肢に触れることで、自分のキャリアを主体的に考え、日々意欲的に業務に取り組む環境をつくるきっかけを提供できればと考えています。

実際に使い始めた利用者は、何が変わったか

PREVIOを使い始めた利用者からは、これまでの転職サービスとの体験の違いを語る声が寄せられています。

事業開発・コンサルティング領域で経験を積んできた30代のAさんは、まず登録体験から既存サービスとの違いを感じたと話します。

「職務経歴書をアップロードするだけでプロフィール情報の入力が完了し、志向性の候補もAIが提案してくれた。これまでの転職サービスにはなかった体験だった」

マッチングについても、次のように続けます。

「スカウトサービスは経歴とずれたテンプレート的な提案が多かったが、PREVIOは自分のスキルと志向性を踏まえて提案してくれるので、納得感が大きい」

そして、求人との「出会い方」の変化について、大企業での事業開発を経て現在はスタートアップでエンタープライズセールスを担当する40代のBさんは、次のように語ります。

「これまで求人サイトでは、自分にマッチしていると感じる企業になかなか出会えなかった。PREVIOではAIが自分に合った企業を一目で示してくれるので、応募までのフローも自然に進められた」

米国の数字、日本の調査データ、そして実際に使い始めた利用者の体験――これらが指し示しているのは、求人選びの起点が「探す」から「提案される」へとシフトしていく流れが、もはや「来るかもしれない未来」ではなく、すでに始まっている現実だということです。

4. AIに選ばれる企業になるための、採用担当ができる3つの準備

求職者が「求人を自分で探す」のではなく「AIから提案された求人を見る」時代において、企業の採用担当者ができることは何か。

答えはシンプルです。採用ターゲットの候補者に対して、AIに自社を推薦してもらえる状況を作っておくこと。つまり「AIに選ばれる企業」になるための準備を、今から進めておくことです。

具体的な準備を3つ提示します。

① 採用したい人物像の解像度を上げる

AIがマッチングをおこなう以上、企業側の「欲しい人材像」の情報が、AIが深く理解できる解像度で構造化されている必要があります。「コミュニケーション能力が高い人」「主体性のある人」といった抽象的な言葉では、AIが文脈を深く捉えきれません。

抽象的な資質を、検証可能な経験の記述で記載する。例えば、以下のような書き方です。

【例】
抽象的な記述 具体的な記述
コミュニケーション能力が高い人 立場や利害の異なる関係者の間に立ち、双方の論点を整理しながら、合意形成を進めた経験がある人
主体性のある人 前例のない課題に対して、自分で論点を整理し、関係者を巻き込んで解決まで進めた経験がある人
リーダーシップがある人 役職や権限のない状況でも、複数の関係者を動かしてプロジェクトを推進し、目標達成まで完遂した経験がある人
マネジメント経験のある人 5名以上のチームを率い、目標設計・評価・1on1・採用を主担当として行った経験がある

「資質を表す単語」ではなく「その資質が発揮された具体的な行動・経験の記述」を記載することが重要です。前者はAIにとって解釈の幅が大きすぎる抽象表現ですが、後者は求職者の経歴情報とより精緻に照合できる具体情報になります。

こうした行動・経験ベースの記述に加えて、志向性(成長志向か安定志向か、0→1か1→10か、など)や価値観も、同じ解像度で言語化していくことが理想です。

「うちはこういう人と働きたい」を、具体的な行動例やエピソードで語れる状態にすること。これが、求める人物像の解像度を上げる第一歩になります。 

② 自社の魅力を言語化する

求人票の条件情報だけでは、AIは「貴社が候補者にとって魅力的かどうか」を判断できません。

問われるのは、「他社にはない自社の独自性」「働き続けたくなる文化」「実際の業務や働き方の質感」を言葉にすることです。

ここでも、抽象的な表現ではなく、具体的な記述に落とすことがポイントになります。例えば、以下のような記載です。

【例】
抽象的な記述 具体的な記述
風通しの良い社風 週1の全社定例で、経営会議で議論された論点と結論をその週のうちに全社員に共有している
成長できる環境 入社1年目から既存顧客への戦略提案を主担当として任せている
ワークライフバランスが良い コアタイムなしのフルフレックスで、平均残業は月15時間以内

社内では暗黙知になっているカルチャーや、入社してから初めて分かる魅力を、外から読める状態に書き出していく作業です。求人票に、自社の魅力が具体的に記載されているかが重要です。

③ 求人票や会社公式noteで継続的に発信する

AIは、参照元となる情報からその企業を理解します。つまり、AIに自社を正しく理解してもらうには、企業の発信総量と発信の質を継続的に高めていく必要があります。

求人票だけでなく、自社note・公式ブログ・社員インタビュー記事・採用関連の発信を蓄積していくことが、AIが自社の魅力を理解することにつながります。大手企業に資金力では劣る中小企業でも、コンテンツの発信量と質では十分に差別化できる領域です。

求人票や採用ページだけでなく、「うちの会社で働くとはどういうことか」を伝える複数のコンテンツが、Web上に蓄積されているか。これが、これからの採用の競争軸になっていきます。

結び

求人選びは確実に「探す」から「提案される」時代へと移りつつあります。

そしてAIが求職者に求人を提案するこの時代において最も問われるのは、企業が「AIに自社を正しく理解してもらえるだけの情報を、言語化し、発信しているか」ということです。

採用に関わる方々が日々向き合っている課題は、社内調整、限られた予算、競合企業との人材獲得競争など、決して少なくありません。本稿でお伝えした3つの準備も、すべてを一度に始めるのは現実的ではないでしょう。

それでも、まず求人票の一文を見直すところから、できる範囲で一歩を踏み出していくことが、これからの採用の差を生み出していくのだと、私たちは考えています。 

私たちもパーソナルキャリアAI「PREVIO」を通じて、この変化を担う一翼でありたいと考えています。

  • 調査概要:株式会社OurStory調べ。23〜49歳の正社員(個人年収400万〜1,500万円)、有効回答数n=1,000、2026年4月実施、インターネット調査(Freeasy)。転職経験者パートはn=500(過去3年以内に転職活動を経験した正社員)を対象。
  • (※)米国Indeedの応募経路データの出典:OpenAI「How Indeed uses AI to help evolve the job search」(Maggie Hulce 氏(Indeed Chief Revenue Officer)コメント、2026年1月26日公開)。https://openai.com/index/indeed-maggie-hulce/

「良い候補者が来ない」を脱却する。 専門職採用を成功させる人事が実践している4つのこと

はじめまして。X Mile株式会社(以下:クロスマイル) 代表取締役CEOの野呂と申します。

執筆者野呂 寛之X Mile株式会社 代表取締役CEO

国際基督教大学(ICU)卒業後、Terra Motors株式会社のベトナム・カンボジア拠点にて海外駐在を経験。帰国後、FinTechスタートアップ・株式会社ペイミーの創業期に参画し、取締役COOとして事業拡大を牽引。2019年にX Mile株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。物流・建設・製造業などノンデスク産業の人材・組織課題を「HR」と「IT」の両面から解決するHRプラットフォーム「クロスワーク」および業界特化型の採用支援・経営支援SaaS「ロジポケ」等を展開し、ノンデスク産業のインフラ構築に取り組んでいる。

当社は、ノンデスク業界に特化したHRプラットフォーム「クロスワーク」を運営しており、これまで、特に採用難易度の高いとされる物流・建設・製造といった産業の人材支援に向き合ってきました。

これらの領域では、同じ職種でも求められる資格や要件が細かく異なります。たとえばドライバー職ひとつ取っても、扱う車両や業務内容によって必要な資格が変わり、求める人材像も大きく変わります。

人事の方の中には、ITエンジニアをはじめとする専門職採用に、難しさを感じている方は多いのではないでしょうか。

我々が複雑な前提の中で専門職採用を支援してきた経験は、他の専門職領域にも応用できるものだと感じています。本記事では、当社の現場のエージェントの経験も踏まえ、実際の採用現場で起きていることをまとめました。

専門職の採用に携わる方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

専門職採用がうまくいかないのは、「情報の非対称性」が原因?

「現場の要件が理解できない」
「給与水準が高すぎて経営層の承認が下りない」
「エージェントに求人票を渡しているのに、なかなか良い候補者が来ない」

こうした相談を、私たちのエージェントは日々受けています。

課題の根っこはどれも似ていて、現場・市場・経営層との間に生まれる「情報の非対称性」ではないかと思っています。情報が正しく流通していないことで、採用がうまく機能しなくなっているのではないでしょうか。

「自社で育てる時間がない」という状況では、採用は単なる人員補充ではありません。外部から技術と経験を獲得する「投資」として捉え直すことが、まず必要なのではないかと思っています。

では、専門職採用をうまく進めている人事担当者は、実際に何をしているのでしょうか。私たちが現場で感じている4つのポイントをお伝えします。

①「現場ヒアリング」を捨て、「現場理解」へ転換する

専門職採用でまず直面するのが、「採用像が定まらない」という壁です。担当人事がその職種の経験を持たない場合、特にこの課題は大きくなりがちです。

現場に「どんな人が欲しいですか?」と聞いても、返ってくるのは「経験者」「即戦力」「コミュニケーションが取れる人」という言葉が中心です。

これは現場の協力姿勢の問題ではないと思っています。「自分たちが当たり前にやっていること」を言語化すること自体が、難しいのではないでしょうか。

そこで有効なのが、成功・失敗の「事例ベース」で人物像を整理するアプローチです。

「これまでに採用した中で、活躍した方にはどんな共通点がありましたか?」
「逆に、うまくいかなかった方にはどんな特徴がありましたか?」

こうした問いかけをベースに現場の声を集めていくと、採用像に具体的な輪郭が生まれてきます。活躍・失敗の事例を伴った具体的な依頼ができると、エージェントも人事側が想定していなかった候補者を提案しやすくなります。

現場が抱える「負の連鎖」を把握しておくことも大切
専門職が不足している現場では、既存メンバーへの業務集中が起き、新人教育に割く余裕がなくなっています。
  • 即日から動ける人が必要なのか
  • 多少時間をかけて育てられる環境があるのか

この点を人事側が整理しておくだけで、エージェントへの依頼条件が格段に明確になります。

②「社内給与テーブル」ではなく「市場の決定価格」で条件設計する

採用像が定まったら、次は給与条件の設計です。

多くの企業は「社内の給与テーブル」を基準に条件を決めています。それ自体は自然な判断ですが、市場相場との乖離に気づきにくいという側面があります。市場より低い条件のまま募集を続けると、母集団が形成できずに時間だけが過ぎていく——。私たちのエージェントも、そうした場面をよく目にしています。

専門職採用においては、「社内論理」ではなく「市場の決定価格」を起点に条件を組み立てることが、採用の成否を左右するのではないでしょうか。

市場相場を把握する手段としては、主に以下が挙げられます。

  • 求人媒体(Indeed・dodaなど)に掲載されている類似職種の給与帯を調査する
  • エージェントに直近の「内定実績」「求職者の希望年収帯」を直接ヒアリングする
  • 同業他社の求人票を複数比較し、条件の分布を把握する

中でも、エージェントへの直接ヒアリングは特に有効だと感じています。今どの年代が転職市場に出ているか、どの年収帯の候補者が実際に動いているか。こうしたリアルタイムの情報を、人事側から積極的に引き出していただけると、提案の精度も上がります。

また、候補者の希望年収と自社の提示額にギャップがある場合は、上限をエージェントに正直に伝えていただくことをお勧めしたいです。「もしかしたら増額できるかも」という曖昧な状態で進めると、条件が合わない候補者の選考に時間を使うことになりかねません。

現実の上限を共有していただくことで、条件に合致した候補者に絞った提案ができ、結果的に採用が早まることが多いと感じています。

③経営層を動かす「ROI」のロジックを持つ

給与水準の引き上げや採用エージェントの活用を提案しても、「高すぎる」「費用対効果が悪い」と経営層に却下される——。こうした場面に直面している人事担当者の方は、多いのではないでしょうか。

根本には、見ている景色の違いがあるのではないかと思っています。

経営層は「人」を見ながら、同時に「売上や各種経費を含めた経営全体のバランス」も見ています。一方、人事は「この人が入ることで現場がどう変わるか」という具体的なイメージを持っています。

どちらの視点も正しく、対立ではなく、見えている情報量の差から生まれるすれ違いではないでしょうか。

それを踏まえ、経営層に伝わりやすいのは、「採用にかかるコスト」ではなく「採用できなかった場合のコスト」を数値で示すアプローチではないでしょうか。以下は、年収500万円の専門職1名を採用するケースの試算例です。

年収500万円の専門職1名を採用するケースの試算例
採用できなかった場合のコスト 試算例
外注費(業務を外部委託している場合) 月50万円 × 12ヶ月 = 年600万円
既存メンバーの残業代増加分 月5万円 × 3名 × 12ヶ月 = 年180万円
機会損失合計 年780万円

採用にかかる初年度の投資は、年収500万円+エージェントフィー約175万円で合計約675万円です。採用しないほうが年間100万円以上コスト高になる——という構図が見えてきます。

自社の数字に置き換えてこの試算を経営層に示すことで、「採用費は経費」という認識を「採用しないことこそリスク」へと転換できるかもしれません。

④エージェントへの情報共有が、人事の工数を減らす

エージェント活用において、私たちが最も動きやすくなるのは「社内の情報をオープンに共有してもらえること」です。情報共有が不十分なまま進めると、ミスマッチな候補者の選考対応に時間を取られたり、選考が長期化して候補者の意向が下がったりしがちです。
具体的に共有いただくと助かる情報としては、たとえばこんなものがあります。

  • 採用予定ポジションの上長が40代で、それより年下かつ経験豊富な人材が必要だが、連携が取れる配慮のある方を求めている
  • 年収の上限は◯◯万円であり、それ以上の提示は現実的に難しい
  • 書類選考の返答に3日かかっているのは、担当者のリソース不足によるもの

「取り繕わなければ」と感じる必要はないと思っています。こうした情報を共有いただくほど、的確な候補者に絞った提案ができ、人事側が選考対応に割く時間も自然と減っていきます。

面接後の評価・懸念点も、具体的に伝えていただけると助かります。「何となく気になる点がある」ではなく、「具体的にどの点が課題だったか」を共有していただくことで、次回の推薦精度が上がり、選考サイクルが短縮されていきます。

複数候補者の並行選考についても、状況を事前に共有いただけると、連絡タイミングや伝え方をあらかじめすり合わせることができます。

まとめ

ポイント 内容 次のアクション
①現場理解 事例ベースの人物像棚卸しと「負の連鎖」の可視化 現場に「活躍した人・しなかった人」を聞いてみる
②条件設計 市場データを起点にした給与水準の設定 エージェントに直近の内定実績を確認する
③経営層への提案 「採用しない場合のコスト」を数値化して示す 自社の数字でROI試算を作ってみる
④エージェント活用 社内情報をオープンに共有し、採用効率を上げる 次回の打ち合わせで「ぶっちゃけ話」を一つ共有する

専門職採用は難易度が高いとされますが、これらのポイントを実践することで、再現性のある採用の仕組みをつくることは十分に可能ではないかと思っています。

クロスマイルでは、建設・物流・製造をはじめとするノンデスク産業の採用・定着・生産性向上を支援しています。専門職採用に課題をお持ちの人事・経営者の方々にとって、本記事が少しでも実務の参考になれば幸いです。

国際会議・展示会を強力な人材育成施策にする方法|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

最近の受講者は、集合研修から大きいインパクトを求める傾向にあるようです。一方通行になりがちなリモート研修では満足せず、従来の対面研修ではインパクトが足りません。

そこで強くおすすめしたいのが、外部のイベント、特に国際会議や展示会を人材育成施策につなげることです。そう簡単ではないでしょうが、インパクトは非常に大きく貴重な経験になりますし、ビジネスに直結するので成果も大きくなります。

今回は、海外イベントの長所と短所、成功に導くための具体的なヒントをご紹介します。

海外イベントを人材育成施策にする長所と短所

海外イベントを使った人材育成施策の最大の利点は、以下のとおりです。

利点 コメント
強いインパクト 大規模なイベントは世界中のスピーカーセッションと数百社程度の展示ブースがあるため、たった数日間で業界全体のトレンド、ベストプラクティス、製品と動向が把握できる
視野を広げる 普段ふれる機会のないグローバルスピーカー、人脈、製品と接することによって一気に視野が広がる
ヒューマンスキルの強化 数多くの人間とコミュニケーションをとることによって、ヒューマンスキルが高まる。これはAI時代には特に大切な機会となる
グローバルスキルの訓練 数多くの文化的な背景の異なる外国人と英語でコミュニケーションをとることによって、密度の濃いグローバルスキルの訓練になる。話す内容も業務に近いため、国内の語学研修よりはるかに実践的である

利点が多い一方、以下のような弱点もあります。

強い語学力が求められる

従来の一番の問題は英語力でした。ネイティブスピードのセッションについていくのは難しく、展示会で英語ができないと各ブースで何も話せません。ただ、幸いなことにこの問題はAIのおかげで解決できます。やっと今年その感触を得ました(そのため、このコラムを書いています)。

例として、先週参加したグローバルの人材育成関連イベントではすべてのセッションにAIの同時翻訳が付いており、正確性は8割以上で理解するには十分でした。

展示会での会話に関しては、AIを使う手もありますが、話すことはだいたい決まっているので事前の訓練でおおむね身につけることができます。従って、語学力は海外イベントに参加できない言い訳にはもうなりません。

高額な費用

もう一つの大きな懸念点です。イベントの参加費はそれほど高くありませんが、最近は航空券とホテル代が高騰しています。

これに関しては、費用対効果を考えてみましょう。現地で得られた情報を広く共有して、展示会で出合った企業と実際にビジネスを行えば、良い投資効果が出ます。

少なくとも、国内のみの集合研修よりもビジネスチャンスにつなげられる確率は高まります。

成功ポイント

海外のイベントを人材育成のために最大限活かすには、しっかりした計画が必要です。ここで必要な要素は以下のとおりです。

タイミング ヒント
イベント前
  • イベントに向けて必要なコミュニケーションスキルを身につける
  • 準備をしっかり行う
イベント中
  • セッションに積極的に参加して、必ずアウトプットをする
  • 展示会の全ブースに声をかけてヒアリングをする
  • 得られた情報と学びを毎日タイムリーにまとめて報告する
イベント後
  • 膨大な情報量をまとめて実行計画につなげる

タイミングごとの詳細は下記のとおりです。

イベント前

イベントに向けて受講者のモチベーションがとても高くなるので、その高いモチベーションを使って密度の濃い事前研修を行いましょう。特に効果的な研修内容は、コミュニケーションスキル、グローバルスキル、業界の関連知識です。

それ以外に必要な要素は、イベント中の具体的な動きの確認と共有です。おすすめのスタイルは、受講者全員に対するイベントの事前オリエンテーションと、受講者一人ずつに対する個別セッションディスカッションです。

イベントの規模や内容にもよりますが、オリエンテーション@90〜120分、個別ディスカッション@60〜90分 ×2回が定番です。

イベント中

受講者の集中力とモチベーションをさらに高めるためには、毎日最初と最後に受講者全員で話し合う時間を設けると良いです。また、一人だけでセッション参加や展示会回りをすると負担に感じてモチベーションが下がる可能性があるので、基本的に2人ペアで動いてもらうようにしましょう。

セッションの解説中は、AI翻訳を使いながら内容をしっかり把握するよう努めます。受け身で聞くだけではなく、必ず各セッションで隣に座っている人に声をかけて話し合うことも義務にしたほうが良いです。

セッション後は必ずセッションスピーカーのところに行って、質問して写真を一緒に撮るようにすれば、大変充実したセッション体験になります。

展示会参加で大切なことは、できるだけ数多くのブースの人と直接話すこと、チームごとに分かれてブースに迷惑をかけないことです。そのため、展示会フロアをゾーンに分けて各チームの回る範囲と順番を決めます。最終的に全チームが全ブースを回れることが理想です。

各ブースでは最低限、名刺交換と数分立ち話をします。話す内容は、自社とニーズの紹介と出店企業の製品、特徴、新しい動きなどが代表的なものです。数少ない限られたブースで長めに話すより、短めでも数多くのブースで話したほうが反復練習になり成果も上がります。

毎日の最後に話す際に、2人チームの参加したセッションの数、セッションスピーカーの写真、ブースで話した人数などをゲーム感覚で報告し合うと、受講者のモチベーションアップにつながります。

また、日ごとの情報量が多く、タイムリーにまとめないと消化不良になるので、文字と短い映像の報告を毎晩すると良いでしょう。

報告の内容はシンプルに、やったこと、気づいた・学んだこと、仕事に活かしたいことなどです。

イベント後

海外イベントのインパクトは強烈なので、職場に戻るとどうしてもテンションもモチベーションも下がります。せっかくの海外に行った経験をうまく行動につなげるためには、帰国直後に報告会を開くことをおすすめします。

帰国したその週がベストで、遅くても2週間以内に行いましょう。報告会の目的は、各受講者に得られた内容についてしっかり考える、分かりやすくまとめる、次のアクションにつなげるようにすることです。

代表的な発表のイメージは、

  • 発表者:1人ずつ
  • 発表時間:5~10分
  • 聴衆:受講者の上司、同僚、一部の経営者
  • 発表内容:成果、取り組み、気づき、次のステップ

加えて、報告会を「報告しっぱなしセレモニー」にしないために、1・2・3カ月後に職場実践につながっているかを継続してヒアリングすると効果的です。

クロージング

国際会議や展示会のような海外イベントは、非常に良い人材育成の機会です。ただし、最大限の価値を得られるようにするためには、しっかりしたプランニングとフォローが必要です。

今回紹介したヒントを参考にしながら、ぜひ業界内のグローバルイベントに挑戦してみてください。

人的資本経営を実現する事業・組織の『複眼設計』

はじめまして。Leaf Ringの安藤です。

執筆者安藤 宏樹Leaf Ring株式会社 取締役CHRO

大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻を卒業後、2014年に新卒で株式会社Speeeに入社し、マーケター、営業、人事等幅広い職種を経験し、2019年にキャディ株式会社に参画。HR部門を立ち上げ、年間100名を超える採用を実現。2021年に執行役員としてLeaf Ring株式会社に参画。脱炭素領域専門の転職支援・採用支援サービス「Beluga Career」の事業開発、採用、組織開発、マネジメントに従事。創業期のトップライン成長を牽引するとともに、そこで培った成果創出のノウハウを独自の『トレーニングプログラム』へと昇華させ、組織全体の能力開発を牽引。

私はこれまで、Speeeやキャディといった急成長フェーズのベンチャー企業で、人事・営業・事業開発と多角的に事業に関わり、またエージェント事業を通じて数多の「働く個人」のキャリアに向き合ってきました。

その中で直面してきたのは、個人のキャリアが「会社や事業の都合」によって規定されてしまうという、逃れられない構造上の問題です。

人事が抱える「構造上の歯がゆさ」
大企業のケース 再現性の高い組織が重要であり、個人のWillよりも細分化された業務を正しく実行する、組織の「歯車」としての役割を求められることが多い。
スタートアップのケース 「事業成長こそが正義」であり、人員不足による高負荷な環境下でマネジメントが後回しになる。キャリアよりも目の前の事業貢献を優先し、盲目的に走らざるを得ないことが多い。

結果として、多くの優秀な人材が「この会社で自己実現を目指すのは難しい」と判断し、離職を選んでしまう。仮に事業部変更等の配置転換を行ったとしても、この構造上の課題が変わらない限り、本質的な解決は望めないため、近い将来の離職を避けることは難しいです。

Leaf Ringが提示する「自己実現を尊重する」組織デザイン

Leaf Ringでは、メンバー一人ひとりの強みやWillに基づいた「オーダーメイド型のキャリア開発」を徹底しています。

具体的には、本人が目指す将来のキャリアについて対話を重ねた上で、必要な能力開発を言語化。日々の業務がそのゴールにどう繋がっているのかという「意義付け」と「成長サイクル」を丁寧に回します。

さらに、将来のキャリアから逆算した新しい業務(事業企画、組織開発、マネジメント等)に、無理のない範囲で段階的に挑戦する機会を提供しています。

その結果、メンバーのキャリアは非常に多様化しており、単なるHRコンサルタントに留まらず、着実に「自分のやりたいこと」の業務比率が高まり、より能動的に業務に取り組めています。

メンバーが能動的に成長すれば、当然ながら事業も成長します。その果実を給与として還元し、さらに大きな機会を創出する。この「正のループ」を回すことで、個人の自己実現と事業成長を高い次元で両立させています。

あえて「上場を目指さない」

こうした「一人ひとりに向き合うオーダーメイド型」の組織運営を語ると、多くの場合「理想論だ」「スケールしない」という声が上がります。

しかし、私たちがこれを実現できているのは、「あえて上場を目指さない」という明確な経営方針があるからです。

上場を選択した場合、企業は株主や投資家に対して利益の最大化・短期間での急成長をコミットしなければなりません。

人材紹介事業であれば「一人あたりの売上高の最大化」や「システマチックな組織拡大」が最優先事項となり、再現性を高めるために個人のキャリアは「型」に嵌められ、効率化の対象となります。そこでは、一人ひとりのWillに向き合うスタイルは合理性を欠くと判断されがちです。

だからこそ、当社は自己資本経営を貫いています。外部からの数字のプレッシャーに晒されるのではなく、自分たちのペースで着実な事業成長と厳選採用を行い、多少非効率であったとしてもメンバーの成長に投資する。

「社員が豊かに働き、成長することこそが、中長期的に最大の事業成果をもたらす」

この人的資本経営の本質を、私たちは資本政策のレベルから担保しています。

取締役CHROが担うべき「真のオーナーシップ」

この取り組みを単なる理想論で終わらせないために、私は2026年4月、取締役CHROに就任しました。

一般的にCHROといえば、「経営陣が決めた事業計画を、組織面で着地させる実行責任者」としての役割が大きいと思いますが、Leaf RingにおけるCHROの役割は、その一段手前にあります。

事業・組織の『複眼設計』から、人的資本経営を実現する

私が目指すのは、事業戦略と個人のWillを高い解像度で同期させる、「事業・組織の複眼設計」です。

事業目線⇔組織目線
事業目線 「中長期の事業計画を見据え、いつ、どのようなケイパビリティを持つチームが必要になるか」というトップダウンの組織図
組織目線 「メンバー一人ひとりが中長期でどう成長し、どのような役割に挑戦したいと考えているか」というボトムアップの組織図

本来であれば相反しがちな2つの組織図を常に描き、双方を高い次元で統合し、デザインするのが私のミッションです。そのために、以下のようなディスカッションを日々行っています。

  • 「メンバーAのマネジメント挑戦」を軸にした設計
    彼が最もリーダーシップを発揮し、かつ事業成長に寄与できる最適なチーム構成はどのような形か?
  • 「新領域への進出」を軸にした能力開発
    未経験の領域だが、メンバーBのWillとポテンシャルを活かすなら、あとどの期間、どんな伴走支援(能力開発)を行えば任せられるか?
  • 「成長速度」を軸にした事業始動
    メンバーCの現在の成長曲線から逆算すると、このタイミングで新規事業を立ち上げるのがベストではないか。始動時期をそこに合わせよう。

既存の「箱」に人を当てはめるのではなく、「人の成長」という変数を事業戦略の起点に置くことで、新しいロールを設置したり、チーム編成やマネジメント構成を柔軟かつ大胆に動かしています。

創業期から事業のトップラインを伸ばしてきた経験と、HRのドメインナレッジを総動員し、事業と組織の双方を「オーナー」として担う。事業と組織を高い頻度で行き来しながら、メンバーの成長支援を事業戦略に直接組み込んでいく。

これこそが、中長期でやりがいを持って働き続けられる組織デザインの本質だと考えています。

これからのCHROに必要な「事業解像度」

では、これからの時代、CHROにはどのような要件が求められるのでしょうか。

私は、「圧倒的な事業解像度の高さ」に尽きると考えています。人事として採用や組織開発の「型」を回しているだけでは、本当の意味で事業と組織を接続することはできません。

  • 当該事業において、リーダーやマネージャー、ストラテジスト等の役割を担うためにはどんな能力が必要か、具体業務を踏まえて言語化
  • メンバーの能力開発状況を踏まえ、どこにフォーカスして能力を伸ばすべきか、マネージャーとのディスカッション
  • 現在の事業状況やマネジメントキャパシティを踏まえた、採用要件の定期的な見直し

こうした具体の解像度は、自身が事業の現場に立ち、泥臭く課題に向き合ってきた経験からしか得られません。

私は創業期から事業開発とマネジメントに関わり続けてきたことで、まさにこの「接続の解像度」を磨いてきたからこそ、主体的に関わることができていると思います。

今後の展望:仕組み化と高度化

取締役CHROとして、私が今後さらに加速させていきたいことは3つあります。これらはすべて、個人のWillと事業成長を同期させる「複眼設計」を、組織全体で再現可能にするための挑戦です。

① 中長期のWillと「日々の手触り」の接続

キャリア面談で言語化した「将来のWill」を、単なる絵餅に終わらせないことが重要です。

その大きな目標を、年度・月次・週次の個人目標(短期目標)へと、いかに高い解像度で落とし込めるか。

「今日この業務を完遂することが、自分の理想にどう近づいているのか」という実感を、全てのメンバーが日常的に得られる仕組みをさらに磨き上げます。

② 最新テックを活用した「自律型成長」のブースト

オーダーメイド型の育成は、本来極めてコストの高い営みです。これを効率化ではなく「高度化」させるために、テクノロジーを積極的に取り入れます。

例えば、NotebookLMなどのAIを活用した1on1の内省サイクル。過去の対話ログをAIが構造化し、本人も気づいていない強みの萌芽や思考の癖を可視化することで、マネジャーとの対話を「報告」から「質の高い未来の壁打ち」へと昇華させ、自律的な成長を加速させます。

③ 「複眼設計」を担う高度なマネジメント層の育成

組織が拡大するにつれ、CHRO一人で全ての複眼設計を行うことには限界が来ます。そこで最も重要になるのが、現場でメンバーと向き合うマネージャーの育成です。

単なる進捗管理ではなく、事業の伸び代とメンバーのWillを掛け合わせ、能動的な機会提供を行える「高度なマネジメント力」を持ったリーダーを育て上げる。彼らが「複眼設計」の体現者となることで、Leaf Ring独自の組織文化を、より強固でスケール可能なものへと進化させていきます。

最後に

「未来の子供達が環境問題に不安を感じない社会」という壮大なビジョンの実現に向け、私たちは、義務感で働く組織ではなく、「自分の人生の手綱を自分で握り、楽しみながら成長を続ける個人」の集合体で挑みたいと考えています。

個人と組織の新しい関係性、それをLeaf Ringで実現したいと思います。

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

前回は、労働人口減少や営業職の採用難を背景に、従来の「人に依存した営業モデル」が限界を迎えていることについてお話ししました。

分業化やBPO、SFA/CRMなどの活用は進んでいるものの、それだけで営業組織の課題が解決するわけではありません。今起きている問題は、単なるリソース不足ではなく、営業組織そのものの設計が、生産年齢人口の減少が続くこの時代に合わなくなってきていることにあります。

その中で、AI活用に期待を寄せる企業は増えています。ただ、AIを導入したこと自体が、必ずしも営業組織の変化につながるわけではありません。

必要なのは、AIを新たなツールとして追加することではなく、AI前提で営業組織のあり方そのものを見直すことです。今回は、その考え方について掘り下げていきます。

寄稿者大矢 剛大株式会社SaleSeed 代表取締役社長

名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。

単にAIを導入しただけでは、営業組織が変わらない理由

多くの企業では、AI活用が「点」で行われています。

  • 商談後の要約を作る
  • メール文面を考える
  • 提案資料のたたき台をつくる
  • 顧客情報を調べる

どれも現場にとって便利であり、個人の作業時間を短縮する効果もあります。

ですが、それらはあくまで既存業務の一部を効率化しているにすぎません。営業組織全体の成果の出方や、役割分担の構造までは変えていないのです。

その結果、よく起こっているのが「AIを使う人だけが少し楽になる」という状態です。使いこなせる人は生産性を上げられる一方で、使い慣れていない人は従来通りのやり方を続ける。組織として見れば、仕事の流れも評価の仕方もマネジメントの構造も変わっていないため、再現性ある成果にはつながりにくくなります。これでは、AIは「便利な個人技の補助」で止まってしまいます。

本質的な問題は、営業プロセスと役割分担の設計が、AIの存在を前提に見直されていないことです。誰が何を担い、どこで情報を集め、どこで仮説を立て、どこで判断するのか。この基本設計が変わらない限り、どれだけ新しいツールを導入しても、営業組織そのものは変わりません。

AI導入が広がっている今、問われているのは「どのツールを入れるか」ではなく、「営業活動のどこを見直すか」です。個別業務の効率化だけでなく、営業活動全体の流れを捉え直し、その中で人とAIの役割を組み替えていくことが必要になっています。

営業組織を「AI前提で再設計する」

では、「人とAIの役割を組み替えていく」とは、どういうことなのでしょうか。私はそれを、営業組織の役割分担や業務の流れ、組織の動き方そのものを、AI(AI Transformation)前提で再設計することだと考えています。AIを単なるツールとして導入するのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、組織全体の仕組みを見直していく考え方です。

DXが業務のデジタル化や可視化、効率化を進める考え方だとすれば、AXはその先にあるものです。単に業務をデジタルに置き換えるのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、人の役割や組織の動き方そのものを見直していく。つまり、現場で実際に機能する体制まで含めて設計し直す発想です。

営業組織の成果を左右するのは、目に見える人員数だけではありません。誰が何を担うのか。どこで情報が生まれ、どこで判断が行われ、どこにナレッジが蓄積されるのか。こうした基本的な仕組みが、営業組織の強さを決めています。

これまでの営業組織は、人を中心に設計されてきました。採用し、育成し、現場で経験を積みながら成果を出していく。人が増えることを前提に、組織を回してきたのです。

しかし、今はその前提自体が崩れています。人が足りないことが前提であり、しかも市場は複雑化し、顧客接点も多様化している。こうした時代に、正社員の人数だけで営業組織を組み立てようとするのは無理があります。

これからは、人に加えてAIや外部機能も含めて、「どう組織を設計するか」を考えなければなりません。

営業組織を支える外部機能には、BPOのような外部人材の活用も含まれます。重要なのは、BPOを単なる人手不足の穴埋めとして使うのではなく、AIと同じく営業プロセス全体の中で役割を持たせ、仕組みとして組み込むことです。人・AI・外部人材をどう配置するかまで含めて設計してこそ、これからの営業組織は機能します。

AXで見直すべきなのは、個別業務ではなく、営業活動全体の流れです。

たとえば、どこで情報を集めるのか、どこで仮説をつくるのか、どこで案件を前に進めるのか、どこでマネジメントが介在するのか。こうした一連の構造をAI前提で引き直していくことが、これからの営業組織には必要です。

営業組織の競争力は、人数だけではなく、役割の置き方で決まる時代に入っているのです。

AIを「仮想の部下(同僚)」として組織図に組み込む

AXを考えるうえで重要なのは、AIを「ツール」として見るだけでは不十分だということです。むしろ、AIは役割を持った存在、言い換えれば「仮想の部下」や「同僚」として見たほうが、営業組織の設計はしやすくなります。

たとえば営業担当者のまわりには、本来かなり多くの前後工程があります。

  • 顧客情報を集める
  • 業界動向を調べる
  • 仮説を立てる
  • 商談内容を整理する
  • 次回アクションを洗い出す
  • 関係者向けに共有する

これまでは、それらを営業担当者本人がすべて抱え込むことが当たり前になっていました。しかし、その前提こそが、現場の疲弊や属人化を生み、育成の難しさにもつながっていたのだと思います。

ここにAIを組み込むと、発想が変わります。

  • 情報収集を担うAI
  • 仮説のたたき台をつくるAI
  • 商談の要点を整理するAI
  • 比較検討材料をまとめるAI
  • 次の打ち手を提示するAI

こうした「仮想人材」が営業担当者の周辺に配置されている状態をイメージすると、営業担当者はすべてを一人で背負う必要がなくなります。人は、人にしかできない仕事により集中できるようになります。

また、AIは営業担当者の「部下」のような存在としてだけでなく、部門をまたいで連携を支える「同僚」のような役割も果たせます。

  • マーケティングから渡ってくる情報を整理する
  • カスタマーサクセスへの引き継ぎ情報を整える
  • マネージャー向けのレポートをまとめる

こうした横断的な接続部分にAIが入ることで、部署間の情報断絶を減らし、組織としての再現性を高めることができます。

AIは営業担当者の隣に置く便利な機能ではありません。準備や整理を担う「仮想の部下(同僚)」として組織に組み込んだとき、はじめて営業組織の生産性を変える存在になります

これから問われるのは、「AIに任せる領域」と「人が担う領域」の境界線

ただし、AIを組み込めばそれでよいわけではありません。ここで本当に重要になるのが、何をAIに任せ、何を人が担うのかという境界線です。

AIは、情報を集める、整理する、比較する、要約する、仮説のたたき台をつくるといった領域で高い力を発揮します。一方で、顧客との信頼関係の構築や感情の機微を汲み取ること、複数の利害関係者の合意形成、最後の意思決定を支えることには、人の役割が大きく残ります。

重要なのは、AIに寄せすぎることでも、人に残しすぎることでもありません。営業組織の成果は、この境界線をどう設計するかで大きく変わります。

次回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その境界線についてさらに掘り下げていきます。

第1回:「やりがいがない」で辞める若手。2つの価値観タイプと離職意思の関係

「最近の若手はすぐ辞めてしまう」「何を考えているのかわからない」——こんな言葉を、職場でつぶやいたことはありませんか。

若手の離職は、採用・育成コストの観点からも企業にとって深刻な課題です。しかし、辞める若手の多くは、給与への不満や明確なキャリアビジョンを持っているわけではありません。

リクルートマネジメントソリューションズが2023年に実施した社会人3年目までの会社員を対象とした調査(N=435)では、未退職者の約6割が「会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しており、その理由の上位には「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)といった内発的な不満が挙がっています。

待遇を整えても、職場環境を改善しても、それだけでは若手の離職は防げません。問題の根っこには、「やりがい」や「仕事の意味」という個人の内側に根ざした部分があります。

この調査からは、「上司の適切なマネジメントが若手の離職意思を軽減できる」というエビデンスも得られています 。そして、そのマネジメントをより効果的にするカギが、「若手の価値観タイプを理解すること」です。

本連載では、若手社員の価値観を2つのタイプに分類し、それぞれに応じたマネジメントの実践方法を解説します。第1回となる今回は、2つの価値観タイプの特徴と離職意思の関係、そしてタイプを見極めるための具体的な質問例をご紹介します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員

ここに人物紹介文が入ります。2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

「働く目的」で分かれる2つのタイプ

調査では、若手社員の「働く目的」に関する価値観を、以下の大きく2つのタイプに分類して傾向を確認しています 。

若手社員の「働く目的」に関する価値観タイプ
A. 自己成長重視タイプ 仕事を通じて自分の力を高めることを優先するタイプです。市場価値の向上やスキルアップへの関心が高く、「今の会社でどれだけ成長できるか」を意識しています。組織に依存せず自律的に働くことを志向するため、現在の職場と外部環境を比較する傾向もあるでしょう。
B. 組織貢献重視タイプ 組織の中で役割を果たし、周囲やチームに貢献することに価値を見いだすタイプです。所属組織への愛着が強く、「チームや会社のために役立てているか」がモチベーションの源泉となります。

この2つのタイプの間には、離職意思の高さに差がありました。自己成長重視タイプほど離職意思が高く、組織貢献重視タイプほど低かったのです。

自己成長重視タイプは成長の手応えが感じられない状況に置かれると「ここにいる意味があるのか」という疑問が生まれやすい一方、組織貢献重視タイプはチームや会社への帰属意識が離職の抑止力として機能することが示唆されます。

また調査では、上司の以下3つのマネジメント行動が、価値観タイプにかかわらず離職防止に効果的であることも示されています。

  • 成長につながる業務アサイン:メンバーの特徴を理解し、成長につながる業務を割り当てること
  • 成長につながるフィードバック:振り返りや学びにつながる建設的なフィードバックを提供すること
  • キャリア支援:メンバーが仕事を通じて実現したいことや目指したい姿を一緒に考えること

さらに、同じマネジメントでも相手の価値観タイプによって響き方が異なることも明らかになっています。だからこそ、タイプを理解したうえでアプローチを調整することが重要です。

価値観タイプを知るための3つの質問

メンバーのタイプを見極めるには、1on1や面談での対話が最も有効です。以下の3つの質問を活用してみてください。

質問①「最近の仕事で、やりがいを感じたことはありますか?」

動機の源泉を探る質問です。自己成長重視タイプは「苦手だったことができるようになった」「できることが増えた」など自身の変化に喜びを感じる回答が返りやすく、組織貢献重視タイプは「チームで目標を達成できた」「先輩から『助かった』と言われた」など他者への貢献に喜びを感じる回答が多い傾向があります。

質問②「最近の仕事で、モヤモヤしたことはありますか?」

不満や不安の所在を探る質問で、離職リスクの早期察知にも役立ちます。自己成長重視タイプは「同じ作業の繰り返しで新しい挑戦ができていない」「このままで成長できているのか不安」といった成長停滞への不満が表れやすく、組織貢献重視タイプは「自分の仕事がチームにどう役立っているかが見えない」という貢献実感の薄さへの不安が出やすいです。

質問③「先輩の中で、『こんな風になりたい』と思う人はいますか?」

ロールモデルの選び方に価値観が色濃く反映されます。自己成長重視タイプは専門知識やスキルを持つ先輩を挙げる傾向があり、組織貢献重視タイプはチームから頼られ信頼されている先輩を理想とする回答が多くなります。

なお、価値観は固定されたものではありません。ライフステージや経験によって変化することもあり、どちらにも偏らない人もいます。「一度聞いたから分かった」ではなく、定期的な対話を通じて理解を深め続ける姿勢が大切です。

タイプ別、効果的なマネジメントの方向性

自己成長重視タイプへのアプローチ

重要なのは「成長の道筋を示すこと」です。日々の業務が自分のキャリアにどうつながるかが見えないと、このタイプは不安になってしまうでしょう。

「この仕事を通じて○○のスキルが身につく」「このプロジェクトで将来△△を目指せる」といった接続点を明示することでモチベーションが高まります。また自律性を重視するため、細かい管理よりも「目標を共有したうえでやり方は本人に委ねる」スタイルが効果的と言えます。

組織貢献重視タイプへのアプローチ

重要なのは「組織の中での役割と貢献を見える化すること」です。日々の業務がチームや組織の成果にどうつながっているかを、具体的かつ定期的に伝えることが欠かせません。

業務アサイン時に「なぜあなたにこの役割を依頼するのか」「この仕事がチームにとってどんな意味を持つか」を丁寧に説明することで、強いコミットメントを引き出るでしょう。

まとめ

今回のポイントを整理すると、以下の3点です。

1. 若手の離職の主因の一つに「やりがいのなさ」があり、給与・待遇の改善だけでは解決できない
2. 若手の価値観は「自己成長重視」と「組織貢献重視」の2タイプに分類でき、タイプによって離職リスクの高さが異なる
3. 上司の適切なマネジメントはどちらのタイプにも離職意思を軽減できるが、タイプに応じてアプローチを変えることでその効果はさらに高まる

「最近の若手は……」と一括りにする前に、まず目の前のメンバーがどちらの価値観を持っているかを理解することが、マネジメントの第一歩です。

次回(第2回)は、「自己成長重視タイプ」に対して、1on1・業務アサイン・日常フィードバックといった場面ごとに、明日から使えるOK例・NG例を詳しく解説します。

AI導入の前に「捨てる」勇気を。月3,000時間の業務削減を実現したkubellの全社プロジェクトの全貌

株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田(@takeshisumida_)と申します。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニーグループ株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社。 グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任し、現在はBPaaS事業を推進する株式会社kubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1,000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

各メディアやSNSでAI活用のニュースを見ない日はありません。私たちの会社kubellにおいても、当然AIの徹底活用は経営の重要テーマの一つであり、AI活用の全社プロジェクトが絶賛進行中です。

しかし、AIが全社的に実装される前に、どうしても声を大にして言いたいことがあります。 それは、「AI活用の前に、いらない業務はそもそも捨てた方がいい」ということです。

AIはある種の加速装置です。本来不要なプロセスにAIを適用するのは、無駄な業務をただ高速回転させるだけ。まずは徹底的に“捨てる”ことを行わないと、誰のためにもならない成果物が、組織内に超スピードで量産・蓄積されかねません。

今回は、kubellが全社で実施し、月3,000時間の業務削減を実現したプロジェクト「すてるば」を例として取り上げながら、生産性向上における“捨てる”ことの意義についてお話しします。

「生産性指標の議論」という罠に陥っていないか?

具体的な方法論の前に、「生産性」という言葉の定義を整理させてください。

生産性とは、シンプルに「アウトプット ÷ インプット」の公式で表されます。IRでもお馴染みの、一人当たり売上(=総売上 ÷ 従業員数)などはこれの分かりやすい例です。

生産性を上げるには、

  • アウトプット(売上や付加価値)を増やすか
  • インプット(時間やヒト、コスト)を減らすか

の二択、もしくはいずれも、ということになります。

この認識さえ揃っていれば、“捨てる”行為はすなわちインプットの減少です。よっぽどアウトプットを損なわない限り、どう考えてもやった方がいいアクションなのです。

しかし、現実のビジネス現場では、ここが曖昧なまま議論が進むことが多々あります。「どう生産性を定義するか?」「どの指標で向上を測っていくか?」を延々と議論してしまい、実際の削減アクションが遅々として進まないというのは、実によくある光景です。

部署別や事業別など、指標の計算は細かくしようと思えばいくらでもできます。しかし、それは“捨てる”ことを待つ理由にはなりません。

「どんな指標を設定しようと、確実に生産性向上の方向に向かう“捨てる”こと自体は、さっさと行った方がいい」。かつてkubellにおいても指標議論がボトルネックになっていた経験も踏まえてそう断言できます。

現場が「捨てられない」強固な心理的ハードル

経営学の巨人、ピーター・ドラッカーも次のように言っています。

「元々しなくても良いものを効率よく行うことほど無駄なことはない」
There is nothing so useless as doing efficiently that which should not be done at all.

業務改善の王道フレームワーク「ECRS(イクルス)」でも、まずは「E:廃止(Eliminate)」から始めるのが大前提です。しかし実際の現場では、Eを飛ばして、いきなり「S:簡素化(Simplify)」や、手段としての「AI化・自動化」に飛びつきがちです。

なぜ、最も効果的な“捨てる”ことから始められないのか? それは、現場に強固な心理的ハードルが存在するからです。

  • 昔からこのやり方でやっているから
  • さすがに無くすのはダメだと思っていた
  • 以前に経営陣からやってとお願いされて始めている

こうした見えないルールや過去の経緯が心理的なブロックとなり、結果的に業務は地層のようにどんどん積み上がっていきます。

既存の慣習を個人の判断だけで覆し、関係各所を説得して廃止に持ち込むには、想像以上のパワーが必要です。日々の通常業務に追われる中でそこまでの労力を割くことは難しく、結果的に「波風を立てるより、我慢して作業をこなした方が早い」と諦めてしまうのが現実です。

経営層の役割は「捨てていいよ」という免罪符を渡すこと

AI活用や効率化を推進すること自体はもちろん必要です。しかし、現場が自らの判断だけで過去の遺産を手放せない以上、まずは経営トップから「捨てていいよ」という宣言を全社メッセージとして打ち出し、心理的安全性を確保してあげること。これこそが、生産性向上のための第一歩として、シンプルかつ極めて効果的な手段なのです。

この“捨てる”ための心理的安全性を全社で担保し、一気にインプットを削ぎ落とすためにkubellで実施したのが「すてるば」です。

「すてるば」では、経営陣から全社に実施を告知した上で、現場から無駄だと思うものを細かいものまで洗い出してもらい、それを経営陣が参加する会議の場で次々と“捨てる”と即決して手放していきました。

kubellには、「kubell-ba(kubellの場)」という全社員が参加する月次会議があります。そこから着想を得て、「いらないものや昔からの慣習を手放し、次の挑戦に向かう場」という意味を込め、「すてるば(捨てる場)」と名付けました。

kubell流「すてるば」の進め方

ここからは、実際に私たちが実施したプロセスを具体的に説明していきます。

なお、概念自体はサイバーエージェントさんが行っていて有名な「捨てる会議」をベースとしています。ただし、そちらで取り入れられているポイント制や表彰制などの点は省き、よりミニマムで機動力が高い設計にした形となっています。

プロセス

【部・課】洗い出し

各部や各課単位で、提供されたフォーマット(後述)を埋めてもらいます。

「とにかく細かいものでもいいから出す」「他部署への要望もOK」とします。実施する組織の単位については、部門の大きさによるので、部門長に一存します。

【部門】一次選考

各部門の管掌執行役員が、部門内で「すてるば」を実施し、案の中からどれを全社案件として上程するかの選別をしてもらいます。

なお、自部門だけで完結できるものは、全社会議を待たずに即決・即廃止してもらいます。 

【全社】全社すてるば

各部門の結果を持ち寄り、部門の管掌執行役員含む経営陣全員が参加する会議を実施します。

なお、一次選考において、内容的にダブっている案件もあるため、事前に運営事務局にて案件の精査を行っておきます。

その上で、部門の管掌執行役員が案件の内容を説明、それに対して取締役の過半数が同意すれば決定、という形で次々に捨てるものを決めていきます。

kubellの場合は、これらをおおよそ1ヶ月半〜2ヶ月ほどの時間軸で行っています。前段の現場からの洗い出しをおよそ1ヶ月で行ってもらい、事務局による情報の整理、及び経営陣での選別の場の設定を半月〜1ヶ月で行うイメージです。

フォーマット

漠然と「無駄なことある?」と聞いても意見は出にくいものですし、その要素がバラバラであればそれこそ集約の作業が非効率になってしまいます。

そこで、以下のような共通のフォーマットを用意し、各部門に配布、集約しています。

特に重要なのが「捨てる上での懸念・負の影響」の欄です。

すでに存在しているものを捨てれば、何かしらのデメリットは多少なりとも生じます。生産性の説明でも触れたように、この捨てることのデメリットが大き過ぎては当然意味がありません。

「このデメリットを受け入れてでも、削減効果の方が大きいか?」を天秤にかけることができるよう、必ずこちらをセットで記載してもらうようにしています。

ポイント

効果を最大化するためのポイントをいくつか抜き出します。

現場の声をしっかりと拾う

当然のことながら、上位レイヤーが知らない現場の業務は多数あるものです。現場のメンバーに落とさず、マネージャー以上などで検討しても、削減効果は最大化されません。細かいものでもいいので、とにかく現場から一旦なんでも出させることが重要です。

事前の情報整理にこだわりすぎない

このようなプロセスにおいて、ある意味教科書的によくあるのが、「まずは業務フローとして書き出しましょう」や「部署に存在する業務を全て洗い出しましょう」のような、事前の情報整理系です。

しかし、個人的にはこれはあまりお勧めしません。論理性、整合性、網羅性等、あらゆることが気になり過ぎて、そもそもこれらを作ることに得てして膨大な時間がかかるからです。

まずは体感として不要と感じているものを徹底的に洗い出し、上述一次選考の中などで、必要に応じて個別に業務フローを確認する方が、“捨てる”ことを決めるという行為においては、それこそ生産的であると考えています。

組織長が適切に取捨選択を行う

あくまで生産性向上が目的なので、アウトプットがそれ以上に削がれるものであれば意味がありません。

ボトムアップで集めつつも、全社への持ち込みについては、組織長は特にその観点における適切さを、事前に確認、選別しておく必要があります。

丸ごと捨てられるものをできるだけ挙げる

細かいものも含めて集めつつも、例えば会議の1つや2つ無くしたところで大して生産性は改善しません。取り組み、プロセス、イベントなど、“丸ごと”捨てられるものはないか、同じく組織長には、より高い視点を持ちつつ推進を行ってもらう必要があります。

業務効率化もOKとする

結果的に、それは捨ててる訳じゃないという業務効率化にあたるものも複数上がってきますが、それもOKとします。

捨てるという極端な方向で考えた結果、これまで出てこなかった業務効率化案がこのような活動を機に出てくる可能性は大いにあるため、それはそれで推し進めるべきだからです。

責任者、期日について明確化する

このような活動における肝はとにかく“実装”です。決めっぱなしにならないよう、上記全社すてるばにおいては、何を捨てるのかはもちろん、当日出席している主管部門の管掌役員の中で誰が責任者として推進するのかを期日と同時に決めていきます。

逆にこの時点では、進め方の方法論までは踏み込まず、それも含めて責任者に持って帰ってもらうのがお勧めです。そこまで議論を広げてしまうと、何十個もある捨てる候補に対する意思決定が時間内では完了しないためです。

人事部門が率先して「捨てる」を文化にしていく

この取り組みの結果、時間換算で月に3,000時間超の削減に成功しました。これは全従業員の就労時間のおおよそ5%にあたり、ざっくりと年間の削減金額に直すと1億円超の効果となります。

  • 経営報告資料の過剰な作り込み
  • 複数システムによる承認フローの重複
  • リモート主体時代の名残である多過ぎる1on1ミーティング
  • 使用頻度の少ない全社システム

など、長年の慣習で積み上がったものを、経営陣の合意のもとで一気に手放しました。

AI活用が当たり前となるこれからの時代、まずは足元の「不要なものを捨てる」勇気を持つことが、真の生産性向上とAI活用のための最強の事前準備になります。

そして何より重要なのは、これを一過性のイベントにせず、組織の成長に伴って生じる無駄を常に手放し続ける「組織文化」へと昇華させることです。

私は、この文化形成の担い手となるべき存在こそ人事部門であると考えています。

一方で、社内の申請フローやチェック体制といった全社的な仕組みを構築しているのは、往々にして人事部門自身です。皮肉なことに、その仕組みによって自らも細かいタスクに忙殺されている、という側面もあるかと思います。

だからこそ人事部門は、単なるルールの運用者にとどまってはいけません。「ガバナンス」と「現場の生産性」のバランスを最適化する調整役であるべきです。自部門の業務こそを率先して見直し、「捨てる」姿勢を背中で示すことが求められています。

経営陣が掲げる「業務効率化」や「筋肉質化」といったメッセージは、ともすれば現場では「コストカット」や「負担増」というネガティブな言葉にも変換されがちです。この認識のズレが生じた瞬間、現場のモチベーションは低下し、かえって生産性を損なう恐れがあります。

上述の図でご説明したように、生産性向上の本質は、無駄なインプット(時間・労力)を減らし、より価値の高い業務に集中できる状態をつくることにあります。

この意図を現場に丁寧に翻訳し、納得感のある形で業務削減を推進していくこと。それこそが、これからの人事部門に期待される重要な役割だと考えています。

この記事が、自社のAI推進や生産性向上に課題を感じている経営層、およびプロジェクト担当者の皆様にとって、一つの指針となれば幸いです。

社員が自走し「自分ごと化」できる組織づくりへ|プレシャスパートナーズ矢野

ここまで、採用におけるポイントや、定着・活躍のために必要な要素をお伝えいたしました。

採用や評価制度を整えることは、社員の定着や活躍を支えるうえで欠かせません。仕組みが整えば、組織の土台は安定していきます。しかし、それだけで「強い組織」ができるわけではありません。

本当に力を発揮する組織とは、社員一人ひとりが「会社のことを自分ごととして捉え、自ら行動できる状態」にあることです。制度やルールに沿って動くのではなく、「自分の働きが会社の未来につながっている」と感じながら行動し、“自分ごと”として組織を捉えることで、活気と創造性が生まれます。

「仕組みの整備」が終わった後に必要なのは、社員が主体的に関われる関係性や環境づくりです。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

社員が“自分ごと”で動く組織とは

自分ごとで動く組織とは、社員の意識が会社に向いていることです。

決まったことをこなすだけではなく、今何を求められているのか、何をしたら会社の発展に繋がるのかを考え、行動に移します。

また、経営の意識も方針を勝手に決めるのではなく、現場の動きや声を常に把握し、「社員が自分で考えて動き、いきいきと働くためにはどんな環境が必要なのか」を考えることが重要です。

「自分たちの会社を自分たちで良くしていく」という共通意識が、日々の行動の中に息づいています。

社員が自発的に動くためには「信頼」と「会社を変える一員」という意識が欠かせません。この2つを育てるのは、仕組みそのものではなく日々の関わり方が大切なポイントです。

参画型の社内体制を整える

社員が自分の意見を持ち、主体的に行動するためには、会社の課題に参加できる場が欠かせません。その一つの取り組みとして、プレシャスパートナーズでは会社を改革するチームを設置しています。

このチームは、「会社をもっと良くしたい」という想いを持つ社員が有志で集まり、社内課題の解決やコミュニケーションの活性化に取り組むものです。

たとえば、「残業が増えている部署の原因は何か」「新入社員がより早く会社に馴染むにはどうすればよいか」など、現場の課題を部署を越えて話し合い、改善策を考えます。

また、年次や役職に関係なく、新規事業や社内プロジェクトにも積極的に参加できる環境を整えています。こうした経験を重ねることで、社員一人ひとりが「自分たちで会社を動かしている」という実感を得ることができます。

大切なのは、会社のためにやらされているということではなく、自らやりたいと思える気持ちです。その意識こそが、社員の当事者意識を育てる原動力になります。

“斜めのつながり”が育てる信頼と安心

社員が自分の考えを持ち、前向きに動ける会社には縦や横のつながりだけでなく、斜めのつながりが欠かせません。

縦のつながりは、上司と部下で目標を共有したり成果を評価したりするうえで大切ですが、それだけでは上からの指示を待つ受け身の姿勢になりやすくなります。

一方で、同期や同僚といった「横のつながり」は、安心感や仲間意識を生みますが、似た価値観の中にとどまり、新しい刺激が得にくいという面もあります。

そこで重要になるのが、部署や年次を越えた「斜めのつながり」です。

普段関わりの少ないメンバーとプロジェクトを進めたり、世代の異なる社員と意見を交わしたりすることで、新しい視点や発想が自然と生まれます。

また、社内部活や交流イベントのように仕事以外の場で築かれるつながりも大きな意味を持ちます。趣味をきっかけに話したり、社員同士でイベントを企画したりすることで、肩書を気にせず話せる関係が生まれ、部署を越えた協力やサポートがしやすくなります。

このような関係があることで、信頼できる相手が社内に増え、失敗を恐れずに意見を出したり新しいことに手を挙げたりしやすくなります。「困ったときは助けてくれる仲間がいる」という安心感が、行動する勇気を後押しします。

「斜めのつながり」が広がると、社員は「言われたから動く」のではなく、「自分の意見で会社を動かせる」と感じられるようになります。その結果、会社のことを自分ごととして捉える姿勢が育ち、社員一人ひとりが主体的に動く、自走する組織文化ができていきます。

成長を後押しする評価と対話の仕組み

第4回目で、評価制度の構築についてお話しましたが、制度の構築も社員の行動を支える大切な仕組みの一つです。

ただ、“人を評価すること”が成長に繋がるのではなく、“成長を支援すること”が軸にある評価制度である必要があります。

また、制度の内容に加え、どのように対話を重ねるかが鍵になります。

評価は何ができたかだけでなく、「次にどう挑戦するか」を一緒に考える場にし、そうした時間を通じて社員は「自分の成長が会社の成長につながっている」と実感することに繋がります。

評価を一方的な査定にせず、定期的な1on1や中間面談で振り返る仕組みをつくる。そこに「対話を重ねながら前に進む」という文化が根づくと、制度は単なる仕組みではなく“成長を後押しする習慣”になります。

社長・経営者がどう社員と関わるか

社員が自走できる組織をつくるうえで、最も大きな影響を与えるのは経営者の関わり方です。社長・経営者の姿勢や言葉は、そのまま組織文化となり、社員の考え方や行動に深く影響していきます。

社員の主体性を引き出すには、「伝える」よりも「聞く」姿勢が欠かせません。会社への想いを一方的に語るのではなく、社員が感じている課題や意見に耳を傾け、「どう思う?」「やってみようか」といった一言をかけることが、社員の背中を押すきっかけになります。自分の意見を受け止めてもらえたとき、自然と前向きに動き出すことができます。

また、社長・経営者が現場に足を運び、直接言葉を交わすことも大切です。数字や成果だけでなく、日々の努力や葛藤に目を向けることで、「見てもらえている」という安心感につながります。その安心感があるからこそ、社員は新しい挑戦に踏み出せるのです。

社員に任せるとは、すべてを手放すことではなく、経営者が方向性を示しながら、信頼して委ねることです。その積み重ねが、社員が会社を自分ごととして捉え、自ら動く文化を育てていきます。

まとめ

社員が「会社を良くしたい」「自分の成長を会社の成長につなげたい」と心から思えるようになれば、組織は自然と前に進んでいきます。

そのために大切なのは、社員の声を聞く小さな場をつくること。日々の対話の積み重ねこそが、会社を“自分ごと”として捉える第一歩になります。

有形商材営業と無形商材営業の違いとは? 採用時に見極めるべき営業スキルのポイント|エッジコネクション大村

営業職の採用において、「法人営業か個人営業か」「新規開拓かルート営業か」といった軸はよく評価基準として挙げられます。しかし、私が実際に採用支援や営業組織の構築に携わるなかで、それと同じくらい重要でありながら見落とされがちなポイントがあると感じています。それが、「どのような商材を営業してきたか」という視点です。

世の中の商材は大きく「有形商材」と「無形商材」に分けられます。この2つでは、営業プロセスの構造が異なるため、営業担当者が自然と身につけてきたスキルも大きく変わります。商材特性を考慮せずに採用を行うと、「営業経験者を採用したのに成果が出ない」「早期離職につながった」というミスマッチが生じやすくなります。

本記事では、有形商材営業と無形商材営業の違いを整理したうえで、それぞれの経験者がどのようなスキルを身につけているかを解説します。また、キャリアチェンジ採用で起きやすいミスマッチや、採用時に確認すべきポイントについても紹介します。

寄稿者大村 康雄株式会社エッジコネクション 代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1800社以上を支援し、継続顧客割合は75%を超える。2024年7月には「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。

有形商材と無形商材とは何か

有形商材

実際に手で触れたり目で見たりすることができる商品を指します。
皆さんの視界に映っているほぼすべてのモノが有形商材です。

食品、家電、自動車、住宅設備など、形として存在するものはすべてこのカテゴリに含まれます。なお、アプリやWebサービスなど、画面上で動作するプロダクトも「デモで体験できる」という意味で有形商材に含める場合があります。

無形商材

形がなく、手で触れることのできない商品・サービスを指します。
研修、コンサルティング、保険、採用支援サービスなどが代表例です。

当社が手がける営業支援や採用コンサルティングも、まさに無形商材にあたります。目で見て良し悪しを判断することができないため、営業プロセスの構造が有形商材とは大きく異なります。

有形商材営業で身につく営業スキル

有形商材の最大の特徴は、商品そのものが営業を助けてくれる点にあります。

顧客は商品を実際に見たり触ったりして判断できるため、営業担当者の役割は「いかにその商品の魅力を最大限に伝えるか」に集中しやすくなります。

そのため、有形商材の営業経験者は、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 商品の特長を分かりやすく説明するプレゼン力
  2. 商材に関する深い製品知識
  3. 顧客の購買意欲を引き出すクロージングトーク

商品自体に訴求力があるため、顧客の課題を深掘りするよりも「この商品を選ぶべき理由」を的確に伝える力が問われます。商品スペックの比較対応や、質疑応答での即答力も磨かれやすい環境です。

無形商材営業で身につく営業スキル

無形商材は、文字通り形がありません。パンフレットはあっても、顧客がそれだけを見て購買を決断することはまずないでしょう。営業担当者が商談力で補わなければ成約には至らない——これが無形商材営業の大前提です。

たとえば、コーチングサービスの場合を考えてみてください。著名な経営者の実績を多数持つコーチであっても、顧客の話をろくに聞かず、アドバイスがしっくりこなければ契約には至りません。

一方、実績がまだ少ない駆け出しのコーチでも、真摯に話を聞き、顧客の課題に寄り添うアドバイスができれば、同じ土俵で勝負できます。これが無形商材営業の本質です。

無形商材の営業経験者には、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 顧客の話を丁寧に引き出す傾聴力・ヒアリング力
  2. 顧客の状況・感情に寄り添う共感力
  3. 課題を明確化し、解決策までを論理的につなぐ提案力

また、無形商材の成約には、顧客が「この人に任せたい」と感じる信頼感の醸成が不可欠です。顧客から「お願いしたい」というスタンスを引き出すところまでもっていくことが求められます。

商材の違いによって営業経験の蓄積ポイントが変わる

有形・無形を問わず、営業の商談プロセスはおおむね次の流れをたどります。

営業の商談プロセス
①初回接触(来店・架電・訪問など)
②ニーズ・購買意欲の明確化
③商品・サービスの提案・選定
④最終調整・質疑応答
⑤成約

有形商材の営業では、③④のステップに重きが置かれます。
商品説明・デモ・質疑応答の経験値が自然と積み上がっていきます。

一方、無形商材の営業では、②のニーズ明確化が最重要ステップとなります。「顧客が何に困っているか」を丁寧に引き出し、信頼関係を構築するトーク展開のスキルが蓄積されていきます。

つまり、同じ「営業経験者」であっても、どの商材を扱ってきたかによって、蓄積されているスキルの質はまったく異なります。この視点を採用時に持てているかどうかが、ミスマッチを防ぐ大きな分岐点になります。

営業採用で見落とされがちな「商材の違い」

転職市場や採用現場では、「法人か個人か」「新規開拓かルート営業か」という切り口で候補者を評価するケースが多く見られます。しかし、「どんな商材を売っていたか」という観点はまだまだ重視されていないのが実情です。

有形商材→無形商材へキャリアチェンジする場合

最初に直面するハードルは「商品の力に依存しない営業スタイルへの転換」です。

有形商材の経験者は、良い商品であれば成果につながるという感覚が染みついていることがあります。しかし無形商材では、まず「この人に任せたい」と思ってもらえる信頼感の醸成が成約の前提条件です。

商品説明より先に、ヒアリングと共感のプロセスが求められます。

無形商材→有形商材へキャリアチェンジする場合

有形商材の世界では「衝動買い」が存在します。
顧客のニーズを深掘りしすぎると、かえって購買意欲が冷めてしまうケースもあります。

また、有形商材の営業では、あくまで主役は商品です。「自分という営業マン」ではなく「商品が売れていくこと」に喜びを見出せるかどうかが、定着を左右します。

営業採用で注意すべきポイント

以上を踏まえ、採用担当者が面接で確認すべき具体的なポイントを整理します。

有形商材経験者を「無形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • その人の営業成績は、商品力によるものか、本人の商談力によるものか(「なぜ売れたのか」を具体的に語れるかどうか)
  • 「ニーズの明確化・信頼醸成・提案」という一連のプロセスを習得させられる育成体制が自社内に整備されているか
  • 「今まで培ってきた営業スタイルをリセットして学び直す」という意識を、採用側・候補者側の双方が受け入れられるか
無形商材経験者を「有形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • 自社の「商品」「サービス」に愛着や興味を持てるかどうか(モチベーションの源泉が「商品を広める」ことにあるか)
  • 顧客のニーズを深掘りするプロセスより、「商品説明・提示・クロージング」のプロセスにやりがいを感じられるか
  • 「自分」ではなく、「商品」が主役であることを自然に受け入れられるか

これらは面接で直接「どんな商材を扱ってきましたか」「なぜそれが売れたと思いますか」と問うことで確認できます。答え方の構造で、候補者のスキルの蓄積ポイントが見えてきます。

IT商材営業は有形と無形の両方の要素を持つ

最後に、近年増加しているIT商材の営業について触れておきます。

アプリやSaaSなどのIT商材は、デモやトライアルで使用感を体験できるため、有形商材的な性質を持ちます。しかし、基幹システムや高度にカスタマイズが必要なソリューションになると、少し触っただけでは良さが伝わりにくく、「ニーズの明確化・信頼醸成・適切な提案」が不可欠です。つまり無形商材の要素が強くなります。

IT商材の営業人材を採用する際は、自社プロダクトが有形商材寄りか無形商材寄りかを先に見極め、それに合ったバックグラウンドを持つ候補者を選ぶことが大切です。

まとめ

「営業経験あり」という一点だけで採用を判断すると、入社後のスキルギャップがミスマッチや早期離職につながりかねません。

「どんな商材を売ってきた人材か」という視点を採用の評価軸に加えることで、入社後に活躍できる営業人材の見極め精度は大きく向上します。ぜひ次の採用面接から取り入れてみてください。

現場からの最新速報!見えてきた2026年の新入社員研修の傾向と今後の対策|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

4月の新入社員研修は、人材育成関係者にとって毎年の大イベントの一つです。今年、私は4月7日〜23日の間に、講師として約1,700名の新入社員研修を担当しました。その経験を踏まえ、今年の新入社員の傾向と今後のアドバイスについてお伝えします。

結論
昨年とそれほど変わらない傾向です。
ハイライトとしては、
  • 態度:集中力が高く、研修に対してとても前向きで積極的
  • 習得度:普通
  • マインド:リスクを恐れず主体性を発揮することの重要性に納得しており、研修中に垣間見られた受講者も一部いた
  • コミュニケーション:抵抗がなく明るくて前向きだが、ロジカルに伝えることは得意ではない人が多い
  • その他:生成AIに頼っている傾向が目立った、これは今年初めて見られた現象

2026年の新入社員研修の概要

今年は41名から255名規模の研修を担当してきました。グラフのように100名未満と200名以上の割合が多かったです。

新入社員研修で大切なポイントの一つは、サブ講師です。演習がとても多く、受講者数に応じた講師のフォローが必要になるため、受講者30名に対して講師1名を入れています。

数百名規模の研修の場合は全体の解説をするリード講師と、演習をフォローする複数名のサブ講師のチームで行います。これにより、多くの新入社員のアウトプットを見ることができ、短時間で新入社員の傾向をつかむことができます。

新入社員研修の実施形態

研修の実施形態は、コロナ前と同じように対面研修が中心です(表1)。

実施回数を見ると7割は対面で、私以外の講師の場合はほぼ100%が対面実施でした。ただし、数百人以上の新入社員がいる企業では、現在でもリモート研修やハイブリッド研修を実施しているケースもあります。

代表的なハイブリッド研修は、数十名のクラスごとに部屋分けして講師の解説を配信し、各部屋では受講者は演習を対面で行ってサブ講師がサポートするスタイルです(表2)。

このようなセッティングは若干複雑ですが、大人数に対して安定した高い質の研修を提供するのに効果的です。

例えば、今年実施したハイブリッド研修の各クラスの受講者の修了アンケート結果を見ると総合評価は高く、クラスごとのばらつきはほとんど見られません(表3、縦の研修に対する総合評価は5点満点)。

新入社員研修の実施内容

今年担当した研修内容は、大きくこの4つでした。

  1. コミュニケーション:ロジカルコミュニケーション、報告、相談、傾聴、プレゼンテーション
  2. プロフェッショナルマインド:主体性向上、学生から社会人の切り替え、配属後の対策
  3. ロジカルシンキング:論理思考の基本(ピラミッド構造、ロジックツリー、MECEなど)
  4. グローバル:異文化、ビジネス英語、英語ライティング、ミーティング、プレゼンテーション

テーマ別の実施回数と受講者数は下の表とグラフのとおりです。

【テーマ別の実施回数と受講者数】
テーマ 実施回数 受講者数
コミュニケーション 7 1,135
マインド 5 409
シンキング 1 72
グローバル 1 121

新入社員の受講態度

実際に接した新入社員全体に対して言えることは、集中力が高くとても前向きでした。1,700名のうち、研修中に眠った受講者は一人もいませんでした。

コミュニケーションに対しては抵抗も遠慮もなく、非常に積極的でした。

特に印象的だった傾向は、ちょっと変わった演習(例:走り回ってペアで発表し合う、職場での上司とのやりとりの実演など)でも恥ずかしがらずに素直に一生懸命取り組んでいたことです(余談ですが、例年以上に上司役の演技が大袈裟で、数十年前のような昭和タイプを演じていたのが面白かったです)。

新入社員の習得度

きわめて前向きな姿勢が特徴的だったのに比べると、研修内容の習得度は普通でした。

【研修内容の習熟度】
強化ポイント 印象 コメント
主体性向上 良い 主体性の大切さについては素直に理解しており、研修中に意識しようとしているが、人によって出来が異なる。ただ、本当にリスクを恐れずに主体性を発揮できるかどうかは、職場での行動を見てみないことには分からない
論理思考力 普通 人によってばらつきが激しい。傾向としては、積極的なコミュニケーションやアウトプット力の高さに比べると低め
伝達力 普通 対面のコミュニケーションに対してまったく抵抗がない。リモートにはそれほど慣れていないため、対面より少し受け身になる人が多い。ビジネスの観点で見ると敬語、ロジカルな説明、簡潔明瞭にまとめるスキルは普通か少し弱い
柔軟な対応力 良い 研修中のケース分析、課題解決のアイディア出しなどでストレスを感じずに、柔軟に対応策を考えるのが得意な人が多い。ただ、職場で実際に問題に直面した際にどこまでスムーズに解決できるかは、今後見ていく必要がある

生成AIとデバイスの依存度

今年初めて感じたのは、デバイスと生成AIへの依存度の高さでした。

例えば、正確性が求められるロジカルシンキングやビジネスライティングの演習の際に、意識的または無意識的にデバイスを探そうとする、生成AIを使わないと進めないなど、明らかに不安を感じている新入社員が多く見られました。

特に印象に残ったのは、思考プロセスです。従来のように一人で考えてネットなどで調べて確認してパソコンで仕上げるという流れと異なり、多くの新入社員は最初の考えるステージからすでにインターネットと生成AIを使わないと不安で進められない様子でした。

自分で考える前からまずAIに聞いて、AIから得られた情報を見て、それに対してまたプロンプトを出して…このような、AIと対話をしながら自分の考えを少しずつ固めていく思考プロセスがたいへん多く見られました。

現時点では、思考力の低下につながるというほどの問題ではないと思いますが、ツールに依存しており、ツールがないとストレスと不安を感じることは明白です。

言うまでもなく、思考力、AI依存度、AIの効果的な活用は、これからの重要な人材育成課題になるでしょう。

新入社員の今後のフォロー

導入研修期間中、新入社員はとても楽しそうでした。良い仲間もできて、厳しい研修より心理的な安全性のある研修が多く、けっこう快適そうにしていた印象があります。

それはとても良いことですが、配属された後にギャップを強く感じる新入社員も出そうだと思いました。そのフォローとして必要になるのは、職場の厳しさに対応できるように促し、かつ前向きな姿勢と高いモチベーションを維持させることです。

そのため、配属数カ月後のヒアリングと秋のフォロー研修が特に重要になってきます。

来年度の新入社員研修に向けてのアドバイス

昨年感じた、新入社員研修の内容を少々見直すべきだという機運を今年も感じました。

数年前によく言われていた「主体性がない」「正解をすぐ求める」「リスクを恐れる」という点は変化してきているようで、以前より前向きに取り組んでいるし、それほどリスクを恐れていない印象がありました。代わりに、論理思考力、ビジネスライティング力、ロジカルコミュニケーションの力が低下しているケースが多く見られました。
これも昨年同様ですが、従来の定番の新入社員研修とビジネスの現状が合っていないところが見受けられました。

例えば、「電話応対」というテーマはもちろん大切ですが、固定電話の出方と転送などが現在の業務にない場合は省略すべきです。逆に、過去になかった新しいニーズが出てきたので、今後はそれを反映することが何より重要となります。

例えば、

  • 電話でほとんど話さない新入社員向け、電話に出る重要性とふさわしい話し方
  • 議事録を作成する際に効果的なAIツールの活用方法
  • ハイブリッドワークでの、チームメンバーとの良いコミュニケーションのとり方
  • ハラスメントを恐れて遠慮する上司との人間関係構築

クロージング

新入社員研修おつかれさまです。

今年も講師として多くの新入社員と接することができましたが、感じたことを再度まとめると、

  • 態度は非常に良い
  • 能力と習得度は普通
  • 来年度からは長年やっていた新入社員研修に多少手を入れたほうが良い
  • 生成AIの影響が顕著、来年以降の大切なテーマになりそう

です。

フリーランスエンジニアを採用し、活用するには 〜データでみるフリーランス採用の最前線と活用ポイント〜

年度が変わり、採用予算の策定に悩む人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

「優秀なエンジニアがなかなか採用できない」
「内定を出しても辞退される」

そんな声を、採用担当者から日々聞きます。

職種別の採用難易度を見ると、エンジニア職の採用は非常に難しくなっています。新卒のエンジニア職採用を実施する企業の4社に1社が、採用目標未達見込みとの調査*もあります。(参照:レバテック株式会社「新卒エンジニア採用実態調査」

そうした状況の打開策として、近年注目されているのが「フリーランス人材の活用」です。フリーランスのメンバーが社内プロジェクトに関わることが増えたと感じている方もいるかもしれません。

一層の働き手不足が懸念される中、企業にとって重要な選択肢の一つとなるフリーランス活用ですが、「適正な単価がわからない」「採用した後、どう動かせばいいか不安」という課題がつきまといます。

正社員と異なり、入社後の研修制度やフォロー体制が整っていないケースも多く、想定したパフォーマンスを出してもらえないことも珍しくありません。

本記事では、フリーランスエンジニアの最新市場データをもとに適正単価を解説するとともに、創業以来フリーランス市場の前線を見ているHajimariの事例から見えたフリーランス活用ノウハウをご紹介します。

執筆者亀田 壮司株式会社Hajimari(旧:ITプロパートナーズ) 執行役員

2017年の入社以来、フリーランスエンジニアの活用支援を行うエージェント業務に従事し、全社MVP賞を受賞。29歳で執行役員に就任後は、プロパートナーズ事業本部を中心に幅広いミッションを担う。長年にわたりフリーランス市場の最前線に立ち続け、数多くの企業のフリーランス活用を支援してきた。本記事で紹介するデータと知見は、その現場経験から生まれたものです。

フリーランスエンジニアの採用現況 〜市場で起きている「単価の二極化」〜

まず、フリーランスエンジニア市場の全体像をお伝えします。

Hajimariのプラットフォームデータ(2024年11月〜2026年3月、直近16ヶ月の案件単価変動)を見ると、フリーランス市場では単価の二極化が明確に進んでいることがわかります。

単価が上昇しているのは「AI・インフラ系」「バックエンド開発」領域です。AIエンジニアやネットワークエンジニアへの需要が急速に高まっており、企業は希少人材の争奪戦を繰り広げています。

採用担当者としては、この二極化の構造を理解した上で予算決定・採用判断をすることが、今後ますます重要になっていくでしょう。以下のデータは、フリーランスエンジニアの案件単価における直近16ヶ月の変動です(参照:フリーランスエンジニア案件の平均単価相場

▮ プログラミング言語別:KotlinとPythonが上昇、Swiftは急落
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Kotlin 66.0万円 70.0万円 +6.06%
Python 65.0万円 68.0万円 +4.62%
JavaScript 60.0万円 62.0万円 +3.33%
Go 70.0万円 72.0万円 +2.86%
Java 58.0万円 59.0万円 +1.72%
TypeScript 66.0万円 67.0万円 +1.52%
Ruby 74.0万円 73.0万円 -1.35%
PHP 63.0万円 62.0万円 -1.59%
Swift 70.0万円 65.8万円 -6.07%

注目すべきは Kotlin(+6.06%)と Python(+4.62%)の上昇です。Kotlinは簡潔さと安全性を兼ね備えており、Androidアプリ開発やサーバーサイド領域でも採用が進み、需要が拡大しています。Pythonは、AIや機械学習領域などの成長領域に活用されており、引き続き強い需要が続いています。

一方、Swift(−6.07%) の下落は注目に値します。iOSアプリ開発の需要そのものが消えたわけではありませんが、iPhoneとAndroid両方に対応したアプリを効率よく作れる新しいツールの台頭により、Swift専門エンジニアのニーズが下がってきてます。

また、AIによる開発補助ツールが進化し、モバイル開発の一部作業が自動化されつつあることも、単価の下押し要因となっている可能性があります。

▮ フレームワーク別:DjangoとLaravelが二桁上昇
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Django 57.0万円 64.3万円 +12.72%
Laravel 59.0万円 66.0万円 +11.86%
Vue.js 61.0万円 65.0万円 +6.56%
Node.js 62.0万円 66.0万円 +6.45%
Ruby on Rails 71.0万円 71.0万円 0.00%
React 68.0万円 67.0万円 -1.47%
Next.js 68.0万円 65.0万円 -4.41%
Spring 67.0万円 64.0万円 -4.48%
Flutter 69.0万円 63.0万円 -8.70%

 フレームワーク別では、Django(+12.72%)とLaravel(+11.86%)の大幅上昇が目立ちます。両フレームワークとも、高速かつ効率的に開発できる点から人気が高まっています。

対照的に、Flutter(−8.70%)は顕著に下落。新しいツールの台頭により「Flutter専門のエンジニアに頼まなくても対応できる場面」が増えてきたことが背景として考えられます。

▮ 職種別:AIエンジニアとネットワークエンジニアが高騰
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
ネットワークエンジニア 55.0万円 61.0万円 +10.91%
AIエンジニア 73.0万円 79.5万円 +8.90%
インフラエンジニア 59.0万円 60.0万円 +1.69%
フロントエンドエンジニア 65.0万円 64.0万円 -1.54%
Webディレクター 55.0万円 53.0万円 -3.64%
ITコンサルタント 101.0万円 90.0万円 -10.89%

職種別で最も大きな変動を示しているのが、ITコンサルタントの−10.89%です。長く100万円を超えていた平均単価が90万円台に落ち着いています。

その一方で、AIエンジニア(+8.90%)とネットワークエンジニア(+10.91%)の単価は明確に上昇しています。中でも、AIエンジニアの最新単価は79.5万円と全職種で最高水準。AI関連人材の争奪戦が激化している様子が伺えます。

ネットワークエンジニアについては、クラウド移行の加速やサイバーセキュリティへの意識高まりを背景に、インフラ・ネットワーク領域の専門家へのニーズを背景に単価上昇しています。

最も大きな変動を示している ITコンサルタント(−10.89%) については、自社内にデジタル人材を抱えることで外部への依存度を下げる企業が増えたことで、単価の下落につながっています。また、高単価な「戦略立案フェーズ」よりも「実行支援フェーズ」の需要が増えたことも、単価押し下げの一因として挙げられます。

こうした需要は、むしろAIエンジニアやデータエンジニアへシフトしていると捉えるべきでしょう。上記のデータを採用実務にどう活かすか、ポイントをまとめます。

データを踏まえた採用判断のポイント
単価が上昇しているスキルは、採用スピードが勝負です。今後さらなる単価上昇の可能性に備え、マッチする人材に出会ったタイミングで早めにオファーを出すことが重要です。
フリーランスの場合、正社員採用以上に「他社との競合」が起きやすく、検討に時間をかけるほど競争率が上がります。実際に、長年フリーランスと企業のマッチング事業を展開してきたHajimariの支援事例でも、AI関連人材の獲得競争率は上がってきています。
AIエンジニアは単価も高く上昇トレンドにある一方、市場にいる人数が少ない希少職種です。こうした職種を活用する際は、任せる業務と目指すゴールを明確に決めた上で短期集中的に動いてもらうことが、予算内でコスト効率を高める鍵となります。
一方、フロントエンドエンジニアのように市場に人材が多い職種は、複数の候補者を比較検討し、スキルと単価のバランスを見極めることで、予算・質のバランスが取れた人材を確保しやすくなります。

フリーランス活用ノウハウ〜“採用して終わり”にしないための5つの実践〜

正社員市場の人材獲得が激化する現代では、フリーランス活用はもはや補助ではなく、開発体制の中核を担う戦略的な選択肢です。

ただ、フリーランスを採用してうまくいかないケースには共通のパターンがあります。それは「採用して終わり」になってしまうことです。正社員のような、研修や上司のフォローなどの仕組みが整っていないことが多く、結果として想定していたアウトプットが出ないという状況に陥りがちです。

以下では、Hajimariが実際の支援現場で培ったフリーランスが最大のパフォーマンスを発揮するための実践ノウハウをご紹介します。

1. 採用時のミスマッチを防ぐ

「採用してみたら思っていた人と違った」

こうしたミスマッチは、フリーランス活用でよく起きるトラブルの一つです。原因の多くは、現場・人事・エージェントの三者間で、求める人物像の解像度がバラバラなことにあります。

人事担当者として、現場から「Pythonができる人が欲しい」とだけ言われて困った経験はないでしょうか。スキルだけを条件にすると、「技術は申し分ないのに、プロジェクトに馴染めなかった」というミスマッチが起きやすくなります。

ミスマッチを防ぐには、採用要件をスキルだけでなく「解決したい事業課題」「チームのミッション」「求める行動レベル」まで落とし込んで言語化することが必要です。

「AIを活用した新機能の開発フェーズを一人でリードできる人」など具体性のある要件を、現場・人事・エージェントで共有することで、マッチング精度は大きく向上します。

2. 「開発文化(カルチャー)」の早期伝達

技術スキルが完璧でも、文化が合わなければパフォーマンスは発揮されません。これは正社員でも同じですが、フリーランスの場合は特に注意が必要です。

フリーランスのメンバーは複数の企業で仕事をしていることも多く「個社ごとのルール」を自然に把握する機会が少ないからです。暗黙の了解になっている開発文化がフリーランスには伝わっていないケースは非常に多くみられます。

具体的には、技術選定の裁量権の範囲、リモート時コミュニケーションのルール、コードレビューの文化など、自社特有のルールを参画初期に明文化して共有することが重要です。

また、情報格差をなくすために、可能な限りオープンな場で議論を行う・定例会議に参加してもらうなどの工夫をすることで、フリーランスメンバーが当事者意識を持って参画できる環境が整います。

3. 適切な期待値調整とトラブル予防

「もっとスピードを上げてほしい」
「思ったより品質が低い」

こうした不満が蓄積して、突然の契約終了や関係悪化につながるケースがあります。

定期的なコミュニケーションで、業務の質・量だけでなく、「稼働時間」「業務範囲」「成果物の基準」にズレがないかを確認していきましょう。

もしパフォーマンスへの懸念が生じた場合は、感情論ではなく事実ベースのフィードバックを心がけることが重要です。

「〇〇のタスクが期日より3日遅れています。何か障壁がありますか?」という形で、具体的に・早めに・建設的に伝えることがトラブルを未然に防ぎます。

また、契約形態についてもフリーランスの多くは指揮命令権のない準委任契約を結んでいます。契約に沿った業務の指示ができているかも都度確認が必要です。

Hajimariの実践事例:CTO経験者フリーランスによる新規事業立ち上げ

上記のノウハウが実際にどう機能するか、Hajimariの事例でご紹介します。

事例

Hajimariにおいてこれまで進出してこなかったSaaS分野へ事業展開する際、メガベンチャーでCTO経験と組織マネジメント経験を持つフリーランスエンジニアが参画。

「SaaS事業を立ち上げ、6ヶ月でMVPリリースをする」という明確なゴールと、「経営視点から開発に求めること(コスト感覚・スピード重視・外部ベンダー活用の判断など)」をあらかじめ丁寧にすり合わせることで、認識齟齬の発生も防ぎました。

参画後は、開発戦略やプロダクトコンセプトの策定から、現場で発生する技術的な課題への随時対応まで、プロの視点から伴走し、プロジェクトは期日通りにMVPリリースを達成しました。

プロジェクトの最大の成功理由は、「何を任せるか」を最初に明確にしたことです。曖昧な状態でスタートしていたら、優秀な人材でも力を発揮しきれなかったでしょう。

優秀な人材を獲得することの難易度が上がるなか、フリーランス活用はもはやどの企業にとっても必須の手法です。

採用担当者に求められるのは、企業の課題解決に適した人材を適切な価格で採用し、パフォーマンスの出る環境を用意することです。

フリーランスを活用し、開発のスピードと質の両方を向上させることで、飛躍的な事業成長を実現させましょう。

理念を“作って終わり”にしない。採用・定着・活躍につなげる理念浸透の仕組みづくり|プレシャスパートナーズ矢野

近年、「採用の場で理念や想いを打ち出し、それに共感した人材を採用する」という手法を取り入れる企業が多くなっています。

しかし、どれだけ理念共感の高い人材を採用しても、入社後に理念が業務や行動へ結びつかなければ、その共感は徐々に薄れてしまいます。

今回は、理念を「作って終わり」にするのではなく、社員一人ひとりが「理念に納得し、行動へと移せる」ようにするための“理念浸透の仕組み”についてお伝えしていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

発信して終わらない理念運用

企業理念を採用サイトや説明会で発信するだけで終わらせてしまうケースは少なくありません。

しかし、理念の目的は「アピール」ではなく、日常の行動として根づかせることにあります。つまり、社員一人ひとりが日常業務の中で理念を意識し、行動に反映できて初めて理念は機能します。

株式会社TCDの「企業ブランドと働き方に関する実態調査」によると、会社員・正社員で理念を「はっきり覚えている」と回答したのはわずか14.3%。一方で、経営者・役員は52.9%が「はっきり覚えている」と回答しており、職位による認知ギャップが非常に大きいことがわかります。

ブランド(理念)の共感度
日頃のブランド(理念)の意識度

さらに、正社員で「理念にとても共感している」と回答したのは7.6%にとどまりました。日頃の理念への意識についても、「日常業務で意識している」は7.6%と、いずれも一桁台という結果です。

理念への「共感」が欠けたままでは、社員は理念を“自分ごと化”できず、「理念に沿った行動」も生まれません。

企業理念と事業をつなげる設計

理念浸透に欠かせないのが、企業理念と事業の一貫性です。

企業理念は企業の軸であり、事業戦略、評価制度、人材育成など、あらゆる基盤とつながっていなければ機能しません。

例えば、「顧客第一主義」を掲げているにもかかわらず、評価基準が売上のみで決まる“売上至上主義”となっている場合、社員は理念と実態のギャップを感じてしまいます。

「企業が掲げていること」と「実際に行っていること」が一致しなければ、理念は信頼を失い、行動指針として認識されなくなります。

企業理念を事業運営に組み込む具体例としては、

  • 新規事業の検討時に「理念に沿っているか」を必ず確認する
  • 評価制度に「理念行動」を組み込み、行動と理念を結びつける

といった取り組みがあります。

プレシャスパートナーズでも、企業理念に基づき事業運営を行い、理念が意思決定や評価の軸となる仕組みを整えています。

企業理念を動かすのは社長・経営者の発信力

企業理念を最も正しく伝えられるのは社長・経営者です。

特に社長は“理念の体現者”であり、その言葉や行動は社員へ大きな影響を与えます。社長自身が自らの言葉で語り、日々の行動で示すことで、理念はスローガンではなく、会社の姿勢として浸透していきます。

一方で、社長が理念を語る場が限られている企業では、理念は社員の日常から遠ざかってしまいます。そのため、トップと社員の対話機会を増やすことが理念浸透のカギになるでしょう。

社員総会や全社会議といった公式の場だけではなく、社長が執務スペースに立ち寄る、達成会や懇親会に参加する、カジュアルな対話を積極的に行うなど、こうした日常のコミュニケーションが理念浸透を後押しします。

プレシャスパートナーズでも、社長が各支社を訪問し、メンバーと直接対話する時間を大切にしています。食事の機会や部活などを通じ、業務外での時間も大切にしています。

役職者だけでなく、新入社員も社長と気軽に関われる文化をつくり、「理念が日常にある状態」を経営者自らが体現しています。理念浸透はトップダウンだけでは成立しません。

「トップが発信し、社員が共感し、現場で実践されること」その双方向のコミュニケーションこそが、理念浸透の架け橋となります。

企業理念を”自分の言葉で語る”アウトプット

理念をさらに深く浸透させるために重要なのが、社員一人ひとりが理念を自分の言葉で語る機会です。

社長・経営者が理念を発信し続けるだけでは、社員は受け身となるため、社員自身が企業理念を“自分ごと”として捉え、発信・体現できる状態を目指します。

プレシャスパートナーズでは、社員がSNSで自由に発信する取り組みを行っています。

「仕事を通して理念を感じた瞬間」
「会社の好きなところ」

などを好きに発信してもらっています。これは単なる広報活動ではなく、社員が理念について考え、自分の言葉で表現するプロセスになっています。

こうしたアウトプットの積み重ねが、理念を抽象的なスローガンから日常の指針へと変えていきます。社員自身が企業理念を自分ごととして捉え、会社としてアウトプットの機会を支援することが理念経営の定着につながります。

まとめ

理念浸透とは、単なる社内広報ではありません。理念とは、企業が「何を大切にし、どのように社会と向き合うのか」を社員全員で共有し続ける営みです。

理念の浸透は短期的に完結するものではなく、長期的な文化づくりです。発信して終わらせず、理念を経営・制度・日常へ組み込み、社長・経営者と社員が対話を重ねながら運用することが、理念を企業文化として根付かせる基盤となります。

“推し活採用”は採用課題をどう解決したか?内定承諾率を4倍向上させた仕組みとは

新卒採用では、AIの普及によりエントリーシートや「ガクチカ」の内容が似通う中で、「候補者の本質が見えにくい」と感じる採用担当者は少なくありません。

加えて、選考の効率化が進み、1社あたりが学生と向き合える時間は短くなっています。こうした状況に対して私たちが取り組んだのが、「推し活採用」です。

 “好きなものを語る面接”というシンプルな設計変更により、面接満足度が向上し選考継続率や内定承諾率の改善につながりました。

本記事では、私たちが取り組んだ新卒向け採用手法「推し活採用」導入の背景から具体的な設計、得られた成果までをご紹介します。

執筆者伊藤 宗一郎株式会社マーキュリー コーポレートコミュニケーション部コーポレート企画課 課長

2016年に株式会社マーキュリーに新卒入社。2年間の通信商材営業を経て人事部へ異動。新卒・中途採用の担当者として、求人媒体の運用やスカウトの活用、データ分析による精度向上を推し進め、年間2,000名の採用を支える体制を構築した。現在は、DX推進をはじめとする各種コーポレート企画に従事。現場、人事の両面を見てきた経験を活かし、「採用をもっと面白く」すること、そして働く人が輝ける組織設計に取り組む。

1|実施の背景

推し活に着目したきっかけ

コミュニケーションが苦手な学生の話を、どうすれば引き出せるのか。面接官として学生と向き合う中で、常に意識していました。

そのような中で、面接の中でアイスブレイクとして趣味の話題に触れると、場の空気が大きく変わることがよくありました。特に「推し」の話になると、コミュニケーションが苦手な学生でも自然と会話が弾むケースが多く見られました。

つまり、能力や志向性の問題ではなく、緊張や面接という形式そのものへの苦手意識によって、本来の魅力や考えが十分に伝わっていないケースが一定数あります。

そこで、「いかに話しやすい状態をつくるか」という観点から、面接設計そのものを見直すべきではないかと考えていました。

母集団への影響

当社はこれまでも多様な個性を持つ人材を採用してきました。入社後も特定のキャリア観に限定せず、幅広い選択肢を提示しているため、「さまざまな価値観を持つ人に入社していただきたい」という採用方針もあります。

そのため、「推し活採用」による母集団への影響はそこまで懸念していませんでした。

実際に、入社後の社員同士のコミュニケーションでも、関係性の構築において趣味の話題が起点になることが多く、「推し活採用」は当社のカルチャーとも親和性が高いのではという直感がありました。

さらに、新卒3年目までの採用担当者にアンケートを実施したところ、8割以上が「推し活採用」について肯定的だったことも、導入の大きな決め手になりました。

従来の選考での課題

タイムパフォーマンスを重視する学生に合わせ選考フローを簡略化する中で、「いかに人物像を見極めていくか」というところに課題を感じていました。

従来の選考フローでは「話し上手が有利になりやすい構造」が生まれてしまいがちであり、また「回答が画一化して学生の人物像や個性が見えづらい」という課題がありました。

現在、以下のような選考形式を導入しています。

  • 通常選考(説明会⇒選考2回⇒内定)
  • スピード選考(説明会⇒選考1回⇒内定)
  • 1DAY選考(説明会+選考会⇒内定)

その結果、面接時間は短縮され、限られた時間で判断する必要があります。

いかに短時間でも候補者の本質を捉えるかが、より重要な課題となっていました。

2|選考フローと運用設計

推し活採用の設計

選考フロー自体は大きく変えず、以下の形で実施しました。

  • 説明会
  • 1次面接:推し活面接
  • 最終面接:通常面接
  • 内定

フローを増やさないことで、現場の負担を抑えつつ導入できる設計としました。

設計上の工夫

面接の進め方をあらかじめ設計したうえで、レクチャー会や動画撮影を実施、当日の流れをイメージした上で本番に臨めるように工夫しました。具体的には以下の施策を実施しました。

  • 事前アンケートで「推し」を把握
  • 面接官向けレクチャー会の実施(面接官のスタンス統一)
  • 選考内容の事前開示(YouTube動画など)

特に事前アンケートは重要で、面接官が事前に会話の切り口を準備できるため、面接の質が安定します。

また、学生の話に関心を持ちながら丁寧に聞き、深掘りしていくように面接官にはレクチャー会を実施。

レクチャー会では全国の採用担当向けに、以下のポイントを重点的に伝えました。

<レクチャー会で伝えたポイント>
面接時間の区切り 推し活の話で時間が終わってしまわないよう、「推し語り」「深掘り」「就活ヒアリング」と時間を明確に区切りました
仕事への接続 「推しへの向き合い方」を「仕事への向き合い方」にリンクさせて質問するよう指導しました
3つの評価基準の言語化 単なる雑談にならないよう、「熱量」「表現力」「共感力」という独自の評価基準を設けました
「教えて!」のスタンス 面接官が知らないジャンルの話題が出ても事前に調べすぎず、「それってどういうこと?教えて!」という姿勢で、絶対に否定せず話を聞き出すことをルール化しました

その結果、学生が安心して話せる状態につながったと感じています。

3|成果:面接体験の質が数値に直結

導入後の成果

応募者数は376名から611名へと増加し、前年比162.5%となりました。(※2)

また、応募後の指標も以下の通り改善しています。

  • 選考予約率:75.7% → 92.5%
  • 内定率:24.7% → 50.0%
  • 内定承諾率:15.8%→61.5%

※2…2025年9月~12月の2026年卒応募数(マイナビ、リクナビ、キャリタス、自社採用サイト経由等)の前年同時期比。前年は「推し活採用」未実施。なお、ほかの要因も影響し得るため、単純比較ではなく傾向値としてご参照ください。

数値改善の要因

推し活を取り入れたことで、選考全体を通じた満足度が高まり、結果として最終選考まで進んでいただける方が増え全体的に移行率(※3)が改善したと捉えています。

面接を通じて、

  • 通常の面接よりも話しやすかった
  • 面接官が自分に興味を持ってもらえて、理解してもらえたと感じた

という体験が、「自分を受け入れられている」という印象につながり、志望度の向上に結びついたのではないでしょうか。

また、1次面接で話した内容を最終面接に引き継ぐことで、一貫した体験設計ができるよう工夫をしたことも効果的でした。

※3 ここでは選考において次のフェーズに進む割合のことを指す。

4|取り組みから見えてきたメリット・デメリット

メリット

 主に以下の3点です。

  • 他社との差別化による母集団形成
  • 面接満足度の向上による承諾率改善
  • 「推し」を取り入れた自己開示による人物像の理解促進

まず感じたのが、推し活というテーマ自体が目を引き、応募のきっかけになっているということです。この傾向は、先ほどの応募者数の増加にも表れていると感じています。

次に、面接で楽しく話せた経験が満足度につながり、そのまま選考継続にもつながっている点です。内定率は約2倍、内定承諾率は約4倍に向上しました。

最後に、「推し」の話題から自然と会話が広がることで、その人らしさが見えやすくなることです。

実施後の面接官向けアンケートでは、「学生が活き活きと話すので人柄が見えやすい」といった意見が多くあがりました。推し活というテーマは心理的ハードルが低く、短時間でも多くの言葉と熱量を引き出せます。その結果、人物理解の精度が高まりました。

デメリット

一方で、予約後の選考参加率のみ微減しました。

これは、通常の選考フローに加えて、推しについて回答していただく事前アンケートを追加したことが一因と考えています。

また、今年推し活採用に参加した学生が入社しますが、特に定着率については、今後継続的にモニタリングしていく必要があると考えています。

好きなことと仕事の接続

課題は残りつつも、この取り組みを通じて改めて感じたのが、「好きなこと」と仕事の関係性です。

私自身、もともとは「好きなことを仕事にしたい」という軸でエンタメ業界を志望していた経験があります。その時は直接的には希望が叶いませんでしたが、現在はさまざまな企画をする中で、自分の好きを活かせている感覚はあります。

また、好きなものがあることで、余暇の時間を楽しめて、リフレッシュができ、それが結果的に仕事への集中やモチベーションにつながる人も多いのではないでしょうか。

「好きなものを好きと言えること」自体が、その人らしさや価値観を表します。当社の企業風土とも重なりカルチャーマッチにつながると考えています。

5|今後の展望/今後挑戦したいこと

今後は「推し活採用」された人が、より活躍しやすくなるような環境整備にも挑戦していきたいと考えています。

例えば、

  • 推し活応援ギフト
  • 推し活休暇

といった施策も検討しています。

また、現在の採用市場では「どのような体験ができる会社か」という視点の重要性が高まっています。推し活採用は単なる施策ではなく、企業の価値観を体現する取り組みとして、今後も進化させていきたいと考えています。

ピルとオンライン診療が切り拓く未来の働き方― 「タイミングを選べる」という自由を―

「なんとなく体がだるい」「会議中に集中力が続かない」「理由は分からないけれど、毎月決まった時期につらくなる」

こうした不調は、多くの働く女性が日常的に感じている“見えない負担”です。

生理やホルモンバランスの変化による体調不良は、外見からは分かりにくく、数値にも表れづらいものです。そのため本人でさえ、「気のせいかもしれない」「甘えてはいけない」とやり過ごしてしまうことが少なくありません。

しかし、この“見えない不調”は、欠勤や早退だけでなく、集中力の低下、判断力の鈍化、コミュニケーションの摩擦などを通じて、確実に仕事のパフォーマンスへ影響します。

医療的なケアによって改善できる可能性があるにもかかわらず、

「忙しくて通院できない」
「近くに婦人科がない」
「仕事の合間に行きづらい」

といった現実的な壁が、多くの女性の前に立ちはだかってきました。

本稿では、ピルとオンライン診療がもたらす新しい健康支援の形、そしてテクノロジーが可能にする“自分らしく働ける未来”について考えていきます。

寄稿者坂梨 亜里咲mederi株式会社 代表取締役

明治大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの不妊治療経験からmederi株式会社を起業。オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」、企業向け健康支援・福利厚生サービス「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開。

ピルは「働く女性の体調マネジメントツール」

日本ではいまだに「ピル=避妊薬」というイメージが強く残っています。しかし実際には、低用量ピルは女性の体調を安定させるための医療的な選択肢として、世界中で広く活用されています。

特に働く女性にとって重要なのは、月経周期による体調変動をコントロールできることです。生理痛やPMS(月経前症候群)によって、集中力が落ちたり、強い倦怠感や頭痛に悩まされたりする女性は少なくありません。

しかし多くの場合、それは周囲に見えにくく、「我慢するもの」として扱われてきました。低用量ピルはホルモンバランスを整えることで、

  • 生理痛の軽減
  • PMS症状の改善
  • 月経周期の安定

といった効果が期待されます。

つまりピルは、単なる医療ではなく、女性が日常生活や仕事のパフォーマンスを安定させるための体調マネジメントツールとも言えるのです。

一方で、日本のピル服用率は約3%とされ、欧米諸国と比べて非常に低い水準にあります。

その背景には、「産婦人科に通う時間が取れない」「相談しづらい」といった医療アクセスの問題があります。この課題を大きく変え始めているのが、オンライン診療の普及です。

なぜオンライン診療が必要なのか ― 医療アクセスの壁

働く女性にとって、産婦人科への通院は決して簡単ではありません。予約・移動・待ち時間を含めると半日近くかかることもあります。

その結果、

  • 症状があっても受診を後回しにする
  • 薬の服用を継続できない
  • 医師に相談する機会がない

といった状況が生まれてしまいます。

オンライン診療は、この医療アクセスの壁を大きく下げました。スマートフォンを使って自宅や職場から産婦人科医に相談でき、診察や処方まで完結します。通院時間の負担が減ることで、医療をより身近なものに変える可能性を持っています。

医療とテクノロジーの融合は、「通院できない」という構造的な問題を解決しつつあるのです。

福利厚生として広がるオンライン健康支援

こうした変化を背景に、企業の福利厚生にも新しい動きが生まれています。それが、オンライン診療を福利厚生として導入する取り組みです。

企業がオンライン医療サービスを導入することで、

  • 社員が勤務時間内でも医療相談できる
  • 通院時間の負担を減らせる
  • 体調管理を継続しやすくなる

といったメリットが生まれます。

企業側にとっても、

  • 欠勤や早退の減少
  • 集中力の向上
  • 業務パフォーマンスの安定
  • 離職リスクの低下

といった効果が期待できます。

実際に導入企業からは、

 「女性社員が体調について相談しやすくなった」
「生理による欠勤が減った」
「安心してキャリアを続けられると感じる社員が増えた」

といった声が寄せられています。

さらに、体調によるパフォーマンスのばらつきが減ることで、集中力や業務効率が安定し、結果として労働生産性が高まったという声も聞かれるようになりました。

女性の健康支援は単なる福利厚生ではなく、 組織全体のパフォーマンスを高める人的資本投資として捉えられ始めています。

「タイミングを選べる」という自由

女性がキャリアを築く中で、体調やライフイベントと向き合うことは避けられません。

しかしこれまで多くの女性が、「体調を我慢する」「キャリアを優先すると体のケアが後回しになる」という状況に置かれてきました。

ピルとオンライン診療は、自分の体と人生のタイミングを、自分で選べる社会を後押しするものです。

いつ働くか。
どんなペースでキャリアを築くか。
いつ家族を考えるか。

その選択肢を広げることこそが、女性の活躍を支える本質的な支援ではないでしょうか。

おわりに

ピルによる体調マネジメント、そしてオンライン診療による医療アクセスの改善は、これまで「我慢するしかなかった」女性の働き方を大きく変えつつあります。

通院のハードルが下がり、必要な医療にアクセスできる環境が整うことで、女性は体調を整えながらキャリアを継続する選択肢を持てるようになります。

医療とテクノロジーが融合することで、働き方の選択肢は確実に広がっています。ピルやオンライン診療は、その象徴的な存在と言えるでしょう。

女性の健康課題に向き合いたいと考える方には、拙著『女性に選ばれる会社の新・健康経営 ― 職場改革は生理・PMSケアから始めよう』(合同フォレスト刊)にて、制度設計の考え方から現場への浸透ポイントまでをまとめています。

「キャリアも妊娠も、自分でタイミングを選べる社会へ。」

その実現のために、企業ができることは決して特別なことではありません。女性の健康を前提にした職場設計へと一歩踏み出すことが、結果として組織の強さと社会の持続可能性を高めていくはずです。

 

『人材育成恐怖物語』から学びましょう|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

数カ月前、研修効果測定で有名なブリンカーホフ教授から「人材育成の恐怖物語の本を書くんだけど、一緒にやらない?」と連絡がありました。「人材育成の恐怖物語って……何?」と聞いたところ、思った以上に奥が深い答えが返ってきました。

「ライフワークとして、1990年代から効果的な研修の具体的なノウハウを出し続けてきました。大学で数千人の学生に教えました。本も何冊も書きました。毎年数十回のセミナーや講演も実施してきました。もちろん、コンサルティングや数えきれないほどの研修プログラムの研修効果測定の調査もしてきました。でも、何をやっても研修効果で世の中が大きく改善されたという実感が持てません。残念なことだなと考えていたところ、『人材育成の関係者(担当者や講師)と人材育成の国際会議や研修前後に話をして、一番盛り上がる話は毎回同じ』なことに思い当たりました。それは、過去の笑える研修失敗ネタと体験談です。そこで、『ベストプラクティスと立派なアドバイスばかりではなく、たまには失敗談を発信してみたらむしろインパクトがあるかも』と思ったんですよ」

その発想から生まれたのが、最近出版された『Training Horror Stories(人材育成恐怖物語)』です。様々な視点を入れるために、世界中の人材育成専門家から“Best of ダメ人材育成” ネタを集めました。

社内の人材育成担当者、外部コンサルや講師、アメリカ国内、グローバルなど、バランスよく様々な立場からの話が盛り込まれています。実は、私も日本代表として3つネタを提供しました。

あるあるネタ、少々大げさで笑える失敗例の数々であっという間に読み終わりますが、実は人材育成の本質に対する大事なヒントがいろいろと含まれている本です。今回は、この本で示されている問題や解決ヒント、エピソードを簡単にご紹介します。

よくある問題と解決ヒント

この本は全44章で構成され、大きく7つの切り口に分かれています。どれも人材育成の場でよく起きる問題ばかりです。切り口ごとの問題と解決ヒントを要約してご紹介します。

1. 研修の設計ミス(Design Disasters)

問題

研修の企画と準備段階で発生する問題。例えば、

  • 開発の流れが整理されていない
  • 教材をつくるために膨大なリソースを無駄にする
  • リモート研修を進めるチームと対面研修を進めるチームが合意に至らずに並行してバラバラな研修を2つつくってしまう

ヒント

当然ながら、研修を設計する際には関係者全員が合意できる明確な目的が必要。また、どのようなプロセスや流れにするかの共通イメージも大事。特に、国や組織を越えるときには意識合わせを早めにやらないと失敗する可能性が高まる。

2. 定着しないダメ研修(Training that didn’t stick)

問題

研修を実施したが、求めている行動変容とビジネス成果が得られない。例として、

  • 対象者を間違えている
  • 分かっているが「できる」レベルまで定着できない
  • 研修内容と現場のニーズが一致していない

ヒント

成果を出すには定着の工夫が必要。最低ラインは、

  • 研修後の職場での行動を目的にする
  • 受講者の上司を巻き込む
  • 研修をシリーズにする
  • 研修期間中に研修内容を職場で実践して振り返るサイクルを回す

3. 間違っていた育成施策(Wrong solution)

問題

研修内容が現場のニーズに合わず、実施しても職場課題の解決につながらない。例えば、

  • 職場から依頼された研修内容と本当の問題点が異なる
  • 研修内容と現場で求められていることがずれている
  • そもそも研修や育成で解決できない問題だった

ヒント

徹底した事前ニーズヒアリングは理想的だが非現実的。おすすめはニーズ把握に時間をかけず、少人数でとりあえずパイロット版を実施してみて、きちんとした効果測定をすること。それによっていろいろと見えてくるので、その結果に基づいて研修を大きく改善する。

4. 不満げなステークホルダー(Disgruntled clients)

問題

ステークホルダーの影響によって研修がうまくいかない。例えば、

  • カリスマ講師の細かいこだわりに左右される
  • 経営者の勝手な意見に振り回される
  • 受講者の上司のせいで研修内容を職場で使おうとするモチベーションがなくなる

ヒント

ステークホルダーを事前に巻き込み、関係者全員のベクトルを合わせる。ただし、実際問題としては非常に難しい。普段からステークホルダーのこだわりを意識して、危機感があったときには無理に踏ん張らないのが現実的。

5. 講師のメルトダウン(Awkward facilitator moments)

問題

受講者への案内と研修内容が違う。受講者との共通言語もなければ、通訳もない。研修中に会社でトラブルが起きて、受講者の集中力が下がる。講師は研修をお願いされているが、受講者には慰安旅行だと伝わっている。

ヒント

一言で言えば、研修の目的と期待を明確にして共有すること。だが、そう簡単ではない。研修、旅行、イベントのように形がなく、期待が高い場合にこのようなずれがよく生じる。最低限、人材育成担当者と講師、受講者の間で研修の位置付け、重要性、目的について合意がないとうまくいかない。

6. 非協力的な受講者(Unhappy participants)

問題

研修内容がアカデミックすぎる、難易度が高い(または低い)。研修内容が受講者の望んでいる内容と異なる。受講者のニーズを考えずに強制的に参加させる。受講者の負担が重すぎる。担当者が代わったため、研修設計の意図が受講者に伝わらなくなる。ラーニングジャーニーの運営サポートが不十分。

ヒント

人材育成の経験が長いと、不満を持つ受講者には必ず出会うもの。不満の中にも2種類の原因がある。

  • 1つ目は受講者の個別事情や性格。例えば、研修期間が私生活の大切な行事と重なる等。
  • 2つ目は人材育成担当者と講師のミス。2つ目については受講者のニーズを事前に把握すること、受講者に研修の目的と負担を的確に伝えることが大切。特に負担の多い研修の場合は、受講者にとってのメリットを強調すること。

7. 研修効果測定の失敗(Evaluation mishaps)

問題

アンケート内容と研修内容が合わない。研修の効果よりも受講者満足を重視する。研修の効果を考えずにセレモニー的なアンケートを書かせるだけ。効果測定をやっても結果に対して何もアクションをとらない。

ヒント

このような問題は非常に多い。解決に向けての第一歩は、研修当日の受講者の満足度だけではなく、研修後に職場でどのような行動が起きたかに対して関心を持つこと。次に、なぜそのような行動をしたか、どのような成果が出たかを調べること。

エピソード

ここまではよくある人材育成ベストプラクティスそのままです。この本でやりたかったのは、成功例でなく大失敗例を紹介し、笑いと同時に危機感を与えることです。

すべてにふれることはできませんが、軽くいくつかご紹介します。

エピソード1:研修と現場は違う?

米軍は人材育成分野が非常に進んでいて、数十年前から高く評されており、ベンチマーキングもよくされています。

特徴としては、強いトップダウン、人数が多い、全員強制研修、成果が出るまで徹底的に研修を行う、しっかりした成果確認と研修効果測定をすることです。多いのは講師育成(Train the Trainer)のパターンで、各現場から講師を決めて、その講師たちが集まって講師トレーニングを受け、各自の現場に戻って現場メンバーに教えます。

このエピソードは、ブリンカーホフ本人の若き日の体験談です。

エピソード1
1960年代、アメリカ海軍のバハマ南東にあるグランド・タークにいた際、施設の人材育成担当として本部に呼ばれ、講師向けのかなり充実した2週間のブートキャンプ的な研修を受けました。
研修後には自分の担当施設に戻って、研修内容を全メンバーに展開するのが通常のオーダーでした。ブリンカーホフは高いモチベーションで具体的なアクションプランをつくり、詳細に研修を企画して、ワクワクしながら施設に戻って自分の上司に報告しました。
学んだこと、研修に対する感想、アクションプラン、今後実施する研修の提案、求める成果等を1時間ほどかけて詳しく説明しました。それに対して上司は、

上司:そうか。いろいろ学んだね。ところで、ここはどこかな?
ブリンカーホフ:ここはグランド・タークです
上司:そうだ。ということは、本部ではないね
ブリンカーホフ:ええ、違います
上司:そうだよな。じゃあ、いつもどおりで
ブリンカーホフ:……はい

研修をより活かそうとする試みは、上司の一言でつぶされてしまいました。
ブリンガーホフは落ち込み、すべての内容をそのままシュレッダーにかけて、研修内容をきっぱり忘れようとしました。

このように、良いことを学んでも、残念ながら行動変容とビジネス成果にはつながらない場合があります。

エピソード2:研修を受けずに売り上げを上げる不思議な営業職

あるグローバル大手システム会社では、画期的な商品のラウンチに向けて、営業職向けにかなり力の入った研修プログラムを用意しました。1カ月程度で合計200時間以上、ワークショップとロールプレイ中心の徹底した研修です。

ただ、時間と費用を考えると全営業職に受講させることができないため、2,000人の営業職から500人を選抜して実施しました。製品ラウンチは大成功で、研修の評判も上々でした。

その後、ラウンチ6カ月後に研修効果測定を行ったところ、とても面白い結果が出ました。

エピソード2
受講者は研修内容をうまく活かし、新製品の売り上げにつなげていました。ところが、驚いたことに受講していない残りの1,500人のほうが、受講者以上に新製品を多く売り上げていました。
その理由は、
  • 内的動機:残りの1,500人は受講者に負けないよう普段以上に努力した
  • 柔軟な対応力:残りの1,500人のほうがお客様の個別ニーズとスタイルにより柔軟に合わせることができた(研修で紹介されたパターンに頼りすぎずに)
  • 同僚との協力:選抜されなかった際、残された1,500人は「負け組」だと疎外感を覚えたとのこと。その思いをモチベーションに変えて、1,500人の中で一体感が生まれた

このエピソードから、必ずしも研修だけが職場での行動とビジネス成果に直結するわけではないことが分かります。

エピソード3:グローバルスタンダードにならない

あるグローバル自動車メーカーで、すべての技術教育をeラーニングにして内容も統一しようという動きがあり、各地域から委員を決めてグローバルタスクフォースを設立しました。

エピソード3
それまでは各地域にそれぞれオリジナルのeラーニングがあり、内容、目的、作成ツールはすべて異なっていました。例えば、北米はシンプルで短いマイクロラーニング重視で、逆に欧州は丁寧で細かい解説中心の30分以上のeラーニングがメインでした。
限られた予算ですべてのコンテンツを更新し、統一してグローバル展開しなくてはいけません。結局、グローバルスタンダードどころか方針を決めるだけで2年間議論し、その間に予算を食いつぶし、委員の半分は退職して、まったく成果がないままプロジェクトは失敗しました。

ここから学べることは、異なる背景を持っている人や組織と一緒に何かをする場合、ベクトル合わせは必要不可欠で、しかもそう簡単ではありません。

クロージング

私もブリンカーホフ教授と似たようなことを感じています。

私の場合は日本で、1990年代から成果につながる人材育成のベストプラクティスと成功事例を積極的に発信してきましたが、残念なことに世の中では表立った変化はそれほど見られません。

ここで私から提案です。皆さんも『人材育成恐怖物語』の日本版や社内版をつくってみませんか?

失敗は成功のもと、少しでも人材育成の改善につながりそうだと感じたら、ぜひ試してみてください。皆さんなりの『人材育成恐怖物語』を楽しみにしています。

【第5回】組織適応の最終ステップとなる自分らしさの発揮~会社文化に適応する~

近年多くの企業が共通して直面している現実があります。それは優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまうという課題です。この連載では、キャリア入社者のオンボーディングと組織適応を効果的に支援していくための実践的なポイントをご紹介していきます。

前回の第4回では、キャリア入社者が所属する組織において、リーダーやサブ・リーダーなど、これまでよりも一つ上の役割を担うようになる中で直面する「適応中期の壁」について紹介しました。最終回となる今回は、キャリア入社者が入社した組織に適応していくうえでの最後のステップとなる自分らしさの発揮と会社文化への適応について詳しく解説します。

執筆者内藤 淳株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 主任研究員

1989年、東京大学文学部社会心理学専修課程卒業後、リクルートに入社。1994年、人事測定研究所に転籍。以来、法人向けの心理アセスメント、組織診断ツールの研究開発および各種人事データの解析に携わる。近年は、新卒およびキャリア入社者の組織適応、中堅社員のキャリア・離職などについての研究を行っている。2014年より、立教大学現代心理学部兼任講師。

1. キャリア入社者が自分らしさを発揮して活躍できるようになる時期

一般にキャリア入社者は、入社後しばらくの間、自分の所属する会社のことを「うちの会社」と自然に呼ぶことが難しいものです。

しかし、入社後2~3年ほど経つと、会社の文化や組織風土への理解が深まり、徐々に適応が進みます。その結果、「うちの会社」という言葉が自然に出てくるようになるなど、心理的にも組織の一員としての実感が高まっていきます。

またこの時期になると、職務面でも、前職で培った知識やスキル、専門性といった自分ならではの強みを生かしながら成果を挙げ、組織に貢献できる段階に入っていきます。

キャリア入社者は、前職での経験や専門性を持っているとはいえ、入社直後の段階では、その会社で長く続いてきた仕事の進め方や慣習に対する改善や新たな提案を行おうとしても、社内の文化や風土の理解がまだ十分でないため、うまくいかないことが少なくありません。

しかし、この時期になると、その会社特有の仕事の進め方や組織風土への理解が深まっているため、周囲に受け入れられやすい形で、現実的かつ実効性の高い提案ができるようになります。

2. キャリア入社者にとって節目となる時期でもある ―定着か、離職かの分岐点

この時期、組織適応が順調に進んだキャリア入社者は、会社の一員として、自分ならではの強みを生かしつつ活躍できるようになっていきます。

しかし、すべてのキャリア入社者が滞りなく仕事や組織に適応し、立ち上がっていくわけではありません。なかには、会社や職場に対する違和感を解消できないまま、自分に何が期待されているのかがわからない」「組織風土がどうしても自分に合わないといった理由から、再び転職を考え始める人もいます。

このように、組織適応に向けての最後のステップとなるこの時期は、キャリア入社者にとって、良い意味でも悪い意味でも一つの区切りとなりやすいタイミングといえます。

図表1は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、現在の会社での就業継続や離職に関する意向を尋ね、その結果を入社時期別に集計したものです。

N=1109

これを見ると、「今の会社・現在の組織で働き続けたい」と回答した人の割合は、入社後「2年目」までは減少傾向にありますが、「3年目」になると再び増加しています。

一方で、「今の会社で働き続けたいが、他の部署に異動したい」という人は、入社後「半年~1年」の時期に最も多くなっていますが、「2年目以降」は徐々に減少しています。

そしてこれとは対照的に、「近い将来、他の会社への転職も考えたい」と回答する人は、「2年目以降」に増加していきます。

この結果は、入社してからの約2年間がキャリア入社者の適応における一つのサイクルとなっている可能性を示しています。

そして3年目に向かう時期は、「この会社で働き続けよう」と定着の意思を固める人が増える一方で、社内での異動機会が限られるなか、「この会社や仕事は自分に合わないのではないか」と考え、再び転職を視野に入れる人も増えていく、いわばキャリアの節目となりやすいタイミングといえます。

この時期には、少し冷静になって自分自身を振り返る余裕も生まれ、今の仕事で自分らしく働くことができているか」「自分ならではの価値を発揮できているかと自問したり、今後のキャリアについて改めて考えたりするなかで、社内に留まり働き続ける意思を固める人と、再び社外に目を向ける人とに分かれていきます。

3. この時期に求められる周囲の関わりとフォロー

入社2年目以降になると、上司や周囲は「もう十分に慣れただろう」と考え、新卒入社の社員と同じ接し方をしてしまいがちです。しかし実際には、この時期は組織への適応が順調に進むかどうかの分岐点となりやすい重要なタイミングです。

そのため、相手がキャリア入社者であることを改めて意識した関わりが求められます。

具体的には、本人が持つ強みや専門性、入社の動機やキャリアに対する志向を再確認しながら、今後のキャリアの方向性について一緒に考えていこうとする姿勢が重要です。

以下では、上司や周囲の関わりとして大切なポイントを2点紹介します。

1)改めてキャリア入社者ならではの強みを生かすことを意識する

この時期には、本人が前職で培ってきた、その人ならではの専門性や知識・スキルに改めて目を向け、それらを生かした業務改善や企画提案を行えるよう、上司や周囲が背中を押していくことが求められます。

多くのキャリア入社者は、「社内にはない専門性や知見、ノウハウを期待されて採用された」という自負を持っています。

しかし、入社から数年が経ち、周囲から新卒入社の社員と同じように扱われるようになると、人脈の少なさや社内事情への理解の差を感じ、「自分はプロパー社員よりも仕事の能力が劣っているのではないか」と感じてしまうことがあります。

その結果、「自分は何のためにこの会社に採用されたのか」「自分には何が期待されているのだろう」といった迷いを抱くケースも少なくありません。

またキャリア入社者のなかには、「この仕事の進め方は非効率ではないか」「こう変えればもっと良くなるのではないか」と感じていても、これまでとは勝手が異なる新しい組織環境では、簡単には口に出せない場合もあります。

だからこそ、上司や周囲が本人の問題意識や改善の視点に丁寧に耳を傾け、それを引き出し、実際の行動や提案につなげていくのを後押しする関わりが求められます。

このような関わりは、キャリア入社者の意欲や誇りを高め、組織への貢献意識を強めることにもつながります。

キャリア入社者が自分自身を「単なる欠員補充としての人材」と捉えるのか、それとも「新しい視点や専門性を期待されている存在」と捉えるのかは、この時期の経験によって大きく左右されるのです。

2)本人の入社動機や志向に改めて向き合う

キャリア入社者が会社の風土や仕事の進め方にある程度慣れてくると、「自分はなぜこの会社に入社したのか」という意味を改めて問い直すようになり、今後のキャリアの方向性や社内での異動の可能性にも意識が向くようになります。

そのため上司や周囲は、本人が自身のキャリア形成や今後の異動についてどのように考えているのかについて、このタイミングで再確認しておくことが重要になります。

図表2は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、キャリアの目標と異動に対する考えを尋ねた結果です。

N=1109

これを見ると、キャリアの目標について「今の専門領域にこだわらず、より幅広い経験を重ねていきたい」と回答した人は全体の18%にとどまり、8割以上の人が「現在の専門領域を軸にキャリアを形成していきたい」と考えていることがわかります。

また、異動についても、「専門領域にこだわらず異なる領域への異動を希望する」と回答した人は20%と少ない一方で、「専門領域は維持しつつ、周辺領域への異動であれば受け入れられる」と回答した人が60%となっています。

このことは、多くのキャリア入社者が、専門性を軸にキャリアを発展させたいと考えつつも、その領域の中で経験を広げていくための異動には前向きであることを示しています。

上司や人事としては、キャリア入社者が自身の専門性を今後どのように高めたり広げたりしていきたいと考えているのか、また今後の異動についてどのように考えているのかに丁寧に耳を傾けることが重要です。

その上で、考えられる複数のキャリアパスを本人に示しながら、今後のキャリアについて共に考えていく姿勢が求められます。

また入社3年目に差し掛かる前後の時期に、会社として、キャリア入社者を対象にした「キャリア研修」を実施するのも有効な支援策です。こうした施策や関わりは、キャリア入社者の会社や組織に対する信頼を高めるとともに、定着意向の向上にもつながると考えられます。

以上、今回はキャリア入社者の組織適応の最終段階である「自分らしさを生かしながら会社文化に適応していくプロセス」と、この時期に重要となる上司や周囲によるフォローについてご紹介しました。

最後に

本連載ではこれまで全5回にわたり、一般にはあまりよく理解されていないキャリア入社者特有の組織適応上の課題や心理の状態、また上司・人事や周囲がどの時期に、どのような視点でフォロー・支援を行うとよいのかについて解説してきました。

本稿が、キャリア入社者のオンボーディングや組織適応、育成支援に携わる皆さまの取り組みの一助となれば幸いです。

実は6割が「出世はしたい」450名調査から紐解く、新卒世代を惹きつけるためのマネジメントと採用戦略とは

近年の新卒採用市場や若手育成の現場において、

  • 若手は管理職になりたがらない
  • 責任あるポジションを避ける

という言葉を耳にする機会が増えました。

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が流行し、世間ではプライベートを最優先する姿勢が強調される中で、企業側は「どのように若手の意欲を引き出せばいいのか」という課題に頭を悩ませています。

しかし、その「定説」は本当に正しいのでしょうか?

株式会社ベースミーが24〜27卒の学生450名を対象に実施した「出世欲と理想のマネジメント」に関する調査からは、これまでのイメージを覆す「新卒世代のリアルな上昇志向」が見えてきました。

本記事では、最新の調査データをもとに、Z世代・新卒世代のキャリア観を深掘りし、彼らのエンゲージメントを高めるためのマネジメントと採用戦略のアップデートについて解説します。

執筆者勝見 仁泰株式会社ベースミー 代表取締役CEO/Z世代キャリアラボ 所長

ここに人物紹介文が入ります。幼少期より実家の八百屋での手伝いの経験から「商売や働くこと」「ものづくり」に関心を持つ。大学1年次よりインターネットに没頭し、文科省日本代表プログラム「トビタテ留学Japan」に選出され、ドイツにてAI領域で学生起業に挑戦するが事業撤退。その後、複数のIT企業でのインターンを経験し、米国と日本での就活の原体験から、2020年11月にCTOの大橋とアレスグッド(現:株式会社ベースミー)を在学中に共同創業。Forbes 30 UNDER 30 Asia 2024(世界を変える30歳未満のアジア人)ビジネス部門にて選出。Z世代のインサイト及び就活生の悩みや課題感をインタビューを通じて分析、蓄積してきた情報を元に、2026年「Z世代キャリアラボ」を立ち上げ。勝見自身もZ世代。

「管理職離れ」は誤解?6割が持つ「出世意欲」の正体

売り手市場が続く新卒採用において、内定辞退や早期離職を防ぐためには、彼らの深層心理にある「キャリア観」を正しく理解することが不可欠です。一般的に「若手は出世を望まない」「管理職になりたくない」と判断される傾向が高いですが、今回の調査結果はその認識を覆す意外なものでした。

「出世したい」層は過半数を超える

調査によると、「働く会社で出世したいですか?」という問いに対し、「したい」「ある程度はしたい」と回答した学生は合わせて約6割に達しました。

「出世について考えたことがない」層を除けば、明確に「したくない」と答えた層は少数派です。この結果は、Z世代が決して「成長や昇進に無関心」なわけではなく、むしろ「健全な野心」を持っていることを示唆しています。

彼らが「出世」に求めるもの:給与と裁量権

では、彼らはなぜ出世を望むのでしょうか。

彼らの動機として最も多かったのは「給与や待遇を上げたい」という回答でした。これは世代を問わず普遍的な欲求と言えます。

しかし、注目すべきは2番目に多かった「裁量を持って仕事をしたい」という回答です。彼らにとっての出世とは、単に地位や名誉を得ることではありません。「自分の意思で仕事をコントロールできる状態」や「自己実現」を手に入れるための手段として、ポジションを求めているのです。

また、「転職や独立の際に役立ちそう」という回答も一定数見られ、終身雇用を前提とせず、自身の市場価値を高めるためのステップとして出世を捉えているドライかつ戦略的な視点も浮き彫りになりました。

「出世したくない」層が抱えるリアルな不安

一方で、出世を望まない層は何を懸念しているのでしょうか。

トップは「プライベートの時間を大切にしたい」でした。次いで「責任を負いたくない」という回答が続きます。

ここで重要なのは、彼らが「仕事が嫌い」なわけではないという点です。「管理職=長時間労働・過度なプレッシャー」という旧来のイメージが、心理的なハードルとなっている可能性があります。

企業側には、一律に「管理職」を目指させるキャリアパスだけでなく、「専門職としてのスペシャリスト」や「ワークライフバランスを保ちながら貢献する」といった、多様で柔軟なキャリアステップを提示することが求められています。

彼らが求める「理想のマネジメント」:キーワードは“成長の伴走”

採用後の定着・活躍において、上司のマネジメントスタイルは極めて重要な要素です。調査結果から見えてきたZ世代が求める「理想の育成」には、明確な特徴がありました。

「褒め」と「フィードバック」の両立

「どのようなマネジメントを受けたいか」という問いに対し、「良い点・改善点を具体的にフィードバックしてほしい」と「褒めて育ててほしい」が拮抗する結果となりました。

「Z世代は打たれ弱いから、とにかく褒めればいい」というのは短絡的な解釈です。彼らは承認欲求を満たしてほしい一方で、「自分の市場価値を高めたい」「成長したい」という強い意欲を持っています。

そのため、「なぜ良かったのか」「次はどうすればより良くなるのか」という、成長のための具体的なフィードバックを強く求めているのです。キーワードは「成長への伴走」「心理的安全性」の両立と言えるでしょう。

理想の上司像:属性よりも「関係性」

「理想の上司」に関する調査では、「年齢に関わらず、仕事の実力がある人」や「年齢が近い・話しやすい」が支持されました。

しかし、特筆すべきは「特に気にしない」という層の多さです。これは、彼らが年齢や性別、社歴といった「属性」で上司を判断しているのではなく、「個としての実力」や「自分との関係性(話しやすさ、信頼感)」を重視するフラットな視点を持っていることを示しています。

特に「出世意欲が高い層」ほど、上司との「フランクな関係」を求める傾向が強いことも判明しました。上昇志向のある学生は、上司を「管理する人」というよりは、「成長を加速させてくれるパートナー」として捉えていることを示唆しています。

採用・育成における「ミスマッチ防止」と「意欲醸成」の鍵

ここまで見てきたように、新卒世代は「出世意欲」も「成長意欲」も持っています。しかし、なぜ入社後に「入社後ギャップによるエンゲージメント低下」や「早期離職」が起きてしまうのでしょうか。

その原因の一つは、入り口時点での「スキル偏重の選考」と「価値観マッチングの欠如」にあります。つまり、「スキルマッチ」だけでは見落としてしまう優秀な人材がいるということです。

「何をやってきたか(What)」だけでなく、「なぜ、どのように取り組んだか(Why/How)」というプロセスや価値観に企業が寄り添うことで、学生は「評価される場」ではなく「理解される場」として選考に臨むことができます。

この「心理的安全性」が、入社後の高いエンゲージメントの土台となるのです。

新卒世代を惹きつけるための「マネジメント・採用戦略」のアップデート

最後に、今回の調査結果を踏まえ、企業が明日から取り組める具体的なアクションを提案します。

① 採用:「多様なキャリアパス」の提示

求人サイトや説明会で、「幹部候補」としての訴求をすることに加えて、「専門性を極める道」や「プライベートと両立しながら長く働く道」など、複数の選択肢があることを示しましょう。

これにより、「責任を負いたくない」層の心理的ハードルを下げつつ、「裁量権」を求める層には将来のチャンスをアピールできます。

② 育成:「具体的」かつ「ポジティブ」なフィードバックの習慣化

マネージャー層に対し、「フィードバック研修」を実施することをお勧めいたします。

単に「よかったよ」「頑張ったね」で終わらせず、「〇〇という行動が、チームの××という成果に繋がった。次は△△に挑戦すると、より君の強みが活きる」といった、「承認+成長示唆」の型を身につけることが重要です。

③ 組織:「ナナメの関係」や「メンター制度」の活用

「年齢が近い・話しやすい」先輩社員との接点を増やすことも有効であると考えられます。

直属の上司には言いにくい悩みも、少し年上の先輩(5〜10歳差の“程よい距離感”の先輩)になら相談できるケースは多々あります。

公式なメンター制度だけでなく、社内座談会やランチ会などを通じて、フラットに話せる場を設計しましょう。

Z世代は「出世」したくないのではなく「納得」したい

「最近の若者は……」と否定的な見方をする前に、まずはZ世代の変化に注目してみませんか。彼らは、意味のない苦労や理不尽な責任は拒絶しやすい傾向にありますが、「自分の成長に繋がる」「納得感のある」挑戦であれば、意欲的に取り組む準備ができています。

6割が「出世したい」と考えているこの事実を、企業はどう活かすか。それは、Z世代を新卒採用者という「枠」に当てはめることよりも、彼らの「意欲」の根幹を理解し、伴走するパートナーとして迎え入れられるかどうかにかかっています。

「不安を放置しない定着支援」“寄り添い”と“自立”を両立させる人事設計|プレシャスパートナーズ矢野

第4回では「オンボーディングとつながりの関係性設計」をテーマに、社員と会社、そして仲間同士の“つながり”が人材定着を支えるという内容をお伝えしました。

しかし、制度がどれほど整っていても、長く働くなかで社員の心には不安や迷いが生まれる瞬間があります。

一見、普段通り働き元気に見える社員の中にも、孤独感や焦りを抱えながら日々を過ごしているケースは少なくありません。

定着を支えるうえで必要なのは単なる”メンタルケア”ではなく、社員が自身を理解し、状況を客観的に捉え、自ら一歩を踏み出せるよう導くための“仕組み”を整えることが重要です。

今回は、プレシャスパートナーズが実際に行っている取り組みを例に、「不安を抱える社員をどのようにサポートするのか」についてお伝えします。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

社員が抱える“不安”とは

社員の不安は、キャリアステージや役職によって多岐にわたります。

  • 上司や同僚との人間関係の悩み
  • キャリアの先行きが見えない
  • 成長実感が得られない
  • 評価に納得できない
  • 成果が正当に認められていないと感じる

ここには挙げきれないほど、社員の数だけ悩みがあります。また、不安は表情や言動の奥に隠れることも多く、「がんばっているように見える人ほど悩みを抱えている」ことも珍しくありません。

こうした不安を放置すると

  • モチベーションの低下による業績悪化
  • エンゲージメント低下からの転職検討

といった重大なリスクにつながります。

ただし、寄り添うだけでは不安は解消しません。不安には必ず原因があり、人間関係・業務過多・私生活の変化など背景を特定し、社員自身が自分の状態を客観視できるようにすることが、定着支援の第一歩となります。

不安を見逃さない仕組みづくり

不安を放置せず原因を掴むために必要なのは、「上司や人事が変化に気づくこと」ではなく、「気づける仕組み」をつくることです。

プレシャスパートナーズでは、“気づきは環境任せ”ではなく、“仕組みで感情の変化を捉える”ことを目指し、以下の3つを実践しています。

①パルスサーベイ

社員の気持ちや職場環境を定量的に把握するための仕組みです。業務満足度・負荷・コミュニケーションなどを定期的に測定し、小さな不安や変化を早期にキャッチします。

アンケート結果は「フォローのタイミング」として活用し、数値に変化がみられた社員には人事面談を設定。「なぜそう感じたのか」「どんなサポートが必要か」を対話で深掘りし、不安の放置を防ぎます。

さらに、社員自身が結果推移を確認できるようにすることで、セルフマネジメント力の向上にもつながります。

②人事面談

社員の価値観やキャリア意向と、会社の方向性や期待とのギャップを可視化し、早い段階で調整するための仕組みです。

中立的な立場である人事が面談を行うことで、上司には話しづらい本音を引き出し、必要な支援へとつなげていきます。主な対象者は以下のとおりです。

入社半年以内の社員

会社や文化に慣れるため、毎月定期的にフォローを実施。

人事がフォローが必要と判断した社員

若手は環境変化で不安を抱きやすいため、こちらから積極的に声をかける。

希望者

パルスサーベイや社内チャットから気軽に申し込める仕組みが有効。ランチ面談などカジュアルな場も有効です。

③1on1

上司と部下が定期的に1対1で行う対話の場です。業務指示ではなく、成長・キャリア・心理状態にフォーカスし、継続的に行うことで本音を話しやすい関係が育まれます。

ポイントは「どれだけ耳を傾けるか」。注意や指摘よりも信頼関係を深め、本人の言葉を引き出すことが重要です。

実際のテーマ例
  • 仕事でうまくいっていること/悩んでいること
  • チームの人間関係・働きやすさ
  • 今後のキャリアや挑戦したいこと
  • 不安や負荷の有無
  • 評価への納得感や改善したいポイント

1on1は「上司が答えを出す場」ではなく、社員が気持ちを整理し、自ら次の行動を決める場にすることが重要です。プレシャスパートナーズでは、この取り組みにより、離職率を削減することができました。

単に面談などの施策を導入するのではなく、「何のために実施するのか」という目的を明確にし、全社員がその意図を理解した上で運用を続けることで、早期離職の防止やモチベーションの向上につながってきました。

そして「不安を見逃さない仕組み」から、「社員が自ら成長へと動ける環境づくり」へと発展していきます。

定量データを“フォローのタイミング設計”に活かす

パルスサーベイ・人事面談・1on1は、実施自体が目的ではありません。得られた情報を可視化し、アクションにつなげることで初めて機能します。

▼仕組み化する流れの一例
①パルスサーベイの定期実施 スコアが低下・急落した場合は、人事面談を即設定。
②人事面談での早期フォロー ヒアリング内容を人事内で共有し、必要に応じて上司とも連携。
※ただし、社員から共有範囲を限定してほしいと言われた内容は配慮する。

感情という抽象的な要素を、定量的な“気づき”と具体的な“アクション”に変換することで、属人的ではない再現性のある定着支援が可能になります。

“寄り添いすぎない支援”が自立を生む

サポートの際に注意すべきは、寄り添いすぎて依存状態をつくらないことです。過剰な支援は「何かあれば助けてもらえる」という意識を生み、主体性を奪うリスクがあります。

活躍する人材とは、「自ら課題を見つけ、周囲を巻き込みながら解決に向かう人」。そのため、人事や上司は“答えを与える立場”ではなく、社員が自分の答えを導く支援者であるべきです。

面談や1on1は、悩みを解消してあげる場ではなく、社員が状況を整理し、次の行動を自ら決める場であることがポイントです。これにより、“守られる社員”から“挑戦する社員”へと意識が変化し、組織の活力と定着率の向上につながります。

まとめ

人事面談、1on1、パルスサーベイといった施策は、単なる制度ではなく、社員の不安や心理変化を捉える「組織のセンサー」です。これらを定量的に把握し連動させることで、不安を放置しないマネジメントが実現します。

社員が自分を理解し、客観視し、自ら行動できるようにすること。その力を育むことが、結果的に辞めない・育つ・活躍する人材を生み出す最も強い定着支援となります。

離職率を改善した介護業界の働き方改革|なんじょう苑グループ 新垣

HR NOTEの読者のみなさん、こんにちは。

沖縄で老人ホーム運営とデイサービスを提供している、なんじょう苑グループ代表の新垣です。

執筆者新垣 憲良株式会社日南 代表取締役社長

沖縄県南城市に本社を構え介護事業を運営。異業種でのビジネス経験を経て家業を承継し、2014年に本格的に介護事業へ参入。住宅型有料老人ホーム「なんじょう苑」を中心に、訪問介護・訪問看護・デイサービスなど地域密着型の複合介護サービスを展開。「介護を誇れる仕事にする」をビジョンに、業界平均を上回る処遇改善やキャリア設計の仕組みづくりに注力。現場と経営の両視点を持ち、PDCAと数値管理による再現性ある組織運営を実践。現在はM&Aや新規事業にも積極的に取り組み、沖縄から介護業界の価値向上を目指す。

介護業界における人材確保の難しさは、多くの事業者が抱える共通の課題かと思います。不人気業界と言われ、かつ求人倍率も4倍という厳しい環境の中、私たちも試行錯誤を重ねながら、離職率の改善と採用力の強化に取り組んできています。

今回は、なんじょう苑グループが取り組んでいる具体的な施策や、それがどのような成果に結びついたのか、お話ができればと思います。

なんじょう苑グループが抱えていた課題

2014年になんじょう苑グループを立ち上げてから数年は、私たちも例外なく高い離職率に悩まされていました。正直に申し上げると、直近3年のデータでは離職率は10%〜15%となっていますが、さらに以前はこの数値よりももっと深刻な状況でした。

離職率が30%を超えることも珍しくなく、採用活動も思うように進まない日々が続いていました。その結果として、現場のスタッフが疲弊していき、入居者の方々にも質の高いサービスをお届けできないという悪循環に陥っていました。

「介護を誇れる仕事にする」というビジョンを掲げて事業をスタートしたにも関わらず、そのような状態に陥り、「さすがにこのままでいけない。抜本的な改革が必要だ」と、思い立ちました。

その原因を探っていくと、いくつかの構造的な問題が見えてきました。ワンオペ夜勤による職員の負担、子育て世代の定着、給与水準、そして人間関係のストレスなど…。こういった要因が複雑に絡み合い、悪循環を生んでいたのです。

そして、これらの課題に一つひとつ向き合い、改善を重ねた結果、現在では離職率が大幅に改善でき、介護業界の厳しい採用環境の中でも安定的に人材を確保できる組織へと変わることができました。

ここからは、具体的に何をしたのかご紹介していければと思います。

改善のために実践した4つの施策

施策1 ワンオペ夜勤体制の見直し

当時は看護サービスはまだ展開しておらず、介護サービスのみを提供していました。そういった背景の中、ワンオペ夜勤は現場スタッフにとって大きなストレス要因でした。

というのも、夜に一人で何十人もの入居者を見守る責任の重さ、何かあったらどうしようという心理的プレッシャー。さらには確実な休憩時間すら取れないという現実があり、職員からは「精神的につらい」「しっかりとした休憩が取れない」という声が絶えず寄せられていました。

そこに対して複数名体制への転換を模索していくのですが、経営判断として簡単ではありませんでした。介護報酬と施設コストだけでは、複数夜勤の人件費をまかなうことが困難だったからです。

転機となったのは、入居相談において医療的ケアが必要な方々が増えてきて、看護サービスを提供するようになったことです。幸運にも、パートさんの中に看護師をやっていた方がいて、このニーズに応えるため、その方を中心に看護のサービスを立ち上げていったんです。

新規採用を進めていき、看護職の体制を強化して、徐々に入居者向けにも看護サービスを提供できるようになっていきました。その結果として、介護報酬だけでなく医療保険報酬を得られるようになり、看護職の方も夜間に配置できる体制を整備できるようになったのです。

これにより、結果として介護職員・看護職員の複数による夜勤体制が構築できるようになりました。現在は施設ごとに3〜4名の夜勤体制を敷いています。医療的ケアの必要度が高い施設では看護師を含む4名、それ以外の場合は3名という配置です。

複数体制になったことで、職場環境は劇的に改善しました。決められた時間に確実に休憩が取れるようになり、介護職員は判断に迷ったときに看護師へ相談できるようになりました。看護師側も介護職員に指示を出して分担することで、効率的なケアが実現しています。

重度の方々のケアは一定の緊張感を伴いますが、複数人いることで相談し合える安心感があります。そして何より、入居者の方にしっかりと寄り添えることが、スタッフ一人ひとりの自信とやりがいにつながっています。

施策2 子育て世代の定着

介護・看護の現場は、もともと女性が多い職場で、子育て世代のスタッフも多く在籍しています。そのため、急な子どもの発熱や学校行事など、予定外の休みが発生することは避けられません。

しかし、急な休み・早退をする際に人員に余剰がなかったために、気軽に言い出しにくい空気感があったのです。

この状況に対し、「これからの時代に必要な組織のあり方」を考えて、シフト体制を直すことにしました。これまでは、組織全体の人員設計として、ギリギリの人員体制での運営・採用をしていたのですが、そこに対して人的リソースに余剰がでるくらいの組織設計に変えました。

人材が一時的に過剰になり、ダブつくこともありますが、これは必要経費として受け入れています。その分のリソースは、訪問介護の件数を増やすなど、柔軟にサービスを調整することで対応しています。

今では急な欠勤が出た場合は、LINEグループで呼びかけを行っていますが、「お互い様精神」があるのか、すんなりと穴を埋めてくれるスタッフが名乗り出てくれます。以前は私を含めた管理者であるメンバーが、休日返上で出勤することも少なくありませんでしたが、今では誰かしらが対応してくれる体制が整いました。

最も大きな変化は、先述したように、職場に「お互い様」の雰囲気が醸成されたことです。

自分が急に休んだときに誰かが入ってくれた経験があるからこそ、他のスタッフが困っているときには自然と手を差し伸べる。そんな文化が育っています。産休・育休を取得する職員も多いのですが、この体制があるから、みんな職場に復帰してくれています。

「急な対応でもみんなが協力してくれる」「以前よりも休みを取りやすくなって助かっている」という感謝の声を、日常的に聞くようになりました。さらに、採用の募集要項に「子育て世代歓迎」「急な変更OK」と明記したのですが、これにより応募数が確実に増えました。

施策3 業界水準10%の給与アップの実現

創業当初、私たちの収入源はデイサービスがほとんどでした。この状態では、どう頑張っても給与を大幅に上げることは困難でした。

しかし、私は当初から「社員がしっかり稼げないと意味がない」と考えていました。「稼ぐ」ためには、提供サービスの幅を広げることと、介護報酬をあげることが重要です。

介護報酬は国が定める仕組みで、介護保険には「要介護1〜5」と区分があるのですが、それに応じて報酬が変わっていきます。箱型ビジネスだけでは収入の限界が見えています。この構造を変えるために、訪問介護・訪問看護へと事業を広げ、さらに重度の方々を積極的に受け入れる方針を固めました。

というのも、私たちの地域では、医療的ケアが必要な方々のニーズが増えていましたが、対応できる施設や事業所が不足していました。そこで私たちは、この課題の解決に対して、正面から取り組むことを決意したのです。

自社の有料老人ホームで訪問看護・訪問介護を提供することで、一定の効率化を実現でき、重度の方々へのケアは基本報酬が高く、それに処遇改善加算が上乗せされることで、配分できる給与総額も増えていきます。結果として、沖縄県平均より10%以上高い給与水準を実現することができました。

採用活動においても、「周りと比べて給与が高い」ことは明確な強みになっています。応募者からも、その点を評価する声が必ず挙がります。

また、スタッフの意識にも変化が生まれました。他社が断るような重度の入居者であっても、「収入に直結する」という理解があるため、前向きに受け入れる姿勢が定着しています。

負担が大きいことは事実ですが、みな誇りを持って仕事に取り組んでくれています。最初から給与アップありきではなく、社会的課題を解決していく決意をしたからこそ実現できた。私はそう確信しています。

施策4 2名の出戻り社員が生まれるくらいの雰囲気のよい職場づくり

私たちの組織は、比較的若い世代が多いという特徴があります。無資格から働き始め、長く続けている職員も多数います。その背景には、組織カルチャーとして話しやすい雰囲気があり、相談もしやすい環境があるからだと感じています。

もちろん、人間関係の問題がゼロではありません。介護の仕事は人とのコミュニケーションが中心ですから、摩擦が生じることもあります。しかし、2名の出戻り社員が生まれたのは、「やっぱりなんじょう苑での人間関係が一番良かった」という理由からでした。

なぜそのような組織ができたのか。正直に言えば、気づいたらそのような雰囲気ができていた、という部分もあります。ただそんな中でもいくつかポイントをあげると、中間管理職の育成には、特に気を配っています。退職理由の多くは、直属の上司との関係性に起因するからです。

そのため、部下に対して上から目線で物を言うタイプの管理職は、私たちの組織には合いませんし、登用しないようにしています。また、各管理職と毎週ミーティングを実施しており、現場の状況を常に把握するようにしています。問題が深刻化する前に、私が直接現場に入って話を聞くこともあります。

中間管理職には「まずあなたが話してみて、難しければ私が対応する」という安心感を持ってもらえるよう心がけています。採用においても、極端にネガティブな印象の方は避ける傾向がありますし、カルチャーフィットを重視しています。

ただし、人手不足の際には、どうしても「ひょっとしたら合わないかもしれない」と感じた方を採用することもあります。でも不思議なことに、そういった方々も、私たちの職場文化に触れるうちに変わっていくケースが多いのです。

私も含め、上位レイヤーの職員から気持ちの良い対応を意識していくことで、それが組織全体にプラスの影響を与えているかもしれません。

さいごに

介護業界では小規模経営が多く、経営的に余裕のある事業者は決して多くありません。しかし、一定の規模がなければ脱属人化は実現できないと考えています。

私たちは、M&Aや新規開業を含め、計画的に規模を拡大していく方針です。その過程で、成長意欲のある社員をどんどん昇格させ、権限移譲していきます。今年からは、リーダー候補者を対象とした定期的な研修もスタートさせました。

また、上記に加えて理念経営も徹底したいと考えています。一般社員は理念を完全に理解していなくても構いませんが、リーダーになる人材には、何のために会社が存在し、どこを目指しているのか、そのために何が必要なのかを腹落ちしてほしい。同じマインドを持つリーダーが各現場で意思決定をすることで、組織全体の成長が加速すると信じています。

顧客に対しては、退院後の在宅ケアが困難な方々を中心にサービスを提供し続けます。他社が断るような重度の方々にこそ、私たちの価値を発揮できる場があります。

そして最終的には、沖縄県内でナンバーワンに選ばれる施設を目指しています。それは単に規模や売上の話ではありません。「入居するならなんじょう苑」「働くならなんじょう苑」「報酬もなんじょう苑が一番」──すべての面で一番に思い浮かべてもらえるブランドになることが、私たちの目標です。

介護業界の人材不足は、一朝一夕には解決しません。しかし、一つひとつの課題に真摯に向き合い、現場の声に耳を傾けながら改善を続ければ、必ず道は開けます。私たちの取り組みが、同じ課題に悩む全国の介護事業者の皆様にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

女性の健康経営に男性社員や年配層を巻き込むには?―共感とデータで職場に「理解文化」を育てる―

働く女性の約8割が、生理やPMS、更年期といったホルモン変動による不調を経験しています。これらの不調は、欠勤や早退、集中力の低下といった形で業務に影響を及ぼし、社会全体では年間約4,911億円の労働損失が生じていると推計されています。

にもかかわらず、職場では今なお、女性特有のことだから」「デリケートな話題だからといった理由から、十分な共通理解が進みにくい現実があります。実は、女性の健康課題を職場に根づかせるうえで鍵を握るのは、女性社員だけではありません。

男性社員、管理職、そして年配層の社員をどう巻き込めるか。ここに、施策が形骸化するか、文化として定着するかの分かれ道があります。本稿では、組織全体で理解を広げるためのアプローチに焦点を当てます。

数字で納得する層、専門家の言葉を重視する層、体感によって共感する層ーーそれぞれに響く方法を使い分けることで、企業文化そのものを変えていく視点をお伝えします。

寄稿者坂梨 亜里咲mederi株式会社 代表取締役

明治大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの不妊治療経験からmederi株式会社を起業。オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」、企業向け健康支援・福利厚生サービス「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開。

男性社員には「数字とデータ」で伝える

女性の健康課題を職場で共有する際、まず意識したいのは伝え方の設計です。

男性社員や管理職に対して、「つらさ」や「配慮の必要性」だけを伝えても、理解が十分に深まらないケースは少なくありません。それは決して無関心だからではなく、多くのビジネスパーソンが、事実や構造、再現性のある情報をもとに判断する経験を重ねてきたためです。

そのため、生理やPMSといったテーマも、感情論としてではなく、経営や組織運営の文脈で整理して提示することが重要になります。たとえば、経済産業省の試算によれば、生理・PMSに関連する労働損失は年間約4,911億円にのぼります。

注目すべき点は、その多くが欠勤ではなく、「出勤しているが本来の力を発揮できていない状態」 いわゆるプレゼンティーズムによるものであるという点です。

この事実を共有したとき、 「個人の体調の問題」から 「組織全体の生産性や持続性に関わるテーマ」へと、 認識が切り替わる管理職は少なくありません。

研修や社内説明の場では、たとえば次のような視点が有効です。

  • 生理・PMSによる生産性損失に関するデータ
  • 欠勤率・離職率との関連性
  • 健康投資とROIの考え方
  • 海外企業におけるフェムテック導入事例

数字は、共感を否定するものでも、置き換えるものでもありません。「なぜ今、企業として向き合う必要があるのか」を理解するための入口です。

その理由が共有されることで、性別を問わず、多くの社員がこのテーマを自分ごととして捉え、建設的な議論に参加できるようになります。

年配層には「医師の言葉」と医学的根拠を届ける

一方で、年配社員やベテラン層に対しては、数字だけでは届かないケースもあります。

「自分たちの時代は、そんな話を職場でしなかった」
「女性も我慢して働いていた」

こうした価値観は、決して悪意から生まれたものではありません。当時の社会環境や教育背景によって形成されたものです。

その“世代の壁”を越えるうえで効果的なのが、産婦人科医など専門家による勉強会です。社内の誰かが説明するのではなく、第三者である医師が医学的事実として語ることで、受け止め方が大きく変わります。

  • PMSは気の持ちようではなく、医学的症状であること
  • 症状には大きな個人差があること
  • 更年期も治療や支援によってパフォーマンスを維持できること

こうした知識が共有されることで、認識は「配慮」から「理解」へ 「我慢」から「支援」へと静かに更新されていきます。

ブロックタイトル

勉強会後に職場での対応ポイント」「管理職向けチェックリスト」「相談フローなどを配布することで、「聞いて終わり」にしない仕組みづくりも重要です。

“生理痛のつらさを体験”するワークショップ

理解のアプローチとして最後にご紹介するのは、体感による共感です。近年、多くの企業で取り入れられはじめたのが、生理痛体験を含む体験型ワークショップです。

たとえば、

  • 生理痛体験装置(低周波刺激など)を用い、専門スタッフの管理下で腹部に違和感を与えた状態で業務を行う
  • 痛みや不快感がある状態で、判断力や集中力を要するタスクに取り組む

といった疑似体験を通じて、 「もし自分が毎月この状態で働いていたらどう感じるか」を、頭ではなく身体で理解してもらうというものです。

なお、安全面への配慮は最優先事項です。体験は必ず専門スタッフ立ち会いのもと、事前説明と同意を得たうえで実施し、刺激の強さは個人の体調や希望に応じて調整します。途中での中断や不参加も自由とし、無理のない形で行いましょう。

ここで重要なのは、不調や痛みを抱えたままでも、「周囲に理解されないまま」「普段と同じ成果を求められながら」働くことの難しさを実感することです。

こうした生理痛体験を含むワークショップの実施後には、

「部下への声かけが自然に増えた」
「体調相談を受け止める心理的ハードルが下がった」
「管理職の対応が変わった」

といった具体的な行動変化が見られるようです。

おわりに

数字で理解し、専門家の言葉で納得し、体験を通じて共感する。 この三つのアプローチを段階的かつ適切に組み合わせていくことが、職場の空気を変え、人の無意識の前提を揺さぶり、行動そのものを変えていくでしょう。 

本稿で紹介したような取り組みを、より体系的に、より実践的に知りたい方には、拙著『女性に選ばれる会社の新・健康経営 ― 職場改革は生理・PMSケアから始めよう』(合同フォレスト刊)にて、制度設計の考え方から現場への浸透ポイントまでをまとめています。

何かあったら配慮する職場ではなく、何かが起こりうることを前提に設計された職場へ。 その一歩が、日本の生産性と女性の人生を同時に変えていくと、私は確信しています。 

バックオフィス人材が、今すぐBPaaS業界に飛び込むべき4つの理由

株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田(@takeshisumida_)と申します。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニー、DeNA、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年kubell入社。グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任、現在はBPaaS事業を推進するkubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演、宣伝会議の講師など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

私はこれまで、複数企業のカオスな環境に身を置き、組織やオペレーションの型を作ることにこだわってきました。

事業が急成長する裏側で発生するドロドロとした課題と向き合い、それを整理し、誰でも回せる仕組みにする。それは地味で根気が必要な組織の舗装工事のような仕事ですが、組織が次のステージへ進むためには絶対に欠かせないものです。

そのような私が、これまでの経験の全てを掛けて現在全力で取り組んでいるのが、「BPaaS(Business Process as a Service)」。事業です。

BPaaSは、これまで私が自社(1社)のために行ってきた舗装工事を、日本中の企業に広げていくような活動であり、労働力人口が減少し続ける一方なかなか高まっていない日本の生産性を、一気に向上させる可能性も持った事業です。

声を大にして言います。

「バックオフィス、コーポレートに関わってきた人は、今すぐにBPaaS業界に飛び込んだ方がいい」

今回は、その理由を4つの視点からお話しします。

理由1:あなたの作った”型”が、日本の生産性を底上げするインフラになる

日本の労働生産性の低さが指摘されて久しいですが、その大きな要因の一つに「バックオフィス業務の個別最適化」があります。

日本中の何万もの企業が、それぞれバラバラに経理や労務のフローを作り、独自に管理を行っています。本来は同じような業務をしているはずなのに、専門性が不十分なまま手探りでフローを構築し、担当者が変わるたびにリセットされる。これは日本全体で見れば、とてつもない重複投資であり、非効率の極みです。

皆様もいくつかの統計でも目にされたことがあるように、実際に日本の生産性は先進国の中でも高いとは言えず、近年ではその差は広がっていっています。

私がこれまでコーポレート責任者として行ってきた活動も、あくまで「自社(1社)の最適化」でした。しかしBPaaSは、この活動を「社会全体の標準化」へと一気に広げる存在です。

バックオフィス・コーポレート人材の皆様がこれまで自社のために悩み抜き、蓄えてきた知見。数々の苦しい経験を経て形成されてきた業務の”型”。それがBPaaSという事業を通じることで、一社だけでなく、何万社もの生産性を同時に引き上げる「社会インフラ」へと変わるのです。

これは単なるアウトソーシングではありません。ある意味で産業構造の変革です。自分たちの毎日の仕事が、日本のGDPを押し上げるレバーになる。この圧倒的な社会的意義が、1つ目の理由です。

理由2:「DX遅れ」と「人手不足」、2つの課題から中小企業を救う救世主になり得る

2つ目の理由は、日本の会社の99.7%を占める中小企業の現状に関係します。今、日本の中小企業は2つの大きな課題による「二重苦」に直面しており、既存の解決策では限界が来ています。

1. DXの遅れ(デジタル・ディバイド)

世の中には便利なSaaSが溢れていますが、多くの中小企業では使いこなせる人材がおらず、依然として電話やFAXが中心です。「SaaSを導入しても、誰も使えない」のです。

2.深刻な人手不足

少子高齢化により、採用難は極まっています。「経理担当が急に辞めた」「事務員が採れない」。黒字なのにバックオフィスを回す人がおらず、廃業を余儀なくされるケースさえあります。

SaaSだけでは使いこなせない。旧来のBPOは高額すぎて手が出ない。人材紹介を使おうにも、特に地方にはそもそも紹介できる人がいない。

この八方塞がりの状況を打破できる1つの解が、「プロセスごと業務を請け負い、テクノロジーで効率化して提供する」BPaaSであり、その裏側を支えるバックオフィス・コーポレート人材なのです。

知識や人手に課題を抱える企業に対し、単なるツールの提供ではなく、業務プロセスそのものを丸ごと引き取って解決する。これにより、日本の産業基盤である中小企業を守るという、ダイナミックな課題解決に携わることができる、まさに救世主となり得るのです。

理由3:「裏方」から「プロフィットの源泉」へと立場の転換が起こる

3つ目は、キャリアにおける立ち位置の劇的な変化です。

ほとんどの企業においては、コーポレート部門は基本的に「裏方」であり、コストセンターと見なされがちです。いかに優れた業務フローを構築しても、それは「守り」の仕事。事業の主役は営業やマーケティング、プロダクトを作る開発部門であり、バックオフィスはそれを支える縁の下の力持ちという構図が一般的です。

しかし、BPaaSにおいては、そのパワーバランスが完全に逆転します。BPaaS事業にとって、バックオフィス業務のオペレーションそのものが「商品(プロダクト)」です。

いかにミスなく、効率的に、高品質な業務フローを構築できるか。あなたの持つ実務知識、イレギュラーへの対応力、業務設計能力こそが、顧客への提供価値そのものになり、売上と利益を生み出す源泉となります。ここでは、バックオフィス人材こそが「プロフィットセンター」であり、事業をドライブする主役なのです。

そして、その主役には、日本全国どこに住んでいてもなれる可能性があります。BPaaSはオンラインを通じて提供されることが主であり、実際、弊社で提供する業務代行サービス「タクシタ」のオペレーションスタッフ(クルー)も、全国各地に散らばっています。

コスト削減のために効率化するのではなく、事業価値を高めるために業務を磨き込む。このポジティブな立場の転換は、これまでのキャリア観を大きく変える経験になります。

理由4:AI活用のど真ん中に携われる

最後の理由は、テクノロジー、特にAI活用に関するものです。

ここまでの話を聞いて、「BPaaSと言いつつ、結局は人をたくさん雇って気合で回すこれまでのBPO(労働集約型ビジネス)と大きく変わらないのでは?」と感じた方もいるかもしれません。

しかしそれは大きな間違いです。BPaaSが目指しているのは、あくまで人海戦術ではなく、AIを含むテクノロジーをフル活用した、圧倒的なオペレーション効率です。

昨今、生成AIをはじめとする技術革新が著しいですが、AIは単体で存在していても価値を発揮しません。実際の業務プロセスの中に組み込まれ、具体的な課題解決に使われて初めて真価を発揮します。 

しかし、「この経理処理のこの部分はAIに任せられる」「この確認作業は人がやった方が早い」こうした判断は、業務の現場を知り尽くしているバックオフィス・コーポレート人材にしかできません。エンジニアやPdMだけでは、真に現場で使えるAI活用フローは作れないのです。

BPaaS業界に身を置くことは、単に事務作業を請け負うということではありません。「業務オペレーション × AI」の最適な組み合わせを設計し、未来の業務プロセスを発明することと同義です。

AI時代において最も市場価値の高い、AIを使いこなして業務を設計できる人材へと進化できる環境がそこにあるのです。

最後に

型化や仕組み化をすることが好きで、カオスな状況を整えることに喜びを感じるバックオフィス・コーポレート人材の皆さま。 これまで自社の中だけで完結していたそのスキルを、これからは社会全体のために使ってみませんか?

労務、採用、事務、秘書、経理、Web制作など、あなたがこれまで積み上げてきた仕事が社会のインフラになり、中小企業を救い、日本の生産性を変える。そして何より、あなた自身が事業の主役として輝ける場所が、BPaaSにはあります。

「裏方から、事業をドライブする主役へ」、 少しでも共感してくださった方は、ぜひこの新しい潮流に飛び込んできてください。

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