営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか |HR NOTE

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか |HR NOTE

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

前回は、労働人口減少や営業職の採用難を背景に、従来の「人に依存した営業モデル」が限界を迎えていることについてお話ししました。

分業化やBPO、SFA/CRMなどの活用は進んでいるものの、それだけで営業組織の課題が解決するわけではありません。今起きている問題は、単なるリソース不足ではなく、営業組織そのものの設計が、生産年齢人口の減少が続くこの時代に合わなくなってきていることにあります。

その中で、AI活用に期待を寄せる企業は増えています。ただ、AIを導入したこと自体が、必ずしも営業組織の変化につながるわけではありません。

必要なのは、AIを新たなツールとして追加することではなく、AI前提で営業組織のあり方そのものを見直すことです。今回は、その考え方について掘り下げていきます。

寄稿者大矢 剛大株式会社SaleSeed 代表取締役社長

名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。

単にAIを導入しただけでは、営業組織が変わらない理由

多くの企業では、AI活用が「点」で行われています。

  • 商談後の要約を作る
  • メール文面を考える
  • 提案資料のたたき台をつくる
  • 顧客情報を調べる

どれも現場にとって便利であり、個人の作業時間を短縮する効果もあります。

ですが、それらはあくまで既存業務の一部を効率化しているにすぎません。営業組織全体の成果の出方や、役割分担の構造までは変えていないのです。

その結果、よく起こっているのが「AIを使う人だけが少し楽になる」という状態です。使いこなせる人は生産性を上げられる一方で、使い慣れていない人は従来通りのやり方を続ける。組織として見れば、仕事の流れも評価の仕方もマネジメントの構造も変わっていないため、再現性ある成果にはつながりにくくなります。これでは、AIは「便利な個人技の補助」で止まってしまいます。

本質的な問題は、営業プロセスと役割分担の設計が、AIの存在を前提に見直されていないことです。誰が何を担い、どこで情報を集め、どこで仮説を立て、どこで判断するのか。この基本設計が変わらない限り、どれだけ新しいツールを導入しても、営業組織そのものは変わりません。

AI導入が広がっている今、問われているのは「どのツールを入れるか」ではなく、「営業活動のどこを見直すか」です。個別業務の効率化だけでなく、営業活動全体の流れを捉え直し、その中で人とAIの役割を組み替えていくことが必要になっています。

営業組織を「AI前提で再設計する」

では、「人とAIの役割を組み替えていく」とは、どういうことなのでしょうか。私はそれを、営業組織の役割分担や業務の流れ、組織の動き方そのものを、AI(AI Transformation)前提で再設計することだと考えています。AIを単なるツールとして導入するのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、組織全体の仕組みを見直していく考え方です。

DXが業務のデジタル化や可視化、効率化を進める考え方だとすれば、AXはその先にあるものです。単に業務をデジタルに置き換えるのではなく、AIが実務の一部を担う前提で、人の役割や組織の動き方そのものを見直していく。つまり、現場で実際に機能する体制まで含めて設計し直す発想です。

営業組織の成果を左右するのは、目に見える人員数だけではありません。誰が何を担うのか。どこで情報が生まれ、どこで判断が行われ、どこにナレッジが蓄積されるのか。こうした基本的な仕組みが、営業組織の強さを決めています。

これまでの営業組織は、人を中心に設計されてきました。採用し、育成し、現場で経験を積みながら成果を出していく。人が増えることを前提に、組織を回してきたのです。

しかし、今はその前提自体が崩れています。人が足りないことが前提であり、しかも市場は複雑化し、顧客接点も多様化している。こうした時代に、正社員の人数だけで営業組織を組み立てようとするのは無理があります。

これからは、人に加えてAIや外部機能も含めて、「どう組織を設計するか」を考えなければなりません。

営業組織を支える外部機能には、BPOのような外部人材の活用も含まれます。重要なのは、BPOを単なる人手不足の穴埋めとして使うのではなく、AIと同じく営業プロセス全体の中で役割を持たせ、仕組みとして組み込むことです。人・AI・外部人材をどう配置するかまで含めて設計してこそ、これからの営業組織は機能します。

AXで見直すべきなのは、個別業務ではなく、営業活動全体の流れです。

たとえば、どこで情報を集めるのか、どこで仮説をつくるのか、どこで案件を前に進めるのか、どこでマネジメントが介在するのか。こうした一連の構造をAI前提で引き直していくことが、これからの営業組織には必要です。

営業組織の競争力は、人数だけではなく、役割の置き方で決まる時代に入っているのです。

AIを「仮想の部下(同僚)」として組織図に組み込む

AXを考えるうえで重要なのは、AIを「ツール」として見るだけでは不十分だということです。むしろ、AIは役割を持った存在、言い換えれば「仮想の部下」や「同僚」として見たほうが、営業組織の設計はしやすくなります。

たとえば営業担当者のまわりには、本来かなり多くの前後工程があります。

  • 顧客情報を集める
  • 業界動向を調べる
  • 仮説を立てる
  • 商談内容を整理する
  • 次回アクションを洗い出す
  • 関係者向けに共有する

これまでは、それらを営業担当者本人がすべて抱え込むことが当たり前になっていました。しかし、その前提こそが、現場の疲弊や属人化を生み、育成の難しさにもつながっていたのだと思います。

ここにAIを組み込むと、発想が変わります。

  • 情報収集を担うAI
  • 仮説のたたき台をつくるAI
  • 商談の要点を整理するAI
  • 比較検討材料をまとめるAI
  • 次の打ち手を提示するAI

こうした「仮想人材」が営業担当者の周辺に配置されている状態をイメージすると、営業担当者はすべてを一人で背負う必要がなくなります。人は、人にしかできない仕事により集中できるようになります。

また、AIは営業担当者の「部下」のような存在としてだけでなく、部門をまたいで連携を支える「同僚」のような役割も果たせます。

  • マーケティングから渡ってくる情報を整理する
  • カスタマーサクセスへの引き継ぎ情報を整える
  • マネージャー向けのレポートをまとめる

こうした横断的な接続部分にAIが入ることで、部署間の情報断絶を減らし、組織としての再現性を高めることができます。

AIは営業担当者の隣に置く便利な機能ではありません。準備や整理を担う「仮想の部下(同僚)」として組織に組み込んだとき、はじめて営業組織の生産性を変える存在になります

これから問われるのは、「AIに任せる領域」と「人が担う領域」の境界線

ただし、AIを組み込めばそれでよいわけではありません。ここで本当に重要になるのが、何をAIに任せ、何を人が担うのかという境界線です。

AIは、情報を集める、整理する、比較する、要約する、仮説のたたき台をつくるといった領域で高い力を発揮します。一方で、顧客との信頼関係の構築や感情の機微を汲み取ること、複数の利害関係者の合意形成、最後の意思決定を支えることには、人の役割が大きく残ります。

重要なのは、AIに寄せすぎることでも、人に残しすぎることでもありません。営業組織の成果は、この境界線をどう設計するかで大きく変わります。

次回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その境界線についてさらに掘り下げていきます。

第1回:「やりがいがない」で辞める若手。2つの価値観タイプと離職意思の関係

「最近の若手はすぐ辞めてしまう」「何を考えているのかわからない」——こんな言葉を、職場でつぶやいたことはありませんか。

若手の離職は、採用・育成コストの観点からも企業にとって深刻な課題です。しかし、辞める若手の多くは、給与への不満や明確なキャリアビジョンを持っているわけではありません。

リクルートマネジメントソリューションズが2023年に実施した社会人3年目までの会社員を対象とした調査(N=435)では、未退職者の約6割が「会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しており、その理由の上位には「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)といった内発的な不満が挙がっています。

待遇を整えても、職場環境を改善しても、それだけでは若手の離職は防げません。問題の根っこには、「やりがい」や「仕事の意味」という個人の内側に根ざした部分があります。

この調査からは、「上司の適切なマネジメントが若手の離職意思を軽減できる」というエビデンスも得られています 。そして、そのマネジメントをより効果的にするカギが、「若手の価値観タイプを理解すること」です。

本連載では、若手社員の価値観を2つのタイプに分類し、それぞれに応じたマネジメントの実践方法を解説します。第1回となる今回は、2つの価値観タイプの特徴と離職意思の関係、そしてタイプを見極めるための具体的な質問例をご紹介します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員

ここに人物紹介文が入ります。2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

「働く目的」で分かれる2つのタイプ

調査では、若手社員の「働く目的」に関する価値観を、以下の大きく2つのタイプに分類して傾向を確認しています 。

若手社員の「働く目的」に関する価値観タイプ
A. 自己成長重視タイプ 仕事を通じて自分の力を高めることを優先するタイプです。市場価値の向上やスキルアップへの関心が高く、「今の会社でどれだけ成長できるか」を意識しています。組織に依存せず自律的に働くことを志向するため、現在の職場と外部環境を比較する傾向もあるでしょう。
B. 組織貢献重視タイプ 組織の中で役割を果たし、周囲やチームに貢献することに価値を見いだすタイプです。所属組織への愛着が強く、「チームや会社のために役立てているか」がモチベーションの源泉となります。

この2つのタイプの間には、離職意思の高さに差がありました。自己成長重視タイプほど離職意思が高く、組織貢献重視タイプほど低かったのです。

自己成長重視タイプは成長の手応えが感じられない状況に置かれると「ここにいる意味があるのか」という疑問が生まれやすい一方、組織貢献重視タイプはチームや会社への帰属意識が離職の抑止力として機能することが示唆されます。

また調査では、上司の以下3つのマネジメント行動が、価値観タイプにかかわらず離職防止に効果的であることも示されています。

  • 成長につながる業務アサイン:メンバーの特徴を理解し、成長につながる業務を割り当てること
  • 成長につながるフィードバック:振り返りや学びにつながる建設的なフィードバックを提供すること
  • キャリア支援:メンバーが仕事を通じて実現したいことや目指したい姿を一緒に考えること

さらに、同じマネジメントでも相手の価値観タイプによって響き方が異なることも明らかになっています。だからこそ、タイプを理解したうえでアプローチを調整することが重要です。

価値観タイプを知るための3つの質問

メンバーのタイプを見極めるには、1on1や面談での対話が最も有効です。以下の3つの質問を活用してみてください。

質問①「最近の仕事で、やりがいを感じたことはありますか?」

動機の源泉を探る質問です。自己成長重視タイプは「苦手だったことができるようになった」「できることが増えた」など自身の変化に喜びを感じる回答が返りやすく、組織貢献重視タイプは「チームで目標を達成できた」「先輩から『助かった』と言われた」など他者への貢献に喜びを感じる回答が多い傾向があります。

質問②「最近の仕事で、モヤモヤしたことはありますか?」

不満や不安の所在を探る質問で、離職リスクの早期察知にも役立ちます。自己成長重視タイプは「同じ作業の繰り返しで新しい挑戦ができていない」「このままで成長できているのか不安」といった成長停滞への不満が表れやすく、組織貢献重視タイプは「自分の仕事がチームにどう役立っているかが見えない」という貢献実感の薄さへの不安が出やすいです。

質問③「先輩の中で、『こんな風になりたい』と思う人はいますか?」

ロールモデルの選び方に価値観が色濃く反映されます。自己成長重視タイプは専門知識やスキルを持つ先輩を挙げる傾向があり、組織貢献重視タイプはチームから頼られ信頼されている先輩を理想とする回答が多くなります。

なお、価値観は固定されたものではありません。ライフステージや経験によって変化することもあり、どちらにも偏らない人もいます。「一度聞いたから分かった」ではなく、定期的な対話を通じて理解を深め続ける姿勢が大切です。

タイプ別、効果的なマネジメントの方向性

自己成長重視タイプへのアプローチ

重要なのは「成長の道筋を示すこと」です。日々の業務が自分のキャリアにどうつながるかが見えないと、このタイプは不安になってしまうでしょう。

「この仕事を通じて○○のスキルが身につく」「このプロジェクトで将来△△を目指せる」といった接続点を明示することでモチベーションが高まります。また自律性を重視するため、細かい管理よりも「目標を共有したうえでやり方は本人に委ねる」スタイルが効果的と言えます。

組織貢献重視タイプへのアプローチ

重要なのは「組織の中での役割と貢献を見える化すること」です。日々の業務がチームや組織の成果にどうつながっているかを、具体的かつ定期的に伝えることが欠かせません。

業務アサイン時に「なぜあなたにこの役割を依頼するのか」「この仕事がチームにとってどんな意味を持つか」を丁寧に説明することで、強いコミットメントを引き出るでしょう。

まとめ

今回のポイントを整理すると、以下の3点です。

1. 若手の離職の主因の一つに「やりがいのなさ」があり、給与・待遇の改善だけでは解決できない
2. 若手の価値観は「自己成長重視」と「組織貢献重視」の2タイプに分類でき、タイプによって離職リスクの高さが異なる
3. 上司の適切なマネジメントはどちらのタイプにも離職意思を軽減できるが、タイプに応じてアプローチを変えることでその効果はさらに高まる

「最近の若手は……」と一括りにする前に、まず目の前のメンバーがどちらの価値観を持っているかを理解することが、マネジメントの第一歩です。

次回(第2回)は、「自己成長重視タイプ」に対して、1on1・業務アサイン・日常フィードバックといった場面ごとに、明日から使えるOK例・NG例を詳しく解説します。

AI導入の前に「捨てる」勇気を。月3,000時間の業務削減を実現したkubellの全社プロジェクトの全貌

株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田(@takeshisumida_)と申します。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニーグループ株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年に株式会社kubell(当時 Chatwork株式会社)に入社。 グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任し、現在はBPaaS事業を推進する株式会社kubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1,000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

各メディアやSNSでAI活用のニュースを見ない日はありません。私たちの会社kubellにおいても、当然AIの徹底活用は経営の重要テーマの一つであり、AI活用の全社プロジェクトが絶賛進行中です。

しかし、AIが全社的に実装される前に、どうしても声を大にして言いたいことがあります。 それは、「AI活用の前に、いらない業務はそもそも捨てた方がいい」ということです。

AIはある種の加速装置です。本来不要なプロセスにAIを適用するのは、無駄な業務をただ高速回転させるだけ。まずは徹底的に“捨てる”ことを行わないと、誰のためにもならない成果物が、組織内に超スピードで量産・蓄積されかねません。

今回は、kubellが全社で実施し、月3,000時間の業務削減を実現したプロジェクト「すてるば」を例として取り上げながら、生産性向上における“捨てる”ことの意義についてお話しします。

「生産性指標の議論」という罠に陥っていないか?

具体的な方法論の前に、「生産性」という言葉の定義を整理させてください。

生産性とは、シンプルに「アウトプット ÷ インプット」の公式で表されます。IRでもお馴染みの、一人当たり売上(=総売上 ÷ 従業員数)などはこれの分かりやすい例です。

生産性を上げるには、

  • アウトプット(売上や付加価値)を増やすか
  • インプット(時間やヒト、コスト)を減らすか

の二択、もしくはいずれも、ということになります。

この認識さえ揃っていれば、“捨てる”行為はすなわちインプットの減少です。よっぽどアウトプットを損なわない限り、どう考えてもやった方がいいアクションなのです。

しかし、現実のビジネス現場では、ここが曖昧なまま議論が進むことが多々あります。「どう生産性を定義するか?」「どの指標で向上を測っていくか?」を延々と議論してしまい、実際の削減アクションが遅々として進まないというのは、実によくある光景です。

部署別や事業別など、指標の計算は細かくしようと思えばいくらでもできます。しかし、それは“捨てる”ことを待つ理由にはなりません。

「どんな指標を設定しようと、確実に生産性向上の方向に向かう“捨てる”こと自体は、さっさと行った方がいい」。かつてkubellにおいても指標議論がボトルネックになっていた経験も踏まえてそう断言できます。

現場が「捨てられない」強固な心理的ハードル

経営学の巨人、ピーター・ドラッカーも次のように言っています。

「元々しなくても良いものを効率よく行うことほど無駄なことはない」
There is nothing so useless as doing efficiently that which should not be done at all.

業務改善の王道フレームワーク「ECRS(イクルス)」でも、まずは「E:廃止(Eliminate)」から始めるのが大前提です。しかし実際の現場では、Eを飛ばして、いきなり「S:簡素化(Simplify)」や、手段としての「AI化・自動化」に飛びつきがちです。

なぜ、最も効果的な“捨てる”ことから始められないのか? それは、現場に強固な心理的ハードルが存在するからです。

  • 昔からこのやり方でやっているから
  • さすがに無くすのはダメだと思っていた
  • 以前に経営陣からやってとお願いされて始めている

こうした見えないルールや過去の経緯が心理的なブロックとなり、結果的に業務は地層のようにどんどん積み上がっていきます。

既存の慣習を個人の判断だけで覆し、関係各所を説得して廃止に持ち込むには、想像以上のパワーが必要です。日々の通常業務に追われる中でそこまでの労力を割くことは難しく、結果的に「波風を立てるより、我慢して作業をこなした方が早い」と諦めてしまうのが現実です。

経営層の役割は「捨てていいよ」という免罪符を渡すこと

AI活用や効率化を推進すること自体はもちろん必要です。しかし、現場が自らの判断だけで過去の遺産を手放せない以上、まずは経営トップから「捨てていいよ」という宣言を全社メッセージとして打ち出し、心理的安全性を確保してあげること。これこそが、生産性向上のための第一歩として、シンプルかつ極めて効果的な手段なのです。

この“捨てる”ための心理的安全性を全社で担保し、一気にインプットを削ぎ落とすためにkubellで実施したのが「すてるば」です。

「すてるば」では、経営陣から全社に実施を告知した上で、現場から無駄だと思うものを細かいものまで洗い出してもらい、それを経営陣が参加する会議の場で次々と“捨てる”と即決して手放していきました。

kubellには、「kubell-ba(kubellの場)」という全社員が参加する月次会議があります。そこから着想を得て、「いらないものや昔からの慣習を手放し、次の挑戦に向かう場」という意味を込め、「すてるば(捨てる場)」と名付けました。

kubell流「すてるば」の進め方

ここからは、実際に私たちが実施したプロセスを具体的に説明していきます。

なお、概念自体はサイバーエージェントさんが行っていて有名な「捨てる会議」をベースとしています。ただし、そちらで取り入れられているポイント制や表彰制などの点は省き、よりミニマムで機動力が高い設計にした形となっています。

プロセス

【部・課】洗い出し

各部や各課単位で、提供されたフォーマット(後述)を埋めてもらいます。

「とにかく細かいものでもいいから出す」「他部署への要望もOK」とします。実施する組織の単位については、部門の大きさによるので、部門長に一存します。

【部門】一次選考

各部門の管掌執行役員が、部門内で「すてるば」を実施し、案の中からどれを全社案件として上程するかの選別をしてもらいます。

なお、自部門だけで完結できるものは、全社会議を待たずに即決・即廃止してもらいます。 

【全社】全社すてるば

各部門の結果を持ち寄り、部門の管掌執行役員含む経営陣全員が参加する会議を実施します。

なお、一次選考において、内容的にダブっている案件もあるため、事前に運営事務局にて案件の精査を行っておきます。

その上で、部門の管掌執行役員が案件の内容を説明、それに対して取締役の過半数が同意すれば決定、という形で次々に捨てるものを決めていきます。

kubellの場合は、これらをおおよそ1ヶ月半〜2ヶ月ほどの時間軸で行っています。前段の現場からの洗い出しをおよそ1ヶ月で行ってもらい、事務局による情報の整理、及び経営陣での選別の場の設定を半月〜1ヶ月で行うイメージです。

フォーマット

漠然と「無駄なことある?」と聞いても意見は出にくいものですし、その要素がバラバラであればそれこそ集約の作業が非効率になってしまいます。

そこで、以下のような共通のフォーマットを用意し、各部門に配布、集約しています。

特に重要なのが「捨てる上での懸念・負の影響」の欄です。

すでに存在しているものを捨てれば、何かしらのデメリットは多少なりとも生じます。生産性の説明でも触れたように、この捨てることのデメリットが大き過ぎては当然意味がありません。

「このデメリットを受け入れてでも、削減効果の方が大きいか?」を天秤にかけることができるよう、必ずこちらをセットで記載してもらうようにしています。

ポイント

効果を最大化するためのポイントをいくつか抜き出します。

現場の声をしっかりと拾う

当然のことながら、上位レイヤーが知らない現場の業務は多数あるものです。現場のメンバーに落とさず、マネージャー以上などで検討しても、削減効果は最大化されません。細かいものでもいいので、とにかく現場から一旦なんでも出させることが重要です。

事前の情報整理にこだわりすぎない

このようなプロセスにおいて、ある意味教科書的によくあるのが、「まずは業務フローとして書き出しましょう」や「部署に存在する業務を全て洗い出しましょう」のような、事前の情報整理系です。

しかし、個人的にはこれはあまりお勧めしません。論理性、整合性、網羅性等、あらゆることが気になり過ぎて、そもそもこれらを作ることに得てして膨大な時間がかかるからです。

まずは体感として不要と感じているものを徹底的に洗い出し、上述一次選考の中などで、必要に応じて個別に業務フローを確認する方が、“捨てる”ことを決めるという行為においては、それこそ生産的であると考えています。

組織長が適切に取捨選択を行う

あくまで生産性向上が目的なので、アウトプットがそれ以上に削がれるものであれば意味がありません。

ボトムアップで集めつつも、全社への持ち込みについては、組織長は特にその観点における適切さを、事前に確認、選別しておく必要があります。

丸ごと捨てられるものをできるだけ挙げる

細かいものも含めて集めつつも、例えば会議の1つや2つ無くしたところで大して生産性は改善しません。取り組み、プロセス、イベントなど、“丸ごと”捨てられるものはないか、同じく組織長には、より高い視点を持ちつつ推進を行ってもらう必要があります。

業務効率化もOKとする

結果的に、それは捨ててる訳じゃないという業務効率化にあたるものも複数上がってきますが、それもOKとします。

捨てるという極端な方向で考えた結果、これまで出てこなかった業務効率化案がこのような活動を機に出てくる可能性は大いにあるため、それはそれで推し進めるべきだからです。

責任者、期日について明確化する

このような活動における肝はとにかく“実装”です。決めっぱなしにならないよう、上記全社すてるばにおいては、何を捨てるのかはもちろん、当日出席している主管部門の管掌役員の中で誰が責任者として推進するのかを期日と同時に決めていきます。

逆にこの時点では、進め方の方法論までは踏み込まず、それも含めて責任者に持って帰ってもらうのがお勧めです。そこまで議論を広げてしまうと、何十個もある捨てる候補に対する意思決定が時間内では完了しないためです。

人事部門が率先して「捨てる」を文化にしていく

この取り組みの結果、時間換算で月に3,000時間超の削減に成功しました。これは全従業員の就労時間のおおよそ5%にあたり、ざっくりと年間の削減金額に直すと1億円超の効果となります。

  • 経営報告資料の過剰な作り込み
  • 複数システムによる承認フローの重複
  • リモート主体時代の名残である多過ぎる1on1ミーティング
  • 使用頻度の少ない全社システム

など、長年の慣習で積み上がったものを、経営陣の合意のもとで一気に手放しました。

AI活用が当たり前となるこれからの時代、まずは足元の「不要なものを捨てる」勇気を持つことが、真の生産性向上とAI活用のための最強の事前準備になります。

そして何より重要なのは、これを一過性のイベントにせず、組織の成長に伴って生じる無駄を常に手放し続ける「組織文化」へと昇華させることです。

私は、この文化形成の担い手となるべき存在こそ人事部門であると考えています。

一方で、社内の申請フローやチェック体制といった全社的な仕組みを構築しているのは、往々にして人事部門自身です。皮肉なことに、その仕組みによって自らも細かいタスクに忙殺されている、という側面もあるかと思います。

だからこそ人事部門は、単なるルールの運用者にとどまってはいけません。「ガバナンス」と「現場の生産性」のバランスを最適化する調整役であるべきです。自部門の業務こそを率先して見直し、「捨てる」姿勢を背中で示すことが求められています。

経営陣が掲げる「業務効率化」や「筋肉質化」といったメッセージは、ともすれば現場では「コストカット」や「負担増」というネガティブな言葉にも変換されがちです。この認識のズレが生じた瞬間、現場のモチベーションは低下し、かえって生産性を損なう恐れがあります。

上述の図でご説明したように、生産性向上の本質は、無駄なインプット(時間・労力)を減らし、より価値の高い業務に集中できる状態をつくることにあります。

この意図を現場に丁寧に翻訳し、納得感のある形で業務削減を推進していくこと。それこそが、これからの人事部門に期待される重要な役割だと考えています。

この記事が、自社のAI推進や生産性向上に課題を感じている経営層、およびプロジェクト担当者の皆様にとって、一つの指針となれば幸いです。

社員が自走し「自分ごと化」できる組織づくりへ|プレシャスパートナーズ矢野

ここまで、採用におけるポイントや、定着・活躍のために必要な要素をお伝えいたしました。

採用や評価制度を整えることは、社員の定着や活躍を支えるうえで欠かせません。仕組みが整えば、組織の土台は安定していきます。しかし、それだけで「強い組織」ができるわけではありません。

本当に力を発揮する組織とは、社員一人ひとりが「会社のことを自分ごととして捉え、自ら行動できる状態」にあることです。制度やルールに沿って動くのではなく、「自分の働きが会社の未来につながっている」と感じながら行動し、“自分ごと”として組織を捉えることで、活気と創造性が生まれます。

「仕組みの整備」が終わった後に必要なのは、社員が主体的に関われる関係性や環境づくりです。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

社員が“自分ごと”で動く組織とは

自分ごとで動く組織とは、社員の意識が会社に向いていることです。

決まったことをこなすだけではなく、今何を求められているのか、何をしたら会社の発展に繋がるのかを考え、行動に移します。

また、経営の意識も方針を勝手に決めるのではなく、現場の動きや声を常に把握し、「社員が自分で考えて動き、いきいきと働くためにはどんな環境が必要なのか」を考えることが重要です。

「自分たちの会社を自分たちで良くしていく」という共通意識が、日々の行動の中に息づいています。

社員が自発的に動くためには「信頼」と「会社を変える一員」という意識が欠かせません。この2つを育てるのは、仕組みそのものではなく日々の関わり方が大切なポイントです。

参画型の社内体制を整える

社員が自分の意見を持ち、主体的に行動するためには、会社の課題に参加できる場が欠かせません。その一つの取り組みとして、プレシャスパートナーズでは会社を改革するチームを設置しています。

このチームは、「会社をもっと良くしたい」という想いを持つ社員が有志で集まり、社内課題の解決やコミュニケーションの活性化に取り組むものです。

たとえば、「残業が増えている部署の原因は何か」「新入社員がより早く会社に馴染むにはどうすればよいか」など、現場の課題を部署を越えて話し合い、改善策を考えます。

また、年次や役職に関係なく、新規事業や社内プロジェクトにも積極的に参加できる環境を整えています。こうした経験を重ねることで、社員一人ひとりが「自分たちで会社を動かしている」という実感を得ることができます。

大切なのは、会社のためにやらされているということではなく、自らやりたいと思える気持ちです。その意識こそが、社員の当事者意識を育てる原動力になります。

“斜めのつながり”が育てる信頼と安心

社員が自分の考えを持ち、前向きに動ける会社には縦や横のつながりだけでなく、斜めのつながりが欠かせません。

縦のつながりは、上司と部下で目標を共有したり成果を評価したりするうえで大切ですが、それだけでは上からの指示を待つ受け身の姿勢になりやすくなります。

一方で、同期や同僚といった「横のつながり」は、安心感や仲間意識を生みますが、似た価値観の中にとどまり、新しい刺激が得にくいという面もあります。

そこで重要になるのが、部署や年次を越えた「斜めのつながり」です。

普段関わりの少ないメンバーとプロジェクトを進めたり、世代の異なる社員と意見を交わしたりすることで、新しい視点や発想が自然と生まれます。

また、社内部活や交流イベントのように仕事以外の場で築かれるつながりも大きな意味を持ちます。趣味をきっかけに話したり、社員同士でイベントを企画したりすることで、肩書を気にせず話せる関係が生まれ、部署を越えた協力やサポートがしやすくなります。

このような関係があることで、信頼できる相手が社内に増え、失敗を恐れずに意見を出したり新しいことに手を挙げたりしやすくなります。「困ったときは助けてくれる仲間がいる」という安心感が、行動する勇気を後押しします。

「斜めのつながり」が広がると、社員は「言われたから動く」のではなく、「自分の意見で会社を動かせる」と感じられるようになります。その結果、会社のことを自分ごととして捉える姿勢が育ち、社員一人ひとりが主体的に動く、自走する組織文化ができていきます。

成長を後押しする評価と対話の仕組み

第4回目で、評価制度の構築についてお話しましたが、制度の構築も社員の行動を支える大切な仕組みの一つです。

ただ、“人を評価すること”が成長に繋がるのではなく、“成長を支援すること”が軸にある評価制度である必要があります。

また、制度の内容に加え、どのように対話を重ねるかが鍵になります。

評価は何ができたかだけでなく、「次にどう挑戦するか」を一緒に考える場にし、そうした時間を通じて社員は「自分の成長が会社の成長につながっている」と実感することに繋がります。

評価を一方的な査定にせず、定期的な1on1や中間面談で振り返る仕組みをつくる。そこに「対話を重ねながら前に進む」という文化が根づくと、制度は単なる仕組みではなく“成長を後押しする習慣”になります。

社長・経営者がどう社員と関わるか

社員が自走できる組織をつくるうえで、最も大きな影響を与えるのは経営者の関わり方です。社長・経営者の姿勢や言葉は、そのまま組織文化となり、社員の考え方や行動に深く影響していきます。

社員の主体性を引き出すには、「伝える」よりも「聞く」姿勢が欠かせません。会社への想いを一方的に語るのではなく、社員が感じている課題や意見に耳を傾け、「どう思う?」「やってみようか」といった一言をかけることが、社員の背中を押すきっかけになります。自分の意見を受け止めてもらえたとき、自然と前向きに動き出すことができます。

また、社長・経営者が現場に足を運び、直接言葉を交わすことも大切です。数字や成果だけでなく、日々の努力や葛藤に目を向けることで、「見てもらえている」という安心感につながります。その安心感があるからこそ、社員は新しい挑戦に踏み出せるのです。

社員に任せるとは、すべてを手放すことではなく、経営者が方向性を示しながら、信頼して委ねることです。その積み重ねが、社員が会社を自分ごととして捉え、自ら動く文化を育てていきます。

まとめ

社員が「会社を良くしたい」「自分の成長を会社の成長につなげたい」と心から思えるようになれば、組織は自然と前に進んでいきます。

そのために大切なのは、社員の声を聞く小さな場をつくること。日々の対話の積み重ねこそが、会社を“自分ごと”として捉える第一歩になります。

有形商材営業と無形商材営業の違いとは? 採用時に見極めるべき営業スキルのポイント|エッジコネクション大村

営業職の採用において、「法人営業か個人営業か」「新規開拓かルート営業か」といった軸はよく評価基準として挙げられます。しかし、私が実際に採用支援や営業組織の構築に携わるなかで、それと同じくらい重要でありながら見落とされがちなポイントがあると感じています。それが、「どのような商材を営業してきたか」という視点です。

世の中の商材は大きく「有形商材」と「無形商材」に分けられます。この2つでは、営業プロセスの構造が異なるため、営業担当者が自然と身につけてきたスキルも大きく変わります。商材特性を考慮せずに採用を行うと、「営業経験者を採用したのに成果が出ない」「早期離職につながった」というミスマッチが生じやすくなります。

本記事では、有形商材営業と無形商材営業の違いを整理したうえで、それぞれの経験者がどのようなスキルを身につけているかを解説します。また、キャリアチェンジ採用で起きやすいミスマッチや、採用時に確認すべきポイントについても紹介します。

寄稿者大村 康雄株式会社エッジコネクション 代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1800社以上を支援し、継続顧客割合は75%を超える。2024年7月には「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。

有形商材と無形商材とは何か

有形商材

実際に手で触れたり目で見たりすることができる商品を指します。
皆さんの視界に映っているほぼすべてのモノが有形商材です。

食品、家電、自動車、住宅設備など、形として存在するものはすべてこのカテゴリに含まれます。なお、アプリやWebサービスなど、画面上で動作するプロダクトも「デモで体験できる」という意味で有形商材に含める場合があります。

無形商材

形がなく、手で触れることのできない商品・サービスを指します。
研修、コンサルティング、保険、採用支援サービスなどが代表例です。

当社が手がける営業支援や採用コンサルティングも、まさに無形商材にあたります。目で見て良し悪しを判断することができないため、営業プロセスの構造が有形商材とは大きく異なります。

有形商材営業で身につく営業スキル

有形商材の最大の特徴は、商品そのものが営業を助けてくれる点にあります。

顧客は商品を実際に見たり触ったりして判断できるため、営業担当者の役割は「いかにその商品の魅力を最大限に伝えるか」に集中しやすくなります。

そのため、有形商材の営業経験者は、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 商品の特長を分かりやすく説明するプレゼン力
  2. 商材に関する深い製品知識
  3. 顧客の購買意欲を引き出すクロージングトーク

商品自体に訴求力があるため、顧客の課題を深掘りするよりも「この商品を選ぶべき理由」を的確に伝える力が問われます。商品スペックの比較対応や、質疑応答での即答力も磨かれやすい環境です。

無形商材営業で身につく営業スキル

無形商材は、文字通り形がありません。パンフレットはあっても、顧客がそれだけを見て購買を決断することはまずないでしょう。営業担当者が商談力で補わなければ成約には至らない——これが無形商材営業の大前提です。

たとえば、コーチングサービスの場合を考えてみてください。著名な経営者の実績を多数持つコーチであっても、顧客の話をろくに聞かず、アドバイスがしっくりこなければ契約には至りません。

一方、実績がまだ少ない駆け出しのコーチでも、真摯に話を聞き、顧客の課題に寄り添うアドバイスができれば、同じ土俵で勝負できます。これが無形商材営業の本質です。

無形商材の営業経験者には、次のようなスキルが自然と磨かれていきます。

  1. 顧客の話を丁寧に引き出す傾聴力・ヒアリング力
  2. 顧客の状況・感情に寄り添う共感力
  3. 課題を明確化し、解決策までを論理的につなぐ提案力

また、無形商材の成約には、顧客が「この人に任せたい」と感じる信頼感の醸成が不可欠です。顧客から「お願いしたい」というスタンスを引き出すところまでもっていくことが求められます。

商材の違いによって営業経験の蓄積ポイントが変わる

有形・無形を問わず、営業の商談プロセスはおおむね次の流れをたどります。

営業の商談プロセス
①初回接触(来店・架電・訪問など)
②ニーズ・購買意欲の明確化
③商品・サービスの提案・選定
④最終調整・質疑応答
⑤成約

有形商材の営業では、③④のステップに重きが置かれます。
商品説明・デモ・質疑応答の経験値が自然と積み上がっていきます。

一方、無形商材の営業では、②のニーズ明確化が最重要ステップとなります。「顧客が何に困っているか」を丁寧に引き出し、信頼関係を構築するトーク展開のスキルが蓄積されていきます。

つまり、同じ「営業経験者」であっても、どの商材を扱ってきたかによって、蓄積されているスキルの質はまったく異なります。この視点を採用時に持てているかどうかが、ミスマッチを防ぐ大きな分岐点になります。

営業採用で見落とされがちな「商材の違い」

転職市場や採用現場では、「法人か個人か」「新規開拓かルート営業か」という切り口で候補者を評価するケースが多く見られます。しかし、「どんな商材を売っていたか」という観点はまだまだ重視されていないのが実情です。

有形商材→無形商材へキャリアチェンジする場合

最初に直面するハードルは「商品の力に依存しない営業スタイルへの転換」です。

有形商材の経験者は、良い商品であれば成果につながるという感覚が染みついていることがあります。しかし無形商材では、まず「この人に任せたい」と思ってもらえる信頼感の醸成が成約の前提条件です。

商品説明より先に、ヒアリングと共感のプロセスが求められます。

無形商材→有形商材へキャリアチェンジする場合

有形商材の世界では「衝動買い」が存在します。
顧客のニーズを深掘りしすぎると、かえって購買意欲が冷めてしまうケースもあります。

また、有形商材の営業では、あくまで主役は商品です。「自分という営業マン」ではなく「商品が売れていくこと」に喜びを見出せるかどうかが、定着を左右します。

営業採用で注意すべきポイント

以上を踏まえ、採用担当者が面接で確認すべき具体的なポイントを整理します。

有形商材経験者を「無形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • その人の営業成績は、商品力によるものか、本人の商談力によるものか(「なぜ売れたのか」を具体的に語れるかどうか)
  • 「ニーズの明確化・信頼醸成・提案」という一連のプロセスを習得させられる育成体制が自社内に整備されているか
  • 「今まで培ってきた営業スタイルをリセットして学び直す」という意識を、採用側・候補者側の双方が受け入れられるか
無形商材経験者を「有形商材営業」として採用する場合の確認事項
  • 自社の「商品」「サービス」に愛着や興味を持てるかどうか(モチベーションの源泉が「商品を広める」ことにあるか)
  • 顧客のニーズを深掘りするプロセスより、「商品説明・提示・クロージング」のプロセスにやりがいを感じられるか
  • 「自分」ではなく、「商品」が主役であることを自然に受け入れられるか

これらは面接で直接「どんな商材を扱ってきましたか」「なぜそれが売れたと思いますか」と問うことで確認できます。答え方の構造で、候補者のスキルの蓄積ポイントが見えてきます。

IT商材営業は有形と無形の両方の要素を持つ

最後に、近年増加しているIT商材の営業について触れておきます。

アプリやSaaSなどのIT商材は、デモやトライアルで使用感を体験できるため、有形商材的な性質を持ちます。しかし、基幹システムや高度にカスタマイズが必要なソリューションになると、少し触っただけでは良さが伝わりにくく、「ニーズの明確化・信頼醸成・適切な提案」が不可欠です。つまり無形商材の要素が強くなります。

IT商材の営業人材を採用する際は、自社プロダクトが有形商材寄りか無形商材寄りかを先に見極め、それに合ったバックグラウンドを持つ候補者を選ぶことが大切です。

まとめ

「営業経験あり」という一点だけで採用を判断すると、入社後のスキルギャップがミスマッチや早期離職につながりかねません。

「どんな商材を売ってきた人材か」という視点を採用の評価軸に加えることで、入社後に活躍できる営業人材の見極め精度は大きく向上します。ぜひ次の採用面接から取り入れてみてください。

現場からの最新速報!見えてきた2026年の新入社員研修の傾向と今後の対策|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

4月の新入社員研修は、人材育成関係者にとって毎年の大イベントの一つです。今年、私は4月7日〜23日の間に、講師として約1,700名の新入社員研修を担当しました。その経験を踏まえ、今年の新入社員の傾向と今後のアドバイスについてお伝えします。

結論
昨年とそれほど変わらない傾向です。
ハイライトとしては、
  • 態度:集中力が高く、研修に対してとても前向きで積極的
  • 習得度:普通
  • マインド:リスクを恐れず主体性を発揮することの重要性に納得しており、研修中に垣間見られた受講者も一部いた
  • コミュニケーション:抵抗がなく明るくて前向きだが、ロジカルに伝えることは得意ではない人が多い
  • その他:生成AIに頼っている傾向が目立った、これは今年初めて見られた現象

2026年の新入社員研修の概要

今年は41名から255名規模の研修を担当してきました。グラフのように100名未満と200名以上の割合が多かったです。

新入社員研修で大切なポイントの一つは、サブ講師です。演習がとても多く、受講者数に応じた講師のフォローが必要になるため、受講者30名に対して講師1名を入れています。

数百名規模の研修の場合は全体の解説をするリード講師と、演習をフォローする複数名のサブ講師のチームで行います。これにより、多くの新入社員のアウトプットを見ることができ、短時間で新入社員の傾向をつかむことができます。

新入社員研修の実施形態

研修の実施形態は、コロナ前と同じように対面研修が中心です(表1)。

実施回数を見ると7割は対面で、私以外の講師の場合はほぼ100%が対面実施でした。ただし、数百人以上の新入社員がいる企業では、現在でもリモート研修やハイブリッド研修を実施しているケースもあります。

代表的なハイブリッド研修は、数十名のクラスごとに部屋分けして講師の解説を配信し、各部屋では受講者は演習を対面で行ってサブ講師がサポートするスタイルです(表2)。

このようなセッティングは若干複雑ですが、大人数に対して安定した高い質の研修を提供するのに効果的です。

例えば、今年実施したハイブリッド研修の各クラスの受講者の修了アンケート結果を見ると総合評価は高く、クラスごとのばらつきはほとんど見られません(表3、縦の研修に対する総合評価は5点満点)。

新入社員研修の実施内容

今年担当した研修内容は、大きくこの4つでした。

  1. コミュニケーション:ロジカルコミュニケーション、報告、相談、傾聴、プレゼンテーション
  2. プロフェッショナルマインド:主体性向上、学生から社会人の切り替え、配属後の対策
  3. ロジカルシンキング:論理思考の基本(ピラミッド構造、ロジックツリー、MECEなど)
  4. グローバル:異文化、ビジネス英語、英語ライティング、ミーティング、プレゼンテーション

テーマ別の実施回数と受講者数は下の表とグラフのとおりです。

【テーマ別の実施回数と受講者数】
テーマ 実施回数 受講者数
コミュニケーション 7 1,135
マインド 5 409
シンキング 1 72
グローバル 1 121

新入社員の受講態度

実際に接した新入社員全体に対して言えることは、集中力が高くとても前向きでした。1,700名のうち、研修中に眠った受講者は一人もいませんでした。

コミュニケーションに対しては抵抗も遠慮もなく、非常に積極的でした。

特に印象的だった傾向は、ちょっと変わった演習(例:走り回ってペアで発表し合う、職場での上司とのやりとりの実演など)でも恥ずかしがらずに素直に一生懸命取り組んでいたことです(余談ですが、例年以上に上司役の演技が大袈裟で、数十年前のような昭和タイプを演じていたのが面白かったです)。

新入社員の習得度

きわめて前向きな姿勢が特徴的だったのに比べると、研修内容の習得度は普通でした。

【研修内容の習熟度】
強化ポイント 印象 コメント
主体性向上 良い 主体性の大切さについては素直に理解しており、研修中に意識しようとしているが、人によって出来が異なる。ただ、本当にリスクを恐れずに主体性を発揮できるかどうかは、職場での行動を見てみないことには分からない
論理思考力 普通 人によってばらつきが激しい。傾向としては、積極的なコミュニケーションやアウトプット力の高さに比べると低め
伝達力 普通 対面のコミュニケーションに対してまったく抵抗がない。リモートにはそれほど慣れていないため、対面より少し受け身になる人が多い。ビジネスの観点で見ると敬語、ロジカルな説明、簡潔明瞭にまとめるスキルは普通か少し弱い
柔軟な対応力 良い 研修中のケース分析、課題解決のアイディア出しなどでストレスを感じずに、柔軟に対応策を考えるのが得意な人が多い。ただ、職場で実際に問題に直面した際にどこまでスムーズに解決できるかは、今後見ていく必要がある

生成AIとデバイスの依存度

今年初めて感じたのは、デバイスと生成AIへの依存度の高さでした。

例えば、正確性が求められるロジカルシンキングやビジネスライティングの演習の際に、意識的または無意識的にデバイスを探そうとする、生成AIを使わないと進めないなど、明らかに不安を感じている新入社員が多く見られました。

特に印象に残ったのは、思考プロセスです。従来のように一人で考えてネットなどで調べて確認してパソコンで仕上げるという流れと異なり、多くの新入社員は最初の考えるステージからすでにインターネットと生成AIを使わないと不安で進められない様子でした。

自分で考える前からまずAIに聞いて、AIから得られた情報を見て、それに対してまたプロンプトを出して…このような、AIと対話をしながら自分の考えを少しずつ固めていく思考プロセスがたいへん多く見られました。

現時点では、思考力の低下につながるというほどの問題ではないと思いますが、ツールに依存しており、ツールがないとストレスと不安を感じることは明白です。

言うまでもなく、思考力、AI依存度、AIの効果的な活用は、これからの重要な人材育成課題になるでしょう。

新入社員の今後のフォロー

導入研修期間中、新入社員はとても楽しそうでした。良い仲間もできて、厳しい研修より心理的な安全性のある研修が多く、けっこう快適そうにしていた印象があります。

それはとても良いことですが、配属された後にギャップを強く感じる新入社員も出そうだと思いました。そのフォローとして必要になるのは、職場の厳しさに対応できるように促し、かつ前向きな姿勢と高いモチベーションを維持させることです。

そのため、配属数カ月後のヒアリングと秋のフォロー研修が特に重要になってきます。

来年度の新入社員研修に向けてのアドバイス

昨年感じた、新入社員研修の内容を少々見直すべきだという機運を今年も感じました。

数年前によく言われていた「主体性がない」「正解をすぐ求める」「リスクを恐れる」という点は変化してきているようで、以前より前向きに取り組んでいるし、それほどリスクを恐れていない印象がありました。代わりに、論理思考力、ビジネスライティング力、ロジカルコミュニケーションの力が低下しているケースが多く見られました。
これも昨年同様ですが、従来の定番の新入社員研修とビジネスの現状が合っていないところが見受けられました。

例えば、「電話応対」というテーマはもちろん大切ですが、固定電話の出方と転送などが現在の業務にない場合は省略すべきです。逆に、過去になかった新しいニーズが出てきたので、今後はそれを反映することが何より重要となります。

例えば、

  • 電話でほとんど話さない新入社員向け、電話に出る重要性とふさわしい話し方
  • 議事録を作成する際に効果的なAIツールの活用方法
  • ハイブリッドワークでの、チームメンバーとの良いコミュニケーションのとり方
  • ハラスメントを恐れて遠慮する上司との人間関係構築

クロージング

新入社員研修おつかれさまです。

今年も講師として多くの新入社員と接することができましたが、感じたことを再度まとめると、

  • 態度は非常に良い
  • 能力と習得度は普通
  • 来年度からは長年やっていた新入社員研修に多少手を入れたほうが良い
  • 生成AIの影響が顕著、来年以降の大切なテーマになりそう

です。

フリーランスエンジニアを採用し、活用するには 〜データでみるフリーランス採用の最前線と活用ポイント〜

年度が変わり、採用予算の策定に悩む人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

「優秀なエンジニアがなかなか採用できない」
「内定を出しても辞退される」

そんな声を、採用担当者から日々聞きます。

職種別の採用難易度を見ると、エンジニア職の採用は非常に難しくなっています。新卒のエンジニア職採用を実施する企業の4社に1社が、採用目標未達見込みとの調査*もあります。(参照:レバテック株式会社「新卒エンジニア採用実態調査」

そうした状況の打開策として、近年注目されているのが「フリーランス人材の活用」です。フリーランスのメンバーが社内プロジェクトに関わることが増えたと感じている方もいるかもしれません。

一層の働き手不足が懸念される中、企業にとって重要な選択肢の一つとなるフリーランス活用ですが、「適正な単価がわからない」「採用した後、どう動かせばいいか不安」という課題がつきまといます。

正社員と異なり、入社後の研修制度やフォロー体制が整っていないケースも多く、想定したパフォーマンスを出してもらえないことも珍しくありません。

本記事では、フリーランスエンジニアの最新市場データをもとに適正単価を解説するとともに、創業以来フリーランス市場の前線を見ているHajimariの事例から見えたフリーランス活用ノウハウをご紹介します。

執筆者亀田 壮司株式会社Hajimari(旧:ITプロパートナーズ) 執行役員

2017年の入社以来、フリーランスエンジニアの活用支援を行うエージェント業務に従事し、全社MVP賞を受賞。29歳で執行役員に就任後は、プロパートナーズ事業本部を中心に幅広いミッションを担う。長年にわたりフリーランス市場の最前線に立ち続け、数多くの企業のフリーランス活用を支援してきた。本記事で紹介するデータと知見は、その現場経験から生まれたものです。

フリーランスエンジニアの採用現況 〜市場で起きている「単価の二極化」〜

まず、フリーランスエンジニア市場の全体像をお伝えします。

Hajimariのプラットフォームデータ(2024年11月〜2026年3月、直近16ヶ月の案件単価変動)を見ると、フリーランス市場では単価の二極化が明確に進んでいることがわかります。

単価が上昇しているのは「AI・インフラ系」「バックエンド開発」領域です。AIエンジニアやネットワークエンジニアへの需要が急速に高まっており、企業は希少人材の争奪戦を繰り広げています。

採用担当者としては、この二極化の構造を理解した上で予算決定・採用判断をすることが、今後ますます重要になっていくでしょう。以下のデータは、フリーランスエンジニアの案件単価における直近16ヶ月の変動です(参照:フリーランスエンジニア案件の平均単価相場

▮ プログラミング言語別:KotlinとPythonが上昇、Swiftは急落
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Kotlin 66.0万円 70.0万円 +6.06%
Python 65.0万円 68.0万円 +4.62%
JavaScript 60.0万円 62.0万円 +3.33%
Go 70.0万円 72.0万円 +2.86%
Java 58.0万円 59.0万円 +1.72%
TypeScript 66.0万円 67.0万円 +1.52%
Ruby 74.0万円 73.0万円 -1.35%
PHP 63.0万円 62.0万円 -1.59%
Swift 70.0万円 65.8万円 -6.07%

注目すべきは Kotlin(+6.06%)と Python(+4.62%)の上昇です。Kotlinは簡潔さと安全性を兼ね備えており、Androidアプリ開発やサーバーサイド領域でも採用が進み、需要が拡大しています。Pythonは、AIや機械学習領域などの成長領域に活用されており、引き続き強い需要が続いています。

一方、Swift(−6.07%) の下落は注目に値します。iOSアプリ開発の需要そのものが消えたわけではありませんが、iPhoneとAndroid両方に対応したアプリを効率よく作れる新しいツールの台頭により、Swift専門エンジニアのニーズが下がってきてます。

また、AIによる開発補助ツールが進化し、モバイル開発の一部作業が自動化されつつあることも、単価の下押し要因となっている可能性があります。

▮ フレームワーク別:DjangoとLaravelが二桁上昇
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
Django 57.0万円 64.3万円 +12.72%
Laravel 59.0万円 66.0万円 +11.86%
Vue.js 61.0万円 65.0万円 +6.56%
Node.js 62.0万円 66.0万円 +6.45%
Ruby on Rails 71.0万円 71.0万円 0.00%
React 68.0万円 67.0万円 -1.47%
Next.js 68.0万円 65.0万円 -4.41%
Spring 67.0万円 64.0万円 -4.48%
Flutter 69.0万円 63.0万円 -8.70%

 フレームワーク別では、Django(+12.72%)とLaravel(+11.86%)の大幅上昇が目立ちます。両フレームワークとも、高速かつ効率的に開発できる点から人気が高まっています。

対照的に、Flutter(−8.70%)は顕著に下落。新しいツールの台頭により「Flutter専門のエンジニアに頼まなくても対応できる場面」が増えてきたことが背景として考えられます。

▮ 職種別:AIエンジニアとネットワークエンジニアが高騰
スキル・役割 2024年11月 2026年3月 変動率
ネットワークエンジニア 55.0万円 61.0万円 +10.91%
AIエンジニア 73.0万円 79.5万円 +8.90%
インフラエンジニア 59.0万円 60.0万円 +1.69%
フロントエンドエンジニア 65.0万円 64.0万円 -1.54%
Webディレクター 55.0万円 53.0万円 -3.64%
ITコンサルタント 101.0万円 90.0万円 -10.89%

職種別で最も大きな変動を示しているのが、ITコンサルタントの−10.89%です。長く100万円を超えていた平均単価が90万円台に落ち着いています。

その一方で、AIエンジニア(+8.90%)とネットワークエンジニア(+10.91%)の単価は明確に上昇しています。中でも、AIエンジニアの最新単価は79.5万円と全職種で最高水準。AI関連人材の争奪戦が激化している様子が伺えます。

ネットワークエンジニアについては、クラウド移行の加速やサイバーセキュリティへの意識高まりを背景に、インフラ・ネットワーク領域の専門家へのニーズを背景に単価上昇しています。

最も大きな変動を示している ITコンサルタント(−10.89%) については、自社内にデジタル人材を抱えることで外部への依存度を下げる企業が増えたことで、単価の下落につながっています。また、高単価な「戦略立案フェーズ」よりも「実行支援フェーズ」の需要が増えたことも、単価押し下げの一因として挙げられます。

こうした需要は、むしろAIエンジニアやデータエンジニアへシフトしていると捉えるべきでしょう。上記のデータを採用実務にどう活かすか、ポイントをまとめます。

データを踏まえた採用判断のポイント
単価が上昇しているスキルは、採用スピードが勝負です。今後さらなる単価上昇の可能性に備え、マッチする人材に出会ったタイミングで早めにオファーを出すことが重要です。
フリーランスの場合、正社員採用以上に「他社との競合」が起きやすく、検討に時間をかけるほど競争率が上がります。実際に、長年フリーランスと企業のマッチング事業を展開してきたHajimariの支援事例でも、AI関連人材の獲得競争率は上がってきています。
AIエンジニアは単価も高く上昇トレンドにある一方、市場にいる人数が少ない希少職種です。こうした職種を活用する際は、任せる業務と目指すゴールを明確に決めた上で短期集中的に動いてもらうことが、予算内でコスト効率を高める鍵となります。
一方、フロントエンドエンジニアのように市場に人材が多い職種は、複数の候補者を比較検討し、スキルと単価のバランスを見極めることで、予算・質のバランスが取れた人材を確保しやすくなります。

フリーランス活用ノウハウ〜“採用して終わり”にしないための5つの実践〜

正社員市場の人材獲得が激化する現代では、フリーランス活用はもはや補助ではなく、開発体制の中核を担う戦略的な選択肢です。

ただ、フリーランスを採用してうまくいかないケースには共通のパターンがあります。それは「採用して終わり」になってしまうことです。正社員のような、研修や上司のフォローなどの仕組みが整っていないことが多く、結果として想定していたアウトプットが出ないという状況に陥りがちです。

以下では、Hajimariが実際の支援現場で培ったフリーランスが最大のパフォーマンスを発揮するための実践ノウハウをご紹介します。

1. 採用時のミスマッチを防ぐ

「採用してみたら思っていた人と違った」

こうしたミスマッチは、フリーランス活用でよく起きるトラブルの一つです。原因の多くは、現場・人事・エージェントの三者間で、求める人物像の解像度がバラバラなことにあります。

人事担当者として、現場から「Pythonができる人が欲しい」とだけ言われて困った経験はないでしょうか。スキルだけを条件にすると、「技術は申し分ないのに、プロジェクトに馴染めなかった」というミスマッチが起きやすくなります。

ミスマッチを防ぐには、採用要件をスキルだけでなく「解決したい事業課題」「チームのミッション」「求める行動レベル」まで落とし込んで言語化することが必要です。

「AIを活用した新機能の開発フェーズを一人でリードできる人」など具体性のある要件を、現場・人事・エージェントで共有することで、マッチング精度は大きく向上します。

2. 「開発文化(カルチャー)」の早期伝達

技術スキルが完璧でも、文化が合わなければパフォーマンスは発揮されません。これは正社員でも同じですが、フリーランスの場合は特に注意が必要です。

フリーランスのメンバーは複数の企業で仕事をしていることも多く「個社ごとのルール」を自然に把握する機会が少ないからです。暗黙の了解になっている開発文化がフリーランスには伝わっていないケースは非常に多くみられます。

具体的には、技術選定の裁量権の範囲、リモート時コミュニケーションのルール、コードレビューの文化など、自社特有のルールを参画初期に明文化して共有することが重要です。

また、情報格差をなくすために、可能な限りオープンな場で議論を行う・定例会議に参加してもらうなどの工夫をすることで、フリーランスメンバーが当事者意識を持って参画できる環境が整います。

3. 適切な期待値調整とトラブル予防

「もっとスピードを上げてほしい」
「思ったより品質が低い」

こうした不満が蓄積して、突然の契約終了や関係悪化につながるケースがあります。

定期的なコミュニケーションで、業務の質・量だけでなく、「稼働時間」「業務範囲」「成果物の基準」にズレがないかを確認していきましょう。

もしパフォーマンスへの懸念が生じた場合は、感情論ではなく事実ベースのフィードバックを心がけることが重要です。

「〇〇のタスクが期日より3日遅れています。何か障壁がありますか?」という形で、具体的に・早めに・建設的に伝えることがトラブルを未然に防ぎます。

また、契約形態についてもフリーランスの多くは指揮命令権のない準委任契約を結んでいます。契約に沿った業務の指示ができているかも都度確認が必要です。

Hajimariの実践事例:CTO経験者フリーランスによる新規事業立ち上げ

上記のノウハウが実際にどう機能するか、Hajimariの事例でご紹介します。

事例

Hajimariにおいてこれまで進出してこなかったSaaS分野へ事業展開する際、メガベンチャーでCTO経験と組織マネジメント経験を持つフリーランスエンジニアが参画。

「SaaS事業を立ち上げ、6ヶ月でMVPリリースをする」という明確なゴールと、「経営視点から開発に求めること(コスト感覚・スピード重視・外部ベンダー活用の判断など)」をあらかじめ丁寧にすり合わせることで、認識齟齬の発生も防ぎました。

参画後は、開発戦略やプロダクトコンセプトの策定から、現場で発生する技術的な課題への随時対応まで、プロの視点から伴走し、プロジェクトは期日通りにMVPリリースを達成しました。

プロジェクトの最大の成功理由は、「何を任せるか」を最初に明確にしたことです。曖昧な状態でスタートしていたら、優秀な人材でも力を発揮しきれなかったでしょう。

優秀な人材を獲得することの難易度が上がるなか、フリーランス活用はもはやどの企業にとっても必須の手法です。

採用担当者に求められるのは、企業の課題解決に適した人材を適切な価格で採用し、パフォーマンスの出る環境を用意することです。

フリーランスを活用し、開発のスピードと質の両方を向上させることで、飛躍的な事業成長を実現させましょう。

理念を“作って終わり”にしない。採用・定着・活躍につなげる理念浸透の仕組みづくり|プレシャスパートナーズ矢野

近年、「採用の場で理念や想いを打ち出し、それに共感した人材を採用する」という手法を取り入れる企業が多くなっています。

しかし、どれだけ理念共感の高い人材を採用しても、入社後に理念が業務や行動へ結びつかなければ、その共感は徐々に薄れてしまいます。

今回は、理念を「作って終わり」にするのではなく、社員一人ひとりが「理念に納得し、行動へと移せる」ようにするための“理念浸透の仕組み”についてお伝えしていきます。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

発信して終わらない理念運用

企業理念を採用サイトや説明会で発信するだけで終わらせてしまうケースは少なくありません。

しかし、理念の目的は「アピール」ではなく、日常の行動として根づかせることにあります。つまり、社員一人ひとりが日常業務の中で理念を意識し、行動に反映できて初めて理念は機能します。

株式会社TCDの「企業ブランドと働き方に関する実態調査」によると、会社員・正社員で理念を「はっきり覚えている」と回答したのはわずか14.3%。一方で、経営者・役員は52.9%が「はっきり覚えている」と回答しており、職位による認知ギャップが非常に大きいことがわかります。

ブランド(理念)の共感度
日頃のブランド(理念)の意識度

さらに、正社員で「理念にとても共感している」と回答したのは7.6%にとどまりました。日頃の理念への意識についても、「日常業務で意識している」は7.6%と、いずれも一桁台という結果です。

理念への「共感」が欠けたままでは、社員は理念を“自分ごと化”できず、「理念に沿った行動」も生まれません。

企業理念と事業をつなげる設計

理念浸透に欠かせないのが、企業理念と事業の一貫性です。

企業理念は企業の軸であり、事業戦略、評価制度、人材育成など、あらゆる基盤とつながっていなければ機能しません。

例えば、「顧客第一主義」を掲げているにもかかわらず、評価基準が売上のみで決まる“売上至上主義”となっている場合、社員は理念と実態のギャップを感じてしまいます。

「企業が掲げていること」と「実際に行っていること」が一致しなければ、理念は信頼を失い、行動指針として認識されなくなります。

企業理念を事業運営に組み込む具体例としては、

  • 新規事業の検討時に「理念に沿っているか」を必ず確認する
  • 評価制度に「理念行動」を組み込み、行動と理念を結びつける

といった取り組みがあります。

プレシャスパートナーズでも、企業理念に基づき事業運営を行い、理念が意思決定や評価の軸となる仕組みを整えています。

企業理念を動かすのは社長・経営者の発信力

企業理念を最も正しく伝えられるのは社長・経営者です。

特に社長は“理念の体現者”であり、その言葉や行動は社員へ大きな影響を与えます。社長自身が自らの言葉で語り、日々の行動で示すことで、理念はスローガンではなく、会社の姿勢として浸透していきます。

一方で、社長が理念を語る場が限られている企業では、理念は社員の日常から遠ざかってしまいます。そのため、トップと社員の対話機会を増やすことが理念浸透のカギになるでしょう。

社員総会や全社会議といった公式の場だけではなく、社長が執務スペースに立ち寄る、達成会や懇親会に参加する、カジュアルな対話を積極的に行うなど、こうした日常のコミュニケーションが理念浸透を後押しします。

プレシャスパートナーズでも、社長が各支社を訪問し、メンバーと直接対話する時間を大切にしています。食事の機会や部活などを通じ、業務外での時間も大切にしています。

役職者だけでなく、新入社員も社長と気軽に関われる文化をつくり、「理念が日常にある状態」を経営者自らが体現しています。理念浸透はトップダウンだけでは成立しません。

「トップが発信し、社員が共感し、現場で実践されること」その双方向のコミュニケーションこそが、理念浸透の架け橋となります。

企業理念を”自分の言葉で語る”アウトプット

理念をさらに深く浸透させるために重要なのが、社員一人ひとりが理念を自分の言葉で語る機会です。

社長・経営者が理念を発信し続けるだけでは、社員は受け身となるため、社員自身が企業理念を“自分ごと”として捉え、発信・体現できる状態を目指します。

プレシャスパートナーズでは、社員がSNSで自由に発信する取り組みを行っています。

「仕事を通して理念を感じた瞬間」
「会社の好きなところ」

などを好きに発信してもらっています。これは単なる広報活動ではなく、社員が理念について考え、自分の言葉で表現するプロセスになっています。

こうしたアウトプットの積み重ねが、理念を抽象的なスローガンから日常の指針へと変えていきます。社員自身が企業理念を自分ごととして捉え、会社としてアウトプットの機会を支援することが理念経営の定着につながります。

まとめ

理念浸透とは、単なる社内広報ではありません。理念とは、企業が「何を大切にし、どのように社会と向き合うのか」を社員全員で共有し続ける営みです。

理念の浸透は短期的に完結するものではなく、長期的な文化づくりです。発信して終わらせず、理念を経営・制度・日常へ組み込み、社長・経営者と社員が対話を重ねながら運用することが、理念を企業文化として根付かせる基盤となります。

“推し活採用”は採用課題をどう解決したか?内定承諾率を4倍向上させた仕組みとは

新卒採用では、AIの普及によりエントリーシートや「ガクチカ」の内容が似通う中で、「候補者の本質が見えにくい」と感じる採用担当者は少なくありません。

加えて、選考の効率化が進み、1社あたりが学生と向き合える時間は短くなっています。こうした状況に対して私たちが取り組んだのが、「推し活採用」です。

 “好きなものを語る面接”というシンプルな設計変更により、面接満足度が向上し選考継続率や内定承諾率の改善につながりました。

本記事では、私たちが取り組んだ新卒向け採用手法「推し活採用」導入の背景から具体的な設計、得られた成果までをご紹介します。

執筆者伊藤 宗一郎株式会社マーキュリー コーポレートコミュニケーション部コーポレート企画課 課長

2016年に株式会社マーキュリーに新卒入社。2年間の通信商材営業を経て人事部へ異動。新卒・中途採用の担当者として、求人媒体の運用やスカウトの活用、データ分析による精度向上を推し進め、年間2,000名の採用を支える体制を構築した。現在は、DX推進をはじめとする各種コーポレート企画に従事。現場、人事の両面を見てきた経験を活かし、「採用をもっと面白く」すること、そして働く人が輝ける組織設計に取り組む。

1|実施の背景

推し活に着目したきっかけ

コミュニケーションが苦手な学生の話を、どうすれば引き出せるのか。面接官として学生と向き合う中で、常に意識していました。

そのような中で、面接の中でアイスブレイクとして趣味の話題に触れると、場の空気が大きく変わることがよくありました。特に「推し」の話になると、コミュニケーションが苦手な学生でも自然と会話が弾むケースが多く見られました。

つまり、能力や志向性の問題ではなく、緊張や面接という形式そのものへの苦手意識によって、本来の魅力や考えが十分に伝わっていないケースが一定数あります。

そこで、「いかに話しやすい状態をつくるか」という観点から、面接設計そのものを見直すべきではないかと考えていました。

母集団への影響

当社はこれまでも多様な個性を持つ人材を採用してきました。入社後も特定のキャリア観に限定せず、幅広い選択肢を提示しているため、「さまざまな価値観を持つ人に入社していただきたい」という採用方針もあります。

そのため、「推し活採用」による母集団への影響はそこまで懸念していませんでした。

実際に、入社後の社員同士のコミュニケーションでも、関係性の構築において趣味の話題が起点になることが多く、「推し活採用」は当社のカルチャーとも親和性が高いのではという直感がありました。

さらに、新卒3年目までの採用担当者にアンケートを実施したところ、8割以上が「推し活採用」について肯定的だったことも、導入の大きな決め手になりました。

従来の選考での課題

タイムパフォーマンスを重視する学生に合わせ選考フローを簡略化する中で、「いかに人物像を見極めていくか」というところに課題を感じていました。

従来の選考フローでは「話し上手が有利になりやすい構造」が生まれてしまいがちであり、また「回答が画一化して学生の人物像や個性が見えづらい」という課題がありました。

現在、以下のような選考形式を導入しています。

  • 通常選考(説明会⇒選考2回⇒内定)
  • スピード選考(説明会⇒選考1回⇒内定)
  • 1DAY選考(説明会+選考会⇒内定)

その結果、面接時間は短縮され、限られた時間で判断する必要があります。

いかに短時間でも候補者の本質を捉えるかが、より重要な課題となっていました。

2|選考フローと運用設計

推し活採用の設計

選考フロー自体は大きく変えず、以下の形で実施しました。

  • 説明会
  • 1次面接:推し活面接
  • 最終面接:通常面接
  • 内定

フローを増やさないことで、現場の負担を抑えつつ導入できる設計としました。

設計上の工夫

面接の進め方をあらかじめ設計したうえで、レクチャー会や動画撮影を実施、当日の流れをイメージした上で本番に臨めるように工夫しました。具体的には以下の施策を実施しました。

  • 事前アンケートで「推し」を把握
  • 面接官向けレクチャー会の実施(面接官のスタンス統一)
  • 選考内容の事前開示(YouTube動画など)

特に事前アンケートは重要で、面接官が事前に会話の切り口を準備できるため、面接の質が安定します。

また、学生の話に関心を持ちながら丁寧に聞き、深掘りしていくように面接官にはレクチャー会を実施。

レクチャー会では全国の採用担当向けに、以下のポイントを重点的に伝えました。

<レクチャー会で伝えたポイント>
面接時間の区切り 推し活の話で時間が終わってしまわないよう、「推し語り」「深掘り」「就活ヒアリング」と時間を明確に区切りました
仕事への接続 「推しへの向き合い方」を「仕事への向き合い方」にリンクさせて質問するよう指導しました
3つの評価基準の言語化 単なる雑談にならないよう、「熱量」「表現力」「共感力」という独自の評価基準を設けました
「教えて!」のスタンス 面接官が知らないジャンルの話題が出ても事前に調べすぎず、「それってどういうこと?教えて!」という姿勢で、絶対に否定せず話を聞き出すことをルール化しました

その結果、学生が安心して話せる状態につながったと感じています。

3|成果:面接体験の質が数値に直結

導入後の成果

応募者数は376名から611名へと増加し、前年比162.5%となりました。(※2)

また、応募後の指標も以下の通り改善しています。

  • 選考予約率:75.7% → 92.5%
  • 内定率:24.7% → 50.0%
  • 内定承諾率:15.8%→61.5%

※2…2025年9月~12月の2026年卒応募数(マイナビ、リクナビ、キャリタス、自社採用サイト経由等)の前年同時期比。前年は「推し活採用」未実施。なお、ほかの要因も影響し得るため、単純比較ではなく傾向値としてご参照ください。

数値改善の要因

推し活を取り入れたことで、選考全体を通じた満足度が高まり、結果として最終選考まで進んでいただける方が増え全体的に移行率(※3)が改善したと捉えています。

面接を通じて、

  • 通常の面接よりも話しやすかった
  • 面接官が自分に興味を持ってもらえて、理解してもらえたと感じた

という体験が、「自分を受け入れられている」という印象につながり、志望度の向上に結びついたのではないでしょうか。

また、1次面接で話した内容を最終面接に引き継ぐことで、一貫した体験設計ができるよう工夫をしたことも効果的でした。

※3 ここでは選考において次のフェーズに進む割合のことを指す。

4|取り組みから見えてきたメリット・デメリット

メリット

 主に以下の3点です。

  • 他社との差別化による母集団形成
  • 面接満足度の向上による承諾率改善
  • 「推し」を取り入れた自己開示による人物像の理解促進

まず感じたのが、推し活というテーマ自体が目を引き、応募のきっかけになっているということです。この傾向は、先ほどの応募者数の増加にも表れていると感じています。

次に、面接で楽しく話せた経験が満足度につながり、そのまま選考継続にもつながっている点です。内定率は約2倍、内定承諾率は約4倍に向上しました。

最後に、「推し」の話題から自然と会話が広がることで、その人らしさが見えやすくなることです。

実施後の面接官向けアンケートでは、「学生が活き活きと話すので人柄が見えやすい」といった意見が多くあがりました。推し活というテーマは心理的ハードルが低く、短時間でも多くの言葉と熱量を引き出せます。その結果、人物理解の精度が高まりました。

デメリット

一方で、予約後の選考参加率のみ微減しました。

これは、通常の選考フローに加えて、推しについて回答していただく事前アンケートを追加したことが一因と考えています。

また、今年推し活採用に参加した学生が入社しますが、特に定着率については、今後継続的にモニタリングしていく必要があると考えています。

好きなことと仕事の接続

課題は残りつつも、この取り組みを通じて改めて感じたのが、「好きなこと」と仕事の関係性です。

私自身、もともとは「好きなことを仕事にしたい」という軸でエンタメ業界を志望していた経験があります。その時は直接的には希望が叶いませんでしたが、現在はさまざまな企画をする中で、自分の好きを活かせている感覚はあります。

また、好きなものがあることで、余暇の時間を楽しめて、リフレッシュができ、それが結果的に仕事への集中やモチベーションにつながる人も多いのではないでしょうか。

「好きなものを好きと言えること」自体が、その人らしさや価値観を表します。当社の企業風土とも重なりカルチャーマッチにつながると考えています。

5|今後の展望/今後挑戦したいこと

今後は「推し活採用」された人が、より活躍しやすくなるような環境整備にも挑戦していきたいと考えています。

例えば、

  • 推し活応援ギフト
  • 推し活休暇

といった施策も検討しています。

また、現在の採用市場では「どのような体験ができる会社か」という視点の重要性が高まっています。推し活採用は単なる施策ではなく、企業の価値観を体現する取り組みとして、今後も進化させていきたいと考えています。

ピルとオンライン診療が切り拓く未来の働き方― 「タイミングを選べる」という自由を―

「なんとなく体がだるい」「会議中に集中力が続かない」「理由は分からないけれど、毎月決まった時期につらくなる」

こうした不調は、多くの働く女性が日常的に感じている“見えない負担”です。

生理やホルモンバランスの変化による体調不良は、外見からは分かりにくく、数値にも表れづらいものです。そのため本人でさえ、「気のせいかもしれない」「甘えてはいけない」とやり過ごしてしまうことが少なくありません。

しかし、この“見えない不調”は、欠勤や早退だけでなく、集中力の低下、判断力の鈍化、コミュニケーションの摩擦などを通じて、確実に仕事のパフォーマンスへ影響します。

医療的なケアによって改善できる可能性があるにもかかわらず、

「忙しくて通院できない」
「近くに婦人科がない」
「仕事の合間に行きづらい」

といった現実的な壁が、多くの女性の前に立ちはだかってきました。

本稿では、ピルとオンライン診療がもたらす新しい健康支援の形、そしてテクノロジーが可能にする“自分らしく働ける未来”について考えていきます。

寄稿者坂梨 亜里咲mederi株式会社 代表取締役

明治大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの不妊治療経験からmederi株式会社を起業。オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」、企業向け健康支援・福利厚生サービス「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開。

ピルは「働く女性の体調マネジメントツール」

日本ではいまだに「ピル=避妊薬」というイメージが強く残っています。しかし実際には、低用量ピルは女性の体調を安定させるための医療的な選択肢として、世界中で広く活用されています。

特に働く女性にとって重要なのは、月経周期による体調変動をコントロールできることです。生理痛やPMS(月経前症候群)によって、集中力が落ちたり、強い倦怠感や頭痛に悩まされたりする女性は少なくありません。

しかし多くの場合、それは周囲に見えにくく、「我慢するもの」として扱われてきました。低用量ピルはホルモンバランスを整えることで、

  • 生理痛の軽減
  • PMS症状の改善
  • 月経周期の安定

といった効果が期待されます。

つまりピルは、単なる医療ではなく、女性が日常生活や仕事のパフォーマンスを安定させるための体調マネジメントツールとも言えるのです。

一方で、日本のピル服用率は約3%とされ、欧米諸国と比べて非常に低い水準にあります。

その背景には、「産婦人科に通う時間が取れない」「相談しづらい」といった医療アクセスの問題があります。この課題を大きく変え始めているのが、オンライン診療の普及です。

なぜオンライン診療が必要なのか ― 医療アクセスの壁

働く女性にとって、産婦人科への通院は決して簡単ではありません。予約・移動・待ち時間を含めると半日近くかかることもあります。

その結果、

  • 症状があっても受診を後回しにする
  • 薬の服用を継続できない
  • 医師に相談する機会がない

といった状況が生まれてしまいます。

オンライン診療は、この医療アクセスの壁を大きく下げました。スマートフォンを使って自宅や職場から産婦人科医に相談でき、診察や処方まで完結します。通院時間の負担が減ることで、医療をより身近なものに変える可能性を持っています。

医療とテクノロジーの融合は、「通院できない」という構造的な問題を解決しつつあるのです。

福利厚生として広がるオンライン健康支援

こうした変化を背景に、企業の福利厚生にも新しい動きが生まれています。それが、オンライン診療を福利厚生として導入する取り組みです。

企業がオンライン医療サービスを導入することで、

  • 社員が勤務時間内でも医療相談できる
  • 通院時間の負担を減らせる
  • 体調管理を継続しやすくなる

といったメリットが生まれます。

企業側にとっても、

  • 欠勤や早退の減少
  • 集中力の向上
  • 業務パフォーマンスの安定
  • 離職リスクの低下

といった効果が期待できます。

実際に導入企業からは、

 「女性社員が体調について相談しやすくなった」
「生理による欠勤が減った」
「安心してキャリアを続けられると感じる社員が増えた」

といった声が寄せられています。

さらに、体調によるパフォーマンスのばらつきが減ることで、集中力や業務効率が安定し、結果として労働生産性が高まったという声も聞かれるようになりました。

女性の健康支援は単なる福利厚生ではなく、 組織全体のパフォーマンスを高める人的資本投資として捉えられ始めています。

「タイミングを選べる」という自由

女性がキャリアを築く中で、体調やライフイベントと向き合うことは避けられません。

しかしこれまで多くの女性が、「体調を我慢する」「キャリアを優先すると体のケアが後回しになる」という状況に置かれてきました。

ピルとオンライン診療は、自分の体と人生のタイミングを、自分で選べる社会を後押しするものです。

いつ働くか。
どんなペースでキャリアを築くか。
いつ家族を考えるか。

その選択肢を広げることこそが、女性の活躍を支える本質的な支援ではないでしょうか。

おわりに

ピルによる体調マネジメント、そしてオンライン診療による医療アクセスの改善は、これまで「我慢するしかなかった」女性の働き方を大きく変えつつあります。

通院のハードルが下がり、必要な医療にアクセスできる環境が整うことで、女性は体調を整えながらキャリアを継続する選択肢を持てるようになります。

医療とテクノロジーが融合することで、働き方の選択肢は確実に広がっています。ピルやオンライン診療は、その象徴的な存在と言えるでしょう。

女性の健康課題に向き合いたいと考える方には、拙著『女性に選ばれる会社の新・健康経営 ― 職場改革は生理・PMSケアから始めよう』(合同フォレスト刊)にて、制度設計の考え方から現場への浸透ポイントまでをまとめています。

「キャリアも妊娠も、自分でタイミングを選べる社会へ。」

その実現のために、企業ができることは決して特別なことではありません。女性の健康を前提にした職場設計へと一歩踏み出すことが、結果として組織の強さと社会の持続可能性を高めていくはずです。

 

『人材育成恐怖物語』から学びましょう|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

数カ月前、研修効果測定で有名なブリンカーホフ教授から「人材育成の恐怖物語の本を書くんだけど、一緒にやらない?」と連絡がありました。「人材育成の恐怖物語って……何?」と聞いたところ、思った以上に奥が深い答えが返ってきました。

「ライフワークとして、1990年代から効果的な研修の具体的なノウハウを出し続けてきました。大学で数千人の学生に教えました。本も何冊も書きました。毎年数十回のセミナーや講演も実施してきました。もちろん、コンサルティングや数えきれないほどの研修プログラムの研修効果測定の調査もしてきました。でも、何をやっても研修効果で世の中が大きく改善されたという実感が持てません。残念なことだなと考えていたところ、『人材育成の関係者(担当者や講師)と人材育成の国際会議や研修前後に話をして、一番盛り上がる話は毎回同じ』なことに思い当たりました。それは、過去の笑える研修失敗ネタと体験談です。そこで、『ベストプラクティスと立派なアドバイスばかりではなく、たまには失敗談を発信してみたらむしろインパクトがあるかも』と思ったんですよ」

その発想から生まれたのが、最近出版された『Training Horror Stories(人材育成恐怖物語)』です。様々な視点を入れるために、世界中の人材育成専門家から“Best of ダメ人材育成” ネタを集めました。

社内の人材育成担当者、外部コンサルや講師、アメリカ国内、グローバルなど、バランスよく様々な立場からの話が盛り込まれています。実は、私も日本代表として3つネタを提供しました。

あるあるネタ、少々大げさで笑える失敗例の数々であっという間に読み終わりますが、実は人材育成の本質に対する大事なヒントがいろいろと含まれている本です。今回は、この本で示されている問題や解決ヒント、エピソードを簡単にご紹介します。

よくある問題と解決ヒント

この本は全44章で構成され、大きく7つの切り口に分かれています。どれも人材育成の場でよく起きる問題ばかりです。切り口ごとの問題と解決ヒントを要約してご紹介します。

1. 研修の設計ミス(Design Disasters)

問題

研修の企画と準備段階で発生する問題。例えば、

  • 開発の流れが整理されていない
  • 教材をつくるために膨大なリソースを無駄にする
  • リモート研修を進めるチームと対面研修を進めるチームが合意に至らずに並行してバラバラな研修を2つつくってしまう

ヒント

当然ながら、研修を設計する際には関係者全員が合意できる明確な目的が必要。また、どのようなプロセスや流れにするかの共通イメージも大事。特に、国や組織を越えるときには意識合わせを早めにやらないと失敗する可能性が高まる。

2. 定着しないダメ研修(Training that didn’t stick)

問題

研修を実施したが、求めている行動変容とビジネス成果が得られない。例として、

  • 対象者を間違えている
  • 分かっているが「できる」レベルまで定着できない
  • 研修内容と現場のニーズが一致していない

ヒント

成果を出すには定着の工夫が必要。最低ラインは、

  • 研修後の職場での行動を目的にする
  • 受講者の上司を巻き込む
  • 研修をシリーズにする
  • 研修期間中に研修内容を職場で実践して振り返るサイクルを回す

3. 間違っていた育成施策(Wrong solution)

問題

研修内容が現場のニーズに合わず、実施しても職場課題の解決につながらない。例えば、

  • 職場から依頼された研修内容と本当の問題点が異なる
  • 研修内容と現場で求められていることがずれている
  • そもそも研修や育成で解決できない問題だった

ヒント

徹底した事前ニーズヒアリングは理想的だが非現実的。おすすめはニーズ把握に時間をかけず、少人数でとりあえずパイロット版を実施してみて、きちんとした効果測定をすること。それによっていろいろと見えてくるので、その結果に基づいて研修を大きく改善する。

4. 不満げなステークホルダー(Disgruntled clients)

問題

ステークホルダーの影響によって研修がうまくいかない。例えば、

  • カリスマ講師の細かいこだわりに左右される
  • 経営者の勝手な意見に振り回される
  • 受講者の上司のせいで研修内容を職場で使おうとするモチベーションがなくなる

ヒント

ステークホルダーを事前に巻き込み、関係者全員のベクトルを合わせる。ただし、実際問題としては非常に難しい。普段からステークホルダーのこだわりを意識して、危機感があったときには無理に踏ん張らないのが現実的。

5. 講師のメルトダウン(Awkward facilitator moments)

問題

受講者への案内と研修内容が違う。受講者との共通言語もなければ、通訳もない。研修中に会社でトラブルが起きて、受講者の集中力が下がる。講師は研修をお願いされているが、受講者には慰安旅行だと伝わっている。

ヒント

一言で言えば、研修の目的と期待を明確にして共有すること。だが、そう簡単ではない。研修、旅行、イベントのように形がなく、期待が高い場合にこのようなずれがよく生じる。最低限、人材育成担当者と講師、受講者の間で研修の位置付け、重要性、目的について合意がないとうまくいかない。

6. 非協力的な受講者(Unhappy participants)

問題

研修内容がアカデミックすぎる、難易度が高い(または低い)。研修内容が受講者の望んでいる内容と異なる。受講者のニーズを考えずに強制的に参加させる。受講者の負担が重すぎる。担当者が代わったため、研修設計の意図が受講者に伝わらなくなる。ラーニングジャーニーの運営サポートが不十分。

ヒント

人材育成の経験が長いと、不満を持つ受講者には必ず出会うもの。不満の中にも2種類の原因がある。

  • 1つ目は受講者の個別事情や性格。例えば、研修期間が私生活の大切な行事と重なる等。
  • 2つ目は人材育成担当者と講師のミス。2つ目については受講者のニーズを事前に把握すること、受講者に研修の目的と負担を的確に伝えることが大切。特に負担の多い研修の場合は、受講者にとってのメリットを強調すること。

7. 研修効果測定の失敗(Evaluation mishaps)

問題

アンケート内容と研修内容が合わない。研修の効果よりも受講者満足を重視する。研修の効果を考えずにセレモニー的なアンケートを書かせるだけ。効果測定をやっても結果に対して何もアクションをとらない。

ヒント

このような問題は非常に多い。解決に向けての第一歩は、研修当日の受講者の満足度だけではなく、研修後に職場でどのような行動が起きたかに対して関心を持つこと。次に、なぜそのような行動をしたか、どのような成果が出たかを調べること。

エピソード

ここまではよくある人材育成ベストプラクティスそのままです。この本でやりたかったのは、成功例でなく大失敗例を紹介し、笑いと同時に危機感を与えることです。

すべてにふれることはできませんが、軽くいくつかご紹介します。

エピソード1:研修と現場は違う?

米軍は人材育成分野が非常に進んでいて、数十年前から高く評されており、ベンチマーキングもよくされています。

特徴としては、強いトップダウン、人数が多い、全員強制研修、成果が出るまで徹底的に研修を行う、しっかりした成果確認と研修効果測定をすることです。多いのは講師育成(Train the Trainer)のパターンで、各現場から講師を決めて、その講師たちが集まって講師トレーニングを受け、各自の現場に戻って現場メンバーに教えます。

このエピソードは、ブリンカーホフ本人の若き日の体験談です。

エピソード1
1960年代、アメリカ海軍のバハマ南東にあるグランド・タークにいた際、施設の人材育成担当として本部に呼ばれ、講師向けのかなり充実した2週間のブートキャンプ的な研修を受けました。
研修後には自分の担当施設に戻って、研修内容を全メンバーに展開するのが通常のオーダーでした。ブリンカーホフは高いモチベーションで具体的なアクションプランをつくり、詳細に研修を企画して、ワクワクしながら施設に戻って自分の上司に報告しました。
学んだこと、研修に対する感想、アクションプラン、今後実施する研修の提案、求める成果等を1時間ほどかけて詳しく説明しました。それに対して上司は、

上司:そうか。いろいろ学んだね。ところで、ここはどこかな?
ブリンカーホフ:ここはグランド・タークです
上司:そうだ。ということは、本部ではないね
ブリンカーホフ:ええ、違います
上司:そうだよな。じゃあ、いつもどおりで
ブリンカーホフ:……はい

研修をより活かそうとする試みは、上司の一言でつぶされてしまいました。
ブリンガーホフは落ち込み、すべての内容をそのままシュレッダーにかけて、研修内容をきっぱり忘れようとしました。

このように、良いことを学んでも、残念ながら行動変容とビジネス成果にはつながらない場合があります。

エピソード2:研修を受けずに売り上げを上げる不思議な営業職

あるグローバル大手システム会社では、画期的な商品のラウンチに向けて、営業職向けにかなり力の入った研修プログラムを用意しました。1カ月程度で合計200時間以上、ワークショップとロールプレイ中心の徹底した研修です。

ただ、時間と費用を考えると全営業職に受講させることができないため、2,000人の営業職から500人を選抜して実施しました。製品ラウンチは大成功で、研修の評判も上々でした。

その後、ラウンチ6カ月後に研修効果測定を行ったところ、とても面白い結果が出ました。

エピソード2
受講者は研修内容をうまく活かし、新製品の売り上げにつなげていました。ところが、驚いたことに受講していない残りの1,500人のほうが、受講者以上に新製品を多く売り上げていました。
その理由は、
  • 内的動機:残りの1,500人は受講者に負けないよう普段以上に努力した
  • 柔軟な対応力:残りの1,500人のほうがお客様の個別ニーズとスタイルにより柔軟に合わせることができた(研修で紹介されたパターンに頼りすぎずに)
  • 同僚との協力:選抜されなかった際、残された1,500人は「負け組」だと疎外感を覚えたとのこと。その思いをモチベーションに変えて、1,500人の中で一体感が生まれた

このエピソードから、必ずしも研修だけが職場での行動とビジネス成果に直結するわけではないことが分かります。

エピソード3:グローバルスタンダードにならない

あるグローバル自動車メーカーで、すべての技術教育をeラーニングにして内容も統一しようという動きがあり、各地域から委員を決めてグローバルタスクフォースを設立しました。

エピソード3
それまでは各地域にそれぞれオリジナルのeラーニングがあり、内容、目的、作成ツールはすべて異なっていました。例えば、北米はシンプルで短いマイクロラーニング重視で、逆に欧州は丁寧で細かい解説中心の30分以上のeラーニングがメインでした。
限られた予算ですべてのコンテンツを更新し、統一してグローバル展開しなくてはいけません。結局、グローバルスタンダードどころか方針を決めるだけで2年間議論し、その間に予算を食いつぶし、委員の半分は退職して、まったく成果がないままプロジェクトは失敗しました。

ここから学べることは、異なる背景を持っている人や組織と一緒に何かをする場合、ベクトル合わせは必要不可欠で、しかもそう簡単ではありません。

クロージング

私もブリンカーホフ教授と似たようなことを感じています。

私の場合は日本で、1990年代から成果につながる人材育成のベストプラクティスと成功事例を積極的に発信してきましたが、残念なことに世の中では表立った変化はそれほど見られません。

ここで私から提案です。皆さんも『人材育成恐怖物語』の日本版や社内版をつくってみませんか?

失敗は成功のもと、少しでも人材育成の改善につながりそうだと感じたら、ぜひ試してみてください。皆さんなりの『人材育成恐怖物語』を楽しみにしています。

【第5回】組織適応の最終ステップとなる自分らしさの発揮~会社文化に適応する~

近年多くの企業が共通して直面している現実があります。それは優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまうという課題です。この連載では、キャリア入社者のオンボーディングと組織適応を効果的に支援していくための実践的なポイントをご紹介していきます。

前回の第4回では、キャリア入社者が所属する組織において、リーダーやサブ・リーダーなど、これまでよりも一つ上の役割を担うようになる中で直面する「適応中期の壁」について紹介しました。最終回となる今回は、キャリア入社者が入社した組織に適応していくうえでの最後のステップとなる自分らしさの発揮と会社文化への適応について詳しく解説します。

執筆者内藤 淳株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 主任研究員

1989年、東京大学文学部社会心理学専修課程卒業後、リクルートに入社。1994年、人事測定研究所に転籍。以来、法人向けの心理アセスメント、組織診断ツールの研究開発および各種人事データの解析に携わる。近年は、新卒およびキャリア入社者の組織適応、中堅社員のキャリア・離職などについての研究を行っている。2014年より、立教大学現代心理学部兼任講師。

1. キャリア入社者が自分らしさを発揮して活躍できるようになる時期

一般にキャリア入社者は、入社後しばらくの間、自分の所属する会社のことを「うちの会社」と自然に呼ぶことが難しいものです。

しかし、入社後2~3年ほど経つと、会社の文化や組織風土への理解が深まり、徐々に適応が進みます。その結果、「うちの会社」という言葉が自然に出てくるようになるなど、心理的にも組織の一員としての実感が高まっていきます。

またこの時期になると、職務面でも、前職で培った知識やスキル、専門性といった自分ならではの強みを生かしながら成果を挙げ、組織に貢献できる段階に入っていきます。

キャリア入社者は、前職での経験や専門性を持っているとはいえ、入社直後の段階では、その会社で長く続いてきた仕事の進め方や慣習に対する改善や新たな提案を行おうとしても、社内の文化や風土の理解がまだ十分でないため、うまくいかないことが少なくありません。

しかし、この時期になると、その会社特有の仕事の進め方や組織風土への理解が深まっているため、周囲に受け入れられやすい形で、現実的かつ実効性の高い提案ができるようになります。

2. キャリア入社者にとって節目となる時期でもある ―定着か、離職かの分岐点

この時期、組織適応が順調に進んだキャリア入社者は、会社の一員として、自分ならではの強みを生かしつつ活躍できるようになっていきます。

しかし、すべてのキャリア入社者が滞りなく仕事や組織に適応し、立ち上がっていくわけではありません。なかには、会社や職場に対する違和感を解消できないまま、自分に何が期待されているのかがわからない」「組織風土がどうしても自分に合わないといった理由から、再び転職を考え始める人もいます。

このように、組織適応に向けての最後のステップとなるこの時期は、キャリア入社者にとって、良い意味でも悪い意味でも一つの区切りとなりやすいタイミングといえます。

図表1は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、現在の会社での就業継続や離職に関する意向を尋ね、その結果を入社時期別に集計したものです。

N=1109

これを見ると、「今の会社・現在の組織で働き続けたい」と回答した人の割合は、入社後「2年目」までは減少傾向にありますが、「3年目」になると再び増加しています。

一方で、「今の会社で働き続けたいが、他の部署に異動したい」という人は、入社後「半年~1年」の時期に最も多くなっていますが、「2年目以降」は徐々に減少しています。

そしてこれとは対照的に、「近い将来、他の会社への転職も考えたい」と回答する人は、「2年目以降」に増加していきます。

この結果は、入社してからの約2年間がキャリア入社者の適応における一つのサイクルとなっている可能性を示しています。

そして3年目に向かう時期は、「この会社で働き続けよう」と定着の意思を固める人が増える一方で、社内での異動機会が限られるなか、「この会社や仕事は自分に合わないのではないか」と考え、再び転職を視野に入れる人も増えていく、いわばキャリアの節目となりやすいタイミングといえます。

この時期には、少し冷静になって自分自身を振り返る余裕も生まれ、今の仕事で自分らしく働くことができているか」「自分ならではの価値を発揮できているかと自問したり、今後のキャリアについて改めて考えたりするなかで、社内に留まり働き続ける意思を固める人と、再び社外に目を向ける人とに分かれていきます。

3. この時期に求められる周囲の関わりとフォロー

入社2年目以降になると、上司や周囲は「もう十分に慣れただろう」と考え、新卒入社の社員と同じ接し方をしてしまいがちです。しかし実際には、この時期は組織への適応が順調に進むかどうかの分岐点となりやすい重要なタイミングです。

そのため、相手がキャリア入社者であることを改めて意識した関わりが求められます。

具体的には、本人が持つ強みや専門性、入社の動機やキャリアに対する志向を再確認しながら、今後のキャリアの方向性について一緒に考えていこうとする姿勢が重要です。

以下では、上司や周囲の関わりとして大切なポイントを2点紹介します。

1)改めてキャリア入社者ならではの強みを生かすことを意識する

この時期には、本人が前職で培ってきた、その人ならではの専門性や知識・スキルに改めて目を向け、それらを生かした業務改善や企画提案を行えるよう、上司や周囲が背中を押していくことが求められます。

多くのキャリア入社者は、「社内にはない専門性や知見、ノウハウを期待されて採用された」という自負を持っています。

しかし、入社から数年が経ち、周囲から新卒入社の社員と同じように扱われるようになると、人脈の少なさや社内事情への理解の差を感じ、「自分はプロパー社員よりも仕事の能力が劣っているのではないか」と感じてしまうことがあります。

その結果、「自分は何のためにこの会社に採用されたのか」「自分には何が期待されているのだろう」といった迷いを抱くケースも少なくありません。

またキャリア入社者のなかには、「この仕事の進め方は非効率ではないか」「こう変えればもっと良くなるのではないか」と感じていても、これまでとは勝手が異なる新しい組織環境では、簡単には口に出せない場合もあります。

だからこそ、上司や周囲が本人の問題意識や改善の視点に丁寧に耳を傾け、それを引き出し、実際の行動や提案につなげていくのを後押しする関わりが求められます。

このような関わりは、キャリア入社者の意欲や誇りを高め、組織への貢献意識を強めることにもつながります。

キャリア入社者が自分自身を「単なる欠員補充としての人材」と捉えるのか、それとも「新しい視点や専門性を期待されている存在」と捉えるのかは、この時期の経験によって大きく左右されるのです。

2)本人の入社動機や志向に改めて向き合う

キャリア入社者が会社の風土や仕事の進め方にある程度慣れてくると、「自分はなぜこの会社に入社したのか」という意味を改めて問い直すようになり、今後のキャリアの方向性や社内での異動の可能性にも意識が向くようになります。

そのため上司や周囲は、本人が自身のキャリア形成や今後の異動についてどのように考えているのかについて、このタイミングで再確認しておくことが重要になります。

図表2は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、キャリアの目標と異動に対する考えを尋ねた結果です。

N=1109

これを見ると、キャリアの目標について「今の専門領域にこだわらず、より幅広い経験を重ねていきたい」と回答した人は全体の18%にとどまり、8割以上の人が「現在の専門領域を軸にキャリアを形成していきたい」と考えていることがわかります。

また、異動についても、「専門領域にこだわらず異なる領域への異動を希望する」と回答した人は20%と少ない一方で、「専門領域は維持しつつ、周辺領域への異動であれば受け入れられる」と回答した人が60%となっています。

このことは、多くのキャリア入社者が、専門性を軸にキャリアを発展させたいと考えつつも、その領域の中で経験を広げていくための異動には前向きであることを示しています。

上司や人事としては、キャリア入社者が自身の専門性を今後どのように高めたり広げたりしていきたいと考えているのか、また今後の異動についてどのように考えているのかに丁寧に耳を傾けることが重要です。

その上で、考えられる複数のキャリアパスを本人に示しながら、今後のキャリアについて共に考えていく姿勢が求められます。

また入社3年目に差し掛かる前後の時期に、会社として、キャリア入社者を対象にした「キャリア研修」を実施するのも有効な支援策です。こうした施策や関わりは、キャリア入社者の会社や組織に対する信頼を高めるとともに、定着意向の向上にもつながると考えられます。

以上、今回はキャリア入社者の組織適応の最終段階である「自分らしさを生かしながら会社文化に適応していくプロセス」と、この時期に重要となる上司や周囲によるフォローについてご紹介しました。

最後に

本連載ではこれまで全5回にわたり、一般にはあまりよく理解されていないキャリア入社者特有の組織適応上の課題や心理の状態、また上司・人事や周囲がどの時期に、どのような視点でフォロー・支援を行うとよいのかについて解説してきました。

本稿が、キャリア入社者のオンボーディングや組織適応、育成支援に携わる皆さまの取り組みの一助となれば幸いです。

実は6割が「出世はしたい」450名調査から紐解く、新卒世代を惹きつけるためのマネジメントと採用戦略とは

近年の新卒採用市場や若手育成の現場において、

  • 若手は管理職になりたがらない
  • 責任あるポジションを避ける

という言葉を耳にする機会が増えました。

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が流行し、世間ではプライベートを最優先する姿勢が強調される中で、企業側は「どのように若手の意欲を引き出せばいいのか」という課題に頭を悩ませています。

しかし、その「定説」は本当に正しいのでしょうか?

株式会社ベースミーが24〜27卒の学生450名を対象に実施した「出世欲と理想のマネジメント」に関する調査からは、これまでのイメージを覆す「新卒世代のリアルな上昇志向」が見えてきました。

本記事では、最新の調査データをもとに、Z世代・新卒世代のキャリア観を深掘りし、彼らのエンゲージメントを高めるためのマネジメントと採用戦略のアップデートについて解説します。

執筆者勝見 仁泰株式会社ベースミー 代表取締役CEO/Z世代キャリアラボ 所長

ここに人物紹介文が入ります。幼少期より実家の八百屋での手伝いの経験から「商売や働くこと」「ものづくり」に関心を持つ。大学1年次よりインターネットに没頭し、文科省日本代表プログラム「トビタテ留学Japan」に選出され、ドイツにてAI領域で学生起業に挑戦するが事業撤退。その後、複数のIT企業でのインターンを経験し、米国と日本での就活の原体験から、2020年11月にCTOの大橋とアレスグッド(現:株式会社ベースミー)を在学中に共同創業。Forbes 30 UNDER 30 Asia 2024(世界を変える30歳未満のアジア人)ビジネス部門にて選出。Z世代のインサイト及び就活生の悩みや課題感をインタビューを通じて分析、蓄積してきた情報を元に、2026年「Z世代キャリアラボ」を立ち上げ。勝見自身もZ世代。

「管理職離れ」は誤解?6割が持つ「出世意欲」の正体

売り手市場が続く新卒採用において、内定辞退や早期離職を防ぐためには、彼らの深層心理にある「キャリア観」を正しく理解することが不可欠です。一般的に「若手は出世を望まない」「管理職になりたくない」と判断される傾向が高いですが、今回の調査結果はその認識を覆す意外なものでした。

「出世したい」層は過半数を超える

調査によると、「働く会社で出世したいですか?」という問いに対し、「したい」「ある程度はしたい」と回答した学生は合わせて約6割に達しました。

「出世について考えたことがない」層を除けば、明確に「したくない」と答えた層は少数派です。この結果は、Z世代が決して「成長や昇進に無関心」なわけではなく、むしろ「健全な野心」を持っていることを示唆しています。

彼らが「出世」に求めるもの:給与と裁量権

では、彼らはなぜ出世を望むのでしょうか。

彼らの動機として最も多かったのは「給与や待遇を上げたい」という回答でした。これは世代を問わず普遍的な欲求と言えます。

しかし、注目すべきは2番目に多かった「裁量を持って仕事をしたい」という回答です。彼らにとっての出世とは、単に地位や名誉を得ることではありません。「自分の意思で仕事をコントロールできる状態」や「自己実現」を手に入れるための手段として、ポジションを求めているのです。

また、「転職や独立の際に役立ちそう」という回答も一定数見られ、終身雇用を前提とせず、自身の市場価値を高めるためのステップとして出世を捉えているドライかつ戦略的な視点も浮き彫りになりました。

「出世したくない」層が抱えるリアルな不安

一方で、出世を望まない層は何を懸念しているのでしょうか。

トップは「プライベートの時間を大切にしたい」でした。次いで「責任を負いたくない」という回答が続きます。

ここで重要なのは、彼らが「仕事が嫌い」なわけではないという点です。「管理職=長時間労働・過度なプレッシャー」という旧来のイメージが、心理的なハードルとなっている可能性があります。

企業側には、一律に「管理職」を目指させるキャリアパスだけでなく、「専門職としてのスペシャリスト」や「ワークライフバランスを保ちながら貢献する」といった、多様で柔軟なキャリアステップを提示することが求められています。

彼らが求める「理想のマネジメント」:キーワードは“成長の伴走”

採用後の定着・活躍において、上司のマネジメントスタイルは極めて重要な要素です。調査結果から見えてきたZ世代が求める「理想の育成」には、明確な特徴がありました。

「褒め」と「フィードバック」の両立

「どのようなマネジメントを受けたいか」という問いに対し、「良い点・改善点を具体的にフィードバックしてほしい」と「褒めて育ててほしい」が拮抗する結果となりました。

「Z世代は打たれ弱いから、とにかく褒めればいい」というのは短絡的な解釈です。彼らは承認欲求を満たしてほしい一方で、「自分の市場価値を高めたい」「成長したい」という強い意欲を持っています。

そのため、「なぜ良かったのか」「次はどうすればより良くなるのか」という、成長のための具体的なフィードバックを強く求めているのです。キーワードは「成長への伴走」「心理的安全性」の両立と言えるでしょう。

理想の上司像:属性よりも「関係性」

「理想の上司」に関する調査では、「年齢に関わらず、仕事の実力がある人」や「年齢が近い・話しやすい」が支持されました。

しかし、特筆すべきは「特に気にしない」という層の多さです。これは、彼らが年齢や性別、社歴といった「属性」で上司を判断しているのではなく、「個としての実力」や「自分との関係性(話しやすさ、信頼感)」を重視するフラットな視点を持っていることを示しています。

特に「出世意欲が高い層」ほど、上司との「フランクな関係」を求める傾向が強いことも判明しました。上昇志向のある学生は、上司を「管理する人」というよりは、「成長を加速させてくれるパートナー」として捉えていることを示唆しています。

採用・育成における「ミスマッチ防止」と「意欲醸成」の鍵

ここまで見てきたように、新卒世代は「出世意欲」も「成長意欲」も持っています。しかし、なぜ入社後に「入社後ギャップによるエンゲージメント低下」や「早期離職」が起きてしまうのでしょうか。

その原因の一つは、入り口時点での「スキル偏重の選考」と「価値観マッチングの欠如」にあります。つまり、「スキルマッチ」だけでは見落としてしまう優秀な人材がいるということです。

「何をやってきたか(What)」だけでなく、「なぜ、どのように取り組んだか(Why/How)」というプロセスや価値観に企業が寄り添うことで、学生は「評価される場」ではなく「理解される場」として選考に臨むことができます。

この「心理的安全性」が、入社後の高いエンゲージメントの土台となるのです。

新卒世代を惹きつけるための「マネジメント・採用戦略」のアップデート

最後に、今回の調査結果を踏まえ、企業が明日から取り組める具体的なアクションを提案します。

① 採用:「多様なキャリアパス」の提示

求人サイトや説明会で、「幹部候補」としての訴求をすることに加えて、「専門性を極める道」や「プライベートと両立しながら長く働く道」など、複数の選択肢があることを示しましょう。

これにより、「責任を負いたくない」層の心理的ハードルを下げつつ、「裁量権」を求める層には将来のチャンスをアピールできます。

② 育成:「具体的」かつ「ポジティブ」なフィードバックの習慣化

マネージャー層に対し、「フィードバック研修」を実施することをお勧めいたします。

単に「よかったよ」「頑張ったね」で終わらせず、「〇〇という行動が、チームの××という成果に繋がった。次は△△に挑戦すると、より君の強みが活きる」といった、「承認+成長示唆」の型を身につけることが重要です。

③ 組織:「ナナメの関係」や「メンター制度」の活用

「年齢が近い・話しやすい」先輩社員との接点を増やすことも有効であると考えられます。

直属の上司には言いにくい悩みも、少し年上の先輩(5〜10歳差の“程よい距離感”の先輩)になら相談できるケースは多々あります。

公式なメンター制度だけでなく、社内座談会やランチ会などを通じて、フラットに話せる場を設計しましょう。

Z世代は「出世」したくないのではなく「納得」したい

「最近の若者は……」と否定的な見方をする前に、まずはZ世代の変化に注目してみませんか。彼らは、意味のない苦労や理不尽な責任は拒絶しやすい傾向にありますが、「自分の成長に繋がる」「納得感のある」挑戦であれば、意欲的に取り組む準備ができています。

6割が「出世したい」と考えているこの事実を、企業はどう活かすか。それは、Z世代を新卒採用者という「枠」に当てはめることよりも、彼らの「意欲」の根幹を理解し、伴走するパートナーとして迎え入れられるかどうかにかかっています。

「不安を放置しない定着支援」“寄り添い”と“自立”を両立させる人事設計|プレシャスパートナーズ矢野

第4回では「オンボーディングとつながりの関係性設計」をテーマに、社員と会社、そして仲間同士の“つながり”が人材定着を支えるという内容をお伝えしました。

しかし、制度がどれほど整っていても、長く働くなかで社員の心には不安や迷いが生まれる瞬間があります。

一見、普段通り働き元気に見える社員の中にも、孤独感や焦りを抱えながら日々を過ごしているケースは少なくありません。

定着を支えるうえで必要なのは単なる”メンタルケア”ではなく、社員が自身を理解し、状況を客観的に捉え、自ら一歩を踏み出せるよう導くための“仕組み”を整えることが重要です。

今回は、プレシャスパートナーズが実際に行っている取り組みを例に、「不安を抱える社員をどのようにサポートするのか」についてお伝えします。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

社員が抱える“不安”とは

社員の不安は、キャリアステージや役職によって多岐にわたります。

  • 上司や同僚との人間関係の悩み
  • キャリアの先行きが見えない
  • 成長実感が得られない
  • 評価に納得できない
  • 成果が正当に認められていないと感じる

ここには挙げきれないほど、社員の数だけ悩みがあります。また、不安は表情や言動の奥に隠れることも多く、「がんばっているように見える人ほど悩みを抱えている」ことも珍しくありません。

こうした不安を放置すると

  • モチベーションの低下による業績悪化
  • エンゲージメント低下からの転職検討

といった重大なリスクにつながります。

ただし、寄り添うだけでは不安は解消しません。不安には必ず原因があり、人間関係・業務過多・私生活の変化など背景を特定し、社員自身が自分の状態を客観視できるようにすることが、定着支援の第一歩となります。

不安を見逃さない仕組みづくり

不安を放置せず原因を掴むために必要なのは、「上司や人事が変化に気づくこと」ではなく、「気づける仕組み」をつくることです。

プレシャスパートナーズでは、“気づきは環境任せ”ではなく、“仕組みで感情の変化を捉える”ことを目指し、以下の3つを実践しています。

①パルスサーベイ

社員の気持ちや職場環境を定量的に把握するための仕組みです。業務満足度・負荷・コミュニケーションなどを定期的に測定し、小さな不安や変化を早期にキャッチします。

アンケート結果は「フォローのタイミング」として活用し、数値に変化がみられた社員には人事面談を設定。「なぜそう感じたのか」「どんなサポートが必要か」を対話で深掘りし、不安の放置を防ぎます。

さらに、社員自身が結果推移を確認できるようにすることで、セルフマネジメント力の向上にもつながります。

②人事面談

社員の価値観やキャリア意向と、会社の方向性や期待とのギャップを可視化し、早い段階で調整するための仕組みです。

中立的な立場である人事が面談を行うことで、上司には話しづらい本音を引き出し、必要な支援へとつなげていきます。主な対象者は以下のとおりです。

入社半年以内の社員

会社や文化に慣れるため、毎月定期的にフォローを実施。

人事がフォローが必要と判断した社員

若手は環境変化で不安を抱きやすいため、こちらから積極的に声をかける。

希望者

パルスサーベイや社内チャットから気軽に申し込める仕組みが有効。ランチ面談などカジュアルな場も有効です。

③1on1

上司と部下が定期的に1対1で行う対話の場です。業務指示ではなく、成長・キャリア・心理状態にフォーカスし、継続的に行うことで本音を話しやすい関係が育まれます。

ポイントは「どれだけ耳を傾けるか」。注意や指摘よりも信頼関係を深め、本人の言葉を引き出すことが重要です。

実際のテーマ例
  • 仕事でうまくいっていること/悩んでいること
  • チームの人間関係・働きやすさ
  • 今後のキャリアや挑戦したいこと
  • 不安や負荷の有無
  • 評価への納得感や改善したいポイント

1on1は「上司が答えを出す場」ではなく、社員が気持ちを整理し、自ら次の行動を決める場にすることが重要です。プレシャスパートナーズでは、この取り組みにより、離職率を削減することができました。

単に面談などの施策を導入するのではなく、「何のために実施するのか」という目的を明確にし、全社員がその意図を理解した上で運用を続けることで、早期離職の防止やモチベーションの向上につながってきました。

そして「不安を見逃さない仕組み」から、「社員が自ら成長へと動ける環境づくり」へと発展していきます。

定量データを“フォローのタイミング設計”に活かす

パルスサーベイ・人事面談・1on1は、実施自体が目的ではありません。得られた情報を可視化し、アクションにつなげることで初めて機能します。

▼仕組み化する流れの一例
①パルスサーベイの定期実施 スコアが低下・急落した場合は、人事面談を即設定。
②人事面談での早期フォロー ヒアリング内容を人事内で共有し、必要に応じて上司とも連携。
※ただし、社員から共有範囲を限定してほしいと言われた内容は配慮する。

感情という抽象的な要素を、定量的な“気づき”と具体的な“アクション”に変換することで、属人的ではない再現性のある定着支援が可能になります。

“寄り添いすぎない支援”が自立を生む

サポートの際に注意すべきは、寄り添いすぎて依存状態をつくらないことです。過剰な支援は「何かあれば助けてもらえる」という意識を生み、主体性を奪うリスクがあります。

活躍する人材とは、「自ら課題を見つけ、周囲を巻き込みながら解決に向かう人」。そのため、人事や上司は“答えを与える立場”ではなく、社員が自分の答えを導く支援者であるべきです。

面談や1on1は、悩みを解消してあげる場ではなく、社員が状況を整理し、次の行動を自ら決める場であることがポイントです。これにより、“守られる社員”から“挑戦する社員”へと意識が変化し、組織の活力と定着率の向上につながります。

まとめ

人事面談、1on1、パルスサーベイといった施策は、単なる制度ではなく、社員の不安や心理変化を捉える「組織のセンサー」です。これらを定量的に把握し連動させることで、不安を放置しないマネジメントが実現します。

社員が自分を理解し、客観視し、自ら行動できるようにすること。その力を育むことが、結果的に辞めない・育つ・活躍する人材を生み出す最も強い定着支援となります。

離職率を改善した介護業界の働き方改革|なんじょう苑グループ 新垣

HR NOTEの読者のみなさん、こんにちは。

沖縄で老人ホーム運営とデイサービスを提供している、なんじょう苑グループ代表の新垣です。

執筆者新垣 憲良株式会社日南 代表取締役社長

沖縄県南城市に本社を構え介護事業を運営。異業種でのビジネス経験を経て家業を承継し、2014年に本格的に介護事業へ参入。住宅型有料老人ホーム「なんじょう苑」を中心に、訪問介護・訪問看護・デイサービスなど地域密着型の複合介護サービスを展開。「介護を誇れる仕事にする」をビジョンに、業界平均を上回る処遇改善やキャリア設計の仕組みづくりに注力。現場と経営の両視点を持ち、PDCAと数値管理による再現性ある組織運営を実践。現在はM&Aや新規事業にも積極的に取り組み、沖縄から介護業界の価値向上を目指す。

介護業界における人材確保の難しさは、多くの事業者が抱える共通の課題かと思います。不人気業界と言われ、かつ求人倍率も4倍という厳しい環境の中、私たちも試行錯誤を重ねながら、離職率の改善と採用力の強化に取り組んできています。

今回は、なんじょう苑グループが取り組んでいる具体的な施策や、それがどのような成果に結びついたのか、お話ができればと思います。

なんじょう苑グループが抱えていた課題

2014年になんじょう苑グループを立ち上げてから数年は、私たちも例外なく高い離職率に悩まされていました。正直に申し上げると、直近3年のデータでは離職率は10%〜15%となっていますが、さらに以前はこの数値よりももっと深刻な状況でした。

離職率が30%を超えることも珍しくなく、採用活動も思うように進まない日々が続いていました。その結果として、現場のスタッフが疲弊していき、入居者の方々にも質の高いサービスをお届けできないという悪循環に陥っていました。

「介護を誇れる仕事にする」というビジョンを掲げて事業をスタートしたにも関わらず、そのような状態に陥り、「さすがにこのままでいけない。抜本的な改革が必要だ」と、思い立ちました。

その原因を探っていくと、いくつかの構造的な問題が見えてきました。ワンオペ夜勤による職員の負担、子育て世代の定着、給与水準、そして人間関係のストレスなど…。こういった要因が複雑に絡み合い、悪循環を生んでいたのです。

そして、これらの課題に一つひとつ向き合い、改善を重ねた結果、現在では離職率が大幅に改善でき、介護業界の厳しい採用環境の中でも安定的に人材を確保できる組織へと変わることができました。

ここからは、具体的に何をしたのかご紹介していければと思います。

改善のために実践した4つの施策

施策1 ワンオペ夜勤体制の見直し

当時は看護サービスはまだ展開しておらず、介護サービスのみを提供していました。そういった背景の中、ワンオペ夜勤は現場スタッフにとって大きなストレス要因でした。

というのも、夜に一人で何十人もの入居者を見守る責任の重さ、何かあったらどうしようという心理的プレッシャー。さらには確実な休憩時間すら取れないという現実があり、職員からは「精神的につらい」「しっかりとした休憩が取れない」という声が絶えず寄せられていました。

そこに対して複数名体制への転換を模索していくのですが、経営判断として簡単ではありませんでした。介護報酬と施設コストだけでは、複数夜勤の人件費をまかなうことが困難だったからです。

転機となったのは、入居相談において医療的ケアが必要な方々が増えてきて、看護サービスを提供するようになったことです。幸運にも、パートさんの中に看護師をやっていた方がいて、このニーズに応えるため、その方を中心に看護のサービスを立ち上げていったんです。

新規採用を進めていき、看護職の体制を強化して、徐々に入居者向けにも看護サービスを提供できるようになっていきました。その結果として、介護報酬だけでなく医療保険報酬を得られるようになり、看護職の方も夜間に配置できる体制を整備できるようになったのです。

これにより、結果として介護職員・看護職員の複数による夜勤体制が構築できるようになりました。現在は施設ごとに3〜4名の夜勤体制を敷いています。医療的ケアの必要度が高い施設では看護師を含む4名、それ以外の場合は3名という配置です。

複数体制になったことで、職場環境は劇的に改善しました。決められた時間に確実に休憩が取れるようになり、介護職員は判断に迷ったときに看護師へ相談できるようになりました。看護師側も介護職員に指示を出して分担することで、効率的なケアが実現しています。

重度の方々のケアは一定の緊張感を伴いますが、複数人いることで相談し合える安心感があります。そして何より、入居者の方にしっかりと寄り添えることが、スタッフ一人ひとりの自信とやりがいにつながっています。

施策2 子育て世代の定着

介護・看護の現場は、もともと女性が多い職場で、子育て世代のスタッフも多く在籍しています。そのため、急な子どもの発熱や学校行事など、予定外の休みが発生することは避けられません。

しかし、急な休み・早退をする際に人員に余剰がなかったために、気軽に言い出しにくい空気感があったのです。

この状況に対し、「これからの時代に必要な組織のあり方」を考えて、シフト体制を直すことにしました。これまでは、組織全体の人員設計として、ギリギリの人員体制での運営・採用をしていたのですが、そこに対して人的リソースに余剰がでるくらいの組織設計に変えました。

人材が一時的に過剰になり、ダブつくこともありますが、これは必要経費として受け入れています。その分のリソースは、訪問介護の件数を増やすなど、柔軟にサービスを調整することで対応しています。

今では急な欠勤が出た場合は、LINEグループで呼びかけを行っていますが、「お互い様精神」があるのか、すんなりと穴を埋めてくれるスタッフが名乗り出てくれます。以前は私を含めた管理者であるメンバーが、休日返上で出勤することも少なくありませんでしたが、今では誰かしらが対応してくれる体制が整いました。

最も大きな変化は、先述したように、職場に「お互い様」の雰囲気が醸成されたことです。

自分が急に休んだときに誰かが入ってくれた経験があるからこそ、他のスタッフが困っているときには自然と手を差し伸べる。そんな文化が育っています。産休・育休を取得する職員も多いのですが、この体制があるから、みんな職場に復帰してくれています。

「急な対応でもみんなが協力してくれる」「以前よりも休みを取りやすくなって助かっている」という感謝の声を、日常的に聞くようになりました。さらに、採用の募集要項に「子育て世代歓迎」「急な変更OK」と明記したのですが、これにより応募数が確実に増えました。

施策3 業界水準10%の給与アップの実現

創業当初、私たちの収入源はデイサービスがほとんどでした。この状態では、どう頑張っても給与を大幅に上げることは困難でした。

しかし、私は当初から「社員がしっかり稼げないと意味がない」と考えていました。「稼ぐ」ためには、提供サービスの幅を広げることと、介護報酬をあげることが重要です。

介護報酬は国が定める仕組みで、介護保険には「要介護1〜5」と区分があるのですが、それに応じて報酬が変わっていきます。箱型ビジネスだけでは収入の限界が見えています。この構造を変えるために、訪問介護・訪問看護へと事業を広げ、さらに重度の方々を積極的に受け入れる方針を固めました。

というのも、私たちの地域では、医療的ケアが必要な方々のニーズが増えていましたが、対応できる施設や事業所が不足していました。そこで私たちは、この課題の解決に対して、正面から取り組むことを決意したのです。

自社の有料老人ホームで訪問看護・訪問介護を提供することで、一定の効率化を実現でき、重度の方々へのケアは基本報酬が高く、それに処遇改善加算が上乗せされることで、配分できる給与総額も増えていきます。結果として、沖縄県平均より10%以上高い給与水準を実現することができました。

採用活動においても、「周りと比べて給与が高い」ことは明確な強みになっています。応募者からも、その点を評価する声が必ず挙がります。

また、スタッフの意識にも変化が生まれました。他社が断るような重度の入居者であっても、「収入に直結する」という理解があるため、前向きに受け入れる姿勢が定着しています。

負担が大きいことは事実ですが、みな誇りを持って仕事に取り組んでくれています。最初から給与アップありきではなく、社会的課題を解決していく決意をしたからこそ実現できた。私はそう確信しています。

施策4 2名の出戻り社員が生まれるくらいの雰囲気のよい職場づくり

私たちの組織は、比較的若い世代が多いという特徴があります。無資格から働き始め、長く続けている職員も多数います。その背景には、組織カルチャーとして話しやすい雰囲気があり、相談もしやすい環境があるからだと感じています。

もちろん、人間関係の問題がゼロではありません。介護の仕事は人とのコミュニケーションが中心ですから、摩擦が生じることもあります。しかし、2名の出戻り社員が生まれたのは、「やっぱりなんじょう苑での人間関係が一番良かった」という理由からでした。

なぜそのような組織ができたのか。正直に言えば、気づいたらそのような雰囲気ができていた、という部分もあります。ただそんな中でもいくつかポイントをあげると、中間管理職の育成には、特に気を配っています。退職理由の多くは、直属の上司との関係性に起因するからです。

そのため、部下に対して上から目線で物を言うタイプの管理職は、私たちの組織には合いませんし、登用しないようにしています。また、各管理職と毎週ミーティングを実施しており、現場の状況を常に把握するようにしています。問題が深刻化する前に、私が直接現場に入って話を聞くこともあります。

中間管理職には「まずあなたが話してみて、難しければ私が対応する」という安心感を持ってもらえるよう心がけています。採用においても、極端にネガティブな印象の方は避ける傾向がありますし、カルチャーフィットを重視しています。

ただし、人手不足の際には、どうしても「ひょっとしたら合わないかもしれない」と感じた方を採用することもあります。でも不思議なことに、そういった方々も、私たちの職場文化に触れるうちに変わっていくケースが多いのです。

私も含め、上位レイヤーの職員から気持ちの良い対応を意識していくことで、それが組織全体にプラスの影響を与えているかもしれません。

さいごに

介護業界では小規模経営が多く、経営的に余裕のある事業者は決して多くありません。しかし、一定の規模がなければ脱属人化は実現できないと考えています。

私たちは、M&Aや新規開業を含め、計画的に規模を拡大していく方針です。その過程で、成長意欲のある社員をどんどん昇格させ、権限移譲していきます。今年からは、リーダー候補者を対象とした定期的な研修もスタートさせました。

また、上記に加えて理念経営も徹底したいと考えています。一般社員は理念を完全に理解していなくても構いませんが、リーダーになる人材には、何のために会社が存在し、どこを目指しているのか、そのために何が必要なのかを腹落ちしてほしい。同じマインドを持つリーダーが各現場で意思決定をすることで、組織全体の成長が加速すると信じています。

顧客に対しては、退院後の在宅ケアが困難な方々を中心にサービスを提供し続けます。他社が断るような重度の方々にこそ、私たちの価値を発揮できる場があります。

そして最終的には、沖縄県内でナンバーワンに選ばれる施設を目指しています。それは単に規模や売上の話ではありません。「入居するならなんじょう苑」「働くならなんじょう苑」「報酬もなんじょう苑が一番」──すべての面で一番に思い浮かべてもらえるブランドになることが、私たちの目標です。

介護業界の人材不足は、一朝一夕には解決しません。しかし、一つひとつの課題に真摯に向き合い、現場の声に耳を傾けながら改善を続ければ、必ず道は開けます。私たちの取り組みが、同じ課題に悩む全国の介護事業者の皆様にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

女性の健康経営に男性社員や年配層を巻き込むには?―共感とデータで職場に「理解文化」を育てる―

働く女性の約8割が、生理やPMS、更年期といったホルモン変動による不調を経験しています。これらの不調は、欠勤や早退、集中力の低下といった形で業務に影響を及ぼし、社会全体では年間約4,911億円の労働損失が生じていると推計されています。

にもかかわらず、職場では今なお、女性特有のことだから」「デリケートな話題だからといった理由から、十分な共通理解が進みにくい現実があります。実は、女性の健康課題を職場に根づかせるうえで鍵を握るのは、女性社員だけではありません。

男性社員、管理職、そして年配層の社員をどう巻き込めるか。ここに、施策が形骸化するか、文化として定着するかの分かれ道があります。本稿では、組織全体で理解を広げるためのアプローチに焦点を当てます。

数字で納得する層、専門家の言葉を重視する層、体感によって共感する層ーーそれぞれに響く方法を使い分けることで、企業文化そのものを変えていく視点をお伝えします。

寄稿者坂梨 亜里咲mederi株式会社 代表取締役

明治大学卒業後、大手ファッション通販サイト及びECコンサルティング会社にてマーケティング及びECオペレーションを担当。2014年より女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの不妊治療経験からmederi株式会社を起業。オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」、企業向け健康支援・福利厚生サービス「mederi for biz(メデリフォービズ)」を展開。

男性社員には「数字とデータ」で伝える

女性の健康課題を職場で共有する際、まず意識したいのは伝え方の設計です。

男性社員や管理職に対して、「つらさ」や「配慮の必要性」だけを伝えても、理解が十分に深まらないケースは少なくありません。それは決して無関心だからではなく、多くのビジネスパーソンが、事実や構造、再現性のある情報をもとに判断する経験を重ねてきたためです。

そのため、生理やPMSといったテーマも、感情論としてではなく、経営や組織運営の文脈で整理して提示することが重要になります。たとえば、経済産業省の試算によれば、生理・PMSに関連する労働損失は年間約4,911億円にのぼります。

注目すべき点は、その多くが欠勤ではなく、「出勤しているが本来の力を発揮できていない状態」 いわゆるプレゼンティーズムによるものであるという点です。

この事実を共有したとき、 「個人の体調の問題」から 「組織全体の生産性や持続性に関わるテーマ」へと、 認識が切り替わる管理職は少なくありません。

研修や社内説明の場では、たとえば次のような視点が有効です。

  • 生理・PMSによる生産性損失に関するデータ
  • 欠勤率・離職率との関連性
  • 健康投資とROIの考え方
  • 海外企業におけるフェムテック導入事例

数字は、共感を否定するものでも、置き換えるものでもありません。「なぜ今、企業として向き合う必要があるのか」を理解するための入口です。

その理由が共有されることで、性別を問わず、多くの社員がこのテーマを自分ごととして捉え、建設的な議論に参加できるようになります。

年配層には「医師の言葉」と医学的根拠を届ける

一方で、年配社員やベテラン層に対しては、数字だけでは届かないケースもあります。

「自分たちの時代は、そんな話を職場でしなかった」
「女性も我慢して働いていた」

こうした価値観は、決して悪意から生まれたものではありません。当時の社会環境や教育背景によって形成されたものです。

その“世代の壁”を越えるうえで効果的なのが、産婦人科医など専門家による勉強会です。社内の誰かが説明するのではなく、第三者である医師が医学的事実として語ることで、受け止め方が大きく変わります。

  • PMSは気の持ちようではなく、医学的症状であること
  • 症状には大きな個人差があること
  • 更年期も治療や支援によってパフォーマンスを維持できること

こうした知識が共有されることで、認識は「配慮」から「理解」へ 「我慢」から「支援」へと静かに更新されていきます。

ブロックタイトル

勉強会後に職場での対応ポイント」「管理職向けチェックリスト」「相談フローなどを配布することで、「聞いて終わり」にしない仕組みづくりも重要です。

“生理痛のつらさを体験”するワークショップ

理解のアプローチとして最後にご紹介するのは、体感による共感です。近年、多くの企業で取り入れられはじめたのが、生理痛体験を含む体験型ワークショップです。

たとえば、

  • 生理痛体験装置(低周波刺激など)を用い、専門スタッフの管理下で腹部に違和感を与えた状態で業務を行う
  • 痛みや不快感がある状態で、判断力や集中力を要するタスクに取り組む

といった疑似体験を通じて、 「もし自分が毎月この状態で働いていたらどう感じるか」を、頭ではなく身体で理解してもらうというものです。

なお、安全面への配慮は最優先事項です。体験は必ず専門スタッフ立ち会いのもと、事前説明と同意を得たうえで実施し、刺激の強さは個人の体調や希望に応じて調整します。途中での中断や不参加も自由とし、無理のない形で行いましょう。

ここで重要なのは、不調や痛みを抱えたままでも、「周囲に理解されないまま」「普段と同じ成果を求められながら」働くことの難しさを実感することです。

こうした生理痛体験を含むワークショップの実施後には、

「部下への声かけが自然に増えた」
「体調相談を受け止める心理的ハードルが下がった」
「管理職の対応が変わった」

といった具体的な行動変化が見られるようです。

おわりに

数字で理解し、専門家の言葉で納得し、体験を通じて共感する。 この三つのアプローチを段階的かつ適切に組み合わせていくことが、職場の空気を変え、人の無意識の前提を揺さぶり、行動そのものを変えていくでしょう。 

本稿で紹介したような取り組みを、より体系的に、より実践的に知りたい方には、拙著『女性に選ばれる会社の新・健康経営 ― 職場改革は生理・PMSケアから始めよう』(合同フォレスト刊)にて、制度設計の考え方から現場への浸透ポイントまでをまとめています。

何かあったら配慮する職場ではなく、何かが起こりうることを前提に設計された職場へ。 その一歩が、日本の生産性と女性の人生を同時に変えていくと、私は確信しています。 

バックオフィス人材が、今すぐBPaaS業界に飛び込むべき4つの理由

株式会社kubellパートナー 執行役員CAOの角田(@takeshisumida_)と申します。

執筆者角田 剛史株式会社kubellパートナー 執行役員CAO

ソニー、DeNA、ベンチャー企業のコーポレート・経営企画・新規事業の各責任者を経て、2023年kubell入社。グループ会社3社のコーポレート責任者を歴任、現在はBPaaS事業を推進するkubellパートナーにて、執行役員CAOとして経営企画・コーポレート・ピープル領域を横断的に統括する。 多様な組織での知見を活かし、1000名超の経営企画コミュニティ管理人、PIVOT『職種超分析』出演、宣伝会議の講師など、メディアやイベントを通じた情報発信も積極的に行っている。
X: @takeshisumida_

私はこれまで、複数企業のカオスな環境に身を置き、組織やオペレーションの型を作ることにこだわってきました。

事業が急成長する裏側で発生するドロドロとした課題と向き合い、それを整理し、誰でも回せる仕組みにする。それは地味で根気が必要な組織の舗装工事のような仕事ですが、組織が次のステージへ進むためには絶対に欠かせないものです。

そのような私が、これまでの経験の全てを掛けて現在全力で取り組んでいるのが、「BPaaS(Business Process as a Service)」。事業です。

BPaaSは、これまで私が自社(1社)のために行ってきた舗装工事を、日本中の企業に広げていくような活動であり、労働力人口が減少し続ける一方なかなか高まっていない日本の生産性を、一気に向上させる可能性も持った事業です。

声を大にして言います。

「バックオフィス、コーポレートに関わってきた人は、今すぐにBPaaS業界に飛び込んだ方がいい」

今回は、その理由を4つの視点からお話しします。

理由1:あなたの作った”型”が、日本の生産性を底上げするインフラになる

日本の労働生産性の低さが指摘されて久しいですが、その大きな要因の一つに「バックオフィス業務の個別最適化」があります。

日本中の何万もの企業が、それぞれバラバラに経理や労務のフローを作り、独自に管理を行っています。本来は同じような業務をしているはずなのに、専門性が不十分なまま手探りでフローを構築し、担当者が変わるたびにリセットされる。これは日本全体で見れば、とてつもない重複投資であり、非効率の極みです。

皆様もいくつかの統計でも目にされたことがあるように、実際に日本の生産性は先進国の中でも高いとは言えず、近年ではその差は広がっていっています。

私がこれまでコーポレート責任者として行ってきた活動も、あくまで「自社(1社)の最適化」でした。しかしBPaaSは、この活動を「社会全体の標準化」へと一気に広げる存在です。

バックオフィス・コーポレート人材の皆様がこれまで自社のために悩み抜き、蓄えてきた知見。数々の苦しい経験を経て形成されてきた業務の”型”。それがBPaaSという事業を通じることで、一社だけでなく、何万社もの生産性を同時に引き上げる「社会インフラ」へと変わるのです。

これは単なるアウトソーシングではありません。ある意味で産業構造の変革です。自分たちの毎日の仕事が、日本のGDPを押し上げるレバーになる。この圧倒的な社会的意義が、1つ目の理由です。

理由2:「DX遅れ」と「人手不足」、2つの課題から中小企業を救う救世主になり得る

2つ目の理由は、日本の会社の99.7%を占める中小企業の現状に関係します。今、日本の中小企業は2つの大きな課題による「二重苦」に直面しており、既存の解決策では限界が来ています。

1. DXの遅れ(デジタル・ディバイド)

世の中には便利なSaaSが溢れていますが、多くの中小企業では使いこなせる人材がおらず、依然として電話やFAXが中心です。「SaaSを導入しても、誰も使えない」のです。

2.深刻な人手不足

少子高齢化により、採用難は極まっています。「経理担当が急に辞めた」「事務員が採れない」。黒字なのにバックオフィスを回す人がおらず、廃業を余儀なくされるケースさえあります。

SaaSだけでは使いこなせない。旧来のBPOは高額すぎて手が出ない。人材紹介を使おうにも、特に地方にはそもそも紹介できる人がいない。

この八方塞がりの状況を打破できる1つの解が、「プロセスごと業務を請け負い、テクノロジーで効率化して提供する」BPaaSであり、その裏側を支えるバックオフィス・コーポレート人材なのです。

知識や人手に課題を抱える企業に対し、単なるツールの提供ではなく、業務プロセスそのものを丸ごと引き取って解決する。これにより、日本の産業基盤である中小企業を守るという、ダイナミックな課題解決に携わることができる、まさに救世主となり得るのです。

理由3:「裏方」から「プロフィットの源泉」へと立場の転換が起こる

3つ目は、キャリアにおける立ち位置の劇的な変化です。

ほとんどの企業においては、コーポレート部門は基本的に「裏方」であり、コストセンターと見なされがちです。いかに優れた業務フローを構築しても、それは「守り」の仕事。事業の主役は営業やマーケティング、プロダクトを作る開発部門であり、バックオフィスはそれを支える縁の下の力持ちという構図が一般的です。

しかし、BPaaSにおいては、そのパワーバランスが完全に逆転します。BPaaS事業にとって、バックオフィス業務のオペレーションそのものが「商品(プロダクト)」です。

いかにミスなく、効率的に、高品質な業務フローを構築できるか。あなたの持つ実務知識、イレギュラーへの対応力、業務設計能力こそが、顧客への提供価値そのものになり、売上と利益を生み出す源泉となります。ここでは、バックオフィス人材こそが「プロフィットセンター」であり、事業をドライブする主役なのです。

そして、その主役には、日本全国どこに住んでいてもなれる可能性があります。BPaaSはオンラインを通じて提供されることが主であり、実際、弊社で提供する業務代行サービス「タクシタ」のオペレーションスタッフ(クルー)も、全国各地に散らばっています。

コスト削減のために効率化するのではなく、事業価値を高めるために業務を磨き込む。このポジティブな立場の転換は、これまでのキャリア観を大きく変える経験になります。

理由4:AI活用のど真ん中に携われる

最後の理由は、テクノロジー、特にAI活用に関するものです。

ここまでの話を聞いて、「BPaaSと言いつつ、結局は人をたくさん雇って気合で回すこれまでのBPO(労働集約型ビジネス)と大きく変わらないのでは?」と感じた方もいるかもしれません。

しかしそれは大きな間違いです。BPaaSが目指しているのは、あくまで人海戦術ではなく、AIを含むテクノロジーをフル活用した、圧倒的なオペレーション効率です。

昨今、生成AIをはじめとする技術革新が著しいですが、AIは単体で存在していても価値を発揮しません。実際の業務プロセスの中に組み込まれ、具体的な課題解決に使われて初めて真価を発揮します。 

しかし、「この経理処理のこの部分はAIに任せられる」「この確認作業は人がやった方が早い」こうした判断は、業務の現場を知り尽くしているバックオフィス・コーポレート人材にしかできません。エンジニアやPdMだけでは、真に現場で使えるAI活用フローは作れないのです。

BPaaS業界に身を置くことは、単に事務作業を請け負うということではありません。「業務オペレーション × AI」の最適な組み合わせを設計し、未来の業務プロセスを発明することと同義です。

AI時代において最も市場価値の高い、AIを使いこなして業務を設計できる人材へと進化できる環境がそこにあるのです。

最後に

型化や仕組み化をすることが好きで、カオスな状況を整えることに喜びを感じるバックオフィス・コーポレート人材の皆さま。 これまで自社の中だけで完結していたそのスキルを、これからは社会全体のために使ってみませんか?

労務、採用、事務、秘書、経理、Web制作など、あなたがこれまで積み上げてきた仕事が社会のインフラになり、中小企業を救い、日本の生産性を変える。そして何より、あなた自身が事業の主役として輝ける場所が、BPaaSにはあります。

「裏方から、事業をドライブする主役へ」、 少しでも共感してくださった方は、ぜひこの新しい潮流に飛び込んできてください。

【”AI×組織変革”の最前線】マックス・プランク矢倉氏の「ヒューマン・デジタルツイン」構想とは

2025年12月8日(月)に株式会社MQue主催で開催された「Future HR × AI Roundtable~生成AI時代における人と組織の未来ビジョン創出会議~」を取材。

本イベントは、生成AIの進展により経営や人材戦略の前提が大きく変化する中、「AIをどう使うか」ではなく「AIとともにいかに組織を進化させるか」を問い直す場として開催されました。研究者の知見を企業の事業・組織へ実装してきたMQueが、学術研究と実務を接続し、AI活用を経営・人事の意思決定にどう生かすかを議論することを目的に、多くの大企業が参加しました。

  • AIが組織・経営にもたらす1.5歩先の未来のイメージが持てること
  • 自社のAI活用における検討すべきテーマ・論点が見えること
  • 自社で推進する上での具体的なヒントが得られること

をゴールに、世界最高峰の学術研究機関と言われるドイツ、マックス・プランク人間開発研究所でAI技術による人間の創造性・可能性の拡張をテーマに研究する矢倉大夢氏や丸紅株式会社の採用リーダーである福永美華氏が登壇し、実際の現場でのAI活用の取り組みや成果についてのお話がありました。

▽株式会社MQueのイベントレポートはこちら

人事の未来は「非定型データ」にあり──マックス・プランク研究者 × 丸紅が語る、AI活用の最前線

Future HR × AI Roundtable イベントレポートを公開

詳しくはこちら

本記事では、イベント内の矢倉氏の登壇についてフォーカスを当て、組織領域における生成AI活用の現在とこれからについて展望します。ぜひ最後までご覧いただけますと幸いです。

登壇者矢倉 大夢独マックス・プランク人間開発研究所 Centers for Humans and Machines 研究員

機械学習とその応用技術の開発を専門としており、これまでにIJCAI(国際人工知能会議)やAAAI(アメリカ人工知能学会)、ACM CHI等の国際会議で多数の論文発表を行っている。史上最年少の中学3年で国の未踏人材発掘・育成プロジェクトに採択され、各種プログラミングコンテストで文部科学大臣賞・経済産業大臣賞等を複数受賞。また、科学技術振興機構 (JST) ACT-X及び新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) NEPの研究代表を務めるほか、Google及びMicrosoftより研究費の提供を受ける。AI技術及びその応用領域における、世界最高峰の学術研究機関、マックスプランク研究所所属。

目次

なぜ大規模AIモデルは人事・組織の未来を変えるのか?

矢倉と申します。私は、現在ドイツにあるマックス・プランク人間開発研究所で、「技術が人にどのような行動変容をもたらすのか」「人間の社会をどう変えるか」といった部分について研究しています。

そのなかでAIの応用技術だったり、それがもたらす社会変化についても研究している、という背景になります。

実は、昔はビジネス側もちょっとやっていまして、大学入学の前後くらいにリーダー育成のスタートアップを立ち上げて、そこでCTOを務めていました。その当時からずっと感じていたのは「やっぱり技術でできることには限界があるな」ということでした。

ちょうど「ピープル・アナリティクス」という言葉が出てきて、データの分析によって人事の改革が進むだろうと言われていた時期だったのですが、いざやってみると「これはなかなか難しい問題だな」と思っていたんです。

データの「質」の壁と、生成AIによる変革

理由はいくつかありますが、大きな理由の1つがデータの「質」の問題です。

これまでの人事データは、数値のアンケートスコアや属性情報くらいしかありませんでした。ですが、実は一番大切なのは、その人が持っている「想い」であったり、組織の中での「文脈」であったりするのではないでしょうか。

そうした非常に重要な部分がデータから抜け落ちてしまっており、その状態のデータでいくら分析しても、なかなか示唆が得られないという状況があったのではないかと考えています。

また、人事データがそれぞれのExcelでバラバラに管理されている、というのもよくある話です。全社で統一して揃っている企業などほとんどなく、その上、過去のデータがどういう経緯で取得されたのかも整理されていません。そうなると、まずは「このデータを取った背景は何だったのか」という確認から始めなければならないわけです。

いわゆる「構造化されたデータ」はあっても、その背景にある「文脈」や「意図」が残っていない。だからこそ、ピープル・アナリティクスで実現できることが、非常に限られていたのです。

人事データ分析後の具体アクションの欠如

しかし、生成AIの登場によって、この領域は今、非常に大きな変化を迎えていると思っています。特にHR Techでできることのポテンシャルが、この2~3年で本当に大きく変わったと感じています。

「構造化データ」と呼ばれるものだけを統計分析していた頃でも、「このあたりの社員の離職率が高いのではないか」といった傾向はある程度わかりました。しかし、こうした分析の多くは、人事担当者にとって「アンケートを実施しなくても、すでに分かっていること」でした。

「何が起きているのか」を把握することはできます。しかし、その裏にある「なぜ起きているのか」「どうすればいいのか」という背景情報が欠けていたわけです。

そのため、分析結果が出たとしても「次にどのような手を打てば良いのか」という具体的なアクションになかなか進むことができない。多くの人事担当者が、AI技術をどのように実務に活かせば良いのか、なかなか手が出せなかったというのが大きな課題でした。

データの蓄積という「高いハードル」

現在ではAI技術が飛躍的に進歩し、「高次元データ」と呼ばれるものを扱えるようになりました。たとえば、履歴書のように表形式でまとまっていないデータや、画像・音声といったデータも分析が可能です。

これにより、面接動画から表情解析を行ったり、膨大な履歴書とジョブディスクリプションをAI技術でマッチングしたりといったことが、技術的に十分活用可能なフェーズに入っています。

日本企業の中でも、こうした一歩進んだ取り組みを始めている企業は、少しずつ増えてきています。しかし、こうした技術を実際に使いこなせる企業が、これまでは限られていたことも事実です。

冒頭でお話ししたように、以前からしっかりとデータを蓄積してきた企業であれば、過去の履歴書とパフォーマンスデータを突き合わせて分析することも比較的スムーズにできると思います。しかし、これまで蓄積がなかった企業の場合、そもそも社内のあちこちに散らばっている履歴書や動画、あるいは音声のデータを、どうやって一箇所に集約すればいいのかさえ分からない、という状況に陥ってしまいます。

さらに高いハードルとなるのが、過去のデータがない状態で今から収集を始めたとしても、「この取り組みの成果が出るのは3年後、あるいは4年後だよね」という話になってしまう。そうなると、「果たして今からそこまでリソースを割いてやるべきなのか」と二の足を踏んでしまい、なかなか前へ進められない状況になりやすいと思います。

「非定型データ」と組織の未来

ここで重要になるのが、「非定型データ」という言葉です。

ここで指しているのは、個人個人の「生の声」や、組織内の「ナラティブ」といったものです。組織の中にある微妙な「文脈」や「意図」をデータとして汲み取れるようになったこと。これこそが、LLM(大規模言語モデル)をはじめとする生成AI時代の大きな変化だと考えています。

生成AIモデルは、組織の文化や文脈に則って、物事の深い部分まで判断できる点を得意としています。その会社の置かれた状況に合わせて解釈し、そこから多様な知識を抽出することができるのです。

言葉の裏にある意味や文脈、さらには意図まで理解しながら、AIエージェントという形で自らデータを取りに行く。あるいは、実際に人と対話しながらデータを集めていく。そこまで可能になったことが、人事担当者の実務に影響するようになった決定的な違いだと思います。

過去のデータ蓄積が十分でなかった企業であっても、これから自動的にデータを蓄積していく仕組みを構築できるようになった。これこそが、今起きている最大の変化です。

実践的なAI活用と「1.5歩先の未来」

では、組織変革におけるAI活用についてどのようなことができるのか。具体的にイメージしやすい部分からアイデアを上げていくことができればと思います。

①AIが「現場の本音」を引き出し可視化する

「非定型データ」を、組織の文脈や文化に合わせて理解できるようになると、経営理念や組織文化の核となる部分が、それぞれの部署のどんな人にまで浸透しているのか、社員一人ひとりがそれをどう解釈し、自身の「生の言葉」でどう捉えているのかといった、深い内面までを知ることができるようになります。

これによって、「組織変革の浸透度」を高い精度で測定できるようになります。 さらに、組織変革を阻害している「ボトルネック」がどこにあるのかを、AIとの対話を通じて引き出せるようにもなります。

具体的には、「この部署の人たちは、理念のこの部分に納得していないようだ」「このミッションに使われている言葉が、現場では全く違う意味に捉えられている」といった、微細なズレや本音がAIとのやり取りから見えてくるのです。現場のリアルな声をAIとの対話から多角的に引き出せるようになることは、これからの組織運営における大きな価値になると感じています。

②AIによる定点観測で「組織の変化」も可視化する

さらに、これを単発の施策で終わらせるのではなく、何度も繰り返していく。1年後、2年後と継続することで、「組織が実際にどう変化しているのか」を同じ仕組みで測り続けられることも重要なポイントだと思います。

人事担当者自らが社員にインタビューを行ったり、現場の感覚として変化を感じ取ったりすることは、これまでも可能でした。しかし、これをAIが同じ形式で対話を行う形にすることで、常に「同じ基準で比較できる状態」を維持したまま、組織の変遷を追うことができるようになります。

属人的な感覚に頼らず、一貫した仕組みで変化を可視化し続けられるのは、これまでの技術や人だけでは実現できなかった、決定的な変化だと思います。

③「個人の成長」もAIが寄り添い可視化する

そして、組織という枠組みだけでなく、一人ひとりの「個人の成長」に対しても、AI技術が寄り添っていく時代が来ると考えています。

「これから成長しそうな社員」を見出そうとする取り組みは、これまでも多くの企業が試行錯誤してきましたが、非常に難易度の高い領域でした。しかし「非定型データ」で組織ならではの言葉選びや特有のアクションをAIが深く理解できるようになれば、この取り組みの実現は容易になります。

組織ごとに求められる能力は当然異なるため、一律の適性検査で測るのではなく、「その組織という文脈の中で、具体的に何を成し遂げたのか」というプロセスを各個人で深掘りしていく。それによって、早い段階で適性を見極めたり、その後の成長の変化を予測したりといった応用が可能になります。

これまで人事の「目利き」に頼っていた抜擢人事を、個人の感覚だけに依存させるのではなく、データに基づいた再現性を持って、社員を確かな成長のトラックに乗せていける。そんな時代が来るのではないかと思っています。

④「採用」や「人材配置」もAIがサポート

採用の領域においても、こうした対話型AI技術が貢献できる部分は非常に大きいと考えています。

たとえば「ジョブディスクリプションを1つ書く」という作業を想像してみてください。作成するのが非常に難しく、手間もかかる作業です。

現場で「本当にどのような人材が必要か」という要件は、なかなか言語化しづらい部分に隠れていることが多いかと思います。これをAIが「非定型データ」から丁寧に引き出し、分解して言語化していくお手伝いをします。

要件が正しく言語化できれば、次は「それにマッチする人は誰か」を選ぶフェーズになります。求職者や社内異動の対象者だけでなく、過去の非定型的な発言なども組み合わせることで、精度の高い分析をAIがおこないます。

ここで重要なのは、単に「一番うまくいきそうなポジション」に人材を当てるだけではないことです。

現時点では少しチャレンジングで、すぐには上手くいかないかもしれない選択肢であっても、本人のキャリアアップのために後押しをする。生成AIを使って、その人ごとに最適化された「キャリアアップのストーリー」を提示する。

このような応用にも繋がっていくのではないかと、私は期待しています。

ヒューマン・デジタルツイン:戦略的な意思決定へ

このように、生成AIによって実現できることは着実に広がっています。ここで、今後のキーワードと考えているのが「デジタルツイン」という言葉です。

「デジタルツイン」は人事領域に限らず、さまざまな分野で使われている概念です。具体的には、まず現実空間のデータをリアルタイムで取得し、そのデータをもとに仮想空間内にもう一つの「現実のコピー(双子)」、つまりバーチャルバージョンを作成します。

そして、その仮想空間でさまざまなシミュレーションを行い、その結果をもとに「現実社会でどう動くべきか」を判断する。このプロセスをループさせることで、意思決定や運用を最適化していく仕組みのことです。

デジタルツインは、現実では試すことが難しい領域や、失敗が許されない領域について、仮想空間で何度でも試行錯誤できる点が特徴です。たとえば「仮想空間で1万回試してこのような結果が出たから大丈夫だ」という確信を持って、最適な打ち手を選べるようになります。

1万回のシミュレーションを行えば、「おそらく上手くいくだろう」といった曖昧な勘ではなく、「1万回のうち9,520回成功したから、成功率は95.2%だ」という具体的な数値が見えてきます。その結果を見て、「残る4.8%のリスクは許容できるか。OKならば実行しよう」といったように、事前にリスクを精緻に把握した上で、明確な意図を持った意思決定ができる。これがデジタルツインの大きな魅力になります。

組織づくりや人員配置の意思決定は非常に不確実性が高く、誰も正解が分からない領域です。これまでは「やってみないと分からないから、まずはやってみよう」と踏み出すしかありませんでした。しかしこれからは、「シミュレーション上はこれくらい上手くいく。この程度のリスクなら許容できるから実行しよう」と、戦略的な判断ができる時代が来ると考えています。

デジタルツインのアイデアに、人間や組織といった「非定型データ」を組み合わせることを、私は「ヒューマン・デジタルツイン」と呼んでいます。この仕組みの中で、人の能力や感情の微細な変化までも予測することができれば、それを踏まえた高度な組織づくりの意思決定が可能になると考えています。

ヒューマン・デジタルツインで実現できる「デザインされた抜擢人事」

 

ここでも重要なのは「非定型データ」を活用することです。組織固有の文脈やナラティブを取得し、「その組織において、その人がどう行動するか」を深く理解できるようになって初めて、この1.5歩先の技術が実現する未来が見えてくると考えています。

個人のパフォーマンスを予測する

これまでデータ不足で予測が困難だった領域、たとえば「新規事業の立ち上げ」におけるパフォーマンスを事前にシミュレーションすることが可能になります。実際に対象者を仮想の環境に置いてみることで、どのように適応し、中長期的にどのようなパフォーマンスを発揮するのかを予測できるのです。

また、性格診断やアンケートだけでは見えてこない、「どういう場面でモチベーションが上がり、どこで下がってしまうのか」といった微細な変化も追うことができます。

組織作りの判断材料が増える

組織再編やチームの再構築において、より戦略的な判断が可能になります。「このチーム編成なら80%はうまくいくが、20%は懸念がある」といった予測や、逆に「成功確率は20%だが、当たれば100倍の爆発力がある」といった振れ幅も含めて、どのようなチーム作りをすべきか検討できるようになります。

さらに、新しい組織理念を導入した際の浸透プロセスも試行できます。「この理念はスムーズに受け入れられるのか」、あるいは「どこで反発が起きる可能性があるのか」といった反応まで事前にシュミレーションし、最適な組織運営のあり方を検討することができると考えています。

非定型データの中にあるナラティブの取得が最も大事!
同じデータを使用し、同じデジタルツインを作った場合、どの企業でも同じ結論が出るだけです。重要なのは非定型データの中にある文脈や意図を各組織がしっかりデータとして取得し、それを踏まえてシミュレーションすること。今からしっかりとデザインして、このヒューマン・デジタルツインの世界に向けて非定型データを貯めていけるかが大きなカギとなります。質の高い組織ごとの非定型データを早くから蓄積できた組織ほど、ヒューマン・デジタルツインが当たり前になった際に、それを経営判断に活かすことができるのです。

日本企業は今、絶好のポジションにいる――「ジョブ型」の先へ

私は今、日本企業は非常に良いポジションにいると考えています。なぜなら、皮肉なことに「ジョブ型雇用への移行に苦戦したから」です。

これまで日本企業にとって、業務内容を厳密に定義して切り出す「ジョブ型」への転換は高いハードルがありました。しかし、AIエージェントが普及する時代においては、むしろその「失敗」があって良かったのではないかと思っています。

なぜなら、明確に定義できる業務ほど、AIで容易に自動化できてしまう時代になったからです。仕事を標準化し、そのすべてをAIに代替させていった先には、その企業独自の価値や「色」が失われてしまうというリスクが待ち受けています。

そんな中で、日本型の「メンバーシップ型雇用」が持つ新しい価値が出てきているのではないかと思います。新卒一括採用や長期雇用が生み出してきた組織文化、あるいは積み重ねられた歴史のように、「言語化されていない非定型的な領域」に実は企業の真の価値が眠っている可能性があります。

AIがもたらすこの地殻変動は、日本企業にとって「千載一遇のチャンス」です。現在はまさに、日本の組織の未来を決める「分水嶺」のタイミングにあると言えるかもしれません。

質疑応答セッション

Q. デジタルツインは、どれくらいのスピードで予測の景色が変わっていくものだと感じていますか?

私の感覚で言うと、3年以内にはしっかり実装された事例が出てくるかなという気がします。サンフランシスコの方々は1年後くらいの感覚でやっていると思いますが。

人や社会の中で「仕事のあり方」が変わること自体は、1年という短いスパンであっても少しずつ広がっていくものかなという風に思っています。

2030年には、組織の捉え方や我々のジョブとAIの関係性も今とは異なるものになっているんじゃないかなと思います。3年のスパンであれば、かなり現実的だなというのが僕の感覚です。

Q. 日本人の国民性やキャリア感はグローバルスタンダードと異なることもあると思います。この特性もAIでモデリングして捉えることは可能でしょうか?

予め全体をデザインをすればできると思います。どのような組織の中で、どのような人が、どのような理由で働いているのかについて、AIによるインタビューやインターネット上に蓄積されている日本全体の文化的なデータなども意図的に入れれば、実現可能です。

しかし、それを単純な効率化の手段としてやってしまうと良い結果は得られないと思います。AIの能力的にはできると思いますが、その使い手の能力や、そこまでをちゃんと理解してモデリングを作れるかに掛かってくるかなという気がします。

Q. これからの人事担当者に必要な考え方やスキル、または、人事をサポートするソリューションはどのようなものがあるか?

今、組織のあり方そのものから問われる時代になっていると思います。

様々な業務が自動化される中で、「この職種がやってきたことはある程度AIができてしまうよね」みたいな話はまあ少なからず出てくると考えた際に、この組織が持っている一番の色(価値)は何かを人というレンズを通して見れるというのは人事担当者のミッションでもあり、得意なところでもあるのかなと思っています。

それを受動的にリアクションで見ていくのではなくて、能動的に「じゃあどういうところが組織の中でAIでやって、どういうところが価値として変わらないんだろう」みたいなところをですね、こういう場を含めていろんな人と共有できる場を作っていくというところが、必要かなという風に思います。

Q. AIが企業の組織文化や組織の意思決定を正してあげることはできるのか?

すごくいいポイントだと思います。当然、パワハラやブラックな環境といった「正さないといけない部分」を客観的な目線で正してあげる技術としては使われるようになると思います。

その上で、組織の意思決定について、私は「これから”正解”を選択すること自体は楽な時代になる」と考えています。AIが推定した「これをやればいい」といった王道の選択がたくさん出てくる時代になるからです。

しかし、その中で「あえて王道を行かない」ことによるその組織文化や歴史が定義されたりもしてくるのではないかという風にも思います。

社会全体としての王道ではありませんが、その組織の文脈からすると正解かもしれない。そういった選択を後押しする部分において、組織のAI活用の1つの方向性が生まれてくるのではないかと思います。

【第4回】適応中期のステップとなる職務への適応~リーダーを任される~

近年多くの企業が共通して直面している現実があります。それは優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまうという課題です。この連載では、キャリア入社者のオンボーディングと組織適応を効果的に支援していくための実践的なポイントをご紹介していきます。

前回の第3回では、リクルートマネジメントソリューションズが行った現場でのインタビューと調査の実施から見えてきた、キャリア入社者が入社した組織に適応していくうえでの最初のステップとなる「職務への適応」についてご紹介しました。第4回となる今回は、キャリア入社者が次に直面する、「適応中期の壁」について詳しくご説明します。

執筆者小澤 一平株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 アナリスト

東京大学大学院経済学研究科修了後、コンサルティング会社を経て、2021年リクルートマネジメントソリューションズ入社。新卒・若手社員やキャリア入社者のオンボーディング、中堅社員のキャリア自律などのテーマで、アナリティクスを活用した顧客向けサービスの研究開発に従事。社外広報担当としての経験も活かし、データと現場を繋ぐインサイト抽出および研究成果の発信にも力を注いでいる。

1. キャリア入社者のリーダー移行期とその時期

キャリア入社者は、前職における豊富な経験を持っているとはいえ、入社してすぐに担当業務におけるリーダーを任されることは少ないのが実態です。入社後初期にはまずはメンバーという役割で担当業務に関わることが多く、既存の業務プロセスや社内の仕組みを理解することから始まります。

もちろん個人や会社による違いはありますが、私たちの調査とインタビューから、多くの人がリーダー的な役割を本格的に任されるようになる時期は、入社しておおよそ半年から2年目頃になることが分かってきました。

図表1より、入社半年以内ではメンバー的な役割を任されている人が61.6%と過半数を超えていますが、入社半年から2年目では、リーダー、もしくはメンバーからリーダーへ過渡期となるサブリーダー的な役割を任されている人が過半数を超え、3年目に近づくほどリーダー的な役割を任されている人の割合が増えてきます。

リーダー的な役割へ移行していく時期は、担当業務への理解が深まり、社内の人間関係もある程度構築され、「そろそろ本格的に力を発揮してほしい」という期待が高まる時期でもあります。

企業側からすると、「経験豊富な人材なのだから、そろそろリーダーとしての役割を担ってもらいたい」という思いが強くなる一方で、キャリア入社者本人にとっては、これまでとは異なる新たな壁に直面する時期となります。

図表2は、キャリア入社者の年次別で、勤続意向、ワーク・エンゲージメント、組織推奨意向別に、組織適応の推移状況です。いずれも、半年から2年目で組織適応の状況が最も低くなっていることが分かります。これは、図表1より前述の、メンバー的な役割からリーダー的な役割へ移行していく時期に、組織適応の状況が下がりやすいことを示しています。

2. リーダーとして「社内を動かす」際に求められること

リーダーとしての業務を任されるようになると、それまでのメンバーとしての業務とは大きく異なる役割が求められるようになります。

具体的には、より広い範囲での社内外関係者との調整、社内における意思決定ボードへの起案を行い、承認を得るなど、自らが中心となって主体的に業務を進めることが必要になります。単に自分の担当業務を遂行だけでなく、プロジェクト全体を俯瞰し、関係部署を巻き込みながら物事を前に進めていく力が求められるのです。

当然、事前に社内の関係者の同意を得たり、場合によっては上位者に根回しを行ったりすることも必要になります。前職で同様の経験があったとしても、その進め方や作法は企業ごとに大きく異なります。「前の会社ではこうだった」という経験則が通用しないことも多く、改めて「この会社ではどう動けばいいのか」を学び直す必要が出てくるのです。

また、リーダーとして求められる判断の範囲も広がります。メンバー時代は上司に相談しながら進められたことも、リーダーになると自ら判断し、その結果に責任を持つことが求められます。この責任の重さと、それを果たすための社内リソースや人脈の不足とのギャップが、キャリア入社者を悩ませる大きな要因となります。

3. 人脈・暗黙知の不足と適応感の底

自ら社内を動かすことが必要になるこの段階において、大きなハンディキャップとなるのは、社内に人脈やネットワークを持っていないことです。

新卒入社者であれば、同期のネットワークや、長年の社内での人間関係の蓄積があります。「あの件は○○さんに相談すればいい」「この部署を動かすには△△さんを通すとスムーズ」といった、業務を円滑に進めるための情報や人的ネットワークが自然と形成されています。

しかし、キャリア入社者にはそうした蓄積がありません。組織図を見ても、誰がキーパーソンなのか、誰に相談すれば物事が進むのかが分かりません。表面的な役職や肩書きだけでは見えない、実質的な影響力を持つ人物や、部署間の力関係といった「見えない組織構造」を理解するには時間がかかります。

さらに、社内の合意を獲得する上で、明文化されていない暗黙のルールや作法を知らないことにも苦労します。

  • 稟議を通すには、事前にこの順番で関係者に説明しておく必要がある
  • この会議で発言する前に、事前に根回しをしておくのが慣例

といった、誰も教えてくれない暗黙のルールが、多くの企業には存在します。

キャリア入社者は「こんな手順を踏む必要があるのか」「なぜこんなに時間がかかるのか」と戸惑いながら、本当の意味で会社文化や組織風土の壁にぶつかります。適応がより求められるようになるこの時期は、本人の適応感が一番底になる時期なのです。

一方で、この時期は周囲から見ると「すっかり会社に馴染んでいる」ように見えることも多い特徴があります。入社から一定期間が経過し、日常的な業務は問題なくこなせるようになっているため、上司や同僚は「もう大丈夫だろう」と思い込んでしまいます。

しかし実際には、本人は見えない壁に悩み、「自分は本当にこの会社で成果を出せるのだろうか」という不安を抱えていることが多くあります。この認識のギャップが、キャリア入社者の早期離職につながる大きな要因の一つとなっています。

4. 適応の困難期における相互認識とフォローの重要性

リーダー的な役割を任されていく段階で、キャリア入社者本人が上記のように適応に困難を感じがちな時期にあることを、本人と職場の相互が認識することが何よりも重要です。

本人にとっては、「リーダーを任されたのに、うまく社内を動かせない」という状況が、自分の能力不足によるものなのか、それとも組織適応のプロセスとして一般的に起こりうることなのかが分からず、不安を抱えがちです。この時期に困難を感じることは、キャリア入社者の適応プロセスにおいて自然なことであり、誰もが通る道であることを理解することで、本人の心理的な負担は大きく軽減されます。

一方で、受け入れ側の職場も、「入社から半年~2年目頃にリーダー的役割を任せ始める時期が、実は最も適応に苦しむ時期である」という認識を持つことが重要です。表面的には馴染んでいるように見えても、実際には人脈不足や暗黙知の欠如に悩んでいたり、リーダーとしての自分の役割や責任範囲が曖昧で不明瞭であることに困惑していたりする可能性があることを理解し、積極的なフォローを行う必要があります。

5. どのようにフォローし、早期適応してもらうか?

具体的なフォローとしては、人脈面では、キーパーソンとなる社内の関係者を紹介したり、部署間の関係性や意思決定プロセスについて説明したりすることが有効です。

  • この案件を進めるなら、まず○○部の△△さんに相談するといい
  • この会議で決めるには、事前に□□さんの了解を得ておく必要がある

といった、暗黙のルールを明示的に伝えることで、キャリア入社者の試行錯誤の時間を大幅に短縮できます。

業務遂行プロセス面では、社内の意思決定プロセスや、合意形成の進め方について、丁寧に説明することが重要です。「なぜこの手順が必要なのか」という背景や理由も含めて説明することで、単なる形式的なルールとしてではなく、その組織における合理性として理解してもらうことができます。

また、本人が担う役割や期待、評価の観点について明確に伝え、認識をすり合わせることも重要です。役割や責任範囲は全てが必ずしも明文化されているわけではなく、会社・組織文化としてポジションごとに暗黙に期待されることや、入社当初のメンバー的な役割から、リーダー的な役割に推移する中で、新たに期待されるようになる役割や責任範囲もあります。これらに対して、会話の中で認識を揃えることにより、キャリア入社者は不安を解消しながら目の前の業務に向かっていくことができます。

定期的な1on1などを通じて、本人が抱えているこれらの困難や不安を言語化する機会を設けることも効果的です。「最近、社内を動かす上で困っていることはないか」「分からない暗黙のルールや慣習はないか」「周囲からの期待と本人の認識にギャップはないか」といった問いかけにより、本人も自分の状況を客観視し、必要な支援を求めやすくなります。

総じて、周囲から人脈面・業務遂行プロセス面、役割や期待に関する認識のすり合わせの面でのフォローを積極的に行っていくことが、この時期の適応のカギとなるのです。

次回の第5回では、キャリア入社者の適応プロセスにおける最終段階となる「会社文化への適応」について、詳しくご説明します。

AIキャラクターを“組織の一員”に。Resilire流「AI-ready」な組織づくり

こんにちは。株式会社Resilire(レジリア)の伊弉末です。

執筆者伊弉末 大悟株式会社Resilire HRマネージャー

新卒でSIerに入社し、インフラ設計・開発業務に従事。その後、人材紹介会社でキャリアコンサルタントを経験し、2018年に株式会社プレイドへ。人事としてプロダクトサイド採用を中心にIPO後までの組織づくりを担う。2022年7月、サプライチェーンリスク管理SaaSを開発・提供する株式会社Resilireへ社員1人目として参画。現在はHRマネージャーとして採用・組織・カルチャーづくりをリードしている。

多くのスタートアップが直面する「30人の壁」や「50人の壁」。事業が軌道に乗り組織が急拡大する一方で、管理業務の増大やカルチャーの希薄化など、組織内部には様々な“軋み”が生まれやすいフェーズです。

サプライチェーンリスク管理サービスを提供する私たち株式会社Resilire(レジリア)もまた、2024年から2年間で正社員数が12名から40名以上と約3倍に急増しました。

本来であれば、バックオフィス部門の増員が急務となるこの局面ですが、私たちは労務担当者の増員を行わず、たった「1名」の体制のまま乗り越えています。その秘訣は、AIを単なる「業務効率化ツール」としてではなく、「人格を持った同僚」としてチームに迎え入れたことにありました。

「労務アシスタントAI」や「お局AI」といったユニークな“仲間”たちが、いかにしてリソース不足を補い、組織の潤滑油となっているのか。人間とAIが協働する、Resilire流の「AI-ready」な組織づくりの裏側をご紹介します。

「単純作業の自動化」以上の価値とは。人間が「人に向き合う」時間を捻出するために、AIをオペレーションの相棒にする

組織が大きくなれば当然、バックオフィスの負荷も増加します。「就労証明書を発行してほしい」「健康診断の予約をしてほしい」「年末調整の書類を出してほしい」といった細かなタスクも、40人分が積み重なれば大きな負荷となります。

私たちは、この状況を担当者の増員で解消するのではなく、「本質的に人間がやるべきこと」と「オペレーションとしてAIがやるべきこと」を切り分け、増えていくタスクをAIと協業することで解決しました。

この取り組みがユニークなのは、AIを「単なる自動化」に利用していない点です。スタートアップとして規模が拡大していくにつれて、統制のために最低限のルールが必要になります。自由な文化に慣れている従業員にとって、ルール化や事務処理の徹底は、これまでとのギャップを感じやすいものです。

そこで、このギャップを緩和するために「誰が言うか」という点に着目しました。人が直接言うと角が立つ指摘も、愛すべきキャラクターが代弁することで、社内の空気を柔らかく保つことができるという発想の元、Resilire独自のAI活用術が生まれたのです。

規律の浸透が招く「心理的摩擦」をどう回避するか。言いにくい指摘を代弁し、人間関係の緩衝材となる「AIキャラクター」の効用

Resilireでは、キャラクター付けされた複数のAIがSlack上で活動しています。

【事例A】督促のプロ?お局AI「総務のレジゑ」

総務歴15年のベテランという設定の「総務のレジゑ」は、「ボサッとしてんじゃないわよ」「締め切り過ぎてるわよ、早くしなさい」といった、厳しい口調が特徴のお局キャラです。主な役割は、月末の勤怠締め切りリマインドなど、全社員に対して「徹底」を求める業務です。

本来、こうした督促業務は、送る側も受け取る側もストレスが溜まるものですが、レジゑというキャラクターを介することで、「レジゑさんに怒られるから出さなきゃ」「レジゑさんが怒ってるよ」といった具合に、督促が一種の「ネタ」として消化されます。レジゑは、組織の摩擦に対する緩衝材としての役割を果たしているのです。

【事例B】時間短縮!労務アシスタントAI「neruneru」

一方で、さらにライトに、楽しく動いてもらいたい場面で活躍するのが、労務アシスタントAI「業務も可愛く効率化」がモットーのYoung&Brightなギャル「neruneru(ねるねる)」です。

「〜だよね、マジで」「提出よろ!」といったギャル語を使いこなし、源泉徴収票の回収といった、心理的ハードルは低いものの「面倒な」事務作業を担当します。スプレッドシート上で依頼対象者にチェックを入れると、GASを経由してneruneruからSlackのダイレクトメッセージが飛ぶようになっています。

事務的な連絡を明るいエンタメに変えることで反応率も向上し、「ギャルからDMが来た!」と社内での会話のきっかけにもなっています。

【事例C】愛され社内キャラクター「れじりん」

社内インナーコミュニケーション強化のために生み出されたのが、火星からやってきたオリジナルキャラクター「れじりん」です。Resilireが手掛けるサプライチェーンリスク管理は、専門用語も多く、一般には分かりづらいビジネス領域です。

セールスやプロダクト開発、コーポレートといった各部門にはプロフェッショナルな精鋭が集まる一方で、組織全体を横断するソフトなコミュニケーションや、共通言語となるような要素が不足していました。チームの垣根を越えて「Resilireの一員である」というアイデンティティを認識する手段のひとつとして「れじりん」は生み出されていました。

れじりんは、代表の津田が語る「人類が火星でも生活できるようにならないといけない」という想いを背景に、会社のロゴを起点に生成AIで発想を広げながら、デザイナーが最終的に形にしたキャラクターです。

れじりんは、イベントの告知や称賛スタンプ、さらには社内限定のTシャツ販売にまで発展しています。また、開発チームではリリース完了のお知らせなどもキャラクターを介することで柔らかいニュアンスとなり、社内の雰囲気を和ませています。

目指すは「AI-ready」な組織づくり。トップダウンの強制ではなく、現場の“遊び心”から自律的なDXが生まれる理由

こうしたAI活用が自然発生的に進むのは、現場から自発的にAI活用が生まれるResilireの「AI-ready」の組織文化があるためです。

社内のNotionにはAI活用に関することが全てまとまっているページが存在し、AIコーディングのガイドやGASを使ったSlack自動化の手順書などが誰でも閲覧・更新できるようになっています。また、Slackの「AIナレッジシェア」チャンネルでは、「このAIツールが便利」といった情報が営業職やエンジニア、バックオフィスなど職種を問わず活発に交換されています。

全社的なAIの取り組みは代表の津田と「AI推進チーム」が主導しています。Slackのチャンネルで新しいAIを使いたいという要望が挙げられれば、利用規約や金額を確認し、問題なければすぐに利用できる環境です。

チームのスタンスは「使ってみないとわからないのでまずは使っていこう。そしていらないものはやめよう」というものです。結果として、Resilireでは以下のようなAIツールが利用できる状態となっています。

もちろん、私たちはAIを無制限に利用するのではなく、社内のAI推進チームを中心に、AIサービス利用時の注意点や社内ガイドラインを定めたうえで運用しています。

具体的には、入力内容が学習に利用されないオプションが提供されており、その設定を会社として契約・管理するワークスペース単位で制御できるツールのみを利用する方針としています。

こうした判断には、AI活用の利便性だけでなく、個人情報や機密情報の取り扱いに対するリスクを適切に見極めてきたシニアメンバーの知見が活かされています。こうした前提を整えることで、安全性を確保しながら、現場での積極的なAI活用を後押ししています。

このような「AI-ready」の組織文化のもと、Resilireではバックオフィスに限らず、全社でAI活用を進めています。例えばデザイン領域では、「全員デザイナー時代」という考え方のもと、非デザイナーがAIを活用し、顧客からのインプットをもとにFigmaで初期のモックアップを作成しています。

Resilireでは、「AIに職を奪われる」という発想ではなく、「AIを積極的に活用していく」という姿勢を、労務・人事にとどまらず全チームが共有しています。こうした前向きな意識を土台にAI活用を進めている点こそが最大の強みと言えるでしょう。

なぜ「データ・AI人材採用」は失敗するのか?― 人事が陥りやすい“人材定義の落とし穴”

データ・AI活用が企業経営の前提となった今、「データ人材を採用したい」と考える企業は年々増えています。 一方で、候補者が集まらない、採用できても期待した成果が出ない、 あるいは入社後に期待とのズレが生じるケースも少なくありません。

その原因は、本当に候補者側のスキル不足なのでしょうか。実は多くのケースで問題になっているのは、企業側が「どんな人を採るべきか」を定義しきれていないことです。

  • とりあえずデータサイエンティストを採ろう
  • AIができる人なら何とかなるはず

そんな曖昧な前提のまま採用を進めてしまうことで、入社後のミスマッチが起きています。

本記事では、なぜ今データ・AI人材が求められているのかを改めて整理したうえで、企業の採用担当者が見直すべき「人材像の前提」について人事・採用担当者の視点から整理していきます。

執筆者西廣 奈緒株式会社クリーク·アンド·リバー社 コンピュータサイエンス·セクション キャリアエージェント

新卒で飲食業に従事した後、IT系人材会社へ転職。新卒採用領域のキャリア支援に携わる。その後クリーク・アンド・リバー社に入社し、現在は両面型の転職エージェントとして、データサイエンス・AI領域の人材紹介を担当。年間約1,000人と面談を行いながら、技術者と企業双方に向き合っている。

データ・AI人材が求められている理由

近年、「データ・AI人材が必要だ」という言葉は、もはや特別なものではなくなりました。多くの企業が、AI活用やデータドリブン経営の重要性を理解し、実際に採用へと動き始めています。

その背景にあるのは、明確な構造変化です。

日本では労働人口の減少が避けられず、従来と同じ人数・同じやり方のままでは、事業成長を維持することが難しくなりつつあります。個々の生産性をいかに高めるかが企業経営の前提条件となった今、データやAIの活用は「挑戦」ではなく「必須要件」となりました。

さらに、これまで経験や勘に依存してきた意思決定を、再現可能な形で残していく必要性も高まっています。事業承継、属人化の解消、組織拡大――こうした課題に対して、暗黙知を数値化し、組織内で共有できる点は、データ活用が持つ大きな価値だと言えるでしょう。

データ・AI人材の定義

かつてデータ・AI人材は、高度な専門技術を持つ限られた存在であり、「AIとは何か」「どのように活用するのか」を説明できること自体が価値とされていた時代でした。

しかし現在は、AIの民主化が進み、業務の中でデータやAIを使うことは特別な行為ではなくなってきています。この変化に伴い、データ・AI人材に求められる役割も大きく変わっています。

「使える」から「価値を生み出す」へ

AI活用が一般化した今、「分析できる」「可視化できる」といったスキルは、それだけでは差別化要因になりにくくなりました。重要視されるのは、データを事業課題と結びつけ、意思決定や価値創出につなげられるかどうかです。

分析結果を示すだけでは、事業は前に進みません。データに詳しくない関係者にも理解できる言葉に置き換え、「なぜこの示唆が重要なのか」「次に何を判断し、どの行動につなげるのか」まで示せて初めて、データは事業価値を持ちます。

こうした解釈力や翻訳力、そして事業理解こそが、「データを使える人」と「データで価値を生み出せる人」を分ける決定的な違いであり、現在のデータ・AI人材を定義する中核になっています。

定義が変わった今、データ・AI人材は「工程」で捉える必要がある

データ・AI人材の定義が変化したことで、「データサイエンティストとデータエンジニアの違いが分からない」「どこまでを一人に任せるべきか判断できない」と感じている採用担当者も少なくありません。

これは個々の職種理解の問題というよりも、データ・AI活用が単一の役割では完結しなくなったことに起因しています。

そのため、データ・AI人材は職種名で捉えるのではなく、「課題設定から意思決定、実行に至るまでのどの工程を担う人材なのか」という視点で整理すると、自社に必要な役割が見えやすくなります。

企業が抱えるデータ・AI人材の採用課題

データ・AI人材の定義が変化する一方で、「AIを導入すれば成果が出る」「データサイエンティストを採用すればデータドリブンになる」といった期待先行の採用が、現場で機能していないケースは少なくありません。

実際には、データ基盤が整っていない企業の方が多く、何から手をつけるべきか分からないまま採用に踏み切ってしまう例も見受けられます。

①ペルソナが描けないまま、採用が始まってしまう

多くの企業は、「データを活用する必要がある」「一人目のデータ・AI人材が必要だ」という問題意識までは持っています。

しかし、実際の採用要件を見ると、 データアナリストなのか、サイエンティストなのか、DX推進を担う人材なのかといった具体的なペルソナを定めないまま選考を進めてしまうケースが多く見受けられます。

その結果、面接を重ねる中で「この人で本当に正解なのか」という迷いが生じ、判断軸がぶれてしまいます。本来ペルソナ設計は人事だけで完結するものではなく、現場・経営・人事が共通認識を持ち、「何の課題を解く人材か」を事前に言語化しておくことが不可欠です。

②職種理解不足が、判断の曖昧さを生む

ペルソナが定まらない背景には、データ・AI関連職種への理解不足もあります。人事担当者は複数職種を横断して担当することが多く、アナリスト、サイエンティスト、エンジニアの違いを十分に把握しないまま採用を進めてしまうこともあります。

その場合は、データ活用の全体フローを整理し、自社の課題を当てはめたうえで、今どの工程に人材が必要なのかを見極めることが有効です。

たとえば、課題整理ができていない段階であればPMやアナリスト型の人材、やりたいことが明確であれば専門性の高いサイエンティストなど、課題起点で人材像を定義する視点が重要になります。

③「内向きな人材」はミスマッチを起こしやすい

採用側の課題に加え、候補者とのミスマッチも起こりがちです。

特に注意したいのが、関心が自身のスキルや技術に強く向いている人材です。「最新技術を学び続けたい」「分析スキルを尖らせたい」という志向自体は否定されるものではありませんが、事業会社では「その分析で、何が変わるのか」「誰の意思決定を助けるのか」という視点が欠かせません。

ビジネスへの関心が薄いままだと、社内で存在意義を発揮しきれず、孤立してしまうリスクもあります。一定の経験を積んだ人材ほど、データサイエンスを目的ではなく手段として捉えられているかが、重要な判断ポイントになります。

このように、データ・AI人材採用の難しさはスキル不足ではなく、「何の課題を解く人材なのか」を定義できていないことに起因しているケースが大半です。

今、企業に求められているのは「データ・AI人材を採ること」そのものではなく、自社のフェーズや課題に照らして、必要な人材像を定義し直すことだということが改めておわかりになるでしょうか。

企業が本当に採るべきデータ・AI人材とは

市場ニーズと、最初に採るべきデータ・AI人材

企業のフェーズによって前提は異なりますが、市場で求められる人材は、大きく「ビジネス寄り」「技術寄り」の二つに整理できます。近年特にニーズが高いのが、ビジネスとデータをつなぐ役割を担える人材です。

分析結果を示すだけでなく、事業文脈の中で意味づけを行い、「次に何を判断すべきか」「どの行動につなげるのか」まで示せるかどうかが重視されています。課題がまだ曖昧な段階では、こうした課題設定力を持つ人材の価値は特に高まります。

一方で、分析やモデル構築、データ基盤などに強みを持つ技術寄りの人材も、内製化が進むフェーズでは欠かせません。特定領域に尖った専門性を持つ人材は、明確な役割が定まった段階で大きな力を発揮します。

こうした市場動向を踏まえると、企業が最初に採るべきデータ・AI人材像も明確になります。一人目に求めるべきなのは、高度な分析スキルを持つ人ではなく、課題設定から実行までをやり切れる人材です。BIツールやAIの進化により、分析そのものは後から補えますが、「何を課題と捉えるか」「どこから着手すべきか」を定義できる力は代替がききません。

企業のデータ活用が進み、やりたいことが明確になってきた段階でこそ、専門性の高い技術人材を採用する意味が生まれます。重要なのは、「とりあえずデータサイエンティストを採用する」のではなく、今の課題に照らして、どの工程を担う人材が必要なのかを先に定義することです。

長期視点で考える、ジュニアクラスのデータ人材採用と育成

今後、企業活動において「データを扱わない」という選択肢は、ほぼなくなっていきます。労働人口の減少が進む中で、データ活用は競争力そのものになっていくのです。

そのため、短期的な即戦力採用だけでなく、戦略的な育成を前提としたジュニアクラスのデータ人材採用も欠かせません。

データサイエンティストとして採用した人材が、将来的にエンジニアや社内SE、バックオフィス領域へと役割を広げていくことも、企業にとっては十分に価値があります。

「データに明るい人が社内に複数いる」状態そのものが、企業の武器になる。そうした視点で、データ人材の採用と育成を捉え直すことが求められています。

良いデータ人材に選ばれる企業になるためには

データ人材に選ばれる企業かどうかは、技術力やツールの充実度よりも、自社の課題をどれだけ本気で語れているかに表れます。「どんなデータを扱っているか」もそうですが、「何に悩み、何を変えようとしているのか」。その姿勢こそが、候補者に見られています。

① 経営層がデータ課題を理解しているか

良いデータ人材に選ばれる企業は、「今どれだけデータドリブンか」よりも、自社のデータ課題を正しく理解し、言語化できています。特に重要なのは、その認識が現場だけでなく、経営層自身が言葉にできる企業です。

最終面接などの重要な場面で、経営層自身が「なぜ今データ人材が必要なのか」「どんな課題を一緒に解いてほしいのか」を語れる企業は、それだけで候補者に強い信頼感を与えます。たとえ現時点で成熟したデータ活用ができていなくても、課題を正しく認識していること自体が、十分な評価ポイントになります。

② 面接で“課題”を語れているか

多くの企業が「データドリブンな会社です」と掲げていますが、求職者がそれを実感できる場面は限られています。だからこそ重要なのが、面接の場でデータを以て解決したい具体的な課題を率直に共有できているかです。

それが経営課題であっても、プロダクトの課題であっても構いません。何に向き合おうとしているのかが伝われば、データ人材は「自分の提案に耳を傾けてもらえそうだ」「取り組むべきテーマが明確だ」と感じやすくなります。

③ 「採用すれば解決する」という発想になっていないか

「データサイエンティストを採用すれば、自然とデータドリブンになる」という発想は、うまくいかないケースがほとんど。本来は、課題が先にあり、その解決のために人材を採用するという順序であるべきです。

もちろん、入社後にプロの視点で課題を洗い出してもらうこと自体は有意義です。ただしその前提として、企業側が「自分たちは何に困っているのか」を考え抜いているかどうかが、採用の成否を大きく左右します。

④ 成長の道筋が描けているか

データ人材にとって魅力的な企業かどうかは、入社後の成長イメージを持てるかにも表れます。グレードごとに求められる役割やスキル、期待される貢献が整理され、「どこまで到達すれば次のステップに進めるのか」が見える状態かどうか。こうした道筋が明確な企業ほど、安心してチャレンジしやすくなります。

⑤ キャリアの選択肢が一つに固定されていないか

データ人材のキャリアは、必ずしもスペシャリスト一択である必要はありません。技術を深める道に加えて、プロジェクトマネジメントや事業側に近い役割など、複数の成長方向が示されているかも重要です。柔軟なキャリア設計が可能な企業は、結果としてデータ人材にとって「長く価値を発揮できる場所」として選ばれやすくなります。

まとめ

データ・AI人材採用におけるミスマッチの多くは、「スキルの見極め」に失敗しているからではありません。自社が今、どの工程で、何につまずいていて、その解決にどんな役割が必要なのかを整理しきれないまま、「データ人材を採ること」自体が目的化してしまう ことが原因です。

採用で最も重要なのは、「誰を採るか」ではなく、「何を任せたいのか」を先に定義すること。課題を言語化し、期待役割を共有し、成長の道筋を示せる企業ほど、結果として市場から選ばれ、データ・AI人材の力を事業価値へとつなげていきます。

制度では人は定着しない――“関係性の設計”が企業成長を支える理由|プレシャスパートナーズ矢野

「この会社で長く働きたい」と思う理由は何でしょうか。

給与や福利厚生、キャリアアップ制度、柔軟な働き方など、多くの人が“制度”を挙げます。しかし、制度がどれだけ整っていても、それだけで人は定着しません。

実際の退職理由の多くは、「人間関係が合わない」「孤独を感じた」「相談できる人がいなかった」といった“関係の不全”です。つまり、人材が定着するかどうかを決めるのは制度そのものではなく、制度を通じて生まれる関係性なのです。

今回は、プレシャスパートナーズが実際に取り組んでいる「人が定着し、活躍し続けるための関係性設計」についてお伝えします。

執筆者矢野 雅株式会社プレシャスパートナーズ 取締役

1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。

入社から定着までに必要な設計とは

多くの企業では、採用プロセスを「面接→採用→研修」で終えてしまい、入社後の育成や関係構築は現場任せになりがちです。しかしそれでは、人材が「自分はこの会社でやっていける」という実感を得られません。

定着・活躍に必要なのは、入社前から入社後まで、一貫して人を支える関係性の設計です。プレシャスパートナーズで行っている定着までの設計は下記です。

<入社から定着までの設計>
入社前 ・内定者面談を実施し、不安や疑問を気軽に話せる場を提供
・入社前から接点を持つことで、会社への期待や安心感を醸成
入社時 ・中途・管理職採用でも入社時研修を実施
・スキルより“マインドセット”を重視し、理念や働く意義の理解を深める
入社〜半年 ・毎月の定例面談やメンター制度で孤独感を排除
・新卒は月1で学びの振り返りを実施し、成長の軌道に乗せる
半年以降 ・全社員が毎月1on1を実施し、キャリアと目標を擦り合わせる
・若手向けキャリア研修・管理職研修を通じて、レイヤーごとの視座を揃える

実務スキルは経験で伸びますが、長期的に活躍するためには「安心して挑戦できる環境」が欠かせません。そしてその安心は制度そのものではなく、制度を介して築かれる人間関係から生まれます。

「会社と人が好き」という気持ちが定着の源になる

理念共感は採用時の重要な出発点ですが、入社後はそれだけでは人は動きません。大切なのは、理念共感に加えて、貢献を正しく評価し、それを対価として返す仕組みです。

いくら成果を出していても、「よく頑張っているね」という言葉だけでは限界があります。評価が給与・昇格といった具体的な形で返ってこなければ、不安や不信感が生まれます。

プレシャスパートナーズでは、

  • 営業成績に応じたインセンティブ
  • 明確な昇進基準

を整備し、“会社が自分に期待している”ことを可視化しています。

この「期待されている実感」こそが、「会社が好き/働く仲間が好き」→「もっと貢献したい」→「定着につながる」という好循環を生み出します。

全社員が納得する評価制度とは

納得される評価制度の鍵は、以下の2つです。

① 定量評価(数字・成果)

売上、KPIなどの定量指標は不可欠です。数字がなければ会社は成り立たず、社員の生活も守れません。しかし数字だけだと、短期的成果偏重になり、組織貢献や姿勢が評価されにくくなります。

② 定性評価(情意・姿勢・カルチャーフィット)

  • 理念への共感
  • 組織への貢献
  • 周囲への支援や行動

こうした“数字に表れない価値”を評価することで、社員は自分の仕事を「自分ごと」として捉えられるようになります。定性評価は属人的になりやすいため、点数化・ルール化し、一貫性・透明性を保つことが重要です。

定量と定性の両面から評価しているため結果として、

  • 新卒1年でリーダー昇格
  • 中途2年で部長就任

といった早期キャリアアップも実現しています。

単なる制度の充実は「窓際社員」を生むリスクもある

制度を整えること自体が目的化すると、「評価されるからやる」「研修があるから参加する」という“受け身社員”を増やす危険があります。

制度は万能ではありません。むしろ、制度が整いすぎると、自発性が失われることすらあります。

だからこそ必要なのは、制度を通じて「自ら動きたくなる関係性」を育てることです。

評価や研修は目的ではなく、あくまで自発性を引き出すきっかけにすぎず、上司や仲間との対話、相互のフィードバックを通じて、自ら行動したくなる文化を育むことが欠かせません。

制度は“関係性を育む場”として機能させる

制度そのものより、制度を通じて“どうつながるか”が重要です。制度はあくまで「きっかけ」であり、その活用次第で効果は大きく変わります。

<社員との関係性を育む制度例>
1on1面談 評価や指示を伝える場ではなく、本音を共有し、信頼関係を深める時間
メンター制度 「困ったときに相談できる人がいる」という安心が、早期離職を防ぎ、成長を促進
研修 単なるスキル習得ではなく、理念・価値観を共有し続ける“文化づくりの場”

制度を通じて、「自分で動き、きちんと認められている」という実感を持てる環境をつくることが、定着と活躍の最大の源泉です。

まとめ

人が「この会社で働き続けたい」と感じるのは、制度が整っているからではなく、制度を通じて信頼が積み重なっていくからです。

採用から育成、評価まで一貫して“関係性の設計”を行うことこそが、辞めない・育つ・活躍する人材を生み出します。

制度=目的ではなく、制度=関係性をつくる“仕組み”と捉えること。それが、企業の未来を力強く支える土台となるのです。

CEOとCHROが組織文化変革の両輪を担うレゾナック。拠点訪問を重ねパーパス・バリューの浸透・実践へ【現場を変えるCQ白書 第6回】

企業価値の向上のために「戦略」と「個の力」、そして「組織文化」を掛け合わせることを重視する株式会社レゾナック。組織文化変革において同社が稀有な点は、CEOとCHROがその両輪を担い、2人での拠点訪問を繰り返していることからも垣間見えます。

その初年度である2022年には、国内外の拠点70カ所以上を訪問し、110回のラウンドテーブルを実施。2023年以降も同規模の拠点訪問を続け、パーパス・バリューの浸透・実践に努めてきました。

代表取締役社長 CEOの髙橋秀仁さんと、取締役 常務執行役員 最高人事責任者(CHRO)の今井のりさんの、強い動機と取り組みの姿勢には、まさにCQ(文化の知能指数)の高さが表れています。

次世代リーダーに欠かせないCQという力に関する本連載。今回は同社における組織文化変革を担うお2人に、その動機などを聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

企業価値に“組織文化”を含める

私は、パーパス経営支援、リーダーシップ開発、組織文化の変革などへのソリューションを提供するアイディール・リーダーズ株式会社のCCO(Chief Culture Officer)として、国内外の企業などを支援してきました。

また、文化をリーダーシップのツールとして活用するために世界中から知見と経験を持ち寄るコミュニティCQ Fellowsの一員、ホフステード博士認定ファシリテータとして、「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマにしています。

これまで国内外の多くの方や企業をサポートしたり、見てきたりしました。その中でも、レゾナックは非常に珍しい企業です。

「企業価値=戦略×個の力×組織文化」と言い切り、しかもCEOとCHROとで組織文化変革に取り組んでいるからです。このようなお2人を、私は寡聞にして知りません。

お2人は「国内の製造業を代表する共創型人材創出企業」を目指し、JTC(Japanese Traditional Company:伝統的な日本企業)の組織文化を変える、その実例をレゾナックで示したいと明言しています。

“ガラガラポン”から組織文化変革に取り組む

レゾナックは2023年、昭和電工と日立化成の統合により生まれました。その1年前の22年に髙橋秀仁さんが2社のCEOに就き、実質的な統合を果たすと、早々にパーパス・バリューを制定しました。

髙橋さんは言います。

やる人・やること・やり方を変えないで、世の中は変わりません。昭和電工と日立化成が統合すれば、この3つ全てを変えられると思いました。いわゆる“ガラガラポン”ですね。

昭和電工側の統合のリーダーとなった髙橋さんは、日立化成側のリーダーとなった今井さんと対話を重ねます。そこで共有された基本方針が「完全に新しい会社をゼロから作る」ということでした。両社が自分本位になることなく、協業することを目指したのです。

パーパス・バリューの必要性

同社は、「個の力」という軸では自律してパーパス・バリューを体現する人材育成を進めながら、さらに自発的に動き出せる組織文化を醸成して、「共創型イノベーションの創出」を加速させています。

実質統合1年目の「タウンホールミーティング」「ラウンドテーブル」で、CEO・CHROが従業員1000人超と対話。

2年目の「モヤモヤ会議」では参加者のモヤモヤを話し合い、その場でCEO・CHROや拠点長が意思決定を行い、3年目の「パーパス探究カフェ」では従業員が自身のパーパスを自覚し深掘りする取り組みを実施。

さらに4年目となる25年の「現場de対話」(CEO・CHROと現場従業員との直接対話)など。同社の取り組みは多岐にわたります。

今井さんは話します。

実は今やっていることは、9年ほど前に社内に提案して誰からも共感を得られず実行できなかったことなんです。結局、生え抜きで“同じ釜の飯を食ってきた人たち”だけならパーパス・バリューの必要性を感じないんですね。多様性が生まれるから必要になる。

これに対し、髙橋さんも続けます。

パーパス・バリューを定める会社はいっぱいありますよね。と同時に制度も変えたり。でも、極論それはどうでもいい話なんですよ。そこから根性を入れて運用するかどうか。CEOの仕事は企業価値の最大化であり、そのための環境作り。だからこそ、覚悟と信念をもって組織文化の変革に取り組んでいます。

どんなに、個の力を育てても、その人たちがポテンシャルを解放できない組織文化なら意味がありません。その環境を作るのが、やはり経営者だという、強い想いが感じ取れます。

個人のパーパスと組織のパーパス

数々の取り組みから、一例としてパーパス探究カフェを挙げてみます。

この取り組みでは従業員に「過去を振り返り、現在を見つめ、将来どういう状態になっていたいか」を話してもらい、その上で自分自身のパーパスを考えてもらいます。

従業員個人のパーパスと、レゾナックという会社のパーパスの重なりについても考えてもらうことが、パーパス実現に向けた第一歩にもなります。

これを外部のコンサルタントがファシリテーションをするケースは多いでしょう。

しかし、同社では、CHROの今井さん自身がファシリテーションを行います。これについて今井さんは次のように話します。

単純に言ってしまうと、好きだからですよね。また私自身が、自分でやって体験しながら学ぶタイプだからだと思います。CHROの仕事は現場と経営をつなぐこと。現場感覚がないと、次の施策は考えられません。平均すると3日に1回の頻度で現場に行っていますね。

同社では毎年、従業員へのエンゲージメントサーベイを行い、パーパス・バリューの浸透・実践度とエンゲージメントスコアを測定しています。

同社によれば22年はパーパス・バリューの共感度59%、実践度34%だったものが、毎年向上。24年にはそれぞれ73%、60%となっています。髙橋さんはこれについて、次のように話します。

パーパス・バリューは口すっぱく言い続けてきました。「変わったな」と感じたのは、24年にある事業所でラウンドテーブルを行ったときのことです。課長クラスの従業員10人ほどと話して、エンゲージメントスコアについて聞いたのですね。「スコアはどうでしたか。下がっていれば、どんな課題があって、どんな手を打っていますか?」。すると「○点から○点になり、その背景は……」と完璧に答えてくれました。これには感動しました。

重なり合いの多様性

一方で同社は「自分のパーパスを実現するための乗り物がレゾナック」とも言っています。ときに「個人のパーパスと会社のパーパスは100%一致しなければならない」と思っている人もいますが、まず難しいでしょう。

下図のA・B・Cは個人を表し、このように重なり合う部分はそれぞれに異なります。このそれぞれに、多様性があり、違いを尊重して何かを生み出していくというポテンシャルがあります。

同社でも、あえて言えば抵抗感を持つ従業員がいないわけでもないそう。そのような従業員とも向き合っていると話す今井さん。

3割の方はすぐに浸透・実践につながります。6割は時間がかかりますが変わります。データも踏まえて話したり、ワークショップをすると、だんだんと分かってもらえるんです。ただ、残り1割はやはり最後まで抵抗します。その1割の方には「うちに合わないなら、外のほうがいいかもしれない」ということもしっかり話しています。

その人にとってベストな会社が、必ずしも今いるところだとは限りません。その人それぞれに幸せな選択肢はあるはずでしょう。

10年かかる道のりを

組織文化変革に向けて着実に歩みを進めるレゾナック。けれどもまだ道半ばにあります。髙橋さんは言います。

僕は社長に就いたときから、組織文化を変えるのには最低10年かかると言っています。以前では想像もつかなかったことが当たり前のことになることを、事前の非連続性と事後の常識性と呼びます。事前に非連続だった文化を、事後に常識にするというのは、少しずつしかできないんですよ。ですから10年かかって、ようやくそのときに「あぁ、文化が変わったな」と感じるのではないでしょうか。

専門家の視点から
レゾナックは組織文化変革にCEOとCHROがコミットして取り組んでいます。これは従業員にも、いい意味でのプレッシャーが働いていると想像できます。もちろん一方では、本連載の第3回でも採り上げた心理的安全性や知的誠実性も整えているからこそ、変革が進み、パーパス・バリューの浸透・実践が進んでいると考えられるでしょう。CEOとCHROが率先して動く点で稀有な例ではありながらも、今後はこの例が珍しくなくなるほどに、他社でも同様の動きが広がってもらいたいと思います。
書籍URL:https://amzn.asia/d/j8ww3FP

【こんな方におすすめの一冊】

  • 組織に課題感がある人事担当者
  • 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
  • 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
  • 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方

来年の研修から本当に成果が出るか?研修企画をブラッシュアップするためのチェックポイント|ジェイソン・ダーキー

この時期、多くの企業では来年の人材育成施策が固まりつつあります。企画は承認され、予算も組まれています。研修の大まかなイメージもありますが、まだまだ細かい調整が必要です。

今回は、そのチューニングに役立つ切り口とチェックポイントを紹介します。少しでも研修の成果を高められるように、ぜひ有効活用してください。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役

米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。

5つの切り口

研修の成果を高めるための要素は様々ありますが、ここでは分かりやすく5つの切り口に絞りました。

  1. 研修体系
  2. 研修の全体企画
  3. 対面研修
  4. リモート研修
  5. オンデマンド研修

チェックポイントをそれぞれ紹介します。

1. 研修体系

研修体系というのは人材育成施策の全体像です。ほとんどの人がイメージする定番は、縦に階層、横に研修テーマがある細かい表です。研修体系をつくる際の大切なポイントは、この3つです。

研修体系のチェックポイント
  • 目的別に考える
  • リソースにメリハリをつける
  • 賞味期限の過ぎた研修を捨てる

定番の研修体系の表は1年間の研修実施イメージを把握するのに便利ですが、間違ってはいけないのは、各セルに書いてある研修にすべて等しく対応しようとすることです。

研修の中には非常に大切で、絶対に成果を出さないとまずいものもあれば、全社員が目を通して意識を高めるだけでよい研修もあります。

そこで、受講対象者と研修の内容とテーマ以外にぜひ考えてほしいことは、研修の狙いや目的です。目的によって必要なリソースは大きく変わるため、メリハリをつけることを意識しましょう。

例えば、ビジネス成果を出すのが目的なら数カ月の研修シリーズ、定着フォロー、職場実践などが必要です。逆に、意識の確認やリマインドが目的なら、数分のeラーニングや自己学習用のPDFで十分です。

代表的な目的とおすすめの研修形態はこちらです。

【研修目的とおすすめの研修形態】
研修目的(提供価値) おすすめの研修形態(提供方法)
新しい企業戦略の実現 経営者サポート、職場の巻き込み、効果測定、チェンジマネジメント
現職務の成果向上 ラーニングジャーニー、職場実施、定着フォロー
人材パイプラインの強化 長期のブレンドラーニング ( 対面/リモート/オンデマンドのミックス)
トラブル発生時の対応 サポートツール
コンプライアンス LMS(受講管理システム)によるeラーニング
従業員のモチベーション向上 外部の公開コース、オンデマンドのコンテンツライブラリー

賞味期限の過ぎた研修を捨てるとは、昔につくったままの内容を再検討することです。今のビジネス環境や受講者のニーズに合わなくなった研修は意外とあるものです。

例えば、新入社員のマナー研修にある、代表電話の転送の仕方やお茶の出し方。今は配属後にやる機会のある新入社員はかなり少ないはずです。

逆に、必要な内容が抜けている場合もあります。例えば、管理職研修でDX、グローバル、イノベーション、ダイバーシティ、ハイブリッドワークがなかったりしますが、どう考えても盛り込むべき重要な経営課題です。

2. 研修の全体企画

ここでいう全体企画とは、研修の流れのことです。

当日のタイムスケジュールというより、研修の前後も含めた全体のデザインに関わる部分で、例えば、事前課題があるか、研修は何日間あるか、コーチングのような研修以外の要素があるか等です。

重要なポイントは3つです。

研修の全体企画のチェックポイント
  • 数回の研修+定着フォローにする
  • 上司を巻き込む
  • 職場実践につなげる

単発やりっぱなし研修では、超一流講師がどんなに頑張ったとしても安定した良い成果は出ません。

逆に、研修を数回に分け、研修と研修の間に受講者が職場で実践してみて、次の研修で振り返って共有すれば、講師が普通でも良い成果が出ます。

さらに、受講者の上司を研修前後に巻き込めば研修に対する意識が高まり、職場での行動変容の確率も上がります。最後に、研修内容を繰り返し練習をする機会があれば、自然と定着できます。

3. 対面研修

対面研修のニーズはかなり戻ってきており、実は今の大トレンドの一つです。

背景としては、昨今のAIの普及により、AIにはない高いヒューマンスキルや人間力が求められていますが、残念ながら業務でのデジタルの割合が高く、その手のスキルを磨く機会が減っているためです。

対面研修の必須条件は「リモート研修ではできない、集まらないとできないことに絞る」ことです。具体的に言うと次のとおりです。

対面研修のチェックポイント
  • 交流と共有を入れる
  • 体を動かす
  • 特別なイベントにする

対面研修なら、特に設計しなくても受講者の共有と交流はある程度自然に生まれます(休憩時間の雑談、一緒に食べるランチ、グループディスカッション等)。

ただ、それだけならわざわざ会場まで移動させて集める必要はなく、求められているような高い人間力も身につきません。ぜひ、受講者同士の交流を意図的に設計しましょう。

特に、同じグループメンバーだけではなく、他のグループの受講者とも接する機会をつくってあげましょう。

もう一つ、リモートではできないのが体を動かすことです。全身運動という意味ではなく、演習のときに立つ、机上でカードを手で並べ替える、機械を手で動かすようなイメージです。

交流があったとしても、このような動きがないならリモート研修で十分です。特別なイベントにする、というのは特別感やイベント感を持たせることです。

例えば、経営者やゲストスピーカーを呼んでみる、非日常的で特別な会場で実施してみる等。展示会やイベントと一緒に企画してもよいのですが、受講者が「わざわざ移動してみんなと一緒に受ける意味がある」ものだと納得できるようにしましょう。

4. リモート研修

ここ数年で対面研修が戻った分、リモート研修が減りました。私は講師として年間100回くらい登壇していますが、リモート研修はだいたい2割以下です。

ただ、大事なのは実施の回数や割合ではなく、リモート研修の質です。あくまで主観ですが、この1~2年でリモート研修の質が下がってきているようです。

受講者も講師も対面研修と比べて手を抜いている、一方的な解説で終えている、研修に適したプラットフォームを使わずにTeamsで定例会議の延長のような雰囲気で実施している、といったケースは少なくありません。とても残念なことです。

リモート研修は非常に重要で、実は研修のデフォルトやスタンダードにするべきものだと思っています。良いリモート研修のポイントを紹介します。

ブロックタイトル
  • リモート研修をデフォルトにする
  • 演習の割合を解説より多くする
  • ブレイクアウトルームとプロデューサーを必ず使う

リモート=講義中心の一方通行と思われがちですが、プラットフォームの機能を使えば解説中の受講者の反応はむしろ対面研修よりも得やすいです。例えば、投票する、反応マークを出す、チャットする、画面に絵描きをする等です。

リモート研修で絶対に避けるべきなのは、長く一方的な解説が多い講義です。おすすめは、解説部分のインプットを事前課題にして、研修中は演習中心にすることです。研修時間の50〜70%を演習とアウトプットに割きましょう。

その際、ブレイクアウトルームを積極的に使い、先ほどふれたプラットフォームの機能も使いましょう。「うちのプラットフォームにはその機能がない」「講師一人ではそこまで手が回らない」そんな言い訳は通じません。

リモート研修でふさわしいプラットフォーム(ベストはZoom、Webexでも良い)を用意するのは、対面研修でふさわしい会場を押さえると同様で、当然のことです。

講師一人ではすべてのリモート操作と運営はできないことも、かなり以前から分かっていることです。リモート研修は必ず講師ともう一人のテクニカルサポート(リモートプロデューサー)で実施することは、ベストプラクティスというより、今や常識です。

(参考:弊社ではリモート研修の際には必ず出社して、有線LANを使用し、プロデューサーと講師が隣に座り、外付けカメラと照明を使って実施しています。これはリモート研修の最低限のマナーと考えています)

5. オンデマンド研修

オンデマンド研修とは、eラーニングやマイクロラーニングのことです。

最近では10分程度の映像教材がメインとなっています。オンデマンド研修は使い方によってはとても便利なものです。

うまく活用するためのポイントはこちらです。

オンデマンド研修のチェックポイント
  • 受講者のニーズと一致させる
  • 行動につなげる
  • 内容の質を高める

ダメなオンデマンド研修の代表選手は、対面研修を三脚を使って録画した風景です。

逆に良いオンデマンド研修の特徴は、時間が短い(10分未満)、内容が分かりやすい、見やすいビジュアルが多い、集中力を維持できるよう講師のテンションが高い、音質が良い等です。

理想は、例えるなら取扱説明書やマニュアルのように、具体的な見本やデモンストレーションです。

オンデマンドの効果的な活用法としては、研修(対面でもリモートでも)受講前に解説部分をオンデマンドで見てもらっておくと、研修中の演習時間が増やせます。

また、研修目的が意識を高める、コンプライアンスといった場合には特に役立ちます。

最後に

多くの会社では4月から新しい年度が始まります。

来年度の人材育成施策でしっかりとビジネス成果が出せるよう、今回紹介したチェックポイントを活かして人材育成施策をブラッシュアップしましょう。

年間数百名の採用も!?リファラル採用を成功させるポイント|Take Action 成田

求人倍率の高騰や採用コストの増大、さらにはダイレクトソーシングの一般化に伴う「候補者の奪い合い」が激化する中で、自社にマッチした人材を低コストかつ高精度で獲得できる手法として、多くの企業が「リファラル採用(社員紹介採用)」を導入しています。

弊社が採用支援や定着支援を行っている企業でも、リファラル採用制度を導入する企業は増えていますが、適切なツールや運用の仕組みを構築しなければ、「なかなか紹介が生まれない」「短期的にしか成果が出ない」といった悩みを抱える企業が多いです。

これからますます注目度が高まると予想される「リファラル採用」。具体的にどのように取り組んでいけば良いのでしょうか。

執筆者成田 靖也株式会社Take Action 代表取締役社長 CEO

1984年生まれ。北海道出身。人材コンサルティング会社に入社後、当時最年少で名古屋支社長に就任。ただ、採用会社の入社させて終わりの顧客目線ではない手法に疑問を持ち、採用・定着・活躍まで支援できる究極のカタチを求め、25歳でTake Actionを設立。現在は、エンゲージメントを軸に経営課題を解決し続けることで、『採用・定着・活躍』3つの側面から企業成長を支援しています。

費用面と採用可能人数の両面で、従来の採用手法に限界を感じている

一般的に、採用活動においては

  • ナビサイトへの掲載
  • イベントやフェアへの出展
  • 人材紹介会社との提携

などの方法があります。しかし、どれも数十万円から数百万円単位での出費となり、1名採用するための単価は非常に高額です。

職種によっても異なりますが、中途採用の場合は年収の30〜35%ほどかかるケースもあり、企業経営において大きな負担となっています。

また、多くの企業で人手不足となっていることから、採用難易度も高まっており、転職顕在層をターゲットにした手法だけでは、採用できる人数にはある程度の限界があります。そのため、転職潜在層に認知してもらう手法として、テレビCMやSNS、動画活用などの手法を導入する企業も増えています。

ただ、これらの手法もすぐに応募に至る施策ではありません。そこで、転職潜在層にアプローチできる手法として、リファラル採用が注目されています。

多くの企業で、採用の重要度が高まっているからこそ、費用を抑えた上で、これまでアプローチできなかった層からも採用できるリファラル採用が多くの企業で次々に導入されています。

リファラル採用の導入企業は増え続けているものの、採用に至らないケースも多い

株式会社TalentXが2025年に発表した『リファラル採用の実施状況に関する企業規模・業界別 統計レポート』によると、リファラル採用の実施企業割合は、2018年版の調査では41.7%、2024年版の調査では62.0%、2025年版の調査では62.5%と増加し続けていることが分かります。

一方で、2022年4月にマイナビキャリアリサーチLabが公表した『中途採用状況調査2022年版』によると、リファラル採用を実施している309社の内、採用者ありの企業が44.3%、採用者なしの企業が55.7%となっており、「十分な成果が出ていない」という企業が多い状態です。リファラル採用制度自体はあるものの、上手くいかずに制度が形骸化している企業も少なくありません。

リファラル採用の成功と失敗を分けるのは「エンゲージメント」と「仕組み化」

リファラル採用でよくある課題としては、

  • 社員からの協力が得られない
  • 求めている人材とは異なる人材の紹介が発生してしまう

ことなどです。社員に情報量と情報頻度ともに充分な発信ができていない場合に発生します。

また、

  • 最新の求人情報がどこにあるか分からない
  • どういう形で会社に紹介すれば良いか分からない

という声もよくお伺いします。協力に前向きな社員からの紹介を逃してしまうため、非常にもったいないです。

一方で、リファラル採用経由で、継続的に入社が決定している企業では、リファラル採用を制度として導入し、専用のチームを組成したり、専用のツールを導入しているケースが多いです。紹介するハードルを下げる施策とリファラル採用を管理してPDCAを回す仕組みができており、1年の中で多少紹介者数の波はあれど、継続的に紹介が発生します。

リファラル採用で成功と失敗を分けるポイント
  • 紹介したいと思える会社であるかどうか(従業員エンゲージメントの高さ)
  • 継続的に紹介を生むための仕組み化

まずは従業員が紹介したいと思えるような会社を作ること、その次に紹介しやすいような環境を整えることが重要です。

リファラル採用の成功確度を高める3つのポイント

上述の通り、リファラル採用を成功させるためには、まず従業員が友人や知人に会社を紹介をしたいと思ってもらえることが必要です。感謝や承認の文化を醸成することや、企業理念を浸透させることなど、自社の組織における強みを伸ばし、弱い部分を解消しましょう。

また、「いきなり選考」ではなく、「まずはカジュアル面談やランチ、社内イベントへの参加から」などといった、低いハードルを設置することも効果的です。選考の前にまずは会社を知ってもらった上で、選考を受けるかどうかは当人に判断してもらうことで、紹介するハードルが一気に下がります。

紹介するハードルを下げるとともに、もし不採用になった場合でも、紹介した社員に丁寧にフォローを行うことも忘れずに行ってください。

その他、社内掲示板を活用し、定期的に求人情報や採用状況を発信して、協力してもらうための仕組みを作ることが重要です。

社員からの紹介を自然に生み出すには
「採用」が社員の意識から離れないよう、継続的にコミュニケーションを取ることが、紹介を生み出すポイントです。リファラル採用ツールであれば、社内向けの発信の他、求人情報、紹介案件の進捗、選考結果なども一元管理でき、人事担当者の業務負荷が大幅に軽減されます。

年間200名以上も!?リファラル採用で圧倒的に実績を出している企業事例

事例1:株式会社フレスカ

岡山県を中心に焼肉店などを展開する株式会社フレスカでは、アルバイトを中心に年間200名以上のリファラル採用が発生しています。

サンクスカードツールを活用して、従業員同士で感謝や称賛を伝え合うことで、従業員のコミュニケーションを活性化させています。

社内掲示板では、新メンバー紹介や社内イベント情報が多く投稿されており、エンゲージメント向上と社内の情報発信にかなり力を入れています。

リファラル採用を制度として導入し、制度の定期的な情報発信を行うことや直接協力を依頼することなどによって、アルバイトが友人を誘うサイクルが当たり前化しており、年間200名規模の採用を実現し、媒体掲載や人材紹介に頼らない店舗運営を可能にしています。

事例2:株式会社INGS

全国各地で飲食店経営やFCプロデュース事業を展開する株式会社INGSでも同様にアルバイトのリファラル採用でかなりの実績が生まれています。2022年は56名、2023年が95名、2024年も95名と、アルバイトの1〜2割はリファラルで採用しています。

社内掲示板を活用して、募集情報を伝えるとともに、毎月リファラル採用に協力してくれた人を掲載してお礼を伝える取り組みを行っており、紹介者を表彰することで、リファラルの紹介が生まれやすい仕組みや雰囲気作りを行っています。

アルバイトから正社員への登用も年間20名弱生まれており、従業員エンゲージメントを高めることによって、社員が定着・活躍する環境を整えています。

リファラル採用は始めるのは簡単だが、成果を出すことは難しい

リファラル採用自体は、制度を作って走り出すこと自体は難しくありません。ただ、継続的に紹介してもらい、そこから内定者を出し続けることはかなり難易度は高いです。

まずは社員がリファラル採用に協力したいと思ってもらえるような組織作りを行うこと、そして、従業員に紹介してもらうために、紹介ハードルを下げる施策と定期的な情報発信が重要です。

ぜひ、組織作りとリファラル採用の仕組化の両面を強化し、リファラル採用を成功させてください。

“経験ゼロ”の人が活躍できる組織は、何が違うのか?|CTF GROUP山本

多くの企業が「即戦力」を求めます。

もちろん、その考え自体が間違っているとは思いません。限られた人員で成果を出さなければならない以上、即戦力という視点が出てくるのは自然なことです。

ただ、即戦力を前提にした組織づくりには、一つの大きな落とし穴があります。それは、人が育たない組織になることです。

執筆者山本 真聖株式会社CTF GROUP  代表取締役

2018年 大手営業支援会社にインターン生として入社、新規事業の立ち上げやインサイドセールスチームの構築、経営者へのビジネスマッチングなどを経験。 2019年大手営業支援会社へ入社し、営業部で年間約1000人の経営者へのソリューション営業に従事。マネージャー職として社員管理とチーム売上管理に従事し売上拡大に貢献し、2021年に当時の東証マザーズへの上場を経験。 その後、マーケティング全般(インバウンド、アウトバウンド)のご支援を強みとした株式会社CTF GROUPを設立。CTF GROUPでは、正社員と在宅フリーランスを組み合わせた営業支援モデル「ZERO UNIT」をはじめ、複数の独自サービスを提供。創業からわずか3年で売上前年比1,700%、累計受注額20億円を突破。

即戦力前提の採用から、育成前提の組織へ

日本企業を俯瞰して見ると、多くの企業において「即戦力」を求める傾向あることが非常に分かりやすく表れています。

日本の企業は、有事には驚くほど強い。危機的な状況に追い込まれると、一気に意思決定が速くなり、組織がまとまり、V字回復を遂げる企業も少なくありません。

一方で、平時に入ると成長が横ばいになる企業が多いのも事実です。外部環境が安定すると、変化のスピードが落ち、挑戦が後回しになる。この「平時の過ごし方」が、企業の将来を大きく左右していると感じています。

CTF GROUPでは、未経験者や新卒メンバーが組織の中心となって活躍しています。その理由はシンプルで、私たちは最初から「育成されること」を前提に組織を設計しているからです。

経験は、採用段階で完成しているものではありません。仕事の中で負荷をかけ、数字と向き合い、失敗を繰り返す。その過程でしか身につかないものだと考えています。

新卒や未経験者がつまずく“本当のポイント”

未経験者がつまずく理由は、スキル不足ではありません。多くの場合、問題はもっと構造的なところにあります。

ポイント①:「何をどこまでやれば正解なのか」が見えていないこと

一つ目は、「何をどこまでやれば正解なのか」が見えていないことです。ゴールが曖昧なままでは、努力しても手応えを感じることができません。自分が前に進んでいるのか、方向を間違えているのか、その判断がつかない状態が続きます。

ポイント②:成果と評価のつながりが分からないこと

二つ目は、成果と評価のつながりが分からないことです。どの行動が評価され、どの結果が次につながるのかが見えないと、人は次の一手を選べなくなります。頑張っても評価の理由が分からない状態は、成長意欲そのものを削いでしまいます。

ポイント③:周囲の基準値が分からないこと

三つ目は、周囲の基準値が分からないことです。自分が今どの位置にいるのか、何を基準に「できている」と判断されるのかが分からない。この状態では、無意識のうちに行動のスピードも質も落ちていきます。

この3つが重なると、どれだけ意欲があっても人は迷います。これは未経験者に限った話ではありません。平時に緊張感を失った組織でも、まったく同じ現象が起きています。逆に言えば、基準と期待値が明確であれば、経験の有無は大きなハンデにはなりません。むしろ、基準がはっきりしている環境のほうが、未経験者は早く成長します。

CTF GROUPが実践する“育成プロセス”

私たちが育成において最も重視しているのは、「平時でも有事のような緊張感を持たせること」です。

日本企業は、有事になると一気に動き出します。しかし、平時になるとその緊張感が薄れ、変化への感度も下がってしまう。CTF GROUPでは、この状態こそが最大のリスクだと考えています。

そのため、売上目標やKPIは、一般的に見ればかなり高い水準を設定しています。いわば狂気の数字です。

ただし、それを精神論で追わせることはしません。数字の意味、背景、達成できなかった場合に事業へどのような影響が出るのかまで含めて、すべてを言語化し、共有します。

メンバーは、ただ数字を追うのではなく、自分の行動が事業にどう影響しているのかを理解した上で動く状態になります。この緊張感があるからこそ、成長速度は一気に上がります。ぬるい環境では、人は本気になれません。

フィードバックより“仕組み”で動かすオンボーディング

育成というと、上司からのフィードバックや1on1を想像する方も多いと思います。もちろん、それらも重要です。

ただ、CTF GROUPでは、フィードバックよりも先に「仕組み」を作ります。誰がやっても同じ判断になるルール、数字で見える評価軸、行動と成果が直結する設計。これらが整っていれば、上司が細かく指示を出さなくても、人は自ら動き出します。

常に数字が可視化されていることで、平時であっても自然と緊張感が保たれる。人を育てるのではなく、人が育つ環境を作る。それが、私たちのオンボーディングの考え方です。

成果を出したメンバーが育成者になる“循環型”の文化づくり

もう一つ大切にしているのが、育成を特別な役割にしないことです。

CTF GROUPでは、成果を出したメンバーが、次の育成者になります。 教える立場に回ることで、自分の仕事を言語化し、再現性を高めることができるからです。

この循環が回り始めると、組織は一気に強くなります。育成が属人化せず、文化として根付いていく。結果として、未経験で入社したメンバーが、数年後には組織を引っ張る存在になっていきます。私たちは、この循環を意図的に作り続けています。

経験ゼロでも活躍できる組織の正体

経験ゼロの人が活躍できる組織は、優しい組織ではありません。むしろ、基準が高く、数字に厳しく、緊張感のある組織です。

ただし、その厳しさは感情ではなく、構造で支えられている。だからこそ、人は折れずに成長できる。有事になってから変わるのではなく、平時から変わり続ける。 これが、CTF GROUPが考える「経験がゼロでも活躍できる組織」です。

未来の経営幹部を獲得する。ハイレイヤー採用の新常識 〜HR LEADERSレポート〜

企業の非連続な成長に不可欠な「ハイレイヤー人材」。しかし、彼ら、彼女らは従来の採用手法が通用しない、転職市場にはなかなか現れない存在です。

YOUTRUSTが主催するイベント『HR LEADERS』では、採用戦略の最前線を走る株式会社ReBoostの河合 聡一郎氏、株式会社ナレッジワークの徳田 悠輔氏、そして株式会社YOUTRUSTの岩崎 由夏が登壇。ハイレイヤー人材を惹きつけ、採用へと導くための具体的な戦略と実践知が語られました。

本レポートでは、明日から使える「採用の逆転発想」と、それを支える組織・制度設計の秘訣に迫ります。

登壇者河合 聡一郎株式会社ReBoost 代表取締役

大学卒業後、大手印刷機械メーカー、リクルートグループを経て、株式会社ビズリーチの立ち上げ期を経験。その後は複数社を経て、ラクスル株式会社の創業メンバーとして参画。人事マネージャーとして、経営幹部をはじめとした多様なポジションの採用、評価制度構築/運用、採用広報、カルチャー浸透など、幅広い人事業務を中心とした会社創りに従事。2017年、株式会社ReBoost創業。未上場/上場問わず、スタートアップを中心に組織/採用戦略の策定と遂行支援を行う。累計で約40社へのエンジェル出資や、VCとの提携を通じた出資先の人事領域全般を支援。経産省のスタートアップ向け経営人材支援事業、SHIFT(X)審査委員。また「J-Startup KANSAI」、「AICHI Manufacturing Acceleration Program」、「NEXs Tokyo」において起業家に対してのメンターを務める。

登壇者徳田 悠輔株式会社ナレッジワーク HR 執行役員 VP

2014年、東京大学文学部卒業。 株式会社ディー・エヌ・エー入社。セールス職、人事職に従事。子会社管理部長、 HRBP等を務める。2022年、株式会社ナレッジワーク入社。2023年、HR 執行役員 VPに就任。現在は人事部門にコーポレートIT・AI活用推進部門を統合したResource Management Unitを管掌。

登壇者岩崎 由夏株式会社YOUTRUST 代表取締役 CEO

大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。採用担当として経験を積む中で、求職者にとってフェアでない転職市場に違和感を覚え、起業を決意。「日本のモメンタムを上げる 偉大な会社を創る」というビジョンを掲げる、株式会社YOUTRUSTを2017年に設立。2018年4月にリリースした、日本のキャリアSNS「YOUTRUST」は累計ユーザー数は約40万人に成長。

モデレーター石原 沙代子株式会社YOUTRUST ヒューマンリソース部 部長

大学卒業後、サイバーエージェント入社。人事本部にてエンジニア新卒採用立ち上げに携わる。その後、医療法人で経営企画と医師採用を経験し、金融教育のABCashにて執行役員CHRO、女性のためのコーディングブートキャンプMs.Engineer取締役CHROを経て、株式会社YOUTRUSTへ参画。現在はヒューマンリソース部部長として採用全般を管轄。

なぜ今、ハイレイヤー採用が企業の成長を左右するのか?

企業の成長フェーズが進むにつれ、求められる役割は変化し、ハイレイヤー採用の重要度は増していきます。特にスタートアップが非連続な成長とガバナンス強化を目指すフェーズでは、CFOやCTO、CHROといった経営幹部の獲得が事業の成否を分けると言っても過言ではありません。

しかし、ハイレイヤー人材の採用は、従来の採用手法が通用しにくいのが現実です。そこには「認知の壁」「母集団形成の壁」「競争で勝てない」という、大きく3つの壁が存在します。

では、これらの壁を乗り越え、事業価値の向上に貢献できる人材を獲得するために、成長企業はどのような戦略を描いているのでしょうか。

採用の常識が変わる。第3の採用手法「ネットワークリクルーティング」とは

セッションでは、まずReBoost河合氏、YOUTRUST岩崎、ナレッジワーク徳田氏が、従来の採用手法が通用しなくなった背景と、それに代わる新しい採用の潮流について議論しました。

「Hiring」から「Seeking」へ。未来を見据えた採用戦略

そもそもハイレイヤー人材は、転職市場に出てこないと言われています。この現状について、皆さんはどうお考えですか?

ReBoost 河合:

まさにその通りで、採用の考え方を「Hiring」から「Seeking」に変える必要があります。今すぐ必要なポジションを埋めるのが「Hiring」だとすれば、「Seeking」は1年後、2年後の自社にとって変革をもたらす人材を、時間をかけて探し続ける活動です。転職潜在層、あるいは転職意欲がない層にアプローチし、継続的な関係性の構築を行いながら口説いていくのが「Seeking」ですね。

採用手法の変遷:第3世代「ネットワークリクルーティング」の到来

採用手法の変遷も大きく関係しています。終身雇用が当たり前だった時代、転職は人生の一大イベントで、プロであるエージェントに頼むのが主流でした。これが第1世代です。その後、平均転職回数が2回を超えると、候補者自身が直接企業とやり取りするダイレクトリクルーティングが第2世代として一般化しました。

そして今、平均転職回数が3回に近づく中で、第3世代である「ネットワークリクルーティング」の時代が来ています。3回も転職を経験すると、そのネットワークは広がり、「知り合いに副業を頼まれていたら、そのまま誘われた」といったケースが当たり前になる。特にトップティアの人材は、気づくと転職している世界線にいます。いかに「つながり」のネットワークを張れているかが、採用のキーになっているんです。

ナレッジワーク 徳田:

ネットワークリクルーティングの良い点は、競合しないことです。候補者の目線では「現職に残るか」「(自社に)チャレンジするか」という二択になるので、採用の勝率が上がります。また、長いリードタイムでしっかりコミュニケーションが取れるため、ミスマッチも起こりにくい。非常に良いマーケットだと感じています。

【実践編1】ナレッジワークに学ぶ、ハイレイヤー採用の「3つの逆転発想」

続いて、議論はより具体的な採用戦術へ。モデレーターの石原が、ナレッジワーク徳田氏に、同社が実践するユニークな「6つの逆転の発想」について詳しく聞きました。

ハイレイヤー採用を成功させるには、採用に対する考え方そのものを変える必要があると感じます。ナレッジワークさんが掲げる「採用の逆転の発想」について、詳しくお聞かせいただけますか?

ナレッジワークにおける採用の逆転発想
  1. 「採用できる人」から採用するのではなく、「採用したい人」から採用する
  2. 「ファネル」で管理するのではなく、「プール」で管理する
  3. 応募数を「増やす」のではなく、応募数を「絞る」
  4. 「最後に」オファーするのではなく、「最初に」オファーする
  5. 「現場」が口説くのではなく、「人事」が口説く
  6. 「合うか合わないか」ではなく、「合わせるか合わせないか」

アトラクトを最優先に。「採用したい人」に会いに行く

ナレッジワーク 徳田:

僕らにとって一番の学びは「前工程に力を注ぐ」、つまり最初が全てを決めるということでした。例えば以前、「次の仕事を考え始めているらしい」という噂を聞いた優秀な方が北海道にいると知り、ファーストコンタクトで、私と役員陣の計4名で会いに行きました。

アセスメント(見極め)の工程を挟まずに、ですか?

ナレッジワーク 徳田:

はい。最初から「この方なら絶対大丈夫」と確信している方を採用しに行くので、見極めは後でしっかり行えばいいんです。北海道にいらっしゃる方のケースでは、仮説を立てた上でファーストコンタクトから「なぜあなたに関心を持っているか」「なぜあなたにナレッジワークキャリアを提案したいか」をプレゼンして、本気度を伝えました。最初の段階でどれだけアトラクトできるかが、潜在層を顕在化させる決め手になります。

候補者の「本気」を引き出す、最初のオファー

「『最後に』オファーするのではなく、『最初に』オファーする」というのも非常に興味深いです。

他社の条件提示を待ってから、最後に上乗せしてオファーを出すのが一般的ですよね。

ナレッジワーク 徳田:

はい。ですが、CXOクラスのような方々は、そもそもそれほど多くの企業の選考を並行して受けてくれているわけではありません。だからこそ、選考を始める前に一番最初に「これぐらいの報酬で、これぐらいの責任を負ってほしい」と提示報酬の見込みを具体的に伝えるんです。そうしないと、本腰を入れて動いてくれません。リアルな条件を伝えて、本気で考えてもらうためのアプローチです。見込みの提示なので、もちろんその後にスキルチェックやリファレンスチェックなど双方にとってのフィットを徹底的に確認していきます。

コミュニケーションの主軸を担う「口説ける人事」

「『現場』が口説くのではなく、『人事』が口説く」というのは、人事の役割として具体的にどういうことでしょうか。

ナレッジワーク 徳田:

弊社ではタレント人材の採用を専門で担う江良という専門役員がいます。彼は候補者とのコミュニケーションを絶対に途絶えさせません。多くの企業が「来週、社長と面談です」と伝えてから1週間、候補者さんとのコミュニケーションを止めてしまう間に、彼は毎日連絡を取り、関係性を深め続けます。あるエグゼクティブ候補者には、毎朝の定例MTGを組んでいました。このコミュニケーションの主軸を人事が担えるかで、候補者の熱意は大きく変わってきます。

【実践編2】採用を成功に導く、組織と制度の作り方

ハイレイヤー採用を成功させるには、採用手法だけでなく、それを支える組織や制度の設計が不可欠です。セッションの後半では、3名がそれぞれの経験を基に、具体的な組織・制度設計の秘訣を語りました。

経営と人事の連携:採用の優先順位を毎週アップデートする

ハイレイヤー採用を成功させるには、採用手法だけでなく、それを支える組織や制度も重要です。河合さんは、どのような組織作りが必要だとお考えですか?

ReBoost 河合:

まず、経営陣とどれだけ密に連携できているか。特に重要なポジションの採用に関しては、ウィークリーで経営陣と経営や事業、組織課題が何かを同期できていますか?という点が全てです。ハイレイヤー採用におけるポジションの優先順位は市況や事業フェーズによって常に変わります。この認識がズレると、追いかけていたタレントプール内におけるコミュニケーションの仕方だったり、運用方針に支障が出る可能性があります。社内のタッチポイントを密にすることが非常に重要です。

「採用は人事の仕事」というマインドを変えることも必要ですよね。弊社では、マネージャーに昇格する際に「儀式」を行っています。「自分でチームを作れること」のようなマネージャーに必要な5箇条を満たせなければマネージャーにはしないし、昇格後もできなければ降格させると明確に伝えています。

候補者のために制度を変える、アジャイルな報酬設計

徳田さんは、報酬設計において「実態主義」「即納主義」「構造主義」と掲げています。これはどのような考え方なのでしょうか?

ナレッジワーク 徳田:

「誰かのためにではなく、目の前の人のために」「いつかの備えではなく今目の前で」「個別対応ではなく全体対応を」というスタンスです。例えば、ある候補者の採用のために1週間程度でSO(ストックオプション)の制度を作ったこともあります。企画をする人事が最前線で候補者の要望を拾い、会社のシステムを作り替えていく。個別の特別対応ではなく、全社に適応できるシステムとしてスピーディーに設計することで、組織をできるかぎり歪ませずに対応しています。

経営視点を持つ人事の重要性

「人が良い人だけを人事にするのではなく、頭が良い人を人事にする」というのも本質的ですね。

ナレッジワーク 徳田:

ありがとうございます。採用は複雑で難しい仕事です。特にハイレイヤー採用では、会社のシステムを変える思考や、PLを理解し「この人に投資すれば、どれだけのリターンがあるか」を経営陣に数字で説明できる能力が求められます。経営者としては、数字で返ってくると非常に判断しやすいはずです。

ReBoost 河合:

ハイレイヤー人材とのコミュニケーションも同じです。「ビジョンやミッションの実現に向けてどれくらい難易度が高い課題があり、どのような面白さがあるか」や、「あなたの中長期でのキャリアにおいて、どれだけのリターンがあるか」を論理的に説明できることが重要です。究極的には、オファー時に財務諸表を全て見せて「この数字を見て、あなた自身で報酬を決めてください」と交渉することもあります。曖昧な中で意思決定をすることも、ハイレイヤー人材に求められる素養だと思っています。

Q&Aセッション:現場のリアルな疑問に答える

セッションの最後には、参加者からリアルタイムで寄せられた質問に登壇者が答えるQ&Aタイムが設けられました。会場の関心の高さがうかがえる多くの質問の中から、特に現場の採用担当者が抱えるリアルな疑問をピックアップしてご紹介します。

Q1. ハイレイヤー採用の成功率は何割くらいだと考えますか?

ReBoost 河合:

会社のフェーズによりますが、五分五分くらいではないでしょうか。それは候補者が悪かったのではなく、会社側が受け入れきれなかったというケースも多い。その失敗から何を学ぶかが重要です。

経営者としてはポートフォリオ思考なので、どこかが失敗しても全体がうまくいけば良いと考えます。一方で、人事のスタンスとしては「採用にミスはない」と考えるべきです。入社した人が活躍できていないとしたら、それは受け入れ側の自分たちの責任だと。このスタンスの違いを理解することが大事だと思います。

Q2. ハイレイヤーのアセスメント(評価)は具体的にどう行っていますか?

ナレッジワーク 徳田:

アセスメントは徹底的に行います。その中で、「カルチャーに合うか合わないか」ではなく、「お互いにどう合わせていけるか」というすり合わせのコミュニケーションを重視しています。

ReBoost 河合:

私は「これまでで最大のアンラーニング(学習棄却)の経験は何か」を必ず聞きますね。環境が大きく変わる中で、過去の成功体験を捨てて自分自身をどう変えてきたか。変えざるを得ないほどのミッションは何だったのか?なぜ変えようと思ったのか、結果はどうだったのか?などです。そのプロセスを聞くことで、変化への対応力が見えてきます。

Q3. ハイレイヤー人材のオンボーディングは、どのように行っていますか?

ReBoost 河合:

(前職での話なりますが)私たちの場合は、採用プロセスそのものがオンボーディングでした。例えば、選考段階で経営会議に参加してもらい、会社がどのようなレベルで、どういう議論をしているのかを体感してもらう。入社後の期待値を事前にすり合わせることを徹底していました。現在は出資先やご支援先に関してで言うと、面接時に伝えたり、オファーレターに「入社後から半年までの期待値」を細かくロードマップ化して、事前に期待値をすり合わせるような提案をしています。明確に「この人を育てる」と決めて、コミットするようにしています。誰がその人を引き上げるのか、伴走役を必ず決めていますね。

Q4. ハイレイヤー採用では、どのようなKPIを設定していますか?

ナレッジワーク 徳田:

応募獲得数のような、従来のファネル型のKPIは設定していません。その代わりに「ヨミ」という概念で管理しています。これは、採用したい人のリスト100人の中から、「オファーを出す確率」と「承諾してくれる確率」を掛け算して作る、いわば売上予測のようなものです。大手企業向けの営業が、リード数ではなくパイプラインの総額で管理するのに近い考え方ですね。たくさんの方にお声掛けして集めるのではなくて、一人ひとりの候補者に対して、いかに「ヨミ」を高めていくか、という活動を追いかけています。

編集後記:採用の常識を疑うことから始まる、未来の組織づくり

今回のイベントで3社から一貫して語られたのは、ハイレイヤー採用がもはや単なる「人事の仕事」ではなく、「経営そのもの」であるという事実でした。

転職市場に現れないトップタレントを迎え入れるために、採用の常識を疑い、候補者のために制度を変え、経営陣が毎週コミットする。それは、採用活動という枠組みを超え、会社というシステムのあり方を常に問い直し、未来から逆算して組織をデザインしていく営みそのものです。

「Hiring」から「Seeking」へ、そして「待ち」から「仕掛け」へ。今回の議論は、企業の非連続な成長を本気で目指すすべてのリーダーにとって、採用戦略の、ひいては経営戦略の転換を力強く迫るものでした。

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