退職代行を利用しようとすると、気になることが「退職代行を使ったことを理由に懲戒解雇されてしまうのでは?」という心配ではないでしょうか。
結論から申し上げますと、退職代行を利用したことを理由とする懲戒解雇には法的効力はありません。
本記事では、退職代行と懲戒解雇について簡単に説明するとともに、退職代行業者の選び方についてご紹介します。
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2023年は一部企業を対象に人的資本開示が義務化されたほか、HR関連での法改正に動きが見られました。
2024年では新たな制度の適用や既存のルールの変更・拡大がおこなわれます。
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【1】退職代行と懲戒解雇の関係
冒頭でもお伝えしたように、退職代行を利用したことを理由に懲戒解雇しても解雇の効力は生じません。
そもそも懲戒解雇になる要件とは
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)とは、社内の秩序を著しく乱した労働者に対するペナルティとしておこなう解雇のことで、日本の労使間で許容されるペナルティのうち、もっとも重い処分です。
日本では労働者の立場は手厚く保護されており、ペナルティであるか否かを問わず、会社は容易に解雇することはできません。
そして、ペナルティとしておこなう懲戒解雇は、労働者の雇用を直ちに打ち切るばかりか、再就職にも影響し得るので、労働者に与える影響は甚大です。
そのため、たとえば会社の金を横領したなどの実害が生じるほどの『重大な問題』が認められなければ、懲戒解雇は法的有効性は認められません。
懲戒解雇になり得る”重大な問題”の具体例
②会社の名誉を著しく害する重大な犯罪行為
③経歴の重大な詐称
④長期期間の無断欠勤
⑤重大なセクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント
⑥懲戒処分を受けても同様の行為を繰り返す
など
退職代行と弁護士法
退職代行は近年注目され始めた新しいサービスであり、弁護士法違反となるのではないかという議論があります。
業者が『依頼者に変わって、会社に退職の意思を伝える、書類のやり取りをするなどの単純な事務処理を代行する程度であれば、弁護士法に抵触する可能性は低いとは言われていますが、このあたりは今後の議論が進むと思われます。
他方、
- 退職日の調整
- 有給の消化に関する交渉
- 未払い分の退職金ほか残業代等の賃金請求
このような退職条件に関わる交渉を業者が有償でおこなうことは、弁護士資格を持たない人物が法律事務を処理する行為として弁護士法違反となる可能性が高いと考えられます。』
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りではない。
引用元:弁護士法72条
弁護士は退職処理を代行すれば非弁行為となることはない
弁護士に退職の処理を依頼することは、合法です。
無期雇用の労働者や一定の有期雇用労働者には退職事由が保障されていますので、弁護士が介入して退職処理をおこなえば、ほぼ確実に退職できると考えられます。
また、弁護士が介入すれば会社もとりわけ違法な対応はできませんので、退職に伴う嫌がらせなども回避できるでしょう。
退職代行と損害賠償請求のリスクについて
退職代行を利用して退職すると損害賠償を請求されるのではないかと心配されている方もいるかもしれません。
しかし、上記の通り、労働者の多くは退職の事由が保障されています。
このように保障された権利を行使しているのであれば、会社から損害賠償請求を受けることはまずありません。
なお、1年以内の有期雇用労働者のように、期間途中での退職が一定度制限される場合もありますが、その場合であっても退職により直ちに会社に実害が生じることは通常ないので、実際に損害賠償請求されるリスクは限りなく低いと考えられます。
【2】退職代行は弁護士に依頼する
スムーズな退職を企画するのであれば、上記でも触れたように弁護士に退職処理を依頼するのがベストです。
なお、未払い賃金やこれまでのパワハラなどによるうつ病などの症状があれば、退職処理と併せて未払い賃金や労災認定の依頼も可能です。
退職代行を使ってまで退職したいとお考えの会社であれば、未払い賃金請求や過酷な労働環境などの他の問題も併発している可能性があります。
単に退職するだけでなく、今まで働いた賃金や受けた損害に対してきちんと補償してもらうべきかもしれません。
非弁業者を利用するリスク
非弁行為はこれをおこなった者が刑事責任などを問われるものであり、非弁業者の利用者には特段の責任は生じません。
したがって、非弁業者を利用したからとおこなって、何らかの責任を問われるということは考えにくいです。
もっとも、非弁業者による退職代行処理がおこなわれた結果、会社と不要なトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
そのため、退職代行を依頼する業者は慎重に選定するべきでしょう。
最低でも顧問弁護士の指導を受けている退職代行業者を選ぶことは必須でしょう。(顧問弁護士がいれば非弁とならないというわけではありませんので、その点は注意が必要です。)
【3】会社から懲戒解雇されてしまった時の対処法
極めて考えにくく、通常は起こり得ない事例と思いますが、万が一退職代行の利用を理由に会社から懲戒解雇された場合どのようにすればよいのでしょうか。
答えは、再就職に支障が出るなどの事情がなければ特に対応する必要はありません。
既に会社と雇用契約関係がないのであれば、会社が懲戒解雇であると主張しても日常生活に支障は生じません。
そのため、再就職に影響が出たり、雇用保険の処理で不利益を受けるなどの問題がなければ、無視しても大丈夫です。
なお、このような支障・不利益が生じるような場合は、弁護士に対応してもらうと良いでしょう。
【4】まとめ
退職代行を理由とする懲戒解雇などは法的には認められません。
しかし、違法な業者を利用して退職処理をおこなえば、会社と不必要なトラブルが生じる可能性は否定できません。
したがって、退職処理を第三者に依頼したいのであれば、まずは弁護士に依頼すべきせですし、少なくとも弁護士による指導を受けている適切な業者を選定するべきでしょう。
梅澤 康二氏:アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014根8月にプライム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
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