生成AI時代のエンジニア採用:採用担当者が今すぐ考えるべき3つの視点|ハイヤールー葛岡

株式会社ハイヤールーの代表、葛岡です。

執筆者葛岡 宏祐氏株式会社ハイヤールー 代表取締役
1996年生まれ、最終学歴中卒。2018年にAIエンジニアとして株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2020年2月にテックリードとして株式会社メルカリに入社。同年12月に株式会社ハイヤールーを創業。
私は中卒の経歴ながら、独学でコンピューターサイエンスを学んできました。しかし、学歴を理由に採用試験では門前払いされることもありました。そうした経験から、スキルを重視した採用のあり方を考えるようになり、ハイヤールーを立ち上げました。
ここ数年、特にこの一年間は、生成AIが業務にも使われるようになり、エンジニア採用にも変化が生じてきています。事実として、エンジニアという職種に対し期待することが変化し、見極める観点も変わってきたという話も聞くようになりました。その結果、採用計画を増やす企業、減らす企業どちらも現れています。
外部環境は変化している。しかし、企業としてはどのように対応すればいいのか。今回は、エンジニア組織向けプラットフォームを提供するハイヤールーがエンジニアの方々、そして採用企業と対峙する中で「採用担当が今やるべき」と感じていることをご紹介します。
目次
今、エンジニア採用市場で何が起きているか

生成AIの登場により、わかりやすく変化したのは「職種」です。職種の統合と新職種の出現がみられるようになりました。
フロントエンド・バックエンドといったこれまでの明確な分業が崩れ、「プロダクトエンジニア」への統合が進んでいく方向であることは、エンジニアと会話していてもわかるのではないでしょうか。
加えて、AIを使った開発運用(AIOps)や、自律型AIエージェントを管理する「AI Agent Manager」など、これまで存在しなかった役割が生まれつつあります。実際にLayerX社では、「AIオペレーションマネージャー」という職種が新設されたようです。
この変化により、人事担当者が最も直面するのは『評価軸の変化』です。これまでよりも、言語やフレームワークを使うような単一の技術スキルの評価の比重は下がり、課題を定義・要件化・AIを活用して検証まで進められる“課題解決型エンジニアリング”能力が重視されるようになってきています。
これによって、AIを活用するスキルを持つジュニア層は、プログラミング自体の経験不足でも即戦力化のチャンスが広がりつつあります。
そんな中、日本の採用プロセスは依然として学歴・職歴重視の企業が多く、米国ビッグテック企業のようなスキルを軸とした評価文化と格差が広がっています。ハイヤールーに投資いただいており、海外でのエンジニア採用経験もある元メルカリCTOの若狹氏は、「日本の採用文化は、世界の採用市場から取り残されている」と語っていました。
これからを生き抜くITエンジニアに必要なスキル

改めてここで、これからのエンジニアに必要なスキルについて考えていきます。
①高度な課題解決力
これまで人事の方は、職務経歴書を見ながら 「Reactを使えるか」「Kubernetesを使ったことがあるか」を確認していたと思います。
しかしこれからは、手段ではなく「課題解決」の能力が重視されます。顧客の要望や業務フローの曖昧さを掴み、AIが扱える粒度まで分解し、データ・指標・リスクを構造化することで、課題解決に近づけるのです。
この、課題→要件→検証のプロセスを、AIを活用しながらより短期間で回せることが重要視されます。
②AIオーケストレーション能力
CopilotやCursor、Devinといった生成AIツールを活用し、MVPを迅速に立ち上げることができることも重要です。
AIを補助的に活用するのではなく、自分が指揮官となってAI全体をマネジメントする感覚が求められるでしょう。
③倫理・セキュリティ設計力
AIのブラックボックス性や著作権・情報漏洩リスクを踏まえた設計・監査能力も重要です。
2024年には、欧州(EU)AI規制法である「EU AI Act」も発表されました。このような世界情勢を踏まえ、規制対応まで織り込んでサービスを設計する人材がいることが、組織の“最後の守備”となるはずです。
これらの能力を持ち合わせることで、仮説検証サイクルの速さは急速に上がります。そのスピード感や変化についてこれる人材かどうかも、重要な見極めポイントになるでしょう。
では、今企業は何をすべきなのか

これまでAIの登場によるITエンジニアへの影響を語ってきましたが、今度は人事・採用担当者が具体的にどのようなアクションを取るべきかについて説明したいと思います。
取り組むべきこと①
:評価基準を刷新する・AIの要素を加える
貴社はこれまでの採用基準で、学歴や職歴のフィルターを重視していませんでしたか?重視していないつもりでも、「〇〇社出身だから書類選考を通過させよう」など、実はスキル以外の要素で判断している企業が多いのが現実です。
今後は、「課題を構造化し、AIを活用して価値を生み出せるか」という実力を評価する仕組みが必要です。とはいえ、これは大きな構造改革となるため、本腰を入れて取り組んでいる企業はまだ多くないのが現状です。また、AIを前提としたスキル評価の方法を確立するのは難しく、すでに検討を進めている企業もごく一部にとどまっています。
もちろん、これは採用だけの課題ではありません。社内に在籍するエンジニアにも共通するテーマです。改めて必要なスキルを定義し直し、自社がAI時代に対応できる組織かどうかを俯瞰して把握する必要があります。
取り組むべきこと②
:AIネイティブ人材を積極的に登用する
AI活用スキルの有無によって、ソフトウェア開発の生産性には大きな差が生まれることは明白です。“コードをただ書くだけ”の業務は、すでにAIに代替されつつあります。抽象化力や事業や技術のドメイン理解力を持つ人材の採用が鍵となります。
AI活用に対して積極的かどうかを図るため、これまで「プログラミング言語」の経験を問うてきた採用選考から、「AIエージェントツール」の使用経験を問う形に変わってきているはずです。
併せて、各社は判断できる程度にはAIエージェントツールを使い、現状のAIの技術発展の状況を理解し、どのような体制が自社のAIを用いたソフトウェア開発のプロセスとして正解なのか考え続ける必要が生じます。
取り組むべきこと③
:エンジニアのキャリアパスの多様性を提示する
前述の通り、「AI Agent Manager」という職種が出現しています。これから新たな職種は他にも発生することでしょう。
また、弊社の投資家であり、Chatworkを運営するkubell社の山本代表は、今後エンジニアのキャリアパスが大きく3つの方向に分かれていくと述べています。
技術が好きな人
アルゴリズムやOSなどディープな領域に関心があり、テックリードやリサーチャーの道に進むタイプ。これまで比較的多くのエンジニアがこのキャリアを目指してきたようにも感じられますが、変化が大きい時代になり、エンジニアの志向も変化するかもしれません。
プロダクトが好きな人
技術を手段として捉えているタイプで、フルスタックでプロダクトを作ることに喜びを感じる人です。エンジニア出身のプロダクトマネージャーを目指すケースもあるでしょう。
組織が好きな人
開発プロセスやアジャイルの導入等、エンジニアリング組織そのものに関心があり、エンジニアリングマネージャーやVPoEのような、ピープルマネジメントの道に進むタイプ。
取り組むべきこと④
:採用プラットフォームの活用
Cursor AIやClineなど、ソフトウェア開発におけるAIの活用スキルを可視化できる採用プラットフォームの活用が必要です。
ハイヤールーの提供するサービスを使用することもその選択肢の一つですが、まずはその前に「スキルを測る」採用スタイルへの転換が急務です。自社にあった人材を定義し直し、その人材の発掘精度を高める努力が必要です。
今後のエンジニア採用市場はどう変わるか?

これらの変化によって、ソフトウェア開発におけるエンジニアの必要人数が減り、エンジニア採用自体が簡単になるかと言えば、そういうわけでもありません。
単に、「競争優位の源泉の移動」がおきていると言えます。従来の実装技術よりも、ビジネス課題に近い高レイヤーの課題設定力・検証力が、エンジニアとしての生存戦略を左右します。
スキルや評価基準が変われば、今まで陽の当たらなかった人材に陽が当たる、という可能性もあります。なのでチャンスだと捉えるエンジニアの方もいるでしょう。
何よりもこれからの市場変化において必要なのは、エンジニアは変化を恐れずAIを強力なツールとして使いこなすこと。そしてエンジニアを採用する企業は、その姿勢を理解し、適正に評価する努力を惜しまないこと。それが、これからのIT全体の市場を成長させることにつながると信じています。
最後に
ソフトウェア開発のスキルは正しく評価できていますか?AIを活用してコーディングすることで、スキルの評価はさらに難しくなっていくことが予想されます。
感覚に頼らず、「スキルを測る」採用スタイルへの転換には、プラットフォームの導入が必要です。スキルを測る採用の実現の一手として、ハイヤールーのサービス導入もご検討ください。
採用から見極めまで実現できる All-in-One エンジニアリング組織プラットフォームを提供中!
HireRoo Skill Interview:エンジニアのスキル見極め
エンジニア採用において、候補者のスキルを正確に評価することは極めて重要です。AI時代のスキル面接サービス「HireRoo Skill Interview」では、事前課題と面接時の深掘りを通じて、ハードスキルとソフトスキルの両面から候補者を可視化し、採用後のパフォーマンスに直結する判断材料を提供します。これにより、公平かつ効率的な選考プロセスを実現し、企業の最適な人材選びを支援します。
HireRoo Skill Hiring:エンジニア人材と企業の最適なマッチング
従来の採用手法では見逃されがちだった、即戦力層以外の高スキル人材にも着目し、ポテンシャルを正しく評価・提示できる仕組みを構築。「スキル保証型採用」の HireRoo Skill Hiringは、スキルが可視化された状態で候補者と企業をマッチングし、採用ミスマッチの低減と、エンジニア一人ひとりが真に活躍できる環境との出会いを実現します。
成果を出しやすいフリーランスの活用方法とは|CTF GROUP山本

働き方が多様化する中、専門性やスピード感を重視する企業にとって、フリーランス人材の活用は大きな可能性を秘めています。固定的な雇用に縛られず、必要な時に必要なスキルを持つ人材と連携できる点は、競争力強化の大きな武器です。
一方で、成果を最大化するためには、単なる業務委託にとどまらず、フリーランスを「共に成果をつくるパートナー」として位置づける意識が求められます。

執筆者山本 真聖氏株式会社CTF GROUP 代表取締役
2018年 大手営業支援会社にインターン生として入社、新規事業の立ち上げやインサイドセールスチームの構築、経営者へのビジネスマッチングなどを経験。 2019年大手営業支援会社へ入社し、営業部で年間約1000人の経営者へのソリューション営業に従事。マネージャー職として社員管理とチーム売上管理に従事し売上拡大に貢献し、2021年に当時の東証マザーズへの上場を経験。 その後、マーケティング全般(インバウンド、アウトバウンド)のご支援を強みとした株式会社CTF GROUPを設立。CTF GROUPでは、正社員と在宅フリーランスを組み合わせた営業支援モデル「ZERO UNIT」をはじめ、複数の独自サービスを提供。創業からわずか3年で売上前年比1,700%、累計受注額20億円を突破。
フリーランスと正社員の根本的な違い
まず強調したいのは、正社員とフリーランスは「根本的に異なる前提」で成り立っているということです。
正社員は「長期的な育成を前提にした存在」であり、多少時間がかかっても会社の中核を担う戦力として育てていきます。一方でフリーランスは「成果を前提とした即戦力」です。プロジェクト単位でスキルを発揮し、成果物を納品することに価値があります。
ですから企業側も、両者を同じように扱ってはいけません。正社員には「成長と挑戦の機会」を、フリーランスには「成果を出しやすい明確な業務範囲と条件」を。それぞれに適した設計を行うことが大切です。
今は、どの業界でも「優秀な正社員を採用すること」が年々難しくなっています。給与水準を上げても、カルチャーや働き方の面でフィットする人材を採用し続けるのは容易ではありません。
ただ、私は「優秀な人材を増やすことは難しくても、正社員の生産性を倍にすることは可能」だと考えています。
私たちは正社員の業務を「重要度 × 緊急度」のマトリクスで分けています。
- 重要かつ緊急な業務 :正社員が集中すべきコア領域
- 重要だが緊急でない業務 :正社員の成長投資領域
- 緊急だが重要度の低い業務:フリーランスに外注する領域
- 重要でも緊急でもない業務:極力削減すべき領域
この仕分けを徹底すると、正社員は「本当に価値を生む仕事」に集中できます。一方で、フリーランスは「即成果が出る仕事」で力を発揮できる。結果として、正社員の生産性は飛躍的に高まり、組織全体が加速していきます。
CTF GROUPが目指しているのは、単なるコスト削減のための外注ではありません。「採用力 × 生産性向上」=成長の掛け算を実現することこそ、フリーランス活用の本質的な意味だと考えています。
具体的なフリーランスの集め方
CTF GROUPでは以下の手法を用いてフリーランスを集客しています。
- クラウドソーシング(Crowdworks・ランサーズなど)
- 求人媒体(indeed・Egageなど)
- 既存スタッフからの紹介(リファラル)
どの手法にもメリット・デメリットがあり、クラウドソーシングはスピード感がある反面、短期契約に留まりやすい。求人媒体は継続稼働を見込めるものの、候補者が幅広く「精度を高める工夫」が必要です。リファラルは信頼度が高いですが、紹介元のネットワークに依存するため数を追うには限界があります。
重要なのは「採用段階で業務内容をどこまで明確に定義できるか」です。正社員であれば「付帯業務も含めて柔軟に対応」という暗黙の了解がありますが、フリーランスに同じことを期待するとミスマッチが起きます。
ですから、私たちは募集時から「業務内容・期待成果・期限」を細かく定義し、採用後のギャップを最小化しています。これが定着率と成果を安定させるポイントです。
フリーランスの活用が成果に繋げやすい職種
フリーランスには「成果を数値化できる業務」が適しています。成果が明確であれば、評価もしやすく、本人も納得感を持って働けます。CTF GROUPにおけるフリーランスの活用領域は主に以下の通りです。
・SNS運用支援(投稿代行・数値分析)
・BPO型業務(営業リスト作成・データ整備)
・ライティング(Webコンテンツ制作)
・秘書業務(議事録作成・会議資料作成)
・採用業務(面接実施・応募者対応)
これらの共通点は、①リモートで完結できる、②成果物が明確に可視化できる、の2つです。例えばインサイドセールスは「架電数」「アポイント獲得数」という数値で評価できますし、ライティングは「納品された記事の文字数・品質」で成果が見えます。
逆に、正社員に任せた方が良い業務も存在します。現場での意思決定やチームマネジメント、関係構築のための対面営業など、「臨機応変さや権限移譲が必要な業務」は正社員でなければ成果が出にくいです。
フリーランス活用は「万能の手段」ではなく、業務ごとに適した役割分担を明確にすることがポイントです。
フリーランスの育成方法
「フリーランスは即戦力」という言葉が一人歩きしていますが、私はそれは半分正解で、半分は誤解だと思っています。
確かにフリーランスはスキルを持っていることが前提です。しかし「会社ごとの基準」や「成果物の水準感」は、契約前には分かりません。そこを合わせ込まなければ、本当の意味での即戦力にはなり得ないのです。
CTF GROUPでは、フリーランスの育成に次の3つを意識しています。
| 業務ごとのKPI設計 | 「1日30件架電」「週5本のSNS投稿」など、定量的に成果が測れる目標を明確にします。 |
|---|---|
| クラウドマニュアル・テンプレート提供 | トークスクリプトや記事構成のサンプルなどを事前に提示し、ゼロから悩む時間を減らします。 |
| 成果物のサンプル共有 | 「このレベルであれば合格」という基準をサンプルで示すことで、期待値のズレをなくします。 |
正社員には長期的な教育投資をしますが、フリーランスには「即成果を出せる環境」を整えることが育成の本質です。属人化を防ぎながら、誰が入っても一定水準の成果を出せる仕組みを構築することが、フリーランス活用成功のカギになります。
フリーランスのマネジメントの方法
フリーランスのマネジメントで難しいのは「モチベーション設計」です。
正社員は昇給・昇格・評価制度といった枠組みがありますが、フリーランスは契約外のインセンティブが少ない。だからこそ「働きやすさ」と「成果に直結する環境づくり」が最も重要になります。CTF GROUPでは以下の取り組みを行っています。
- KPIの可視化
:進捗をリアルタイムで確認できる仕組みを用意し、達成感を感じやすくする。 - 非同期コミュニケーション
:チャットツールを活用し、フリーランスが時間や場所に縛られず働ける体制を整備。 - 福利厚生制度の提供
:正社員だけでなく、在宅フリーランスも利用できる福利厚生プログラムを導入。例えば研修動画の提供や相談窓口の設置など、「一緒に働く仲間」としての安心感を持ってもらえるようにしている。
結局のところ、フリーランスも「人」です。成果物だけを求めるのではなく、「働きやすい環境 × 成果の見える化」の両輪を整備することで、長期的に協働できる関係を築けます。
最後に
フリーランスを効果的に活用するには、明確な目的設定と成果の共有、そして信頼関係の構築が不可欠です。スキルや経験を尊重しながら、企業文化やチームとの接点を意識的に設計することで、より高いパフォーマンスが期待できます。
外部人材を単なるリソースではなく、共に成長する存在として捉えることが、これからの組織の成果創出に大きく寄与するでしょう。
「CQは国境を越える共通言語」ベトナム・ビジネスの突破口に三谷産業株式会社が据える“文化の知能指数”とは【現場を変えるCQ白書 第4回】

異なる国や地域の人とのビジネスで、しばしば課題となる“文化”の違い。あなたも思い当たる節はありませんか?
「文化の違いは対処のしようがない……」。もし、そう思っているならちょっと待ってください。文化の違いは乗り越えられますし、文化は変えることだってできます。とりわけCQという力をふるってみたのなら。
IQ(知能指数)、EQ(こころの知能指数)に並び、世界的に注目されるCQ(文化の知能指数)。なじみのない言葉かもしれませんが、CQという観点があると文化の違いを理解し、その違いを楽しむことだってできます。
今回は実際に違いを楽しんでいるビジネスパーソンの具体的な事例から、CQについて知っていただこうと思います。CQが高いと具体的に何ができるのか?海外事業や海外メンバーとの協働などに役立つヒントを聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子氏アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)
「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。
目次
外国人の部下の課題に寄り添えなかった失敗から
「当時、部下から分厚いカタログを投げつけられまして」
包み隠さず話してくださったのは、三谷産業株式会社の取締役海外事業担当・ベトナム事業企画促進室長である三浦秀平さん。
同社は石川県・東京都に本社を置き、化学品、樹脂・エレクトロニクス、情報システム、空調設備工事、住宅設備機器、エネルギーという、6つの事業領域を広げています。一方で1994年からベトナムに進出。現在7社17拠点から成る「Aureole(オレオ)」グループを展開しています。Aureoleグループは約2,300人のベトナム人社員が働く中、日本人駐在員は20人程度に過ぎません。
三浦さんは同社で約20年にわたり、このベトナムの事業をけん引してきた存在です。ですが就任当初は苦労もあったそう。
大学卒業後に大手設計事務所に勤め、2004年からベトナムと関わってきた三浦さん。縁あって三谷産業に入社したのは2006年のことです。ベトナムで2年働いてきた経験から、三浦さんにはベトナム人のマネジャーたちを束ねる、いわゆるプロジェクトマネジャーの役割を任せられました。

三浦秀平さんはベトナムで働き20年以上が経つ。
「でも、うまくいかなかったんです。部下であるマネジャーに指示を出すと、彼がまた部下たちに指示をする。ただ、課題があるときにその報告が上がってこなかった。それに気づくまでに時間がかかりました。課題の原因究明や対処については『自分の仕事ではない』と。日本とは違うということに気づきました」
けれども当時は、なぜ違うのかまでは理解しようとせず、マネジャーを責めてしまったといいます。
「結局、彼のモチベーションは非常に下がってしまいまして。険悪な関係が1年は続きましたね」。
これが冒頭の話につながります。
「今考えれば、一緒に何が課題かを見極めたり、解決方法を探ったり、課題解決に向けて相手に寄り添うことが必要でした。社会的背景や文化、特性を理解せずに『自分たちのやり方』を最上段に置くと負の連鎖が起こりやすい。こうした認識もCQを通じて整理された部分がありますね」
制度を相手国に合わせていく必要性

Aureoleグループの工場
さらに具体的に三谷産業では、どんな寄り添いがあったのでしょうか。三浦さんは人事制度を例にとって話してくれました。
「2006年当時にベトナム現地にあった人事制度・目標管理制度は、言ってしまえば日本の本社で使われているものをベトナム語に翻訳しただけ。すると日本的というか、役割の規定が曖昧なんですよね。例えば『マネジャー職は仕事に対して、より大きな責任を持つ』という言葉は人によって解釈が異なる。おそらくベトナムでの『大きな責任』とは『トップダウンで部下にしっかり指示を出す』という理解だったと思います」
現地の文化を許容した新しい制度設計の必要性を感じたそう。けれども、どう取り組めばいいのか――。
契機は、日本本社への異動でした。社長室長に就いた三浦さん。そこで日本本社の考え方、組織の特徴、キーマンなどの理解が深まったといいます。
「日本本社を深く理解できたことが、ベトナム事業を成功させるための制度やマネジメントの仕組み作りに役立ちました。具体的にはベトナム各社のルールをそろえてガバナンス強化を図る。そのためのグループの内部統制、人事労務などを担う会社を立ち上げました」
ただ当初は、ベトナム人の社員からの「面倒だ」といった反発も。三浦さんはそこでも、相手に寄り添います。ベトナム人の社員に対して取り組みの目的などを丁寧に説明。ときにはベトナムの工場に寝泊まりもしたそうです。

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- 組織に課題感がある人事担当者
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ベトナムと日本との相互理解

Aureoleグループのオフィス
今、同社の人事制度は、さらにその先を見据えています。
「日本本社には、日本で採用したベトナム人の社員も少なくありません。その人たちは、事業部門のほか人事や財務、監査などの部門をローテーションしていきます。そこで現在、日本のマネジメントを知った人たちが将来的にベトナムの経営幹部となっていけるような、社内スキームを作ろうとしています」
今後は日本への理解を踏まえたベトナム人の社員が、双方の橋渡し役を担うことも期待できるでしょう。日本本社への理解を深めた三浦さんが、両国の違いを踏まえた制度設計につなげたように。
もちろん一方では日本人社員への施策にも取り組んでいます。日本から現地への駐在などのスキームも整え始めました。
「日本人は日本人で、ベトナムのことをきちんと理解しなければいけません。日本の事業もベトナムの事業もひっくるめて見られる人を増やしたいですね。当社はベトナムの事業を長く続けていきたい。時間はかかると思いますが、ベトナムと日本のそれぞれの仕組みで、好循環を生み出したいです」
と三浦さんは声を強めます。CQとは<違いに橋を架け、ポジティブなエネルギーに変える力>。その観点は特に、違いとの向き合い方に強く表れると言えます。
CQを通じて“文化の違い”の理解が深まる
さてここまでで、CQは海外経験の長さや語学の堪能さとは違う力だとちょっとイメージしていただけたのではないでしょうか。海外駐在が長くてもCQが低い方もいますし、海外経験がなくてもCQが高いこともあり得ます。
三浦さんがCQを知ったきっかけはアイディール・リーダーズ提供の「エグゼクティブ・コーチング」でした。そこで宮森千嘉子さんから教わったといいます。
「月1回程度のコーチングでは、CQの観点で非常に的確なアドバイスをいただいています。また、これはCQにも通じると思うのですが、宮森さんご自身がいつも相手の話をしっかり聞き、相手を否定することがありません。相手の特徴や違いを理解・把握した上でレスポンスをされていると感じます」
ベトナムですでに多くの課題を乗り越えてきた三浦さんでしたが、CQを知ったことで文化の理解は一層深まりました。
「特に『7つの組織モデル』は分かりやすかったですね。日本の組織は『職人型』の傾向があり、ベトナムは『家族型』。両者の相違点が把握できました」
7つの組織モデルとは、文化の傾向を7つに分類したもの。
「不確実なことを避けたいと考えるのか、受け入れるのか」「ピラミッド構造の組織を好むのか、フラットな組織を好むのか」などから分類されています。
「ベトナムは歴史や地勢の関係もあり、トップダウン型のマネジメントが機能している。日本もトップダウン型の傾向はあるかもしれませんが、その場その場で調整したりしますよね。文化が異なれば、目的に向かうプロセスも違います。違う国や文化の人たちと一緒に物事を進める上では、やはりその違いを認識しなければなりません。その点で、CQを通じた考え方や行動が非常に有効だと感じています」
違いを楽しむということ
「ベトナムの人はとても優秀です。AIやITを活用した業務効率化は、日本よりも得意だと思いますよ」
三浦さんは続けます。
「例えば社内決裁にRPA(Robotic Process Automation)導入を提案してくれたりするんですよ。役職者ごとの確認を仰ぐようにしていたところに『三浦さん、決裁が楽になりましたよ。ボタン1つで社長の確認まで進みます!』。要は途中の承認行為が全部自動化されていて……」
ちょっとびっくりしてしまうようなエピソードですが、三浦さんはどこか楽しそうに話します。
「もちろんそれだとガバナンス上良くないですよね。そこで一つひとつ指導していく。『けれど〇〇さんは、いつも十分に見ないで承認していますよね』という意見が出てくれば『なるほど。承認する人が多いなら減らそうか』などと業務プロセスを見直すきっかけになる。それを元に日本側へも提言ができますよね。これは非常に面白いと思うんですよ」
システム開発はベトナム側に、一方でガバナンスの観点でのチェックは日本側に。相手を活かしつつ、日本本社として大事にしたいビジョンなどは守るようにきちんと一線を引く。
こうした組み合わせは、それぞれの違いがあってこそ。違うからこそ強い組織をつくれていると言えるのではないでしょうか。
未来を見据えて文化の違いを活かす

グループの30周年式典は、元ベトナム(社会主義共和国)計画投資省大臣ヴォー・ホン・フックさんなど多くの方が出席して執り行われた。
2024年、Aureoleグループは30周年を迎えるに当たり記念式典を行いました。
運営主体は現地のベトナム人の社員たち。またこれに当たってグループ全体の行動規範“Aureole Way”を、ベトナム人の社員たちに策定してもらいました。数年ごとに入れ替わる日本人の駐在員ではなく、現地の社員にベトナム事業を引っ張っていってほしいという想いの表れです。
三浦さんはCQを高めていくことで組織文化が変わっていく実感があると話します。
「同じ想いを持つ仲間が増えていることを強く感じます。ポイントはやはり、他の人をいかに巻き込むか。以前は現地の方を中心に巻き込んでいました。けれど、やはり日本の本社があるわけで、日本側も巻き込まないといけない」
そうは言っても、両者のあいだに立つことは大変ではないのでしょうか?
「もちろん大変なこともあるかもしれません。けれども、いろんな国の人が一緒になって、会社を成長させていくことはもう特別なことではありません。日本国内においても自国だけで事業が成立するとは、おそらく皆さんも考えていませんよね。遅かれ早かれ、必ず皆さんその壁に突き当たると思うんですよ。そのときにCQをもって異なる文化を理解していく。共通点は強みとし、相違点はどう活かすかという思考に転じていけば、強い武器になると思います」
今後ますます、異なる文化を持つ人たちとの共創は重要です。その際にCQを高めることで、違いを乗り越え、楽しむことにつながっていくことでしょう。

Aureoleグループは人材育成をテーマとする「Aureoleカンファレンス」を毎年開催。写真は2023年に宮森千嘉子さんがパネリストとして参加したときの様子。
人事にこそ必要な「話し方トレーニング」──AI時代における人材アトラクトの本質

HR NOTE読者の皆様、はじめまして。千葉佳織です。私は「kaeka」という話し方トレーニングサービスを運営しています。

執筆者千葉 佳織氏株式会社カエカ 代表取締役
15歳から弁論を始め、全国弁論大会3度優勝、内閣総理大臣賞受賞。慶應義塾大学卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーを経て、2019年に株式会社カエカを設立。社会人の話す力を数値化し、理想の話し方を実現する話し方トレーニングサービス「kaeka」を7,000人以上に提供している。
「kaeka」は3ヶ月から6ヶ月のプログラムの中で、AI診断とトレーナーによる指導をかけ合わせ、受講者の表現力や伝える力を伸ばしていくものです。これまで7,000名の方々にサービスをご利用いただいていますが、その中には人事職の方も多くいらっしゃいます。
人事の仕事は、候補者や社内のメンバーなど、立場や状況によってさまざまな顔を持ちながらコミュニケーションを行うものです。ポジティブな側面だけでなく、時には課題や改善点を率直に伝えることも必要になります。相手の反応を読み取りながら適切に言葉を選び、信頼を築く――まさに「コミュニケーションの仕事」そのものと言えるでしょう。
そして私は、コミュニケーションこそが人間がAIに代替されない価値だと考えています。だからこそ、これからの時代の人事において「話し方を磨くこと」がますます重要になるのです。
マインドセット──「橋渡し役」に留まらない人事へ
人事の皆様は、ご自身が「経営と事業の橋渡し」となりたいとおっしゃっています。経営や現場のリーダーの言葉を候補者に届けたり、既存の制度や福利厚生を説明したりする。その意味では重要ですが、あまりにも橋渡しに徹してしまうと、人事自身の魅力が候補者に伝わらないという課題があります。
私が考えるこれからの人事に必要なマインドは「人事自身の自分の存在をも魅力的に語ることができる」ということです。候補者にとって、最初に触れる会社の顔は人事であることが多い。だからこそ、人事自身の人間性や人生経験が伝わることで、会社そのものの魅力も増幅するのです。
例えば、会社の説明をする時にただ事実をお伝えするのではなく、そこに自分の思いを添えてみる。話に熱を生むことができ、聞き手の納得感も高まります。
kaekaのトレーニングでは、まず一人ひとりの経験を深掘りして「言葉のストック」をつくるところから始めます。幼少期からこれまでのキャリアで印象的だった出来事、挫折から学んだこと、成長を実感した瞬間…。そうした経験を整理し、頭の中でいつでも語れる状態にしてもらいます。その上で、その経験からコアメッセージを抽出していくのです。
「自分はこの会社でこういう人生を歩んできた」「この会社でこんなスキルやこんな価値観を身に着けた」そうした言葉を持ち、主体的に語れる人事は、自ずと人間的な厚みを帯び、相手に伝わる力を強めます。その結果、現場のリーダーの言葉や制度説明と掛け合わせたときに、アトラクトの密度は格段に増すのです。
人事は「人を支える役割」だけでなく「自身の魅力で先導していく存在」でもあるのです。
コンテンツ──具体と抽象を自在に行き来する
私自身、かつてDeNAで人事を担当していました。その際に実感したのは、「話し方トレーニング」と「人事の仕事」をかけ合わせることで、人事がより強い発信力を持てるようになるということです。
採用活動では、「全国に5拠点、全12事業部」「新規事業の代表は新卒2年目からエントリー可能」などポジション、キャリアパスといった「具体的な情報」を伝えることがよくあります。もちろん、そういった具体的な言葉は重要ですが、具体的な言葉の羅列を聞いただけでは、候補者は具体をどのように解釈すれば良いかわからず、候補者の心に深くは響かないままとなってしまいます。逆に「雰囲気が明るい」「若手の挑戦を応援する」といった「抽象的な表現」だけでは説得力に欠けてしまいます。
人によって響くポイントは異なります。だからこそ、具体を羅列したらその解釈を抽象的にまとめ、抽象的に話し始めたら根拠となる具体を述べる。具体と抽象を自在に行き来しながら伝えることが必要です。
思想や価値観を強固に語りつつ、それを裏付ける具体的な事例を添える。あるいは具体的な制度や事例を紹介しながら、その背景にある理念を伝える。このバランスが取れて初めて、候補者は「納得」と「共感」を同時に得られるのです。
具体的な情報をただ並べるのではなく、思想や価値観・抽象的なメッセージの裏付けとして具体的な情報を使っていくことで、相手により伝わるメッセージになるはずです。こうした「具体と抽象を往復する力」は、訓練によって高めることができます。人事がこの力を身につけることで、採用活動は単なる情報提供の場から、候補者の心に残る「物語」を届ける場へと変わります。
デリバリー──最後の決め手は「伝え方」
採用説明会や合同企業イベントなどでは、複数の企業が同じ時間に候補者へプレゼンテーションを行います。こうした場面で最後の決め手となるのは「伝え方=デリバリー」です。
私は人事時代、合同説明会で「必ず『いちばん人気』を取る」と決めて臨んでいました。そこでは情報量を増やすのではなく、あえて削ぎ落とし、声の抑揚や間の取り方を工夫しました。自己紹介の位置を変えたり、スライドの順番を意図的に入れ替えたりするなど、他社と違う仕掛けを徹底的に考え抜きました。その結果、説明会後の座談会では持ち場から溢れるほどの採用候補者に囲まれてお話の機会をいただくことができました。
人は理屈だけで動くのではありません。雰囲気や印象、話し手の覇気といった非言語的な要素が意思決定に大きく影響します。だからこそ、人事自身が「わかりやすく、明瞭で、覇気を持って語れるかどうか」が採用活動の成果を左右するのです。
デリバリー力を磨くとは、単に声を大きくすることではありません。抑揚や間、動作、視線、姿勢までを含めた総合的な設計を自分の中で行い、徹底的に準備をする。その覚悟こそが、候補者の心に届く人事をつくり上げるのだと考えます。
総合力が大切なデリバリーですが、今回は簡単に実践できるポイントを2点ご紹介します。
- 重要な言葉の前に間を取る
- 話している姿を録画することで、声の抑揚や姿勢を確認する
事前の準備を行い、意識をしていくことは本番の自分の自信にもつながっていくのです。
実際にkaekaにお通いいただいた人事職の受講生の方からは「言葉を紡ぐ意識が強まった」「場面に応じた「話し方」を選択できるようになった」「採用応募数が増えた」という声が届いています。kaekaのトレーニングでは話の対象者と目的を定めたうえで話をするという実践を重ねていきます。アウトプットを含め磨き上げていくことで、ご自身の力を高めていただきたいと願っています。
おわりに──AI時代だからこそ「人の言葉」が必要
AIが進化し、あらゆる業務が効率化されていく時代にあっても、人の心を動かすのは最終的に「人の言葉」です。特に人事は、会社の理念や文化を体現し、未来の仲間を迎え入れる役割を担っています。その人事が自分自身の言葉で語れるようになることは、これからの採用活動の最も大きな差別化要因になるでしょう。
「人事のあなたこそ、自分を磨き、言葉を鍛えなさい」。これは私が伝えたいメッセージです。話し方を磨くことで、人事自身が魅力的になり、その姿が候補者を惹きつける。カエカのトレーニングを通じて、そんな人事の姿を一人でも多く増やしていきたいと思っています。
話し方トレーニング「kaeka」
話し方トレーニングサービス「kaeka」を運営。AIを使った診断「kaeka score」を使って話す力を数値化し、専属のスピーチトレーナーと体系的に話し方を学習するプログラムを提供しています。多くの会社員や経営者、政治家に向けて7,000人以上の指導実績があります。
「待ち」の採用は終わり。選ばれる企業のTA戦略 ~ HR LEADERSレポート ~

本記事では、キャリアSNS「YOUTRUST」が主催したイベント「HR LEADERS 〜なぜ今「採用革命」が必要なのか、“選ばれる企業”になるための視点と打ち手〜」の模様をレポートします。
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズの小野壮彦氏と、株式会社YOUTRUST 代表取締役CEOの岩崎由夏氏が語った、採用を経営戦略として捉え直す新常識「TA(タレントアクイジション)モデル」への変革と、明日から使える具体的な打ち手に迫ります。

登壇者小野 壮彦氏株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター
アクセンチュア入社後、起業したITベンチャーを楽天へ売却。楽天社長室勤務、Jリーグ・ヴィッセル神戸取締役を経て、ベンチャー取締役を歴任後、2008年グローバルに展開するエグゼクティブ•サーチファームへ入社。パートナー就任。2017年ZOZOに転じ、新規事業部の本部長としてゾゾスーツ事業を立ち上げ、国際展開。2019年より日本最大級のベンチャーキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズにて投資先の成長支援に従事。早稲田大学商学部、SDAボッコーニ(MBA)卒業。著書「世界標準の採用」「人を選ぶ技術」

登壇者岩崎 由夏氏株式会社YOUTRUST 代表取締役 CEO
大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。採用担当として経験を積む中で、求職者にとってフェアでない転職市場に違和感を覚え、起業を決意。「日本のモメンタムを上げる 偉大な会社を創る」というビジョンを掲げる、株式会社YOUTRUSTを2017年に設立。2018年4月にリリースした、日本のキャリアSNS「YOUTRUST」は累計ユーザー数は約40万人に成長。

モデレーター石原 沙代子氏株式会社YOUTRUST ヒューマンリソース部 部長
大学卒業後、サイバーエージェント入社。人事本部にてエンジニア新卒採用立ち上げに携わる。その後、医療法人で経営企画と医師採用を経験し、金融教育のABCashにて執行役員CHRO、女性のためのコーディングブートキャンプMs.Engineer取締役CHROを経て、株式会社YOUTRUSTへ参画。現在はヒューマンリソース部部長として採用全般を管轄。
目次
なぜ今、あなたの会社の採用はうまくいかないのか? 〜経験者採用の現状〜
優秀な人材を“待つ”だけ。「ご祈祷型採用」の限界

経験者採用の現状として、エージェントに依頼してあとは待つだけの「ご祈祷型採用」や、候補者を見下すような「お殿様採用」を挙げていただきましたが、こうした状況はまだあるのでしょうか?


「ご祈祷型採用」は、まだ非常に多いと感じます。採用のノウハウがない、担当者がいないといった理由で、エージェントにお願いするだけになってしまう。私たちの投資先でさえ、まだスカウトを能動的に打つことに心理的なハードルがある会社は存在します。

私が前職で中途採用をしていた2012年頃が、ギリギリ「ご祈祷型」があった時代でした。そこからダイレクトリクルーティングに移行していった記憶があるので、まだ残っていると聞くと驚きますね。
候補者を“選んでやる”という勘違い。「お殿様採用」が招く悲劇

「お殿様採用」も、特に地方企業などでは根強く残っています。先日、関西の企業様向けに講演した際、「面接は最初から最後まで3対1や4対1でやっている」という会社があり、驚きました。
新卒採用の延長で考えていたり、外部から人が入ってくることへの不安から、みんなでチェックしないと、という心理が働くのでしょう。 たとえ面接の形式がそうではなくても、「雇ってやる」というマインドの面接官はまだ多く、候補者の体験価値を著しく下げてしまっています。

背景にある市場の構造変化:なぜ「待ち」の採用では勝てないのか

かつては転職回数が生涯で1回程度だったので、多くの人がプロであるエージェントを頼りました。しかし、日本の平均転職回数が2.8回まで増えた今、2回目、3回目の転職者は自分で直接企業とやり取りする「ダイレクト型」に移行しています。
そして、さらに転職回数が増えると「ネットワーク型」、つまり元同僚や知人からの紹介で転職先を決めるようになります。アメリカの平均転職回数は11.3回。日本もいずれそちらに近づいていくと思われます。優秀な人ほど、転職市場に出てくる前につながりのある人たちに声をかけられてしまう。こうした市場の変化こそが、従来の採用手法が通用しなくなった根本的な原因と考えています。

採用の新常識「TA(タレントアクイジション)モデル」とは?

「採用(Recruiting)」から「タレント獲得(Talent Acquisition)」へ

これまで採用は「リクルーティング」、つまり人事の一部門の業務と見なされてきました。しかし、これからの時代に必要なのは「タレントアクイジション(TA)」という考え方です。

これは、単なる欠員補充ではなく、経営戦略の一環として優秀な人材を能動的・戦略的に獲得していく活動を指します。 海外では、事業会社の採用担当者が「リクルーター」と呼ばれると、「私はエージェントではない」と怒る人もいるほどです。彼らは自らを誇りを持って「TA」と名乗ります。それくらい、採用は専門性の高いプロフェッショナルな仕事だと認識されているのです。
組織の作り方:なぜ「TA部」を社長直下に置くべきなのか

TAモデルを実践するための具体的な組織改革として、私は採用機能を人事部から切り離し、独立した「TA部」を作ることを推奨しています。そして、そのTA部は社長直下、もしくは営業・マーケティング部門の役員の傘下に置くべきです。それくらいドラスティックな変革が、企業の採用力を飛躍的に高めます。

実は、弊社の採用チームはまさにその形です。CEOである私の直下に、TA部である採用チームを置いています。労務など他の人事業務とは分けて、採用だけは経営の意志として直接見ています。特に問題は起きていませんし、むしろスピーディーな意思決定ができています。
TAとして求められる人材像とは?

TAとHR(人事)では、求められる人材のタイプが少し異なります。TAに必要なのは、営業やマーケティング人材のような「達成志向性」です。目標を与えられると燃え、達成のために戦略を立てて何が何でもやり遂げる。そうしたメンタリティが非常に重要です。
一方で、よくある誤解として「TAは社交的でなければならない」というものがありますが、それは違います。1対1で深く対話できる内向的なタイプの人も、TAには非常に向いています。
明日からできる!”選ばれる企業”になるための4つの打ち手

1. 候補者体験をデザインする:「点」ではなく「線」で捉える

候補者との関わりは、応募から内定まで、すべてが一貫した体験になっていなければなりません。ディズニーランドに入ってから出るまで、すべてが夢の国であるのと同じです。
面接の日程調整が滞るなど、少しでも流れが悪いと候補者の熱量は一気に冷めてしまいます。採用プロセス全体を「線」としてデザインし、管理する視点が求められます。
2. スピードと柔軟性:候補者の熱量を逃さない

採用にはテンポの良さが不可欠です。
以前、合格連絡が遅れたり、次の日程調整が滞ったりして、候補者の途中離脱率が非常に高かった時期がありました。そこで、「面接の翌日までに次回日程が確定していない人の割合を10%以下にする」というKPIを毎日追いかけたところ、離脱は劇的に減りました。
特に「この人は!」と思った候補者に対しては、「その場で合格を伝え、次回日程もその場で組む」ようにしています。それくらいスピード感は重要です。
3. 質の高いフィードバック:「面接の2日後」が効果的

候補者のエンゲージメントを高める上で、非常に効果的なのがフィードバックです。面接で盛り上がったとしても、その熱は時間と共に冷めていきます。そこで、あえて面接直後ではなく、少し忘れた頃、具体的には「2日後」くらいに丁寧なフィードバックを返すのです。「あなたのこういう点を素晴らしいと感じた」と伝えることで、候補者の気持ちが再び盛り上がり、エンゲージメントが格段に向上します。
4. トップタレントへの正しいアプローチ:”チヤホヤ”より”ゴリゴリの面接”を
優秀な人材、いわゆるトップタレントを採用する際に、多くの企業がやりがちな間違いがあります。それは、相手を丁重に扱い、会社の魅力を一方的に伝える、いわゆる“チヤホヤする”ことです。 しかし、本当に優秀な人は褒められることに慣れています。彼らが求めているのは、自分のことを深く理解してくれる相手です。だからこそ、トップタレントに会った時ほど、相手のキャリアやスキルについて深く掘り下げる「ゴリゴリの面接」をすべきなのです。「この会社は本気で自分を理解しようとしてくれている」という信頼感が、最終的な意思決定に繋がります。
Q&Aハイライト:現場のリアルな疑問に答える

Q1:従業員300名以下の企業でのTAチームは何名体制が適切?

年間の採用人数で考えるべきではありません。重要なのは、「能動的に探索しないと採用できない、本当にイケてる人材」を何人採用する必要があるかです。そうした難易度の高い採用を考えると、TAスタッフ1人あたりが年間で希少人材の採用をコミットができるのは6名程度が目安になるでしょう。その目標人数から逆算して体制を考えるのが適切です。
Q2:TAとHRを分けると、入社後のギャップが起こりやすくなるのでは?

組織を分けること自体が入社後のギャップの原因になるのではなく、TAチームの目標設定(KPI)が原因となります。採用決定数だけを追いかけると、質を度外視して無理やり採用してしまうリスクがあります。それを防ぐためには、例えば「イケてる人に何人会えたか」といったプロセスを評価指標に加えることが有効です。これにより、短期的な成果主義に陥ることなく、質の高い採用活動を維持できます。
Q3:自称TAは誰でもなれる気がします。どこからが本物の「TA」でしょうか?

私が認める、というものではありませんが、明確な違いは2つあると考えています。1つ目は、数字で語れるかどうか。採用活動を定量的に分析し、数字を基に報告や戦略立案ができるか。これは従来の人事のカルチャーにいると苦手な方が多い部分で、TAとリクルーターの質を分ける大きな違いです。2つ目は、エージェント以外のチャネルに精通していること。ダイレクトスカウト、リファラル、ネットワーキングといった『直接調達』の技を高いレベルで繰り出せること。これがTAと呼べる人材の条件だと思います。
編集後記:採用にもっと科学的なアプローチを

今回のイベントで浮かび上がってきたのは、採用を単なる人事業務の一部と捉える時代は終わり、経営の最重要課題として戦略的に取り組む「TA(タレントアクイジション)」への変革が急務であるという、力強いメッセージでした。
候補者を「待つ」のではなく、能動的に「探し、口説き、獲得する」。そのための専門組織を作り、科学的なアプローチで候補者体験をデザインしていく。そんな「採用革命」の実践こそが、これからの時代に“選ばれる企業”になるための唯一の道なのかもしれません。
イベントで語られた内容は、登壇した小野壮彦氏の著書「世界標準の採用」で、より深く学ぶことができます。また、YOUTRUSTが新たにリリースした「AIキャリアシミュレーター」は、候補者のキャリア観を理解する上で、採用担当者にとっても新たな武器となるでしょう。YOUTRUSTは今後も、採用に科学的な視点をもたらし、変革を後押しする場を創出してまいります。
「アサーティブ・コミュニケーション」で相互理解を深める|NineDomains Institute 桑原


執筆者桑原 寛二氏NineDomains Institute株式会社 代表取締役
1982年より外資系日本法人7社に約29年間勤務し、一貫して欧米アパレルブランドの日本市場におけるブランドポジショニング確立に従事。リーバイ・ストラウスジャパン、ナイキジャパン、スウォッチグループジャパンでは事業部トップのジェネラル・マネージャー。リーボックジャパンでは日本法人の代表取締役を勤めた。店舗オペレーションから経営管理まで幅広い実務経験を有する。外資系企業勤務時に受講した仕事への向き合い方や生き方にふれる意識改革の研修に感銘を受けたほか、東日本大震災発生をきっかけに、米国The Enneagram InstituteSM が2010年に発表した組織開発の手法Nine Domains Approach℠を日本で展開すべく、2011年に独立しNineDomains Institute株式会社を設立。大手企業(メガフィナンシャルグループ、外資系生命保険会社、総合エネルギー企業等)で企業研修・エグゼクティブコーチングを多数行う。
私が29年間で7社勤めてきた外資系企業は、まさに多様性そのものの世界でした。
そこは競合他社との熾烈な競争に勝ち抜く“成果”だけが問題であり、リーダーがチームメンバーに接するとき「成果に対して何ができる人か?」だけが重要な要素で、人種や性別、年齢や育ってきた家庭環境は考慮する必要はありません。
また仕事ができる人もそうでない人も人としての尊厳は敬意をもって扱われていました。ただし期待に応えられないことが長く続けば厳しい対応が待っている、まさに“人にやさしく問題には厳しく”の世界でした。
目次
1. 世代論に頼らないリーダーシップの新しい考え方〜one-size-fits-allアプローチ
私は、対人マネージメントをシンプルに考えているそのような外資系の世界にあまりにも長く身を置いてきたせいで、最近の「〇〇世代にはこう接しよう!」系の発想そのものに違和感を感じ続けていました。
多様な世代の管理を任せられている中間マネージメント層の方々は「世代別対処法を知り、それに基づいた行動をとることが正解」という発想が主流になっている気がします。
1-1. 人は世代間の常識が通じなくなった時に嘆き続けてきた
人は対人関係において自分の価値観で理解や対処ができないとき、
「やはり最近の若者は難しい。何を考えているのか全くわからない」
と心の中で嘆き、その対象の世代とうまくやれる方法を探そうとします。
しかし、この「最近の若者は・・」という“嘆き”を人類の歴史というスパンで紐解いてみると、記録に残っているだけで紀元前のヒッタイト王国の粘土板や、古代ギリシャのプラトンの著作にも見られるそうで、少なくとも3500年以上前から世界中で続いている“嘆き”のようです。
ちなみに私も“新人類”といわれた世代で、先輩にあたる“団塊の世代”の方々が「社会のルール・保守的な価値観や集団行動を重んじる傾向」が強かったのに対し「過去の常識にとらわれずに個性を重視し従来とは異なる感性や価値観を持つ存在」とみられていたようです。
このように何かがきっかけで一つの世代間の常識や規範が覆される人間が登場してきたとき、私たちはその新世代の特徴を整理して“〇〇世代”と命名して一旦安心してきたのだと思われます。そしてこうした考え方は延々と続いていくのかもしれません。
1-2. 世代別対処法の呪縛から解放されるために
ビジネスに目を向けたとき効率や生産性への要求がますます加速している世の中で、このような何千年も続いている沼の中から解決策を見出そうとするのではなく、もっとシンプルな選択肢があれば試してみる価値はあると思います。
私は毎月様々な日本企業の管理職やトップマネージメントの方々と接する機会がありますが、それらの多くの方が“異なる世代への対処法”という特効薬を求めています。
もちろん世代別の特徴を知識として持っておくことは大切とは思います。しかしZ世代向け、α世代向け、β世代向けという表面的な対症療法の引き出しをたくさん身につけることで自らのリーダーシップスタイルを複雑にし、本人の心理的ストレスも増え、何よりもつらいだけの職場に思えてくることは得策とは思えません。
真のリーダーとなってメンバー全員が働きやすいと思える職場を築いていくためには、どのような世代に対しても同様の考え方で向き合える不動の姿勢を体現できなければ難しいと思います。
世代別対処法という呪縛から解放され、人類として共通に持っている原型的な心理構造であるアーキタイプにアクセスするコミュニケーションを意識することが、チーム内の公平性・平等性を維持しながら個々のメンバーのパフォーマンスを最大にあげて、チームの成果をつくる部下マネージメントのコツだと考えます。
2. 管理職が知っておきたい「世代に依存しない」マネジメントスキル
世代毎の特徴を考慮しないコミュニケーション手法とはどのようなものがあるのでしょうか?外資系、特に米系企業では数十年前から当然のように浸透していた手法に「アサーション」と「フィードバック」があります。
| アサーション | 相手と自分、互いを尊重しながら自分の意見や気持ちを率直に伝えるコミュニケーションスキルのことです。英語の「assertion(主張)」が語源で、単なる自己主張ではなく、相手を否定したり攻撃したりせず、対等な立場で人間関係を築くことを目指します。 |
|---|---|
| フィードバック | 相手の行動や考え方、成果などに対して、具体的で建設的な評価や意見を伝え、次の行動の改善や成長を促すコミュニケーションのことです。 |
2-1. 「アサーション」「フィードバック」がうまくいかない背景
これらの素晴らしい手法が日本に紹介されて長い年月が経ちますが、私が研修講師でこの2つを題材にすると、「なかなかうまく使いこなされていない」という声をよく聞きます。
これらが日本企業に浸透しづらい理由に、日本が「ハイ・コンテクスト(高文脈依存)」で「年功序列」という文化を長い間大切にしてきたという歴史的背景があり、さらにそれらと鶏と卵の関係にある個人や組織のバイアス(非合理的な思い込み)があります。
ハイ・コンテクストについては、言うまでもなく“空気を読む”ことが重要視されたり、「阿吽の呼吸」「以心伝心」「一を聞いて十を知る」「言うまでもない」「みなまで言わすな」「行間を読む」といった言葉が示すように、多くを語ることが美しくないとされてきた文化ということです。
更にそれに関連した背景として、伝統的な日本企業でいまだに主流の年功序列・終身雇用の思想からくる考え方や慣習が挙げられます。
2-2. 「アサーション」「フィードバック」で、全ての従業員が公平に安心して働ける職場へ
一方で、日本のような島国と違い、隣国と地続きで移動可能なヨーロッパや、様々な民族が移動してきて形成された米国のような環境では、細かいことまで言葉によるコーミュニケーションを行わなければ意思疎通が困難であることからロー・コンテクスト(文脈依存が低い)文化がベースにあるため、アサーションとフィードバックが馴染み易いという社会そのものの背景の違いがあります。
しかし、近年では日本も多様性の世の中となり、DE&Iといった概念の浸透も行われ、異なる文化で生まれ育ってきた人たちも含めて全ての従業員が公平に安心して働ける職場がひとつの理想系とされています。
このような職場づくりに必要なコミュニケーション手法が、まさにアサーションとフィードバックなのです。
3. 「自走するチーム」をつくるために必要なマインドセット
3-1. アサーションは「人間としてのBe(あり方、ものの見方、考え方)」を理解しないと正しく使えない
アサーション(assertion)という言葉を辞書で引くと、“自己主張”という訳があります。しかし“自己主張する人”は日本では品のない人と批判されることさえあります。
Assertionが元々ぴったりの日本語に翻訳しづらい英単語から来ていることもあり、アサーションの考え方を正しく理解している方は少ないです。
ビジネスの現場で「自分も相手も大切にするコミュニケーションとして有効活用している」状態まで行かずに、「なんとなく理屈では理解している」といったレベルの組織や企業がほとんどなようです。
アサーションは「人生哲学」であり「どう生きるか」である
アサーションは“手法”として学ぶ前に、人間としての「Be(あり方、ものの見方、考え方)」をしっかり理解することから始めることが重要です。つまり、アサーションは世の中ではコミュニケーション手法の一つとして捉えられていますが、実は「人生哲学」であり「どう生きるか」という指針なのです。
前段落でご説明したように、アサーションが生まれた欧米の歴史や社会背景は、日本とは異なるのだという点を知ると、その後のスキル的な部分の習得がし易くなります。
アサーションは「Be(あり方、Being)」が最も初めになければならない
私のアサーション研修では「Be(あり方、Being)」から順を追って学びます。
「Be(あり方)」とは、「ものの見方、考え方、姿勢、信念、Do(行動)の指針となる哲学、原則」で、企業に例えると、企業理念や使命(mission)は企業の存在意義としての考え方「Be」=「あり方」にあたり、理想的なMVVの構築時には最初に据えるものです。
それに基づいて使命(mission)を噛み砕いて理解し易くするために基本的価値観(core value)を定め、それを実現し続け成長するために目標(vision)を定めます。さらに使命・価値観を満たしてvisionを達成するために、行動(Do)である戦略を決めます。
しかし多くのビジネスコミュニケーションの場面になると、Be(あり方)は軽視されているようです。Have(成果)を挙げるためにDo(行動)のみに着目し、思うようなHave(成果)が得られなければDo(行動)を見直すだけで、根本的な解決になっていない場面が多いです。

アサーションを推進していくために
「ハラスメントの撲滅」で例を挙げたいと思います。「ハラスメントの撲滅」という得たい成果(Have)を掲げた場合、いけないDo(行動)だけを覚えるための研修を実施することが多いですが、実はこれでは、ハラスメントは無くならないのです。
なぜなら、
- 階層が違えど、人間の価値としては全員平等である
- 働きやすい職場を作るために上下関係なく人の嫌がることはやめる
といった、Be(あり方)の部分がごっそり抜けているからです。
また「バイアス(偏見、思い込み、固定観念)」もBe(あり方)にあたります。
コミュニケーションをとる相手に対し、その人そのものではなく、「年上・年下」「ジェンダー」「世代」といった枠で見ていませんか?
「〇〇世代は、こう接しよう!」系の発想も、「世代」というバイアスで相手のことを見ているという一例です。本来見るべき点は、相手がどのようなBe(あり方)なのかです。

どのようなBe(あり方)であるかは物事のスタートポイントとして、大変重要です。
ぜひ、今後アサーティブコミュニケーションを学びたい、という方がいらっしゃいましたら、アサーティブコミュニケーションが生まれた欧米の歴史や社会背景を学ぶこと、そして自分が無意識に持っている「バイアス」について理解することから始めていただきたいと思います。
3-2. フィードバックは「与え方」だけでなく「受け方」も学ばないと正しく機能しない
フィードバックという言葉も、様々な定義があり、業界によって違う意味合いで使われているようです。
ここで言うフィードバックは、組織開発(OD=Organization Development、アメリカで生まれた組織や企業を健全な状態に導くアプローチで、日本は20年くらい遅れていると言われている)で使われているコミュニケーションの手法の一つです。
しかし、これもアサーション同様素晴らしい手法にもかかわらず現場で正しく理解されて導入されている組織や企業は少ないようです。
フィードバックの効果的な「与え方」と「受け方」
組織開発(OD)では、フィードバックの、「与え方」と「受け方」について推奨する考え方と、フィードバックそのものの話の組み立て方についての重要なポイントと、なぜそうなのかという理由が整理されています。
本稿では、このうちフィードバックの「与え方」と「受け方」についてご紹介します。
フィードバックの効果的な与え方
- 相手に「いまフィードバックしてもいいですか?」と尋ねる
- 一般化したり、評価的にならずに観察的に表現する
- ”I”メッセージ(「私は・・・」という表現)を使い、自分の言葉に責任を持つ
- 受け手にとり価値のある情報を提供すること
- 行動変容につながるフィードバックをする
- 正しく伝わったかどうか確認する
フィードバックの効果的な受け方
- 心を開いて素直に受け取る
- 言い訳をせずに最後まで聞く
- 言われている内容を正しく理解するように努める
- アイコンタクトをし、聴いていることを示す
- フィードバックをどのように活かすかは、本人の責任である
フィードバックの構築例
フィードバックの構築例として一例をあげますと、
- 相手に改善を求めたいときと提案をしたいときは必ず何かプラスの承認をする
- その後提案なり改善などを伝えるようにする
ことで、相手が受け取り易くなります。
フィードバックを学ぶ研修
フィードバックを学ぶ研修では「フィードバックの与え方」を学ぶことが多いのではないでしょうか。お示ししたとおり、フィードバックは受ける側も「受け方」を知っていないと、正しく機能しないのです。
フィードバックも社内で活用されて初めて意味を持つ手法ですから、そのためには知識として「知っている」から「使える」状態になることが求められます。
アサーション研修とフィードバック研修を実施した企業の中で、例えば具体的にOne-on-Oneミーティングの中で導入しているという企業からは、「チーム内の会話が増えてきた」、「部下の主体的な発言が出るようになった」など現場のポジティブな変化の声をお聞きしています。
4. 世代論から脱却するためのマネジメント・チェックリスト
最後に、コミュニケーションで「世代別対処法」になっていないか、気がつく視点をチェックポイントでまとめます。
- 「Z世代だから」「団塊世代だから」といったレッテル貼りで上司や部下を理解しようとしていませんか。
- 年齢やジェンダーなどではなく、その人が出した成果に対する姿勢・行動を評価していますか。
- 世代ごとの「取扱説明書」に頼るのではなく、本人の価値観=be(あり方)に目を向けていますか。
チェックポイントの中で気づきがあった方は、まずは自分の「あり方(Be)」を振り返ってみることから始めてはいかがでしょうか。そこから自然に、アサーションやフィードバックといった手法が活きてくるでしょう。
「スカウト返信ゼロ」から3ヶ月で返信率13.3%へ。エンジニア採用でのAI活用方法とは

「求人を出しても応募が来ない」「スカウトを送っても返事がない」。多くの企業が抱えるこの悩みは、採用環境そのものの変化に起因しているかもしれません。
特に、エンジニア採用難は“景気波”ではなく、「長期にわたる需給ギャップ」による構造的課題です。厚生労働省が公表した一般職業紹介状況によると、情報処理・通信技術者の有効求人数は、2022年から2025年にかけて全体的に増加傾向にあります。特に、2025年には有効求人数が最も高くなっています。
有効求人倍率は、2022年の約1.5倍から2025年には約1.7倍まで上昇しており、この分野の需要がさらに高まっていることがわかります。(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。
エンジニア採用難は一時的な景気要因ではなく、長期的かつ構造的に続く課題だといえます。それでも現場の人事に求められる役割は広がり続けます。スカウト設計、技術トレンド調査、競合比較、過去データの振り返り…。
「考える」前に「調べる・探す」に追われ、改善や工夫まで手が回らない。この状況を打破するにはどうすればいいのでしょうか。本記事では、「Gemini」と「NotebookLM」という2つのAIツールだけを使って採用業務をどう変えられるかを紹介します。

執筆者椎野 亜也香氏株式会社キャスター 採用支援事業部/CASTER BIZ recruiting 事業部サブマネージャー
2021年に株式会社キャスターへ入社し、採用支援事業部にて、採用戦略の立案から、スカウト運用や候補者対応フローの実務設計・運用までを一気通貫で担当。数多くの企業の採用課題解決をリード。2023年からはAIの組織活用プロジェクトも推進。専門性の高いRPOサービスとAI活用を軸に、新しい採用スタンダードの形を試行している。
CASTER BIZ recruitingサービスページ:https://recruiting.cast-er.com/cbr-lp_0001/

執筆者塚田 千春氏株式会社キャスター 採用支援事業部/CASTER BIZ recruiting リクルーター
キャリアのスタートはホテル業界。そこから人と人を繋ぐ仕事に興味を持ち、ヘッドハンティング型の人材紹介会社へ転職。2023年に株式会社キャスターに入社。IT業界、製造業界、サービス業界と様々な業界の採用支援に従事。ネバダ州立大学ラスベガス校卒業。
目次
エンジニア採用が難しいのは“人材不足”だけが原因ではない
採用は今や情報戦。候補者データ、競合分析、社内資料、過去の選考ログ……人事が扱う情報は膨大です。しかし、情報が多すぎるがゆえに、頭の中もツール内も整理しきれなくなり、「調べて終わり」になってしまった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本質的な課題は情報の量ではなく、“考えるための時間”が不足していることです。この課題に対する有効な選択肢は2つあります。
- AIツールを活用して、情報収集や整理の負担を軽減する
- 外部パートナー(RPO)と協働し、“実務と知見の伴走”を求める
AIは「調べる・整理する」仕事を効率化し、人事に思考の余白を与えてくれます。一方でRPOは、採用の実務を代行するだけでなく、複数社の支援経験から得た知見を持ち込み、人事の意思決定を後押しします。
つまり、AIは右腕、RPOは伴走者。この二つを組み合わせることで、人事は「考えることに専念できる環境」を整えられるのです。
とはいえ、AIもRPOも「まずは自分の現場で試してみる」ことが第一歩です。そこで次章では、このAIツールを実際にどう使うのかを具体的に紹介します。GeminiとNotebookLM、そしてGemini内の「Gems」機能を使った採用改善の事例を見ていきましょう。
AIと一緒に考える採用 —— GeminiとNotebookLMの使い方
AI活用と聞くと「難しそう」「専門知識が要るのでは」と感じる方も多いかもしれません。しかし、GeminiとNotebookLMはそれぞれシンプルな役割を担い、人事の日常業務をサポートしてくれます。
たとえば「データエンジニアを採用したい」と考えたとき、人事が最初にやるのは求人市場のリサーチです。
Geminiに「最近のデータエンジニアの求人傾向を教えて」と問いかければ、必要とされるスキルや平均年収、求人件数の増減などを、会話の形でまとめて返してくれます。さらに「競合A社とB社の求人条件を比較して」と依頼すると、条件の違いを一覧にして整理してくれる。これまで数時間かけて求人票をひとつずつ調べていた作業が、数分で済むようになります。
次に役立つのがNotebookLMです。過去に送ったスカウト文や選考データをアップロードし、「返信率が高かった文面の特徴を教えて」と頼めば、成功パターンや辞退理由を要約してくれます。たとえば「挑戦できる環境を強調したスカウトは反応が良い」「スカウトした理由が曖昧なものは辞退につながりやすい」といった傾向が数分で見えてきます。
つまり、Geminiは外の情報から仮説をつくるAI、NotebookLMは自社の情報を整理して改善点を示すAI。それぞれの役割を知って組み合わせれば、人事は「調べる時間」を大幅に減らし、本来注力すべき「考える時間」を取り戻せるのです。
実践事例:スカウト返信ゼロから返信率13.3%へ改善
ここからは、Geminiの「Gems」機能を活用し、採用活動に取り組んだ企業のユースケースを紹介します。この企業では「組み込みソフトウェアエンジニア」を募集。採用成功に向けビズリーチでのスカウト送付を3か月続けたものの、返信はゼロ。そこでAIを取り入れ、次のような流れで改善を進めました。
1. Geminiでリサーチ
市場動向や競合求人を調べ、ターゲット人材の期待値を把握。ターゲットにどんな転職軸が多く、どんな訴求が有効なのかもリサーチ。

2. NotebookLMでこれまでの自社の採用活動の傾向を分析
過去の募集時のスカウト文や候補者データを基に、返信率が高かった・低かったパターンを抽出。

3. Gemを作成し、知識を与える
Geminiには「Gems」という、あなた専用のAIアシスタントを作れる便利な機能があります。
1と2の内容をGoogleドキュメントにまとめればGemに「知識」としてインプットが可能。さらに、”あなたはプロの採用担当者です”といった役割や、”常にカジュアルな文体で”のような行動のルール(カスタム指示)も設定できます。これにより、「市場調査+自社の事例」の知識をもとに、スカウト文面を作成する専用AIが完成します。

4. Gemでスカウト文を作成
Gemに「〇〇(採用媒体)でのスカウト文面を作成して」と伝えると自社の採用ポジションにピッタリのスカウト文が自動で提案されるように。
【アウトプット形式】
・最低◯文字以上◯字未満とする
# 求人票
(ここに求人票のテキストを貼り付け)
# 候補者のプロフィール
(ここにスキルや経歴など候補者に関する情報を貼り付け)
この仕組みで自社の勝ち筋を探りながら3か月スカウト運用した結果、返信率は0%から13.3%へ改善。AIを“調べ物の道具”にとどめず、“自社専用のアシスタント”に進化させたことが成功の鍵でした。

まとめ —— 人事は「考える力」を手放さない
GeminiとNotebookLM、そしてGemを活用することで、「調べる・まとめる」に追われていた時間を減らし、本来注力すべき「考える」仕事に向き合えるようになります。AIは、人事の代わりに判断してくれる存在ではありませんが、判断の質を高めるための“右腕”にはなり得るのです。
一方で、採用活動は情報整理だけでなく、候補者対応や調整業務など実務も多岐にわたります。こうした部分まで含めて支援してくれる伴走者と組めば、AIと人がそれぞれの強みを発揮し、人事はより戦略的に動けるようになるでしょう。
採用難が続く今こそ、「自分がどこに時間を使うべきか」を改めて考えるタイミングかもしれません。AIと外部の知見をうまく取り入れながら、あなただけの「考える余白」を取り戻してみてはいかがでしょうか。
受け身で終わらせない学び方をどう設計するか?〜社内勉強会『グロースラボ』に学ぶ実践的工夫〜

社員教育やスキルアップの一環として社内勉強会を実施している企業は多くありますが、「講師の話をただ聞くだけ」で終わってしまい、学びが十分に深まらないケースは少なくありません。
アルサーガパートナーズが取り組む社内勉強会「グロースラボ」は、そうした“受け身の学び”からの脱却を目指した実践型のプログラムです。少人数制やディスカッション重視といった仕掛けを取り入れることで、知識の習得だけでなく、思考力や主体性まで育む設計がなされています。
本記事では、その背景や具体的な工夫、そして参加者の声から見える成果をご紹介します。
目次
なぜ「受け身で終わらせない学び」が必要なのか?
一方的な講義形式では、どうしても“聞くだけ”にとどまりやすく、知識の定着が難しくなります。メモを取っていたとしても、その後に活用されないまま記憶が薄れてしまうことも多いでしょう。こうした受け身の学びでは、知識が定着しにくく、実務に結びつきにくいという課題が生じます。
さらに、社内勉強会は本来、知識共有だけでなく社員同士の交流や相互理解を深める機会でもあります。しかし、発言や参加の機会が限られた形式では、そうした効果も十分に得られません。
そこで、アルサーガパートナーズの「グロースラボ」では、全員が意見を出し合い議論するスタイルを取り入れています。自ら考え、言葉にし、他者の視点を取り入れるプロセスを経ることで、学びの質と量が大きく変わります。この主体的なサイクルこそが、記憶の定着を促し、スキル向上や行動変容へとつながっていくのです。

「グロースラボ」誕生の背景:受け身を脱するための挑戦
「グロースラボ」は、コロナ禍で社員同士のコミュニケーションが希薄になったことをきっかけに誕生しました。フルリモートでの働き方が当たり前になる中で、「学びの場ですらも受け身にとどまってしまうのではないか」という懸念があったのです。
そこで着目したのが、ディスカッションを中心とした学習スタイルでした。誰かの話を聞いて終わるのではなく、自分の考えを言葉にし、他者と意見を交わす。そのプロセスにこそ、知識を実践へと変える真の学びがあると考えたのです。
こうした理念をもとに、「グロースラボ」は少人数制で全員が発言できる勉強会として設計されました。単なる知識の共有にとどまらず、社員一人ひとりが主体的に学び、多様な視点から刺激を与え合う場へと進化してきたのです。

受け身を脱する4つの工夫ポイント
1.少人数制(5人)による発言しやすさの確保
「グロースラボ」では、1回あたりの勉強会を5人という少人数で実施しています。これは、心理学で言われる「リンゲルマン効果(人数が増えると一人あたりの関与度が下がる現象)」を避けるための工夫です。
実際、参加者からは「発言しやすかった」「少人数なので安心して話せる」といった声が多く寄せられており、学びの質を高める雰囲気づくりにつながっています。
2.講師も社員が担当し、テーマ選択の自由度を確保
「グロースラボ」の講師は、外部の専門家ではなく、社員が担当します。特別な資格や条件はなく、自らが選んだテーマで自由に登壇できるのが特徴です。
その結果、「講師=教える人」「参加者=教わる人」といった固定的な関係ではなく、互いに学び合うフラットな空気が自然と生まれています。
3.ディスカッション中心の設計
座って話を聞くだけではなく、考え、発言し、議論する。グロースラボの設計では、この「アウトプット」を重視しています。
テーマによっては、事前に資料を用意したり、参加者に問いを投げかけたりと、対話を促す仕掛けも多彩です。こうしたディスカッションを通して、知識の習得だけでなく、思考の深掘りや言語化力といった実践的なスキルが自然と磨かれていきます。
4.参加者の業種・部署制限なしで多様な視点を取り入れる
もう一つの特徴は、参加者を特定の業種や部署に限定しないこと。テーマがITやエンジニアリングに関する内容であっても、興味さえあれば誰でも参加できます。
これにより、「自分には関係ない」と感じていたテーマから新しい発見を得たり、他部署のリアルな課題を知ることで気づきが生まれたりと、多様な学びが広がっていくのです。

実践テーマの具体例とその意義
実際に「グロースラボ」で取り上げられるテーマは、どれも実務に直結する内容です。参加者が日々の仕事の中で抱える課題や関心に根ざしているため、学びをすぐに活用できる点が特徴です。
業界あるあるや失敗事例の共有
現場で実際に起こった失敗や苦労話を題材にし、「何を学び、どう立て直したのか」を議論します。共通の失敗を再び繰り返さないためのヒントが得られるだけでなく、経験をオープンに語り合うことで心理的な安心感も醸成されます。
プロジェクトマネジメントの課題と解決策
クライアント対応やタスク管理など、実務で直面しやすい課題を深掘りします。成功事例と失敗事例を比較することで、実務に直結した知見が共有され、明日からの働き方にすぐに反映できる点が大きな意義です。
コミュニケーション力や提案力の強化
話し方や聞き方、プレゼンテーションの工夫など、ソフトスキル向上を目的としたテーマも人気です。こうしたテーマは、部署や職種を超えて共通の学びにつながりやすく、社内のコラボレーション強化にもつながっています。
生成AIなどの最新トピックへの対応
変化の速い業界に合わせ、生成AIやプロンプト技術などの最新テーマも柔軟に取り上げています。新しい技術を学び合う場があることで、個人のスキルアップだけでなく、組織としての適応力強化にも寄与しています。
どのテーマも「今すぐ仕事に活かせる」ことが重視されており、参加者の関心やモチベーションにもつながっています。実務に直結する知識を共有しつつ、社員同士の相互理解や横のつながりを強める効果も発揮しているのです。
参加者の声から見る「受け身で終わらない学び」の効果
「グロースラボ」の開催後には、毎回参加者からのフィードバックが寄せられます。そこから見えてくるのは、参加者自身の学び方や意識そのものの変化です。
経験談が学びをリアルにする
「講師の失敗談が印象に残った」という声が多く聞かれます。リアルな体験が語られることで、単なる知識ではなく自分ごととして捉える姿勢が生まれています。
言葉にすることで理解が深まる
「自分で説明してみて初めて理解できた」「曖昧だった知識がクリアになった」という感想も寄せられています。参加者自身が積極的にアウトプットすることで、理解が深まり、学びが定着しているのです。
他職種の視点で考え方が広がる
部署の枠を超えた交流により、「自分の部署だけでは気づけなかった視点を得られた」という声もあります。多様な背景を持つメンバーとの対話が、発想の幅や問題解決のアプローチを広げています。
積極的に発言し議論に参加する
堅苦しくない雰囲気の中で、参加者同士が自然に意見を交わすようになり、自分から議論に加わる姿勢が生まれています。安心して意見を言い合える環境が整っていることで、参加者が主体的に学びに向き合う姿勢が育まれています。

まとめ:他社でも実践可能なポイントと注意点
「グロースラボ」のような仕組みは、特別な予算やスキルがなくても実現可能です。重要なのは「設計の意図」と「運営の姿勢」だといえるでしょう。
- 少人数での対話形式にすることで、自然と発言が生まれる
- 講師役を社員に任せることで、主体性や多様なテーマが広がる
- 実務に直結するテーマを選ぶことで、参加者の関心と学習意欲が高まる
- ディスカッションの時間を十分に確保することで、全員参加型に
これらのポイントを押さえることで、どんな企業でも「受け身で終わらない学び」の場を設計できるはずです。
今後の展望と学びの文化形成への示唆
「学ぶこと」自体を目的にするのではなく、日々の仕事の中で自然と学びが深まる。グロースラボが目指すのは、そんな文化を社内に根づかせることです。
肩書きや部署を越えて自由に語り合い、お互いの視点から学び合う。特別な研修制度ではなく、業務と地続きの中で育まれる学びの場。そのあり方が、社員の成長だけでなく、組織全体の活性化にもつながっています。
「グロースラボ」は今後も定期的に開催し、アルサーガパートナーズの「人をつくる」というミッションを、現場で体現し続けていきます。「グロースラボ」について詳しく知りたい方や、開催の様子・参加者の声は、以下の記事でご覧いただけます。

社内勉強会「グロースラボ」って何?ただの勉強会じゃない、学びの本質に迫る場
一般的な勉強会やセミナーでは、講師が一方的に話すスタイルが多いと思います。そうした形式に、どこか退屈さを感じたことはありませんか?アルサーガパートナーズで定期的に開催されている「アルサーガグロースラボ(以下、グロースラボ)」は、受け身になりがちな学びのスタイルに、ちょっとした変化を加えた勉強会です。講師と参加者がディスカッションしながら、一つのテーマについて意見を交わす場。聞くだけではなく、発言し、議論することで学びを深める機会を提供しています。

社内勉強会「グロースラボ」通信 2025年2〜4月号
アルサーガパートナーズでは、「人をつくる」をミッションに掲げ、「学びの場はどうあるべきか?」という問いに日々向き合っています。その取り組みのひとつが、社内勉強会「グロースラボ」。社員同士が学び合い、語り合い、挑戦し続けるこの場を通じて、私たちは学びの文化を育んでいます。
HP:https://www.arsaga.jp/
新卒社員の早期離職を防ぐために人事が知るべき「5つの兆候」~データで見えた入社3ヶ月以降の「見えづらい変化」とその対策~

2025年春、多くの企業が初任給の引き上げを行い、新卒採用における競争は激化しました。しかし、せっかく採用した人材が早期離職してしまうという新たな課題も浮上しています。
特に注意すべきは、入社3ヶ月以降の時期です。この時期は配属や実際の業務に直面し、期待と現実のギャップを感じやすく、その後の定着率を大きく左右します。
今回は、従業員コンディション可視化ツール『Geppo』の導入企業データから見えた、新卒社員の状態変化と離職予兆について、人事担当者が押さえておくべきポイントをご紹介します。

執筆者新井 雅子氏株式会社リクルート HRSaaSプロダクトマネジメントユニット サーベイソリューション部 サーベイソリューショングループマネジャー
働き方改善を個人・組織の両方からささえるHRサーベイ『Geppo』のプロダクトマネージャー。2003年にリクルートに入社し、HR領域の企画・事業開発を経験したのち、経営企画として自組織の戦略策定・組織変革にも携わる。現在はその経験を活かし、顧客企業の人財定着・人財活用を支援するサービス開発を行っている。
目次
データで判明した新卒社員の5つの特徴
1.スコアのピークは5月、その後は緩やかに下降
新卒社員の月次コンディションスコアを3年分分析した結果、5月をピークに緩やかな下降傾向が見られました。入社当初はモチベーションが高く全てのスコアが良好でしたが、6月以降は「仕事」「対人関係」領域でスコアが徐々に低下していきます。
この結果から分かるのは、入社して職場に慣れた後の「見えづらい変化」を捉える重要性です。表面的には順調に見える新卒社員も、内面では変化が起きている可能性があります。

2.「曇り」は軽視できない予兆サイン
『Geppo』では、従業員が自身のコンディションを天気(快晴・晴れ・曇り・雨・大雨)で表現します。分析の結果、新卒社員のスコア低下は「雨」や「大雨」といった明確なストレス反応よりも、「晴れ→曇り」への微細な変化として現れる傾向があることが判明しました。
特に元々スコアが高い新卒社員では、「曇り」の出現だけでアラート状態に近づくことも多く、実態よりも「元気に見える」落とし穴が存在します。この「曇りの兆候」をいかに早期に察知し、対応できるかが重要なポイントとなります。

3.離職者のアラート発生率は継続者の2~3倍
離職者と就業継続者を比較したところ、離職者の「アラート発生率」は継続者の2~3倍に上ることが分かりました。特に離職の3ヶ月前を境に、就業継続者との差が顕著になります。
実際に離職した社員の多くが「晴れ→曇り」の段階で兆候を見せていたことから、微細な変化の「先読み」が実効的な対応に直結することが証明されています。

4.新卒は中途より「高く入って、大きく揺れる」
中途入社1年目と比較すると、新卒社員は入社時点でのスコアは高い一方、時間経過に伴って大きく変動する傾向が見られました。中途社員は平均スコアこそ控えめなものの、変動幅は小さく安定して推移します。
これは新卒社員が「初めての職場」「人間関係構築」「入社前期待とのギャップ」といった新卒特有の適応課題に直面していることを示しており、個別性の高い支援が求められます。

5.企業規模別で「曇り」の広がり方に違い
企業規模ごとのスコア推移を分析すると、大手・中堅・中小企業で傾向にばらつきが見られました。特に新卒人数が多い大手・中堅企業では、退職アラートになりえる「曇り」回答が月を追うごとに広がりやすい傾向があります。
規模に応じたフォロー体制の整備と、「誰かが気づく」を仕組み化する設計が、これからの新卒支援には欠かせません。

実践事例:データを活用した新卒定着支援
事例1:日東電工株式会社(離職率半減を実現)
グローバル展開する高機能材料メーカーの日東電工では、2019年から『Geppo』を導入し、新卒1~3年目とキャリア採用1~2年目の約600名弱を対象に運用しています。
キャリア支援・育成グループ約10名による運用体制のもと、毎月の回答データをBIツールで点数化し、アラートやコメントを基に必要な社員には個別対応を実施。特に新卒社員に対しては、追加質問を活用して先輩社員とのつながりによるオンボーディング支援を促進しています。
この継続的な可視化と対話の仕組みにより、導入前と比べて新卒社員の離職率は半分以下に改善しました。
事例2:株式会社アズテックス(全社で若手支援を推進)
ITインフラからシステム開発まで手掛けるアズテックスでは、入社4年目以内の社員を対象として『Geppo』を導入。毎月の回答を基に、営業担当・所属部署の上長・総務担当が連携し、迅速にエスカレーションを実施しています。
複数部署が連携し社員一人ひとりに寄り添うことで、「人の目が届きにくい不調のサイン」をデータで察知し、迅速に対応できる体制を確立。若手社員の離職率は大幅に改善されています。
人事担当者が今すぐできる3つのアクション
1.定期的なコンディション把握の仕組み化
月1回程度の定期的なコンディション調査を実施し、新卒社員の状態変化を継続的にモニタリングしましょう。特に入社3~6ヶ月は重点的に観察することが重要です。
2.「曇り」レベルの変化への敏感さを持つ
明確な不調サインだけでなく、「なんとなく元気がない」「以前より発言が少ない」といった微細な変化にも注意を払いましょう。これらの兆候を見逃さない観察力が早期対応のカギとなります。
3.部門横断でのフォロー体制構築
人事だけでなく、配属先の上司、先輩社員、メンター等が連携し、多角的に新卒社員をサポートする体制を整備しましょう。「誰かが気づく」を個人の感覚に頼るのではなく、仕組みとして設計することが重要です。
まとめ
新卒社員の早期離職防止は、採用コストの観点だけでなく、組織の活性化や成長にとっても重要な課題です。今回ご紹介したデータからは、従来気づきにくかった「見えづらい変化」の重要性が浮き彫りになりました。
人事担当者は、表面的な様子だけでなく、データに基づいた客観的な状態把握と、それに基づく早期対応の仕組みづくりに取り組むことで、新卒社員の定着率向上と組織全体のエンゲージメント向上を実現できるでしょう。
「晴れ→曇り」の微細な変化を見逃さず、一人ひとりに寄り添った支援を提供することが、これからの新卒定着支援の成功のカギとなります。
「採用のあり方」はこのままでいいのか?HRに漂う「閉塞感」と「停滞感」を、そろそろどうにかしたい|ワンキャリア寺口

はじめまして。ワンキャリアの寺口です。
キャリア支援や採用支援の領域で仕事をしています。最近の「採用シーン」について、少し思うことがあり、この文章を書いています。

寄稿者寺口 浩大氏株式会社ワンキャリア Evangelist
兵庫県生まれ。京都大学工学部卒業。リーマンショック直後、三井住友銀行に入行。企業再生、M&A関連の業務に従事したのち、デロイトで人材育成支援に携わる。現在、ワンキャリアでEvangelistとして活動。専門はPublic Relations。現在は、2025年10月のカンファレンス、採用ウルトラキャンプに向けて「採用を開こう、そして超えよう」の実現のための仕込みに奮闘中。
最近、仕事をする中で、採用は本当にこのままでいいのだろうか、、と思うことが増えました。個人の考え方や社会情勢が変化する中で、「採用のあり方・やり方」だけがずっと止まっている。そのような感覚を覚えています。
僕がHR領域で仕事をし始めてから約10年、個人の「はたらく」というテーマを取り巻く環境は本当に大きく変わりました。働き方改革、転職の一般化、複業やリモートワークの浸透など、変化をあげればキリがありません。
一方で、採用はというと、どうでしょうか。新卒採用でいうと、2020年にコロナ禍へ突入したことで企業説明会がオンライン化せざるを得ない状況になりましたが、それ以外に大きな変化はないように見えます。
中途採用はエージェント依存状態が続いています。「〇〇採用」や「採用〇〇」のような概念的な言葉は毎日のように発表され、AI活用も含めた新しいサービスも続々と登場しています。採用支援サービスのカオスマップには所狭しとサービスロゴが並んでいます。
しかし、この10年で採用はどう変わったか?という問いに対しては「ただただ難しくなった」というくらいで、あまりポジティブな変化が起きた明るいニュースはないように思えます。
目次
止まっている採用、閉じている採用
採用のあり方・やり方は、なぜこんなにも変わらないのでしょうか?僕はこの「停滞感」の原因は「閉塞感」にあると思っています。「採用」が閉じている。そう思うのです。
採用は3つの意味で閉じていると思います。
- 社内に閉じている
- 社外に閉じている
- 他領域に閉じている
順に説明します。
社内に閉じている
「採用は採用担当者と採用チームだけが頑張ってやるもの」という認識が、未だに多くの企業の中で通念として残っているということです。
「採用に駆り出された」
「人事がまた面接の依頼をしてきた」
「新人を受け入れるほど余裕がない」
誰しも思ったこと、言ったこと、聞いたことがあるのではないでしょうか。
断言しますが、人事だけが頑張って採用がどうにかなったのは遠い過去の話です。労働人口はものすごい勢いで減少し、2040年には1,100万人も足りなくなるという予測がされています。
今既に、ほとんどの企業が採用計画に対して人数が充足していません。大企業で64%、中堅企業で86%、中小企業で79%の企業が、採用計画に対して「定員割れ」を起こしている状況です(参照:HR総研:2025年&2026年新卒採用動向調査(12月)結果レポート)。
このような状況下でも、「人事、採用ちゃんとやれよ」と言っていられるでしょうか。
人事がサボっているわけではありません。むしろすごく忙しくなっています。採用が、本当に難しくなっているのです。
採用が強い会社は、やはり「自分たちの仲間は、自分たち全員で集める」という新しい当たり前が浸透しているように思えます。
社外に閉じている
様々な職種の方々とお話しする中で、つくづく思うことがあります。それは、これほど「隠しあう文化」がある職種も珍しいということです。
採用についての小規模な情報交換会や勉強会、交流会は一部の地域では行われていますが、マーケティング、エンジニアリング、広報、セールスなど他の職種と比べると明らかに「横のつながりをつくる機会」が少ない気がします。
たしかに「限りあるマーケットの中からの取り合いだからノウハウを教えたくない」という意見も、「人事は機密情報が多い」「人事は忙しい」という意見もその通りなのですが、さすがに横のつながりが希薄すぎると思います。
その結果、ほぼ全員が同じことで悩んでいて、個人のキャリアニーズや情報収集方法の変化、テクノロジーの進化についていけず、無料の便利な生産性向上ツールの存在も知らず、もったいない時間やもったいないお金の使い方をしてしまっているなと思うことがよくあります。
「大事な情報を知らない→うまくいかない→忙しい→情報収集の時間を取れない」という負のループに陥ってしまう前に、ちゃんと自分で社外に情報をとりに行くことが必要だと思います。
確かにメディアやSNS、調査レポートなど無料で公開されている情報はあります。ただ、これだけ変化が激しい時代に、今本当に必要な情報はオフラインで口伝で流通しています。今こそ、自分の足で、本当に価値のある生の情報にアクセスしてほしいと思います。
他領域に閉じている
「〇〇採用」や「採用〇〇」のように、採用と何かを掛け合わせた概念は多く存在します。
代表的なもので言えば、採用マーケティング、採用広報などでしょうか。確かに採用は他領域から学べること、他領域のエッセンスを取り込んで進化できるのびしろが多くあると思います。
しかし、ここで言われている「採用〇〇」は現状、その領域からちゃんと学べているのでしょうか?
「採用マーケティングに取り組んでいます」と言う人事の方に、「マーケターに一回でもマーケティングの話を聞いたことがありますか?」と尋ねたところ、答えはNoでした。「採用広報を頑張っているのですが、うまくいかず困っています」と言う方に、「広報・PRのことを学んでいますか?」と聞くと、答えはNoでした。
他領域の方々は本当に採用を助けてくれます。社内のマーケターが求人サイトを改善したらエントリーが増加した事例や、UXデザイナーが採用フロー設計を改善したら辞退率が下がった事例も実際にあります。
採用は、人事だけが頑張ってうまくいくものではなくなりました。今こそ、他領域の方々の専門性を学び、協働することが採用成功のための必須アクションとなっていると思います。概念だけでなく、実際に学び、コラボレーションが生まれることを願っています。
人事カンファレンスはこのままでいいのか?
上述したように、採用は、あらゆる領域から学べると思います。一方で、一見当たり前ではありますが、人事に関するテーマのカンファレンスを見ていると、やはり「人事の方々だけ」が登壇するものが多く、他領域の知見を学ぶ機会はなかなかありません。
また、採用に困っている経営者や、採用に困っている人事以外の現場社員の方が気になるテーマを取り扱っているものも少ないように感じます。
「新しくカンファレンスをつくるのであれば、人事に閉じたコンテンツ、人事に閉じたキャスティングは、もう辞めてほしい」
「いつもの感じのものであれば、わざわざオフラインで参加しようとは思わない」
「パネルセッションだけでは行かない。ウェビナーやYouTubeで十分」
1年前、カンファレンスを新しく企画するにあたって、100名以上の人事の方々と話したと思います。その中で、人事の皆さんに口を揃えて言われたことです。今の人事カンファレンスの現状に対しては、皆さん、なかなか思うことがあるようでした。
せっかく新しいものをつくるのであれば、コンテンツもキャスティングもコピペするようなことは絶対にしてはならない。そう思いました。

採用にこそ、「すごさ」より「らしさ」を
採用ウルトラキャンプは、京都のみやこめっせで開催します。
「なぜ、京都でやるのか?」という問いは何度も聞かれましたし、何度も自問自答しました。東京を「すごさの街」とするなら、京都は「らしさの街」だと思います。この2年間、京都に通い、様々な方々と対話する中で気づいたことは、「すごさ」が効かないということです。
「業界大手」「急成長中」「最新の」など所謂「すごさ」の情報よりも、「なぜ今の事業をやっているのか?」「なぜこのカンファレンスをやるのか?」「なぜ今の会社で仕事をしているのか?」など「歴史」「物語」「価値観」を問われることが多くありました。
長いお付き合いをするうえで、やはり人は「すごさ」より「らしさ」を問うのだなと思いつつ、採用こそ、この価値観をもう一度思い出すべきだと思いました。
昨今は、「スペック訴求」がインフレしているようにも見えます。企業は、いかに「いい会社」かを「いい人材」に興味を持ってもらうために宣伝し、個人はいかに自分が「いい人材」かを「いい企業」に入るために取り繕う。
不安が高まっている時代に、「合う」より「いい」、「らしさ」より「すごさ」に目がいき過ぎてしまっていると思うのです。
「すごさ」に偏重した結果、現状はどうでしょうか。早期離職の深刻化、採用が充足しない企業の大量発生、人材の一極集中など、おそらく良くなったことはほとんどなかったのではないでしょうか。
個人は、これまでにないほどに「らしくあること」を求めています。市場価値という「すごさ」を得たいのも「らしくあるため」の手段に過ぎません。
理想論ではなく、合理的に「らしさ」を出して、「合う人材」を仲間にしていく方が、持続的に人が集まり続ける企業をつくっていくうえで大切になっていると確信しています。
「採用」を開こう、そして超えよう。
採用ウルトラキャンプのコンセプトです。閉じていた採用を開くことが、改善にとどまらない「超進化」を生むと思っています。
そのコンセプトを実現するうえで、3つのエリアをつくっています。

コミュニティエリア
当日は既に1,500名を超える経営者の方・人事の方、現場で採用に関わっている方に参加申込をいただいています。
ただ、スペースをつくって「ここでよしなに繋がってください」ではなく、様々な共通テーマや共通体験で繋がれる場所をつくっています。焚き火を囲んで本音で語らうように、採用についてじっくりお話しいただける「本音の対話の場」をつくっています。
当日「なんかよかったな」で終わらないように。学びあい、協力し合える濃い繋がりをつくってほしいと願っています。
セッションエリア
計36個のコンテンツを用意しています。採用を開くべく、全てのコンテンツを「採用×〇〇」という縛りで企画しました。
ベーシックなものから、ニッチなものまで。今すぐ使えるものから、普段は忙しくて考えられないテーマまで。老舗からスタートアップまで。中小企業から大企業まで。考えうる、全ての方々にとって重要なテーマを盛り込んでいます。
ブースエリア
採用を開くうえで、マーケティング、ブランディング、テクノロジー活用など、様々な分野のリーディングカンパニーの方々にブース出展いただいています。きっと、採用を進化させるヒントと出会いがあるはずです。
最後に
カンファレンスを1日開催しただけでは、きっと何も変わりません。
しかし、「採用を開こう、そして超えよう」というコンセプトのもとに全国から集まった意志ある経営者・採用担当の方々が共通の体験をし、つながることで、採用は開きはじめると思っています。既に、参加申込は1,500名を超えました。
「採用をどうにかしたい」「閉塞感のある採用シーンをもっとオープンなものにしたい」そのような思いの方々と共に、採用を開いていこうと思います。
最終的にヒトを動かすのはデータではない|日本IBM藤森慶太さんの考える会社が人を育てる意味

インタビュー企画第3弾。今回は、日本IBMのコンサルティング事業本部でハイブリッド・クラウド&データ事業を率い、ブランディングも担当されている藤森慶太さんにお話を伺いました。
急速に変化する社会において、企業が未来に責任を持つとはどういうことなのか。これからの時代に必要な視点に迫ります。ぜひご覧ください!

登場人物藤森 慶太氏日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 コンサルティング事業本部 ハイブリット・クラウド&データ事業担当 Future Design Lab担当
米大学院にてファイナンスマネジメント修士号取得後パナソニック入社。2008年より日本IBMに移りファイナンスコンサルティングに従事。2014年通信・メディア・公益サービス事業部長、同年Apple社とのグローバル戦略提携を受け、日本のApple Alliance Leaderに着任。2015年モバイル事業を立ち上げ、多くの業界・業種にてテクノロジーを起点とした業務変革、ワークスタイル変革プロジェクトを実施。2018年インタラクティブ・エクスペリエンス事業部長、UXアプローチによる企業システム再構築や企業のDX支援サービスの立ち上げを実施。2020年より戦略コンサルティング&デザイン事業を統括を経て現在ハイブリット・クラウド&データ事業担当としてクライアントのAI・データ活用を支援。

登場人物戸田 裕昭氏株式会社WE 代表取締役 / 総務省地域力創造アドバイザー
大学卒業後、オフィス家具メーカーにて新規事業創出・地域活性化に携わる。総務省地域力創造アドバイザーや国土交通省スマートアイランド推進実証事業コーディネーターなどを担い、全国各地の地域における事業振興のアドバイスを行なっている。 また、個々人のやりたいことが起点となる事業創出を目的とした伴走型教育プログラムを開発・構築。小学校から大学までの教育機関や自治体、民間企業と連携し、人材育成を軸とした「組織変革」「事業創造」「地方創生」を行う。
自己紹介
― まずは自己紹介をお願いします。

私は、日本IBMのコンサルティング事業本部でハイブリッド・クラウド&データ事業を担当しています。加えて、今はブランディングの役割も担っています。
2020年のコロナ禍で強い危機感を覚えて、「Future Design Lab(フューチャー・デザイン・ラボ)」という組織を立ち上げました。テクノロジーが問題解決の大きな鍵になることは間違いありませんが、一方で“未来に対して責任を持つべきだ”という想いを強く持つようになりました。
YouTubeや社内の仲間との議論を通じて「これからの社会に本当に必要なものは何か」を考える場を作り、テクノロジーを活かしつつも人や社会を置き去りにしない――そんな倫理観を意識するようになったのも、この活動を始めた大きな理由です。
テクノロジーが進化する今こそ問われる「倫理観」
― 自己紹介のお話を伺う中で、倫理観を大切にされていると感じました。そう考えるようになったきっかけや体験はありますか?
そうですね。私も自分を犠牲にしてまで人を幸せにしたいタイプではありません。自分の利益も大事ですが、欲望には際限がなく、突き詰めると“倫理観”の問題に行き着きます。だからこそ企業が責任を持って倫理観を高めていく必要があると考えています。

特にその思いが強まったのはコロナ禍でした。リモートワークや宅配が普及し、自宅でほとんどのことが完結できる状況になりましたが、その便利さの裏には医療従事者や物流を支える人たちの存在がある。その姿が見えにくくなったことに強い危機感を覚えました。
― それは私も感じていました。便利になった一方で、人が支えている現実が見えにくくなりましたよね。倫理観という観点でも、ほかに印象的な問題意識はありますか?
そうですね。もう一つ強く感じているのが“アテンション・エコノミー”の問題です。今はショート動画やゲームなど、優秀な人たちがどう人々の注意を奪うかに知恵を注いでいます。楽しい仕組みですが、気づけば何時間も奪われてしまう。
本来、人は余白の時間に考えや発想を生んできました。その余白を無責任に奪うことは人を不幸にしかねない。だからこれは企業の倫理観の問題でもあると思うんです。
“役を演じる”ことで生まれるフラットな組織

― 現在の部署において、マネジメントで意識されていることはありますか?
私が意識しているのは“役を演じる”という感覚です。上司も部下も役を演じていると考えるので、厳しいことを伝える時も感情ではなく役割として伝えられる。結果的にフラットな関係を築けていると思います。
正直に言えば、私は人に怒るのは得意ではありません。でも“役を演じている”と考えるからこそ、必要なことを冷静に伝えられる。初めてマネジメントを任された34歳のときも、この考え方に助けられました。
― 34歳ですか?それは若いですね!(笑)
そうなんです。不安もありましたが“役だからやる”と割り切ることで、チームもフラットに動けました。
― なるほど。では、IBM全体にそうした文化が浸透しているのはなぜでしょうか?
日米の文化の違いが大きいと思います。アメリカは“ロール=役割”を基準に採用や評価を決め、人に依存しない仕組みです。
また、IBMには“ヘッドライト・オペレーション”という考えがあり、後ろを振り返らず前を見て次に備える文化が根づいています。これがフラットで健全な組織運営につながっていると思います。
日本企業に残る強みと課題
― 日本と海外の違いのお話が合った中で、日本企業がどのようなことを変えていけば良いと思われますか?
日本企業には強みもあります。有事に強く、危機が起きると現場が一丸となれる。離職率が低く、社員が長く勤める基盤があるのも良さです。
ただ裏を返すと、これは属人的だからこそ機能している面もあります。特定の人が抜けると一気に弱くなるリスクがある。加えて、日本は“後ろを振り返る”文化が強く、責任追及に時間を使いがちです。
もちろん反省も大事ですが、“次どうするか”を常に考えなければ、意思決定のスピードで世界に遅れをとると思います。

テクノロジー時代に求められる働き方
― テクノロジーが発達する中で、未来の働き方はどうなっていくと思いますか?
仕事そのものは無くならないと思います。世の中は常に「何かが無くなれば、何かが生まれる」という循環で成り立っています。テクノロジーの進化によって効率化される仕事もあれば、その分、新しい職業や役割が必ず生まれていきます。
ただし、その変化は想像以上のスピードで進んでいます。AIをはじめとするテクノロジーの進化に合わせて意思決定も早めなければ、チャンスを逃してしまうでしょう。これから求められるのは、決められたことをこなす力ではなく、自分で考え、柔軟にシフトし、周りと協働して新しい価値を生み出す姿勢です。
― 私もそう思います。特に、人とうまくやる能力の大切さを強く感じています。どれだけテクノロジーが進んでも、最後は人と人との関係がすべてですよね。
まさにその通りです。AIやテクノロジーがどれだけ進化しても、「人を励ます」「信頼関係を築く」「相手の気持ちをくみ取る」といったことは人間にしかできません。ビジネスの現場でも、最終的に人を動かすのはデータではなく“人の言葉”や“態度”です。
だからこそ、これからの時代は“人間力”が一層大切になります。効率やスピードを追い求めるだけではなく、人と人がどう関わるかに価値を置ける企業が、結果的に強くなっていくのだと思います。
―今の時代だからこそ、本当に大切なことですね。
人事へのエール
― 私は人事の方とお話しする事が多いのですが、本当に大切な役割だと感じています。ぜひ、今頑張っている人事の方にメッセージをお願いしたいです。
私も、人事は会社で最も重要な組織だと思います。先ほども言いましたが、テクノロジーがどれだけ発達しても、最後に残るのは人間です。仮に人間が直接の仕事から外れても、“人間が強い企業”が最終的に生き残る。最後はヒトなんです。
だからこそ人事には“目の前のKPIだけを追う”のではなく、“未来を見据えて人を育てる”という発想を持ってほしい。「人を育てることが会社の未来を育てる」ことにつながるということを意識してぜひ頑張ってほしいなと思います。

定着率が変わる!成果と人を両立させるマネジメント設計|エッジコネクション大村

近年、多くの企業で「人材の定着」は経営課題のひとつとしてクローズアップされています。特に、少子高齢化が進む日本では採用そのものが難しくなり、せっかく入社した人材が短期間で離職することのダメージは計り知れません。
現場からは「また採用からやり直し」「戦力化するまでの教育コストが回収できない」といった声があがり、経営層は「育たない・残らない組織では成果も上がらない」と頭を抱えます。
また、リモートワークの浸透や価値観の多様化によって、働く人々の「会社に求めるもの」も変化しました。給与や肩書きだけで引き留められる時代は終わり、心理的安全性や成長実感、仲間とのつながりといった、目に見えない価値が定着のカギとなっています。経営者やマネージャーは、いかにしてこうした要素を設計・運用できるかが問われているのです。

寄稿者大村 康雄氏株式会社エッジコネクション 代表取締役社長
慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に、人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1700社以上を支援し、継続顧客割合は75%を超える。2024年7月には「24歳での創業から19期 8期連続増収 13期連続黒字を達成した黒字持続化経営の仕組み」を出版。
人が辞める理由は“成果”の有無ではない?
よく誤解されがちですが、「成果を出せないから辞める人」は実は少数派です。むしろ、成果が出ていても辞める人は珍しくなく、逆に成果が出せなくても組織に残る人もいます。では、辞める理由はどこにあるのでしょうか。
当社が面談やアンケートを通じて見えてきたのは、以下のような声です。
・評価が何を基準に決まっているのかわからない
・頑張っても頑張らなくても扱いが変わらない
・話を聞いてもらえない、相談できない
つまり、成果の有無そのものではなく、「自分がどんな状態で、どんな評価を受けているのか」「組織からどんな期待をされているのか」が不透明な状況が離職につながりやすいのです。成果はあくまで一つの指標であり、それ以上に重要なのは、成果を出すための環境がどれだけ整っているかということです。
その基盤となるものは心理的安全性です。成果を出せるか出せないかにかかわらず、「ここで失敗しても大丈夫」「相談できる」「挑戦できる」という安心感がないと、人は疲弊していきます。とくに成果主義が強調される組織では、「成果を出していない自分はダメな人間だ」「相談したら迷惑をかける」と孤立を深め、最終的に離職を選ぶケースが少なくありません。
さらに、周囲との比較も心理的安全性に影響します。例えば同じような成果を出しているのに、Aさんは上司から高く評価され、Bさんはそうでもないという状況が続くと、評価基準への不信感が生まれます。本人は「自分は頑張っているのに評価されない」と感じ、いわゆる「理不尽さ」へのストレスが退職の引き金となります。
一方で、成果が出せなくても組織に残る人には特徴があります。それは「成長の余地が見えている」「周囲との関係性が良好」「挑戦が許されている」という状態です。本人も周囲も、「今はまだ発展途上だが、ここでなら伸びていける」という期待感を持っている場合、人は粘り強く居続けます。
結局のところ、成果の有無そのものは表層的な問題であり、その裏側にある「組織との関係性」「自分の状態の理解」「将来への期待感」が離職か定着かを分けているのです。この構造を理解せず、成果管理だけに注力すると、かえって定着率は下がりやすくなるため注意が必要です。
エッジコネクションの定着アプローチ
エッジコネクションのマネジメント運用の基本にあるのは、「人は成長を実感できる環境では、自然とモチベーション高く働ける」という考え方です。ただ単に成果を追い求めるのではなく、個人が自分の成長を感じ、前向きに努力できる仕組みを組織全体で用意しています。
その中核となっているのがKPI(主要業績評価指標)の見える化と評価の仕組みです。一つ一つの仕事や役割に対して具体的な成果指標を設定し、進捗や達成度を可視化します。これにより、社員は「自分が何を達成できていて、どこが課題なのか」を理解でき、成長の実感を得やすくなります。
しかし、KPIを示すだけで放置すれば、結局は「やれと言われたからやる」という義務感に変わりかねません。そこで当社では、2週間に1回の上司との1on1面談、そして3ヶ月に1回の人事レビューを設けています。
これらは単なる進捗確認の場ではなく、目指すべき方向性がずれていないか、課題や不安が放置されていないかを対話する大事な機会です。相談や軌道修正の場が定期的にあることで、個人が孤立せず、前向きにチャレンジし続けられるようにしています。
また、KPIの数値面だけに偏ると、いわゆる数字至上主義に陥りがちです。そのリスクを防ぐために、当社では行動指針を基準にした定性評価も行っています。例えば、仲間との協力姿勢や学習意欲、誠実さといった内面的な成長の部分も上司がフィードバックし、バランスのとれた成長を支援します。
さらに、誕生日にプレゼントを渡す、毎月3,000円のレクリエーション費用を支給して社員同士の親睦を深めるといった、内面的なフォローにも力を入れています。成長支援は厳しさや負荷を伴う側面があるため、「頑張るための土台としての安心感」も同時に提供することを心がけています。
とはいえ、成長を促される環境であることは間違いなく、それに伴う一定のストレスが発生するのも事実です。そのため、採用段階の会社説明では、「成長を強く求められる会社である」という点をしっかりと伝え、ミスマッチを防ぐようにしています。これにより、入社後に「思っていたのと違った」と感じて辞めてしまうリスクを減らし、より定着しやすい環境を作っています。
小さな組織でもできる今から抑えるべきマネジメント設計のポイント
「うちは小さな会社だから」「人数が少ないから仕組み化は難しい」という声をよく耳にします。しかし、実際には少人数だからこそ効果を発揮するマネジメント設計のポイントがあります。むしろ、人数が少ない分、風通しがよく、設計の浸透が早いため、小規模組織こそ実践しやすいのです。
まず大事なのは、1on1面談の徹底です。大規模組織では制度化しなければ個別対話の機会は生まれにくいですが、少人数組織ならむしろ上司や経営者が直接、週1回または隔週で短い1on1を実施できます。ここでは「何ができたか」「何が課題か」だけでなく、「困っていることはないか」「次に挑戦したいことは何か」といった内面の部分にも耳を傾けることが重要です。
次に、役割と期待の明文化です。少人数ゆえに「あうんの呼吸」で回ってしまう組織も多いですが、それでは誤解や負担の偏りが生じます。「あなたには何を期待していて、どう成長してほしいか」を言語化して共有することで、成長方向のミスマッチを防ぎます。
さらに、数字と行動のバランスを見る意識も欠かせません。KPI管理は有効ですが、それだけでは「結果だけで評価される」と感じさせ、疲弊を生みます。普段の働き方、協力姿勢、チャレンジする姿勢といった行動面のフィードバックを加えることで、成長を前向きにとらえる土壌を作れます。
最後に、心理的な安心感の醸成です。誕生日のお祝い、ちょっとしたレクリエーション補助、雑談の時間。これらは一見業務と関係ないようで、組織の一体感を生み、「ここで頑張ろう」という気持ちを支えるのです。リソースに限りがあるからこそ、コストをかけずにできる工夫を積極的に取り入れましょう。
まとめ:制度だけに頼らない、人が辞めない仕組みとは
最終的に、定着率を左右するのは制度そのものではなく、「制度をどう運用し、人と向き合うか」にかかっています。評価制度やKPI、1on1といった仕組みは確かに重要です。しかし、それを支える日々のコミュニケーション、方向性の共有、内面的なフォローがなければ、制度は形骸化し、逆に不信や不満の温床となってしまいます。
エッジコネクションでは、制度と運用の両輪を回し続けることで、成果と人材定着の両立を目指してきました。成長実感を持てる環境は人を動かし、挑戦を許される土壌は組織の活力を生みます。ただし、その分、成長の痛みやストレスも伴うため、採用段階での丁寧な説明や、入社後のフォロー体制も欠かせません。
企業規模や業種に関係なく、人の成長と組織の成果を両立させるカギは、「人を人として見るマネジメント」にあります。制度だけに頼らず、日々の対話と関わりの中で、期待と安心のバランスをどう作っていくか。それこそが、これからのマネジメント設計の核心だと、私たちは考えています。
社外メンターの導入は、企業成長を支える“戦略的な選択肢”|Mentor For 池原 真佐子

「女性管理職を増やしたいが、社内にロールモデルがいない」
「研修だけでは個別のキャリア課題に答えられない」
人事担当者の方から、よくそんな声を伺います。人的資本経営やDEI推進が求められる今、企業には「多様な人材の力を引き出す支援」が不可欠です。こうした背景の中、いま改めて注目されているのが、「社外メンター制度」です。
今回は、人材育成と女性活躍の観点から、なぜ今この制度が求められているのか、企業での活用方法と合わせてご紹介します。



執筆者池原 真佐子氏株式会社Mentor For 代表取締役CEO
早稲田大学・大学院卒。PR会社、教育系NPO、コンサル在職中にINSEADで修士号取得。2014年に起業。妊娠・出産と同時にパートナーが海外赴任し、ワンオペ育児を経験。女性がキャリアを築く上での構造的課題に直面し、2018年にD&Iを推進する社外メンター事業を開始。数年にわたるドイツとの二拠点生活を経て事業を拡大、現在は日本で展開中。主な受賞歴に第23回Japan Venture Awards JVA審査委員会特別賞、東京都女性経営者アワード 継続成長部門 女性起業家大賞 グロース部門優秀賞 獲得(全国商工会議所女性会連合会会長賞)、EY Winning Women 2022 、DBJ女性新ビジネスプランコンペティションファイナリスト、東京都都知事賞 女性パワー翔き賞 受賞等
目次
1. なぜいま「社外メンター」なのか?
1-1. 必要なのは「面」ではなく「点」の支援
企業経営において、競争力を維持し、持続的な成長を実現するためには、社員一人一人の成長が欠かせません。そのための支援をどう設計するかは、いま、多くの人事部門にとって重要なテーマとなっています。
実際、人材育成の主力として集合研修を活用している企業は以前として多数派です。しかし、その成長を促すためには、集合研修といった従来の「多数に対して一律に行う面の支援」だけでは不十分なのです。
そこで今、注目を集めているのが、個々の社員の課題にフォーカスした「点の支援」であり、その代表的な存在が、社員のキャリア開発を支援する「メンター制度」なのです。
メンター制度は、個々の社員のキャリア開発を促進し、成長を支えるための効果的な手段として注目されています。なぜ女性社員が昇格を拒むのか、モチベーションが落ちてきた社員のライフに何が起きているのか・・等、一人一人、抱えているキャリアやライフの課題や志向は異なっています。
その個々人にカスタマイズされた支援や助言があれば、社員は自身のスキルやキャリアパスを明確にし、組織の変化に適応する能力を高めることができます。
1-2. 社内リソースの限界
社員育成においてメンター制度が重要ということはこの数年で浸透してきました。しかし多くの企業が「社内に適切なメンターがそもそもいない」「社内の管理職は忙しくてメンターとしての役割をお願いしづらい」という課題に直面しています。
また、社内に適切なメンターがいたとしても、どうしても固定観念や既存の組織文化に縛られがちで、新しい視点をもたらすことができなかったり、メンティの立場からしても「社内の人には話しづらい」となってしまう。そこで注目されているのが「社外メンター」です。
組織の枠を超えた全く違う視点から、社員に新たな気づきや学びをもたらしてくれます。また、社外だからこそ多様なタイプのメンターと出会うことができます。結果として、社員はより柔軟で広い視野を身につけ、変化の激しいビジネス環境にも適応できるようになります。
1-3. 特に女性リーダー育成には有効
この「社内ではなく社外にメンターを」というのは女性活躍推進において、特に顕著です。
多くの企業が「社内に女性管理職のロールモデルが少ない」「いても少数で、ワンパターン」「社内の女性役員は経歴もスーパーウーマンすぎて参考にしにくい」という悩みを抱えています。女性社員がリーダーとしてのイメージを持ち、前向きにリーダーシップを発揮するには自己効力感の向上が不可欠ですが、身近な例がないと管理職へのイメージを持ち難しいのが現実です。
そこで社外メンターは大きな役割を果たします。社内はいなくても、社外を探せば、リーダーとしてのキャリアもライフイベントも、豊富な経験をしている女性は沢山います。
そのような「人生の先輩女性」が社外メンターとして適切なスキルを持ち、次世代リーダーとして期待される女性に寄り添い、一人一人の悩みや状況に寄り添うことで、「私もリーダーになってもいいかな」という意欲を高め、更に、リーダーになった後の具体的なマネジメント知識も身につけることができます。
実際、経済産業省の調査では「キャリアアップへの前向き度」が30%未満から85.5%へと劇的に向上しました(※1)。このように、社外メンター制度は、社員の多様なキャリア課題・支援ニーズに応えるとともに、特に女性リーダー育成の面でも重要な役割を果たします。企業がこの制度を効果的に活用することで、組織全体の競争力を高め、社員一人一人が持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるのです。
※1:経済産業省「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」(2023)
2. 社内メンター制度が思うように機能しない3つの理由
本章では、社外メンターを導入する上での人事部が向き合う課題について詳しくご紹介します。
2-1. 社員の多様なニーズへの対応の限界
現代の社員のキャリアニーズは多様化しています。20代の早期成長志向、30代女性のライフステージとキャリアの両立、40代のキャリアチェンジ、50代のセカンドキャリアなど、それぞれが異なる課題を抱えています。社内だけでこの多様性をカバーするのは現実的に困難です。
結果として「相談したがメンターに経験が不足しており、具体的なアドバイスを得られなかった」「育児との両立の相談をしたいのに、メンターは育児は妻に任せきりで両立の悩みが理解してもらえない」等、自分の課題に答えてもらえていないと不足を感じた社員が、成長機会を求めて退職してしまうリスクがあるのです。
2-2. 社内メンターのスキル・リソース不足
社内メンターの選定や育成に関して課題を抱える企業も少なくありません。社内メンターの多くは業務経験豊富なベテラン社員ですが、メンタリングには、メンターとしての対話・助言のスキルが必要だったりと、業務とは全く異なるスキルが必要です。
多くの企業で見られる課題は下記のようなものがあります。
- メンターとしてのマインド・スキルの研修機会が不足
- メンターがコーチングスキルしか学んでおらず、適切な助言ができない
- 本業の業務負荷が高く、メンター制度への参加に十分な時間を確保できない
- メンター候補の人選が限られ、同じ人に依頼が集中する
- メンターが人の話を聴くことが苦手で持論を押し付けてしまい逆効果
- 組織の「当たり前」から抜け出せず、固定観念が再生産されやすい
こうした状況では、メンターの負担が増加し、メンティーも満足のいく支援を受けられないのです。
2-3. メンタリング制度の運用・管理の負担
社内メンター制度を効果的に運用するためには、適切なマッチング、進捗モニタリングやフィードバック、適切なマッチング、トラブルへの介入などの継続的な運用管理が重要です。
しかし、これが人事部にとって大きな負担となっています。
- 適切なマッチング:メンターとメンティーの相性や目的に応じた組み合わせ
- 進捗モニタリング:定期的な面談実施状況の確認
- トラブル対応:相性の問題や期待値のずれへの介入
- 効果測定:制度の成果検証と改善施策の検討
これらを既存業務と並行して行うのは現実的に困難で、社内での専任リソースの確保も難しいのが実情です。結果として制度が形骸化してしまうケースも少なくありません。
3. 失敗しない社外メンター制度!設計の5つのポイント
社外メンターを選定する際には、どの会社やサービスを利用するかが最初の重要なステップです。メンター制度が効果的に運用されるためには、メンターを提供する企業の質や適切さが大きな影響を与えます。
ここでは、実際に制度を導入・運用する際に人事部として押さえておきたいポイントを整理しました。
3-1. メンターの質と専門性の見極め
メンターの質が最も重要な要素です。社外メンターを提供する会社やサービスが、どのような基準でメンターを選定しているかを確認しましょう。
①リーダーシップ経験の深さ
特に女性リーダー育成を目的としている場合、企業における高いレベルでのリーダーシップ経験が豊富であることが求められます。
現場リーダーとしての経験だけでなく、実際に評価まで行っていたか、困難な状況でチームを率いた経験があるか、複数階層マネジメントの経験があるかなど、どのような場面でリーダーシップを発揮してきたかを確認しましょう。
②メンタースキルの有無
メンターとしての成功には、ただの専門知識だけでなく、スキルも重要です。先述したように、コーチングスキルだけでは不十分です。自分の経験をベースにアドバイスまでできるか、そのような専門資格を有しているかを確認しましょう。
様々な研究においてもメンター制度の失敗の主要因は「メンターのスキル不足」と結論づけられています。
➂中長期伴走への対応力
メンタリングは1回だけでは効果はありません。6ヶ月以上の中長期に渡り、継続的に一人のメンターが伴走することで変化を後押しすることができます。
セッションを重ねるごとにメンティーに深い変化を促せるよう、長期に渡る1on1設計ができるスキルも重要なポイントです。
3-2. サービス提供会社の実績と信頼性
メンターを提供する企業の実績や評価は、その信頼性を測る指標となります。
①過去の実績と成功事例
その企業がどれだけ多くのクライアントにサービスを提供しているか、過去にどれほど成果を上げてきたかを調査します。「導入企業◯◯社」という数字だけでなく、具体的な成果が見えるかが重要です。成果を出し多くの企業からのリピート事例があるかを必ず確認しましょう。
②ケーススタディや顧客の声
サービス提供会社が提供する成功事例や顧客の声を参考にします。特に、自社と似た規模・業界やニーズに対応した事例を確認するといいでしょう。
さらに、満足度調査ではなく、具体的にどのような変化があったのかが分かる事例があるかどうかも重要です。
3-3. プログラムのカスタマイズ対応力
ひとりひとりの社員に合わせた「点の支援」の重要性をお伝えしてきましたが、メンター制度は、社員一人一人のニーズに合わせてカスタマイズできることが重要です。
①メンター選定の柔軟性
AIによる機械的なマッチングだけでなく、人事担当者の意図や個別の事情を汲み取って丁寧にメンターを選べるか、どれくらいの柔軟性があるかは重要です。
②進捗確認とフィードバック機能
制度導入後、人事部としては「今どうなっているのか」が可視化されていることは重要です。進行中のメンタリングプログラムにおいて、定期的に進捗を確認し、メンティからフィードバックを受ける仕組みが整っているかを確認しましょう。
3-4. メンタリングプログラムのサポート体制
社外メンター制度の大きなメリットは、「人事部の運営負担軽減」もあるはずです。メンターだけでなく、例えば以下のようなプログラムの運営体制やサポートが重要です。
- トラブル発生時の迅速な対応(問題解決サポート)
- オンラインプラットフォームの構築
- 人事部に対する定期的なカウンセリングや運営支援サポート
3-5. 企業文化への理解と適応力
いくら優秀なメンターでも、自社の文化やビジョンを理解していなければ的外れなアドバイスになってしまいます。
- 企業の価値観や文化を理解する取り組み
- 企業のビジョンや戦略に沿ったメンタリングの提供
- 業界特有の課題への理解
これらを踏まえたメンタリングができる体制かを確認しましょう。
4. 社外メンター制度の実践事例:成功の秘訣を探る
ここまで社外メンター導入の背景から、社内メンターの課題、そして制度設計のポイントまでお話してきました。「理屈はわかったけれど、実際のところどうなの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。
そこで最後に、実際に社外メンター制度を活用して成果をあげているMentor For社が支援している企業事例をご紹介します。異なるアプローチで課題解決に取り組んだ2つのケースから、成功の秘訣を探っていきましょう。
読者の皆様の会社にも活用しやすいステップごとに整理してみましたのでぜひ参考にしてみてください。
【事例1】 女性活躍推進における社外メンター制度の事例

個々に寄り添った社外メンター施策で女性特有の“自信の無さ”を解消。女性管理職からの評判も好感触。
社外メンターを社内メンター制度の土台づくりに積極的に活用したソフトバンク株式会社様の事例になります。
課題:女性管理職の育成において3つの背景課題があった
- 女性特有の自信の無さ:管理職やリーダーポジションに対して女性の方が自信を感じにくい
- 個別対応の必要性:従来の研修やワークショップだけでは不十分。仕事のポジション、所属部署、家庭環境など人それぞれ異なる複雑な状況への個別対応が必要
- 上位役職への後押し不足:管理職になった女性がさらに上のポジションを目指すための個別サポートが不足
解決アプローチ:社外メンターで「良質なメンタリング」を体験してもらい、それを社内に展開する
Step1:
社内の女性管理職に社外メンターを配置 → まず良質なメンタリングを体験してもらう
Step2:
上記女性が社内メンターになるためのスキル研修を実施→体験を踏まえた実践的な社内メンター育成
Step3:
上記女性が「社内メンター」としての活動開始→社内の若手後輩女性のメンタリングを実施(社外メンターがフォロー継続)
Step4:
Step1-3のループを毎年繰り返し、良質なメンター制度が社内に定着
成果と評価
- 多様なメンターとの精度の高いマッチングにより、社内だけでは得られない選択肢を提供
- 女性管理職からの高い満足度と感謝の声
- メンター文化の根付きによる相互成長の風土づくりに寄与
- 2020年からは男性管理職向けダイバーシティマネジメント研修も展開
【事例2】マネジメント支援における社外メンター制度の事例

事業規模の拡大に伴い“個の成長”へのさらなる支援が必要に。受講者からも多数の前向きなコメントが寄せられるように。
複雑化するマネジメントの課題に寄り添うマーサージャパン株式会社様の事例になります。
課題:組織規模拡大に伴う個別キャリア支援の必要性が高まった
- 組織拡大による課題:事業成長とともにマネージャー以上の人数が増加し、従来の支援では限界に
- 業界特有の課題:コンサルティング業界のハードワーク文化により女性比率が低く、ワークライフバランスを理由とした離職が発生
- 個別性の重要性:妊娠・出産、育児、介護など女性の方がライフイベントの影響を受けやすく、個別の課題解消が必要
解決アプローチ:真の多様性尊重を目指し、女性・男性問わず社外メンターによる個のキャリア支援を実施
Step1:
対象者に多彩な経歴を持つ社外メンターを配置→主にマネージャー以上と産育休復帰直後の若手に社外メンターをつける
Step2:
一定期間の継続的な伴走(1on1メンタリング)を実施→必要に応じて追加セッション・メンター変更で個別最適化
Step3:
定期的に効果を測定したり、顧客側とミーティングを重ねながら1on1を提供→アンケートや面談を通じて質の高いメンタリングを継続提供
成果と評価
- 心理的安全性の確保:「上司には言いづらかった個人的な想いや悩みを話せた」
- 具体的な課題解決:「育児と仕事の両立の悩みがメンターからの気づきで解消されつつある」
- 新たな視点の獲得:社外メンターとの対話を通じた自己認識の深化と新たな気づき
- DEI推進への寄与:固定観念やアンコンシャス・バイアスの自覚と価値観のアップデートに貢献
今後、この制度をうまく活用することで、組織の競争力をさらに高め、社員の成長を支える強固な基盤を作り上げることができるでしょう。社外メンター制度は一時的な施策ではなく、組織の競争力を長期的に支える重要な基盤となり得ます。ぜひ積極的に検討し、自社の成長戦略のひとつとして活用していただければと思います。
1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川

コロナ禍によって対面の機会が減り、組織の“つながり”が見えにくくなった時期、多くの企業が、対話の機会を補う手段として1on1を導入しました。私たちKAKEAIも、500社・150万回以上の1on1支援を通じて、この変化を間近に見てきました。
当初は「とにかく話すこと」が目的だった1on1。しかし今、「どのような対話を、なぜ行うのか」を問い直すフェーズに移行しています。
実際、多くの企業が「目的の再定義」をテーマに挙げており、形式を整えたその先にある“本質的な価値”を模索し始めているのです。
エンゲージメント、パフォーマンスマネジメント、組織文化の醸成。目指す状態と現状のギャップを埋める手段として、1on1を“仕組み”として再設計する動きが加速しています。
本稿では、1on1が「目的」「関係性」「活用」の3つの観点でどのように進化しているのかを整理し、実務と文化のあいだにある“対話の可能性”をひもときます。

執筆者皆川 恵美氏株式会社KAKEAI 代表取締役社長
東京大学卒業後、2002年株式会社リクルート入社。リクナビ・じゃらんの商品企画を担当。その後、株式会社セルム、PMIコンサルティング株式会社にて管理職育成・組織開発コンサルティングに携わった後、同領域にて独立。2010年から株式会社ミナイー代表取締役として、内閣官房主導での中央官庁の働き方改革プロジェクト、大手企業の人事制度構築や、ミドルマネジメント強化プロジェクトなどに従事。2018年、株式会社KAKEAIを共同創業。
目次
目的の進化|正解のない時代を動くために、“何のために話すか”を再定義する
かつてのマネジメントは、「正解を持つ上司が部下に伝える」という構図でした。しかし、変化のスピードが増し、予測がつかない状況が常態化する中で、上司と部下は”共に考え、共に進む”関係性へと変化しています。この前提の変化は、1on1の目的そのものに影響を及ぼしています。
私たちKAKEAIが支援してきた企業の現場で見えてきた変化を、具体的にお伝えします。
コンディション把握 → 主体的な行動の引き出し
製造業のA社では、当初はメンバーのコンディション把握や精神的なケアを目的として1on1を活用していました。ただ、対話を継続するなかで「安心感を与えるだけで終わらせて良いのだろうか」という問いが生まれ、1on1の目的を“行動の主体性を引き出す場”へと再定義する動きが始まりました。
現在では、本人の価値観や内発的動機に寄せたテーマ設定を重視し、「どうしたいと思っているか」「それを実現するには何から始めるか」といった内省を促す問いかけを通じて、行動の後押しを図っています。こうしたアプローチにより、メンバーの視点や行動に前向きな変化が生まれ、結果としてチーム全体の推進力も高まっているといいます。
業務支援 → 意志決定の質の向上と成長支援へ
IT業界のB社では、当初は業務進捗や課題の整理を目的として1on1を運用していましたが、対話の形骸化を防ぐため、1on1の位置づけを“意志決定と成長の支援”へと再定義しました。
その中で特に重視したのが、「どう考えたか」「なぜそう判断したのか」を部下自身の言葉で掘り下げる時間です。上司は“問いかけ役”として部下の思考に伴走し、現場の判断力と自律性の底上げを図っています。
実際に、部下からは「自分の考えを整理する習慣がついた」「迷った時に立ち返る判断軸ができた」といった声が上がるなど、日々の対話が意思決定の質や成長促進に着実につながっていることが窺えます。
エンゲージメント向上 → キャリアの自律支援
IT業界のC社では、当初はエンゲージメント向上を主な目的として1on1を導入し、まずはメンバーの声に耳を傾けることに重点を置いていました。しかしここ2年ほどで、キャリア自律の支援を軸に据え、1on1の目的や内容を見直しています。
「会社の中でどう成長したいか」という視点から一歩踏み込み、「どのような価値を社会に提供していきたいか」といった中長期的なキャリアビジョンを、対話の中で共に描く設計へとシフト。上司も、単に話を聞くだけでなく、メンバーが自らのキャリアを主体的に捉え、選択・行動できるよう、積極的に後押しするようになりました。
この変化により、1on1は“傾聴の場”から“キャリア形成を後押しする場”へと進化し、結果として優秀な人材の定着率向上にもつながっています。
個別の対話による育成支援 → 組織としての育成支援へ
商社のD社では、これまで1on1を個人の育成支援の場として活用してきましたが、現在ではその対話を組織的な育成支援の仕組みへと発展させています。個々の1on1で見えてきたスキルや経験、志向性といった情報は、直属の上司だけでなく、部門全体の管理職で共有され、場合によっては人事部門とも連携される仕組みが整いつつあります。
たとえば、「あなたの強みをどのプロジェクトで活かせるか」「この経験をどう次の成長につなげていくか」といった具体的な接続点を1on1の中で見出し、それをもとに育成の方向性を部門全体で検討するような取り組みが進んでいます。
関係性の進化|“上司と部下”だけではない関係性が生む、多様な学びと支援
1on1はもともと、直属の上司と部下の間で行われる“縦の関係”を前提とした仕組みとして広がってきました。しかし、組織の構造や働き方、個人のキャリア観が多様化するなかで、上司1人がすべての対話ニーズを担うことは難しくなっています。
実際に、多くの企業で「上司と部下だけで完結しない対話設計」への関心が高まっています。そこで注目されているのが、縦・横・斜めといった多様な関係性を活かした1on1の設計です。
ここでの分類は以下の通りです:
- 縦の関係性:直属の上司や、上司の上司といった階層的な関係による対話
- 横の関係性:同じ役職・年次の同僚や同期同士によるフラットな対話
- 斜めの関係性:他部門や異なるラインに所属する先輩社員やメンターなど、直接的な上下関係や評価関係のない相手との対話
このような多様な関係性を通じて、1on1は「育成の場」から「信頼をベースにした学び合いのネットワーク」へと進化を遂げつつあります。
縦の関係性の拡張:中長期視点を持つ上位者との対話
ある製造業E社では、メンバーが「上司の上司」や役員といった視座の異なる上位者と1on1を行う機会を意図的に設計しています。 これは、短期的な業務指導とは異なり、メンバーの中長期的なキャリア支援や組織理解の促進を目的とした対話の場として機能しています。
実際、こうした1on1では、直属の上司では見えにくい組織全体の戦略や構造について語られることも多く、将来のリーダー候補となる中堅層にとって、視野を広げるきっかけとなっています。そうした効果を受けて、上位者との1on1は、個人の成長と組織の将来像をつなぐ対話として価値が評価されつつあります。
横・斜めの関係性の活用:力関係を超えた多様な学びの場
金融系F社では、課長層や先輩社員、他部門のメンターなど、“力関係のない相手”との1on1も活用されています。とくに異なる部門や職種をまたぐ対話では、自分のキャリアを客観的に見つめ直す機会や、視点の転換が起きやすくなります。
「営業から人事に異動した先輩との対話で、キャリアの可能性が広がった」といった声も聞かれるなど、部署を超えた対話が、キャリア自律の支援にもつながっていることが窺えます。
背景にある構造的な課題
こうした“関係性の進化”の背景には、現場の実態に基づく次のような構造的課題があります。そして今、それらにどう応えていくかが、1on1のあり方を再設計する出発点になっています。
管理職への過度な負荷集中
全メンバー分の1on1を管理職1人が担う体制では、物理的にも心理的にも余裕がなくなり、対話の質が維持しづらくなっていきます。今後は、多様な対話の組み合わせによって1on1の機能を分散し、担い手を増やしていく設計が求められます。
キャリア観・価値観の多様化
個人の志向や成長の描き方が多様化するなかで、すべての部下に同じスタイルで向き合うのは限界があります。だからこそ、複数の関係性の中で異なる視点やフィードバックに触れられる“開かれた支援環境”が必要とされています。
「直属の上司には言えない声」の存在
評価や上下関係を気にして、本音を伝えることに躊躇がある──これは多くの現場で聞かれる声です。これからの対話は、上下関係を超えた“安心して話せる関係性”を組織の中にどう織り込むかが鍵になっていきます。
活用の進化|点ではなく”しくみ”へ。1on1が変えるマネジメントと風土
以前は、1on1のKPIとして「実施率」や「実施回数」がよく語られていました。しかし、制度として整ってきた今、問われているのは「この対話が、組織の中で何とつながっているか」です。
様々な施策との連動による価値創出
Kakeaiで支援してきた企業では、1on1の対話内容を組織の様々な仕組みと連動させる取り組みが進んでいます。
たとえば、ある通信系G社では、1on1で話された内容を目標設定・振り返り・評価面談と連動させる設計に再構築しました。これにより、対話が”結果評価”ではなく”成長支援”として組み込まれるようになり、評価面談がより納得感のあるものになったといいます。継続的な対話の中で蓄積された情報により、より精度の高い目標設定と公正な評価が可能になっています。
また、サーベイのスコアや定量的なエンゲージメント指標と、1on1で出た定性的な気づきを照合し、「なぜそのスコアになったのか」をチームで読み解く試みも増えています。テクノロジー企業H社では、エンゲージメント調査やパルスサーベイの結果と1on1の対話内容を組み合わせることで、数値では見えない背景や具体的な改善点を明らかにしています。ここでは、1on1は単なる個の問題を話し合う場ではなく、「組織の状態を把握し、現場から改善の一手を打つための手段」として機能しています。
加えて、H社では1on1で把握した個人の強みや興味、キャリア志向を人材配置や育成計画の策定に活用しています。組織のニーズと個人の希望を効果的にマッチングさせることで、双方にとって価値のある人材活用が実現しています。
つまり、1on1はもはや”回数”だけで語るものではなく、「どのような変化を生んだか」「何と接続されているか」で価値が決まるものへと進化しています。
おわりに|“問いをもって話す”時代へ
1on1という言葉が組織に定着して久しくなりました。実施率やテンプレートの整備といった“制度としての1on1”は、すでに多くの企業で確立されつつあります。
けれども今、あらためて見直されているのは、「この対話を通じて、何を実現したいのか?」という問いです。目標設定、評価、育成、キャリア支援、エンゲージメント、組織文化の醸成──。1on1は、あらゆる組織課題と接続しうる変革の起点として、再設計されるフェーズに入っています。
私たちKAKEAIは、500社・150万回以上の1on1を支援するなかで、こんな変化を実感しています。それは、形式に頼るのではなく、問いをもって設計された1on1は、組織に確かな変化をもたらすということ。
- なぜこの対話が必要なのか?
- 誰と話せば、どんな気づきや行動が生まれるのか?
- その対話は、組織のどんな動きと結びついているのか?
こうした問いに向き合いながら1on1を設計することが、マネジメントの質を高め、組織の変化を支える基盤となるのです。
1on1は、事業変革の推進、管理職の役割転換、若手の離職防止、多様なキャリア観への対応といった、今まさに多くの企業が直面している課題に対しても、等身大変化を生み出す“しくみ”として機能します。そうした変化は、現場で交わされる一つひとつの問いと答えの積み重ねから始まります。
変化の時代に、組織と個人が“信頼と学び”でつながるために。 1on1の進化は、制度や形式の話ではなく、一人ひとりの問いかけから始まるのだと、考えています。
「3つの壁」を乗り越えた企業事例|本人・上司・全社で実現する女性活躍推進

2023年3月期の有価証券報告書から女性管理職比率の開示が義務付けられるなど、女性活躍を推進する機運が一層高まっています。一方で、「なかなか女性の管理職が増えない」とお悩みの企業は少なくありません。
本連載では「本人・管理職・全社で実現する女性活躍推進」をテーマに、数多くの企業を支援されてきた株式会社リンクアンドモチベーションの宮澤さんにお話を伺います。
これまでの回では、女性活躍推進を阻む「3つの壁」と、それぞれを乗り越えるためのアプローチについて解説してきました。
今回は、その「3つの壁」を乗り越えた企業事例をご紹介します。

【人物紹介】宮澤 優里 | 株式会社リンクアンドモチベーション 新規事業拡大領域 責任者
一橋大学を卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・人材育成に携わり、延べ150社以上を支援。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、自社のプロダクト開発にも従事。風土変革・人材育成領域の事業責任者を経て、現在は自社の新規事業拡大領域の責任者を務める。メディアでの解説実績多数。
目次
「3つの壁」を乗り越えた、大手企業A社の挑戦
―今回は、「3つの壁」を乗り越えた企業事例をご紹介いただけるとのことですね。
宮澤さん:はい。今回は、本連載で紹介してきた「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」「マネジメントの壁(管理職の壁)」「サポートの壁(全社の壁)」という3つの壁を、計画的かつ着実に乗り越えてきた大手企業A社の取り組みをご紹介します。
A社は、単体で約2,000名、グループ全体では2万人を超える企業です。同社では、「価値創造を支える最も大きな原動力は“人材”である」と考えており、経営戦略の中核として「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」に取り組んできました。
この戦略の一環として、業界特性も踏まえ、「女性活躍推進」を重要テーマに設定。グループ全体で定量・定性の目標を定め、共通の施策を推進しています。
「3つの壁」の問題が複雑に絡み合っていた
―女性活躍推進に取り組む前、A社ではどのような課題が見られたのでしょうか?
宮澤さん:A社においても、多くの企業と同様に「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」「マネジメントの壁(管理職の壁)」「サポートの壁(全社の壁)」が複合的に存在していました。
まず「キャリアの壁(本人の壁)」としては、「仕事自体は好きだが、キャリアアップしたいとは思えていない」「上司や先輩の姿を見ても、自分の将来像を重ねづらい」といった声が上がっていました。なかには、これまでの経験で思うような成果が出なかったことから、「自分には向いていない」と自己変革を諦めてしまっているケースもありました。
次に「マネジメントの壁(管理職の壁)」としては、「早期からキャリアを考えさせることや、挑戦機会の提供が不十分」「個人事情への配慮はあるが、組織全体の役割分担や業務調整ができていない」「変革を個人の問題と捉えてしまう」といった課題が見られました。
加えて、「営業は1人でお客様を担当するもの」といった固定観念も根強く、女性に新たな役割を任せることに慎重になりすぎていた面もあります。こうした背景から、マネジメントのスタンスやスキルに関する課題が浮き彫りになっていました。
そして「サポートの壁(全社の壁)」としては、「どうせ状況は変わらない」という諦めの空気が広がっていました。加えて、「制度を使うと迷惑をかけるのでは」「業務に口出しすべきではない」といった遠慮の姿勢も根強く、周囲にリクエストをしづらい雰囲気がありました。こうした風土が、制度の活用や行動変容の妨げになっていたのです。
このように、A社では「3つの壁」の問題が複雑に絡み合い、女性活躍推進を阻んでいました。そこでA社は、3ヵ年の中期計画を策定し、「女性社員本人の意識変革」「管理職の行動変革」「全社の風土変革」に体系的かつ計画的に取り組むことを決めました。

「女性社員本人の意識変革」に向けた取り組み
―「女性社員本人の意識変革」に向けて、A社ではどのような取り組みをされたのでしょうか?
宮澤さん:A社では、「女性社員本人の意識変革」に向けて、若手層、管理職手前層、女性管理職層といった各階層に対し、3ヵ年で段階的に育成施策を展開してきました。各層の状況や課題に応じて適切な支援を届けることで、「意欲」と「能力」の双方を高めていきました。
例として、若手層に対する取り組みをご紹介します。若手層に対しては、選抜型の課題解決プログラムを実施しました。これは、20〜30代前半の女性社員の中から周囲からの期待が高いメンバーを集め、年間4日間にわたって行われたものです。参加者は、自部署の課題を抽出し、その解決策を検討。最終的には、経営陣や管理職に向けてプレゼンテーションを行うというプログラムでした。
この取り組みによって、女性社員は課題解決力を早い段階から身につけることはもちろん、成功体験を得ることにより「今後も挑戦してみたい」という意欲を高めることができました。
また、この取り組みの狙いは、実践を通じて成功体験を積むだけでなく、同世代・他部署の仲間と出会い、ネットワークを築くことにもありました。「あの人も頑張っているから、自分もやってみよう」「同じ悩みを抱えていたんだ」といった共感や刺激が、挑戦への後押しになったのです。
2年目以降は、1年目の成功事例を元に、対象を広げていきました。こうした挑戦機会の拡大によって、「自分にもできる」という感覚を持てる若手女性社員が増えていきました。

「管理職の行動変革」に向けた取り組み
―では、「管理職の行動変革」に向けては、どのようなアプローチをされたのでしょうか?
宮澤さん:A社では、「管理職の行動変革」を実現するため、半年間という期間を設定し、育成のPDCAを回していきました。
まず、当社のマネジメントサーベイ(360度サーベイ)を活用して、管理職一人ひとりの課題を可視化します。上司・同僚・部下など、周囲からのフィードバックを通して、「自分が何を期待されているのか」「どう見られているのか」を把握できるようにするんです。
そのうえで、見えてきた課題に対してアクションプランを立て、半年間かけて実践と振り返りを行います。期間中には、二回のスキルアップ研修を実施し、アクションプランの見直しや再設定も行いました。そして半年後に再びサーベイを実施し、どれくらい変化があったかを確認します。

この取り組みには、2つのポイントがあります。
1つ目は、「現場との接続」です。サーベイや研修をして終わりにするのではなく、得られた気づきが実際の現場での行動変化につながるように、現場状況を踏まえた目標設定と振り返りの機会を重ねていきました。
2つ目は、「周囲との接続」です。360度サーベイを通じて、周囲の期待が明確になることで、本人がひとりで抱え込まず、チーム全体で変化を支えることができるんです。「行動を変える」ことを個人任せにせず、組織全体で後押しする、そんな環境づくりを意識していました。

「全社の風土変革」に向けた取り組み
―最後に、「全社の風土変革」に向けては、どのような取り組みをされたのでしょうか?
宮澤さん:第4回でもお伝えしたように、「全社の風土変革」を実現するには、「新しい当たり前」の浸透が必要です。そのためのポイントが、社内のコミュニケーションチャネルをバランスよく活用することです。A社でもまさにこの考え方に基づき、複数のコミュニケーションチャネルを“単発”ではなく“同時多発”で活用していきました。

たとえば、「メンター制度」を導入し、先輩社員が日常的に後輩を支援する仕組みを設けました。悩みや不安を気軽に相談できる関係性が築かれたことで、一歩踏みだす挑戦や周囲にリクエストを伝えることへの心理的ハードルを下げることに繋がりました。
また、「アンコンシャスバイアス研修」や「ダイバーシティ&インクルージョン研修」など、複数の「研修」も実施しています。こうした場では、「なぜ今、変化が求められているのか」といった背景を丁寧に伝えることで、社員一人ひとりの当事者意識を育んでいきました。会社として目指す方向性や価値基準を明確に示すことも、風土醸成には欠かせません。
さらに、「復職支援制度」をはじめ、「育児・介護との両立支援」や「状況に応じた勤務形態」など、制度面の整備にも注力しました。方針の提示にとどまらず、それと連動した仕組みを実装することが、信頼の土台となります。
このように、複数のコミュニケーションチャネルを活用することで、「新しい当たり前」の定着を着実に進めていったのです。
「本人の意識変革」「管理職の行動変革」「全社の風土変革」は、どれも一朝一夕で実現できることではありませんが、今回ご紹介したA社のように、3ヵ年といった中期スパンで段階的に取り組むことで、着実に変化を生み出すことができます。
「どうせできない」という幻想を超えて
―最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。
宮澤さん:女性活躍を進めていくうえで、大切なのは「どうせできない」という思い込みを手放すことだと思います。
これは、女性社員本人だけでなく、管理職も経営も人事も同じです。「本人の意識変革」「管理職の行動変革」「全社の風土変革」——どれも簡単なことではありません。だからこそ、会社として「これは本当に大事なことだ」と信じて、粘り強く続けていくことが何より大切なのだと思います。
もし、この記事を読んでいるあなたが女性社員だとしたら、「自分には無理かもしれない」「やってみたい気持ちはあるけれど、イメージが湧かない」と感じたことがあるかもしれません。でも、それはごく自然なことです。私自身も女性管理職ですが、最初から自信があったわけではありません。それでも、「あなたならできる」と信じてくれる誰かがいたから、今の私があります。
だからこそ、もしチャンスが巡ってきたときには、ぜひ勇気を出して、一歩を踏み出してみてほしいと思います。その一歩が、自信につながっていくはずです。
「サポートの壁(全社の壁)」を乗り越えるための風土変革 |本人・上司・全社で実現する女性活躍推進

2023年3月期の有価証券報告書から女性管理職比率の開示が義務付けられるなど、女性活躍を推進する機運が一層高まっています。一方で、「なかなか女性の管理職が増えない」とお悩みの企業は少なくありません。
本連載では「本人・管理職・全社で実現する女性活躍推進」をテーマに、数多くの企業を支援されてきた株式会社リンクアンドモチベーションの宮澤さんにお話を伺います。
第1回では、女性活躍推進を阻む壁として、「キャリアの壁(女性社員本人の壁)」「マネジメントの壁(管理職の壁)」「サポートの壁(全社の壁)」の3つがあることをお伝えしました。今回は、そのうちの「サポートの壁(全社の壁)」について解説していただきます。

【人物紹介】宮澤 優里 | 株式会社リンクアンドモチベーション 新規事業拡大領域 責任者
一橋大学を卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・人材育成に携わり、延べ150社以上を支援。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、自社のプロダクト開発にも従事。風土変革・人材育成領域の事業責任者を経て、現在は自社の新規事業拡大領域の責任者を務める。メディアでの解説実績多数。
目次
「サポートの壁(全社の壁)」とは?
−今回のテーマである「サポートの壁(全社の壁)」についてお伺いできますか。
宮澤さん:まず、おさらいになりますが、第1回でお伝えしたとおり、女性活躍を推進するためには乗り越えるべき3つの壁があります(下図)。
今回は、このうちの「サポートの壁(全社の壁)」についてお伝えしたいと思います。

宮澤さん:サポートの壁とは、会社として女性活躍に向けた施策を打つものの、望むような効果が出ないという壁です。
たとえば、「制度はつくったが、実際には活用されていない」「管理職に対して研修を行ったが、目立った変化がない」といった話を聞くことは少なくありません。
ここでお伝えしたいのは、「制度」ではなく、「風土」に問題があることが少なくないということです。取り組みがうまくいかないと、制度や施策の良し悪しに目が向いてしまいがちですが、見落としてはいけないのは、その前提にある組織風土です。
−組織風土とは、どのようなものを指すのでしょうか?
宮澤さん:組織風土とは、その組織で当たり前になっている価値観や判断基準のことです。これが変わらない限り、表面的な施策だけでは効果が得られない可能性があります。
たとえば「制度はあるけど、使った人を聞いたことがないから相談しても良い反応はされないだろう」「とはいえ、子育てをしながら管理職を務めるのは難しいだろう」など、暗黙の了解がある限り、会社としてサポートしようとしても、現場に受け入れられないのです。
つまり、「サポートの壁(全社の壁)」を乗り越えるためには、組織風土変革の視点が必要なのです。
「サポートの壁(全社の壁)」を乗り越える「風土変革」
―では、どのように組織風土を変えていけば良いのでしょうか?
宮澤さん:大切なのは、簡単にいえば「新しい当たり前」を浸透させて、これまでの社内の常識を覆すことです。
事例をご紹介します。ある製薬会社では、MR(医薬情報担当者)の仕事がハードで、とくに大病院を担当すると訪問時間が遅くなるため、子育て中の女性社員には難しいと考えられていました。
ところが「個人病院なら担当しやすいのでは?」「電話やオンライン中心のやり取りに切り替えれば良いのでは?」というアイデアが生まれ、実際に育児と両立しながら活躍する女性MRが登場します。
その結果、「子育て中の女性社員にMRは無理だ」という社内の固定観念は崩れました。そして制度を活用しながら仕事と子育てを両立する社員が増え、会社全体の支援策もさらに機能するようになりました。

「新しい当たり前」を浸透させる方法
―「新しい当たり前」を浸透させるには、どうすればいいのでしょうか?
宮澤さん:おすすめは、①ビジョンの提示と、②望ましい行動の承認を繰り返すことです。
まず、①ビジョンの提示についてです。ビジョンの提示とは、「私たちはどんな会社を目指すのか?」を社内にしっかり伝えることです。たとえば、「多様な人材が、自分らしく活躍できる会社にしたい」といった理想像を言葉にして共有します。大切なのは、“何を良しとするか”という会社の価値観を明確に示すことです。
次に、②望ましい行動の承認です。「ビジョンを実践できている」といえる事例が生まれた時に、スポットライトを当てて承認します。
ビジョンは往々にして抽象度が高いので、ビジョンの実現に向けて、具体的にどのような行動が望ましいのか、共通認識が取れていないのが普通です。「多様な人材が自分らしく活躍できる会社へ」と言われても、具体的にどうしたらいいかわかりませんよね。
経営陣や人事は、ビジョンの実現に向けて望ましい行動があった時に、それを承認することで、望ましい行動について、全社の認識をすり合わせることが必要です。
この2つのステップは、1度行って終わりではありません。一度言われただけで、簡単に当たり前は変わるものではありません。「新しい当たり前」が浸透するまで、何度も繰り返し伝えていく必要があります。
「単発」ではなく「同時多発」で施策を実施する
―「新しい当たり前」を広げていくには、どんな工夫が必要でしょうか?
宮澤さん:上記のサイクルを効果的に回していくために意識すべきポイントは、「単発」ではなく「同時多発」でコミュニケーション施策を実施することです。
社内コミュニケーションチャネルは、「個別 ⇔ 全体」「日常 ⇔ 非日常」という観点で、大きく4つに分類することができます。

この4つのコミュニケーションチャネルをバランス良く活用し、「単発」ではなく「同時多発」で施策を展開していきましょう。各チャネルを満遍なく活用することで、「ビジョンの提示」や「望ましい行動の承認」をする機会が増え、「新しい当たり前」の浸透のスピードが加速していきます。
よくある例としては、「社内報」などで「育児をしながら管理職として成果を出している女性がいる」「独自のキャリアを切り開いている女性社員がいる」というように、女性活躍の情報を積極的に社内に流通させるというのがあります。
また、「ワークショップ」で似たようなキャリア・年次の女性社員が集まる機会を設けるのも効果的です。立場や状況が近い女性同士で情報交換をしたり、共感し合ったり、応援し合ったりすることができるので、それだけでもモチベーションが上がり、女性活躍の気運が高まります。
さらに、人事制度や採用活動、育成施策もメッセージを伝える手段の一つです。ビジョンの実現に向けて、あらゆる人事施策におけるメッセージを統一することが望ましいでしょう。
「新しい当たり前」が、女性活躍を加速させる
―最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。
宮澤さん:「企業の風土変革」を実現するためには、「新しい当たり前」を浸透させて、古い常識を塗り替えることが必要です。一朝一夕では上手くいかない取り組みですが、これが実を結べば、女性活躍の大きな推進力になるはずです。
今回まで、女性活躍推進を阻む3つの壁について解説してきました。次回は、女性活躍推進の具体的な推進事例についてお伝えしたいと思います。
組織の多様性を活かすためにCQが不可欠な理由とは?心理的安全性と併せて考えたい知的誠実性【現場を変えるCQ白書 第3回】
こんにちは。アイディール・リーダーズ株式会社CCO(Chief Culture Officer)の宮森千嘉子と申します。アイディール・リーダーズではパーパス経営支援、リーダーシップ開発、組織文化の変革などへのソリューションを展開しています。
私は文化をリーダーシップのツールとして活用するために世界中から知見と経験を持ち寄るコミュニティCQ Fellowsの一員、ホフステード博士認定ファシリテータとして、「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマに国内外の多くの方や企業をサポートしてきました。
この連載では次世代リーダーに欠かせないCQという力についてお話ししていきます。
近年注目されてきたキーワードに「多様性」があります。多様性やグローバル化へのあからさまな反発も見受けられる昨今ですが、組織がこれらから目を背けるわけにはいきません。
しかし組織がただ多様性を高めても、それを活かす組織文化がなければ意味がありません。そこで多様性を活かす力となるのがCQ(文化の知能指数)です。
連載第三回では、CQが組織のどのような力を高め、そして多様性を活かすのかを紹介していきます。

寄稿者宮森 千嘉子氏アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)
「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。
目次
多様性の重要度が高まる今日
今年4月、経済産業省から「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)」が公表されました。経産省はダイバーシティ経営を「多様な人材をいかし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義し、推進しています。
みなさんの組織でも、多様性の推進が広がっているのではないでしょうか。
「多様な人材」の特性を活かす環境を整えれば、生産性向上や競争力強化といった大きな成果を期待できますね。
特に日本では人口減少から、働き手も減っています。多様性の推進は人口減少時代にも有効です。人事のみなさんも人材の活用というテーマに直面していることでしょう。
ところがそもそも多様性への理解不足という課題もあると感じます。
組織で多様性を活かすためには、水平的多様性と垂直的多様性という二つを理解しなければなりません。
水平的多様性とは、同じ階層にいる人々の間の違いです。性別、年齢、国籍、学歴、価値観、所属部署、専門分野など。さまざまな特徴やカテゴリーによる多様性です。
対して垂直的多様性とは、組織内の階層や役職、権限の違いに基づく多様性を指します。新入社員、ミドルマネジメント、役員など、異なる階層の人々の間にある違いです。
昨今、多くの組織が多様性への取り組みを推進していますが、水平的多様性ばかりに重きが置かれていることが少なくありません。
また一方で世界に目を向ければ、「多様性疲れ」という言葉も聞かれますよね。
米国では今年1月、連邦政府との契約を持つ民間企業に対し、DEI(Diversity, Equity and Inclusion:多様性・公平性・包括性)関連の取り組みを禁止する方針を提示。多様性を尊重する概念は活かすものの、特定のカテゴリーを優遇するアファーマティブアクションのような制度を考え直す風潮や、一部の企業ではDEIに関する目標設定を廃止したり、その投資を減らしたりする動きもあります。
なぜ、こうした状態が起こるのでしょうか?
心理的安全性は多様性を活かすポイント
私がお会いする国内外の組織のリーダーたちは、こんなことをおっしゃいます。
「多様性を尊重するあまり、政治的に正しい発言を心がけるようになり、自由に意見を言い合う場が減ってしまった」
「マイノリティを差別してはいません。けれども、マジョリティにいる自分の立場に居心地の悪さを感じ、本音で対話できなくなりました」
私は、多様性の専門家ではありません。ただ、こうした課題感とそしてCQを踏まえると見えてくるものがあります。
多様性を活かすためには心理的安全性がポイントになります。
心理的安全性とは、自分の意見や気持ちを表現しても拒否や非難をされない感覚があること。たくさんの書籍や研究がありますし、みなさんも肌感覚として重要性を実感しているのではないでしょうか。
個々のキャリアも、生い立ちも、価値観も異なれば、「違う意見を言える」という環境はいっそう重要になります。
ただ「心理的安全性さえあれば、違う意見を言える」とまで言えるのでしょうか。
見落とされがちだが欠かせない知的誠実性
企業イノベーションの専門家である、ブリガム・ヤング大学のジェフ・ダイヤー教授は次のようなことを指摘しました。
「心理的安全性を重視しすぎると、知的誠実性が損なわれる可能性がある」と。
知的誠実性とは、自分の意見や知識に対して正直であるだけでなく、他者の意見や考え方に対しても誠実に向き合う姿勢です。
自分が知らないことや間違っていることを認め、他者の意見を公平に尊重し、感情や偏見に左右されず、事実に基づいて考え、議論を進めることが含まれます。
たとえば心理的安全性が高いと、意見は言いやすいでしょう。けれども知的誠実性が低ければ、議論の深まりに欠けます。ごく簡単に言えば「話し合いを通じて異なる視点から学ぶということをしなくなる」ということです。
そこで知的誠実性も高ければ、その場に出てきた意見を掛け合わせたりできる。つまり「イノベーションが生まれやすくなる」のですね。
知的誠実性には重要な原則があります(下図)。

知的誠実性がない組織は、多様な視点をないがしろにして、信頼が築かれません。生産性やチームの結束を弱めますし、深刻な対立を生みかねません。
しかし、だからといって知的誠実性だけを重視すればいいわけではありません。
スティーブ・ジョブズは、部下に非常に高い期待を寄せ、常に最高のパフォーマンスを求めました。その期待に製品開発が応えられないと「それはクソだ」「君は何を考えているんだ?」など、非常に厳しいフィードバックを与えたことで知られています。一部の社員には恐怖やプレッシャーとなったこともあったかもしれません。
心理的安全性と知的誠実性から見た、4つの組織文化
ダイヤー教授らは、心理的安全性と知的誠実性から、組織文化を4つのタイプに分けました。以下はそれぞれを簡単に紹介しましょう。

痛みを抱える組織文化
心理的安全性と知的誠実性の両方が低いと、チームは傷を負って苦しんでいる状態です。メンバーは学習やイノベーションが苦手です。また、リーダーや同僚に対して正直な懸念を表明できず、誠実な意見交換が行われません。
居心地の良い組織文化
心理的安全性は高くても、知的誠実性が低いと、単に居心地の良いチームというだけにとどまります。
メンバーは協力的に働き、お互いを尊重します。けれども「人に嫌われたくない」とも思い、意見を言わないことがよくあります。挑戦にも消極的です。チームは安定的にパフォーマンスを発揮しますが、積極的に新しいアイデアをぶつけ合うことはありません。
プレッシャーの強い組織文化
居心地の良いチームとは逆に、知的誠実性が高く心理的安全性が低いチームには、強いプレッシャーがかかっています。
メンバーには率直な意見交換が奨励されます。正直であることが重視され、競争の中で「正しい意見」を述べることが重要視されます。意見の違いや議論も当然です。
ただし、このアプローチが過度に強調されると、感情的な負担が大きくなり、心理的安全性が下がります。
革新的でインクルーシブな組織文化
心理的安全性と知的誠実性が高く、バランスが取れている。長期的に見て、最も革新的なチームです。
メンバー同士の異なる視点によって、意見を言い、共通の目標に向けた共創のために、ベストを尽くそうと促し合います。
心理的安全性と知的誠実性を育むCQ
このような心理的安全性と知的誠実性を育む力がCQです。CQの高い組織は、心理的安全性と知的誠実性を共存させ、意見やアイデアをぶつけ合うことができます。
最後に、下の図はCQと多様性、パフォーマンスの関係性を示したものです。 
出典:Distefano, J.J., Maznevski, M.(2000), “Creating Value with Diverse Teams in Global Management”, Organizational Dynamics, 29(1), 45-63.をベースに宮森氏作成
図の左側は、CQの低い、多様性のある組織。多様性はうまく活かされず、むしろ真ん中にある単一文化のチームのほうがパフォーマンスは高くなります。
ですが、それだと創造性のある仕事には限界があります。右側のCQの高い、多様性のある組織では、違いを活かそうとし、それがパフォーマンスの向上につながっていきます。
拙著『強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化』(発行:日本能率協会マネジメントセンター)では、心理的安全性・知的誠実性、そして多様性についても詳しく説明しています。ぜひお読みいただき、みなさんの組織で活用いただければと思います。きっとお役に立つヒントがあるはずだと思っています。
書籍について

【こんな方におすすめの一冊】
- 組織に課題感がある人事担当者
- 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
- 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
- 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方
【書籍情報】
タイトル:「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」
著者:宮森 千嘉子(アイディール・リーダーズ株式会社 CCO/一般社団法人CQラボ 代表理事)
監修:ディヴィッド・リヴァモア
発売日:2025年4月26日(土)
Amazon発売日:2025年4月28日(月)
定価:2,090円(税込)
出版社:株式会社日本能率協会マネジメントセンター
ISBN:9784800593221
<オンライン購入>
amazon: https://amzn.asia/d/67TyT63
楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/18168564/
<取り扱い書店一覧>
https://mail.ideal-leaders.co.jp/lp/CQ-book-shoplist
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000042.000014688.html
ピープルアナリティクスを開始するために、チームにはどのようなスキルが必要か?|クニラボ武田

はじめまして。データドリブンHRコンサルタントの武田邦敬と申します。現在、企業向けにピープルアナリティクスの定着に向けた伴走支援をしながら、ピープルアナリティクスの普及活動を行っております。

執筆者武田 邦敬氏一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員 / クニラボ代表
データドリブンHRコンサルタント。富士通で人事データ分析チームを立ち上げ、採用・配置・育成・ジョブ型移行を経験した後独立。現在はピープルアナリティクス定着支援やDX人材育成を行う。また、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員、早稲田大学組織経済実証研究所招聘研究員、成城大学非常勤講師、ISO 30414リードコンサルタント/アセッサーとして、人事と経営の変革を推進している。
今回新たに「実践知で導く、ピープルアナリティクス内製化への道」というコラムを連載させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
目次
ピープルアナリティクスの成功の鍵は「内製化」
近年、人的資本経営や人的資本の情報開示といった動きが注目される中で、「人事の現場でもデータを活用した意思決定が求められるようになってきた」と感じている方も多いのではないでしょうか。
私はデータドリブンHRコンサルタントとして、様々なピープルアナリティクスのプロジェクトを支援させていただいています。そうした中で、次のようなご相談をいただくことが増えてきました。
「ピープルアナリティクスを始めたいのですが、どこから始めらばいいでしょうか?」
「データ分析を外注したのだけど上手くいかず…。自分たちで分析したいと思っています」
これらはピープルアナリティクスの内製化に関するご相談です。人事担当者が自らデータ分析を行い、業務課題の解決に利用していくわけですね。このアプローチはデータドリブン人事を実現する上で、重要なポイントだと私は考えています。
では、なぜピープルアナリティクスの内製化が必要なのでしょうか?その理由は大きく分けて3点あります。
理由①:自社組織の文脈に沿った深い分析ができるため
第一には、自社組織の文脈に沿った深い分析を行えるからです。
客観的な事実を俯瞰的に捉える上でデータは有益です。その一方で、ピープルアナリティクスを行うときには、データには現れない暗黙的な組織構造や組織文化を踏まえて分析をデザインすることが重要になってきます。
また、等級制度や人事評価制度の変遷や人事施策の経緯など、データの解釈に影響のある業務イベントを理解しているのも人事担当者です。外部ベンダーや社内の技術部門に在籍しているデータアナリストは高い技術力を有していますが、こうした「人事の中に閉じた」文脈を完全に理解することは難しいものです。
理由②:データ分析サイクルの速度を上げることができるため
第二に、データ分析サイクルの速度を上げられるからです。
一般的に新規のデータ分析プロジェクトを立ち上げて外部ベンダーを含めた体制で進めた場合、分析レポートが完成するまでに短くても2~3か月の時間を要します。データの入手や前処理に時間がかかる上、データの文脈を捉えるのに時間がかかるからです。
更に、分析依頼者とデータアナリストの相性によって、コミュニケーションギャップが埋まる時間が変わってきます。特に、人事以外の分野、例えばカチッとしたKPIがあることを前提としたマーケティングや製造品質分野のデータアナリストと人事担当者の方が会話すると、そのギャップが大きくなる場合もあるようです。
人事内にデータ分析チームを持つことでこうした壁を壊し、データ分析サイクルを早く回すことができるようになります。
理由③:人事データ分析をすることが当たり前の組織文化に転換するため
最後のポイントは組織文化の転換です。
私がピープルアナリティクスの世界に足を踏み入れたとき、人事部門の上級幹部の方が発した言葉が今も記憶に残っています。
「人事はこれまで勘と経験で議論し、組織内の人間関係を使って施策を展開していくスタイルだった。これを変えたい。変えていかないと従業員の賛同を得られないし、若い人事担当者も活躍できない」
もし、こうした問題にメスを入れるとすれば、それは人事部門内の組織文化を変えることになります。
誰かに「データ分析をやってもらったらこうなった」という話ではなく、人事担当者や管理職が意思を持ってデータ分析を取り入れる必要があるのです。ピープルアナリティクスが人事部門内で公式な仕事と認知され、日々のディスカッションにデータ分析が自然と入り込む状態になるのが理想です。
これを実現するためには、ピープルアナリティクスを内製化することが望ましいわけです。
チームにはどのようなスキルが必要か?
では、いざ自分たちで分析を進めようとしたとき、チームにはどのようなスキルが必要なのでしょうか?今回は、ピープルアナリティクスの実践に欠かせない「課題・データ・手法」という3つの要素を軸に、はじめの一歩を考えていきます。
課題から始める
ピープルアナリティクスの実践には、大きく次の3つの要素が必要です。この3つは、よく「三角形のようにバランスよく支え合う関係」に例えられます。

- 課題や問い(なぜそれを知りたいのか)
- データ(どの情報を活用するのか)
- 分析手法(どうやって明らかにするのか)
このどれが欠けても分析は成立しませんが、なかでも最初に取り組むべきは課題や問いの明確化です。どれだけデータを集め、どれだけ高度なツールや分析スキルを駆使したとしても、「何を解くべきか」が曖昧なままでは、良いアウトプットは得られません。
課題が定まったら、それに答えるために「どんなデータが必要か?」を考えます。人事データベース、勤怠記録、1on1の記録、アンケート結果など、多くの情報が候補になります。
そして、その課題とデータの性質に合わせて、適切な分析手法(集計、クロス集計、回帰分析、可視化など)を選んでいきます。重要なのは「高度な手法を使うこと」ではなく、「課題に対して正しく答えられる構造をつくること」です。
したがって、人事データ分析チームがはじめに持つべきスキルは、高度な分析スキルよりも「解くべき課題を見つけるスキル」だといえるでしょう。
日々の業務の中で生まれる疑問を捕まえる
とはいえ、いきなり「解くべき課題は?」「問いは?」という言葉と向き合っても、なかなか言葉が出てこないのではないでしょうか。データアナリストやコンサルタントに正面から「仮説を立てましょう」といわれても困りますよね。
人事におけるデータ分析は、日々の業務で生まれる違和感や疑問を拾うところから始まります。たとえば、次のような素朴な疑問が、立派な出発点になります。
- 中堅社員のエンゲージメントが低下している気がする。実際どうなんだろう?
- ある部門の時間外が増えている。何が起きているのか?
- 活躍している社員に共通点はあるのか?採用に活かせないか?
まずは、こうした疑問や話題をそのまま素通りするのではなく、いったん立ち止まって捕まえてみてください。そして「それは本当だろうか?」「データで確かめてみるべきでは」と考えてみるのです。
良い問いは対話の先に
クライアントと分析テーマをディスカッションをしているとき、解くべき本音の課題が場に降りてくるのは決まってミーティングの後半です。そして、ミーティングが始まったころに話をしていた話題と異なるテーマに落ち着くこともしばしばあります。
たとえば、次のような具合です。
- 採用でのデータ分析の話からスタートしたはずなのに、いつの間にかタレントマネジメントの話題になっていた。
- 異動・配置業務の効率化を議論している中で、従業員が自律的にキャリアをデザインできるようにアシストするアイデアがだされ、テーマが変わっていった。
- 管理職の長時間労働の実態を捉えるプロジェクトの途中で、従業員エンゲージメントの問題に関心が移っていった。
このような大きな方向転換が、データ分析のプロジェクトの中盤で起きることも珍しくありません。こうした事象はデータ分析プロジェクトでは少なからず起きる可能性があるものですが、人事領域では振れ幅が大きいように感じています。
私がピープルアナリティクスを始めた頃、この振れ幅を抑えようとプロジェクトの初期段階で議論を精緻に固めようとしたことがありました。セオリー通り、まずは「あるべき姿」の議論からスタートし、目標値やKPI(重要業績評価指標)の設定を行い、ギャップ分析を行うというアプローチです。
この方法は事業部門のデータ分析では一般的なものです。しかし、ピープルアナリティクスの立ち上げ段階でこれをやってもなかなか上手くいかないという事態になりました。言い換えると、会話の初期段階でストレートな問いかけをしたり、結論を急いだりするとメンバーの本音に到達できず上手くいかないのです。
そこで、ミーティングのスタイルを変え、ロジカルな議論の前にメンバーの対話を促すような工夫をしてみたところ、少しずつ本音にアクセスできるようになりました。不思議なことに、ちょうどデータ分析のことが頭から離れた頃に本質的な議論が始まるように感じています。
このように、良い問いは良い対話から生まれるものです。ピープルアナリティクスはそのきっかけになるものなのかもしれません。
ピープルアナリティクスの現場から
ピープルアナリティクスは、難しい数式や高機能なツールだけの世界ではありません。
「ちょっと気になる」「これってどうなんだろう」——そんな問いを出発点に、チームメンバーと一緒に考え、形にしていくことが内製化の第一歩です。
このコラムでは、現場で感じやすい素朴な疑問に寄り添いながら、少しずつ理解を深めていくお手伝いができればと思っています。気になるテーマや「こんなことで困っている」といった声も、ぜひ気軽にお寄せください。
ネットワークリクルーティングとは|YOUTRUST岩崎

転職市場を10年ほど見ていて、確信していることがあります。その時代の転職の平均回数によって皆さんの転職のルート・方法が変わっていくということです。

執筆者岩崎 由夏氏株式会社YOUTRUST 代表取締役CEO
大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社し、2016年子会社に経営企画として出向。採用担当として経験を積む中で、求職者にとってフェアでない転職市場に違和感を覚え起業を決意。「日本のモメンタムを上げる 偉大な会社を創る」というビジョンを掲げる、株式会社YOUTRUSTを2017年に設立。2018年4月にリリースしたキャリアSNS「YOUTRUST」は、信頼できるつながりからキャリア・オポチュニティに出会えるサービスで、累計ユーザー数は約40万人に成長。同時に転職潜在層が集まるSNSの独自性を基盤にしたHR Tech SaaSも法人向けに展開。
人生において転職が1回あるかないかの時代は「プロであるエージェントに相談しよう」と思われる方が多いのですが、2回目が普通になると「直接企業とやりとりしよう」とダイレクトで転職される方が多くなります。そして3回目以降が前提になると、ある種人間の原点に戻るかのように今までのネットワークをベースに知人から の紹介で転職する方が増えるのです。
現在の日本人の平均転職回数は約3回弱。この数は、誰に聞いても「今後さらに増える」と言います。近いうちに確実に来る「平均転職回数が3回以上の社会」におい て、転職市場はどうなるでしょうか。
目次
日本の転職市場はすでに”第三フェーズ”に入った
エージェント全盛の“第一フェーズ”、ダイレクトリクルーティングが広がった“第二フェーズ”を経て、私たちは今、明確に“第三フェーズ”へと踏み込みました。
今の求職者はダイレクトスカウトの洪水の中で疲弊し、企業も「スカウト疲れ」「媒体疲れ」を起こしていることは人事ならば多かれ少なかれ気付いている事実だと思います。
全員で同じ母集団を奪い合い、スカウト数だけが虚しく積み上がる――この構図はそろそろ限界が近いのではないでしょうか。
第三フェーズの「ネットワークリクルーティング」における重要なキーワードは「関係性」と「文脈」です。ちなみに平均転職回数が11回以上にもなるアメリカにおいてはネットワークをベースに転職するのが最も主流で、それを支えるLinkedInが普及しているという構造になっています。

超売り手市場で”採用強者”の企業になるために
皆さんの周囲でも「採用広報を頑張ろう」とか「リファラル採用に注力しよう」というのをよく聞くようになったのではないでしょうか?これはある種、前述の限界を感じた業界先駆者たちの叫びに近いものかもしれません。
労働人口が減り続ける求職者にとって超売り手市場において、無数のアプローチの中から振り向いてもらうには、候補者の時間と注意を点で奪うのではなく、彼らの 人生の文脈に自分たちの物語を丁寧に載せていく必要がある時代になりました。
だからこそリファラル採用や採用広報という話が出てくるようになったのです。この文脈があるかどうかで、候補者にとって魅力的な転職先かどうか優先度が変わってくることに人事の皆さんは気付いているはずです。
そして、そういう出会いを再現性のある形で採用実績を積み続けることができるのが「ネットワークリクルーティング」です。
「ネットワークリクルーティング」の時代
ネットワークリクルーティングとは、企業が保有する“関係資産”――社員・顧客・OB/OG・ファンコミュニティなどのあらゆるネットワークを採用活動の中心に据えるアプローチです。要は、自社と求職者の関係性を構築し、そこからマッチ度の高い人を採用し続ける仕組みを戦略的に設計すること。
具体的には、
- 社員紹介
- 勉強会やイベント開催
- SNSでのネットワークの可視化とスカウト(YOUTRUST、LinkedInなど)
- アルムナイ採用
を戦略的に設計し、目標数管理のもと採用成果まで設計・実行していくことです。偶然に任せる紹介採用ではなく、プロセス設計・データ化・運用まで含めて再現性 を作る点に決定的な違いがあります。
想像してみてほしいのですが、突然「紹介お願いします」と言われて「わかりました!」と紹介できるでしょうか。「今度会社でこんなイベントやるから遊びにおいでよ!」みたいな何かしら誘い文句やきっかけがほしいと思うのが普通だと思います。
特に人事の方なら、頼んだからとすぐに紹介してもらえるわけではないことは痛いほどご存知だと思います。ただ紹介の依頼を投げるのではなく、誰に何を託し、どんなストーリーで口説くのかを言語化し、継続して回る仕組みにまで落とし込むことが採用担当の責務です。
素敵なチームと強烈なビジョンとカルチャーがある会社こそ、ネットワークリクルーティングによって“自分たちの土俵”で戦えるようになるのです。
ネットワークリクルーティング、良い点悪い点
とはいっても全てにおいて言えるように良いことばかりではありません。特に導入初期は苦労するポイントもあります。
- 選考合格率・定着率が非常に高い:経歴以外の内面的情報が事前にあるので、入社前からカルチャー理解が進みミスマッチが減り選考通過率および内定承諾率が高くなる傾向にあります。
- コストは半減:いわゆる採用単価は人材紹介経由の半分くらいに着地することが多いです。継続するほどコストが減少していく傾向も。
- (副次効果)社内メンバーのロイヤリティ向上:社員自身が採用の当事者として紹介やカジュアル面談をするので、自社へ入社した理由や魅力を何度も話すことになり、改めて自社を愛するきっかけになり、定着率の向上にも。
- 関係者を巻き込む熱量が必要:人事・現場が同じ熱量で動けるかがカギになります。採用に非協力的な人をチームに入れてしまうと成果が出るまでに時間がかかることも。
- 短期成果だけを見ると“割に合わない”と感じがち:成果が出るまでは最低でも2〜3ヶ月程度のタイムラグがあります(新しい施策はすべからく結果が出るまでにタイムラグがあるものではありますが)。
これらの難しさは、他社が簡単には真似できない障壁であり、結果として自社の資産になります。一度ネットワークリクルーティングの仕組みを構築すると、継続してタレントプールが資産として積み上がり続けます。
だからこそ、一期一会の採用手法よりも投資する価値がある。ここを乗り越えた企業が、採用市場の第三フェーズの世界で「採用勝ち企業」になっているのです。
「どんな人でもいいからとにかく人数を揃えたい」という会社には向かない
先に向かない会社を言ってしまうと「とにかく短期で人数を揃えたい」「採用に時間をかけたくない」という場合はネットワークリクルーティングはおすすめしませ ん。質の高い人材のタレントプールを中長期の資産にしていくネットワークリクルーティングとは相性が悪いためです。
逆に以下のような会社の場合は「資産は早めに作り始めたほうが良い」という観点から、今すぐにネットワークリクルーティングを開始すべきと言えます。
- 組織作りにこだわりのある会社
- 中長期で採用を継続することを前提としている会社(途中ブランクがあるとしても)
- 採用コストを下げていきたい会社
もちろん万人のものではないですが、近年急成長を遂げている会社は意図的/無意識的問わずネットワークリクルーティングをやってきた会社が多いのも事実です。
ネットワークリクルーティングをやりやすいところから始めよう
とはいっても、「社員紹介のインセンティブを設計しよう」とか「イベントを開催しよう」というのは数字も読みづらく、準備や検討事項が多いので普段忙しい人事の 方からすると若干腰が重たくあります。
今の採用の延長でまずできるネットワークリクルーティングでいうと、YOUTRUSTやLinkedInでスカウトから始めるのが良いと思います。メインは人事で実行するの で、メンバーへの負担は最小限なまま、採用成功に向けての数値設計と管理がしやすいためです。
「いつまでに何名を採用したい、そのためにいつまでに何名内定をお出しする、そのためには最終面接を何件作って…」と逆算することで、送信すべきスカウトの数ま でKPIを容易に引くことができますし、その時期までに、賭けに出ることなく決めたスカウト数を打つことでKPI達成することができます(やってることはダイレクトリクルーティングと同じですが、返信率など歩留が圧倒的に良いのも魅力!)。
イベントや社員紹介は数字が出たとこ勝負にもなりがちなので、初手は期待値計算がしやすいネットワークリクルーティング専用の採用媒体がオススメです。
採用はもっとロマンチックでいい
私は、採用は“その人のその後の人生を左右する大きなイベント”だと思っています。その交点に、運命を感じるような”ご縁”を感じるのは、ただの転職よりも大きな意味を持つのではないでしょうか。
採用企業としても素敵な人に効率的に会える、求職者としてもご縁を感じて納得感と共に入社の日を迎えることができる。そんな出会いをネットワークリクルーティングがかなえるようになっていくのは確実な未来ですし、それが普通になる世界をとても楽しみにしています。
「管理職になりたくない」社員増加を止める、令和の理想のマネジメント像とは|Hajimari有賀

「管理職にはなりたくない」──。
こうした声が多く聞かれるようになってきました。 かつては出世の象徴であり、誰もが目指すべきキャリアパスの一つとされてきた管理職というポジションが、いまや「なるべく避けたいもの」という認識に変わりつつあるのです。この傾向は若手社員に限った話ではありません。中間管理職層の中にも、昇進を打診されても躊躇するケースや、あえて専門職としての道を歩むことを選択する人が増えています。
実際、私たちHajimariが実施した20〜50代の会社員700名(管理職150名・非管理職550名)を対象とした調査*でも、半数以上は、管理職になることに対してポジティブな意見を持っていないという結果がでています。

* ITプロパートナーズ:【700名調査】良い上司との出会いが管理職志向を左右。「褒めて伸ばす、でもビジネスライクに接して」令和の理想的なマネジメント像が判明
管理職の減少は、企業の未来にとって非常に深刻な問題です。
なぜ今、これほどまでに管理職を目指す人が減っているのでしょうか。そして、この「管理職不人気時代」において、企業が目指すべき、社員が「なりたい」と思えるような、時代にふさわしい「理想のマネジメント像」とは一体どのようなものなのでしょうか。
本稿では、弊社の調査データを深掘りしながら、令和時代に求められる新たなリーダーシップのあり方について考察していきます。

執筆者有賀 誠氏株式会社Hajimari 執行役員 CHRO
1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。 三菱自動車常務執行役員人事本部長、ユニクロ執行役員、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役、日本IBM人事部門理事、日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、ミスミグループ本社グループ統括執行役員人材開発センター長、日本M&Aセンター取締役人材本部長などを歴任。 世代を越えての学びの場「有賀塾」、経営目線を持つ人事リーダーの育成を目的とした「CHRO養成塾」等を主催。2020年日本HR Award 受賞。 2024年11月より株式会社Hajimari執行役員人事統括に就任。
調査からわかる、令和のマネジメント像を深堀り
管理職になりたくない人の理由を聞いたところ「責任が重すぎる」(20.9%)「仕事量が増える」(18.4%)が上位を占め、「プライベートの時間が減る」(12.2%)「メンタル面での不安」(14.6%)と続きました。 また、「給与面でのメリットを感じない」(11.9%)という回答も多く見られ、管理職としての責任や負担に見合う待遇が期待できない職場が多いと推察されます。

この結果からは、これらの回答からは、現代の管理職が置かれている厳しい現実が浮き彫りになります。 名ばかり管理職やプレイングマネージャーといった言葉に象徴されるように、多くの管理職は、自身の業務をこなしつつ、チームや部下の目標達成、育成、評価、そして部署内外との調整といった多岐にわたる責任を負っています。
その結果、業務量が大幅に増加し、精神的・時間的な負担が過重になっていることが伺えます。
また、従来の「出世=成功」「長時間労働=美徳」という価値観が薄れていることも管理職の人気を下げている要因です。
現代は、仕事一辺倒ではなく多様なライフスタイルやキャリアを尊重する風潮が社会全体で広がっています。

私たちの調査でも、理想の理想の働き方として「オン・オフをはっきりさせ、プライベートを大切にする」と答えた人が260人で最多、次いで「本業の給与をしっかり上げていく」「成果にこだわらず、ストレスフリーでゆるく働き続ける」という結果が得られました。
一方で、「出世して組織を率いる」という回答は少数で、かつての出世競争や肩書きを重んじる働き方は、多くの人々にとって魅力が薄れていることがわかります。 このような価値観の変化は、管理職志向の低下に直結しています。
しかし、全てのビジネスパーソンが管理職になることをネガティブにとらえているわけではありません。調査からは、過去に「良いマネジメントをされた経験がある」人は、管理職志向が比較的高い傾向が見られたのです。

どのようなマネジメントを受けたかによって、管理職というキャリアパスへの認識が大きく変わりうることがわかります。
では、現代で求められるマネジメントとはどのようなものでしょう。 調査内では、「どのようなマネジメントをされたいか」、つまり理想とされるマネジメント像についても深掘りました。

最も多かった回答は「チームの雰囲気を良くしてほしい」(18.8%)でした。この回答は20代から50代まで全世代で高い支持を集めており、年齢やキャリアフェーズを問わず「職場の空気感を整える上司像」が理想とされていることが伺えます。
さらに、「長所を褒めて伸ばしてほしい」(12.7%)が続き、かつての“厳しく指導する”スタイルよりも、“伴走型”“共感型”のマネジメントが求められていることもわかりました。
これらの結果から言えるのは、令和の部下たちは、指示命令で統率する「監督型」ではなく、雰囲気づくりや人間関係を重視する「キャプテン型」のリーダーを望んでいるということです。
管理職という立場には“チームの空気を整え、後押しする存在”が求められるようになっているのです。
トップダウンはもう古い?関係性重視の時代
かつての日本企業における管理職は、時に家族的なリーダーシップで部下の私生活にまで踏み込む「家長」のような存在でした。飲みニケーションや深夜残業は当たり前、長時間働くことが美徳とされていたのです。
しかし、現代ではそのような関わりは「ハラスメント」と受け止められるリスクをはらんでいます。 特に若手世代にとっては、仕事と私生活は明確に切り分けたいもの。職場には心理的安全性が求められるようになっています。
現代のリーダーには、指示命令で部下を動かす「監督」ではなく、一体感や和を生む「キャプテン」としての姿勢が求められていると感じます。信頼関係をベースにした支援型・共創型のマネジメントが主流になりつつあるのです。
管理職は業務の管理だけでなく、メンバーが安心して働ける雰囲気づくりの旗振り役となる必要があります。
社員のライフスタイルや事情に配慮し、個別最適な働き方を支援する柔軟性も必要です。 副業解禁やフリーランス活用が進む中、社内外問わず最適なリソースを活かせる視野の広さも不可欠と言えます。
一方で、ルール違反や不正に対しては毅然とした態度が必要です。ただし、恐怖ではなく信頼に基づいた指導が前提。これが、昭和の「トップダウン」とは決定的に異なる点です。
“令和のマネジメント人材”を育てるには
現代のビジネス環境は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と称され、企業を取り巻く状況は常に変化しています。このような中で、組織のパフォーマンスを最大化し、社員のエンゲージメントを高めるためのマネジメントは、従来の常識だけでは立ち行かなくなっています。
ここで私が提唱したいのが、「ハイブリッド型マネジメント」という概念です。
これは、かつての昭和に重んじられた「人情味」や「統制力」といった、組織をまとめる上での骨格となる強さと、令和の時代に不可欠な「柔軟性」や「心理的安全性」といった、個の力を引き出すためのしなやかさを融合させるものです。どちらか一方に振り切るのではなく、双方の良さを取り入れたマネジメントスタイルこそが、これからの理想だと私は考えます。
社外の専門人材やメンターと連携しながら、管理職一人で背負い込まない体制づくりも必要です。
日々の業務に加えて、現代に適応するマネジメントという難しい役割を一人で背負い込むことは、多くの管理職にとって過大な負担となり、結果として「管理職になりたくない」という若手の増加にも繋がっています。
実際に、管理職の役割を外部から支援する当社の「メンタープロパートナーズ」には、若手を幹部候補に育てたいという声が多く集まっています。
今、管理職という役割は「なるべく避けたいもの」から「誰かの成長や組織の力を引き出す面白さを味わえる役割」になれるかどうか、進化を問われているのではないでしょうか。
この進化に対応するためには、私たち一人ひとりが、古い常識や成功体験に固執せず、時代に合ったマネジメントスタイルを主体的にアップデートしていくことが不可欠です。部下を導くリーダーとして、自らも変化を恐れずに学び、新しいアプローチを試み、成長し続ける姿勢こそが求められます。
VUCAの時代を生き抜き、組織を次のステージへと導くのは、過去の成功体験に囚われず、常に未来を見据え、柔軟に進化し続ける「ハイブリッド型リーダー」です。 そのような管理職こそが、令和の「理想の管理職像」なのだと私は考えます。 そして、彼らが自信を持ってその役割を全うできるよう、私たちのような外部パートナーが最適な形で支援していくことが、これからの企業成長には不可欠となるでしょう。
採用担当者の工数を軽減できるマイナビの採用方法とは?

中途採用のニーズが高まる一方で、採用担当者の負担が年々増加しています。しかし、実際の現場では応募者対応や日程調整といった事務作業が煩雑で、採用の質やスピードに課題を抱える企業も少なくありません。
本記事では、中途採用を幅広くご支援している私達が実施した調査結果から見えてくる、現在の中途採用にかかる問題点について解説します。
また、実際にこうした問題に直面していた株式会社ワイ・デー・ケー九州の採用改善事例もご紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。

サポネット編集部|株式会社マイナビ
「HUMAN CAPITAL サポネット」は、新卒・中途採用ご担当者さま、経営者さま、さらには面接や育成に関わるすべてのビジネスパーソンに向けた、採用・育成・組織戦略のヒントが満載の情報メディアです。
目次
1. 現状の中途採用にかかる問題点
弊社が中途採用担当者に実施した調査によると、2024年の中途採用人数は1社あたり年間平均20.8人と、2年連続20人を超える結果となりました。

引用:マイナビキャリアリサーチLab調べ|中途採用状況調査2025年版(2024年実績)
また、2024年の中途採用に積極的な企業は9割を超えており、前年に引き続き未経験者の採用にも積極的な動きが見られました。依然として人材不足の問題は続いているといえます。

引用:マイナビキャリアリサーチLab調べ|中途採用状況調査2025年版(2024年実績)
そして、採用担当者が採用業務に対し煩雑に思っている業務内容は「応募者の対応」(34.0%)、「応募者の管理」(32.2%)、「社内の面接官日程調整」(30.0%)が上位をしめました。

採用業務の中でも日程調整や管理などの事務的な作業に対して煩雑になってしまっている担当者が多くみられます。
つまり、人材不足による採用を進める企業が多い一方で、現場の採用担当者は事務的な業務に煩雑さを抱えながら作業している問題点が浮かびあがります。
2. 採用業務の工数に課題を感じていた株式会社ワイ・デー・ケー九州
半導体製造装置を中心とした産業用設備の設計開発・製造を行う株式会社ワイ・デー・ケー九州。同社も採用業務に課題を持っており、従事できる人員が少ないために十分な対応ができず、求める人材を採用につなげることに苦戦していました。
そこで弊社が提供している「マイナビ転職 Booster」をご利用いただき、その結果、選考にかかる手間と時間を大幅に削減し、自社に合った人材の採用に成功することができました。
今回、同社人事部の西 美惠子様、山口 清成様に詳しいお話を伺いましたので、ぜひ参考にしていただければと思います。

「マイナビ転職 Booster」の利用で採用工数を削減。専属スタッフのサポートのおかげで、マッチング率もアップ
こちらの記事より内容を編集し掲載しています。ぜひこちらもご確認ください!
応募が増えた一方で、従来の体制では対応しきれない採用業務を解消
Q. マイナビ転職 Boosterを利用する前の中途採用の状況を教えてください。
西美惠子様(以下、西):従来は、「現場から新たな人材がほしいという要望が上がってくるたびにハローワークに求人を出し、応募が来るのを待つ」というやり方で採用していました。しかし近年の半導体へのニーズの高まりとともに、当社でも技術者を中心に、より多くの人材を確保しなければならない状況になりました。
そこで2021年から、マイナビ転職に求人広告を掲載するようになりました。マイナビ転職を選んだのは、当社の新卒採用でマイナビの就職情報サイトを利用していて、採用実績があったからです。
おかげで応募数は増えましたが、選考や応募者との日程調整に手間と時間がかかるうえに選考途中の辞退も多く、なかなか自社に合う人材の採用につなげられませんでした。
Q. 当時、どんなことに中途採用の課題を感じていましたか。
西:一番の課題は、こなさなければいけない採用業務が多すぎて、志望動機を醸成する効果的な応募者対応やフォロー、スカウトまで手が回らなかったことです。というのも、当時、当社には人事部がなく、中途採用については、管理本部に所属していた私と山口が、経理や総務などの業務と採用業務を兼務していたため、最低限の対応だけでも精いっぱいだったのです。
ハローワークをメインに使っていた頃は、そもそも応募が少なかったので、従来の体制でも大きな問題はありませんでした。マイナビ転職に経験不問で求人掲載をするとそれなりの数の応募が来るようになり、書類選考やその後の応募者対応に、かなりの手間と時間を取られるようになりました。
技術者の採用では、各部門の業務内容に応募者のスキルがマッチするかどうかは、経歴と面接での本人の申告だけではわかりにくいため、他の職種以上に、吟味と現場との調整が必要です。私たちが十分な経歴があると判断して現場に提案しても、現場の担当者がスキル不足とみなして不採用となるケースも多々あります。
必要なスキルを備えた応募者がいても、私たちが他の業務に時間を取られているうちに現場への提案が遅くなり、先に他社から内定が出て選考途中で辞退されるケースもありました。振り返ると、他の業務もこなしながら、多数の応募者のなかから各部門の業務内容にマッチする技術者を選考するのは無理があったと思います。
Q. 採用課題の解決のために成果報酬型サービスを利用することにした経緯を教えてください。
西:マイナビ転職の利用開始から半年ほど経った頃、マイナビの担当者からマイナビ転職 Boosterの利用を勧められたのがきっかけです。ちょうど、追加で費用をかけてでも課題を解決する必要があると感じ始めていたタイミングでした。
もっとも大きな負担になっていた書類選考をはじめ、面接や工場見学の日程調整、内定者フォローなどの応募者対応を代行してもらえると知り、利用を決めました。
また、マイナビ転職 Boosterの担当者による紹介やサポートを受ければ、技術者や経験者を募集するにあたって、より当社の採用要件や社風に合った人材を採用できるようになると考えたことも、利用を決めた理由の一つです。さらに、現場への提案が遅くなったのが原因で、他社に先に内定を出されて辞退された経験から、選考スピードをアップさせたいという思いもありました。
採用業務が効率化され、見極めに集中できるように
Q. 実際にマイナビ転職 Boosterを利用してみて、どんな印象を持ちましたか。よかった点や採用活動に役立った点など、効果を感じられたエピソードがあれば教えてください。
西:書類選考を代行してもらえるようになり、採用業務にかけていた時間と手間が大幅に削減されました。このことは、マイナビ転職 Boosterの利用による大きなメリットだと感じています。採用業務が効率化された結果、現場への提案スピードが速くなり、スピードで他社に負けるリスクを軽減できたのもよかったです。
山口清成様(以下、山口):私たちだけで採用活動をしていた頃は、書類選考のほかに、面接や工場見学の日程調整も負担になっていました。マイナビ転職 Boosterの導入後は、応募者対応や日程調整を担当者に任せられるようになったため、自社に合う人材の見極めに集中できるようになりました。
西:担当者による内定者フォローが採用につながった面もあったと思います。例をあげると、内定者のなかに、遠方からの転職で住まいが見つからず入社を決めかねている方がいたのですが、マイナビ転職 Boosterの担当者がその方の要望に合う転居先を探して提案してくれました。選考過程全体を通して、応募者に寄り添った親身なフォローで志望度アップに貢献してくれた印象があります。
Qマイナビ転職 Boosterを利用した採用活動によって、応募者や採用者がどのように変化したかを教えてください。
西:マイナビ転職の求人広告を見た求職者自身からの応募に加えて、マイナビ転職 Boosterの担当者がスカウトした求職者からも応募があったので、応募数、採用数ともに増加しました。担当者が当社の特徴を理解したうえで、業務内容に合ったスキルや経歴のある人材をスカウトして紹介してくれたおかげで、応募者とのマッチング率も高まりました。
また、ハローワークに募集を出して待ちの姿勢で採用していた頃に比べると、若手人材や理系人材からの応募が増えました。
電気設計、機械設計の技術者採用では、求人広告を掲載するたびにマイナビ転職 Booster担当者からの紹介も含めて数十名の応募があり、選考を経て、計4名の技術者を採用することができました。そのほか、総務、経理、製造管理、品質保証の部長候補、資材調達の課長候補についても各1名の採用に成功しています。
Q. マイナビ転職 Boosterの担当者とは、どのように人材の判断基準を共有していたのでしょうか。
西: 基本的な採用要件は、現場からの要望をもとに社内で決めたうえで、マイナビ転職の求人広告を制作するための打ち合わせの際にマイナビ転職 Boosterの担当者に伝えていました。選考時の細かい判断基準は、ともに採用活動を進めるなかで直接伝えたこともありますが、担当者自身も当社の社員や選考通過者の傾向から汲み取る努力をしてくれたと感じています。
特に技術者については数回にわたって求人掲載したため、回を重ねるにつれて担当者が当社の判断基準を熟知して選考に通りそうな人材を紹介してくれるようになり、選考フロー全体が効率化されました。
3. 最後に
現在の中途採用の問題点と実際の事例について解説いたしました。
今回ご紹介した事例のように、自社の採用課題を分析したうえで、採用活動の効率化や新しい採用手法を取り入れることで、課題解決に繋がるケースもあります。
採用業務について事務的な工数削減をしたいとお考えの採用担当者様は、採用活動の1つの手段として、成果報酬型のサービスを検討いただけたらと考えています。
【ミドルマネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ#4】ミドルマネジャーの「業務の質」に対処する2つのアプローチ|リクルートマネジメントソリューションズ

ミドルマネジャー(課長層、以下マネジャー)の過重負担や長時間労働、業務の難しさなどが、多くの企業で問題となっています。
「マネジャーは罰ゲームだ」「マネジャーになりたくない人が増えている」「マネジャー限界説」などの声もよく耳にするようになりました。そうした問題を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。マネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチを紹介します。
第4回は事例を交えながら、「業務の質」に対処するための後半2つのアプローチを具体的にお伝えします。

寄稿者石橋 慶(いしばし けい)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ レーニングマネジメント部 トレーニング開発グループ マネジャー
2005年リクルートマネジメントソリューションズ入社。ソリューションプランナーとして、幅広い業種・規模の企業に対し、人材採用・人材開発・組織開発の企画・提案を行う。2012年よりミドルマネジメント領域の調査研究およびトレーニング・モバイルラーニングの商品企画・開発に従事。

寄稿者木越 智彰(きこし ともあき)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ トレーニングマネジメント部 トレーニング開発グループ 主任研究員
ビジネス系出版社にて書籍の編集・企画業務に携わった後、2009年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。海外事業の立ち上げ・専属トレーナーのマネジメント業務を経験し、現在は研修の企画開発に従事。主にマネジメント領域を担当する。著書に『部下育成の教科書』(共著・ダイヤモンド社)がある。
目次
【アプローチ3】「制度・仕組み」で質に対処する
3つ目は、「制度・仕組み」で質に対処するアプローチです。環境変化に対応できる望ましい組織運営のあり方を再検討し、マネジャーの役割も再考した上で、新たな制度や仕組みを用意してマネジャー業務の質を高めていきます。

多くの企業が「管理統率型+自律共創型マネジメント」へ移行しつつある
結論から言えば、私たちは今、多くの企業に「管理統率型+自律共創型マネジメント」への移行を勧めています。これまでの管理統率型マネジメントをある部分で維持しながら、自律共創型マネジメントを新たに導入するのです。
実際、多くの企業が自律共創型マネジメントを導入したり、導入を検討したりしています。私たちの調査では、人事担当者及び管理職層の7割程度が、自律共創型組織への移行が必要だと考えており、5割程度が実際に自律共創型の組織運営に何らかの形で取り組んでいることが分かっています。

出典:「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年 」リクルートマネジメントソリューションズ
「管理統率型マネジメント」とは、マネジャーが目標・戦略・計画を決め、メンバーがそれらを素早く実行する従来型のマネジメントのあり方です。1on1の垂直コミュニケーションのもとで、個人の知識や経験を重視して、計画された分業による協調を行います。
対して、「自律共創型マネジメント」とは、チームで考え、柔軟に価値を生み出すマネジメントのあり方です。チーム全員が、共有ビジョンの実現に向けて、実践知を交換しながらより良い方法を生み出していくのです。1対多のコミュニケーションや学びなおしを重視し、自律的なメンバー行動による協働を行います。
自律共創型マネジメントが必要とされているのは、リーダーも課題解決の方法が分からないから
自律共創型マネジメントが注目されている理由の1つは、多くのビジネス課題が、技術的挑戦から「適応的挑戦」に変わったからです。
技術的挑戦の場合、マネジャーが解決方法を知っており、メンバーに対して適切な指示をすることで問題解決を図ることができます。しかし、適応的挑戦の場合、マネジャーも解決方法が分かりません。
この種の挑戦において、マネジャーはメンバーとともに課題に対応していくことが欠かせません。マネジャーには、メンバーのアイデアを積極的に引き出し、メンバーとの相互作用で課題に対処していく行動が求められます。
もう1つは、「他部署と連携する必要性(タスク依存性)」と「業務遂行上の情報の不確実性(タスク不確実性)」がどんどん高まっているからです。
タスク依存性が高い職場では、マネジャーの対外活動がカギになります。マネジャーには、自部署はもちろんのこと、上司・他部署・社外の関係者を巻き込む動きが求められます。
タスク不確実性が高い職場では、メンバーの心理的安全性を確保し、積極性を促すリーダーシップが必要とされます。
現状、多くの日本企業は、管理統率型マネジメントをある程度残しながら、自律共創型マネジメントの導入を進めています。例えばE社は、人事制度と評価制度を抜本的に見直し、自律共創型マネジメントの体制を整えました。
具体的には、成長支援や評価をメンバー同士で行う仕組みを導入し、組織がもつ情報や権限を一人ひとりに分散させたのです。そうすることで、個々のメンバーが自律して自ら意思決定する「自律・分散・協調型組織」への移行を後押ししています。
この仕組みの導入により、E社は目指す組織像に近づきつつあります。
【アプローチ4】「能力開発」で質に対処する
4つ目は「能力開発」で質に対処するアプローチです。自律共創型マネジメントを行うためにマネジャーに求められる力を高める施策群です。
多くの企業が、管理統率型マネジメントの限界に直面しており、マネジメントにおける新たな考え方やスキル開発の必要性を感じています。自律共創型マネジメントに向けた人材育成施策が求められているのです。

自律共創型組織の実現に必要なマネジャーの「3つのキー行動」
自律共創型の組織運営に向けて、マネジャーが特に難しいと感じているのは、「組織のビジョンを打ち出すこと」「失敗を恐れず挑戦する組織づくり」「これまでの成功パターンからの脱却」の3点です。

出典:「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」リクルートマネジメントソリューションズ
言い換えれば、自律共創型組織の実現に必要なマネジャーの3つのキー行動は、「ビジョン策定」「組織・チームでの共創」「振り返りと学習」です。マネジャーがこの3つに取り組めば、自律共創型組織を形成していけるのです。

「ビジョン策定」は、まずメンバーとの対話を通じて、メンバーのやりたいことや問題・課題意識を明らかにすることが大切です。その上で、メンバーとともに変化を洞察し、自組織で実現したいこと(ビジョン)を明らかにしていくのです。
具体的には、マネジャーは1on1・評価面談・キャリア面談などの場を通して、メンバー一人ひとりがどのようなことに興味・関心があるのか、何に意欲をもつのか、どんな価値観をもっているのか、中長期のキャリアの方向性に照らした現在地などを確認します。その上で、本人の志向や強みや課題を踏まえ、当面の能力開発テーマや仕事におけるチャレンジを一人ひとりと合意するのです。
メンバー一人ひとりのチャレンジしてみたいことをオープンに語り合う中から、自組織として取り組みたいことをメンバー全員と対話の中から見出していくことができます。そうして生まれた、組織の共通ビジョンの実現に向けてはコミットが高まることになります。
「組織・チームでの共創」のポイントは、ビジョン実現に向けた個人の自律的行動や試行錯誤を奨励し、それらを個人目標に織り込むことです。また、共創する際に、チームの中で誰もが意見を表明できるように心理的安全性を高めることが肝要です。
心理的安全性を醸成する上で欠かせないのが、チーム内の盛んな「対話」です。マネジャーがメンバーの発言に対して評価や結論を下すようなコミュニケーションをするのではなく、マネジャーとメンバーが互いの発言やその背景を聴き合いながら、意味を発見するやり取りをしていくのです。マネジャーは、こうしたオープンな対話を通じて、多くの気づきを得ることができるはずです。
「振り返りと学習」に最も必要なのは、チームでトライしたことを皆で振り返り、チーム全体が経験から学ぶ時間です。同時に、マネジャーが自身のマネジメントを振り返ることも極めて大切です。
かつての管理統率型マネジメントでは、「マネジャーは正しいことを言えなければならない」「マネジャーは悩みをメンバーに伝えてはいけない」「マネジャーは何が起きているかをすべて把握しておかなければならない」「メンバーに聞いても、よい意見は出てこない」「マネジメントとは、きつくてしんどいものだ」といったことが通念となっていました。
しかし、自律共創型マネジメントでは、「マネジャーは、たとえ間違っていても、自分の考えや思いを言えることが大事だ」「マネジャーは悩みをメンバーに相談したり、頼ったりしてよい」「メンバーが自律的に判断できる環境・仕組みをつくることが大事だ」「メンバーはマネジャーにないアイデアや問題意識をもっている」「マネジメントは、案外面白くて、創造的だ」といった考え方を持つ必要があります。
マネジャーのメンタルモデルがこのように変わっていけば、自律共創型組織への移行はスムーズに進んでいくはずです。
管理統率型(before)/自律共創型(after)のマネジメントメンタルモデル

以上で、「マネジャーのオーバーワークを乗り越えるための4つのアプローチ」の紹介を終わります。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
“正しい”人事データの活用で競争力を高める!グローバルHR SaaSから学ぶ組織戦略の未来

2025年6月25日~2025年6月27日に東京ビッグサイトで開催された「カイシャのミライ カレッジ 2025 Tokyo Spring」。経営者や総務、人事、経理といったバックオフィスの方を対象としたセミナー・交流会イベントです。
本記事では、jnjer株式会社 代表取締役社長 CEOである冨永氏と、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会で上席研究員を務める髙浪氏が登壇した講演内容をイベントレポートとしてご紹介します。
人的資本経営が注目を集める中で、人事データに対する重要性が高まり、多くの企業が人事データの活用に取り組み始めています。人事データの基盤をどのように構築すべきか、そして人事データの質が「戦略的な意思決定」や「組織の成長」にいかに直結するかを紐解いていきます。

登壇者冨永 健氏jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO
シスコシステムズで大手企業向け営業と組織マネジメントを担った後、アマゾンウェブサービスで営業責任者として日本のクラウドマイグレーションの加速に貢献。その後、株式会社Zendeskの社長としてカスタマーエクスペリエンス基盤の普及とオペレーション改善を主導し、国内市場でのプレゼンス拡大に寄与した。現在はHR Tech 企業 jinjer の代表取締役社長 CEOとして、これまで培ったグローバルビジネスの経験を基盤に、戦略策定、M&A・組織再編、業務オペレーションの効率化に取り組み、日本発のHR Tech企業の持続的成長をリードしている。

登壇者髙浪 司氏一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員/EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング アソシエイトパートナー
外資系コンサルティングファームにて、会計領域のコンサルティングや、組織再編・事業統合に伴う事業モデル設計に従事し、大規模な業務改革・構想策定を得意とする。現職のEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社では、人事戦略を起点としたグローバルビジネスサービスの変革を推進。業務の高度化・効率化を通じて、デジタルシフトに伴うワークフォース変容に対応し、次世代型の人事機能・人事オペレーティングモデルの構築や、スキルベースアプローチの導入によるタレントマネジメントの進化に注力している。また、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では、Talent Acquisition and Retentionワーキンググループをリード。企業の競争優位を支える優秀な人材の確保と定着を、戦略的かつ継続的に推進している。人材獲得・定着における実務とアカデミアをつなぐ「知の交差点」として、ピープルアナリティクスの観点から課題解決に資するナレッジと実践を創出し、参加企業の持続的な組織力強化を支援している。
目次
1. 人事データの重要性と現場の課題

冨永氏:本日は「“正しい”人事データの活用で競争力を高める」というテーマで講演を進めたいと思います。1つ目のお題は、「人事データの重要性と現場の課題」についてです。
従来、人材は「ヒト・モノ・カネ」という経営資源の一つとして、コスト管理の対象とされてきました。しかし、近年の社会情勢の変化や人手不足を背景に、「人は資本である」という考え方へと変化しています。
人材を資本、すなわち投資対象と捉えることで、その質を高めることが企業の価値向上に直結するという認識が広まり、人材の質を向上することへの注目が集まっています。
また、IT技術が発展する中で、会計システムや生産管理システムなど、様々な業務システムが登場し、事業の利便性は大きく向上しました。しかし、「ヒト・モノ・カネ」の枠組みで見た場合、「ヒト」にまつわるシステムだけは、まだまだ遅れをとっている印象があります。
人事部の現場では、未だにExcelで作られた従業員台帳や紙のタイムカードが使われているケースが多く見られ、データ化に大きな遅れが生じています。人事データが適切に管理されていなければ、人事担当者は経験や勘に頼って人材戦略や人材配置を行わざるを得ません。このような属人的な取り組みは、経営戦略にも大きな影響を与える可能性があります。
髙浪さんは、日頃コンサルタントとして現場に赴かれる中で、このような人事データ活用の遅れを感じる場面はございますか?
髙浪氏:はい。実務の現場に立つ中で、人事データの整備や可視化が十分に進んでいない企業は依然として多数存在すると感じています。
特に入力ルールや管理基準が部門ごとに異なり、整備されたデータベースとして活用できる状態になっていないケースが散見されます。このような“即時に使える状態”にないデータ基盤では、戦略的な意思決定に結びつけることが困難であり、結果として属人的な判断に依存せざるを得ない状況が続いているのが実情です。

「本当に整備されている?」各企業における人事データの整備状況
冨永氏:人事部は、経営陣から急に「これに関するデータを出してくれる?」と依頼されることも少なくありませんよね。ここで、当社が実施した『人事データの整備と活用に関する実態調査』について共有したいと思います。
まず、「現在、貴社の人事データはどの程度整備されていると感じますか?」という問いに対しては、約半数が「整備されている」と回答しています。

私は、この結果を初めて見た際に、予想していたよりも人事の方々は人事データの整備について問題意識を持っていないのではないかと感じました。
しかし、より具体的に調査結果を見ていくと、面白いことがわかります。「整備されている」と回答している半数の方の中にも、実は人事データの運用に課題を感じていると回答した方が79%もいるのです。

髙浪さん、これらの運用における課題は人事部門で良く見られるものなのでしょうか?
髙浪氏:人的資本経営への注目が高まるにつれて、社内でデータ収集の自動化を促進する企業は増加傾向にあります。このように社内でのデータ収集の機運が高まっている一方で「データは存在するが、所在が把握できていない」「収集はしているはずだが、誰がどんな粒度で保持しているのか不明確」といったデータガバナンスの不在を示す声を頻繁に耳にします。
これは単なる管理の問題ではなく、経営判断に用いるべき人材情報が“活用不能な資産”として埋もれてしまっている、という非常に本質的な課題を示唆しています。
冨永氏:いざ人事データを活用しようとした際に、「取得していると思っていたデータが実際はなかった」あるいは「ないと思っていたデータが実は取得されていた」という状況は、まさに現場のリアルな悩みだなと思います。
現在、人的資本経営の情報開示が求められていることを背景にデータ収集を進める企業も増えているのではないかと思います。しかし、情報開示はあくまで結果であり、「情報開示のためだけに」データを集めるのは本末転倒です。
経営戦略や人事戦略を策定する際に、いつでも必要な人事データをすぐに確認できる状態を構築することこそが重要ではないでしょうか。
2. なぜ人事データを整備できていないのか?
冨永氏:続いてのテーマは、「なぜ人事データを整備できていないのか?」です。根本的な理由として、時代の変化に伴い、管理すべきデータが複雑化していることが挙げられます。

2000年代においては、従業員の雇用形態や保有資格といった人事の基礎情報を管理できていれば、人事データの管理は十分でした。この時代は、システム構築もオンプレミス型が主流です。
しかし、2010年代に入ると、従業員のスキルや経験に加え、業務手当や資格手当など、管理すべき人事データの項目が格段に増えていきました。この頃から、オンプレミス型システムに情報を追加する手間が増え始めたのです。
そして、タレントマネジメントシステムや福利厚生システム、さらにコロナ禍では在宅勤務を管理できるようにするためのシステムなど、業務やシーンごとにさまざまなシステムが増加していきました。現在では、従業員のメンタルヘルス対策や働きがいへの注目が高まり、ストレスチェックやエンゲージメントといった項目が人事データに加わっています。
このように管理項目が増加し続けた結果、人事・管理部門には複数のシステムが混在し、マスターとなるデータがバラバラに分散する事態となっています。さらに、システムだけでなく、アナログなExcelやWordファイル、紙によるデータ保管も混在している点も、現状の大きな課題だと考えています。
ここまでの時代の変化、そして人事データ管理の変化を見て、髙浪さんはどのように感じられますか?
髙浪氏:お話しいただいた通り、管理すべき項目は恐るべきスピードで増えています。特に近年注目を集めている“スキルベース・マネジメント”の観点では、スキル定義の精緻化と継続的な棚卸しが避けて通れない論点です。
例えば、「プロジェクト管理」といったスキルも、企業文化や事業特性によって要求される行動特性や知識構造が異なるため、何をもってスキルの有無や高低を判断するのか等、定義と測定方法を共通化しなければ、社内横断での活用や人材配置の最適化にはつながりません。
また、スキルは静的な資格情報とは異なり、実務経験や学習を通じて日々変容する“動的な資産”です。この動態を反映できるような更新フローやアセスメントロジックがなければ、データはすぐに陳腐化してしまいます。
こうした課題に直面している企業は非常に多く、今後の人事戦略において、スキルデータの“鮮度と信頼性”をどう担保するかが競争優位の分水嶺になると考えています。

冨永氏:確かに、資格情報のみであれば「有資格者」「無資格者」で明確に判断できます。しかし、保有スキルにはグラデーションがあります。さらに、世間で公的に認められた資格は持っていなくとも、それに匹敵するような高いスキルや知識を持つ人材もいるでしょう。
これらの情報はタレントマネジメントシステムで管理を試みることが多いですが、厳密に把握することは難しいと感じます。
そもそもの基盤となる「データの精度」が大きな課題に
冨永氏:また、タレントマネジメントシステムを導入してスキルや能力の管理を行っていても、そもそもデータの精度が低ければ、データ活用は進みません。

例えば、氏名を登録する際に姓と名の間に半角スペースを入れるか入れないかといった些細な違いでも、データの精度に影響します。また、特定のシステムだけが最新情報に更新されていないといったケースも、データ管理に関わる課題の典型例です。こうしたデータのバラつきを正確に管理していくには、非常に手間がかかります。
さらに、データ管理に関わる課題の例としては、「過去のデータ」を探しにくい点が挙げられます。「現在、この従業員はどの部署に在籍しているか?」という質問には答えられても、「この人は3年前にどの部署で何の仕事をしていたのか?」と問われると、すぐに回答できないケースが多いようです。
入社時から遡り、どこに配属され、誰と一緒に働き、どのようなスキルを身につけながら今に至るのか。過去のデータも含めて正確に把握できなければ、これからの企業経営は立ち行かなくなるでしょう。
縦・横・斜めに組み合わせた人事データの活用を
髙浪氏:ここで会場の方から「離職予測において取得をおすすめする人事データはありますか?」というご質問をいただきましたので、お答えしたいと思います。
以前、ある実証実験にて
- 従業員のコミュニケーション量(社内SNSの接触データ)
- 勤務時間(打刻データ)
- エンゲージメント(サーベイ)
という3種類の既存人事データを組み合わせ、ストレス状態および離職兆候との相関を分析しました。
単体では読み解けない因果構造が、複合分析によって明らかになる好例でした。今後、横断的にデータを“縦・横・斜め”に掛け合わせて解釈する視点は、人事領域において不可欠になると感じていますが、冨永さんはいかがですか?
冨永氏:そうですね。今保有している人事データに新しいものを加える視点だけでなく、保有している既存データの組み合わせを考えることはポイントだと思います。既存データを縦・横・斜めに組み合わせて見方を変えるだけで、今まで見えていなかったことが見えてくる場合があります。
3. 人事データの基盤をどう考えていくか
冨永氏:ここからは、「人事データをどのように整理していけばよいか」という人事データ基盤の考え方についてお話ししていきます。
システムをバラバラに導入していくと、どうしてもデータが散在してしまいます。これに対して、API連携によってあたかも一つのデータ(マスター)を保持しているかのように利用する方法もありますが、グローバルな視点で見ると、海外のHR SaaSでは統合型が主流となっているように伺えます。

髙浪さんは、この現状をどのように捉えていらっしゃいますか?
髙浪氏:
十数年前は構築型のERPが主流であり、その後SaaSシステムが次々と登場し、追加されていきました。しかし、現在は管理すべきデータの範囲が複雑化していることに加えて、さらにERPシステムの保守切れなどをきっかけに、システム統合を検討する企業が増えています。
また、最近は生成AIがもたらす“対話的インターフェース”の進化により、人事データへのアクセス性が劇的に変わる可能性を感じています。「〇〇事業における適切な後継者は誰か?」と問いかければ即時に返答がある未来は、単なる夢物語ではなくなりつつあります。
ただし、その前提としてシステムおよびデータ基盤が“統合されていること”そして“信頼に足る状態であること”が不可欠です。
冨永氏:私も人事部長に「今のうちの女性管理職の比率は何%だっけ?」といった質問をしたことがあります。これを生成AIに聞いて確認できるようになれば、非常に便利です。
人事データと生成AIの活用は、人事部のニーズも非常に高いと思います。もしかしたら、そのうち私も、人事部長から「その質問は生成AIに聞いてください」と言われるかもしれません(笑)。
4. 「正しい人事データ」の活用で競争力を高める
冨永氏:このように、1つのデータベースを持つ統合型システムに移行していくことは、企業の競争力を高める大きなきっかけとなります。
ここで、弊社サービスの導入企業様の事例を2つご紹介したいと思います。


このように、ジンジャーは統合型データベースの仕組みによって「正しい人事データ」の管理を実現し、企業様の経営戦略を実行に導くサポートをおこなっています。
この「正しさ」について、私たちは次のように考えています。
| 「正しさ」の要素 | “正しい”人事データの例 |
|---|---|
| ①正確性 | 誤りがない従業員の基本情報 |
| ②網羅性 | 不足のない評価データ、スキル情報 |
| ③一貫性 | 統一フォーマットで管理された氏名・住所の情報 |
| ④最新性 | リアルタイムで反映される昇格や異動情報 |
| ➄適法性 | 労基法に基づく勤務時間と給与支払いの実績 |
これら5つを満たした人事データ、つまり「現場で使える人事データ」こそ正しい人事データだと考えています。
髙浪氏:
以前、ある医療機関のクライアントから、勤怠データが三重に管理されているというお話を伺ったことがあります。一つは紙による手書き集計、二つ目はモバイル端末による打刻、そして三つ目がそれら二つのデータを突合・整合した社内独自の管理ファイルでした。
理由を尋ねたところ、「それぞれのデータ間にしばしば乖離が生じるため、突合せを行わないと正確な実績が把握できない」というものでした。これは一見、現場の工夫とも捉えられますが、実態としては、元々の入力精度やプロセス設計に根本的な課題があることを示唆しています。
本来あるべき姿は、データを“整合させること”に労力を割くのではなく、初期入力の時点から「構造化され、かつ現場で即時に活用可能なデータ」を取得できる仕組みを設計することです。すなわち、“使えるデータ”とは、単に正しい情報を持つという意味ではなく、オペレーション全体が設計通りに運用され、ガバナンスが効いている証でもあるのです。
冨永氏:髙浪さん、ありがとうございます。ジンジャーは、もともと勤怠管理のシステムからスタートし、人事労務やタレントマネジメントといった機能を追加してきました。しかし、機能が増えても統合型のデータベースを基盤として開発を進めてきているため、人事データのバラバラ管理を防ぎ、正しい人事データを整備することが可能です。
ぜひ、皆様の企業で正しい人事データが整備されていくことで、競争力の高い組織作りに繋げていっていただきたいと思います。本日は、ご清聴いただきありがとうございました。

プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開にあたって|「プロアクティブ人材」育成実践術 #8

- 01|人的資本経営を成果に結びつけるために重要な「プロアクティブ人材」とは?
- 02|なぜ人材のプロアクティブ化が重要なのか?
- 03|プロアクティブ人材育成 実践ステップ①:プロアクティブスコアを測定せよ!
- 04|プロアクティブ人材育成 実践ステップ②:自社にとって「意味のある」ターゲット&テーマを定めよ!
- 05|プロアクティブ人材育成 実践ステップ③:経営・人事部門と管理職の対話と共創に着手せよ!
- 06|プロアクティブ人材育成 実践ステップ④:マネジメントの涵養から人材の育成を!
- 07|プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑤:自社ならではの人事施策を見いだせ!
- 08|プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開(例や案)&まとめ

寄稿者下野 雄介氏株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイングループ 部長
「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。

寄稿者 宮下 太陽氏株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー
立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。
本連載は、拙著「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)の内容をベースに、『「プロアクティブ人材」育成実践術』と題して、プロアクティブ人材を育成していく具体的な実践方法・ステップを中心にご紹介し、プロアクティブ人材を起点として人的資本経営を成果に結びつける実践的なアプローチを提示してきました。
連載を振り返ると、第1回から2回にかけては、プロアクティブ人材が「自らのキャリアと組織の成長を同時に切り拓いていく人材」であることを紹介した上で、「プロアクティブ人材は、人的資本経営を成果につなげるためには必要不可欠な存在であり、まさに成果創出の起点となる存在」であることを解説しました。
第3回と第4回ではプロアクティブ人材をどう育てるのかという具体的な方法論について踏み込んでいき、プロアクティブスコアの測定方法、プロアクティブ行動を高める因果モデル、そして自社にとって意味のあるターゲットと施策テーマ設定の方法について紹介しました。
続いて第5回では、具体的な施策を展開する上で、プロアクティブスコアを共通の言語として経営・人事部門と管理職との間で関係を強化していく必要があること、第6回では管理職のマインドセットがプロアクティブ行動を向上させる上では肝となることを解説しました。
そして第7回では、プロアクティブ人材を起点として人的資本経営を成果に結びつける一連のマネジメントサイクルを回していく際に有用な人的資本価値創造モデルを紹介しました。
第1回から第7回までの連載を読んでいただいた皆様は、「持続的成長に向けた重要な育成テーマとしてのプロアクティブ人材、その方法論」に関する解像度を深めて頂いたのではないでしょうか。
最終回となる第8回は、書籍でご紹介した内容からさらに一歩進んで、「最前線の試行錯誤」についてお届けしたいと思います。既にプロアクティブ人材育成に取り組んでいる先進企業が直面している“リアル”は大きく以下の3点です。
- 個に迫る育成の主役である管理職が機能しない
- 働き手が白けておりのれんに腕押し状態に陥っている
- 施策がマンネリ化する
①個に迫る育成の主役である管理職が機能しない
第5回、第6回でも解説した通り、プロアクティブ人材の育成には管理職が個人・チームに働きかけることが必要不可欠です。
しかし管理職は、「管理職の罰ゲーム化」と言われるほど高負荷・高ストレス状態にあると言われます。実際、運用の最前線では「挑戦的なテーマを立ち上げみんなを巻き込んでみよう」とか「部下の行動活性化のため、外部のイベント参加を勧めたり、それを披露したりする場を設けてみよう」といった新たな育成行動を正直取る余裕がない、という管理職の本音に接することも珍しくありません。
先進企業ではこうした管理職の高負荷問題に対して、人事部門の立場としてまずできることに取り組んでいます。具体的には「不要・もしくは効果の薄い人材育成・活性化施策を減らす」ということです。
この施策の優先順位付けにあたっては第7回で紹介した人的資本価値創造モデルアプローチが有効です。管理職が担っている施策を、成果へのインパクトと施策の負荷に基づき再評価し施策の見直しに繋げることができます。
新たな取組を行う余地を創ることと、これまでの施策を見直すことは両輪で考えるべきなのです。
②働き手が白けておりのれんに腕押し状態に陥っている
2000年代前半より「ブラック企業」、「やりがい搾取」といった企業と働き手の対立を煽るような言葉が社会に認知され始めました。日本型雇用の終焉とともに蜜月だった労使関係がバブルの崩壊とともに終わり、未だに建設的な関係が見いだせていないように思います。
このような環境で、一部の社員が、企業側の人的資本投資に対し「新たなやりがい搾取だ」と声を上げ全体の風土を棄損させるような動きに繋がることも昨今珍しくありません。
こうした場合、まずプロアクティブ人材となることに対する関心をどう惹きつけるか、という点がポイントとなりますが、外発的なモチベーションに働きかけるアプローチは前提条件的な位置づけであり、高めたからと言ってプロアクティブ行動を活性化する要因とならないようです。
プロアクティブ人材を育成するためには、内発的なモチベーションにアプローチすることが有効であり、先行企業ではその点に着目し、「プロアクティブ人材そのものが自身の仕事や自己実現においてどのような意味があるのか」を浸透させるための施策・活動が行われています。
例えばキャリア開発研修のテーマとして組み込む、プロアクティブ行動と様々な社内での成功を結び付けた発信・共有を行うといった活動です。
③施策がマンネリ化する
マネジメントが部下に対して働きかける場面は、日々の業務に関するコミュニケーション、雑談、目標管理・評価面談、そして最近では1on1ミーティングといった場面でしょう。人事部門は、管理職に対して、こうした場面の中で有効な部下育成を行うためコーチングやティーチング、アンコンシャスバイアス、傾聴といったスキルをある程度汎用化された形で提供しているのが一般的です。
しかしこのような施策は、ちょっとした研修でお茶を濁すという形で往々にしてマンネリ化しがちであり、プロアクティブ行動活性化についても同様のことが起こりがちです。例えば「部下の自己効力感を高めるためには、制御体験や代理体験などが必要です」といった講義と、ちょっとした練習などを行うといった形で研修がなされるだけといったケースも珍しくはありません。
第一歩としてこういう手段も非常に重要ではありますが、それだけではマンネリ化し、実際の現場では役に立たないという状況に陥ってしまいます。実際の現場でスキルを使いこなすためには、研修で学んだスキルを自分なりにアレンジすることは必要不可欠ですが、このアレンジ力で管理職による巧拙が明確に出てきます。このように汎用化されたスキル教育では届かない地平が生まれてくるのです。
こうした場合、人事部が主導して「極めてナラティブなプロアクティブ活性化ストーリーを成功事例として形式知化しシェアする」という組織開発活動を展開することが有効です。迫力のある形で、共感を呼ぶ成功事例を浸透させることで、管理職は実際の現場で使える様々なヒントを得ることができるのです。
従来の人事部門が行う施策展開よりも手間がかかることは確かですが、ここまで踏み込むと現場側からも「有効な情報提供をしてくれた」といった形で感謝されることも多いようです。人事部門と現場間の紐帯が強化されるという効果も期待できるため、是非お勧めしたい取組です。
最後に
全8回という長丁場の連載に最後までお付き合い頂いて本当にありがとうございました。これまでお読み頂いた読者の皆様に心より感謝申し上げます。
本連載が企業の持続的成長に繋がることを、そしてお一人おひとりの仕事人生の充実の一助となることを祈念し本連載を終わりたいと思います。
プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑤:自社が必要とする人事施策を見出せ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #7

連載の第6回では、現場の管理職が自身の部下に対する見方、およびそれに起因する自身の行動の癖を知ることで、個人・チームへの働きかけを変えていくことの重要性を解説しました。
第7回では、人材のプロアクティブ化を図るために自社が必要とする人事施策を見出し、それを組織全体で実践していくための手法について解説していきます。
個人・チームのプロアクティブ行動の活性化に向けた人事施策を全社的に推進していくためには、「自分たちは何を意識して取り組みをしていくと良いのか」「この取り組みはどのような成果につながっていくのか」という点に対する共通の理解・納得感が必要です。その際に是非活用いただきたいのが人的資本価値創造モデルです。
今回は、モデルをどのように構築し、人事施策の実践に活かしていくべきかを解説していきます。
- 01|人的資本経営を成果に結びつけるために重要な「プロアクティブ人材」とは?
- 02|なぜ人材のプロアクティブ化が重要なのか?
- 03|プロアクティブ人材育成 実践ステップ①:プロアクティブスコアを測定せよ!
- 04|プロアクティブ人材育成 実践ステップ②:自社にとって「意味のある」ターゲット&テーマを定めよ!
- 05|プロアクティブ人材育成 実践ステップ③:経営・人事部門と管理職の対話と共創に着手せよ!
- 06|プロアクティブ人材育成 実践ステップ④:マネジメントの涵養から人材の育成を!
- 07|プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑤:自社ならではの人事施策を見いだせ!
- 08|プロアクティブ人材育成 実践ステップ⑥:育成施策の展開(例や案)&まとめ

寄稿者下野 雄介氏株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイングループ 部長
「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。

寄稿者 宮下 太陽氏株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー
立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。

寄稿者方山 大地氏株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。民間企業を中心とした人材領域のテーマに関するコンサルティングに従事。近年は、HRデータや採用・育成に関する科学知の適正活用に向けた調査・研究も行っている。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)他、論文・寄稿多数。


寄稿者菅 章氏株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 ストラテジー&マネジメントグループ マネジャー
データ利活用・EBPMや戦略・組織・人事コンサルティングに従事。2023年より、週1日法務省へ出向(EBPMアドバイザー)。2025年1月から、日経グローカルで「明日から始められるEBPM実践術」 連載を掲載中。
目次
人的資本価値創造モデルとは
人的資本価値創造モデルは、
という道筋をモデルとして可視化したものです。
例えば、管理職向け研修や部門交流プログラムの実施を通じてプロアクティブ行動が活性化され、インパクトに至るまでの人的資本価値創造モデルは図表1のようになります。

図表1. 人的資本価値創造モデルの例(白枠:概念、薄緑枠:指標例)
人的資本価値創造モデルを策定する際に留意すべきこと
人的資本価値創造モデルを策定する際は、現状の人事施策やそれに伴う取り組みを整理したうえで、これらが人材のどのような意識・行動面に作用しているかを概念ベースで整理していくことから始めます。ここで、留意すべき点が二つあります。
①因果関係を丁寧に整理・記述する
ます第一に、人事施策に基づく取り組みが狙った成果を実現するまでの因果関係を一足飛びにならないように丁寧に整理・記述することが重要です。
特にアウトカムの部分は「なぜこの取り組みが狙った成果を実現するはずなのか」というロジックを丁寧に整理しておくことで、取り組みの効果を検証したり、取り組み内容をブラッシュアップしたりする際の強力なツールとして活用することができます。
②「概念」「測定する指標」を分けて考える
もう一つは、概念とその概念を測定する指標を分けてモデルを策定していくという点です。特に、アウトカムについては、「それをどのような指標で測定するのか」という点が定まり切っていないケースが多く見られます。
指標が上手く設定されていないと、人事施策の効果検証・改善が実施できなかったり、人事施策の実践者である現場の管理職が何を意識して取り組みを進めるべきか分からなくなったりする懸念があります。
人的資本価値創造モデルに基づき整理・分析
一連の人的資本価値創造モデルとして概念・指標を整理したら、次はこのモデルに基づいて現状の整理・分析を行い、人事施策に伴う具体的な活動が、企業として企図している成果につながっているかどうかを定量的に可視化していきます。
理想的には、第3回・第4回で紹介したように共分散構造分析(図表2参照)を実施して、さまざまな項目どうしの複雑な関係性をモデル化して分析したり、ある介入(取り組み)がアウトカムをどの程度向上させたか(テクニカルには効果量と言います)を統計的因果推論の考え方に基づいて分析したりしますが、このような高度な分析がリソース等の面から難しい場合でも、人的資本価値創造モデルに挙がっている各指標の推移等を可視化し、傾向や関係性を議論するだけでも、十分建設的な議論に繋げることができます。

図表2. 共分散構造分析の実施例
人的資本価値創造モデルから具体的なアクションに繋げる
人的資本価値創造モデルに基づいて現状を整理・分析した後は、人事施策の改善点を見出し、具体的なアクションに繋げることが重要です。人的資本価値創造モデルにより、取り組みが狙った成果を実現するまでの道筋を丁寧に記述出来ていれば、各指標の推移等を可視化するだけで、どの部分で躓いているのかが一目瞭然です。
例えば管理職向け研修で、管理職の意識変容にはつながっているが、行動変容にまで至っていないことが分かれば、管理職向け研修の中で日常業務への具体的な落とし込み方を紹介するようにする等、具体的な人事施策の見直しに繋げることができます。
また、人事施策を展開する際は現場の従業員の納得感が得られていないと、実質的な展開や浸透が進まないことが多々あります。先行的に一部の部署・従業員を対象として人事施策を実施して、実施した群と実施しなかった群の指標推移を比較することで、人事施策の効果を可視化できると、現場の従業員も「この人事施策はこんな効果があるから大切だ」と納得して取り組めるようになります。
このように、これまで実施してきた人事施策の効果を検証し、施策のアップデートを行う、というマネジメントサイクルを回していく時に役立つのが人的資本価値創造モデルと言えます。
プロアクティブ行動の促進というテーマに限らず、企業の人事施策は適切な効果検証が実施されずに、従来の人事施策がそのまま延長されていたり、単に現場の反応が悪いという理由をもって見直したりという状態が続いてきました。こうした企業の人事施策を巡る慣行を改める意味でも、人的資本価値創造モデルを用いた取り組みは必要になってきます。
人的資本価値創造モデルを用いたアプローチを促進するために
プロアクティブ行動の促進につながるとされる人事施策は、職場環境の改善に関するもの、上司-部下間のコミュニケーション促進に関するもの、従業員の学びをサポートするものなど数多くあり、大半の企業ではこれら施策の一部は既に実施されていますが、「自社の従業員のプロアクティブ行動の促進につながる施策は何か」という観点で効果検証を実施し、施策の適時適切なアップデートが実現出来ている例はまだまだ少ない状況です。
人的資本価値創造モデルを用いたアプローチは、まさにこうした現状を改善し、個人・チームのプロアクティブ行動の促進を確実に図っていく取り組みであると言えるでしょう。
続く最終の第8回は、第1回から第7回の連載を振り返った上で、現在取り組みを進めている企業実証における成果と展望を踏まえ、これからプロアクティブ行動の促進に向けて具体的な取り組みを進めようとする企業に対する提言を行います。
なぜ今、外部1on1の管理職コーチが必要なのか?わかっていてもできない——マネジメントの適応課題に向き合う

こんにちは。株式会社mento代表取締役の木村憲仁です。
mentoは法人向けに「管理職コーチ」を提供し、リーダーの本音を引き出して組織を変えるサポートをしています。高品質なコーチングをより手軽に使っていただけるプラットフォームをオンラインで展開し、これまでに提供したコーチングは累計70,000時間以上、登録コーチは約200名にのぼります。
管理職の育成に関して「何とかしなければ」と感じながらも、研修や制度は一通り試行錯誤した状況…抜本的な変化が見られないことに手詰まり感を抱いている人事の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、人事が感じる管理職育成の手詰まり感と背景、そして外部1on1の「管理職コーチング」という支援の形についてお伝えします。「管理職は罰ゲームのように見える」といった言葉が現実味を帯びる今、管理職に向けてできる支援を一緒に考えるきっかけになれば幸いです。

執筆者木村 憲仁氏株式会社mento 代表取締役/ビジネスコーチ
早稲田大学文学部卒。2014年にリクルートホールディングスに入社し、プロダクトマネージャーとしてサービス開発を牽引。2017年度リクルート全社イノベーションコンテスト2部門同時受賞。2018年に株式会社mentoを創業し、法人・個人向けにコーチング事業を展開。現在は管理職コーチを中心に、累計7万時間以上のセッションを提供し、ビジネスパーソンの成長と企業変革を支援。
https://www.mento.jp/
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マネジメントの難易度が上がる4つの背景
「管理職の負担増」に関する話題が頻繁に取り上げられる昨今。働き方改革の推進により、管理職に求められる役割は急激に増加し、その多忙な姿を見て、管理職は「罰ゲーム」とも言われるまでになってしまいました。実際、管理職になりたいという人が減っているという調査結果も複数出ています。
「管理職が大変」ということは周知の事実ではあるものの、具体的にはどのような背景からマネジメントの難易度が上がっているのでしょうか。大きく4つに分けてご説明します。
脱・金太郎アメ組織
まずは、“金太郎アメ組織”からの脱却。
これまでの日本企業では、新卒一括採用や終身雇用によって同質性の高い、まさに“金太郎アメ”のような組織が形成されてきました。しかし、今はキャリア採用(中途採用)を進める企業が増え、組織に多様なバックグラウンドを持つ社員がいることが当たり前になりました。
働き方や価値観が多様化し、これまでツーカーで通じていたマネジメント手法が通用しない——鶴のひと声でチームを動かすことは困難になり、1人ひとりに寄り添った個別対応が求められるようになったのです。これが従来のマネジメント方法を刷新しなければならなくなった大きな背景です。
働き方のカプセル化
続いては、チームや働き方のカプセル化です。
コロナ禍以降のリモートワークの普及でチーム内の働き方は「分断」され、オフィスで隣にいたメンバーが何をしているのか視覚的には分からない状況が生まれました。管理職としても部下一人ひとりの状況を直接リアルタイムに把握することが難しくなり、自分から“覗きに行かないと”状況を把握できません。
最近はオフィス回帰の流れもありますが、たとえ同じ空間にいても、チャットやテキストベースのコミュニケーションが主流になりつつあるなかで、相手の状況が見えづらいという課題はなくなりません。
働き方がカプセル化していることは、マネジメントの難易度と労力が増えた背景の1つです。
なんでもハラスメント
3つ目は、「なんでもハラスメント」の潮流です。
何事にもすぐ「ハラスメント」とラベルが付けられてしまう現象は、管理職の意思決定や指導を難しくしています。ハラスメントへの意識が高まるあまり過度な警戒心が生まれ、「言いたいことが言えない」「フィードバックしづらい」という声はよく聞かれます。
若手社員にとっても、管理職が指導を控えることで成長の機会を失うことになり、「ここにいても成長できない」と離職を選択する負の連鎖にもつながります。
ジョブ型雇用への転換
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行も、マネジメントの変革が求められる背景です。
これまでの終身雇用・メンバーシップ型雇用では、評価が厳しく行われることは多くありませんでした。しかし、ジョブ型雇用では「ジョブ(職務)」が先にあり、人が入れ替わることを前提としているため、評価が非常に重要になります。
ほぼゼロベースの評価システムの構築から、基準に沿った実際の査定、モチベーションを下げない部下への伝え方など、新たな評価とモチベーション管理の複雑さが、管理職の負担を一層増大させています。

以上が、マネジメントの難易度が上がっている大きな背景です。企業の人事トップの方とお会いする際には、「うちもこれです」と共感いただくことがほとんどです。
解決すべきは「わかっていてもできない」適応課題
今挙げた背景から課題を感じ、多くの企業が研修や制度を整え始めたのは最近のことではありません。大企業では、管理職になる前からマネジメントの知識やスキルを身につける施策を投じている会社もあります。
しかし、管理職育成に「どうも手応えがない」というのが人事の本音ではないでしょうか。
あらゆる手は尽くしているけれど、拭えない手詰まり感…その理由は、今の管理職が本当に困っているのは「知っていればできる」技術課題でなく、「わかっていてもできない」適応課題だからです。
マネジメントには結局のところ正解がなく、実際の現場では教科書に載っていない例外が多く発生するため、知識の底上げだけでは不十分というのが実情。適応課題を乗り越えるためには、現実から切り離された座学での学習だけでなく、日々の業務で直面する個々の課題に一緒に向き合う支援が不可欠です。

そんな適応課題の解決策の1つとして、管理職個人に焦点を当てたコーチングが注目されています。かつて「傾聴」や「1on1」を中心としたコーチングスキルが注目された時期もありましたが、それはあくまで“やり方”の習得、つまり技術課題の文脈でした。
今求められているのは、根本的な「あり方」や「向き合い方」に変化をもたらす支援であり、適応課題に向き合うためのコーチングがあらためて注目されているのです。
「個別」「伴走」に加えて「外部」であることがポイント
管理職が抱える適応課題に対して、企業が支援する際に重要なポイントは3つあります。
ポイント1:個別の支援
ここまでに触れたように、チーム内に多様なメンバーがいるのが当たり前の時代では、管理職一人ひとりが抱えている課題もバラバラです。ある管理職はリーダーシップのあり方に悩んでいる一方、別の管理職は部下とのコミュニケーション方法に悩んでいるかもしれません。そのため、実際の業務に根ざして、個別化された内容に向き合っていくことが重要です。
ポイント2:伴走型のアプローチ
また、管理職が抱えるマネジメントの課題はスポットで解決する単純なものではありません。だからこそ、伴走型の継続的なサポートが求められます。
適応課題に向き合うには、”管理職自身も変わる”必要があります。人が行動を変えていくには、「話す」→「気づく」→「変わる」→「続ける」というサイクルを繰り返すことが有効です。このプロセスを通じて、本人の中にある答えを引き出し、行動を通じて学ぶ“行動学習”が促進されます。

コーチングで“宣言”したことを日々の業務で実践し、それをまたコーチと振り返り、次の宣言をする——このサイクルを回していくことによって、人は変わることができるのです。
かつてのコーチングは、高価で一部のエグゼクティブだけが受けられるというイメージがあったかもしれません。でも、今はテクノロジーの進化によって、1on1の「個別」でありながら多くの管理職に一斉に質の高いコーチングを届けることが可能になりました。
実際、管理職コーチを提供する弊社mentoでは、管理職100名以上へ一斉に1on1コーチングを導入する企業が複数いらっしゃいます。それぞれの管理職に半年から1年、人によってはそれ以上の期間、1on1でコーチが伴走しています。
ポイント3:外部コーチの安心感と専門性
さらに、個別支援の伴走者に「外部」の人間を置くこと。これが実は重要なポイントです。
管理職の方は立場も責任感もあるからこそ、たとえ部署やレイヤーが違ったとしても、相手が社内の人間であれば「この話がどこかに伝わるのではないか」「ジャッジされるのではないか」という懸念が生じ、本音は話しづらくなります。だからこそ、中立な第三者である外部の人間を置くことが管理職の本音を引き出すには有効です。
実際mentoのコーチングでは、守秘義務があるのでコーチと受講者以外に対話の内容が知られることはなく、弊社運営スタッフや導入企業の人事であっても内容を知ることはできません。結果的に、管理職の方が本音を打ち明け、自身の課題に深く向き合い、本質的な行動変容へ移していくことができています。
もちろん、社内メンターのように会社の状況や現場感を理解した人が、経験や知識に基づいたアドバイスをするのも1つの支援の形です。ただ、社内メンターの場合はどうしても会社が求める特定の方向や目的へ導きがちなので、管理職本人の内側からの動機形成を促すことと相反する状況も起こり得ます。傾聴のプロに内発的な動機付けを促してもらうことこそが、「わかっていてもできない」適応課題の克服へとつながるのです。
また、昨今では社内カウンセラーを置く企業も見かけ、違いについて質問も受けます。しかし、カウンセラーとコーチングもまた別物です。簡潔に言うと、カウンセラーは「マイナスをゼロに」、つまり心のケアや不調への対応が主な役割です。一方でコーチは「ゼロをプラスに」、これからどう行動を変えていくかに伴走する存在です。
これまでもお伝えしたように、外部コーチは管理職の内側にある声を引き出し、「適応課題」を乗り越える主体的な変化を促す存在です。社内メンターは現場の知見を活かしたアドバイスを、社内カウンセラーはメンタルヘルスのケアを、それぞれの役割があります。
企業が管理職に提供できる支援としては、どれか1つが正解というわけではなく、面での支援が企業に求められているのではないでしょうか。
実践企業に学ぶ、コーチング導入のリアル
ここまで、マネジメントにおける適応課題と、それに対する支援策として“外部1on1の管理職コーチ”の有効性についてお伝えしてきました。
とはいえ、「実際にはどのように導入すれば?」「他社ではどんな背景や効果が?」と感じる方もいるでしょう。そこで、実際に管理職コーチングを導入し、管理職の行動変容につなげている企業の事例をご紹介します。
- 導入目的:管理職に日常的に実践的に扱える「武器」を提供したい
- 対象者:部長・課長(導入人数230名以上)
- 導入前:
・組織の活性化には、部課長のパフォーマンス向上が鍵になると考え、支援施策を検討していた
・管理職には多岐にわたる業務が求められ、年々その負担は増しており、解決すべき課題だった
・技術やスキルの不足ではなく、「自信のなさ」や「人間関係への不安」といった内面的な悩みを抱える人が多いのでは、という仮説があった
・管理職ごとに異なる個別の悩みに対応できる支援を提供したいと考えていた - 導入後:
・「仕事を抱えてしまい忙しすぎる」「部下との1on1の正解を模索している」「急な昇進で自信が持てない」など個別の課題の解決につながった
・仕事を任せられない理由に気づき、部下へ仕事を任せられるように。1on1や成長の機会を意識的に設けるなど、部下育成に時間を使えるようになった
・組織パフォーマンスを高めるためには、一人ひとりの「想い」が重要だと考え方が変わり、自らも積極的に自己開示。メンバーとの距離感が縮まり、行動が変わった
- 導入目的:経営リーダー育成施策
- 対象者:異動者や海外赴任者
- 導入前:
・自動車業界が変化するなか、多様な人材を巻き込む実現力のある経営リーダーの育成が必要だった
・グループをまたぐ異動や海外赴任のタフなアサインメントでは、挑戦の意味を内省し、自己変容につなげることが難しい課題があった
・自分の中に軸を持ち、リーダーシップの幅を広げてほしいと考えていた - 導入後:
・「自分の枠を超えることができ、マネジメントのスタイルが変わった」「まだ見ぬ自分との出会いがあった」(対象者の声)
・大きな異動でこれまでのスキルが活かせないなか「コーチの存在が拠り所になった」(対象者の声)
・機能部門一筋でキャリアを歩んできた人が事業部門に異動。コーチングで新たな気づきを得て、上司が驚くほど言動に変化がみられた
- 導入目的:戦略・ビジョンの浸透
- 対象者:組織長
- 導入前:
・カンパニー制へ移行し、組織を再編したタイミングだった
・パーパス&バリューを軸に組織開発をするなか、戦略の浸透やコミュニケーションに課題があった
・組織長の内省や言語化を支援したかった - 導入後:
・75%がコミュニケーションの向上を実感
・87%が人間関係の向上を実感
・部下との日常的なコミュニケーションでも自己開示をするなどよい変化が見受けられる
・「コーチと話している言葉がより生々しい内容になり、内省と言語化についてポジティブな変化が起きている」(対象者の声)
・「コーチングによって内省して自らPDCAを回すことの価値を感じている」(対象者の声)
- 導入目的:海外組織長のマネジメント力向上
- 対象者: 海外駐在員
- 導入前:
・海外駐在員のマネジメント力向上が、収益向上やローカルスタッフ育成に不可欠だった
・海外駐在員は期待もプレッシャーも大きく孤独な上、多様な人材をマネジメントする難易度も高い状況にあった
・研修のみでは自己認知・振り返りができない課題があった - 導入後:
・88%が組織パフォーマンスの向上を実感
・「プレッシャーが大きい海外赴任の環境で自己開示がしにくい中、コーチングが内省の手助けになっている」(対象者の声)
・「コーチから問いをもらって整理することで、自分自身を健全に振り返って行動を変えることができた」(対象者の声)
上記はほんの一部ですが、大手メーカー・商社・広告代理店などを中心に、管理職の適応課題に向き合う企業は増えています。
管理職育成に手詰まり感を感じている人事の方以外にも、「制度は変えたのに、なぜかうまくいかない」「管理職の反応がどこか他人事に見える」といった組織の状況は、管理職自身の内面や行動に関わる“適応課題”が潜んでいるサインです。
知識やスキルの提供だけでは越えられない壁があります。「管理職は罰ゲーム」と言われる今こそ、その現実と向き合わなければならないタイミングなのではないでしょうか。
「AIにジャッジされたくない」採用担当者が知るべきZ世代の本音と対策|アレスグッド半井
AIの登場により、Z世代の就職活動に、かつてない大きな変化が起こりつつあります。AIを活用した自己分析やエントリーシート(ES)作成はすでに常識となり、今後さらに多様な変化が予想されます。
新卒採用の現場では、Z世代就活生の動向やインサイトを的確に把握し、時代に即した採用施策を講じることが欠かせません。
本記事では、「BaseMe」を運営する株式会社アレスグッドが実施した【Z世代就活生調査】の結果をもとに、企業が取り入れるべき新たな採用プロセスや成功事例を紹介し、AI時代における本質的な採用のあり方を探ります。

執筆者半井 翔汰氏株式会社アレスグッド 事業統括
新卒で株式会社リクルートに入社し、中小零細〜上場大手企業まで多岐にわたって採用コンサルタントを務めた後、事業戦略企画室に異動し、indeed plusなど主力商品の戦略設計・推進業務に従事。その後、2号社員としてアレスグッドに参画し、次世代型キャリア支援プラットフォーム「BaseMe」の立ち上げを牽引。学生含む求職者対応、採用企業双方の課題解決に奔走し、最新のキャリア・採用トレンドに精通。
Z世代の就活におけるAI活用実態
調査から、約6割の就活生が何らかの形でAIを就職活動に活用していることがわかりました。
Z世代にとってAIツールがすでに就活の「当たり前」となりつつあります。「ESの作成・添削」や「自己分析」にAIを活用している人が多く、現状は就活の準備段階で広く活用されているようです。
一方で、118人と3分の1以上が「AIは活用していない」と回答しており、デジタル世代と称されるZ世代内部においても格差が開いていることがうかがえました。
続いて、就活でAIを使うことに対してどう感じるかを聞きました。

「効率的で助かる」と感じている人が128人と最も多く、次に「新しい視点が得られて面白い」(83人)という回答が支持されました。
一方で、「AIを使ったことがバレないか心配」と答えた人も63人と多く、AIの活用に後ろめたさを感じたり、企業からの見られ方を心配する人が一定数いることもわかりました。
ところが、AIによる合否判断については強い拒否感を示します。

「AIにジャッジされるのは嫌だ」(88人)、「AIに判定されても納得感がない」(86人)という否定的な意見が圧倒的多数を占めました。同時に「AIよりも人に自分を理解してもらいたい」(77人)という回答も多く、選考の合否は人に判定してほしいと考える傾向が明らかになっています。
この矛盾こそが、Z世代を理解する鍵です。彼らは、効率化のためにAIを使いこなしつつも、自分という人間の価値を判断するのは人間であってほしいと願っているのです。
採用担当者にとって、AIで作られたESをどう評価すべきかは難しい問題といえます。重要なのは、ESの内容だけでなく、面接などで本人の思考や人間性を直接確認するプロセスを設けることでしょう。
人事担当者は非常に多忙です。だからこそ、AIを活用して採用プロセスの効率化を積極的に進めるべきです。
一方で、深い対話や価値観のマッチングといった「人間にしかできない判断」は人事が担う。こうした役割分担を明確にすることが、これからの採用活動では不可欠だと私たちは考えます。
AIネイティブ世代の採用。重要なのは透明性の高い選考プロセスの設計
続いて、就活生が最も嫌だと感じる企業の対応についても調査したところ、「高圧的・否定的など、コミュニケーションの姿勢」という回答が圧倒的でした。
「学歴や外見でレッテルを貼られるなど、個人評価が不公平」や「採用基準が不明確・選考結果が遅いなど選考プロセスの不透明さ」にも支持が集まっており、Z世代が公平性と透明性を重視していることがわかります。
「どうして落ちたのか分からない」「評価基準が見えない」といった不透明さは、企業への不信につながってしまいます。だからこそ、選考の各段階で「何を評価しているか」「なぜそれが大切なのか」をはっきりと伝えることが重要です。
結果だけでなく、その理由や今後のアドバイスも含めて丁寧にフィードバックする。そうすれば、たとえ不採用になった学生も「この会社は誠実だな」と感じてくれるでしょう。
具体的には
- 面接で見ているポイントを最初に説明する
- 面接後に必ずフィードバックの時間を設ける
- スケジュールの変更があれば、理由とともにすぐに連絡する
- 不採用の場合も、今後に活かせるアドバイスを添える
こうした小さな配慮の積み重ねが、企業の信頼度を大きく左右します。
Z世代の学生たちを、画一的な評価基準で判断するのではなく、その人らしさを引き出せるような面接を心がけたいものです。そのためには、まず面接官自身が変わる必要があります。相手の話をしっかり聞くスキルを身につけたり、無意識の偏見に気づいたりするための研修は欠かせません。また、大勢が集まる説明会よりも、少人数での座談会や個別面談の機会を増やすことで、より深い対話が生まれます。学生のバックグラウンドや興味に合わせて選考プロセスをカスタマイズできれば、「この会社は私を一人の人間として見てくれている」と感じてもらえるでしょう。
BaseMeにおける成功事例
実際に「BaseMe」上で起こった、株式会社Schoo様における価値観マッチングの成功事例をご紹介します。
このように、業種業界を軸にとしたプロセスでは出会えなかった企業と学生の出会いが、価値観を軸にすることで新たな出会いに繋がり、双方の大事にする考えやビジョンを丁寧に擦り合わせることが結果として満足度の高い出会いにつながっています。
また、本音部分で共感し合えるからこそ高い内定承諾率や入社後の早期活躍に繋がるケースも生まれており、結果として効果的で効率的な採用活動の実現にもつながっていることが分かります。
AI時代だからこそ求められる「人間らしさ」
今の学生たちはAIを使いこなすのが当たり前の世代です。だからこそ、機械的な対応や表面的な評価には敏感で、本当の意味での人間同士のつながりを求めています。
よくZ世代は『会社の飲み会を嫌がる』『オンラインでのやり取りを好む』といった理由で、人間関係を避ける世代だと思われがちです。でも実際に調査してみると結果は大きく異なり、彼らが求めているのは形式的な付き合いではなく、本当に”共感”し合える人間らしいつながりなのです。
採用においても、AIが定型作業を担うこれからの時代においては、AIの効率性と人間の温かさをうまく組み合わせることが鍵になります。人事担当者は一人ひとりの価値観にじっくり寄り添うことに時間を使う「価値観重視のアプローチ」を取ることで、業界の枠を超えた「価値観マッチング」を実現でき、思わぬ場所から自社にぴったりな人材との出会いを生み出すことができるのではないかと考えています。
だからこそ、BaseMeではまさに、求職者の多様化した価値観に応じた質の高いマッチングを届ける「価値観マッチング」をコンセプトにプラットフォームを築き上げてきました。人間にしかできない「共感」「対話」「価値観の共有」をテクノロジーと掛け合わせて有効活用することが、これからの採用活動のスタンダードになると確信しています。


