三幸製菓で「カフェテリア採用」「日本一短いES」などを生み出した採用プランナー、モザイクワーク代表の杉浦さんと、ネオキャリアの肉食系人事「メスライオン」宇田川さんの対談内容の後編をご紹介。
後編のテーマは、二人が実践する「人事の育成」について。配属後にどうやって育成していくのか、お伺いしています。また、最後には二人が考える「これからの人事に求められる考えやスタンス」についても触れています。
是非、最後までお読みいただけると幸いです。

杉浦 二郎 | 株式会社モザイクワーク 代表取締役社長 採用学研究所 客員研究員

宇田川 奈津紀 | 株式会社ネオキャリア 経営企画本部 中途採用部 部長
二人の人事育成に関するアプローチとは?
-ここからは、人事の育成に対する考えについてお伺いしたいです。
私自身、たとえば新卒がいきなりポンと自分のチームメンバーとして配属されたときに何させるかというと、「ひたすら就業規則を読め」と言います。
「良くも悪くもこれがうちの法律で、ここに疑問を感じることがあったら直していけばいいし、疑問を感じなければとりあえず覚えておきなさい」と、これをまずは教えます。
その後は、給与計算からスタートさせます。もともと人事部門が小さな組織でしたので、私は「給与計算ができない人事はいらない」とずっと言い続けていて、とにかく給与計算をやってもらいます。
給与計算ってすごく大変なのですが、私はそこに全てが詰まってると思っています。人事制度、評価の仕組み、手当の種類、勤怠状況まで知ることができます。実は給与計算には、ものすごく人事のノウハウが詰まっているんです。
また、「オペレーションではなく、しっかりと理解しながらやりなさい」と言っています。それを半年間から1年やってもらい、その後に採用や人事制度に携わっていくイメージです。
-そこから採用担当として育成するとした場合、何を教えますか?
「そもそも採用をやる必要があるのかないのかを常に考えて欲しい」と、言ってます。
何で採用するんだと。「社長、現場から人が欲しいって言われたから採用します」と言うのですが、それは本質ではありません。もしかしたら、適切なリソース配分をすれば採用をしなくて済むかもしれない。
我々として、なぜ採用するのか、どうして採用するのか、人事としての解を持つ必要があるんです。
そうすると、そこではじめて「自分たちなりにどういう人を採用するべきなのか」と考えるようになるんです。当たり前ですが、全ては会社の成長をどう担保するかにつながっていきます。
であれば、会社を成長させる人材はどういう人なのか。それを現場からの要望とすり合わせながら、人材要件が固まっていきます。
そこからはHOWの議論です。新卒なのか中途なのか。どういった手法で採用すべきなのかを話していきます。
-採用におけるアトラクトやクロージングのやり方に関してはいかがですか?
ここがすごく難しい部分で、それができる宇田川さんは本当にすごくて、私はそこができないんですよね。
クロージングで、「杉浦さんなら・・・」という人軸で決めさせるのは私は苦手だなと、できないと思ったので、三幸製菓で実施したような「カフェテリア採用」「日本一短いES」という採用の考え方をつくっていったんです。
つまり、私が採用の現場に立たずに裏側のプロデューサーとして機能させていくことをひたすら考えていたんです。
基本的に属人的ではなく、仕組みの中でどう人を見抜いていくかということにこだわった選考フローをつくれないかと。
そういうやり方をひたすらに磨いていたら、宇田川さんの記事を見かけて、世の中には「すごい人がいるぞ」と。「こっちの方向でうまくいっている人もいるんだな」と、ある種の嬉しさがありましたよね。
私は「面接している」という感覚がないんですよ。どちらかというと対話をしている感覚ですね。
面接をしていると思うと、「今日は8本面接か・・・」ってなるじゃないですか。でも会話となると、人が違ったら話す内容が毎回違うんです。年齢、経験、スキルも違うので、毎回新鮮なんですよね。
「では、志望動機お願いします。自分の経歴お願いします」とは絶対に聞きません。
私はまず、人と人との話をします。アイスブレイクの延長線上で、「この人は何が好きで嫌いで、何が趣味で、この部署に合うか合わないか、こういうことをお願いしたいけど希望に合っているかな」など、自分の中でその方と会社を照らし合わせて繋ぎ合わせています。
見極め、惹きつけというよりは、その人がここで活躍したいかしたくないか、ここで働く意味があるかどうか、ということを私は聞いてるだけです。
-宇田川さんは、採用担当の育成においてまずは何をされますか?
まずは現場を知ることからはじめます。ネオキャリアは約30事業部あるのですが、全部署に話を聞きに行きます。とりあえず「完全アウェイな環境でも突っ込め」と。
現場をまわって、挨拶をしながら「どんな人が欲しいんですか?」「なんで欲しいんですか?」「どういう人が働いているんですか?」って聞きまくるんです。
事業部ごとにカルチャーがあって、成長のスピードも違ってきます。まずはそれを体感してもらいたいんです。
また、私が一緒に行って、相手によってどんな対応をしているか見てもらっています。エンジニアさんだとゆるふわな感じで話したり、財務・経理の人たちと話す時には、結構的確にパッパッと進めていったり、営業部長さんだとアイスブレイク長めにしたり・・・。
「なんか部署によって伝え方や話し方変えてるな」と、感じ取ってもらい、関係構築に役立ててもらっています。
-現場をまわって、その次はどうされるのですか?
メンバーによって何が得意で、何が不得意なのかを理解していきます。
私は採用戦術として、大体大きく分けて、紹介・媒体・リファラル・ダイレクトリクルーティング・フェアを活用しています。
たとえば、交渉が得意ならば紹介会社の窓口を担当。文章が素敵だと感じたらダイレクトリクルーティング。求職者を直接語りかけるのが得意ならフェア。社内人脈が広いならリファラル担当。数値に強いならば市場分析して最適な媒体に出稿するとか。
この5つの戦術の中で、どれが合っているかをものすごく見ています。普段の会話や食事しているときもずっと見ています(笑)。
仮に、ディレクション能力がありそうなら、紹介会社さんとのやりとりを任せます。そしたらまずは私が紹介会社さんと話しているところを聞いてもらい、「これってここまでやっていいんだ」みたいなことを感じてもらいます。一通り全部見せます。
面接も全部同席してもらい見せます。私は、面接の型を教えないんですよ。絶対教えないです。
メスライオンの真似をしても絶対に惹きつけられません。40年生きてきた私の言葉と20代の言葉って重みが違うじゃないですか。
自分なりのトークをつくっていってもらいたいんです。「あなたなりの売り文句は何?」ということを考え抜いてもらいたい。
そこからはもう実践あるのみです。「私がなんでこの質問したかわかる?」「この人はうちにフィットすると思う?」「何を聞いたらどういう答えが返ってきた?」「なんでこの方が良いと思ったの?」「なんでこの方を迷ってるの?」と、その瞬間瞬間で、細かくすり合わせをしていきます。
二人がメンバーを叱るとき
杉浦さんは怒ることってあるんですか?
最近はそこまでないですけど、失敗したという事柄は別に正直どうでもよくて、そこへの向き合い方で怒るときはあります。
そこにポリシーがなく、「言われたままやったら間違えました」という流れだとカッとなりますね。
カッっとなったらどうするんですか?
何が起きたかとか、それでどうしたのか、一旦事実を全部拾い上げます。それをあとは説明していきます。「こうだよね、普通はこうだよね」と、結構理詰めでいっちゃうのですが、、、。
結局、エモーショナルに怒っても意味がないと思っていて、解決しないし腹落ちしないし、逆にお互い嫌悪感しか残らないので、なるべくそれは避けるように意識はしています。
ただあえて、感情を混ぜてガッて言う、そういう演出をするときもあります。
それは「大変なのはお前だけじゃないんだぞ」という部分を伝えるときですね。仕事は一人じゃできないので、「お前だけ塞ぎこんでてもしょうがないんだよ」という殻を開かせるためには、感情でぶつかりに行く必要があるんですよね。
-宇田川さんは怒ることはありますか?
私が怒るときは、求職者の方、人材系の企業、現場の人たち、この三者への対応の仕方です。
求職者の方は人生の1時間を使って、交通費も出して来てくれるわけじゃないですか。それを淡々と機械のように接したら失礼じゃないですか。
まず来ていただいたことに感謝を伝えるべきだし、何かしらの“プレゼント”を渡して返さないと。これがやっつけになったら怒ります。
また、紹介会社さんに対し、上から目線で「何で人が出てこないの」や「何でこんな人を紹介したんですか」っていう態度を取ることもNGです。紹介会社さんはパートナーですから。
そこを上から目線で圧力を掛けたりしたら「ちょっとそれはおかしいよね」となります。
あとは、現場への対応ですね。ときには無理難題を言われて大変なときもありますよ。ただ、そこで反発しても何も意味がないんです。
結構、意外に現場とケンカというか上手くいっていなくて悩んでいる人事さんも多くて、現場からきついこと言われて言い返す。でもそれは一時は気持ちが良いかもしれませんが、絶対NGです。
私がよく言ってるのは、「採用したいという目的は一緒なので、一時の怒りの感情でケンカしてもなんの解決にもならない」ということです。
「何でですかー?」「ちょっと待ってくださいよ」「わからないので。教えてください」「それ厳しいかもしれないです。この条件だとどうですか?」と謙虚に食い下がります。
そうすれば最終的に、こちらの話も受け入れてくれるようになります。
育成におけるこだわりや意識している部分とは?
-お二人は、育成におけるポリシーのようなものはありますか?
メンバーが「やりたい」と、自分から言い出したことは極力やらせてあげたいですね。
たとえそのためのスキルが低かったとしても、どうしたらできるのかを話し合って、実現に向けてそれを日々の業務に落としていくことで、モチベーションも上がると思っています。
ポリシーとはちょっと違うかもしれないのですが、三幸製菓時代にマネジメントの失敗経験がたくさんあって。
社内外の方々に対して、良い意味でも悪い意味でも私が特別視されるような感じになったときがあるんです。
そうすると、うちのメンバーはどうなるかというと、全て私の一挙一投足にすごく敏感になるというか、「この人がいうことは絶対だ」という空気感になって、意見が出てこなくなるんですよね。
「杉浦さんが言っていることをやれば間違いはない」という感じですよね。
たとえ私が間違っていても、そういう感じになってしまうんです。
結構最初の頃はメンバーと対立してて、私が「新卒ナビやめたい」と言ったら、「それだと採用できないので採用やりません」ってみんな言ってきて、「わかった俺ひとりでやる」みたいな感じだったんです。
社長には、「採用できなかったら私一人でリクルートスーツ着てる人を片っ端から声かけてナンパするので許してください」と言って、そしたら笑ってやらせてくれて。
そういうことが多々あって、それが成功してくると逆に、「この人のいうことは絶対で、自分が意見を言ったところで間違ってる」という空気になるんです。
そうなると、裸の王様じゃないですけど、全然新しい知見や情報が入ってこなくなるんです。なので、そういった組織風土にはしないように心がけていますね。
二人が考える「これからの人事に求められるもの」
-最後に、「これからの人事に求められるもの」について、お二人のお考えを伺いたいです。
これからは「つなぐ力」が大事だと思っています。
特に採用に関してそうなのですが、組織にどうやって人材リソースを集めてくるか、人と人とをつなげるかということが重要です。
これからは働き方、生き方における多様性がますます増えてくるので、そもそも正規雇用のつながり方ではない「新しいつながり方」がたくさん出てくるわけです。副業の分脈も含めて。
そうなっていったときに、ここをどうつなぐのか。外部のリソースをどのようにして社内に引き入れていくのかが求められてきます。
極端な言い方ですが、これからは「組織は個に裏切られる時代」なってくると考えています。これはリソースが1.0に限らず、0.5だったり0.7だったり、さまざまな形でリソースが外に流出していくはずなんです。
そのときに、その人たちを、どうつなぎとめていくのか。要は、笑顔で「明日もよろしくお願いします」と言ってくれる人たちをどう増やすか。これを意識しないと、簡単にこれからは外に出てしまう、という話です。
今すでに起きてる現象として、みんなが「卒業」という言葉で、「会社大好きなんですけど次のステージで頑張ります」という感じじゃないですか。
でもこれがこれから普通になっていくはずなんですよね。それをどうつないでいくかが、人事に求められてくると思います。
私は採用に特化して話をさせていただくのであれば、「アジャイル採用」ですね。
エンジニアのプロジェクトの進め方の一つで、「アジャイル開発」ってあるじゃないですか。
アジャイルには「素早い、俊敏な」という意味があるのですが、その言葉のとおり、プロジェクトを小さな単位で分け、仕様や設計の変更があることを前提に、実装とテストを繰り返しながら開発を進めていきます。
計画、設計、実装、テストをし、そしてまた機能追加して再度リリースしていく。これを短いスパンで常に改善していく「反復増加型」の開発プロセスです。
これを採用に置き換えると、採用計画、採用戦略・戦術の設計。そして実装は、求人票作成や媒体選定など、戦略を実行に移すフェーズです。さらにテスト、これは効果測定だと思っています。
「合っているかいないかわからないまま実施して、結果採用できませんでした、はい終わり」では意味がありません。
戦術を組んで、うまくいかないようであれば、短期間で別の戦術を実施するというように、「出して変えて、良かったら続けて」と、常にブラッシュアップしていく必要があります。
そのために重要なのは、ゴールをぶらさないようにメンバーとコミュニケーションを取っていくことです。
人事部長の仕事は、一つの戦術だけでなく、いくつもの戦術を組んで、それをディレクションしながらブラッシュアップしていくことだと思います。
そのようなことができる人事が、今もこれから求められてくるのではないでしょうか。